Spiral Structure of the Milky Way and External Galaxies


Elmegreen
1985 IAU Symp 106, 255 - 272




 アブストラクト 

 天の川銀河の渦状構造にはいつもとらえどころのない点があった。それは 我々が内部の視点から見ているせいである。このレビューでは全体パターンを 決めるための方法とデータを提示する。  さらにこれまで提案されてきた様々なモデルを較べる。銀河の腕の観測も 議論する。それらは天の川銀河の腕構造についての手がかりを与えてくれる。 Ro = 10 kpc.


 1.我々の銀河の渦状構造の観測 


図1.若い散開星団から描かれる近傍腕構造。 白丸=Becker, Fankart 1971、 黒丸= Vogt, Moffat 1975。太陽は (0, 0) に位置する。目盛は 2kpc。

 1.1.分光測光距離 

 距離が既知の星位置を書き込むのは、構造決定の最も直截的な方法である。 距離精度は通常 10 % くらいで遠距離の星の誤差が大きくなる欠点がある。数 が少ないのも問題。 Morgan, Sharpless, Osterbrock (1952) が OB アソシエイションから腕構造を見つけたのはこの方法であった。 B3 より早期型の散開星団も Becker, Fenkart (1970), Becker, Fenkart (1971), Fenkart (1979), Becker, Fenkart (1970), Vogt, Moffat 1975 が示したようによい追跡天体である。しかし、個々の O-星は良い追跡天体と言えない。 Lynds 1980a は最も高温の O-星のみ が腕を追尾することを見出した。それより晩期型になると腕にも腕間空間 にも見出される。 Georgelin, Georgelin (1976) は HIIRs の励起星をプロットした。これは 1.2.節で論じる。P > 15 d セファイドも腕に集まる傾向がある。 Kraft, Schmidt (1963), Tammann (1970), Humphreys 1976, Efremov et al. 1981, Berman, Mishurov 1981。 南天のサーベイ Westerlund 1963, McCuskey, Houk (1971), McCuskey 1974 によると、A 型星と早期 M 型星は腕への弱い集中を 示す。Bok 1963 は A 型星を用いて、 O 型星の存在しないカリーナ腕 の一部分をマップ化した。他の種類の星、WR 星(Smith 1968), N-型炭素星 (McCuskey 1970), Be 星(Kilkenny et al 1975、Dolidze 1980) も幾分かの集中を示す。

図2.銀河系の大規模渦状腕構造。大きな白丸= HI ピーク ( Henderson, Jackson, Kerr (1982), )。 小さな白丸= CO 雲 (Dame et al 1983). 三角=可視 HIIRs ( Georgelin, Georgelin (1976) ). 四角=電波 HIIRs ( Downes et al. (1980) )。 十字=銀河中心。目盛= 5 kpc.

 1.2.運動距離 

 運動距離の不定性 

 銀河系回転曲線と天体視線速度の観測からも距離が求められる。この手法は 通常 HII, HI, CO ガスに適用される。太陽周円の内側では可能な距離が一つ なのはよいが、回転曲線が不確かで距離不定性を生み出す。 太陽周円の内側では可能な距離が二つ存在し、付加情報が必要となる。

 HIIRs 

  Georgelin, Georgelin (1976) は可視 HIIRs の距離を定めて HIIRs の配置を調べた。20 % は運動距離、 80 % は分光測光距離であった。
Lockman (1979), Downes et al. (1980) は多数の北半球電波 HIIRs の運動距離を定めた。遠近分離は OH または H2CO 吸収線の観測から定めた。吸収線の速度が HIIR の速度を越えていたら、その HIIR は遠距離にあると判定される。その ような高速吸収線がない場合には、遠近判定はできないのであるが、通常は 近距離が付与される。この方法の誤差は 10 - 20 % 程度である。原因は、
(a) 回転曲線がまだ完全に確立されていない。
(b) 輝線速度には天体ランダム運動を含む。
(c) 不明のストリーミング効果を含む可能性がある。


 HI 分布 

  HI サーベイはこれまでに広範に行われ、最近では   Henderson, Jackson, Kerr (1982) が太陽周円の外側の HI 分布を求めた。彼らは N-S 間の差を考慮して、 シュミット回転曲線を変更して HI 距離を定めた。その分布ピーク位置を 図2に示した。距離の遠近不定性のため、さらに内側が実際にも外側より複雑 らしいため、内側銀河系の構造を決めるのは困難である。HIIRs で追跡される 主要腕構造の他に、銀河系内側には多数のとげ(spur)や枝(branch)が存在する。 HI の太陽近傍分布はさらに不確実である。なぜなら、系統的視線速度が小さい 所(太陽近傍)ではランダム速度により運動距離が大きく乱されるからである。

 CO 雲 

 北天での CO 観測は内側銀河系における渦状腕構造の証拠を示した。最近の Dame et al 1983 の研究は巨大分子雲がサジタリウス腕を追跡し、スキュー タム腕の一部もはっきりと示すことを明らかにした。彼らは遠近分離を、 随伴 HIIRs の既知距離、背景 HIIRs 連続光に対する H2CO 吸収 線の特徴、ライン巾・光度関係から推定される雲の半径と銀緯方向の見かけサ イズの比較を併用して解決した。これら巨大分子雲の分布も図2に示した。
 分子雲 

 CO が腕に閉じ込められているかどうかは自明ではない。Bash et al. 1970, Cohen, Cong, Dame, Thaddeus (1982) は、CO の大部分が腕内の巨大分子雲 (Solomon, Sanders 1980, Dame 1983)に存在すると提案した。 南銀河系の CO 観測 Robinson et al 1982, Cohen, Grabelsky, May, Bronfman, Alvarez, Thaddeus (1985), Israel et al. 1985 も渦状腕を示す。しかしながら、腕間からの CO 放射 (Stark 1979) や l-v 図上で終端速度 Vt 尾根が途切れず連続することから、 Solomon et al 1979, Nurton, Gordon 1978 は CO がより一様に分布していると 考えた。

 外側銀河系の CO  

 Kutner, Mead 1981, 1982, 1985 は CO が 27 kpc まで分布していると報告 した。彼らは、R = 15 kpc のところに腕をマップし、またペルセウス腕を第1 象限で伸長した。しかしながら、最近の Solomon, Stark, Sanders 1983 の 観測は彼らの発見した構造を確認できなかった。Blitz, Fich, Stark 1982 は CO を 18 kpc まで検出し、 R = 13 kpc の先では CO の存在は希薄であると 述べた。


 1.3.終端速度からの接点と連続放射 

 終端速度曲線の折れ曲がり 

 渦状腕の接点方向は、終端速度の銀経変化曲線の勾配が突然変化するので 分かる。この方法の問題点は、そのような折れ曲がりは接点付近に放射ガス が存在しない場合にも起き、それを腕内部のストリーミング運動と見間違える ことである。 HI 腕の接点 Henderson (1977) や CO 接点 Robinson et al. 1982 はこの折れ曲がりから決められた。
 電波連続波のピーク 

 腕の接点は銀経に沿っての連続電波マップの極大からも決められる。 バックにある仮定は、強度の極大は渦状腕の接点で起きるということである。 この方法は Mills 1963, Wielebinski et al 1968, Okuda 1985 によって 実行された。 





表1.接点方向の銀経

 2.観測された渦状構造への全体フィット 

 2.1.全体モデル 

 渦状構造は断片的である 

 提案された全体モデルは、2本腕または4本腕でピッチ角 5° - 27° である。それらの比較には図3のような極座標表示が便利である。この表示 で、対数螺旋は直線となり、その勾配がピッチ角を表す。(log R, θ) 図 は銀河系の渦状腕が短い断片部分でのみ成り立つことを示す。それらの断片を 繋ぎ合わせる明白で一意な方法は存在しない。枝分かれがあるのはは明らかである。 この先では、これまでのフィットの努力をまとめる。

 二本腕でフィット 

(i) Weaver (1970), Weaver (1974)  図4(a)
2本腕、i = 12.5° は HI の主要な腕を表現すると主張した。図4a では 彼のフィット線をデータ点の上に重ねた。彼は、太陽近傍と内部銀河系は多く のとげ(spur)や断片のため複雑な状況であると述べている。

(ii) Simonson (1976) 図4(b)
HI データをピッチ角 6° - 8° の二本腕、サジタリウス腕とペルセウ ス腕、で表した。それらは外側銀河系でピッチ角 16° の複数枝に分かれる。 オリオン腕はピッチ角 20° のとげ(spur) である。カリーナ腕とアウター 腕は2本の主要腕の中間にある孤立した腕断片のように見える。ノルマ腕は サジタリウス腕の延長とされた。

(iii) Lockman (1979)
HIIRs データを2本腕でフィットした。南銀河は北銀河ほど良くは合わない。 HIIRs は重力ポテンシャルの底付近で生まれ、ストリーミング速度は小さい はずなので、その影響は小さいと主張した。

(iv) Bash (1981)
速度分散と密度波による非円周運動を考慮して、2本腕モデルでフィット。

 4本腕モデル 

(i) Georgelin,Georgelin (1976) 図3(c)

可視 HIIRs から4本腕の断片を得た。

(ii) Henderson (1977)    図3(d)
7 km/s のストリーミングとピッチ角 13° で4本腕の全体像。このモデルで l = 290 方向のフィットが良くないと述べている。

(iii) Henderson, Jackson, Kerr (1982)
外側銀河系に4本腕がある。Kulkarni, Blitz, Heiles (1982) は

(iv)Kulkarni, Blitz, Heiles (1982)  図3(e)
外側銀河系に4本腕がある。 Blitz et al 1982 の改良回転曲線を用いて、腕がピッチ角 22° - 27° で 20 - 25 kpc の長さに渡って途切れなく繋がっていると主張している。

図3.図2と同じ分布を極座標表示した。この表示では、対数螺旋は直線と なる。太陽は log R = 4.0, θ = 180° にある。 Bania が中央の縦構造は何かと質問したが、分からないという答え。GCと太陽の 間なのに。XY分布には対応構造が見えないのは本当に変。

アウター腕(彼らはシグナス腕と呼ぶ)とペルセウス腕が主要2本腕らしい。 オリオン構造がとげ(spur)なのか、長い腕なのかモデルからは決められなかった。 そのピッチ角は 29° である。彼らのモデルを内側に延長し、 R = 4 kpc まで 入ると、CO 観測と合わないと述べている。

(v) Robinson et al (1982)
CO データから4本腕、ピッチ角 11° - 13°. 内3本はデータから直接 示唆されるが、4本目は対称性からの要請で、直接確認は困難。

(vi) その他のフィット
Quiroga (1977) は HI と可視データをピッチ角 13 - 17 の4本腕に合わせた。 Mills 1963 は電波連続波観測の当時の分解能では 2, 3, 4 本のどれも可能 とした。 Sills 1982 は第1象限と第2象限の高速ガスの観測から、それらが ピッチ角 16 - 24° で R = 20 kpc まで伸びた腕であるとした。





図4.様々なモデルフィット。データ点は図3と同じ。(a): Weaver (1970) 2本腕、i = 12.5°. (b) : Lockman (1979) ?, Simonson 1976? 2本腕、i = 6.2° (内側領域)., (c) : Geogelin,Geogelin (1976) 4本腕。"eye-ball" fit., (d) Henderson (1977) 4本腕、i = 13°, (e) Kulkarni et al. (1982) 4本腕、i = 22° - 27°, (f) Robinson et al. (1982) 4本腕、i = 11° - 13°,

 2.2.解釈 

 モデルの混乱 

 前章で述べたモデルの比較から、統一見解からとおい現状がわかる。混乱の 原因は、全体パターンが一意に決まらないことである。全てのモデルはそれなり に観測と合っているが、圧倒的に合ってはいない。今までの所、個々の断片腕 を決めることが出来てはいる、つまり局所的な領域のデータは明らかな形で 繋げられる。全体構造には、それらの断片を外挿して繋げなければならない。 腕の本数は2、3、4なのか、ピッチ角は大きいのか小さいのか、対称性は 存在しないのかどうか、といった疑問に応えるデータが必要である。
 外側の対称性と内側の断片性 

 遠近距離の問題が起きない外側銀河系の HI は銀河系全体構造問題への良い 鍵となる。それ=外側銀河、は大きくは左右対称に見える。しかし、その パターンが内側銀河系での2本または4本腕へとなるかどうかは明らかでない。 内側領域には明白な対称性がない。天の川銀河は外側部にのみグランドデザイン 渦状腕が存在し、内側では渦状風の断片しか存在しないという可能性もある。 このような現象は NGC 2903 のような銀河に見える


 3.1.系外銀河の渦状腕の観測 

 3.1.系外銀河の渦状腕 

 ハッブルタイプ 

 ハッブルタイプはピッチ角と相関するかも知れない。ドボークルー は天の川銀河を SAB(rs)bc と分類した。このタイプのピッチ角は 12° - 15° である。しかし Kennicutt 1981 はピッチ角と ハッブルタイプとの相関は弱く、また分散が大きいことを示した。

 HIIRs 

 Lynds 1970 は渦状銀河の HIIRs を、Hodge 1969 は 20 以上の渦状銀河 の Hα 写真で HIIRs の位置を、Hodge, Kennecutt 1983 は 125 銀河の HIIRs アトラスを、Hodge 1982 は 223 銀河の HIIRs のリストを示した。 HIIRs は渦状腕を定義するという印象があるが、これらの HII マップを見ると、 腕間活動が活発であることが判る。HIIRs だけでは、しばしば腕を辿ることが 難しい。極端な例として、 Athanassaula 1978 は M 31 の HIIRs の配置から ベストフィットは先行型の一本腕であるとした。Rumstay, Kaufman 1983 は M33 と M83 の HIIR を調べ、励起パラメターが 115 pc cm-2 以上の巨大 HIIRs のみが渦状腕に追随することを見出した。Fich, Blitz 1982 によると、銀河系でもそうらしい。

 巨大雲と HIIRs の分布 

 Kennicutt, Hodge (1976) は NGC 628, Boeshaar, Hodge (1977) は NGC 3631, Anderson, Hodge, Kennicutt 1983 は NGC 4321 で 腕に沿って分布する HIIRs の相関関数を調べた。しかし、集合の証拠は見つけられなかった。 Elmegreen, Elmegreen 1983a は等間隔に分布する巨大 HIIRs と HI コブを持つ 銀河を調べ、間隔が銀河サイズの約 20 % であることを見出した。天の川では 2 kpc に当たる。そのような巨大 HIIRs と HI 雲は我々の銀河系でも見える。 McGee, Milton 1964 は 107 Mo の巨大 HI 雲 27 個を4本の腕で 観測し、 Dame et al (1983 EDS になし) は 106 Mo の 15 個の 巨大分子雲をサジタリウス腕上でマップした。巨大雲間の間隔は他の銀河で見ら れるのと同程度であった。
 ダストレーンの減光 

 Lynds 1970 は 23 銀河でダストレーンから渦状構造を見出した。従って 我々の銀河系でもダストを使って腕を追尾できるかも知れない。 Holmberg 1950 と Lynds 1970 はダストレーンの典型的な密度として 10 cm-3 を得た。Elmegreen 1980 は銀河ダストレーンの可視減光を 1 - 2 mag と見積 もった。銀河面を縦に透かした時の減光は 0.5 - 1 mag であるから、ダスト レーンは星間物質の比較的小さな圧縮を見ているようである。なので、銀河系 でダストレーンを見出すのは難しいかも知れない。

 ダストレーンの連続度 

 Lucke 1978 と Krautter 1980 は太陽から 2 - 3 kpc 以内の雲の分布が ばらばらであるとした。Lynga 1979 は天の川にははっきりしたダストレーン がないのではないかと述べた。これは銀河との類推からも示唆される。 Lynds 1980b は Sbc と Sc 渦状銀河についてダストクラス 1 - 5 を定めた。 分類基準はダストレーンの連続性である。ダストクラスは明るい HIIRs の数 と相関する。我々の銀河系には励起クラス 100 pc cm-2 を越す 可視 HIIR が少なくとも 25 はある。これは Lynds クラス 2 - 3 に相当する。 このクラスの銀河は主要渦状腕に沿って暗黒雲やダストレーンの断片を持つが、 連続したダストレーンは 30° - 90 ° を越えない。

 とげ 

 とげは銀河には普通である。Elmegreen 1981 はとげが腕の縁から外側に付く ことが多いと述べた。そのピッチ角は 63°±12° である。 Weaver (1970) は、サジタリウス腕からピッチ角 20° - 25° で突き出たとげ内に太陽 がいると述べた。しかしながら、Humphreys 1976, Humphreys (1979) は可視データが局所腕 とサジタリウス腕の間に間隙が存在することを示しているので、とげは ペルセウス腕から内側に突き出ているとした。 Blaauw (1985) は局所とげについて詳細に分析した。

 銀河のCO, HI 話は略 






図6.銀河の「色等級図」。 縦軸=腕・腕間コントラスト(青)/腕・腕間コントラスト(赤外)。 横軸=腕・腕間コントラスト(赤外) 点の数字= (R25/10)単位の中心距離。 図の右側は実際の密度 超過が必要。

 3.2.フロキュラントとグランドデザイン 

 arm class 

 Woltjer 1965 は切れ切れの腕断片が目立つ NGC 2841 や NGC 5055 は "spiral-like" と名付ける提案をした。 Elmegreen, Elmegreen 1982b は Arm Class 1 - 12 により、渦状腕の連続性 と対称性をランク付けした。そして、"spiral-like" の代わりに "flocculent" と言う名前を提案した。

  

 近赤外(IV-N + Wr)写真でもグランドデザイン銀河は明るく浮き上がる。 しかし、青乾板でフロキュラントに見える銀河では腕が出て来ない。 Elmegreen, Elmegreen 1983b は non-barred グランドデザインとフロキュラ ント銀河 34 個の写真から、腕ー腕間コントラストを調べた。グランドデザ イン銀河ではコントラストは青だけでなく近赤外(写真)でも大きく、 1 mag を越える。フロキュラントでは、腕ー腕間コントラストは青では 大きいが近赤外では小さい。
 コントラストと腕クラス 

 図6はコントラストの様子が腕クラスと相関することを示す。 グランドデザイン銀河で見られる大きな近赤外腕ー腕間コントラストは、 実際に腕での密度超過が大きくないと実現されない。超過度は 40 % に達する。 フロキュラントでは青い渦状構造を星形成域から得ている。従って、銀河系に おいて、古い円盤種族星の分布を調べることが、銀河系の渦状構造をさらに調 べる上で必要である。


 4.天の川渦状構造の起源 

銀河にバーがあるかどうか、銀河団のメンバーかどうかなどが グランドデザインかどうかに何パーセントの影響を持つかの議論。