Revisiting Long-Standing Puzles of the MW: the Sun and its Vicinity as Typical Outer Disk Chemical Evolution


Haywood, Snaith, Lehnert, Di Matteo, Khoperskov
2019 AA 625, 106 - 118




 アブストラクト 

 広い範囲での拘束条件を考慮して、G-矮星問題を解決する、太陽近傍化学進 化の筋書きを提案する。 R < 10 kpc の円盤は巨大乱流ガス円盤から形成 された厚い円盤で、大質量星により太陽メタルまでメタル量増加が進んだ。R ≤ 6 kpc の内側円盤は宇宙年齢(?)7 - 10 Gyr での星形成停止期の後に メタル量増加が続いた。より遠方の領域では、厚い円盤の星形成活動後に残さ れたガスを、7 - 8 Gyr 昔に、動径方向のガス流(降着?)が希釈する。こう して、別々の化学進化を経ることにより、円盤は内側円盤と外側円盤とに分か れた。キーとなる考えは、厚い円盤によるメタル量の事前増加は、以前の内側 から外側モデルで想定されているような太陽半径におけるこの成分の比率に関 連しているだけではなく、形成期に存在した活発なガスの混合による完全な厚 い円盤にかんけいしているということである。だから、厚い円盤種族が表面密 度の 15 - 25 %, または太陽近傍での 5 - 10 % を占めるということでは G- 矮星問題を解くには不適切である。  この筋書きが上手く働くには、乱流ガス円盤から動径方向に一様なメタル分 布を持つ厚い円盤が形成され、太陽円付近が太陽メタル量になったことを認め る必要がある。太陽円では厚い円盤形成後に残された太陽メタル量のガスに、 外側円盤から流れ込んできたガスが一体となり、G-型矮星問題を解くのに必要 なメタル量の薄い円盤を形成した。 R > 6 kpc、特に太陽円を超えた向こう 側での化学進化は同じシナリオで説明される。外側からのガス流はバーの形成 とそれに伴う外側リンドブラッド共鳴が外側円盤の低メタルガスを R = 6 kpc (損頃の共鳴点位置)まで内側に流し込んだためにメタル量希釈が生じたので あろう。この共鳴は同時に内側円盤を外側から隔てて孤立させた。これらの結 果は太陽近傍のメタル量分布は天の川銀河のガス降着史と結びつかないことを 意味する。最後に、太陽は希釈を経験した 6 kpc より外側円盤に典型的な星で あり、内側円盤の特性は備えていない。


 1.イントロダクション 

 降着モデル 

 冷たいガスの降着モデル, Dekel, Birnboim (2006), Woods14, Tillson15、はここ10年間で新しい段階に入った。それはダークマ ターフィラメントに沿った降着が内側銀河に降り注ぎ、初期の大きな円盤の形 成に導いた。恐らく、巨大なガス貯めが出来たであろう。観測によれば z = 1.5 の時代には円盤は既に大きく、天の川銀河と同じくらいの質量の銀河では、 星質量の約半分は既に存在し、同じくらいの分子ガスが存在していた。

 ガスが銀河系早期に降着 

 我々の銀河系も上の描像と一致する。 Snaith et al. (2015), Haywood16, Haywood et al. (2018) は R ≤ 6 kpc の内側銀河 = 円盤+バルジ、の化学 的性質はガスが銀河系早期に降着したという描像に合うことを示した。内側銀 河系に存在する多数の低メタル矮星、 Anders14, Haywood et al. (2018) は、二つの星形 成期を持つ閉箱モデルのyp層に合致する。そこでは、第1星形成期に厚い円 盤の成長が、第2期に薄い円盤の成長が起きる。我々が太陽近傍で見る厚い円 盤星はより巨大でスケール長の短い種族の氷山の一角にしか過ぎない。 Bensby et al. (2011), Cheng et al. (2013), Bovy12a.

 標準化学進化モデル 

  Chiappini et al. (1997), Colavitti09, Marcon-Uchida10, Minchev14, Kubryk15 の標準化学進化モデル ではその様に大きな種族の存在は太陽円での進化に対する影響は限定的である。 というのは、標準モデルでは円盤は夫々が独立な円環の集合と見做されていて、 相互の関連はない状況で内側から外側への銀河進化が実現されるからである。 このモデルでは、太陽近傍から見る厚い円盤の化学進化は太陽近傍におけるこ の種族の一部の進化を物語るに過ぎない。内側円盤の恒星種族の進化は何の影 響も及ぼさない。最近では星の動径移行 Minchev13, Kubryk15, Loebman16, Toyouchi18 が考慮される様になった。
 厚い円盤は内側から外側へと形成されたのではない 

  Haywood et al. (2013), Snaith et al. (2015), Haywood et al. (2018) は厚い円盤が内側から外側へと形成されたのではない という証拠を示した。それは APOGEE の観測からも、[α/Fe:-[Fe/H] 図 が R によって変化しない Hayden et al. (2015) という形で支持されている。z > 2 の 時代の星間物質は、強い乱流と活発な星形成からのフィードバック Lehnert14 の結果、大規模な混合が発生したと考えられる。厚い円盤に関し、 内側から外側への形成の証拠が見つからないのはこの強い混合が原因である。 これは、太陽付近における円盤の化学進化、特にG-型矮星問題をどう見るか という問題に重大な影響を有する。

 G-型矮星問題 

 G-型矮星問題 van den Bergh62, Pagel75 は、太陽近傍の星の大部分が [Fe/H] > -0.2 であるのは何故か?という問いかけである。もし銀河系早 期にガスの大部分が円盤にあって活発な星形成を行ったら、メタル量をこの 水準に到達させるまでに必要とされる星の数はかなり多数になるはずである。 しかし、実際にはそのような星は少ない。それとは逆に、厚い円盤星の太陽 近傍での割合は、円盤が僅かなガス供給しか受けてこなかったことを意味し、 またも初めに述べた描像と矛盾する。

 太陽は外側円盤 

 この論文では、厚い円盤の形成が内側から外側へ侵攻したのではなく、全体 が同時に進行する過程であったとしたら、星位置までの円盤質量比に応じた メタル組成増加でなく、内側円盤 (数 1010Mo) 全体の化学進化の 結果であるという単純なアイデアを考察する。この筋書きでは、太陽円環は厚 い円盤の外周に位置するのだが、強い星間物質の混合の結果化学組成の増強が もたらされたのかも知れない。これはG-型矮星問題の解決となる。外側円盤、 太陽近傍も含まれるのだが、進化を加えることで、この論文は R < 6 kpc 円盤の進化を研究した Haywood et al. (2018) を補足する。




 2.近傍の化学的特徴を分解する:[Fe/H] - [α/Fe] と年齢-{α/Fe] 

 太陽近傍では大部分の星は [Fe/H] > -0.2 である。天の川銀河内で太陽 近傍の星間物質が [Fe/H] = -0.2 までどう増加するかを理解するには、それ より下で見られる二本の系列=低アルファ系列と高アルファ系列を正しく理解 しなければならない。 Hayden et al. (2015) は高アルファ系列星が内側円盤で支配的であり、低アルファ系列星が外側円盤 で支配的であることを見出した。
 この二系列に年齢情報を加えると何が判るだろうか? Buder et al. (2019) も参考にせよ。

 2.1.内側円盤系列:時系列 

 サンプル 

 図1には Adibekyan et al. (2012) のデータに Haywood et al. (2018) が決めた年齢を加えて作った [α/Fe]-[Fe/H] 分布を示す。サンプル数は 1111 星で、有効温度、元素組成、速度が付いている。良い精度の年齢という 条件はサンプル数を 363 星にまで減少させた。我々の結果は恒星密度には依存 しない点は強調しておく。サンプルは {Fe/H] = [-1, 0.5] の範囲で完全である。

 Silva Aguirre18 は怪しい 

 星震学年齢に基づいて、Silva Aguirre18 は厚い円盤の形成期間にはきつい 年齢-[α/Fe]、年齢-[Fe/H] 関係は存在しないと主張した。しかし、 第1に、もし 年齢-[α/Fe]または年齢-[Fe/H] 関係が存在しないなら、高アルファ系列 上で低メタル高アルファ星が高メタル低アルファ星よりも若いことがあるという ことになる。高アルファ系列は連続的でかつ [α/Fe]-[Fe/H] 面上の散 布度が小さいので、どうやって年齢-[α/Fe]-[Fe/H] 空間でそのような 複雑な配置を可能にするか説明が困難である。
(年齢-[α/Fe]または年齢- [Fe/H] 関係が緩かったらきつい [α/Fe]-[Fe/H] 関係が生まれない と単純に云えばよいのに、嫌らしい言い方をしてる。 )
 第2に 高アルファ系列では、[α/Fe] の増加と共にその速度分散は大 きくなって行く。これも、もし [α/Fe] が年齢と無相関としたら説明し にくいことである。似たことであるが、 [α/Fe] と共にスケール高が増 大 Bovy12 する現象も [α/Fe] と年齢の間に相関が存在しなかったら説 明困難である。
 第3に、SEGUE から導かれる [α/Fe] は低分散、低 S/N スペクトル に基づいていることを考えると、 Bovy12 に見える [α/Fe]-年齢相関が かなり強いことがわかる。
 最後に、Silva Aguirre18 の図3と図10を見ると、 5 Ga 以上で年齢誤差 は 30 % であり、年齢-[α/Fe] 関係は消されてしまう。

 図1=内側円盤+バルジの化学進化 

 図1の橙線は内側円盤+バルジの化学進化 Snaith et al. (2015), Haywood et al. (2018) である。図1上に選んだ高アルファ星は黒線=橙線を-0.05 dex シフト、より 上から採った。高アルファ系列は内側円盤+バルジの進化を表す。そのモデル では最初期に急速なガス降着が起きた。図1下のモデル経路は二つの区分から 成り、一つは厚い円盤、もう一つは薄い円盤を表す。Haywood16 ではその2成 分の中間 8 - 10 Ga に星形成中断期が挟まる。高アルファ系列は時間系列でも あり、[α/Fe] と [Fe/H] のどちらも年齢との相関が強い。

 閉箱モデル 

 この強い相関は閉箱モデル Snaith et al. (2015), Haywood et al. (2018) によりうまくされる。

図1.上:[Fe/H] - {α/Fe] 面上の恒星分布。丸の大きさと色は年齢を 表す。橙線=内側円盤モデル。色丸の選択は黒線=橙線の -0.05 dex 下の線、 より上と規定。図の右端に引いた横棒と数字は [α/Fe] からの年齢 (Ga) を示す。 下:年齢-[α/Fe] 面上の恒星分布。カラー=メタル量。 Snaith et al. (2015), Haywood et al. (2018).

そのもっともよい証拠は、低アルファ系列が内側円盤に 存在しないことである。例外は高メタル領域の星であるが、それらは内側薄い 円盤の進化を表している。
(「内側薄い円盤」は内側円盤の 8 Ga 以降成分のことなのか、それとも 8Ga 以降は内側円盤が二つに分かれ、 厚い円盤と薄い円盤とは異なる化学進化を歩んだということか?)
低アルファ星が R = 5 kpc で見つかっている。しかし、 Hayden et al. (2015) はそれを外側円盤星の分布テールであるとした。高アルファ星と低アルファ星 のこの様な空間的分離から Schonrich09, Nidever14 の図17のシナリオ=高 アルファ星は低アルファ星の祖先種族である、というシナリオは不適切である。 我々のモデルで重要な点は、厚い円盤形成期の空間的に一様な化学進化が意味 するのはこの種族には「内側から外側へ」形成が起こらなかったことである。 もう一つ大事な点は、厚い円盤期に既に太陽メタルに足していた Bensby07 こ とである。図1上に示した年齢 8 - 9 Ga の7星は [α/Fe] > 0.05 で平均 [Fe/H] = -0.015 dex である。このメタル量は最も古い薄い円盤星より も高い。これは何らかの希釈現象が起きたことを意味する。


 2.2.外側円盤系列: 希釈系列 


図2.年齢区分ごとに分けた [Fe/H] - [α/Fe] 面上の恒星分布。 橙線=内側円盤モデル。図の右端に引いた横棒と数字は [α/Fe] から の年齢 (Ga) を示す。青線=図全体に共通のガイド線で年齢と共に分布が 移る様子を見やすくしている。 異なる年齢の平行系列(各枠の恒星分布のことか?)は太陽近傍 (OLR 領域) とその先における化学進化が進化系列に沿って進行し、それが年齢-メタル量 系列としてのそれらの系列を年齢の異なる二つの系列に結び付ける。

 図2は=年齢区分星の[α/Fe]-[Fe/H] 関係 

 図2は年齢区分ごとにサンプル星の [α/Fe]-[Fe/H] 関係を示す。
(サンプルの定義がない。一番上枠 だけは黒線下を採っているが、その先では黒線上にはみ出ている。 黒線自体、Haywood18 では 0.025 dex 下でここと違う。なんかムー。)
Buder et al. (2019) の図22も見よ。橙線は図1と同じ内側円盤+バルジの進化を表す。図2は外側 円盤系列が年齢とメタルの層構造を成していることをはっきり示す。 与えられたメタル量では古い星が上側に位置するが、年齢-[α/Fe] 関係 からも予想される通りである。この系列で元素存在比一定の集団は年齢一定集 団にはならない。それは年齢一定集団は巾広いメタル量を持つからである。 単一年齢集団を選りだすにはもう一つパラメターが必要でそれは誕生半径であ る。

 図2の枠毎の各系列は誕生半径系列 

 図2に示す同年齢の系列を見ると、進化が最も低メタル [Fe/H] = -0.7 から 最も高メタル [Fe/H] = +0.5 へと進んだのではないと分かる。つまり、低ア ルファ系列は年齢系列ではない。

図3.APOGEE 低アルファ星の MDF ピークメタル量と距離 R の関係。 星の距離評価は上から Gaia, NMSU, NAOC, Nice。R < 6 kpc では 勾配は平坦であることに注意。

最も古い星は最も低メタルではある(図2 最上段)が、最も高メタルの星 [Fe/H]=+0.5 は 8 Ga 以下の全ての年齢に存在 する。その代りに、 8 - 9 Ga の星は、薄い円盤の中で異なるメタル量で星形 成を開始する第1世代である。この系列は図2b から始まり図2e で終わる。 太陽近傍で最も低メタルの星の力学的性質はそれらが外側円盤から来たことを 示す Haywood08. また APOGEE 観測は同じタイプの星が実際に外側円盤に存在 することを見出した。これらから、図2の枠毎の各系列は誕生半径系列である。 データをこのように解釈すると、薄い円盤は銀河半径の外側ほど低メタルで、 星形成を開始したと考えられる。  太陽近傍で観測される低アルファ系列は、異なる半径におけるそれぞれの 化学進化系列からの星の合成系列であると考えるのが自然だろう。

 図3=メタル量勾配 

 このような傾向が銀河半径によりどう変わるだろうか?図3はAPOGEE DR14 を用いて、低アルファ系列のメタル量分布のピーク位置を銀河半径 R の関数 として示す。星までの距離は Gaia DR2 を使用した。図3の全ての枠は同じ 特徴を示す。

1.R < 6 kpc ではピークメタル量は平坦である。

2.R > 6 kpc では勾配 0.065 - 0.086 dex/kpc で低下する。

このメタル量変化の違いは場所による化学進化の性質の差を表す: R < 6 kpc での進化は閉箱的である。 Haywood et al. (2018)。 それに対し、6 kpc より先では高メタルガスの希釈により化学進化が強い 影響を受けている。勾配はどのメタル量で大部分の星が形成されたか、例えば 太陽軌道半径では +0.1、R = 14 kpc では -0.4、を示す。化学進化が始まった 時点で外側ほど低いメタル量であり、外側ほど低いメタル量の星を形成した ことを意味する。




 3.外側円盤進化の典型例としての太陽近傍 

 3.1.太陽近傍の化学的特徴からのヒント 

 メタル量は2回太陽メタルに達した 

 G-矮星問題とは無関係に、その説明には希釈を必要とする事実がある。7 - 8 Ga の頃、厚い円盤の形成末期に星間物質のメタル量は太陽メタル近くまで達し ていた証拠がある。しかし、同時に、太陽近傍の MDF は太陽メタル付近がピーク で、その星の大部分は 7 - 8 Ga より若い。因みに太陽は 4.6 Ga で [Fe/H] = 0 である。つまり、太陽近傍ではメタル量が2回太陽メタルに達している。 その第1回目は 8 - 9 Ga の厚い円盤形成末期、第2回目は 4 .5 Ga である。 これはその間に希釈期が存在したことを意味する。Bensy04.

 太陽円環の化学進化 

 この二回が太陽円環でのメタル量進化の典型であると仮定すると、太陽円環 における化学進化は図4に描いたようなものとなる。まず、太青線=厚い円盤 の形成が支配的で、その最終期に破線=希釈が起きる。その結果、メタル量は 一旦 -0.2 まで下がる。これが最も古い薄い円盤星のメタル量である。 Haywood06,08, Casagrande11. 太陽近傍にはそれより低メタルの薄い円盤星が 存在する。しかし、それらは運動学的な性質から外側円盤からやってきた  Haywood08, Bovy12a と考えられる。希釈後は穏やかな - 3 Mo/yr の星形成 が 3 - 4 Gya 続き、メタル量を +0.2 dex 上昇させ、太陽メタルに達した。

 ガスが足りない 

 厚い円盤の表面密度は厚い円盤をどう定義するかで変わる。Bland-Hawthorn16 では 12±4 % だが、Bovy12b の高アルファ星の定義からは 25 - 30 % と いう値が出る。この論文では後者の値を使う。 一方で、天の川銀河質量の銀河は z= 1 - 1.5 の時期に星とガ スの質量が大体等しいと観測から知られている。すると、厚い円盤形成末期の 星+ガスの質量は現在の表面密度の 50 - 60 % 分しかなかったことになる。 こうして、太陽円環では厚い円盤終末期に残されたガス=現在の表面密度の 25 - 30 % では薄い円盤 = [(75 - 70) - 現在のガス] % には不十分である。 あと現在の表面密度の (70-40) - (75-25) = 30 - 50 % (論文では 40 - 50) % のガスが必要である。強調しておくが、これは 6 kpc より外側、多分 OLR の初期半径外側での話である。OLR 内側では閉箱モデルで十分であった。

図4.[Fe/H] - [α/Fe] 面上での太陽半径星の化学進化。 2と記した細青線=厚い円盤形成最終期(1)の「希釈」後の進化。

 希釈が解答 

 二つの問題= 8 - 9 Ga でのメタル量低下、と薄い円盤に必要なガスの不足、 に対する解答は新しいガスの供給である。厚い円盤終末期には円盤の半分が 星、残り半分は太陽メタルのガスと仮定する。もし、追加ガスが始原組成で あったら、混合ガスのメタルは [Fe/H] < -0.5 となる。これではスタート メタル量 -0.2 dex に比べ -0.3 dex 低すぎる。従って、流入ガスのメタル は始原ガスよりもずっと高い必要がある。

 薄い円盤はメタル量 -0.2 から -0.3 dex で開始 

 APOGEE によると、外側銀河系最遠の巨星のメタル量は -0.5 から -0.7 で ある。太陽近傍で最も古い 9 - 10 Ga 低アルファ系列星(図2)、おそらく 外側円盤起源と考えられる、は同じくらいのメタル量を示す。これから、この メタル量はまた、厚い円盤の先 R > 10 kpc に存在したガスのメタル量な のではないか?そしてそれが厚い円盤の形成後にその外辺部に残されていた ガスと混ざり合ったのではないか?
 もし、厚い円盤形成後に不足分の 50 - 60 % をこのメタル量 -0.6 dex の ガスで補ったとすると、薄い円盤のガスは希釈前のほぼ太陽メタル量から 希釈後は -0.2 から -0.3 dex となる。  このシナリオによれば、太陽周辺での星間物質の希釈は外側円盤ガスにより、 始原ガスの降着によるものではない。これは、内側円盤に関して Hatwood16 が述べたような星形成活動の中断によるものでも、 Chiappini et al. (1997) が考えたような太陽円環での星形成中断に連続的ガス降着が重なって生じたも のでもない。


 3.2.厚い円盤のメタル混合 

 厚い円盤の R = 8 - 10 kpc 部は内側円盤と同じ化学進化を辿ったのだろう か?遠方銀河の観測では、 R = 10 kpc 程度に渡り、メタル量勾配は平坦であ る。Scott14, Wuyts16, Leethochawalit16.
 Angles-Alcazar14 のシミュレイションでは、ウィンド無しのモデルは急な メタル量勾配を産み出すが、高メタルガスの大規模な再配分配を許すと平坦な メタル量分布が得られる。我々は太陽近傍も内側円盤と同じ高さにまで高メタ ル化したと考える。


 3.3.希釈はいつ起きたか?そして、何故? 

 希釈はいつ? 

 希釈の時期は何時であったろう?厚い円盤が太陽メタルに到達したのが 8 - 9 Ga であり、その後希釈されて再び太陽メタルになったのが太陽の年齢 4.6 Ga とすると、復活に数 Gyr は見る必要がある。すると、希釈は 7 - 9 Ga に 起きたと考えてよいだろう。

 内側円盤流出ガスによる汚染 

  Lehnert et al. (2014) は厚い円盤形成期の星形成強度はガス流出の閾値を大きく超えていたことを 示した。したがって、内側円盤から流出したガスで外側円盤の星間物質は汚染 されたであろう。その結果外側円盤ガスのメタル量は -0.6 dex, [α/Fe] = +0.15 になったのである。
( [α/Fe] も厚い円盤起源? )
ただし、その具体的な機構についてはまだ想像に留まっている。

 バー形成の影響 

 天の川型銀河では 9 - 10 Ga にバーが形成される Sheth08, Melvin14 こと が知られている。天の川銀河でもそうであるなら、バーポテンシャルの影響で 星とガスの再配列が起きた可能性が高い。Haywood16 はバーの形成が星形成停 止の引き金であると考えた。Khoperskov18 はこの問題を理論的に扱った。 バーの力学的効果がガスにも及んだと考えたい。
 OLR 半径 

 今日、 R = 6 kpc を境に 円盤の化学的性質が大きく変わる(図3)ことから、この半径に OLR が位置 していたと考えられる。現在 OLR 半径は 6 - 9 kpc Duhnen00, 10 - 11 kpc Liu12, 7 kpc Monari17 と統一されていない。しかし、バーの回転速度が弱ま るに連れて OLR は外側に移って行くので、最初期に 6 kpc というのは妥当で あろう。その時期厚い円盤は 10 kpc まで広がっていた。OLR の内側ではガス は共回転半径から OLR 半径に向けて押し出され、厚い円盤形成期の平坦なメ タル量勾配を薄い円盤期でも保持する助けとなっている。バーの作用は内側円 盤が動径方向流により希釈されることを防いでいる。我々の提案するシナリオ に取りこの効果は重要である。

 バーによる流れ 

 もし OLR が 6 kpc に位置していたら、外側円盤遠方にあった低メタルガス の内向き流が OLR 半径に辿り着くには 1 - 2 Gyr 掛かった。 6 Kpc の先では 低メタルガスが太陽メタルガスと混ざり合って、距離と共にメタル量が低下す る構造になった。円盤内の流れは乱流を引き起こすが、それが星形成にどう働 くかはまだよく分からない。しかし、少なくとも厚い円盤形成の残りガスと円 盤外側の低メタルガスとの混合を促進したことは確かである。


 3.4.太陽近傍のモデル 

 図5=太陽近傍と内側円盤の化学進化 

 図5の青線は太陽近傍の化学進化を示す。橙線は閉箱モデル Snaith et al. (2015), で内側円盤+バルジ全体の進化を上手く記述する Haywood et al. (2018)。 と考えられる。
 SFH  

 太陽近傍では 9 Ga に希釈が起きて太陽メタルから -0.2 dex へと低下した。 モデルの SFH は Snaith et al. (2015), に述べられている。図5下図には、青線=太陽近傍で 9 Ga より若い星の MDF を示す。これは化学進化の薄い円盤部に相当し、太陽系近傍の薄い円盤 で観測される MDF に近い。近傍 MDF が極大となる太陽メタルは内側円盤では 星形成低下期のために極小に当たる。それは APOGEE データ Haywood16 に現れている・


 4.我々のシナリオを全外側円盤へ 

 図3を見ると、太陽円環の先までメタル量変化が続くことが判る。 それで、太陽近傍に適用したシナリオを外側円盤に伸ばしたくなる。 それと図から太陽は境界にはないので内側にも。

 4.1.外側円盤のモデル 

 化学進化は2段階過程 

 前節で述べた化学進化は2段階過程であった。第1段階では、外側円盤に あった始原ガスが、 10 - 12 Ga の厚い円盤形成期の流出ガスで汚染されて メタル量 -0.6 dex まで上がる。第2段階では、厚い円盤の縁では 形成終末期に使い残された太陽メタルのガスと汚染ガスが混ざり合う。

 他の R へ 

 太陽円環では外側円盤からのガスが厚い円盤使い残しガスを希釈して、メタル 量を 0.0 dex から -0.2 dex に下げた。この筋書きは他の R んに対しても一般 化が可能である。二種類のガスの割合が変化して薄い円盤開始時のメタル量は 外側ほど低い。この傾向は図3のメタル量勾配にも反映している。 図5赤線は薄い円盤の形成が太陽近傍より少し早く 10 Ga、メタル量 -0,6 dex で始まった場合が示されている。このモデルは APOGEE で観測される最も遠方 R = 14 - 15 kpc を表す。この場所は厚い円盤の縁から数 kpc も離れている ので、出発ガスはハローから降着した始原ガスが厚い円盤から流出してきた高 メタルガスで汚染されたものと考える。

 二つの化学進化例 

 化学進化の結果は図5の上段と中段に示される。青、赤二つの経路の違いは 出発メタル量である。モデルが年齢-[Si/Fe] 関係をフィットするようデザイン されている Haywood et al. (2013) ため、この関係に現れる折れ曲がりに追随して 9 Ga 付近で SFR が低下する。 それが MDF の -0.5 dex での窪みの原因となる。




図5.第3、4章で述べた太陽軌道半径 -0.2 dex から、とその先の外側円盤 -0.6 dex からの化学進化。橙線= Snaith et al. (2015), Haywood et al. (2018) の閉箱化学進化モデル。 下枠の青線=太陽近傍 9 Ga より若い星。赤線= 外側円盤 10 Ga より若い星。


 4.2.化学的傾向のスケッチ 

 図6上段=[α/Fe]-[Fe/H] 面上進化経路 

 図6上段には [α/Fe]-[Fe/H] 面上進化経路が示されている。図の下 方には薄い円盤の進化が R に応じた何本かの色線で示されている。 外側薄い円盤の出発点は厚い円盤の汚染程度に 依存している。一番右側の内側薄い円盤だけは一本の線である。そこでは希釈 は起きず、薄い円盤の進化経路は厚い円盤の経路の延長に乘る。 外側薄い円盤では星形成効率が低く Bigiel10, 化学進化の変化幅は小さい。

 図6中段=年齢-メタル関係 

 ここでも太い青線は内側円盤を、細い色線は様々な R の外側薄い円盤の 進化を表す。 

 図6下段=年齢-[α/Fe] 関係 

 ここでも太い青線は内側円盤を、細い色線は様々な R の外側薄い円盤の 進化を表す。

 太陽近傍 

 太陽近傍では二つの化学進化が重なっている。一つは、 R < 6 kpc の内 側円盤である。もう一つは外側円盤で R により経路が異なる。

 4.3.全体のシナリオ 

(1)厚い円盤  

 厚い円盤は 9 - 13 Ga の間に 3 - 4 Gyr 以内に形成された。星形成は爆発 的で、R < 10 kpc の内側円盤で 12 Mo/yr に達する。星形成活動からの フィードバックと乱流が厚い円盤星間物質を一様に均し、平坦なメタル量勾配 を産む。最も活発な 10 - 12 Ga にはガスが外側円盤に流出して汚染した。 その結果外側円盤の内側では --.6 dex までメタル量が上がる。

 (2)速度分散 

 乱流ガス円盤の速度散布度は 12 Ga 40 km/s から 10 Ga の 30 km/s へと 減少し始める。その結果 10 Ga 頃にバーが発達し始め、共回転半径内側での 星形成活動を 1 Gyr 以内に一時停止させた。それが厚い円盤形成の終了とな った。 R = 6 kpc にできた OLR は内側円盤と外側円盤を分離した。 OLR の 外側では厚い円盤形成で取り残された高メタル [Fe/H]=0.0 ガスが外側円盤 の -0.6 dex 低メタルガスと混ざり合った。

 (3)内側円盤 

 OLR の内側=内側円盤では星形成の一時停止後に化学進化が衰えずに進行し 厚い円盤形成後に残されたガスを処理し続けた。この進化は閉箱モデルで 記述される。 Haywood et al. (2018)

 (4)外側円盤 

 R > 6 kpc の外側円盤では R が大きいほど点メタルの初期条件で化学 進化が進行した。汚染ガスと外側ガスとの混合比の変化によりメタル量勾配 が生じる。鋭い動径勾配が APOGEE によって R = 15 kpc まで検出されてい る。

図6.第3,4章での解析による [Fe/H] - {α/Fe], 年齢-[Fe/H], 年齢-{α/Fe] 関係の図示。太線=内側円盤の Haywood et al. (2018) 閉箱モデルで星形成停止期で分け隔てられた二つの星形成期を有す。 内側円盤では年齢-メタル量関係はきつい。どの時期でも天の川銀河の中では 内側円盤がメタル量最高である。色付き細線=外側円盤、異なる半径と希釈度 の化学進化。太陽軌道半径では希釈が起きるのは星形成停止期の後だが、外側 ではもっと早く始まった可能性がある。


 5.外側円盤としての太陽 

 元素組成 

 太陽は内側円盤の進化から[α/Fe] と [Fe/H] (図3) でずれている。図7a を見ると内側円盤星は太陽メタルでは [&alpha/Fe] が 0.1 より少し大きい。 [&alpha/Fe] は年齢との相関が良く、高アルファ系列 で太陽メタルの星は 9 Ga である。太陽は 4.6 Ga なので大きな差がある。図 3によれば太陽メタルが分布ピーク値であるのは R = 9 kpc 付近である。

 軌道計算 

 過去の、太陽が内側円盤から移行してきたという説、wielen96, Minchev13, Kubryk15, Frankel18 は我々の結論と反対である。しかし、 Martinez-Barbosa15 による太陽逆行軌道計算の結果から太陽は R = 8.83 kpc で生まれたと述べて いる。

 結論 

 太陽は外側円盤星である。

図7.4つの動径距離 R 区間での [Fe/H] - {α/Fe] 分布。 [Fe/H] = 0, {α/Fe] = 0 の星を見出す確率が最も高いのは R = 8.89 kpc であることが示される。太陽が内側円盤からやってきたという説は APOGEE サーベイからは支持されない。




 6.議論 

 6.1.以前の見方 

 我々の説は以下の点で標準的なガス降着の枠組みから外れている。

 厚い円盤の成長 

 銀河系初期のメタル増加は厚い円盤の形成による。この種族は太陽近傍で 表面密度の 15 -25 % を占めるに過ぎないが、天の川銀河全体では恒星質量の 約半分を占める。厚い円盤形成期の強い乱流とフィードバックの結果、厚い円 盤外縁部でも中心部と同じような化学進化を遂げることとなった。この見方は 天の川銀河の観測、厚い円盤形成期にある銀河の観測、それにシミュレイショ ンから支持される。こうして円盤は太陽半径までで 2 1010 Mo の 星種族を含むようになった。このシナリオには、長期にわたり中心距離に依存 するガス降着は含まれず、化学進化は閉箱モデルで記述される。 「内側から外側へ」モデルではメタル量進化は各円環で独立に進行する: 外側はガスの表面密度が低く、進化は遅い。そのため、厚い円盤の形成終了時 に太陽円環でのメタル量 [Fe/H] = [-1, -0.5] dex と低い。これは観測 Chiappini et al. (1997), Colavitti09, Minchev13 に比べると低すぎる値である。 動径移行を許すモデルでは内側銀河系で生まれた高メタル星が太陽円環まで いどうする。例えば、Kubryk15 では厚い円盤の形成末期には、太陽円環で そのメタル量は -0.8 dex である。太陽メタルの厚い円盤星が内側から太陽 円環まで移動することが許される。ただし、このモデルはメタル量の巾が大 きくなり、厚い円盤期の末で {α/Fe] = 0.2 dex である。図1下枠を 見ると分かるが、この結論は否定される。Haywood15 は「内から外へ」シナ リオと動径移行の組み合わせは観測に合わないことを示す。

 事前の高メタル化と希釈 

 円盤形成の第2期は、太陽近傍が属する外側薄い円盤 R > 6 kpc の形成 を説明する:ガスの流入は、厚い円盤が残した星間物質を希釈して、最古期薄 い円盤のメタル量 -0.2 dex にまで下げる。標準化学進化モデルではその逆で、 緩慢な降着はメタルの希釈を可能な限り抑え込むのである。
(ここはよく分からない。 )
 こうして我々のシナリオでは、ガス流入をMDF の巾を制御する役に立たせる のではなく、薄い円盤形成のスタートメタル量を各動径距離ごとに与える。

 Truran, Cameron 1971 の頭でっかち IMF 

 円盤の事前メタル化は Truran, Cameron 1971 により G-型矮星問題を解く ために、頭でっかち IMF で大質量星による十分なメタル供給機構として考案 された。
 Gilmore, Wyse 1986 の事前メタル化 

Gilmore, Wyse 1986 の厚い円盤のよる事前メタル化モデルは厚い円 盤と薄い円盤の質量比を 1/4 とした。これは事前メタル化 [Fe/H] = -0.6 な ら十分である。しかし、これは現在判明している最若厚い円盤星のメタル量と 不一致である。

 Pagel01 の先見  

 Pagel 2001 は当時最新の発見であった高アルファと低アルファ系列に関し、 興味深い提言をした。彼は、厚い円盤による事前メタル化と薄い円盤期開始時 のガス流入が太陽近傍での薄い円盤を説明するために必要であると述べた。彼 の図3は我々の図6を先取りしている。
 Haywood01 は、銀河面垂直方向を均して厚い円盤成分を加味すると、太陽近 傍のデータが閉箱モデルと合うことを見出した。このような統合は以前には 成されていなかった Sommer=Larson91. 彼のモデルは一定 SFR が仮定されて いる点を除けば Snaith et al. (2015), と同じである。当時の観測は、太陽近傍の組成分布が奇妙で、厚い円盤が太陽 メタルに達していることを見出していなかった。従って、それは現在のデータ をフィットするには不十分である。

 低アルファ系列の起源 

 Nidever14 は低い星形成効率と外側円盤での強いガス流出によって低アルフ ァ系列が生まれる可能性を追究した。彼らの図16には二本の経路が例として 示されている。そのような経路一本では図2に示される複雑な構造を再現する 事は不可能である。しかし、星形成効率をいじって、何本かの系列で図2の分 布にフィットすることは可能であろう。ただ、二つの不都合がある:
第1に、Ninever14 自身が述べているように、低アルファ系列の祖先星が外側 円盤に見当たらない。それらが存在しないだろうと思われる領域は、低アルフ ァ系列の尾より低メタル側 [Fe/H] < -0.6 だけである。しかし、低アルフ ァ系列の最古星はメタル量全体をカバーするから、これら祖先星が全メタル量 に渡って存在するはずである。しかしそれらは観測されない。
(祖先星とは 8 Ga より古い星を指す のか?個々の論理がよく分からない。 )

第2に、ここで我々が解析した太陽近傍データは太陽円環における薄い円盤の 初期メタル量は希釈により決定されたことを示す。図3に見られる勾配の連続 性を考えると、この仕組みが太陽円環でのみ働くとは考えにくい。しかし、 APOGEE の到達限界より更に遠方で、厚い円盤からの汚染がない外周部では 低星形成効率による進化の可能性は否定できない。


 6.2.G-型矮星の分布が語る事は? 

 薄い円盤の初期ガス 

 この新しい枠組みの中で化学進化に対する拘束条件としての G-型矮星問題は どんな意味を持つのか?太陽近傍 MDF を作る星の 80 % は 7 Ga より若く、 メタル量が -0.2 dex 以上の星が 73 % である。これらの星は太陽円環でしか 見られない混合ガスから生まれた。我々のシナリオでは、それは閉箱進化した 内側円盤のガスと -0.6 dex までメタル化された外側円盤のガスが混ざって出 来た。

 近傍 MDF の巾 

 降着モデルでは、近傍 MDF が太陽軌道半径での降着タイムスケールを拘束 する。 MDF が幅広なほど降着タイムスケールは短い。我々のシナリオでは、 これらの星が生まれる混合ガスは星形成開始前にそこに用意されている。厚い 円盤が必要なメタル化を準備しているのである。メタル化に対応する G-型矮星 は太陽近傍で欠けているわけではない。それらは太陽近傍に存在しないだけで ある。なぜなら化学進化は厳密には局所的に限られていないからである。我々 の考えでは、近傍 MDF の巾は銀河系全体での進化過程で用意された初期メタル 化=厚い円盤の形成、とその後の SFH で決まり、降着タイムスケールの尺度 にはならない。

 6.3.誤りは、ブルータス、我々の運命にはない! 

 OLR 内側のメタル分布は一様になる 

 円盤内での星の混合の結果、太陽近傍でも他の軌道半径において支配的な星 を観測することが出来る。ではこの混合は我々の結論にどう影響を与えるだろ うか?"Blurring" は他の軌道半径へ侵入して、そこの MDF を太らせる。 我々が観測するメタル量勾配は分布のピークを繋ぐので、メタル量散布度の増 大がメタル量勾配に及ぼす影響は小さいだろう。それに反して、 "churning" の効果はもっと大きい。バーによる角運動量の再配分はガスと星双方の天体を 動かして、内側円盤部から OLR へと押しやる。 Halle15, 18, Simkin80, Rautiainem00. このような状況で R < 6 kpc でメタル勾配がないことは 驚きではない。第1に厚い円盤は元々メタル勾配を持たなかった。第2に バーによる再配分効果の結果、内側円盤全体に渡ってメタルは一様に分布する ことになったからである。これがあれほど多くの高メタル星が R = 6 kpc まで 見出されるかの理由である。
 OLR へのガス配分 

 Halle15, 18 はこの再配分は OLR で停止することを示した。その外側では "churning" による星の移動は起こらない。これはガスに対しても同様である。 OLR に溜まったガスはリングを作りやすい。Simkin80, Rautiainen00. こうし て、高メタルガスを共回転半径から OLR まで動かすことにより、バーは太陽 近傍でさえも高メタル星を形成するガスを供給したのである。この点で、 ガスの移動は R = 6 kpc までに存在する高メタル星の数を説明するには重要 である。

 OLR 障壁 

 図3に示すような R > 6 kpc でのメタル勾配は高メタルガスが OLR を越えて大量には外側に移動しなかったことを示す。一方星の方は "blurrring" を通じて遠方にまで到達可能である。Halle18. もしバーの存在が長期間にわた っていて、 OLR が障壁効果を維持したなら、外側円盤が獲得できる高メタル物 質は厚い円盤形成期の太陽メタルガスだけであろう。

 移行は弱い 

 図3に示される急な勾配は動径移行(migration) の効果が精々2次的である ことを意味する。あるメタル量の星は図3で示される半径付近に集中し、他の 半径ではほとんど見られないのである。
(言い過ぎじゃないかな?)
これは太陽近傍星による他の研究でも支持される。例えば、Hayden18 は GES サーベイの 2364 星中 51 星だけが [Fe/H] > 0.1 で近銀点 > 7 kpc で あり、移行星であろう。これは全体の 2 % である。


 7.結論 

 総括 

 円盤の化学進化は銀河中心からの距離によって、二つの経路を辿る。その 一つは内側円盤で、大部分のガスが早期に降着し、空間的には一様な進化を 遂げた。 Haywood et al. (2018) の閉箱モデルで記述され、二つの星形成活動期 Snaith et al. (2015) を持つ。この進化は 6 kpc までは妥当である。
 外側円盤の形成は厚い円盤形成で取り残された太陽メタルガスとより低メタ ルのガスとの混合から出発する。混合比は銀河動径距離に依存する。

 厚い円盤形成の影響 

 厚い円盤の形成は活発な活動であり、強い乱流とそれに伴うガスの攪拌の結 果、R < 10 kpc の円盤全体(バー形成以前)が高メタル化した。こうして、 太陽近傍では現在厚い円盤の表面密度は小さいが、太陽近傍はこの円盤全体の 活動の余慶を被ったのである。

  -0.2 dex にまで希釈 

 厚い円盤は円盤メタル量を太陽メタルまで引き上げた。低メタルガスの供給 が太陽近傍のガスメタルを -0.2 dex にまで希釈した。これが薄い円盤を形成 する出発点となった。
 薄い円盤のスタート 

 薄い円盤の最古星観測から、薄い円盤形成開始時の外側円盤ガスは -0.6 dex と見積もられる。このガスが厚い円盤に取り残された太陽メタルガスを 希釈する。太陽メタル対外側の比が 1 : 2 で混ざり、-0. dex のスタート ガスとなる。  この混合ガスの誕生は、バーの形成と 6 kpc における OLR の発生と同時 に起きた。詳細なシミュレイションが望まれる。

 太陽 

 太陽は内側円盤天体ではなく、外側円盤天体である。これは軌道計算からも 支持される。

 G-型矮星問題 

 太陽近傍での G-型矮星問題は降着史と無関係である。その MDF は単に -0.2 dex までメタル化されたガス円盤と 1 - 3 Mo/yr という低い星形成 活動の結果であり、ガス降着は要らない。ただし、内側円盤は降着が必要。