内側銀河系=閉箱的モデル、外側銀河系円盤=降着の影響を受ける、と仮定 した。Kennicutt 則のような星形成の処方を規定して元素組成を再現すること はしない。その代わりに、我々は組成の変化を年齢にフィットして、銀河系の 星形成史を再現した。 内側 (R<7-8 Kpc)と外側 (R>9-10kpc)におけ る 銀河系形成最初の数Gyrs における星形成史をこれまでにない 精度で再現した。内側銀河系では厚い円盤期である最初の 4-5 Gyr の間に約 半分の星が作られた。それに続き 8-9 Gyr (昔?)には星形成活動が低下し た。その後残りの 8 Gyr は低レベルでほぼ一定の星形成活動が続いた。 | 我々の結果によれば、閉箱モデルは内側円盤の初期進化は良く再現できる。 その時期星形成は主に星間物質の強い乱流で支配される。 z=1 の頃までは 降着の大部分は外側円盤で起き、内側円盤の星形成は厚い円盤時期に消費され 残ったガスと最初期の星からの放出ガスにより支えられていた。外側円盤では 星形成活動は内側円盤を忠実になぞるが、内側円盤で薄い円盤の形成が始まる より 2 Gyr 早く、 z = 2 の時期に星形成活動を開始する。 |
G-dwarf 問題 G-dwarf 問題とは、 星形成早期に低メタルの星間ガスから星が形成されたとするには、 太陽近傍には低メタル (Z/Zo < 1/3) の星が少なすぎる。 この中間メタル量星の欠落を克服するため、長期にわたってガスが外部から 円盤へと供給されてきた、と考えた。こう考えると、各時期の星間ガス量は 小さく、メタル量は多くの星が形成される以前に急激に上昇する。 化学進化モデル この考えが現在の化学進化モデルの主流である。この開箱モデルでは長期に わたりガスが銀河に降り続ける。星間ガス密度は Schmidt-Kennicutt 関係 (Kennicutt 1998) に従って星形成率に変換される。次に、銀河系の表面密度、 現在のガス比、星形成率などを再現するように降着率を調整する。この時点で 系の化学進化が、通常 [α/Fe]-[Fe/H] の形で、調べられる。 こうして、双降着モデル(Chiappini et al 1997, Fenner et al 2002), 三重降着モデル(Micali et al 2013), 双降着+単流出モデル(Brusadin et al 2013) が提案された。これらのモデルでは星形成率の調整も必要で、 実際 Chiappini97 ではハロー・厚い円盤期に星形成パラメターを二倍に している。 |
新データとモデルの見直し しかし最近の観測から上のモデルの見直しが迫られている。例えば、厚い円 盤と薄い円盤の間は化学的および運動学的に連続性が存在する(Bovy12, Haywood13) さらに、 Bensby11, Bovy12 が観測した厚い円盤の構造パラメターはこの種族 の質量が大きいことを示す。Furnmann12 も見よ。このように、厚い円盤に対応 するZ < (1/3) Zo の星が銀河系にはかなり存在するという証拠が上がっている。 それらの大部分は太陽円の内側にある。 厚い円盤が無視されてきた 宇宙における星形成は Z = 2 - 3 の時期に最大である。厚い円盤の星は銀河系 内でこの星形成時期に作られた唯一の星種族である。しかし化学進化モデルでは 大抵厚い円盤は無視されてきた。その理由はモデルとのフィットが太陽近傍星に 対して行われ、そこでは厚い円盤成分の割合が 10 % (Juric08) だからである。 厚い円盤の割合は高い この論文では、仮定の数を最少にするため、内側円盤を閉箱モデルで扱う。この モデルは単なる演習問題ではなく、内側円盤の第1次近似として最良である。 外側円盤は基本的には閉箱で扱うが、降着事象が一回起きてメタル量を低下させる と考える。Snaith14 では内側円盤を扱った。今回は範囲を外側円盤にまで広げ、 SFH を導く。Haywood13 による化学組成データとその時間進化を用いると、厚 い円盤形成期に作られた星は現在銀河系内に存在する星の約半分を占める。 これは、銀河系の薄い円盤と厚い円盤の割合を見直す必要があるということで ある。 |
2.1.モデル哲学モデルの仮定(1) 一様な星間物質 星間物質は常によく混合されている。 (2) 初期質量関数 初期質量関数は時間に依存せず一定。 (3) 開始時のメタル量 進化開始時のメタル量はゼロ (4) 内側は閉箱 内側円盤は閉じた箱と仮定。 (5) 外側は追加降着流 外側は見返り時間で 10 Gyr で始原ガスの追加降着流が一回ある。この降着は 観測されるメタル分布の説明に必要。(Haywood13) 超新星 即時リサイクルは仮定しない。星の寿命を考慮する。もし時間区切りが大きければ SNII からのガスとメタルは直ちに戻ると見なされる。 仮定の妥当性 1.星間物質の一様性 Cartledge06 は数百パーセクのスケールでは星間物質が一様とみなせること を示した。薄い円盤が形成された 4.6 Gyr 昔の前太陽グレインからも(Nittler05) 当時既に一様であったことがわかる。厚い円盤に関しては、その強い年齢-メタ ル量関係と年齢-α比関係 (Haywood13) から同様に一様性が示される。Haywood は太陽近傍星(年齢 < 8 Gyr) の年齢-メタル量関係の分散が大きいのは、 太陽が内側円盤と外側円盤の境界に位置するためとした。このため、両方の 円盤星が混ざり合うのである。しかし、それでも一様という仮定は成立する。 2.IMF 過去の IMF が現在と異なるという証拠は、第1次星 (頭でっかち:Yamada13) 以外にはない。 |
3.初期メタル量 厚い円盤の初期メタル量は [Fe/H] < -2 である。Morrison1\90, Kordopatis13. つまり、銀河系星のメタルのほぼ全ては (薄 + 厚) 円盤形成 期に作られた。したがってモデル計算ではゼロメタルから出発する。 4.閉箱モデルの妥当性 言い換えると、最初期の数 Gyr にガスを急速に消費するためにどのくらいの 量のガスが得られるか? (意味不明 ) ガス降着のタイムスケールは不明である。観測からわかrのは z = 2 付近の円盤 はガスに富んでいるということである。閉箱モデルが近似する状況とは、(1) 内側円盤 (R < 10 kpc) での降着の大部分が銀河進化の初期に起きた、か (2) ガス降着がガスの割合を高く保ち、円盤の進化が降着史の詳細に依存しない、 である。銀河系進化の初期数 Gyr に豊富なガスが供給されることは、高赤方偏移 銀河の観測と合致し、また最近の銀河系厚い円盤の質量の推定値とも合う。 これはガス降着が低いという標準化学進化モデルとは異なる。 化学進化 この仮定の下で、太陽近傍の星の化学的軌跡の特徴を調べた。 Adibekyan12, Haywood13. この方法でベストフィットの SFH を決めた。 そのために、2.2, 2.3 節で化学進化コードを説明する。 星形成則は仮定しない 我々はガスと星形成率を結び付ける星形成則を仮定しない。二つは切り離され る、つまりどの時点でもガスの一部は星形成に使われ、残りはその後の星形成の ための保存役とみなされる。 閉箱ガスの意味 我々が内側円盤を「閉じた」と呼ぶとき、それは最初に存在したガスが星形成に 適格であり、同時にメタルが注入される始原ガスの保存庫として働くことを意 味する。我々はガスが円盤内の冷たいガスなのか、銀河コロナの温かいガスな のか、ハローの高温ガスなのかの区別はしない。閉箱系ではガスは星を形成する ために冷却し、かつ星から放出されるメタルを薄める働きもするのである。 |
2.2.化学進化経路の作成化学進化経路を計算する各段階ここはコード中で、化学進化経路を計算する部分である。それは以下の 段階で遂行される。 (1) IMF を選ぶ。(例えば Kroupa01) (2)SNII, AGB, SNIa のイールドを選ぶ。 (3)星の寿命を求める。 (4)(Z, t) での SNII と AGB である星の質量比を計算する。 (一瞬の SNII 星の質量比? ) (5)(4)にイールドを掛ける。 (6)SNIa の遅延時間の定式化。それに SNIa イールドを掛ける。 (7)累積イールドを時間と共に計算する。 この部分はある時刻に、星間空間に戻されるガス、メタルの量、 SNIa, SNII の数などを初期メタル量毎に計算する。 SNII イールド SNII イールドには Nomoto06 を用いる。SNII の最小質量は 8 Mo とする。 (Few12, Kawata,Gibson03)イールドは星質量に対する表で与えられる。 モデルでイールドが与えられている星は < 40 Mo に限られる。それ以上の 星に対して 40 Mo のイールドを適用すると Si 量が説明できない。この問題は 将来に待つ。 星の寿命 Raiteri96 は星寿命の近似式を次のように与えた。 ![]() この式は Z = [7 10-5, 0.03] で妥当である。モデル計算では 我々は上式を M(t) の形に変換して使う。 (Raiteri96 の式と3箇所に誤りがある。 ) |
IMF Kroupa01 の IMF を採用した。 ![]() 積分イールド イールド、寿命、IMF を結合して、 積分イールド Γ(t=now) を次の形で得る。 ![]() ここに、Φ(M(t)) = 時刻tで死ぬ星の IMF. γ(M(t)) = 時刻 t に 死ぬ星のイールド。 (意味がピンとこない。SFH が式に 入っていない。"t=now" が何を言おうとしているのかはっきりしないが、"now" を銀河形成以来の固定値でなく、ある任意の t を指す変数と考える。 また、IMF は単位質量に規格化されているらしい。すると、"now" の昔に IMF 質量分布で形成形成された星が、その後現在までに放出する総量を与える式と 考えればよい?) SNIa のイールド SNIa の元素イールドは Iwamoto99 から採った。超新星率は Kawata,Gibson03 を採用した。それ自体は Kobayashi00 からのものである。このモデルでは母星系 を二つに分ける。一つは白色矮星+赤色巨星、もう一つは白色巨星+主系列星、 である。SNIa による遅延は 1 - 2 Gyr である。我々は SNIa が白色矮星を完全 に破壊し、 1.38 Mo を還流すると仮定する。水素の還流量は 0.01 Mo でほぼ ゼロである。Kobayashi00 のようにあるメタル量以下では SNIa は起こらない という意見もあるが、ここではこの意見は採らない。 |
SNIa 数の時間変化 SNIa の遅延時間分布には以下の式を採用した。 ![]() メタル放出 SNIa は Fe 0.75 Mo, Si 0.16 Mo を放出する。 |
![]() 図1.SNIa 遅延時間分布。Z=Zo.青線=SSP で予想される累積 SNIa 数。 |
2.3.GCE 計算 (パートB)規格化t = 0 では、系は質量1の始原ガスから成る。X=0.75, Y=0.25 とする。SFR は 14 Gyr の間の累積 SFR が 1 となるよう規格化する。 星の総質量 星の総質量は次式で与えられる。 ![]() ここにM*(t=0) =(残存)星質量。Ψ(t) = SFR でその規格化は ![]() である。また、Mrecy(t) = 累積ガス放出量。 |
星形成で奪われるメタル 星形成で奪われるメタル量は ![]() ここに ΔM(O,Mg,Si,Fe) = 星間物質から奪われる O, Mg,Si, Fe 量。Δt = 時間間隔。MISM = 星間物質質量。 M(O,Mg,Si,Fe) = 星間物質中の O, Mg,Si, Fe 量。 標準モデルとの差 我々のモデルは標準 GCE コード(Chiappini97) とは閉箱という点で異なる。 標準モデルではガス降着が継続する。我々はガス密度と SFR との関係を切り 離し、年齢-[Si/Fe] 関係をフィットするという条件のみで SFH を決めていく。 対して、標準モデルはシュミット則のような星形成-密度関係を仮定する。 我々は年齢-[Si/Fe] データをSFH で合わせる。 |
3.1.一般的な枠組み二つの進化経路Haywood13 に描かれている描像は以下のようである。 銀河系円盤は大体 Rgc = 7 - 10 kpc を境に内側円盤と外側円盤に分かれる。 これは通常考えられている、円盤は一体の系でその物理量は銀河中心距離と 共に緩やかに変化していく、という説と異なっている。太陽近傍のデータは 二つの系の存在を示す。データを説明するには二つの化学進化経路が必要で あるという考えを我々は支持する。 第1の経路 内側円盤(Rgc < 7-10 kpc) は厚い円盤と薄い円盤の二つから成る。この 二つは基本的には連続している。ただし、図2を見ると判るように、α元 素とメタル量の時間変化から両者ははっきりと分かれる。これは第5章で議論す る。これはその時期に起きた星形成体制の変化の結果である。厚い円盤では、 きつい年齢-メタル量関係が存在し、この時期に星間物質がよく混ぜ合わされて いることを証言している。データから、この時期 4 -5 Gyr に渡り、化学進化 が着実に進行したことが分かる。それは 8 Gyr 昔の薄い円盤のメタル量と α 元素量と同じくらいになるまで続く。薄い円盤の系列ではメタル量に幅が存在し、 厚い円盤での関係のきつさと対照的である。これは太陽が内側円盤と外側円盤の 境界に位置することで説明される。 第2経路 外側円盤 (Rgc > 9-10 kpc) では星形成が 10 Gyr 昔に始まった。この 時期内側銀河系では厚い円盤の形成がまだ進行中であった。厚い円盤と外側円盤 とで年齢 10 Gyr での α 元素組成が類似するのは、外側円盤の形成が始 まったガスが厚い円盤から放出されたガスで汚染されたことを示す。 この時期の外側円盤のメタル量が [Fe/H] = -0.8 と、同時期 厚い円盤星の [Fe/H] = -0.4 と較べて低いことは、外側円盤のガスは外側領域 にもともと存在した始原ガスと内側領域で処理されたガスの混合であることを 示唆する。(Haywood13) 図2.(a) [Si/Fe] - [Fe/H]. (b) [Si/Fe] - 年齢。(c) [Fe/H] - 年齢。橙丸=厚い円盤星。 緑丸=外側薄い円盤星。青丸=内側円盤星。パネル(a) の赤線=式(12)で定義される 外側薄い円盤星の境界。丸の大きさは (a) では年齢を、(b) では [Fe/H] を、(c) では [Si/Fe] を示す。水平線は年齢の誤差を示す。 |
![]() |
3.2.データデータとバイアスAdibekyan12 は系外惑星探査のために太陽近傍 1111 星の分光サーベイを行 い、大気パラメターと元素組成を与えた。我々はそのデータを用いる。使用 するのは年齢-α 元素関係で星の密度ではないので、サンプル選択に伴う バイアスの心配はない。観測の S/N 比が高いので元素量決定精度は良い。 年齢誤差 年齢決定は Haywood13 に詳しい。概略を述べると、年齢決定には Jorgensen, Lindegren05 によるベイズ推定が用いられた。 |
Yonsei^Yale 等時線(Demarque04)
を用いて、Haywood13 は大気パラメターの誤差を年齢誤差に直すと、t <
5 Gyr の若い星で 0.8 Gyr, t > 9 Gyr 星で 1.5 Gyr になると見積もった。
Haywood13 は誤差の小さなサンプル星として 363/1111 星が用いられた。
Si 我々は Si を α 元素進化を追う元素として選んだ。その理由は、 様々な α 元素の理論的イールドは観測イールドに比べずっと高いから である。Si は SNII と SNIa のどちらでも大量につくられる。従って Si は 長い時間に割って形成された星集団から放出され続ける。 他の α 元素と違い Si だけは [Si/Fe]-年齢、[α/Fe] - [Fe/H] 関係を同時に満足させられる。 |
[Si/Fe] - [Fe/H] 関係二本の系列図2(a) に示す[Si/Fe]-[Fe/H] 関係において、内側(厚い+薄い)円盤は 二つのはっきりしたパターンを示している。厚い円盤はメタル量増加に伴い [Si/Fe] が低下する。その系列の端、[Si/Fe]=0.05, [Fe/H]=-0.1 に薄い円盤がほぼ 水平な系列として現れる。薄い円盤の低メタル側延長 [Fe/H] < -0.2 - -0.3 は外側円盤系列に連なる。面白いことに、これらの星の [Si/Fe] は内側円盤星 の [si/Fe] より大きく、0.15 に達する。この事実が外側円盤星を厚い円盤と 薄い円盤の中間に位置付ける。 第3の種族 外側円盤は化学進化の立場から独立の成分と考える。それらは式で定義すると、 ![]() となる。 [Si/Fe] - 年齢 関係厚い円盤厚い円盤は年齢 8 Gyr 以上の星から成り、[Si/Fe] が年齢と共に急激に進 化した証拠がある。その速度は 6 Gyr に 0.3 dex である。図2(b) を見よ。 [Si/Fe] の分散が小さいことは星間物質の混合が速やかであったことを物語る。 |
内側薄い円盤 内側薄い円盤は年齢 8 gyr 以下の星から成り、[Si/Fe] 進化は厚い円盤 と較べ、ずっと平坦である。その速度は 8 Gyr で 0.05 dex でしかない。 [Si/Fe] - 年齢面上での、厚い円盤から薄い円盤への遷移は非常に急激である。 外側円盤内の最古の星 外側円盤内の最古の星は 10 Gyr 昔にできた。それらは内側薄い円盤と平行に 進化したが、より高い [Si/Fe] 値を保ってである。それはまるで、外側円盤が 薄い円盤より先に厚い円盤系列から分かれたかのようである。 [Fe/H] - 年齢 関係厚い円盤はきつい関係外側円盤星が内側円盤星から分離した後、厚い円盤系列が [Fe/H]-年齢図 (図4c) に現れる。これらの星は年齢 8 - 13 Gyr に渡り分散が小さなきつい 系列を成す。これは活発な星形成と超新星爆発で星間物質が強く書き混ざられた ことを意味する。また、関係のきつさは銀河系距離によるメタル量勾配が小さい 事も同時に意味する。 遷移帯 Rgc =7−9kpcにおいて、内側薄い円盤と外側薄い円盤の間に強いメタル量 勾配が存在する。それは、[Fe/H]-年齢図上で、 年齢 < 8 Gyr では [Fe/H] の分散が大きいことに反映している。APOGHEE サーベイの結果、 [Fe/H] > 0.2 の星は Rgc < 7 kpc にのみ、[Fe/H] < -0.2 の星は Rgc > 9 kpc にのみ存在することが分かった。 外側円盤 外側円盤星は 10 Gyr 昔に [Fe/H] < -0.7 で現れた。その [Fe/H] は同じ 年齢で較べると、常に内側円盤星の下にある。そのメタル増加率は内側円盤星に 近く、t < 2 Gyr で -0.3 である。 |
星の起源厚い円盤星は R = 0 - 10 kpc図3には [α/Fe] と 近心点(R<8kpc)、遠心点(R>8kpc)との 関係を示す。軌道計算には ALeen,Santillan91 の銀河系非軸対象ポテンシャル を使用した。平均軌道パラメターは 5 Gyr の軌道計算から導いた。厚い円盤星 が銀河系中心距離の全体 R = 0 - 10 kpc にわたって分布することが分かる。 これは太陽近傍の星が様々な銀河中心距離で誕生したことを示唆する。 薄い円盤星は R = 5 - 9 kpc 薄い円盤の星は R < 5 kpc から R > 9 kpc に渡って分布する。 |
![]() 図3.Adibekyan12 サンプル星の軌道近心点(R<8kpc) と遠心点(R>8kpc) の[α/Fe] に対する関係。[α/Fe] > 0.2 の厚い円盤星は R の 全範囲 R = [0, 10] kpc に分布する。 |
4.1.指数関数型星形成史指数関数型星形成の表式指数関数型星形成 ![]() ここに t = 「宇宙」誕生以来の時間。τ = 特性時間。A =4定数である。 全時間を積分して形成される総質量が 1 になるよう A を決める。この表式は 簡単であると同時に、文献(Matteucci,Francois89, Chiosi80, Chiappini97, Fenner02)でよく使われるガス降着+Schmidt 型星形成率モデルからの結果に 比較的良く類似している。 図5を眺めて 1.[α/Fe] 特性時間が短い(τ=1)場合、初期の高い SFR 期とその後の急激な SFR の低下から[α/Fe] の急速な低下が起きる。一方、特性時間 τ が長 いと [α/Fe] の低下は緩慢となる。 2.小 τ は急激なメタル量上昇を招く τ が小さい場合には [Fe/H] の上昇が急激過ぎて、t = 1 Gyr でメタル 量が太陽レベルになってしまう。 3.[Si/Fe]-[Fe/H] 関係 τ が大きくなると、モデル [Si/Fe]-[Fe/H] 関係は観測データの分布に 近づく。特に SFR = 一定モデルは [Fe/H], [Si/Fe] の時間変化が観測データに 最も近い。しかし、それは (c) の厚い円盤系列も薄い円盤系列も表現できない。 |
4. [Si/Fe]-年齢関係 図4(b)の [Si/Fe]-年齢図を見ると、図2(b) の [Si/Fe]-年齢図に見られる 「膝」が最もはっきり現れるのは初期 SFR が大きくて初期と晩期のSFR の比が 大きい場合であることが明らかである。 これは Adibekyan12 が述べている元素組成を真似るには SFH に鋭い転換が必要で、 初期と晩期の SFR の比はかなり大きい必要があることを示す。 (両図を較べても何のことか分からない。論理も 不明。) 5.τ = 3 - 6 Gyr モデルは? 多くの化学進化モデルでは、[α/Fe]-[Fe/H] 関係のフィットがモデル の妥当性のテストとなっている。その点ではかなりの幅の τ がデータに フィットする。図5c を見ると特性時間 τ = = 3 - 6 Gyr が厚い円盤と 薄い円盤の領域を通過する。中でも τ = 3 Gyr が最も良く合う。しかし、 どれも図5(b) = [Si/Fe]-年齢、(d) = [Fe/H]-年齢関係の再現には失敗した。 これは [α/Fe]-[Fe/H] 関係のみでは SFH の決定には不十分で、年齢 情報が必要であることを示す。 注意すると、τ = 6 Gyr SFR は許容範囲の τ の中では最も勾配が 急で、それより多くの星が初期に形成されることがあると、もはや軌跡は [Si/Fe]-年齢分布を通ることも、[Si/Fe]-[Fe/H] 分布の上部系列を通ること もなくなる。τ = 6 Gyr は[Fe/H] -年齢分布の上辺をかすめる。 指数関数の限界 図5(b)を見ると、[Si/Fe]-年齢分布は二本の直線が「膝」でつながる 形になっている。この形を指数関数型で再現することはできない。というの は指数関数型では星形成率の時間変化がゆっくり過ぎるからである。こうして、 別の形が必要となる。 |
4.2.より複雑な SFR新しい表式図6には、初期のガウス型星形成+後期の一定星形成、の結果を示す。 SFH は次式で与えられる。 ![]() ここに t = 星年齢。μ = ピーク位置。C = 一定星形成。 また、 Chiappini14 に倣い、SFR の ギャップ. も受け入れる。この関数形は ΛCDM 宇宙論シミュレイション Brook14, Stinson13, Aumer13 で回復 される SFRs により近い。表1には図6に示される様々な SFHs のパラメター を示す。 それらの特徴 1.モデルの多くは [Si/Fe]-年齢図に「膝」を示す。膝の出現期はガウス型 星形成の終了に一致する。(ガウスピーク/後期の一定値)が大きくなるにつれ 膝は鋭くなる。 (「鋭い」って図の何を指す? ) 2.膝はSFR がゼロに落ち、SNII による Si 生産が落ちるが SNIa は依然出現 し続けるために現れる。 |
![]() 表1.図6の SFR のパラメター 3.ガウスピーク位置をずらす、ここでは t = 9 Gyr, [Si/Fe] が高くなりすぎ、 メタル増加速度が遅くなりすぎる。しかし [Si/Fe]-[Fe/H] 関係はうまく 再現する。 4.星形成を 1 - 2 Gyr 中断すると [Si/Fe] を減少させ、「[Fe/H]-年齢プロット に極小を生み出す。 5.t =9 と 13.5 にピークを持つ二つの SFR の間でデータは挟まれる。 |
5.1.フィッティング手順前に見たように、[Si/Fe]-[Fe/H] 図をフィットしても時間変化は合わせき れない。そこで、ここでは [Si/Fe] - 年齢関係のフィットを行う。スタート 第1近似 SFH として以下の式をスタート台に据える。 ![]() 時間を t = 0 - 14 Gyr とし、そこを 28 区間に分ける。1区間が 0.5 Gyr になる。 χ2 を計算 化学進化コードにより、元素組成の変化を計算する。[Si/Fe] 観測値を 使い、χ2 を計算する。 N-次シンプレックス法 逐次近似アルゴリズムは N-次シンプレックス法を用いる。収束は次回への ステップ幅が規定値より小さくなった時とする。 |
![]() 表2.第5章で使用されるパラメター 総計 以前に述べたように、初期星間ガス量=1,SFR の 14 Gyr の積分=1と 規格化した。これは、ガス放出がなければ星の総量が1になることを意味する。 ガス放出があるので、14 Gyr の後に最終ガス量はゼロではない。 |
5.2.内側円盤(厚い+薄い)図7(a) = 内側円盤の SFH図7(a) には内側円盤星に [Si/Fe]-年齢 関係をフィットした結果を示す。 注目したいのは、(a) の緑領域=データに見られるように各ビン内のデータ点 の散らばりは大きいが、結果として得られるボートストラップ解は良く収束し ていることである。 厚い円盤形成期 図8(a) を見ると、厚い円盤形成期の星形成率は薄い円盤形成期の約3倍 高かった。年齢 8 - 13 Gyr 星からなる厚い円盤は銀河系の総恒星質量の 56 % が含まれる。 SFR の窪み 年齢 8 Gyr (今から8Gyr昔の意味)頃に 1 Gyr の間 SFR が低下して SFH 曲線に窪みを生じている。この窪みは「膝」の鋭さを生むために必要とさ れる。何がこの現象=星形成の停止と再開、を引き起こすか我々のモデルでは 不明である。 薄い円盤の形成 年齢 < 7 Gyr の薄い円盤の SFH は一定星形成(4.7 Mo/yr) と両立する。MW 星質量は McMillan11 から採った。この値自体は、若い円盤 に対し観測される 1.4 - 4 Mo/yr (Diehl06, Robitaille10) とも合致する。 誤差 エラーバーの大きさはサンプル数の揺らぎを反映する。厚い円盤期の [Si/Fe] データは少ないのでエラーバーは大きくなる。 [Si/Fe]-[Fe/H] 図 図7(c) には [Si/Fe]-[Fe/H] 図を示す。厚い円盤期=[Si/Fe]>0.05 の モデルフィットは完全である。注意したいのは、厚い円盤の [Si/Fe]-[Fe/H] は実際の時間系列であるが、薄い円盤星では[α/Fe]-[Fe/H] 変化はあら ゆる年齢の外側・内側の星が太陽近傍へ混入してくることによる。つまり、 このモデルは薄い円盤期のデータに見られる変化を表すとは考えられない。 |
![]() 図8.図7のモデル SFH からのガス比の時間変化。青線=ガス全体。赤線= 還流ガス。緑線=還流ゼロとした場合のガス比。 年齢-[Fe/H] 関係 モデル SFH は年齢-[Fe/H] 関係をうまく表現している。外れるのは非常に 若い 年齢<2 Gyr 星で、モデルは観測値より上を通る。おそらくその原因は サンプル星の少なさと、 Z>Zo ではイールドが外挿価なためであろう。 化学進化は SFH 全体から決まる ブートストラップモデルでも類似の特徴を示す。化学進化の軌跡は SFH より狭い。これは化学進化が SFR の短期変動をあまり反映せず、むしろ SFH 全体の形で決まることを示している。 再循環ガス 図8は進化の最期=現在には再循環ガスが 30 % あることを示す。つまり、 全期間を通じて星として形成された量のうち、現在も星または星残骸として 残っているのは 70 % ということである。 この量は IMF に依存する。我々は Kroupa 01 IMF を採用したが、 Scalo98 IMF を使うと 残存ガス量は 40 % に変わる。 |
5.3.外側薄い円盤外側円盤の初期メタル量太陽近傍で観測される最も古い薄い円盤星は年齢 9 - 10 Gyr で [Fe/H] = -0.6 である。それらの α 元素比は同年齢の厚い円盤星と等しい。 しかし、薄い円盤星の方が厚い円盤星より [Fe/H] で 0.4 dex 低い。その 原因はまだ明らかでない。Haywood13 はこれら低メタル星は形成中の厚い円盤 からの高メタルの放出ガスと降着してくる始原ガスの二つの結果である。 言い換えると、内側円盤からやって来るメタルがハローからのガスで薄められ、 薄め 10 Gyr 昔に外側薄い円盤の形成が始まる。内側円盤に適用されるのとは異なり、 外側円盤の初期メタル量はゼロではなく、-0.6 dex なのである。 実際には我々は前と同様、化学軌跡を 14 Gyr 昔から始める。しかし、 見返り時間 10 Gyr の時に「薄め」を手で施した。図9を見よ。 高い [Si/Fe] 系列 SFH の導出は外側薄い円盤星に対して 3.2.説で述べた方法で行われる。 「薄め」は 10 Gyr より若い星の SFH に対し殆ど影響しない。唯一の違いは 星のイールドとして、同じ年齢の厚い円盤星に比べ 0.4 dex 低いメタル量 のものを使うことである。その結果、系は同じ SFH でもより高 Si となり、 [Si/Fe]-年齢 系列は内側円盤より高くなる。この高い [Si/Fe] 系列は Haywood13 が指摘し、かつ星イールドのメタル量依存の結果として説明された。 |
外側と内側円盤の類似性 図9にはこれらのフィッティングの結果が示されている。また、図には「薄め」 が化学軌跡に及ぼす効果を内側円盤の SFH を使って得た結果も示されている。 これは外側円盤のみにフィットした SFH と非常によく似ている。回復された 外側円盤の SFR は過去 10 Gyr の間、内側円盤の SFR とよく似ている。これ は内側円盤と外側円盤とが相対的には類似していることを示す。 (全然分からない! ) 「薄め」なしでは無理 「薄め」なしで外側円盤の星に対する SFH を求めた。直ちに明らかになった のは「薄め」なしでは, 年齢-[Fe/H], 年齢-[Si/Fe], [Si/fe]-[Fe/H] 関係を 同時にフィットすることはできない。 窪み [Si/Fe]-年齢関係の勾配が急変することのため SFH の窪みが作られる。外側円盤 では勾配の変化がないので SFH の窪みは現れてはいけない。しかしながら、遷移の 少し後に [Si/Fe] が局所平均より高い星が現れた。それらを表現するには星形成を 再初期化する必要がある。これがサンプル星が少ないための揺らぎかどうか不明である。 |
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![]() 表3.文献から採った様々な IMF. |
一様モデルの有効性 元素組成の時間変化をモデル化する手法が銀河系の SFH を回復す る有効な手法であることが分かった。円盤の様々な部分から集まった ガスが一様に混ざる限り、回復される SFH は全種族を代表するもの であり、特別な補正は必要としないことを強調したい。円盤の最も若 い部分は太陽近傍の限られた領域からの星のサンプルであるので、 銀河系全体の平均とは見なせないが、厚い円盤に関してはこの仮説は 確かである。 Gaia が決め手 したがって、この手法は銀河系の最初の数 Gyr の SFH を調べるのに優れて いる。Gaia データが得られるようになるまでは、年齢の関数として星の数を 調べる方法(SFHの直接決定?)に進展はないだろう。 星年齢が必要 [α/Fe]-[Fe/H] 関係をフィットするという従来の方法は、 この図上で各モデルの結果が縮退するため、最良モデルを検出する 能力が低い。年齢情報なしでは化学進化に拘束を掛けられないから である。図5を見ると判るように、2 - 8 Gyr という広い範囲の特 性時間が厚い円盤の [Fe/H]-[α/Fe] 関係を示す。ただし、 星の年齢を加えた解析に際してイールドの不完全性が問題となる。 |
問題点 SNII イールド GCE をフィットするには Nomoto06 の SNII イールドが必要である。 Woosley95, Timmes95 のイールドでは [Si/Fe] が大きくなり過ぎる。 太陽 Fe 値 Adibekyan12 は太陽の組成として Gonzalez00 の Fe = 7.47 を採用した。し かし、この値では GCE が収束しない。3種類の図を同時にフィットするため には太陽 Fe 組成を 0.04 dex = 10 % 変える必要があった。太陽組成が変わ ると SFH は驚くほどに変化する。その結果、厚い円盤と薄い円盤との相対寄 与が変わる。太陽 Fe が高まると厚い円盤の質量が増加する。低い Fe 値は後 期の星形成を強化する。Fe = 7.49 - 7.53 の間でのみ内側円盤の [Fe/H]-[Si /Fe] をフィットすることが可能となる。 Mg と Si Mg と Si を使って上側の軌跡(?)を同時にフィットすることはできない。 というのは観測される二つの組成比(Mg/SI?)がモデルに比べ著しく低いか らである。 星形成率の規格化定数 星形成率の規格化定数を少し下げてもフィッティングは可能である。しかし それを 0.5 以下にすると厚い円盤の比率が高まり、年齢-[Si/Fe] 関係を再現できなくなる。 |
以上の問題点はあるが、我々の結論は以下の通りである。 初期の強い星形成期 9 - 13 Gyr 昔に強い星形成期があった。 星形成中断期 年齢 9.75 Gyr に SFR = 0.14 Gyr-1 が、 年齢 8.75 Gyr に SFR = 0.06 Gyr-1 、 最低点の年齢 8.25 Gyr に SFR = 0.015 Gyr-1 と なる。ここに、SFR の積分は1に規格化されている。星形成は 1 Gyr の間 停止する。 星形成の回復 その後 7 Gyr 昔に星形成が回復し、低レベルのまま現在に至る。 |
外側円盤 外側円盤の化学進化は内側円盤と並行して進む。しかし、初期条件が異なる。 外側円盤の星は内側円盤の 2 Gyr 前に、高い α 量と低いメタル量で、 星形成を開始する。 (2 Gyr 後じゃないのか? ) 我々は外側円盤に水素による約3倍の「薄め」をメタル量に必要とする。 標準IMF Kroupa01 IMF は観測結果を良く再現する。サルピータ IMF も似た結果を 示す。 第6章で議論された様々なモデルは皆同じような SFH に辿り着いた。どれも 最初に強い星形成があり、次に中断、その後準線形な時代が現在まで続く。 しかしながら、イールド、 IMF などの変化によっては、フィットが不可能に なる。 |
7.2.1.G-dwarf 問題なしの生活降着モデルの矛盾従来の化学進化モデルは低メタル星の形成を抑えることを目的にしていた。 それは太陽近傍星のメタル量分布(MDF) には低メタル星がそれほど多くは ないからである。1980 年代初期 Chiosi80, Laccy85, Matteucci86, Matteucci89 は、Larson76 の内側から外側への円盤建設説に触発され、長期にわたる降着が 少ない低メタル星を説明するという提案を行った。前章で示した結果は、 太陽近傍では大量の中間メタル量矮星が形成されていて、明らかに矛盾する。 銀河系全体では多数の低メタル星 Bovy12 は厚い円盤のスケール長が以前想定されていたよりずっと短い 1.8 kpc であることを示した。 薄い円盤に対して、スケール高=250pc, スケール長=3kpc, 局所密度=90%, 厚い円盤に対して、スケール高=1kpc, スケール長=1.8kpc, 局所密度=10% と仮定すると、薄い円盤と厚い円盤の質量は共に 50 % となる。 M=σH*exp(Ro/L)∫exp(-r/L)rdr=σH*exp(Ro/L)L2 ∫exp(-x)xdx Mthin=90*0.25*exp(8/3)*32=2914 Mthick=10*1*exp(8/1.8)*1.82=2759 で確かに半々 以前の降着ガスモデルでは厚い円盤の比率は 15 - 25 % 程度であった。 こうして低メタル星不足の問題は純粋に局所的な現象であることが分かった。 低メタル星は実際に多数存在するのである。ただし、それらは大部分が太陽円 の内側に固まっている。銀河系を全体として見ると低メタル星の不足は生じて いない。これは化学進化のかなり早期に太陽組成付近に達することを意味する。 外側円盤 外側円盤には長期にわたり降着ガスが寄与した可能性がある。その上、既に 述べたように、初期メタル量と組成比は内側円盤からの流出ガスと降着ガス の二つにより決められたのかも知れない。降着モデルで外側円盤の進化を記述 できるかも知れない。新しいデータが待たれる。 |
7.2.2.銀河系の恒星質量進化バルジ=早期第2構造図7のベストフィット SFH では銀河系星の 52 % は 9 - 13 Gyr 昔に生ま れた。この数字は前節で構造定数から得た厚い円盤の質量が約半分という話 に合致する。銀河系の早期質量進化に絡んでくるもう一つの成分はバルジで ある。 バルジは小さい Shen10 はバルジ運動学データから MW は純粋の円盤銀河で、バルジはあっ たとしても円盤質量の 10 % 以下だろうと述べた。Kunder12 も同意見。 Ness12 は Argos サーベイからバルジの MDF を分解すると、現れた成分は 厚い円盤と薄い円盤になることを見出した。Di Matteo14 は成分 B は若い 厚い円盤成分だろうとした。彼らはさらにバルジ中に楕円体成分があるとして も 10 % 以下であるとした。これらの研究は MW が存在する環境とも合う。 Kormendy10, Fisher12 は 10 - 12 Mpc 以内で巨大円盤銀河間で支配的なタイ プは純粋円盤銀河か準バルジ付きの円盤銀河であることを見出した。 これらから、MW で早期に形成された主構造は厚い円盤であると考える。 宇宙論から van Dokkum13 は MW の前駆天体はその質量の 50 % を z = 1.5 (9.5Gyr 昔)の時代に集めていたことを見出した。彼らによると、「導かれる SFR は z = 2.5 から 1 の間約 10-15 Mo/yr で一定でその後急速に ≤ 2 Mo/yr の現在値に低下する」のである。 |
化学進化の二要素=降着と星形成率 化学進化の二要素は降着と星形成率である。太陽近傍 MDF (メタル量分布) へのフィットは中間メタル量星形成の抑制を要求する。モデルは降着率を調整 してこの抑制を達成する。つまり希釈が低下するとメタル量は増加する。 ただしこのフィット自体を我々は捨てている。我々のモデルでは、星間ガスの メタル量増加は多数の中間メタル星が形成されて達成される。 厚い円盤を組み込むかどうか ここでの研究結果と過去のモデルとの比較は困難である。特に過去のモデル では厚い円盤が考慮されていない点が問題となる。例えば、Fenner03, Naah06 では厚い円盤がモデルには全く入っていない。降着モデルでは系のメタル量が -0.2 dex に達するまでに形成された星の総量は 10 % 以下である。 厚い円盤の取り扱い例 Chiappini97 は、ハロー・厚い円盤形成期を特性時間 1 Gyr で扱った。しかし、 その性質 [Fe/H]<-1 dex を厚い円盤の観測と比較することは困難である。 Fenner03 は Chiappini97 モデルを修正して、2重降着モデルを提案した。 第1降着はハローを形成し、薄い円盤と性質が似た厚い円盤が第2降着で形成 される。 Micali13 は厚い円盤形成期を考察し、その質量比率を 25 % とした。 |
厚い円盤形成期の長さ 一般に降着モデルでは厚い円盤形成期は比較的短い。Chiappini97,01 は 急速にできる厚い円盤を支持し、Fenner03 は薄い円盤が厚い円盤になった (Wyse01) と考えた。 しかし Haywood13 によれば、データは厚い円盤の形成が 4 - 6 Gyr 続いた ことを示す。 星形成の窪み Chiappini97 の二重降着モデルでは 11 Gyr 昔に星形成活動の窪みがある。 これは我々のモデルで 8 Gyr 昔に生じた窪みと一見似ている。我々のモデル では、内側薄い円盤と厚い円盤の系列の中間での星形成活動の低下として必要 とされ、年齢-[Si/Fe] 関係の鋭い「膝」で鋭い転換を作る。一方 Chiappini97 は [Fe/H] を急激に希釈するために窪みが必要とされる。それはまた、厚い 円盤とハローが形成された後の [Fe/H]-[α/Fe] 関係の下側系列の形成 を許す。こうして、降着モデルでは厚い円盤系列は独立に構築され、その後の 下側系列は連続する進化である。これは、 GHaywood13 データと全く合わない。 と言うのは、外側円盤系列の最初期星は厚い円盤の後期の星と同時期に生まれて いるからである。我々の厚い円盤星はChiappini97 よりずっと後まで生まれ続ける。 |
ガス 銀河系のガスは次の3形態をとる。 1.円盤に存在し、低温で星を形成する HI ガス。 2.ハローの高温ガス 3.銀河系周辺空間にある暖かく高メタルの円盤から放出されたガス。 この第3成分は銀河のミッシングマス=宇宙論からは存在しなければならない が、バリオン質量としては観測されていない分、を説明する。伝統的閉箱モデル ではこの暖かいガス成分は箱の一部とは見なされず、流出成分とされる (Hartwick76, Matteucci83, Prantzos03)。 我々は色々な形態のガスを区別せず、同等に扱う。HI 表面密度を星形成率 決める量として必要としないので、貯蔵ガスは単純に形成されたメタルを希釈 し、いずれかの時期に星を作る要素と扱われる。このように、我々の閉箱からは ガスもメタルも流出しない。ガスの形態の差も無視しているが、異形態間の作 用が殆ど不明なので、他の扱いと較べ特に悪いわけではない。 化学慣性 SFH の特徴が化学進化に及ぼす効果の鋭敏さは二つのモデルで大きく異なる。 従来の降着モデルでは系の変化は化学進化に強く影響する(Colavitti08)。 貯蔵ガス量が小さいのでメタルを希釈する力は弱い。このため、初期のメタル 増加は急激で(以前に述べたように降着が G-dwarf 問題への回答となる)、 かつ星形成の爆発的活動や漏れは化学進化の方向を簡単に変える。一方、我々 のモデルでは、巨大ガス貯蔵があるので、化学進化の方向変更は遅い。なぜな ら、新しいメタルは豊富な星間物質中に希釈されるからである。これは 星形成率の窪みが [Si/Fe] 進化に及ぼす効果を見ると判る。図10にある通り、 星形成の中断が [Si/Fe] 進化に及ぼす影響は小さかった。Ramano10 や Colavitti08 に見られる降着モデルでの類似の中断はずっと大きな効果を及ぼした。 |
パラメターの選択 降着モデル間のパラメター選択には統一解はまだない。IMF で見ると、 Naab06 は Salpeter IMF を、Spotoni14, Micali13 は Scalo86 IMF, Fenner03 は Kroupa93 IMF を採用している。イールドの選択 Romano10, Kobayashi11 も 不確定である。星形成率とガス密度との関係や降着率の時間変化に関しても未だ 統一見解はない。さらに Chiappini97 や Micali13 は厚い円盤、薄い円盤、 ハローで星形成率の定数を変えているがその根拠はないのも問題である。 年齢 多くの GCE モデルは [Fe/H]-[Si/Fe] 関係を再現することのみ を目的 (Romano10) として、年齢は無視している。しかし、図6に 示したように年齢情報がないと、SFH フィットは縮退する。その上、年齢-メ タル量関係は散らばりが大きい。ある年齢に対してメタル量で 1 dex の散ら ばりがある。特に最近になると大きくなる。 |
円盤の SFHs 内側円盤 R < 7 - 8 kpc の SFH は二つの星形成期から成る。第1期は 厚い円盤が形成され、 4 - 5 Gyr 続き、SFR = 10 - 15 Mo/yr まで達した。 その後、星形成は約 1 Gyr 停止する。第2期は現在までの 7 Gyr で薄い円盤 が作られる。太陽近傍の低メタル薄い円盤星の観測から導かれた外側円盤の SFH は同様に低く平坦であるが、開始時期は薄い円盤より 2 - 3 Gyr 早い。 厚い円盤が半分 導かれた SFH から厚い円盤の質量は星全体の約半分であることが分かった。 これはこれまで認識されていなかった発見である。さらに MW の星形成は このクラスの銀河の進化とよく合う Snaith14. |
初めの数 Gyr この研究は銀河系円盤の初めの数 Gyr の進化に新しい見方を導入した。現在 までの化学進化モデルは銀河系円盤の形成を遅い過程として記述してきた。 それは厚い円盤を小要素とみなして G-dwarf 問題を解決した。しかし、厚い 円盤を過小評価している。今回の閉箱モデルは化学進化のゼロ次近似に過ぎない が、降着モデルよりよく最初の数 Gyr を記述する。 |