マゼラン雲の 39 星団で C-型と M-型の AGB 星の数を調べた。星団内と周辺
にあるそのような星 400 個の近赤外測光を行った。データ解析には星団年齢と
相関の強い SWB 分類を用いた。以下の結果を得た。 (1) SWB = 1 から VI に向かって、星団 M-星の J-K カラーは赤くなる。 M-星のカラー分布に二つのピークが存在する。一つは 100 Myr 前、もう一つは 1 Gyr 昔である。LMC バーウェスト領域でも同様のピークが見出されている。 LMC 1Gyr 星団では [Fe/H] の散らばりは 0.2 - 0.3 dex である。これは、 この時期の高メタル化が LMC では一様に進行していたことを意味する。 SWB VII の最高光度星は銀河系球状星団の最高光度星と同じくらいの明るさと カラーを有する。おそらく一つの例外はあるが、SWB VII 星団には明るい AGB 星が存在しない。マゼラン雲の SWB VII 星団は銀河系球状星団と同じくらいの 年齢で、メタル量の幅はファクター10くらいと思われる。 炭素星は SWB IV - VI に存在する。それらは、光度とカラーとから M-型星 と容易に区別される。炭素星の光度関数には年齢とメタル量の影響が明らかで ある。SWB VI 星団の炭素星は、より早期型星団の星に比べ、十分の数等級暗い。 SMC 炭素星は星団でもフィールドでも LMC 炭素星より暗い。 |
星団内炭素星は同じ星団の M-型星より明るい。境界光度は早期型星団ほど
高くなる。そのような境界光度の存在は炭素星形成と進化に対して重要な
条件である。炭素星が見つかる最も若い星団の年齢は 100 Myr である。これは
初期質量 3 - 5 Mo に相当する。 それより若い星団では、最も明るい星は M- 型星である。それらは全星団中で最も明るい星であるが、それでは未発見の 明るい AGB 星の予想光度には達しない。対流オーバーシューティングか、激 しいマスロスは明るい炭素星の不在を説明するのに役立つかも知れない。 オーバーシューティングは SMC において、 ターンオフ 1 Mo という低質量星 に明るい炭素星が見られることの説明になるかも知れない。 中間年齢星団では、総光度の 40 % が C-, M-型 AGB 星の寄与である。 これは Renzini, Buzzoni の予想よりは少し小さい。しかし、炭素星光度関数 が予想より暗い方にずれているので、AGB 星が寄与する割合の高い年齢帯は かなり古い方に動く。もしも星団光から AGB 星成分を除くと、残余光の J-K カラーは SWB IV - V でジャンプする。これはヘリウムコアが縮退から非縮退 へ切り替わる年齢に対応する。 DM(LMC)=18.3, DM(SMC)=18.6 採用。 (18.6 って小さすぎないか? ) |
マゼラン雲星団は、年齢とメタル量が広い範囲に及んでいる上に、その 多くが巨大で星の数が多い。このために、進化の速度が速い晩期巨星を 観測的に調べるのに向いている。 | 我々はマゼラン雲 C-, M-型星の分光サーベイを行ってきた。さらにその すべての赤外測光を完成した。約十年に及んだこれらの観測成果を基に、 今回の研究を行った。 |
2.1.星の選択SWBから星団を選び、眼視で星団直径を決め、大体1分角、その中をメンバー と決めた。4m+赤グリズム+乾板――>スペクトル型 もし、周辺のCMDがあれば、半径を決めるのに使えた。 ファインディングチャートはBlanco/Frogel1990として別に出す。 2.2.赤外観測表1の説明:第1列 星団名 第2列 この論文の星番号 第3列 スペクトル型 第4列 星団半径内にあるか、どうか 第5列 別の星名 第6列 別のスペクトル型 第7列 K (CTIO/CITシステム) 第8列 J-K 第9列 H-K 第10列 Ko 第11列 (J-K)o 第12列 (H-K)o 第13列 mbol Frogel,Pearsom,Cohen 1980 から算出 第14列 観測日 第15列 レファレンス 2.3.赤化Brunet 1975 は LMC を4領域に分割して、それぞれの E(B-V) を与えた。前景 薄い所 グローバル 濃いところ E(B-V) 0.07 0.10 0.12 0.18 星団付近に早期型星があるときはそこからのE(B-V)を使った。 場所別には、LMCの外縁部 E(B-V)=0.07、バーリッジ付近で E(B-V)=0.18、 バー周辺 E(B-V)=0.12、 その他 E(B-V)=0.10 である。 SMCでは47Tucが銀河赤化だけで E(B-V)=0.04、 SMCはLMCの弱いところと同じと仮定してE(B-V)=0.07 |
![]() 図1.表1の星で他の観測があるものについて、(表1−公刊)の分布。 |
![]() 表3.SWB 型と星団の性質の関係 SWB 分類 SWB 分類は LMC 星団を年齢とメタル量の変化に沿って一次元系列に並べる。 我々は、SWBが無いものにはFrenk/Fall1982の図8にvandenBergh1981のUBVを当て はめてSWBを決めた。ただし、NGC361は明るい星がかぶってこの手法が使え なかった。Kron 3 の CMD (Rich, Da Costa,Mould 1984) は UBV 積分カラー からは、タイプ VII 星団と似るがその CMD はタイプ VII 星団の CMD と大き く異なる。それでこの星団は CMD からタイプ VI - VII とした。表1ではカ ッコ内に我々が決めた SWB タイプを載せた。 年齢・メタル量関係 Cohen 1982, Bica, Dottori, Pastoriza 1986 は LMC と SMC はそれぞれ 独自の年齢メタル量関係を持ち、どちらも MW (Twarog 1980) に比べメタル 増加の速度が著しく遅いことを示した。 |
![]() 図2.SWB 型と星団の性質の関係 年齢への採用距離による補正 13/35 星団の年齢は Mould, Da Costa 1988 から採った。年齢決定にはマゼ ラン雲距離が必要で、 Mould 1988 のレビューに従い、DM(LMC) = 18.3, DM(SMC) = 18.6 とした。この値は Mould, Da Costa 1988 が文献から集めた年齢に -0.029 dex の補正を要求する。 (短距離採用なので、光度が下がる。 つまり年齢が上がるのではないか?なぜマイナスの補正? ) 図2にはこれらの年齢と SWB タイプの 関係を示す。年齢決定精度は 0.25 dex で SWB タイプに直すと 0.6 になる。 まあ、分類の精度とも思える。この関係の傾きをよりよく決めるため、Hodge 1983 による若い星団 7 サンプルを加えた。彼の年齢をここで採用した DM(LMC) = 18.3 に合わせるため、0.115 dex 増加させた。 さらに3つの若い星団を距離補正なしに Mateo 1988 から採った。表3には SWB タイプと平均年齢との関係を示す。その年齢に対するターンオフ質量も 与えた。その計算には、各 SWB タイプ毎に Y = 0.25 と、Mould, Da Costa の年齢・メタル量関係を用いた。 |
4.1. J-H, H-K 図炭素星の二色図図3は表1のカラーをプロットしたものである。図は SWB タイプ毎にまと めて示した。M−とC-星は重ならない。C-星への変化は(H-K)o=0.25で急激に起 こる。C―星はSWBタイプに無関係に、共通のはっきりした系列に並ぶ。例外は 非常に赤い炭素星の場合のみである。星団炭素星の系列は、図3の下側直線= LMCフィールドC-星の系列、と一致する。LMCの C 星系列は、星団、フィールド 共に、銀河系系列=上の直線と異なる。この差は Cohen,Frogel,Persson,Elias 1981 ApJ 249,481 によりメタル量に関係するブランケッティング効果として 説明された。SMC 炭素星はさらに大きなずれを示すだろう。 ** Cohen,Frogel,Persson,Elias 1981 の説明 ** 分子吸収は一般に1.6μの吸収極小をなだらかにするように働き、スペクトルを BB的にする。しかし、NIRの吸収が強くなるので、NIR部分でのBBスペクトルは 星全体のスペクトルに比べ低く出る。Teff(occulation)とNIRのTcolorの差 は400Kに上る(Walker1980)。 ![]() |
下の図(
Cohen,Frogel,Persson,Elias 1981
)
では、[C2]=log10[N(C2)/N(C2)o] =3.4, 4.2, Teff=3500, 3000K
についてカラーを計算し、観測値と比べている。炭素星のNIRカラーは分子ブラ
ンケッティングの効果で赤くなっていることが判る。分子の存在量はN(C)とTeff
の双方に依存する。Cは内部で作る。Nはメタル量に依る。CN/C2はメタル量が
低いと小さい。Price1970 の太陽存在比でのラインブランケッティング計算に
よると、JバンドではCNの吸収の割合がH,Kバンドより高い。CNはJバンドでは
0.1 等程度吸収に寄与している。したがって、メタルが減るとCNが減り、Jが
明るくなっていく。このため、H-Kは変わらず、J-Hが青くなる。
M-星の二色図 LMC星団のM星も二色図で系列に随い、太陽近傍M型星と球状星団M型星との中間を通る。 SWB早期M星は太陽近傍ラインに近く、SWB晩期M星は球状星団近くに寄る。 このようなメタル効果はFrogel/Whitford1987のバルジ星の研究からも予期される。 しかし、原因となる吸収が具体的に何かは同定されていない。 (J-H)o=0.6, (H-K)o=0.2にあるのはM矮星だろう。 4.2. HR 図追加星団図4にはmbol対(J-K)oをプロットした。グループ分けは図3と同じである。 TypeVIIは分けて表示した。NGC121, 1841, 2257 を Frogel, Cohen 1982 と AMMA i, II から取った。SMCは0.3等明るくしてLMCと比べやすくした。 異常に赤いNGC1978, NGC2121 中の2星は図からはみ出た。 HR図の特徴 1.炭素星は M星とはっきり区別される。例外1星以外、C星はタイプIV,V,VIに限定される。 タイプVIのC星は少し暗い。タイプVII(あるのか?)のC星はかなり暗い。 2.VIIを除くと、M星は若いSWBほど青いAGBに沿う。I,II,IIIとIV,V,VI間には明瞭な差がある。 若い星団ほど到達光度が明るい。 3.若い星団では最も明るい星はM星。 4.VIIでは銀河系球状星団のT-RGBを超える星は一つしかない。 |
4.3.CO、H2O 指数![]() 図5.表3から採った CO, H2O 指数。MW C-, M-星も示す。 炭素星の H2O 指数 マゼラン雲星団の CO, H2O 指数はマゼラン雲フィールド星に 並行して分布する。特に炭素星の H2O 指数は MW 炭素星で同じ カラーを持つものと同じになる。炭素星に H2O はないので、この 指数は単にスペクトル勾配を示すものである。 炭素星の CO 指数 CO 指数は、同じカラーの MW 炭素星と比べると、マゼラン雲の方が系統的 に0.05 - 0.10 mag 小さい。 Cohen,Frogel,Persson,Elias 1981 はその原因を マゼラン雲では低メタルのために CO バンドが弱くなるからであると考えた。 同じ説明は JHK カラーの差を説明する際にも使われた。もう一つ注意して おきたいのは、図5で赤すぎてはみ出た二つの炭素星の位置が Cohen,Frogel,Persson,Elias 1981 のフィールド炭素星の最も赤い星と同じ位置にあることである。 |
![]() 図6.図5と同じだが、所属星団の SWB タイプを示す。 CO 指数 図6は図5と同じだが表示を変えた。図中の数字は SWB タイプである。平均 すると M-星の CO 指数は銀河系星のラインで良く表現される。 Cohen,Frogel,Persson,Elias 1981 の図4で示されたように、マゼラン雲フィー ルド M-星は銀河系より上にある。しかし、前者はまたマゼラン雲星団 M-星より も系統的に赤い。それらがバーウェストから最も晩期型の星を選択したからで ある。このようなわけで、CO 指数に関してはどんな結論も出せない。 光度とメタル量の効果が分離しない 図6の星団 M-星を調べると、J-K のどの区間でも、CO 指数が最大の星は最も 明るい星ではない。しかし、SWBタイプが早期なほど CO 指数は大きいようだ。 メタル量と SWB タイプとの関係が原因かも知れない。 H2O 指数は同じカラーで比べると、SWBタイプと強い相関がある。 しかし、現在のデータからは、 H2O 指数への光度とメタル量効果を 分離することはできない。 |
メンバーシップ 今回のサーベイの過程で見つかった最も赤い炭素星は表1の他の星からはっきり と分離している。NGC 419-10 は表1の星団半径のすぐ外にある。そのような星が 見出される割合を考えると、この星は多分星団星である。NGC 2108-19 は星団 中心から 5'離れている。したがって、この星は非星団星とするのが妥当であろう。 NGC 2121-5 の2回の観測はこの星が LPV である可能性を示す。NGC 1978 IR1 の発見は偶然であった。この星は我々のサーベイで最も赤く、星の導入 TV には 見えたことがない。V = 19 より暗い。この星は大きな変光を示す。 |
変光とカラー 表2に示すようにこれらの星は全て大きな K-L を持ち、星周ダストの存在を 示唆する。星周ダストはまた、赤い JHK カラーの原因でもある。光度の点ではこれら の星は残りの星から飛びぬけて大きいわけではない。LPVSs は non-LPV に比べ 赤い。 |
5.1.M-星カラーと星団年齢M-星のカラーと SWB タイプ図4を見ると、星団 M-星のカラーが SWB タイプと共に赤くなっていくことが 分かる。タイプ IV-VI ではこの変化は小さい。一方、I-III と IV-VI 間では カラーの差が大きい。SWB VII 星団の星はこの傾向に従わない。 図4上で M-型星の位置を表すために、タイプ I-III を他と分ける基準線を 図4に引いた。各星からこの線までの垂直距離を X とした。図7には、X の 分布を示す。下枠はバーウェストのフィールド星を示す。どちらも X = 0.2 にピークを、X < 0 により小さいピークを持つ。この分布に基づき、 Frogel, Blanco (1983) はバーウェスト領域において二つの大きな星形成活動、一つは数十億年前、 もう一つは数億年前、があったと主張した。図7は星団分布にも同様の二つの ピークが存在するという説に合う。x正のピークは星団とフィールドで似ている。 SWB サンプルの負xピークは若い星団を好んでサンプルに選んだ効果で強め られている。 Wood, Bessell, Paltoglou (1985) は LMC バーの他の領域でセファイドと LPVs の研究から星形成に二つのピークが あったと述べている。Chiosi et al 1986 は星団の年齢分布に基づき、LMC では 4 Gyr 以前に大きな星形成が起きたとした。もっともその後、Chiosi, Bertelli, Bressan 1988 は星団カラーの解析から、「LMC 星形成率に強い不連続があった という強力な証拠はない」とも述べている。ただし、同時にそう述べる証拠は 十分ではないとも付け加えている。 タイプ VII 星団 図4におけるタイプ VII 星団の位置は、非常な昔にもまた星団形成が起きたことを 示す。この時期は多数のフィールド RR Lyr 星が出来た時期と一致するだろう。 そのような古い恒星種族は両銀河の 6 % を占める。この値は銀河系で太陽円内 の総質量に対するハローの比にほぼ等しい Frogel 84. また、 NGC 121 の一つの星を例外として、タイプ VII 星団の最大光度星は、 Frogel, Cohen, Persson 1983 が銀河系球状星団の最大光度星で見出したの と同じく TRGB 光度に非常に近い。図4の NGC 1841 [M/H]=-2.3 Cohen 1982 は M 92 と直接比べられるし、 NGC 2257 [M/H]=-1.4 は M3 と直接比較が 可能である。このようにタイプ VII 星団は銀河系球状星団のマゼラン版と考え てよい。それらは老齢のため伸長 AGB を持てないのである。これは、 Mould, Aaronson (1982) が LMC 球状星団は銀河系球状星団に比べ 3 Gyr 若いらしいと述べていることに 真っ向から対立する。彼らは DM(LMC) = 18.7, DM(SMC) = 19.3 を採用していた。 これは、現在使われている値より 0.4 mag 大きい。つまり、ここでは DM(LMC)=18.3, DM(SMC)=18.6 採用。 (18.6 って小さすぎないか? ) 図4で、VII 星団の星の分布は銀河球状星団の様々なメタル量の経路にまたがって いる。これは、星団の個々の星で決めたメタル量分布と合う。 |
![]() 図7.上:星団 M-星の図4における直線からの垂直距離 x の分布。 下:バーウェストにおける x の分布。x >0 = 星が区分線の右下にある。 |
![]() 図8.LMC 星団の巨星枝 K = 12.8 のところの J-K カラーと星団 [Fe/H] との 関係。値は表4から。"globular" とあるラインは銀河系球状星団に対する関係。 値は Frogel, Cohen, Persson 1983 から。他のラインは Sweigert, Gross 1978 の進化経路を用いた、幾つかの星質量に対する理論的な関係。銀河系球状星団 では 0.7 Mo を仮定した。 (観測値ではない? ) |
![]() 図9.LMC 星団の巨星枝 K = 12.8 のところの J-K カラーと星団年齢 との 関係。値は表4から。この等級は Frogel, Cohen, Persson 1983 が銀河系 球状星団を並べるのに使用した値である。 |
年齢と組成の相関を再調査 与えられた K 等級で見ると、 Frogel, Cohen, Persson 1983 が示すように、 高メタル球状星団ほど J-K カラーが赤いという相関がある。LMC/SMC 星団でも 同じ年齢群の星団同士では、高メタルな星団ほど赤いという傾向が期待される。 しかし、サンプルの年齢幅が大きいので、メタル効果は年齢効果=若い星団は 青い、により覆い隠されてしまう。SWB の解析は星団年齢と元素組成に1対1 対応があることを示している。我々のデータは星団 M-型星は SWB 早期タイプ ほど青いことを示している。最近では、デジタルデータにより、マゼラン雲星 団の CMD が得られ、多くの星団で年齢決定精度が上がっている。 Mould, Da Costa (1988) そこで、新しく年齢と組成の相関を再調査した。 赤色巨星枝カラー LMC 各星団の K = 12.8 (SMC では K = 13.1) の高さでの赤色巨星枝の (J-K) を表4に示す。これは銀河系球状星団の赤色巨星枝カラーを MK = -5.5 で定義した Frogel, Cohen, Persson 1983 に倣ったものである。 (DM = 18.3 で決めているが、DM = 18.5 になると、MK = -5.7 でのカラーということに変わる。 ) K = 12.8 で赤色巨星の数が不足する星団のために K = 12.0 での J-K も補助 に載せた。精度が低い数値または外挿値は括弧で括った。 新しい年齢とメタル量 新しい年齢とメタル量は CMD の等時線フィット及び個々星の分光解析 Mould, Da Costa (1988), Hodge (1983) から採り、積分測光値に基づく年齢は使わない。図8と図9は、 それぞれが星団の (J-K) カラーと年齢、カラーとメタル量との関係を示す。 図8では、MK=-5.5 の高さでの (J-K) と Frogel, Cohen, Persson 1983 からの球状星団 [Fe/H] との関係を示す。この図には、Sweigert, Gross 1978 のモデル計算から採った、より高質量の星に対する予想値がプロットされ ている。計算には Cohen, Frogel, Persson 1978 の有効温度較正が用いられた。 球状星団の星は 0.7 Mo と仮定した。 巨星枝カラー:赤くなり次に青くなる 図4に見えた、若い星団から中間年齢星団へと進むにつれ星団巨星枝が赤くなる という効果を、図9で定量化した。図9では、年齢がさらに進むと今度は青くな る現象が確認される。初めの年齢と共に赤くなる現象は年齢効果がメタル効果を 圧倒するためと解釈される。一方、非常に高齢の星団では、年齢効果よりメタル 効果が効いて、巨星枝が青くなるのである。巨星枝のカラーが変化する影響は 星団積分カラーにも影響する。図8はこのカラー変化が理論的にも予測されること を示している。高メタル星団=若い星団のメタル量に対する (J-K) 勾配は非常 に緩いので、年齢の増加=ターンオフ質量低下による効果がメタル量効果を上 回るので、赤くなる。一方、とても高齢の星団ではメタル効果が年齢効果より 強く、巨星枝は年齢と共に青くなる。 |
![]() 図10.から採った LMC バーウェスト ( Frogel, Blanco (1983) ) 及び星団(表1)の M 型星 HR-図。 t = [1, 2,5] Gyr でメタル量一定? 幾つかの LMC 星団の年齢は [1.0, 2.5] Gyr に分布する。このグループの 星団では K = 12.9 の巨星枝カラーの散布度は ±0.02 と小さい。図9 を見よ。この散布度は測定誤差で完全に説明可能である。表3を見ると、これ らの星団の [Fe/H] は 0.5dex の範囲内になるが、これは [Fe/H] 決定精度が 0.2 - 0.3dex であることを考慮すると、[Fe/H] 一定と矛盾しない。 |
Frogel, Cohen (1982) の時よりずっと大きなサンプルが使えるので、フィールドには星団サンプルに は存在しない赤くて明るい M-星があることが確実になった。図10は星団の M-星全体と、LMC バーウェスト領域のフィールド M-星の CMD を比較した。 参考線の左側にある星団星はタイプ I - II 星団の星である。フィールド星は (J-K) > 1.05, mbol < 14.0 に超過がある。図11にそれを もっと定量的に表現した。赤く明るい星のフィールドにおける超過は、 フィールドには高いメタル量のために炭素星に転換できない明るくて赤い星の 割合が高いことを示唆する。それらの星の起源に関し、さらに研究が必要である。 |
![]() 図11.上:タイプ I - III 星団を除く、全星団サンプルの星の光度関数。 下:図10を作るのに使った、バーウェストフィールドのM-星。 |
全炭素星の光度関数 表5は様々なグループの炭素星光度関数を示す。SMC サンプルは 0.3 mag 上げた。図12は星団を三つに分けて作った炭素星光度関数を示す。図13は 星団の全炭素星と、表1にある非星団の全炭素星の光度関数を示す。スチュー デントテストは、SWB V-VI と VI 星団の間では光度関数の差が 99 % レベル 信頼度で有意である。これは図12を見たときの感覚と一致する。より早期に なるとサンプル数が検定に不足である。フィールド光度関数は図12の3グル ープからの炭素星の重ね合わせで作られているように見える。最後に非星団 炭素星光度関数を様々なタイプの星団近傍で作ったが、各銀河内では見分けが つかなかった。 それに対し、タイプ I - III 周辺の M 星はより晩期の星団周辺と比べ、青く て明るい M-星の割合が高い。 LMC と SMC とで明るさに差? LMC と SMC とでは、炭素星光度関数に差がある。LMC の方が星団、非星団の どちらも SMC より明るい。ただし、距離不確実さが問題である。 SMC と LMC の差 タイプ V 星団の炭素星の方がタイプ VI より明るいことは、炭素星に年齢・ 光度関係を示唆する。SMC 炭素星が LMC 炭素星より暗いことは、SMC 炭素星の方が高齢なためかも知れない。同じ年齢でも低メタルの SMC 炭素星 の方が暗い可能性もある。SMC に晩期型星団が多いことは炭素星平均光度を引 き下げる要因である。しかし、同じ SWB タイプ間で比べても SMC の方が暗い。 |
![]() 図12.表1から採った星団炭素星の見かけ輻射等級の光度関数。SMC 星は 0.3 等明るくした。星団は SWB タイプに応して3グループに分けた。 |
7.1.転移光度光度分布の変化図14は表1にある輻射等級の分布を示す。炭素星と非炭素星は表示を変え た。 V-VI のような境界タイプは 0.5 のサブクラスを付けた。 SMC 星は 0.3 mag 明るくした。図の特徴は、 (1) 光度上限はタイプが小さくなると上昇する。これは Aaronson, Mould (1982) が述べた AGB 光度と年齢の関係を反映している。 (2) 光度分布下限も同様の傾向を示す。しかし、これはサーベイ方法の技術的 な選択が関係している。 (3) 炭素星と M-星との転換光度が存在する。 NGC 1873 はモデル星団 NGC 1873 は Bessell, Wood, Lloyd Evans 1983 や Mould et al 1989 の分光 観測から、M-星から炭素星への転換がきれいに示されたモデル星団である。この 星団では M-星の単調な光度上昇の後に S-型星が続き、最後に炭素星が現れる系 列がきれいに示される。星団の星数が少ないとこの系列が乱れる。 転換光度の決定法 各SWB クラスごとに次の方法で転換光度を決める。暗い方から4つの炭素星 を選び、その中間等級を計算する。明るい M-星も同じように上4つの中間等級 を計算する。その平均値を転換等級と定める。 |
7.2.SWB タイプと炭素星の存在タイプ VII に炭素星があるのは SMC だけ炭素星を含む最も SWB 晩期型星団は Kron 3 (VI-VII), NGC 121 (VII), NGC 339 (VII) で、どれも SMC に属する。 LMC の SWB VII タイプで炭素星 が存在する星団はない。銀河系球状星団は全てタイプ VII であるが、それら にも炭素星はない。そのような古い星団の進化した星は 0.8 Mo で、小質量の 外層が付いている。長周期変光星を除くと、これらの星はヘリウムコアフラッ シュ光度を大きく超えることはない。これらの星は多分熱パルスを開始できない。 第3ドレッジアップ? Mould, Da Costa (1988), によると、 Kron 3 は銀河系球状星団よりかなり若く、その赤色巨星質量は 1.0 Mo である。これなら、熱パルスを引き起こすには十分な外層質量を持 てる。 Stryker, Da Costa, Mould (1985) は NGC 121 もまたかなり若いという結論を得た。表1の測光を見ると、NGC 121 と NGC 339 に属する炭素星はヘリウムコアフラッシュ光度よりかなり低 い。このような炭素星の形成には第3ドレッジアップとは別のメカニズムが 必要かも知れない。NGC339-G151 は NGC 339 の明るい炭素星かも知れないが、 ここで採用した厳しいメンバー基準からは外れる。 タイプ I - III SWB I, II, III 星団にも炭素星は少ない。炭素星が含まれるのは、NGC 1850 (II) と NGC 2209 (III-IV) である。 |
若い星団(I, II, III)で最も明るい星は常に M-型星なのは何故だろう?図
14を見ると、最も明るい炭素星は mbol = 13.0 である。ところ
が、最も明るい M-型星= NGC 299 star5 は mbol = 12.1 である。
SWB 早期型星団には、この二つの中間の光度を持つ星がいくつかある。特に
興味深いのは NGC 1866 で、Renzini, Voli 1981 によると、TPAGB 星が少なく
とも 10 個はあるはずなのに、炭素星が一つも見つかっていない。その理由として、 |
(1)HBB で12C が燃やされる。
(2)マスロスが速くて、C が O を上回る時間がない。 (3)非縮退状態で炭素核に火がつく最小星質量が 5 - 6 Mo と低い。 |
![]() 図15.星団光度に占める AGB 星光度の割合と SWB タイプの関係。 点線=観測。破線= Renzini, Bussoni 1986 のモデル予想で、RGB からの寄与 25%を引いてある。SWB クラスと年齢の関係はっ表3に載せた。 モデル予想 Renzini, Buzzoni 1986 は、彼らが名付けた SSP = simple stellar population のスペクトル進化を理論的に調べた。星団は SSP のよい見本と考えられる。 理論モデルの予想と観測を比較する際に、まず必要となる量の一つは、星団の 星の異なる進化段階のそれぞれが星団総光度にどの程度寄与するかである。 7.4.1.AGB 星からの総光度への寄与TRGB 等級 TRGB の光度はメタル量による変化が小さく、Frogel, Cohen, Persson 1983 は それを Mbol = -3.6 と定めた。これより明るい AGB 星を「明るい AGB 星」と 呼ぶ。今回のサーベイはその境界より十分の数等下まで完全である。 AGB 星の総光度 表1の星団の大部分は Persson, Aaronson, Cohen, Frogel, Matthews (1983) により赤外積分等級が測られている。我々はその最大測光アパーチャの中に、 表1の星が含まれているかどうかを判定し、それらの星の総フラックスを計算し た。それらの値は表4に載せた。 極小は実在する? 図15と16にその結果を示す。クラス VII では明るい AGB 星の寄与は 殆どない。AGB 星が大きな成分となるのはクラス IV, V, VI である。IV より 早期では AGB 星の重みは急落する。その先でまた AGB 星の寄与が増加する のであるが、中間に見える極小部が実在するかどうか、はっきりしない。 タイプ I には M 型超巨星が現れる可能性がある。 炭素星の存在範囲 図17は、図14と同じく、炭素星が IV - VI にのみ存在することを示す。 NGC 2209 は、タイプ III-VI 星団で炭素星を含む唯一の小さな星団で、明るい 炭素星が二つある。それらだけで星団の光度の大部分を占めるが、上のアパー チャ基準では一つしか含まれない。 |
![]() 図16.マゼラン雲星団の光度に占める炭素星の割合と SWB クラスの関係。 モデルで 25 % 引きのわけ Renzini, Buzzoni 1986 の図4を用いて、モデル予想線を図15に描き入れた。 モデルは Y=0.28, Z=0.02, η=1/3 で、 LMC 星団のパラメターとは異なるが その影響は小さいだろう。年齢と SWB タイプとの関係は図2,3から採った。 我々の観測値は TRGB より明るい AGB 星を対象としているので、モデルの方でも それと合わせるため、 25 % 下げてある。 第1の相転移 モデルと観測との間で最も大きな差は、AGB 星の寄与が大きい期間の長さで ある。Renzini, Bussoni 1986 に依れば、AGB 星の寄与は Mto = 9 Mo に対応 する年齢から先で重要になる。Renzini, Buzzoni の用語では「相転移」を起こ す、つまりそれより大きな星では縮退炭素核を持たず、AGB 星に進化しない。 それより低質量の星は縮退炭素核を持ち、ヘリウムと水素がシェル燃焼する。 我々の観測は、SWB II-III より晩期型になって初めて AGB 星の寄与が大きく なることを示す。それらの星団, NGC1850(II), NGC1854(II), NGC2214(II) に はセファイドが含まれていて、これらの星団の年齢が 100 Myr の程度で、Mto = 3 - 5 Mo であることは確実である。つまり、AGB 星になる最大質量は我々の 観測では 3 - 5 Mo なのである。次に、大きな星団 NGC1866(III) は炭素星を 含まず、M-型 AGB 星が総光度の 6 % しか寄与しない点で特異である。この SWB タイプでは、表3や図15から分かるように、総光度の 40 % が明るい AGB 星からの寄与となる。 (表1には C-星が載っているが。図15 を見ると AGB 寄与率はタイプ 3.5 から 3 へ急落する。 ) 第2の相転移 Mto < 1.7 Mo (SWBV-VI) では第2の相転移が起き、AGB の寄与が低下す る。この第2相転移は十分の数太陽質量の巾内で生じる。そこでは第1赤色巨 星枝に乗っているヘリウム核を持つ星が重要となる。図15はこの AGB 星の 比重低下が起きるのは SWB VI より後になることを示す。言い換えると、明るい AGB 星は理論の予測より低いターンオフ質量からも形成されている。こうして 理論と観測との差はいわゆる「炭素星問題」を形成する:理論が予想する明るい 炭素星が存在せず、逆に予想しない暗い炭素星が存在するのか? 理論の改訂? 理論モデルを観測に合わせるためには、いくつかの案が考えられる。 (1)対流オーバーシューティング (2)マスロス |
![]() 図17.明るい AGB 星を除いた後のマゼラン雲星団の (J-H)-(H-K) 図。 "M31 clusters" のラベルは Frogel,Persson, Cohen 1980 の観測。 |
![]() 図18.明るい AGB 星を除いた後の J-K カラーと SWB タイプとの関係。 |
1.H-R 図上の星団 AGBs 星団 AGBs は H-R 図上に順序良く次のように並ぶ。 (i) 高齢星団(VII) 炭素星や明るい AGB 星を含まない。そのカラーと等級は 銀河系球状星団と重なり、メタル量は M92 と M3 の間に分布する。とりわけ 印象的なことは、その TRGB 光度がカラーの関数としてマゼラン雲と銀河系 で同じであることだ。 (どこにあったかな? ) (ii) 中間年齢星団(V, VI) は年齢幅 2.5 Gyr で、AGB M-星と炭素星を含む。 炭素星はサンプル内で最も赤い天体である。いっぽう、このグループの M-星 は M-星の中ではもっとも赤い。このグループの AGB M-星を観測される狭い カラー範囲に押し込めるには、このグループの [Fe/H] の巾が 0.5 dex、 本当はもっと小さい 0.2 dex かも知れない、の必要がある。 (iii) 若い星団 (I, II, III) は高質量星の Hayashi tracks に対応して、 最も青い巨星枝を持つ。炭素星がある例は少ない。M-星はサンプル中で最も 明るく、中心核ヘリウム燃焼星であるには明るすぎる。それらの星は AGB 星 である可能性が高い。 2.M-星の双峰性分布 ある方向から投射すると、LMC 星団の M-星は双峰性の分布に見える。これは、 Frogel, Blanco (1983) が LMC のフィールド M-型星に対して見出した傾向と一致する。二つの峰は 二つの星形成活動の結果かも知れない。そしてそれは 1.(i) と 1,(ii) の星団 グループに対応するのかもしれない。しかし、 Elson, Fall (1988) は LMC に大規模な星形成活動期の証拠は見つからなかったと述べている。 3.M- から C-星への転換光度 同一星団内に M-, C- 星が存在する場合、最も暗い C-星は最も明るい M-星 よりも明るい。その転換光度は SWB タイプが下がるにつれ上がっていく。図 19には、表3から出したターンオフ質量と転換光度の関係を示す。 最近の Lattanzio 1989 モデル計算との一致は良い。以前の Renzini, Voli 1981 の計算では、転換光度が明るすぎた。 4.SMC の転換光度は暗い 同じ SWB タイプに対し、SMC の転換光度は LMC より 0.4 等低い。 その原因が、同じ SWB タイプでも年齢が異なるためか、それともメタル量の せいか、はっきり分からない。 5.光度関数の差 転換光度の差は光度関数の差に反映される。SMC の炭素星光度関数は星団で もフィールドでも LMC より暗い。この差は距離不定性の効果より大きい。 6.明るい炭素星の欠如 星団には Mbol < -6 の AGB 星がモデル予想より少ない。これはフィールド でも同様である。 |
![]() 図19.SWB II から VII における M-星から炭素星への転換光度。黒丸=表3 から採った値。プラス印= Lattanzio 1989 のモデル。実線(Z=0.02), 破線( Z=0.004), 一点破線(Z=0.001) は Renzini, Voli 1981 のモデル。 7.AGB 星の上限は 6 Mo? 明るい星の欠如は炭素星に限らず、M-星でも同様である。現在考えられる 説明は、予想より大きなマスロス及び、M > 6 Mo の星で対流オーバーシュ ーティングが炭素核に早目の着火を促したというものである。 8.若い星団星の最大光度は? オーバーシューティング説の検証には (i) ターンオフ質量が 6 Mo 以上の星団で PT-AGB 星を観測する。 (ii) そのような星団で、mbol(LMC) < 12 の星を観測する。 Bertelli, Bressan, Chiosi 1985, Bertelli, Chiosi, Bertela 1989 によると、 炭素着火は mbol(LMC) = 11.8 で Mi = 9 Mo の星で起きる (対流オーバーシューティングなし)だが、それがオーバーシューティングあ りだと、mbol(LMC) = 12.0 で Mi = 5 - 6 Mo の星で起きる。 SWB = I - III の星団での最も明るい星の研究がさらに必要である。 9.相転移 AGB 星の効果を補正したのちの星団積分カラーには SWB IV-V で不連続ジ ャンプが現れる。これは、オーバーシューティングなしの場合 2 - 2.7 Mo, ありの場合 1.7 Mo でヘリウム着火の環境が変わるためである。 |