アブストラクトマゼラン雲球状星団の写真NIR探査による上部 AGB 星の観測結果を報告する。 80 星の JHK 測光を行い、以前の観測結果と合わせて Mv < -7 の星団 のほぼ完全な年齢推定を行った。LMC 星団の年齢分布は 4 Gyr に鋭いピーク を持つ。これは SMC と違う。これは星団の光度進化の結果かも知れなくて、 星形成率一定のモデルは必ずしも除去できない。星団系には明らかな年齢・ メタル量関係が存在する。ただし、その関係の周りの分散は幾分不確かである。1.イントロAGB 先端等級と年齢論文 I, II で示したように、年齢 0.1 - 10 Gyr では星団上部 AGB の 光度は年齢に沿って単調に変化する。したがって、この AGB の伸長を恒星 進化モデルと組み合わせて星団年齢の推定に用いることができる。一方で 主系列ターンオフが得られるようになってきたのでモデルによらず観測的にも AGB 先端等級の較正が出来る。 上部AGB星の完全測光 このシリーズの目標は積分等級 -7 等までの星団の上部 AGB を完全測光 サーベイすることである。この論文では最新の写真探査と測光結果を 報告する。 |
II. 写真van den Bergh 1981 のカタログ掲載の B-V > 0.35, Mv < -7 星団で5個を残して全て撮像できた。表1は今回撮った星団のリストである。 それらの写真は図1に示されている。![]() 表1.今回の観測星団 |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
測光色等級図 測光は CTIO4m/InSb で 1981 年 10 月 12-15 日に行われた。必要な場合 アパーチャ径は 3".6 まで小さくした。表2は 25 星団内の 78 星の JHK 測光結果である。測光システムは Frogel et al 1978 を使用。図2にそれらの 色等級図を示す。10星は以前に測られていたが、今回との差の rms は K で 0.07, J-K で 0.10, H-H で 0.04 であった。これは論文 II で述べた、「星団 AGB 星は赤外では僅かしか変光しない」という主張を裏付けている。 JHK 図の長い赤い尾は炭素星で占められている。従って、「測光的炭素星」 は論文 II での様に同定され得て、表2では括弧で示された。これにより、 新しく炭素星を含む星団を3つ、Lindsay 11, NGC 1953, NGC 2121, 増やした。 NGC 2134 の炭素星は裁断半径の外にあるのでここには含めない。 変換点付近の星 これら測光炭素星の分光的確認は非常に重要である。これは変換点 近くの星(表2では疑問符が付いている)に対しては特に重要である。その辺り で Bessell, Wood, Lloyd-Evans 1982 は MS 星を見つけた。 赤い星 測光炭素星の中で最も赤いのは NGC 419-LE16 である。論文II で述べた通り、 もし NGC 419 をサンプルから除くと、 SMC 炭素星は JHK 図では青い領域を 占める。ただ、 Cohen et al 1981 は我々のサンプルの大きさが小さ過ぎると 注意している。しかし、明るくて赤い炭素星を含む LMC 星団が 4× 109 yr の年齢分布ピークに存在するのに対し、そのようなピークは SMC には存在しないことを考えると我々の結論は正しいと思う。図2は同じ H-K で比べると SMC 炭素星は J-H が少し青いという Cohen et al 1981 の 指摘を確認しているようだ。CN ブランケッティングが J, K で強い事を考慮 し、N 存在量が SMC の方が小さいすると、(SMC では J-H が青くなり、H-K が 赤くなるから)理解できる。 |
![]() 図2.表2からの二色図。黒印=LMC,白印=SMC。 四角=分光炭素星。三角=分光 M 型星。丸=分光分類なし。 折れ線=銀河系 K-, M-型星。 直線= Cohen et al 1981 による銀河系炭素星。 右下挿入は拡大図。 マスロス星も入れた図が見たいな。 特にマスロスM型星は炭素星の赤い領域に入らないのか? |
青い前景星? 輻射等級と有効温度の決定は Aaronson, Mould 1982 の論文 II で述べられ、表2の右に載せてある。 図3はその結果である。明らかにこれらの星は第1赤色巨星枝の上に位置 する上部 AGB 星である。図3には Te > 5000 K の星が4つある。前景星 かも知れない。 新しい中間年齢星団 拡大 AGB (Mbol < -4.25, t < 8 Gyr)の上部 AGB 星 を含む事 が今回初めて確認された星団が多数ある。それらは SMC では Lindsay 11, 27, LMC では NGC 1872, 1953, 2121, 2134 である。 SMC AGB 位置が青い SMC 赤色巨星枝は最低メタル量球状星団の延長となっているように見える。 ところが LMC 星団の分布はより高メタル星団の側に分布している。赤外色等 級図上では年齢が巨星枝位置に及ぼす効果が非常に弱いので、二つの銀河の差 はおそらくは SMC の平均メタル量が低いためであろう。 各星団は分離したラインになるのか、 それとももつれ合って分離できないのか?下の方までないと分からない。 赤い方でも Mbol一定にはならないようだ。年齢分離は無理なのか? |
![]() 図3.表2から採った色等級図。(a) SMC,(b) LMC。 |
AGB 伸長と年齢 第1赤色巨星枝先端からどのくらい上まで AGB が伸びるかは 星団年齢の目安になる。この効果を較正する際の重要な仮定は、 マスロスが LR/M に比例する (Reimers 1975) というものである。 第1巨星枝上でのマスロス率の組成依存性に関しては Renzini 1978 (in Stars and Star Systems ed. Westerlund, Reidel)により 強い制限がかけられた。 年齢較正 Aaronson, Mould 1982 ではそのような較正が行われた。表3に、その後に 検出した数値エラーを手直した結果をまとめている。この結果は Z = 10 -3 (この値による変化は比較的小さい)、マスロスパラメター η = 0.45 の組み合わせに対する結果である。 η の値は 球状星団 t = 16 Gyr で Mbol, f = -3.5 となるように 取ったものである。論文 II との差は 1 - 8 Gyr で 0.3 等になる。 η = 1/3 を使えば Iben,Renzini 1982 と 0.1 等の差で同じ結果 を得るが、その場合球状星団の第1巨星枝に合わない。 年齢較正の結果 表4には星団 AGB 先端に関する観測結果をまとめた。8星団では 近赤外観測が欠けているために表から漏れた。内4個はおそらく上部 AGB を欠いている。 ![]() 表3.年齢の較正結果 |
SWB 分類と年齢との関係 表4第7列の年齢は SWB 分類と年齢との関係を出すのに役立つかも知れない。 6つのタイプ V 星団は平均年齢= 2.5 Gyr である。論文 II で述べられてい るように年齢恒星の系統誤差を 0.2 dex とすると、Rabin 1982 がタイプ V 星団 の積分分光から年齢として得た 3 - 6.5 Gyr と割り合い良く合う。この結果は Cohen 1982 の 3 Gyr とも合う。ただしそれ以外のタイプに関してはサンプル数 が不足していてはっきりした結論は出せない。 ![]() 表4. 第3列:Vt = 総V等級。 第4列:Mbol, m = AGB 先端星の光度。 第5列:対応する年齢(Gyr)の上限値。"old?" は Mbol, m > -4.0 なのだが、Mvt > -7 なので上部 AGB 星を欠くのは偶然かも知れないからである。 第6、7列: 8星団では論文 II の手法で統計的に真の先端光度を 推定できた。その値と対応する年齢。 |
表4は星団形成史を表わすのか? 図4は観測された AGB 先端光度の分布。表3を用いた年齢目盛りも付けた。 そのまま見ると星団形成率の変化を表わしているようである。不適切な結論 を導かないよう、次の点に注意する。 (1)データは観測値 Mbol, m で区切られている。これは 年齢較正に使う Mbol, f より暗い。その差はストカスティック である。Mv < -7 の星団ではその差は1ビン以内である。 (2)星団光度は時間と共に暗くなる。等級リミッテッドなサンプリングを 行っていると若い星団ほど観測対象となりやすい。 (3)潮汐破壊の効果が不明瞭である。 早急な結論は慎むべきだが、図4の強いピーク、Mbol, m = -5.25 は Butcher 1977 が LMC 主系列光度関数から提唱した大規模星形成の開始 を反映しているのかも知れない。それとも、Gerald et al 1980 が言う 矮小銀河の爆発的星形成なのだろうか? より慎重な見方 より保守的な立場からは、現在のデータが星団形成率一定という仮説 と適合するのかという問いを設定できる。これに答えるため以下の仮定で 簡単なモデルを作った。 (1) Tinsley 1972 による星団の進化。 (2)星団の初期質量関数はべき乗型。 ![]() 図4.観測された AGB 先端光度の分布。上=LMC 星団。下= SMC 星団。 ヒストグラムの色分けは星団光度の区分。 |
(3)この初期関数の高光度カットオフ Mv,min(t) 過去数 Gyr NGC 121 ほど明るい星団が生まれていない (4)Renzini 1977 の式 2.5, 6.18 の恒星進化の式 Mv,min(16 Gyr) = -13, Mv,min(0.1 Gyr) = -11 のモデルは LMC データに合う事が判った。それを図5に示す。大事なのは このモデルが星団形成期間にあまりよらないことで、期間 16 Gyr も 6 Gyr も同じくらいよくデータに合う。 SMCの場合 SMCの星団光度分布を再現することは難しい。10 サンプルで, n(-3.5 to -4.5) > n(-4.5 to -6) の例が出来るのは 1% 以下であった。 LMC 星団系の年齢は全体として若い? 区切りが粗いのではっきり見えないのだが、Mvt < -7 の 星団は、 Hodge 11 を除いて、全て同じくらいのメタル量を持つ銀河系球状 星団の巨星枝より先まで伸びている。LMC "古い" 星団で言うと、NGC 121 は Aaronson, Mould 1982 で見る通り伸長した AGB を示すし、 Frogel, Cohen 1982 が扱った NGC 1841 も 同様である。今回 NGC 2257 にも Mbol = -4.1 の LE 11 が見つかった。 NGC 1466 が残っているが、これがメンバーかどうか問題にされている。 Rabin 1982 は NGC 1841 に関してもバルマー線強度から似た結論に達している。 彼は非常に低メタルの系では水平枝が数 Gyr の変化を吸収(?)するとした。 我々のデータは LMC の星団系は銀河系に比べ 3 - 5 Gyr 程度若いのでは ないかと疑わせる。 ![]() 図5.Mv < -7 に限定し、図4と同じことをした。黒印は 星団形成率一定(黒丸= 16 Gyr の間, 三角= 6 Gyr)の場合 のモデル。 |
Cohen 1982 の個々の赤色巨星の組成 論文 II では LMC 星団のメタル量増加速度は銀河系に比べずっと 遅いと指摘した。ある意味、 LMC はその全期間をかけてやっと銀河系が 初めの十億年で達成したメタル量に辿りついたのである。その時より ずっと多くのデータが得られたので Cohen 1982 の個々の赤色巨星 の組成と表4の年齢を組み合わせて図6を作った。 年齢決定のメタル依存度 注意しておくのは Aaronson, Mould 1982 に述べた通り、 AGB 先端光度から決める年齢は メタル量依存が少ないことである。したがって、メタル量と年齢は別々に 決められている。Cohen 1982 では SWB タイプを年齢に結び付けている。 SMCは? SMC での同様な図を作るためのメタル量観測が欲しい。 おしまい |
![]() 図6.LMC 星団の年齢・メタル関係。カーブは Cohen 1982 による 簡単なモデルの結果。 |