The Ages of Globular Clusters in the Magellanic Clouds


Mould, Da Costa
1988 ASPC 1, 197 - 219




 アブストラクト 

 Mv < -6, (B-V) > 0.25 (SWB IV 以上)の LMC/SMC 星団を観測した。 ここでは Kron 3 (1Mo), NGC 1978 (1.3 Mo), NGC 2134 (3 Mo) において とり、星団 CMD から恒星進化の研究を行う例を示す。  AGB先端光度や組成と年齢の関係も調べた。さらに、距離に無関係な年齢指標 としてターンオフ等級と水平枝等級との差を調べた。t = [4, 10] Gyr のギャッ プを埋める星団は見つからなかった。 DM(LMC)=18.2, DM(SMC)=18.8 を採用。


 1.イントロダクション 

 マゼラン雲内大星団の研究の意味 

(1)t = 0.01 - 10 Gyr の星団から M = 1 - 10 Mo の恒星進化が分かる。

(2)星団形成史と化学進化
 観測 

van den Bergh (1981) の星団リストから Mv < -6 mag、(B-V) > 0.25 の基準で選んだ。 すると、主系列ターンオフは 17 等より暗くなるので、大きな望遠鏡が必要で ある。観測は CTIO 4-m + CCD で行われた。SMC では 25 星団がこの基準に あったが、 CMD が主系列に達したのは 7 星団であった。LMC では 14/50 星団が主系列に達した。


 図1.Kron 3 と SMC フィールドの CMD  




図1.CMD. 上: Kron 3。 下:SMC フィールド。縦軸は Rc 等級。上部には t = 7, 10 Gyr の等時線を重ねた。下図には星団の CMD 線を足した。

 2.Kron 3 と太陽質量星の進化 

 Kron 3 の年齢 

 この星団は Kron が 1956 年に研究した SMC 中心から約 2° 西にある 星団である。星団は RR Lyr を含まないが、赤い水平枝を有する。非常に赤い 巨星を含み、そのいくつかは炭素星である。この星団の年齢には様々な説があ る。Gascoigne, Bessell, Norris 1982 は 4 Gyr, Hodge 1982 は 1 Gyr, Walker 1970 は高メタル球状星団に近いと考えた。この不一致の一因は主系列 ターンオフがこれまで得られていなかったことにある。

 Kron 3 の ターンオフ 

 図1は CTIO 4-m + CCD による観測から得られた CMD で Rich, Da Costa, Mould 1984 から採った。測光系は Cousins 1976 の BVRI で Graham 1982 の 標準系列に則っている。 Rc = 22 に主系列ターンオフが見える。同時によく 辿れる準巨星、水平枝、巨星枝が見える。フィールド星の混入を見るために、 フィールドの CMD も示す。 Rc = 20 mag にターンオフが見える。
 短距離スケールを採用 

 図1に等時線を一意にフィットしようと思ったら、 Kron 3 のメタル量、赤化、 距離が必要である。特に距離は Rich, Da Costa, Mould 1984 で議論されてい るように問題である。ここでは、 Schommer, Olszewski, Aaronson 1984 が採 用した、ヒアデス主系列を 1 Gyr 星団に直接フィットして出した値を採用する。 それは DM(LMC) = 18.2, DM(SMC) = 18.8 である。

 炭素星誕生 

 E(B-Rc) = 0.08, Y = 0.25, [M/H] == -1.3 に上の距離を組み合わせて、 Rich, Da Costa, Mould 1984 は t(Kron3) = 8 Gyr を導いた。 Green, Demarque, King 1987 の等時線を使うと、ターンオフ質量は 0.92 Mo になる。この質量だと、銀河系球状星団の星を僅かに超過するに過ぎない。しかし それでも、星を AGB 先端でヘリウムシェルフラッシュを起こさせ、ドレッジ アップによる炭素星誕生に導くには足りるのである。


 表1.NGC 1978 の測光 





 図4.NGC 1978 のチャート 





 図3.NGC 1978 のCMD 


図3.NGC 1978 の CMD. 白丸=差し引かれ過ぎのフィールド星。実線= [Fe/H]=-0.7 の 2 Gyr 等時線。細線=同じメタル量の 1 Gyr 等時線。横軸は (B-Rc) カラー。

 3.NGC 1978 と 1.3 Mo 星の進化 

 フィールド星の差し引き 

 NGC 1978 は LMC の赤い球状星団でその楕円体形状で良く知られている。 図2から分かるように、NGC 1978 は Kron 3 より立派な AGB を有する。 図3には CTIO で得た深い CMD を示す。 CMD 作成ではフィールド星差し引きを行った。CCD画像を星団の潮汐半径の内 側と外側に分けて、外側をフィールド、内側は星団+フィールドとした。外側 と内側の CMD を重ね、外側フィールド星位置から最も近い内側星を除いた。 生き延びたフィールド星は図3の黒丸、相殺された余りの内側星は白丸である。 図4で 80 星団星が同定され、表1にその等級を示す。

 メタル量 

 NGC 1978 の赤化とメタル量は以下のようにして得た。 Rousseau et al 1978 には、星団から 20' 以内に早期型星が 6 個知られている。 Brinet 1976 の固有カラーを用いると、 E(B-V) = 0.19 がフィールドで得ら れる。これは E(B-Rc) = 0.33, ARc = 0.46 に相当する。これにより、 NGC 1978 (Olszewski 1984) と NHC 7789 (Da Costa, King, Mould 1987) の 赤色巨星枝カラーの差を得て、NGC 1978 に対し [Fe/H] = -0.7 を得た。Cohen 1982 は分光から[Fe/H] = -0.5 を得た。

 主系列先端光度 

 こうして、Green, Demarque, King 1987 の等時線に観測データをフィット できるようになった。図3に Y = 0.20, Z = 0.004 のケースを示す。 しかし、 Kron 3 の場合と異なり、 NGC 1978 では上部主系列の星が対流核を 持ち、そのような星の主系列星寿命と巨星へ進化する前に到達する最高光度は 対流核外側のオーバーシューティングにより生じる内部ミクシングにより伸長 される。Da Costa, Mould, Crawford 1985 に従い、我々は当時線の主系列先端 を 0.3 等引き上げられると仮定した。NGc 1978 の主系列先端は Rc = 20.0 - 20.2 のあたりにある。先ほどの補正の後、2 Gyr 主系列先端は Rc = 22.0 に、 1 Gyr では Rc - 19.3 等となる。現在のデータは年齢 2.1±0.3 Gyr と なる。この値はターンオフ質量 1.33 Mo を意味する。

 オーバーシューティングの効果 

  1 - 3 Gyr での等時線フィット作業中に出会う問題は、主系列端末のすぐ 下で、当時線カラーより観測カラーが B-Rc で 0.2 等赤くなることである。 モデル計算の (L, Teff) からの変換がエラーのかなりを占めることが分かった。 Yale モデルではこの差が小さい。モデルの改良が必要である。

図2.NGC 1978 の炭素星と M-型星の AGB 上分布。測光データは Mould, Da Costa, Wieland 1986 より。


 図5.NGC 2134 のチャート 



 図6.NGC 2134 の CMD 


図6.NGC 2134 の CMD. Z = 0.01, t = 0.15, 0.20 Gyr 等時線を重ねた。

 4.NGC 2134 と 3 Mo 星の進化 

 NGC 2134 概要 

 NGC 2134 は LMC バーの 1 kpc 南東にある青い星団である。 Searle, Wilkinson, Bagnuolo (1980) はタイプ IV とした。図5に星団のチャートを、表2にフィールド星の消去を 生き残った星の測光結果を示す。

 赤化、メタル量 

 図6には CMD を示す。前二者と明らかに異なる CMD 形態に気が付くだろう。 赤化推定に必要な早期型超巨星は 30' 以内に存在しないが、上部主系列が垂直に 立つので E(R-Rc) = 0.29, ARc = 0.4 が容易に得られる。メタル 量は難しい。進化経路のブルーループ(?)の比較、 NGC 1866 の研究結果の 援用などから、 ファクター2の不定性で Z = 0.01 とした。

 年齢 

 等時線フィットは 0.17±0.2 Gyr を与える。


 5.AGB 先端光度と星団年齢 

 進化モデル最終光度から星団年齢へ 

 外層基部での水素燃焼と表面でのマスロスが外層を失わせるまで、星はAGB を昇り続ける。初期質量が高いほど高い光度まで昇り詰めると予想できる。 例えばレイマーズ則のようなマスロスの表現式を使えば、この最終光度を予想 することができる。そのようにして、 Mould, Aaronson (1982) はマゼラン雲赤い星団の年齢を定めた。その結果、多くが中間年齢であることが 判明した。

 ターンオフ年齢と最終光度 

 この手順を逆転させ、 Aaronson,Mould (1985) は、Kron 3 や NGC 1978 のような星団の正確なターンオフ年齢を用い、マス ロスがどのくらい効いているかを調べた。Mv<-6, B-V>0.25 の星団につ いて、ターンオフ年齢を表3にまとめた。図7は AGB 先端光度と星団年齢 の関係を示す。AGB 先端光度推定値の統計的なエラー評価が可能なほど大きな 幾つかの星団に対しては誤差棒を付けた。その他の星団では観測された AGB 最終光度を下限として示す。図7に使った光度は Aaronson,Mould (1985) から採った。初期質量(または年齢)に伴って光度が上昇する傾向は明らかで ある。

 合わないマスロス則? 

  Mould, Aaronson (1982) で採用したマスロス則はデータによく合わない。年齢が 0.1 Gyr まで下がると その差は極度に大きくなる。もっともそれは一つの巨大星団 NGC 1866 の効果 が大きい。しかし、   Becker, Mathews (1983) のモデルではこの星団の AGB 1等あたり 20星を予想しているから、 この星団の「真の」AGB 上端光度は図の点線近くと考えてよい。

 若い星団 

 この論文では扱わないような若い星団が図7でどこに来るかを考えるのは 興味ある問題である。そのような星団では、第1巨星枝先端が AGB 先端と同じ くらいまで上がるので、扱いが難しい。マスロスがコアマスの成長に限界を設 け、結果としてカーボンデフラグレーション型超新星(タイプ I 1/2 )は起き ないかも知れない。 Wood, Bessell, Fox (1981) は Mbol = -7 の AGB 星が存在するという反証を挙げている。一方、 Mould, Reid (1987) は、そのように明るい AGB 星の数は標準的マスロスから予想されるよりずっと 少ないと指摘した。

 表3.マゼラン雲の大きな星団ターンオフ年齢 

 


 図7:AGB 先端光度と星団年齢 


図7.Mbol,f が既知の 6 星団はエラーバーを、他の星団は下限値を示す。 黒四角=銀河系球状星団([Fe/H] > -1)。 白四角=銀河系球状星団([Fe/H] < -1)。 破線= Mould, Aaronson (1982) モデル。 点線=熱パルス発火点(Iben, Renzini 1983)。

 6.表面組成と星団年齢の関係 

 年齢 1 Gyr の星団 

 NGC 1978 のような年齢 1 Gyr の星団と、NGC 1866 や NGC 2134 のように 0.1 Gyr の星団との間には、分光学的に大きな差がある。図2は 1 Gyr 星団 の良い例である。AGB の明るい先端は炭素星で占められていて、暗い基部は M-型星で構成されている。 NGC 1783 のような例では S-型星が見出される。
 年齢 0.1 Gyr の星団 

 一方、年齢 0.1 Gyr の星団は AGB 先端が M-型星からなる。良い例が図7 に示されている。図中の点線は熱パルスが点火される光度を示す。 この線は観測される AGB 先端線と交わる。これが、0.1 Gyr 星団では M-星が 支配的になる理由である。ただし、Bertelli et al 1985 は別の説明を提案し ている。



表4.中間年齢星団の主系列と水平枝の間隔

 7.主系列と水平枝の等級差 

 水平枝と主系列ターンオフの等級差 

 NGC 121 は SMC に属する二つの古い星団の一つである。この星団には RR Lyr が存在するが、 NGC 339 には含まれないので、NGC 121 は最古の星団かも知れ ない。 Stryker, Da Costa, Mould (1985) は NGC 121 の NE 四半分の深い測光を行い、年齢 12±2 Gyr を得た。 この値は同じくらいのメタル量を持つ銀河系球状星団より少し若い。したがっ て、SMC 最古の天体である NGC 121 が銀河系球状星団よりかなり若いと確認 することが重要である。現在知られている相対年齢指標の中で、最も信頼でき るのは水平枝と主系列ターンオフの等級差である。
(ターンオフ等級だけだと距離指数 不定性の影響を受けるから、差を使うのか? )
Stryker, Da Costa, Mould (1985) は δR = 3.1±0.2 を得た。

 主系列ターンオフ等級  

 主系列ターンオフは主系列の最も青い点として定義される。銀河系球状星団 では深い測光からこの点が正確に求められている。しかし、マゼラン雲星団で は、観測誤差のため主系列の反りが隠されてしまう。現在のデータの状況では、 実際的なのは、光度関数か CMD から主系列の出現(表4の第5列)を測定し、そ こに補正値を加えて、ターンオフ等級を求める方法である。改訂イエール等時線 を使用して、我々は t = 1 - 18 Gyr で補正値 0.4 mag を得た。
 表4=星団の等級差データ 

 表4には比較のため、マゼラン雲の中間年齢星団の大部分と、古い星団の NGC 2257 のデータを載せた。NGC 2257 は Stryker 1983 が V バンドで研究した。 この星団の δMbol は銀河系球状星団での値と大体同じである。表4からは、 ヘリウムコア燃焼に伴うブルーループを示す星団は除いた。

 等時線フィットからの年齢 

 図8は、主系列ターンオフと水平枝との Mbol 差と年齢の関係を示す。実線は Iben, Renzini 1984 の Y = 0.25 の式 (9) に表4の年齢・メタル量関係を入 れて作った理論船である。この線が観測値と良く合うことは、等時線フィット から得られる年齢は、距離に独立な δMbol 法からの年齢と良く合うこと を示す。

  δMbol 年齢の有効性 

 実際、図8には 白丸=Hodge らの早期の研究で得られたずれの大きな4星団、 を示している。NGC 152 と NGC 2121 の年齢を彼らの CMD から決め直し、結果 を表3に示した。また、図8からは NGC 2210 の年齢を 15 Gyr と決めることが できた。
(球状星団の年齢が 15 Gyr だった頃の値 だ。いつ、どこで変わったのか? )





図8.主系列ターンオフと水平枝との Mbol 差と年齢の関係。直線はフィット線 ではなく、等時線モデルからの理論値線である。

 8.継続する星団形成 

 星団形成史研究の方法論 

  Elson, Fall (1985) は、完全サンプルの定義、星団の時間経過に伴う「消失」を考慮して、星団 形成史にいかに取り組むかの道筋を示した。星団形成と星団の消耗のバランス を考慮して研究する必要がある。明らかにこれは難しい問題である。しかし、 二つの銀河における星団形成史が互いに異なり、さらに形成率一定の単純な仮 定とも異なることを示唆する証拠はある。

 例えば 

 SMC Kron 3 や Lindsay 1 の LMC 対応天体はどれだろう? t = [4, 10] Gyr の LMC 星団が知られていないのに、それより古い、例えば NGC 1466, 1841, 2210, 2257 があるのはどうしてか?そして、逆に t = [1. 2] Gyr には多数の 星団があるのはどうしてか?この明らかな星団形成の凪状態は Elson, Fall (1985) による LMC 星団カラーの分布には現れてこない。
 [4, 10] Gyr 候補星団 

Jensen, Mould, Reid (1988) は、 Elson, Fall (1985) の s-パラメター 40 以上の星団を選び、そこから RR Lyr 星を含む星団を除き、 年齢 4 - 10 Gyr の候補星団サンプルを得た。そこには 15 LMC 星団が含まれる。 その 7 個は主系列ターンオフ年齢が 4 Gyr 以下であった。これは積分カラー が星団形成史問題の解決には十分な精度を備えていないことを物語る。残りの 8星団 NGC 1652, 1751, 1852, 1898, 1916, 2005, 2019, 2155 の年齢は未決 定である。


 9.結論 

 この短いレビューからでも、マゼラン雲星団の CMD 研究の表面を引っ掻いた に過ぎないことが明らかである。今後の CCD 観測が強力な武器となるだろう。  星団研究から、我々は恒星進化への理解を増し、矮小銀河内でガスが星に転 化する速度をみつもり、化学進化を追えるだろう。今後 25 年 CTIO では多くの 研究が期待できる。