主系列等時線フィットから、SMC 球状星団 NGC 121 の年齢を 12±2 Gyr とした。これには, フィールド RR Lyr の Mv = +0.6 mag とした [(m-M)o=18.85] ことが 効いている。そうでなく (m-M)o = 19.3 とすると、年齢は 9±2 Gyr となる。星団は RR Lyr と炭素星ギリギリの星を含む。 |
星団近傍も暗い主系列ターンオフを示し、以前のマゼラン雲フィールド研究
と異なり、中間年齢星が多いという証拠がない。SMC の化学進化を見直すと、
銀河系では初期以降はほぼ一定のメタル量増加が続いてきたのと異なり、SMC
のメタル量は長期にわたり低レベルにあり、ここ 1 - 2 Gyr に急増している。
(この頃銀河系球状星団の年齢 14 - 16 Gyr ) |
最大の生き残り NGC 121 は SMC の 2°.4 (2.5 kpc)西に在り、SWB80 ではマゼラン雲 には数少ない、銀河系球状星団の対応天体とされた。この星団は Mv < -8 と明るく、疑いなく SMC の初期に生まれた中でも最大の生き残り天体である。 いろんな星 NGC 121 の水平枝は赤いが、青い端は不安定帯に届き、少数の RR Lyr 星が 見つかっている。また、二つの赤色巨星が変光しているのも興味深い。 その内の一つ V8 のスペクトルは時折炭素星の特徴を示す。 Feast, Lloyd-Evans 1973, Mould, Aaronson (1980). 一方、V1 の方は明らかに TRGB を超えていて、上部 AGB に乗っている・ メタル量 個々の NGC 121 巨星の測光は NGC 121 が低メタルであることを示す。 Rabin (1982) は、星団積分スペクトルの EW(H)-EW(Ca) 図上で銀河系球状星団と同じ領域に 位置することを認めた。しかし、彼は同時にこの星団が、 K-線強度から予想 されるよりもずっと赤い水平枝を持つ点で、変わっていると注意した。 |
NGC 121 年齢は 10 Gyr 以下? Aaronson, Mould (1982) は、V1 の中間光度に基づいて、この星の年齢上限を 10 Gyr とした。 しかし、NGC 121 が実際に銀河系球状星団より若いかどうかをこれだけで決め るのは早計である。 (この頃銀河系球状星団の年齢をいくつに していたのか?図10のキャプションによると 14 - 16 Gyr だったらしい。 ) 主系列ターンオフ したがって、主系列ターンオフから NGC 121 が銀河系球状星団より若いか どうかを確認することは大事であろう。 |
3.1.NGC 121 星団領域の CMD差し引き法は採らない図6は CMD 領域、図7はフィールドの CMD である。我々は通常のフィール ド差し引き法は取らなかった。なぜなら、二つの領域間では込み合いが大幅に 違うため、「選択関数」に差が生じているからである。その差は暗い方、特に R > 22 mag で大きい。したがって、単純な差し引きを施すと、星団の 暗い星が大幅に欠落する結果となる。我々は図2を信じ、図6の大部分は実際に 星団星であると考える。 CMD 形態学 図6には、細い巨星枝、赤い水平枝、準巨星、ターンオフ領域、その下の 主系列が見分けられる。我々のフィールドには既知の星団 RR Lyr 星が含まれ ていない。 (観測領域は NGC 121 全体を覆って いないのか?図1に星団らしきものが見当たらない。 ) 赤色水平枝の平均等級は R = 19.25±0.1 で、Kron 3 より 0.25 mag, Lindsay 113 より 0.5 mag 暗い。巨星枝は K3 より 0.1 mag 赤く、L 113 より 0.2 mag 赤い。 ターンオフ等級と水平枝-ターンオフ間隔 図6を見ると、ターンオフは R = 22.4±0.15 である。 (図6を見てどうしてそこがターン オフなのかよく分からない。勘で決めるんじゃないよな。) こうして、 NGC 121 の水平枝とターンオフの等級差は δR = 3.1±0.2 mag となる。HR 星とターンオフ星との間のカラー差 Δ(V-R) = 0.12±0.03 mag から、ΔVHB TO = 3.2±0.2 mag となる。この値は銀河系球状星団で 観測される 3,4 mag より僅かに小さい。これは NGC 121 は銀河系球状星団 より若いのではないかという最初の証拠である。 3.2.NGC 121 フィールド領域の CMDフィールド CMD の特徴図7にはフィールドの CMD を示す。図6にあった星団 CMD の特徴はフィー ルド CMD にも備わっている。いくつかの小さな差異の内、最も目立つのは、 R = [16, 21.5] mag に亘る巨星枝の平均等級がフィールドの方が 0.2 mag 明るいことである。水平枝に関しては、近くにある 47 Tuc の主系列が (R, B-R) = (17.0, 1.0) から (22.0, 2.0) に見えているため、状況がさらに 混乱する。この主系列は R = 19.0 付近で水平枝に重なる。 |
![]() 図2.星の数密度。星団は 180 ピクセル= 1'.8 半径。フィールドは半径 300 ピクセルから先とする。 フィールド主系列は青い? 図7のターンオフ等級は星団と同じくらいである。しかし、主系列の稜線は 図6に比べ 0.2 mag 青い。さらに、R > 22m B-R < 0.6 の星が多数存在 するが、図6にはあまりない。メタル量と年齢の散らばりがこの差を生み出し ているのかも知れない。 フィールドの中間年齢星 図7 (R, B-R) = (21.0, 0.20) 付近の星は年齢 5 Gyr 付近の中間年齢星と 思われる。ただ、これらの星の相対的な数は Kron 3 や Lindsay 113 付近の フィールドと比較すると、少ない。R = 22.0 で星の数にジャンプがあるのは、 明らかに古い星種族がこの付近のフィールドで支配的であることを意味する。 |
![]() 図6.NGC 121 領域の CMD |
![]() 図7.NGC 121 近傍フィールドの CMD. |
4.1.NGC 121 等時線フィットメタル量Gascoingne, Bessell, Norris 1981 は 星団6巨星の DDO 測光から [Fe/H] = -1.2 を、7巨星のワシントン測光からは [Fe/H] = -1.5 を与えた。どちらも 銀河系球状星団の同様な観測を基準にしている。Searle, Smith, Manduca 1984 は積分スペクトルをモデル合成スペクトルと比べて [Fe/H] = -1.3 を得た。 SWB では積分測光からの Quvgr から [Fe/H] = -1.4 を得た。 Rabin (1982) は K-線強度から [Fe/H] = -1.2 を得た。 Zinn, West 1984 は K-線、CH の G-バンド、Mgb 線から [Fe/H] = -1.5 を得た。 Aaronson, Mould 1982 のメタル量 ただ、 Aaronson, Mould (1982) だけは違う値 [Fe/H] = -1.9 を出している。彼らは、Mbol = -3.4 における 巨星枝有効温度を銀河系球状星団と比較してこの値を得た。しかし、彼らは NGC 121 に対し、(m-M)o = 19.3 を仮定した。この値が我々のようにもっと 小さい値になると、得られる値は他の研究に近づく。そこで彼らの値を省いて 平均をとると、[Fe/H] = -1.4 となる。そこで、我々は [Fe/H] = -1.3 に相当 する Z = 0.001 等時線によるフィットを試みる。 |
距離 NGC 121 フィールドの RR Lyr は V = 19.57 に鋭いピークを持つ。また、 星団 RR Lyr も同様である。そこに 低メタル RR Lyr の絶対等級、 Mv = 0.6, E(B-V) = 0.04 を使うと、(m-M)o = 19.57-0.6-0.12=18.85 である。 当時線フィットにはこの DM を使用する。しかし、一方には (m-M)o = 19.3 という研究結果もあるので、その場合の結果も議論する。ただしその場合、 NGC 121 の RR Lyr に Mv = 0.15 という以上に明るい値を課すことになる。 等時線 図8a に (m-M)o = 18.94 に対する等時線フィットを示す。主系列へのフィ ットはよい。年齢 12±2 Gyr が示唆された。もし (m-M)o = 19.3 を 使うと 9±2 Gyr が得られる。 |
![]() 図8a.NGC 121 領域 CMD への等時線フィット。等時線は (Z, Y) = (0.001, 0.2) t = 7, 10, 13, 16 Gyr. Mv(RRLyr) = +0.6, AR = 0.06, E(B-R) = 0.06 を採用。 |
![]() 図8b.左に同じだが、(m-M)o = 19.3 を採用。 |
![]() 図9a.NGC 121 近傍フィールド CMD への等時線フィット。 (Z, Y) = (0.0004, 0.2) t=7, 10, 13, 16 Gyr。DM は図8a と同じ。 |
![]() 図9b.図9a と同じだが、DM は図8a と同じ。 |
NGC 121 は境界星団 NGC 121 の年齢決定は特別な意味がある。この星団は RR Lyr を抱える最も 若い星団であると同時に、赤い水平枝を持つマゼラン雲では最も古い星団でも ある。つまり、この星団は赤い水平枝が不安定帯まで伸びて、 RR Lyr を生み 出するほどには古いが、LMC 星団の NGC 2257 のように青い水平枝を発達させ るほどには古くないのである。それはまた、同じくらいのメタル量を持つ 銀河系球状星団 NGC 1851 や NGC 6752 ほどには古くない。 SMC フィールド マゼラン雲のフィールドには青い水平枝星が存在する証拠はない。しかし、 RR Lyr 星はどちらにも存在する。このように NGC 121 の結果は、LMC/SMC のどちらも 10 Gyr より古い星種族を含んでいることを示す。つまり、 NGC 121 の年齢はマゼラン雲フィールドの最古種族の年齢に下限を設けるので ある。RR Lyr の存在はマゼラン雲の最古種族は銀河系球状星団と同じくらい 古い事の証拠とされていたが、NGC 121 の年齢からはそれが 30 % まで若い 可能性を示唆している。 |
炭素星 NGC 121 は中間年齢種族星の面からも興味深い。この星団の V8 は我々の好む DM = 18.85 を使うと Mbol = -3.50 となり、 TRGB の少し上に位置する。もし 大きい DM を採用すると、最高 Mbol = -3.95 になり、AGB 上部に位置する。 V8 は炭素星の特徴を示すことがある。このように、NGC 121 の年齢は 炭素星形成の境界年齢となる可能性がある。 |