Pattern Speed in the Milky Way


Gerhard
2008 MemSAIt, 183 - 186




 アブストラクト

 銀河系のバーと腕のパターン速度を決定する方法をレビューする。 銀河系バーは高速で回転し、その共回転半径は太陽半径 Ro の半分である。 その外側リンドブラッド共鳴点は Ro から遠くない。  一方、銀河系の腕は現在著しく遅い速度で回転している。その共回転半径 は Ro の僅かに外側である。従って二つの構造は力学的には切り離されている。


 1.イントロダクション 

 銀河系のバーバルジは 2kpc まで、平面バー(in-plane bar) Benjamin et al. 2005, Cabrera-Lavers et al. 2007 銀河系中心から 4 kpc 先まで伸びている。円盤は多分フリーマン II 型で、 R > 4 kpc では指数関数型、その内側は平坦または内側に向かって密度 が減少している。  銀河系はガスと若い星の4本の腕を持つ。しかし、古い星の密度波は その内の2本のみ Drimmel et al. 2000, Mantos et al 2004 である。


 2.バーのパターン速度 

 パターン速度を得る4つの方法 

 パターン速度を得るための方法を次に順次紹介する。

 OH/IR 星 

 Debattista et al 2002 は Tremaine-Weinberg の連続性の議論を 250 OH/IR 星サンプルに適用した。  実際に測定されるのは、パターン回転速度と LSR 速度位置での回転速度と の差である。これは Ro, Vo, それに LSR の動径方向特異速度 uLSR に影響される。結果は uLSR に強くよるが、 HI 吸収観測の結果 は、太陽と銀河系中心との間のガスは共通の視線速度 -0.23 km/s (Radhakrishnan, Sarma 1980) を示す。 最も自然な解釈はこのレベルでは uLSR をゼロと看做せるという ものである。 彼らはパターン回転速度 Ωp = (Vo/Ro) + 31.5 km/s/kpc - (18/Ro)uLSR = 59 km/s/kpc (Ro = 8 kpc, Vo = 220 km/s) を得た。データ情報の主要部は低 b, l = 30 付近から得られた。それらの星 はバーに強く結びついた円盤星で、内側渦状腕接点付近、またはバーの周りの 内側リングの星(Sevenstar, Kalnajs 2001)であろう。

 CO, HI ガス  

 流体シュミレーションの結果を CO, HI (l, v) 図と比較する。しかし、 完全に観測を再現できた計算はない。このため、異なる結果が報告されている。 Englmaier, Gerhard 1999 は Ro = 8 kpc, Vo = 220 km/s/kpc を仮定して Ωp = 60 km/s/kpc を得た。RCR は 3 kpc 腕と分子リングの中間に仮定 し、主に渦状腕接点位置を合わせることに重点が置かれた。 Fux 1999 は RCR = 4 - 4.5 kpc と仮定し、いくつかの CO (l, v) 図上特徴 をフィットさせて、 Ωp = 50 km/s/kpc を得た。 Weiner, Sellwood 1999 は RCR = 5 kpc と仮定し、HI 視線速度 輪郭の縁を合わせて Ωp = 42 km/s/kpc を得た。 Bissantz et al 2003 はバーと渦状腕のパターン速度が異なるモデルを使い、 (l, v) 図上での CO 観測の腕の縁、分子雲と HIIR の位置をフィットさせて、 RCR = 3.4±0.3 kpc から Ωp = 42 km/s/kpc を得た。Rodriguez-Fernandez, Combes 2008 は、第2中心核バー を付けたモデルを使い、銀河系渦状腕とのフィットから RCR = 5 - 7 kpc, Ωp = 30 - 40 km/s/kpc を得た。
 これ等の結果を合わせると、バーパターン速度 Ωp = 52 ±10 km/s/kpc または RCR = 3.5 - 5.0 kpc ( Ro = 8 kpc, Vo = 220 km/s) である。一般に RCR ∝ Ωp である。
バー長

 第3の方法ではバーの長さを求めて、系外銀河の観測から得られた RCR/RB = 1.2±0.2 (Aguerri et al 2003) を 仮定してパターン速度を決める。COBE から決めた NIR バーの長さは、 Binney et al 1997, Bissantz, Gerhard 2002 によると RB = 3.5 kpc である。 一方 "long bar" を星計数から求めた結果 Benjamin et al. 2005, Cabrera-Lavers et al. 2007 は RB = 4 kpc である。これ等の結果はかなり広い範囲の値、 RCR = 3.5 - 5.6 kpc または Ωp = 35 - 60 km/s/kpc を与える。

 バーポテンシャル中の運動 

 最後の方法は太陽近傍における恒星の速度分布関数 (VDF) 中に現れる 星流を、バーの外側リンドブラッド共鳴 (OLR) 近くの共鳴軌道族と考える 解釈に基づいている。OLR 近くには二つの細長い周期軌道族が存在する。 一つは ant-aligned inside OLR, もう一つは aligned outside OLR である。 一連の後退積分テスト粒子シミュレーション計算の結果、 Dehen 2000 は Ωb = 1.85±0.15 Vo/Ro (= 51±4 km/s/kpc, Ro = 8 kpc, Vo = 220 km/s) を得た。Muhlbauer, Dehnen 2003 はこのモデル を拡張して、もしバーの OLR が太陽円より少し内側にあり、太陽がバーに 20° 後にあるなら、次の3つが説明できることを示した:
(i) LSR の動径運動成分が殆どないこと。
(ii) 古い星の頂角偏移が 10° であること。
(iii) 速度楕円体の軸比 (σ21) 2
= 0.42 < 0.5
Minchev et al 2007 はオールト定数 C と速度分散との関係は、もしも &Omega:b = 1.87±0.04 Vo/Ro (= 51.5±1.5 km/s/kpc) ならば、このモデルで説明できることを示した。これらの研究は銀河系バー は太陽近傍の恒星の運動に大きな影響を有していることを示す。 Chakrabarty 2007 はこの結論には同意しながらも、渦状腕の摂動を考慮する 必要があることを強調し、さらに Dehen 2000 の後退積分を批判した。共回転 運動とパターン速度に対する彼女の最良値は、Ro/RCR = 2.1 ± 0.1、Ωb = 57.5±5 km/s/kpc である。

 N-体シミュレーション 

 固定されたバー型摂動に対する円盤粒子の応答を研究する代わりに、Fux 2000 は N-体粒子計算を行った。この計算は複数の時間変動する星流を円盤上に 現し、特にしばしば共回転半径の外側にヘラクレス流と似た星流が出現する。 この星流は "熱い" 軌道粒子から成り、そのヤコビーエネルギーはラグランジュ 点 1 - 2 にある粒子のそれを僅かに上回る。この説明は OLR 散乱メカニズム によるヘラクレス星流の説明とは異なるが、このモデルでもバーの OLR 点 は 7.7 kpc で Ro に近い。銀河円盤の広い領域での恒星運動データの取得が 非常に重要である。


 3.渦状腕パターン速度 

 安定したパターンは自明でない 

 渦状腕のパターンが一定の角速度で回転するという描像が正しいのか、 正しいとしてそれがどのくらい持続するのかへの解答は自明でない。 しかし、第1ステップとして、この仮定がデータと矛盾しないかどうかを 調べよう。

 星団法 

 星団が誕生した位置を調べるのは最も直截的な方法である。それには、まず 現在位置を確定し、次に星団の年齢分だけ円盤の回転速度で戻せばよい。もしも 星団が渦状腕で生まれたなら、ある年齢の星団の誕生箇所の分布は渦状腕的に 並ぶだろう。そして異なる年齢に対する誕生箇所の分布を比べると、パターンの 回転率が求まる。
  Dias, Lepine 2005 はそれを行った。彼らは、
(i) 599 サンプル星団を単純に後ろ向きに回転させた。
(ii) 視線速度、固有運動、距離、年齢が既知の 212 星団の軌道を年齢分 後ろ向きに積分した。
彼らは(1)実際に大部分の星団が渦状腕で生まれたこと、(2)渦状腕は 近似的には剛体回転をしており、(3)Ωsp = 24 - 26 km/s/kpc であり、RCR, sp = (1.06±0.08) Ro であること を見出した。

 ガス流モデル 

 Bissantz et al 2003 は現実的な銀河系ポテンシャル、バーと渦状腕で異なる パターン速度を仮定してガス流モデルの計算を行った。パターン速度一種類の 場合には共回転半径がガスの流れに固い障壁を作ったが、二種類のパターン速度 の場合にはガスは 腕に沿って RCR を越えて内側へと流れ込む。 二つのパターン速度モデルでは、(l, v) 図上で、バーの共回転半径付近でガス量 が少なくなる。観測 (l, v) 図にはそのような空隙が見える。しかしながら、 ガス流モデルの精度はまだ低く、Ωsp = 20 km/s/kpc でも 40 km/s/kpc でもデータに矛盾しない。
OB-型星とセファイドの運動 

 OB-型星とセファイドの運動を運動学モデルと合わせることにより、渦状腕 パターン速度を決定する試みは沢山ある。OB-, セファイド星からの古い 試み (Fernandez et al 2001 参照) は、Ωsp = 20 - 30 km/s/kpc を与えた。Mishurtov, Zenina 1999 によるセファイドの視線速度と ヒッパルコス固有運動データの解析は、Ωsp - Ω0 = 0.4 - 2.2 km/s/kpc, RCR, sp - R0 = 0.1 - 0.4 kpc (for27.5 km/s/kpc, Ro = 8 kpc). Fernandez et al 2001 はヒッパルコスの O-, B-星、セファイド速度 データを運動学モデルにフィットして、Ωsp = 30 km/s/kpc を得た。Lepine et al 2001 は m = 2 と m = 4 の渦状腕モデル をセファイド運動データにフィットした。かれらの結果は、 Ωsp, m=2 Ω0 = 0.15±0.5 km/s/kpc, Ωsp, m=4 Ω0 = 0.18±0.1 km/s/kpc で、似た値であった。 太陽は共回転半径より 0.2 kpc 内側にあるらしい。

 古い星の運動 

 Quillen, Minchev 2005 は太陽付近の古い星の速度分布に回転渦状腕が及 ぼす影響を調べた。彼らの研究では、もし太陽が内側 4 : 1 共鳴点付近に あると、渦状密度波により二つの軌道族が生まれる。このモデルは Ωsp = 18 km/s/kpc を与えるが、観測との一致は良くない。 Chakrabarty 2007 はバーと腕が速度分布に与える影響を調べたが、はっきり した制約は得られなかった。


 4.結論 

 バーのパターン回転速度 

 バーの回転は速く、共回転半径は太陽半径の真ん中付近となる。その OLR は 太陽軌道から遠くない。繰り返すと、 Ro = 8 kpc, Vo = 220 km/s に対して 直接測定値は Ωb = 59±5±10 km/s/kpc である。 流体モデルを CO (l, v) 図にフィットした結果は、 Ωb = 52±10 km/s/kpc である。太陽付近の古い星の速度分布はバーにより 最も大きな影響を受ける。そのモデルフィットから、 Ωsp = 50 - 60 km/s/kpc である。これら全てを考慮すると、最もありそうな値は、 Ωb = 52±10 km/s/kpc である。それに対応する RCR = 3.5 - 4.5 kpc である。
腕のパターン回転速度 

 渦状腕の回転速度はバーよりも明らかにゆっくりしている。散開星団の 誕生箇所解析は渦状パターンの共回転半径は Ro の僅かに外側であることを 示している。星団年齢は 10 - 100 Myr で、 Ωsp = 25±2 km/s/kpc である。 太陽近傍の恒星速度分布の解析からはより緩い拘束、 Ωsp = (17 - 28) km/s/kpc が得られる。 この結果は過去 1 Gyr にまで遡る。流体力学モデルも同様に低いパターン 速度を支持する。

 二種の天体 

 このようにバーと腕とは力学的に分離した構造であるらしい。