Gas Dynamics and Large-Scale Morphology of the Milky Way Galaxy


Englmaier, Gerhart
1999 MN 304, 512 - 534




 アブストラクト

 準定常な流れ 
 太陽円内側のガスダイナミックスの新しいモデルを提案する。COBE 投影像から 出した近赤外バーと円盤に、中心の質点とあるモデルでは外側ハローも加えた、 重力ポテンシャル中の準定常な流れを決めた。

 渦状腕 
 最良モデルは多くの観測事実と整合する。同期回転の外側にある4本腕構造は 定性的には |l| < 60° での5つの渦状腕端点を再現する。3-kpc腕 はバーの端から出て、同期回転域に伸びるモデル腕と一致する。
 中心核円盤 
 モデルは特にカスプ軌道ショックから半径 150 pc の x2 軌道円盤 への変換を記述している。 

 回転曲線 
 バーの同期回転半径は Rc = 3.5±0.5 kpc に収まる。バーの方向角は 20 - 25° である。HI, CO 観測からの終端速度は l = ±45° ( ∼ 5 kpc) まで、 L/M 比一定の近赤外バルジ+円盤モデルで記述された。


 1.イントロダクション 

 内側銀河系での古い星の分布 

 DIRBE/COBE の NIR データに基づいたモデルと Binney, Gerhart, Spergel 1997  Spergel, Malhotra,Blitz 1996 3次元ダスト分布を使い、  Richardson-Lacy アルゴリズムでj(r)導出した。
15°<φbar<35° がデータと合う。最良解  φbar=20° の例では、軸比 10:6:4 で半長軸= 2 kpc バーが  主軸沿いに 3.5 kpc, 副軸沿いに 2 kpc の楕円円盤に囲まれている。

 バー外側 

 バー外側では、近赤外放射率 j(r) は 3 kpc down the minor axis で極大を示す。  これは、Kent, Dame, Fazio 1991 がリング構造と呼んだものに対応する。 強い腕を不正確に解釈した結果かも知れない。HIIR   (Georgelin,Georgelin 1976) , 分子雲などの分布から銀河系には4本腕構造が示唆されている。それらの腕は 3 kpc 腕の外側に位置し、いわゆる分子リング(Dame 1993) と関係があるようだ。 この場合の問題は運動距離が円運動を仮定して求められていることである。この 仮定から生じるエラーはそう大きくはないだろうが、信頼できるとも言えない。
 正しいガス流モデルが必要 

 COBE NIR で観測されたバー/バルジと円盤を HI, CO の運動観測 (l, v) 図と 結びつけるガスダイナミクスモデルを作ることがこの論文の目的である。 それにより、バーの向き、質量、パターンスピードに制限を課し、銀河渦状腕 の定性的な理解を深める。
 バーポテンシャルでは、共鳴点から遠いところのガスの運動は x1, x2 軌道族のような周期解に落ち着く。しかし、軌道族の遷移近くでは バーの先行端側、渦状腕中にショックが立つ。

ガス流モデル 

 この論文では、 Binney,Gerhart,Spergel 1997 が COBE/DIRBE 観測をノンパラメトリックに脱投影化して得た重力ポテンシャル 中のガス流を smoothed particle hydrodynamics (SPH) 法で計算する。ガスは 準定常な流れに落ち着く。そのモデル (l, v) 図は HI や分子の観測を理解 するのに使える。


 2.観測からの制限 

 2.1.(l, v) 図 

 HI, CO 

 HI, CO の観測からのよいレビューは Burton 1992 を見よ。

 図1 

 図1には Dame et al による CO 観測の結果を (l, v) 図で示した。 vLSR への変換には |vsun| = 20 km/s, 方向 (l, b) = 56.2, 22.8) を仮定した。つまり太陽は銀河中心側で前方方向 に動いていて、usun=-10.3 km/s, vsun=15.3 km/s に相当する。

 2.2.(l, v) 図の解釈 

 円運動の特徴 

 ガスが円運動している時には以下の特徴がある:
(i) 同じ円軌道上のガスの視線速度はゼロ。
(ii) vr = (ω-ωo)Ro sin l
(iii) l = [-90, 90] では、終端速度 vr = [v(Ro sin l) - Vo]sin l
(iv) (ii) 式の結果、l = [-45, 45] では円軌道は (l,v) 図で直線になる。
(v) 銀河系の縁は (l, v) 図の外縁を形作る。
   それは l = [0, 180] では v < 0, l = {-180, 0] では v > 0 である。
(vi) 終端速度から銀河系回転曲線を得ることが出来る。
   それには Ro と Vo, 及び太陽運動が必要。

 禁止速度(forbidden velocity) 

 図1は l = [-90, 90] の (l, v) 図である。図には明らかに内側銀河に属していて (なぜ”明らか”なのかは不明)外側銀河のガスではないに拘わらず、視線速度のサイン が逆の構造が存在する。 これら禁止速度は大きいものでは vr ∼ 100 km/s にまで達し、内側銀河での非円周運動の直接の証拠を示している。この非 円周運動はまた、以前の研究では回転バーポテンシャルと結びつけて解釈された。 (Peters 1975, Mulder,Liem 1986, Binney et al 1991)
 3 kpc 腕 

 それらの内で最も著しい構造は 3 kpc 腕である。図1では (l, v) = (10, 0) から (0, -50) を通過して (-22, -120) に達している。 

 |l| > 25 では円周運動 

 |l| > 25 では円周運動で観測 (l, v) 図を説明できる。12CO の 大部分は R = [4, 7] kpc の分子リングと呼ばれる領域(Dame 1993)から出ている。 これは実際にはおそらく二本のきつく巻いた渦状腕であろう。




図1.b = [-2, 2] 積分の CO (l, v) 図。(Dame et al in preparation)


 2.3.終端速度 (terminal velocity)  

 図1の終端速度 

 図1の左上と右下の外郭速度は終端速度を示している。終端速度曲線はモデル 間の比較や、質量光度比の較正に用いられる。
 l = 2 のピーク 

 特に興味深いのは l = 2 で vr ∼ 260 km/s に達するピークである。その外側の下落は 極めて急で、ほぼケプラー運動に相当し、軸対称なバルジモデル(Kent 1992) で再現することは困難である。 vr の急激な落下は軌道の形が この領域で変化する(Gerhard, Vietri 1986)ことと関係するのではないか。 Binney,Gerhart,Stark,Bally,Uchida 1991 のモデルでは、ピークは回転バーポテンシャルのとんがり軌道(cusped orbit) に伴う現象である。このモデルではその後の vr の急激な落下は 隣り合う x1 軌道の形を反映している。





表1.観測とモデルの終端速度の比較

 2.4.渦状腕 

二つの渦状腕終端点 

 図2には HIIR, 分子雲の (l, v) がプロットされている。l ∼ ±50, l ∼ ±30 に二つの渦状腕終端点が見える。+30° 成分は 30 と 25 とに分かれる。

 渦状腕を追跡する天体 

 表1には渦状腕を追跡する天体を載せた。内側盾座終端点 l = 25 は時には 北の 3 kpc 腕とされる。
( 意味不明 )


 4本腕 

 主渦状腕の終端点はこのようにかなりはっきりと決められるが、両側の終端点を どうつなぐかはあまりはっきりしない。HIIR の分布から   (Georgelin,Georgelin 1976) は R = 4 kpc から太陽円を越すあたりまでの 4 本腕構造のスケッチを示した。 その後の研究で細部の修正はあるが、現在も基本的にはこの描像は支持されている。

 4本腕モデル 

 図2には我々の第4章で述べるモデルの (l, v) プロットを加えた。このモデル は COBE バーの端から発する2対の腕を持つ。モデルは観測から得られた腕の終端点 にかなり良く合っており、終端点同士がどうつながるかを教えてくれる。

図2.白丸= Georgelin,Georgelin 1976, Downes et al 1980, Caswell, Haynes 1987 による HIIR. 黒丸= Dame et al 1986, Bronfman et al 1989 の CO 分子雲。矢印=分子雲の集積点。M < 10 5.5 Mo 以下の雲は落としてある。実線=我々が標準とする φbar = 20 COBE バルジ/円盤モデルにおける渦状腕の 位置。


 2.5.銀河中心付近の濃いガス 

 平行四辺形パターン 

 12CO では光学的に厚くなる濃い領域でも 13CO, CS では覗ける。Bally et al 1988 には l = [-1, +1.5] で 13CO の 非対称平行四辺形のような (l, v) 図が載っている。これは、終端速度ピーク とほぼ一致し、 Binney,Gerhart,Stark,Bally,Uchida 1991 の x1 軌道に伴う構造である。この解釈では、(l, v) 非対称性の 一部は φ = 20° に傾いたバーのポテンシャルに付随する軌道の 視点効果として説明される。

 内側分子雲の軌道 

 もっと濃い領域では CS が巨大分子雲を追跡する。これらの雲は、内側リンド ブラッド共鳴点の内側で、 x2 軌道を運動している(Stark et al 1991) と考えられている。これ等の雲は軌道速度が ≤ 100 km/s である。

 2.6.チルト(tilt) と非対称性 

 円盤の傾き 

  x2 円盤と 3 kpc 腕との間にあるガス円盤は、多分銀河面に 対して傾いている。Burton, Listz 1992 は HI 円盤が 13° 傾いている とした。彼らは観測される非対称性はこの傾きと変化するスケール高効果から 説明できると述べた。Heligman 1987 の得た傾きは 7° であった。

 非対称性の原因 

 銀河中心に存在する分子ガス円盤は大変に非対称な形をしている。 13 CO と CS の 3/4 は第1象限側から来る。又、別の 3/4 は視線速度正である。 銀経分布非対称性の一部は視点効果で、二つの非対称性の一部は分子雲の分布が 一方向に片寄っているためであろう。それでも、この非対称性を3軸対称ポテン シャルからのずれの影響と看做すことも可能である。

 2.7.太陽円半径と速度 

 モデル速度場は太陽・銀河中心距離で正規化される。 Binney et al. 1991 では Ro = 8 kpc が採用された。この論文もこの値を使用する。 また LSR 速度 Vo = 200 km/s を使う。


 3.モデル 

 3.1.質量分布モデル 

 3次元近赤外光度分布 

 Spergel et al 1996 は COBE/DIRBE マップから3次元ダスト分布モデルを 使って、バルジ領域の減光補正した近赤外マップを作り、さらにそれを脱投影化 して3次元近赤外光度分布を求めた。

 8重3軸対称性 

 この操作で仮定されたのは分布が相互に垂直な3つの平面に関して対称で あるということである。この基準系の方向に応じて、バーバルジは様々な表面 輝度分布に投影される。そこに距離 8 kpc の視点効果が加わり、かなりの 非対称性を生み出す。反対に、基準面の方向が固定されると、非対称性を使い、 3軸密度分布を回復できる。ただし、腕や尻すぼみ型形状は扱えない。しかし、 腕はモデルと観測との残差として得ることが出来る。

 バー軸方向 

 基準面の方向は二つの角度で指定される。一つはバーバルジの主面に対し、 太陽の成す角度を与える。この角度は太陽が銀河面の上僅か 14 pc に位置する ことから小さい。もう一つ φbar は太陽ー銀河中心線に対し、 バーの主軸が成す角度である。この角度は投影輝度分布からはそれほど良くは 決まらない。 φbar を固定すると、逐次近似法によって3次元 放射分布が決まる。残差の大きさ、バー形状の制限から φbar = {15, 35] が受け入れ可能なので、中間の φbar = 20 を使う。
放射極大点の解釈 

  φbar = 20 から得られるバーの軸比は 10:6:4、主軸半径 = 2 kpc である。その周りを楕円形の円盤(?)、長軸半径 3.5 kpc, 短軸 半径 2 kpc が囲んでいる。バーの外側では、近赤外放射分布は 3 kpc down the minor axis で極大に達する。
(英語が分からない。こんなに遠方も 3平面対称を仮定して脱投影しているのかどうかも分からない。 )
この極大は Kent et al 1991 のリング構造に対応する。この構造の真の性質は まだ不明である。可能性としてはラグランジュ点付近に溜まった星、
(だから、先の 3 kpc ... は本当に 短軸に沿って 3 kpc の地点という意味なんだ!。 )
しかし、3.3,4.1節の議論からありそうにない。または、共回転の外側 の x1 軌道、又は Athanassoula 1992 の提案したダイアモンド型の 1: 4 共鳴軌道という考えもあり得る。しかし、最も良さそうなのは、間違えて 脱投影化された強い腕構造だというものである。この構造を質量分布モデルに 取り入れると自動的に銀河系重力場への渦状腕からの寄与が取り込める。

  M/LL 一定の3次元放射分布

 この後では L バンドの脱投影化3次元放射分布を使用する。 Rhosds 1998 は 星形成域での超巨星の影響から M/LL 一定の仮定に疑問を提出している。 この点は後に論ずる。


 3.1.1.カスプ 

 尖頭状密度分布 

 銀河中心付近の質量分布は ∝ r-p で近似される。 Catchpole, Whitelock, Glass 1990 は K = [6, 8] 星計数から p = 2.2 ± 0.2 を得た。Lindqvist, Habing, Winnberg 1992 による OH/IR 星の分布は p = 2.0±0.2 を示す。OH/IR 星の視線速度と、速度分布の等方性を仮定し、 Lindqvist et al 1992 は 100 pc 以内の質量分布を決めた。それによる質量 分布は r = [20, 100] pc で p = 1.5 である。全体の密度勾配は Becklin, Neugebauer 1968 が求めた p = 1.8 に近い。
COBE マップの作り方 

 DIRBE/COBE から Spergel et al 1996 が作った NIR 減光補正マップにはこの 尖頭状分布は現れない。それは分解能が 1.5° と大きいからである。 上の分布と整合させる手続きが書いてあるが略。 

 3.1.2.外側円盤 

  Binney,Gerhart,Spergel 1997 の放射分布は x, y = [0, 5] kpc, z = [0, 1.4] kpc の密度分布を与える。 その外側 R > 5 kpc の銀河円盤はパラメタ―表示の密度分布が必要である。 モデルには2重指数関数を採用する。最少二乗フィットから、Rd = 2.5 kpc, z0 = 210 pc, z1 = 42 pc とした。


 3.2.重力ポテンシャル 

 重力ポテンシャルを多重極展開 

 重力ポテンシャルを多重極展開して、
   Φ(r,φ) = Φ0(r) + Φ2(r,φ) cos(2φ) + Φ4(r,φ)cos(4φ) + ...
ここに、Φ0は単極、Φ2 は4重極、 Φ4 は8重極項を表す。図3を見ると分かるように、より高次 の項は効かない。

 中心尖頭分布の扱い 

 R = 350 pc でポテンシャルを多重極分解からべき乗則に切り替える。もし 尖頭型ポテンシャルにしないと x2 軌道が含まれなくなることを 注意しておく。そうなると得られるガス流パターンは異なってしまう。

 回転曲線 

 図4にはこのポテンシャルから得られる回転曲線を示す。
(非軸対称ポテンシャルでの回転曲線? )



図3.標準 φ = 20° バーモデルにおける色々な多重極成分の寄与。
ダークハロー 

 もしバルジと円盤とが maximal, つまり M/L 比が終端速度に対応する最大の M/L 比を有しているなら、我々はダークハロー成分をバー領域に仮定する必要は ない。これは多分かなり本当であろう。と言うのは、この最大 M/L を仮定しても 円盤とバルジの質量は観測されたマイクロレンズ光学的深さを説明するには ファクター> 2 不足だからである。それで、ダークハローは考えない。

 一定回転速度 

 しかし、バーの共回転点より外側の渦状腕に対してはダークハローは幾分かの 影響を持つだろう。ただし、銀河面上のガス流のみを扱っているので、ダーク ハローの詳しい密度分布は不必要で、Φ0 成分をいじって遠方で 一定速度に接近するようにすれば良い。平坦回転曲線モデルは図4に示した。 このモデルで太陽円におけるダークハローの求心力への寄与は 23 % である。


図4.実線=標準 φ = 20° バーモデルにおける回転曲線。 破線=リングを抜いたモデル。点線=外側回転速度一定モデル。スケール定数 ξ = 1.075 を仮定。





図5.左:φbar = 20°, Ωbar = 80 km/s/kpc モデルに対する有効ポテンシャル。共回転領域での4つのラグランジュ点も示 してある。右: Ωbar = 55 km/s/kpc 以外は左に同じ。円盤での 短軸 3 kpc にある質量極大が大きくなった共回転半径付近にかなり影響するので ラグランジュ点が8個になる。




図6.左:φbar = 20° バーモデルの共鳴ダイアグラム。 右:Ωbar = 60 km/s/kpc での x1, x2 軌道の例。外側から第2と第3軌道の間のギャップは 1:4 共鳴の位置を示す。

 3.3.有効重力ポテンシャル、軌道、共鳴図 

 ラグランジュ点 

 作成した銀河モデルは、短軸 3 kpc の密度極大の効果で特殊な性質を 持つ。より普通のバー銀河モデルでは、バーの回転系での有効ポテンシャル
     Φeff = Φ - (1/2)Ωp2 R2
は通常の4つのラグランジュ点を持つ。我々のモデルではパターン速度が大きい 場合にはその通りである。しかし、パターン速度 Ωp = 50 - 60 km/s/kpc、後で見るがこれがバーの妥当な値、では不安定なラグランジュ点4つと 安定なラグランジュ点4つを持つ。不安定ラグランジュ点は軸上にあり、安定ラグ ランジュ点は軸から離れた所にある。図5を見よ。より回転速度が小さくなると ラグランジュ点の数は再び4つになる。しかし、鞍点が極大に極大が鞍点にと 交替する。
軌道の構造 

 軌道の構造を詳しく調べることはここではしない。われわれが見つけた軌道の 幾つかを図6に示す。x1, x2 軌道と共鳴 1:4 軌道が 8ラグランジュ点のケースでは見出される。軌道の命名は Contopoulos, papayannopoulos 1980 に倣った。

 ピーク 

 適切なスケーリングを行うと、x1 軌道の外郭は (l, v) 図 の観測終端速度を再現する。そして曲線のピークは尖がりx1 軌道 に対応する。これは第4節で論じる。


 3.4.流体モデル 

 SPHコード 

 SPH = smoothed particle hydrodynamics コードでガスの流れを計算した。 重力ポテンシャルは3.2.節で与えたものを使い、Ωbar の回転系での運動を考える。流体近似のオイラー方程式は以下の通りで、 cs は有効音速である。
( コリオリ力が無いけどいいのか?)
∂v +(v⋅∇)v = -cs 2 ∇ρ -∇Φ
∂t ρ


この定式は Cowie 1980 の結果である。 彼は有効音速(音速ではないことに注意)が雲のランダム運動を考慮された近似 になることを示した。


 3.5.モデルパラメタ― 

 3.5.1.バー 

(i) Rc = 共回転半径。Ωp = パターン速度。 これらにより、共鳴半径、渦状腕、ガス流のショックの場所が決まる。
(ii) φ = バーの方向角。

バーの形、密度分布は NIR 光の分布で制限される。しかし、その形の詳細は 8重対称性の仮定で依存している。この仮定はバルジ内側に対しては良さそう だが、外側のバーに対しては強すぎる強制かも知れない。そこでは渦状腕の 密度波が運動に影響しているかも知れないからである。また、分子雲の片寄り や、 3 kpc 腕を説明するには m = 1 摂動項の導入が必要かも知れない。

 3.5.2.質量モデル 

(i) ξ = スケール定数 = 近赤外光度と質量の関係。
( よく分からない量)
(ii) ダークハローが R > 5 kpc には必要である。 これで、ハロー領域での一定回転速度を決める。

 3.5.3.LRS 

 Ro = 8 kpc. Vo = 200 km/s

 3.5.4.ガスモデル 

 等温単一流体(Cowie 1980) という単純なモデルを使用した。有効音速 cs は太陽近傍で 6 km/s, 銀河中心で 25 km/s である。 円盤全体で一定 cs = 5 - 30 km/s で試したが大きな差は得られ なかった。質量分布に対応してガス流も8重対称性を仮定した。


 4.結果 

 4.1.ガス流の形状 


図7.φbar = 20、共回転半径 Rc = 3.1 kpc の COBE バー におけるガス流。この図及びこの先の図では、バーの長軸は x-軸に沿っている。 太陽位置は x = -7.5, y = -2.7 kpc である。シミュレイションは N = 20,000 の SPH 粒子で行われた。初期円盤は R = 7 kpc まで広がっていた。ポテン シャルの多重極展開は l = 6, m = 4 まで行った。
( l って何だ?)




 初期状態 

 最初のシミュレイションでは Ωp = 60 km/s/kpc、共回転 半径 Rc = 3.1 kpc のバーを仮定した。ガスモデルの初期状態は円軌道上で密度一定 として有効等温音速 cs = 10 km/s を仮定し、 N = 20,000 個 の SPH 計算を行った。

 4本腕構造の出現 

 図7にこの計算結果を示す。共回転の内側 R < Rc では二つの腕がバーの両端 付近に現れた。共回転の外側に4本の腕が見える。この4本腕構造は COBE バーポテンシャルで計算した全てに現れた。多くの研究者が4本腕は観測結果 に最も合う構造であると考えている。Vallee 1995 のレビュー参照。

 腕の出発点 

 4本腕の内2本は主軸の端、2本は短軸の端付近から発生する。他に 8重極項に対応して付加的な腕の対が起きる。この項を除去したモデルでは 二本の腕しか現れない。

図8.図7と同じだが、R > 3 kpc では m ≠ 0 の多重項をゼロにして ある。l = 0 項は変わらないので、遠回転曲線は変わらない。ガスモデルは 10 kpc まで広がり、 N = 20,000 個である。



バーのみによる構造形成 

 図8は、 3 kpc の先で m ne; 0 の密度多重項をゼロとした場合のシミュレ イションである。この変更は円回転曲線を変えない。ガス流の構造は全て 共回転の内側にあるバーにより導かれるが、それによる4重極モメントは小さい。 その結果、図には2本の弱い渦状腕が現れただけである。(l, v) 図には l = ±50° に接点が出来るが、このモデルでは l = ±30° 接点 は形成されない。精々僅かに密度超過が見られるだけである。こうして、 3 kpc 外側の構造を全て バーに負わせようとする図8のモデルは正しくない。

 短軸沿い 3 kpc のピークが重要 

  3 kpc 外側でのポテンシャルの4重極、8重極の双方は短軸沿い 3 kpc にある 放射/密度ピークの効果が支配的である。図7と図8を比べ、我々は R = 3 - 8 kpc で観測に合う渦状腕を生み出すにはこのピークがかなり強くなければならないと 結論する。

 

 短軸上のこのピークは図7で二つの強い腕の頭付近に存在するガス粒子の 少しぼんやりした集積箇所に対応する。ガスの腕は通常星の腕に付随するの で、これは短軸上のピークは誤って脱投影された腕と解釈するのが妥当であろう。


 4.2.時間進化 (略) 




図9.t = 0.3(左上), 1.0(右上). 2.0(左下). 3.0(右下) Gyr。ガスが落下するに 従い、パターンがぼやけて来る。

 4.3.(l, v) 図 


図10.上:図9の t = 0.3 Gyr, 下:図9の t = 3 Gyr の (l, v) 図。 Ro = 8 kpc, Vo = 200 km/s 仮定。x2 軌道にある内側円盤、 終端速度曲線、渦状腕が明らかである。



 中心核円盤の (l, v) 図 

 図10には図9の t = 0.3 Gyr と 3 Gyr の時の (l, v) 図を示す。 中心から鋭く立ち上がる明るい筋は x2 軌道にある濃いガス の円盤のものである。

 (l, v) 図上の腕 

 図11の上図にはシミュレイション t = 0.3 Gyr での腕の位置、 尖頭軌道ショック(ダストレーン)
( 具体的にどれ?)
、 x2 軌道円盤が図示されている。この図で太陽は x = -7.5 kpc, y = -2.7 kpc にある。図11下図は対応する(l、v)図である。
渦状腕が視線を2回横切るとそれは (l, v) 図上では弧の一部として見える。 図11の細い実線の2本の外側渦状腕、内側銀河のバーに引き起こされた太いのと細い破線 でそれが起きている。 3 kpc 腕とその銀河中心向こう側の対応腕はバーで引き起こさ れている。

図11.上:図9左上(t= 0.3 Gyr)から採った渦状腕のパターン。 下:(l, v) 図上での同じ腕の位置。



図から分かること 

(i) l = [-60, 60] での腕の数と位置は近似的に正しい。

(ii) モデルには l = 0 で v ∼ -30 km/s を通過し、南の終端速度付近 で溶け込む腕が含まれている。定性的にこの腕は 3 kpc 腕と似ている。 ただ観測では v = -50 km/s を通過している。

(iii)  x2 軌道円盤中ガス粒子の位置と速度は l > 0 の銀河 中心分子雲のそれに近い。

(iv) 終端速度曲線は l = 0 付近で大きな速度へ上がる。ただ、観測程大きく はならなかった。

 4.4.終端速度曲線 


図12.銀河系終端速度曲線のモデル計算との比較。黒四角= HI (l = [0, 10]). Burton,Listz 1993. 白四角= HI (l = [0, 20]).Burton unpublished. 白丸= HI 終端速度 (Fich, Blitz, Stark 1989). 菱形(エラー付き)=12CO 終端速度。Clemens 1985. 菱形(エラーなし)=13CO Alvarez, May, Bronfman 1990.
モデル終端速度は、一点鎖線=低分解モデル。ハローなしで下降回転曲線、 点線=高分解で範囲は狭い。細い実線=低分解、一定回転速度。 太い実線=高分解、一定回転速度(お薦め)全てのモデルで φbar = 20°, Rc = 3.4 kpc.




 スケール定数 ξ  

 視線方向での最高速度を探して、モデル終端速度曲線を描いた。 Ro = 8 kpc, vLSR = 200 km/s を仮定した。これ等のモデル終端曲線を 観測終端曲線に眼視フィットして、スケール定数 ξ を決定した。質量 M とポテンシャルは ξ2 で変換される。

 ダークハロー 

 図12にはいくつかのモデル終端速度曲線を観測と比較した。モデルの 空間分解能や計算範囲は互いに異なる。一点鎖線は R = 9 kpc まで広がった モデルで, l ≥ 40 - 50 で観測と合わせるにはダークハローが必要で あることを示している。

 観測とモデルとのずれ 

 モデルと観測の間に大きな差が存在するのは次の2点である。
(1)l = 2 ピークとその先でモデルの v は小さい。モデル分解能?
(2)l = -20 付近での差が大きい。短軸 3 kpc の密度超過の不正確さ?
l = -20 の視線は、短軸 3 kpc 密度超過、3 kpc 腕の端、共回転外側腕の頭 の3つを同時に通過する。図11を見よ。8重対称性による制限はこの領域に 対しては不正確な描像を与えるのかも知れない。

図13.上: x1 軌道の上側外郭が内側終端速度曲線を 形成している。図には図12と同じモデルポテンシャル中での x1 軌道を示す。各軌道は (l, v) 図上では平行四辺形状の形を描く。いちばん 内側の x1 軌道は尖頭軌道で l = 2 でピークに達する。その内側 ではガスは x2 軌道に切り替わる。その最高速度は 120 km/s で ある。比較のため、観測された北側終端速度を図に示す。
下:図12の太い実線(高分解計算)に対応する(l, v) 図上での粒子分布。 この分解能でも尖頭軌道や内側の数個の x1 軌道は落ちている。 このプロットに現れる平行四辺形構造は内側上側で l = 3°, v = 220 km/s までしか達しない。一方、軌道では l = 2°, v = 270 km/s, 観測では l = 2°, v = 260 km/s である。




スケール定数 

 両側の終端速度曲線をフィットしてスケール定数として ξ = 1.12 を得る。 これは北側だけで以前に決めた 1.075 より少し大きい。
( 改めて疑問だが、よく分からない量)


 

 図12を見ると分かるが、 l = 2° のピーク終端速度は我々の低分解能 モデルでは再現されない。しかし、図13からは、もし全ての軌道族が同じ スケール定数 ξ で拡大されれば観測は x1 軌道族の外郭 でうまく近似されることが分かる。

 テクニカルな話 

 計算上の色々な問題があるらしいが略。





図14.左列:バー方向 φ = 20° で共回転半径を変える。上から下へ、 Rc = 3.1, 3.4, 4.0 kpc.
右列:Rc = 3.4 kpc でバー方向を変える。上から下へ、 φ = 15, 25, 30°

 4.5.パターンスピードとバーの方向 

 パターン速度決定 

(i) 3 kpc 腕 
 強い非円周運動の腕はバーの共回転半径の内側でのみ存在する。
 したがって、 3 kpc 腕は共回転半径の内側にある。
(ii) 共回転半径
 共回転半径は分子リングより内側である。もし分子リングがSchwatz
 の言うように共鳴で生まれたなら、外側リンドブラッドレゾナンス位置
 に存在し、もし実は幾本かの腕である(Dame 1992, Vallee 1995)なら,
 非円周運動成分が小さいのは腕が共回転半径の外にある証拠。

Solomon et al 1985 は分子雲コアの分布から分子リングの内側の縁は R = 4 kpc にあるとした。Dame 1993 は中性ガス密度が 4 kpc の内側で急激に低下する ことを示した。Space Lab IRT の 2.4 μm 測光から Kent et al 1991 は R = 3.7 kpc 付近にリングまたは渦状腕が存在するとした。これらから我々は 共回転半径 Rc = 4 kpc とする。
 バーの長さと Rc 

 COBE 脱投影の結果では、バーは 3 - 3.5 kpc 付近で消える。N-体計算や 銀河観測の結果では、共回転半径はバー長の 1 - 1.2 倍である。我々の モデルでは Rc = 3 - 4 kpc は Ωp = 50 - 60 km/s/kpc に対応する。

 観測とモデルの比較 

 色々図14の説明が書いてあるが結論がはっきりしない。
最後で 20° モデルは弱くしか支持されないと述べている





図15. φ = 20° の二つのモデルの比較。左:標準モデル。ダークハローなし。 右:ダークハローあり。両方のモデルは N = 100,000 個でガス円盤は R = 10 kpc で 丸められている。観測方向が直線で示されている。太陽は x = -7.5, y = -2.7 に 位置する。星印=大きな HIIR. 丸=巨大分子雲。

 4.6.渦状腕の接点 




図16.腕の重力ポテンシャルを追加したモデル。左:現実的パラメタ―。 右:密度を倍にし、重力スムージング長を半分にしたケース・

 4.7.渦状腕重力ポテンシャル 



 5.結論 

 共回転半径内部 

 バーは共回転半径 Rc = 3.5±0.5 kpc のパターンスピードで回転する。 3 kpc 腕はバーの端から出る腕で、共回転領域へと伸びて行く。

 4本の渦状腕パターン 

 共回転半径外部では、4本の渦状腕パターンが分子リング構造を作り出し、 腕自体は太陽円の外側まで伸びている。この構造はバー短軸上で Binney, Gerhart, Spergel 1997 が発見した密度超過によって引き起こされたものである。これは、質量の 盛り上がりなので、若い星の光度が原因ではない。腕自体を誤分解した 可能性もある。

 終端曲線 

 l = [-45, +45] では終端曲線は円盤とバーのモデルで良く合う。
バーの向き 

 バーの向きは 20 - 25 であるが、不確定性が大きいので 15 - 30 まで 許容される。

 不一致点 

 定量的には一致に問題が残る。
(i) 3 kpc 腕の v(l=0) が小さすぎる。
(ii) 3 kpc 腕の接点はモデル終端曲線が観測と最も外れる位置。円盤マスモデルに 欠陥があるのかも知れない。
(iii)分子観測に現れた平行四辺形は近赤外ポテンシャル中の閉じた軌道の族で よく近似される。しかし流体計算では速度が小さく、サイズが大きくなる。