3D Self-Consistent N-Body Barred Models of the Milky Way


Fux
1999 AA 345, 787 - 812




 アブストラクト

 自己無撞着3次元 N-体計算を使い、銀河系のガスの動力学を調べた。 銀河の星成分は COBE 的なバーを有しており、そこに軸対称分布の SPH 成分を放した。星バーの密度中心は質量中心の周りを揺らいで 動き回り、その結果生じるガスの流れは非軸対称かつ非定常的である。 そのため、HI, CO l-v 図の再現は瞬間的である。これは現在観測されて いる銀河系内側でのガスの運動は一時的なものであることを示唆する。
 最適モデルからバー領域内の l-v データに関する新しい、かつ合理的な 解釈が得られた。特に、早期型棒渦状銀河のバー主軸の進行側の明るい中心から 外れたダストレーンは明らかに同定される。
 3 kpc 腕とその非軸対称位置にある対応腕とは円盤渦状腕の内側延長がバー を回り込んで、非常に異なる銀河中心距離でダストレーンに合体する姿である。 バーニアのクランプ1と2、及び速度空間で伸びている l = 5.5 の構造は ダストレーンの衝撃波を通過するガスの塊りと解釈される。l = ±2.5 の 終端速度の頂点はダストレーンに沿ったガスから生まれ、尖がり x1 軌道を表現しているものではない。尖がり x1 は銀河中心からもっと 離れた個所を通っている。これ等のモデルからの制約から求めたバーは傾斜角 25±.4, 共回転半径 4.0 - 4.5 kpc で上から見た軸比は b/a = 0.6 で ある。


 1.イントロダクション 

 非円周運動1 

 銀河中心近くでは l-v 図上禁止領域、(l > 0, v < 0) と (l < 0, v > 0) にガスが存在する。その最も著しい例は 3 kpc 腕である。

 非円周運動2 

 終端速度曲線が渦状腕接点付近で示す 7 km/s 程度のコブは腕の重力摂動が ガス運動に及ぼす効果を表す。それを円運動の仮定で解析すると 1 kpc 程度の 誤差を生じる。(Burton 1992, Combes 1991)

禁制領域のガス 

 禁制領域のガスの解釈として、この10年はバーポテンシャル中のガス運動 が有力となってきた。多くの流体力学シミュレーションが示した結果は、
(i) 高速回転するバーポテンシャル中のガス流はバー進行面側に生じる強い 衝撃波によってドライブされ、

(ii) 密度超過によりその下流に流れる。(?)
Binney et al 1991 の x1 軌道説 

  Binney et al. 1991 は銀河中心付近のガスの運動を、その流線が x1, x2 軌道 からなると近似した。しかし、そのモデルは衝撃波を正しく扱っていない。

 流体モデル 

 銀河系の流体モデルは回転系で固定されたバーポテンシャルと半回転対称性を仮定して いる。しかし、観測では、
(i) 銀河中心円盤/リングに含まれるガスの 3/4 は第1象限にある。
(ii) 3 kpc 腕と反対側の対応腕は l = 0 での絶対速度が大きく異なる。
(iii) 速度頂点 (l, v) = (3, 270) と (-2, -220) には 50 km/s の差がある。 また、中心核リング/円盤からの放射も同様に後退速度側にずれている。
その上、銀河系は SBbc 銀河 (Sackett 1997)として強いダストレーンを持つはず であるが、 HI, CO データではその部分が切り出されていない。

 N-体モデル 

 Fux 1997 は N-体計算からバーの角度を 28±7°, 共回転半径 を 4.3±:0,5 kpc と定めた。ここでは、SPH 法でバー領域のガス運動を 観測とマッチさせる。


 2.観測結果 


図1.12CO J=1-0 の b = [-2,2] 積分した l = [-35, 35] l-v 図 Dame, Hartman, Thaddeus (2001) Bania 1977 のクランプと 破線 = 3 kpc 腕と逆側の対応腕, を示す。

 3 kpc 腕 

 この腕は Woerden et al 1957 が発見し、V(l=0) = -53 km/s である。その 接線角 l = -22 と当時 の Ro = 8.2 kpc から 3 kpc が出された。この腕を 膨張+回転のリングでフィットする試み(Burke, Tuve 1964)は失敗した。 Mulder, Liem 1986 は回転バーポテンシャル中の密度波としてこの腕を説明した。

  135 km/s 腕 

 Oort 1977 はこれが 3 kpc 腕の対応天体ではないかと疑ったが、V(l=0) = 135 km/s は 3 kpc 腕の対応とするには違い過ぎる。

 The connecting arm

 Rougoor, Oort 1960 に述べられ、多分中心核リング/円盤と外側の円盤を つないでいるように見えるところから付いた名前らしい。(l, v) = (10, 110) 付近で見分けられる。

 中心核リング/円盤または中心分子域 

 l = [-1, 1.5] の中心がずれた濃い分子ガス。Scoville 1972, 海部ら 1972 は平行四辺形型の (l, v) 図から膨張分子リングと呼んだ。そのサイズから  180 pc リングとも呼ばれる。このリングに囲まれた分子雲複合体は円盤上に分布し 回転速度は 100 km/s に達する。祖父江 1995 はそれらが二本のミニ渦状腕を 成すとした。 Binney et al. 1991 はこの四辺形を尖がり x1 と x2 軌道のガスと解釈した。

 分子リング 

 半径約 4 kpc のリング状に分布するガスであるが、空間分布はあまり良く 決まっていない。渦状腕がずれつつ重なり合っている可能性もある。正の 終端速度曲線近くで、二つの分枝を出し、夫々は l = 25 と 30 に接点を持つ。 銀河に見られる内側リングに対応する構造 (Buta 1996)なのであろう。

 クランプ1 

 135 km/s 腕の端 (l, b) = (-5, 0.4) に位置する。銀河系内の濃いガスの 集団としては最も著しい非円周運動を示す。夫々が 2.5 105 Mo の3つの副ユニットにから成る。 Bania 1986 を見よ。

 クランプ2 

 (l, b) = (3, 0.2) に位置し、速度巾が 150 km/s に及ぶ。 Stark, Bania 1986 によると 16 個の 5 105 Mo コアからなる。彼らはそれを バーポテンシャル中のダストレーンまたは内側渦状腕に沿った分子雲の 列を縦に見ていると解釈した。

図2.b = [-1.5, 1.5] での b毎の (l, v) 図。左: HI. 右: CO.


 3.計算方法 

 4.初期状態 



 5.時間進化 


図8.シミュレーション lxx と sxx における恒星中心核楕円体 (SN) + 円盤 の表面密度時間変化。

 5.1.恒星 




図9.質量中心からの星重心の動き。上:距離。中:X 座標。下:Y 座標。

 




図10.細線=ガス固定、lxx シミュレーションでのバーパターン速度の時間変化。 太線=live gas でのシミュレーション。




図11.モデル lxxt1950 で減光補正した COBE K-バンド画像にフィットした結果。 実線= COBE. 破線=モデル。





図12.シミュレーション l10 と l20 におけるガス流の正面図。二つは音速 のみが異なる。各枠は 20 kpc. 点線は星密度。

 5.2.ガス 

 

 

 

 

 

 

図13.シミュレーション l10’におけるガス流の正面図。各枠は 20 kpc. 点線は星密度。





図15.上:12CO と HI の b = [-2, 2](CO), [-1.25, 1.25](HI) 積分 (l, v) 図。中:モデル l10t2066 と l10't2540 の (l, v) 図。バー 傾斜角 25. 下:中モデルの平面分布。観測者は (x, y) = (0, -8) kpc である。 共回転半径= 4.5 kpc(l10t2066), 4.4 kpc(l10't2540) である。左モデルは connecting arm を完全に再現している。右モデルは全体でのマッチがよい。

 6.l-v 図の解釈 

 6.1.結合腕 

結合腕=ダストレーン 

 図16と図17から分かるように結合腕は太陽に近い側のバーの軸衝撃波 である。この腕は、様々な銀河中心距離で衝撃波面を通過し、次に 衝撃波面とほぼ平行に集団となって中心核リング/円盤へと落ちていくガス雲 から形成されている。別の言い方をすると、結合腕は二つあるダストレーンの こちら側の分枝である。他のモデル、例えば l10t2066, では l-v 面での軸 衝撃波が l10't2540 より観測とさらに良く似ている。

 中心核リングによる吸収 

 観測 l-v 図に現れた結合腕はバーの存在の更なる証明である。結合腕は実際 にガスが集結した構造であり、 Mulder, Liem 1986 が言うような、視線上に 同じ速度のガスが重なって見える現象ではない。シミュレーションではガスが 常にショックの全長を表現するわけではなく、したがって、結合腕からの放射が l ≥ 10 で切れていても不思議はない。


図16.モデル l10't2540 における x-y 面上の渦状腕と l-v 面上の構造と の関係。上図では、観測者に近い方の構造を遠い方の上に描いた。
l-v 動画では時々ガスの塊りが枝腕 から供給されて結合腕に沿って流れて行く。枝腕の終点から衝撃波に沿って 中心核リングまでの時間は 15 - 20 Myr である。もしもこのガスが中心核リング に吸収されなかった場合、向こう側の衝撃波にぶつかるまでのはさらに 10 Myr かかる。定常モデルでの計算結果によると、リングでの吸収率は 20 % 程度で ある。各衝撃波に含まれるガスは 4 107 Mo である。

 向こう側の軸衝撃波 

 図16を見ると、向こう側の軸衝撃波は l-v 面ではほぼ垂直に立つ。図1 には l = -4 に正にそのような尾根が見える。この現象は衝撃波線の向きが視線 方向とほぼ平行しているからである。速度の変化は衝撃波に沿って流れるガス の速度が中心核リングに接近するにつれ急激に高速化するためである。

 6.2. 3 kpc と 135 km/s 腕 

135 km/s 腕 

 3 kpc と 135 km/s 腕は分枝腕である。二つの腕の間で観測される速度の非 対称性は、 135 km/s 腕が 3 kpc 腕よりも銀河中心近くを通過するためである。 図17を見ると、135 km/s 腕のガスはガスに沿って運動し、ポテンシャル井戸 により深く落ち、ダストレーン衝撃波に打ち当たる前により大きな禁制速度に 達している。

 3 kpc 腕 

 3 kpc 腕のガスは 135 km/s 腕より遠方でダストレーン衝撃波をくぐった後、 中心核リング/円盤へとより高いポテンシャルエネルギー地点から落下を始める。 その結果、リング/円盤に近づく速度はより大きい。これが速度ピークが強めら れる理由である。しかし、モデル l10't2540 にはそのような速度非対称が 見えない。この非対称性は中心核/円盤と LSR との動径方向運動からも 生じる可能性がある。

 分子リングとの関連 

  l = 25 に接点を有する分子リングの内側分枝は 135 km/s の外側への外延である。

図17.バーの回転系でのモデル l10't2540 の速度場。灰色の曲線は渦状腕の 位置。
( 3 kpc 腕のガスは腕を横切るのでは なく、腕に沿って流れている。その速度場はその両側と特に際立った差はない。 しかし、図15右下の密度図を見ると、濃い密度で周りと同じ速度のガスが 3 kpc 腕の中を流れていることが判る。結合枝のガスを供給しているのは 3kpc のガス。だから 3 kpc 腕の終端はすごいことになる筈。うーん! )

 6.3.バニアの雲塊 

 衝撃波での速度変化 

 図19にはモデル l10t2066 で において、結合腕に垂直な4本のすき間に 沿っての X-速度(下)、Y-速度(上)および密度分布を示す。衝撃波は x = -0.55 kpc 付近に発生し、その下流側に巨大なガスの集積を生み出す。衝撃波を越える 際に特に衝撃波に沿った速度成分 (Y-成分)は大きな変化を受ける。これは軸 衝撃波のズレ応力的性質を示している。

 速度構造の解釈 

  Bania 1977 の雲塊2と l = 5.5 付近に見える垂直構造(図1)は 3 kpc 腕と中心核リング /円盤との間のどこかで今まさにダストレーン/衝撃波を横切ろうとするガスの 塊りを示している可能性がある。その上流側は前衝撃波軌道に沿って、準遠点 速度で動いているが、下流側は後衝撃波の内向き高速度へと加速されつつある。 その結果、図18に見られるような大きな速度勾配が生まれ、観測としては 100 km/s を越す大きな速度巾が現れる。


図18.モデル l10't2540 の b = [-2, 2] 等視線速度図。このモデルの密度 分布と l-v 図は図15右側にある。線間隔は 20 km/s で太線は 0 km/s を表す。
( 図17の垂直速度成分を等高線にしたと 考えてもいいし、もし、LMCのように、斜め上から見た時に観測される視線速度 分布と考えても良い。)



図19.モデル l10t2066 において、結合腕に垂直な4本のすき間に沿っての X-速度(下)、Y-速度(上)および密度分布。衝撃波の右側では左下方向の運動が 衝撃波を過ぎると左方向に変わる。衝撃波面の 10 pc 以内に高密度帯が形成 される。
 l = 5.5 の雲塊 

この解釈を支持する観測事実とし ては l 5.5 塊りの放射がほぼ同一銀緯に制限されていることがある。これはガスが 空間的に制限された領域内に存在していることを示す。また、この塊と同じ 銀経 l にある結合腕成分は、図2を見ると塊りと大体同じ銀緯 b を示す。
( 図2 b = -0.5 の特に右側 HI 図 を見ると b = 5.5 垂直構造が 3 kpc 腕と結合腕を結んでいる。 )


 クランプ2 

 クランプ2は同じ l で較べると結合腕に対し b で 0.5 の差がある。また 質量も 107 Mo ある。しかし、もしこのクランプが実際にその軌道 遠点付近にあるなら、衝撃波には非常にゆっくりと入って行き、 200 km/s を 越す高速ガスに当たるであろう。すると長時間の間には大きな運動量をえること になるであろう。その上、クランプはループを成す準 x1 軌道に 沿って動いていて、クランプ複合体の大きさがループ自体と同程度だと、エネ ルギーを自己散逸する可能性がある。

 クランプ2はダストレーンか? 

 もし、結合腕が実際にダストレーンをなぞって いるなら、 Stark, Bania 1986 が提案する、クランプ2はダストレーンであるという説は崩れる。銀河系に二 重バーがあれば別だが。注意しておくが、モデル l110't2540 の軸衝撃波は、もし バーの傾斜角が 15° であるなら、クランプ2の方により似ている様子を 示す。

クランプ1 

 クランプ1は Bania et al 1986 によれば、重力的には非拘束の幾つかの雲から なる。その位置は 135 km/s 腕の南端部分に当たる。モデル l110't2540 によると、 その運動はやや不鮮明である。このガスの一部はダストレーンに吸収され、 v = 100 km/s から v = 0 km/s へと大きな速度変化を受ける。もう一方、クラ ンプ1の l < -5 部分は外側へとずり出て行くが、遠点に達するまでは衝撃 波を越さない。図16のマゼンタ色の線片を見よ。この雲が衝撃波に与える 運動量は衝撃波の外側部を曲げてしまう。遠方側ダストレーンは視線に沿って 並んでいるので、 l = -4 の垂直構造は実際にはダストレーンに沿って、 衝撃波に誘発された速度勾配を持って並んでいる雲の重なりである。図20を 見よ。

クランプ1の星形成条件 

クランプ1は非常に乱されて、圧縮を受けている領域である。従って、 星形成の潜在的な発生地である。長谷川の私信によるとそこでの12 CO の J=2-1 対 J=1-0 ライン比は特に高く、濃い分子雲の存在を示している。 しかし、つよいズレ応力が星形成の進行を妨げている。 クランプの大部分はその大きな質量と衝突速度のおかげで、衝撃波を大した 影響も被らずに通過する。


図20.シミュレーション l10 における SPH 粒子の(上) X-Y 面及び(下)l-v 面での軌跡。t = 1994 から 2200 Myr まで間隔 2 Myr でプロットした。 X-Y プロットはバーの回転系で表示した。バーの傾斜角は 25° である。l-v 図は (X, Y) = (0, -8) から見た図となっている。選ばれた粒子は t = 2066 に 分枝腕と衝撃波面の境界を図15の左下枠で (X, Y) = (-1.4, -2.4) を 通り過ぎる。粒子が遠方衝撃波を通過する際の大きな速度変化に注意せよ。

 6.4.ガス円盤の傾き 

 腕の銀緯が象限で変わる 

 以上の解釈をさらに支持する観測事実は、l > 0 側で 3 kpc 腕と結合腕 の双方が b < 0 側に見出され、一方 l = -4 のダストレーンと 135 km/s 腕の l < 0 部分は b > 0 にある。図2の b = 0.5 を見よ。 従って、モデルでは互いに作用しあっているとされる構造成分は銀緯でも 近い位置に見出される。

 腕の傾き 

 このように、銀河中心から 1 - 2 kpc 以内にあるガス円盤は b = 0 面に対 して傾いている。図2を見ると、結合腕は l = 5 まで b が低下して来るが そこの b = -1 で止まっている。ダストレーン=結合腕を終点から銀河中心 方向に伸びる直線で近似し、第7章での議論と、図23の表記を使うと、 φ0 = 25 として、放射帯の銀河面に対する傾き角は、
     θ = tan-1|sinφ0tab b/sin l| = 4.8°
である。これは銀河面の下 120 pc に当たる。同様に向こう側の腕に対しては l = -4.5, b = 0.8 を終点として、同様に θ = 4.3° 、 高度 +135 pc が得られる。
同じような傾きは Dame et al (1987), Dame, Hartman, Thaddeus (2001) にも見られる。 しかし、そこではダストレーンからの総放射への寄与はほんの少しである。
( Dame の論文には tilt のことは 出ていない。ここで使っている CO データは Dame のもの。速度情報のない FIR では区別は無理か?)
Blitz, Spergel 1991 はバルジバーが 5.5° 傾いているとしたが、COBE のデータからはそのような傾きは検出されていない。 興味深いのは 中心核 180 pc 分子リングも見かけ 6° の傾き 内田 その他 1994, Morris, Serabyn 1996 を示していることである。

 Burton, Listz 円盤の傾き 

 2 kpc ガス円盤のもっと大きな 20 - 30° の傾きが古い Cohen 1975, Burton, Listz 1978, Listz, Burton 1980 で主張された。最近では Burton, Listz 1992 は新しいデータを使い、中心円盤は銀河面と重なり、 外側でフレアしたワープという新しいモデルを提案している。ワープの中間面 角度は θmax sin(φ - φ0) と表される。 φ0 = 45, θmax = 13 なので、我々の ダストレーンの φ = 25 に対しては θ = 4 を与え、よい一致を 示す。





図21.瞬間的に凍結した回転ポテンシャルでの尖がり x1 軌道 をモデル l110t2066 (左)のガス分布と l-v 図(右)に重ねて描いた。実線= 質量中心を通る垂直軸に関する対称性をポテンシャルに課して得た軌道。点線 と実線=実際のポテンシャルの瞬間値の周りの軌道で両端に尖がり点を有する。。 バツ印はラグランジュ点。細い円は共回転円。この粒子表示の l-v 図は図15 の l-v 図と見かけが違う。これは視点からの距離の逆二乗の重みを付けていな いためである。こちらの表示では分子リングはあまり目立たない。

 6.5.中心分子帯 

 Binney et al. 1991 モデル 

 l-v 図のこの部分の解釈は非常に困難である。 Binney et al. 1991 は x1 閉軌道という概念を使って、回転バーポテンシャル中のガス 流を説明した。彼らは、l-v 図の終端速度曲線を自己交差しない軌道群で 説明し。180 pc 分子リングの平行四辺形 l-v 形状をそれらの軌道群の最内側 に位置する尖がり x1 軌道に帰属させた。彼らの説明では 衝撃波が原子ガスを分子に変換し、ガスをもっと生存性の高い x2 軌道に落としていく。

 モデルの問題点 

 このモデルにはいくつかの問題があった。
(i) 180 pc 平行四辺形の形が非対称である。特に (l, v) = (-0.8, 140) の 禁制領域のかなり強い放射が問題である。この部分は尖がり x1 軌道の投影効果では説明が難しい。
( 図1や Dame et al 2001 を見ても どこかよく分からない。)
(ii) l-b-v データキューブでは、180 pc 平行四辺形は単一の構造ではなく、 いくつかの構造の集まりに見える。Morris, Serabyn 1996 の図4を見よ。 例えば、その上辺は想定される平行四辺形の銀経範囲を超えた先まで伸びて、 正速度終端速度ピークを経て結合腕に繋がっている。
(iii) 終端速度ピークと平行四辺形を同じ尖がり x1 軌道で 同時に作ることはできない。なぜなら、終端速度ピークは平行四辺形より 有意に外側に存在するからである。
(iv) 平行四辺形の銀経縁 l = -1, +1.5 はモデルでは先行衝撃波と理解され ている。モデルではそれははっきりした構造を示すが、観測ではもっと乱れ ている。 (v) 我々の論文Iで計算した恒星の尖がり x1 軌道は観測される HI 終端速度ピークと合わない。最も良く合うモデルは常に、若くてまだ安定 化していないバーに現れる。年数の経ったバーでは尖がり x1 軌道が作る速度ピークは観測されるより大きな銀経に現れる。
 衝撃波による終端速度ピークモデル 

 図21は、ダストレーン衝撃波が実際に正と負の終端速度ピークを形成する ことをモデル計算から示している。さらにそれは衝撃波が尖がり x1 軌道とは同一でないことも示している。恒星軌道の方は速度ピーク位置がもっと 絶対銀経値で大きいところにあり、かつ速度が小さい。衝撃波のガスは非周期 軌道に沿って動き、その近点は尖がり x1 軌道よりずっと銀河中心 に近い。このように、天の川での尖がり x1 軌道は Binney et al. 1991 モデルよりずっと大きいと思われる。これが彼らが非常に小さな共回転半径 2.4 kpc を得たかの理由であろう。

ダストレーンと中心円盤の位置のズレ 

 ダストレーンのガスは中心核リングに遠方から落ちるが、必ずしも全てが リングに融合するわけではない。多くはリングを回り込み、反対側のダスト レーンに到着する。ガスがダストレーンから落ち始める位置が中心リングから 遠ければ遠いほど、リングから遠くを通過する。 180 pc 平行四辺形の上辺と下辺はそのような通過ガス流を表している。これらは リングをかすめて殆ど質量を失っていない。質量が失われるのは、l-v 図上で ガス流とリングを結ぶ垂直な橋として現れる。そのような橋の例は Morris, Serabyn 1996 の高分解 12CO データ (l, v) = (1.3, 100-200) に見られる。 リングをかすめたガス流は向こう側のダストレーンに衝突して、突然の減速を 受ける。180 pc 平行四辺形の右辺 l = -0.8 にはその様子が反映されているの かも知れない。しかし、なぜこの右辺が、終端負速度ピーク付近の銀経でより 遠くにある明るい放射の内側にあるのかは不明である。つまり、なぜ このダストレーンのガスは中心核リングの回りの正速度ガスに叩かれる前に 減速するのかが分からない。内田その他 1994 は AFGL 5376 領域の大規模衝撃 波について述べているが、彼らはそれを膨張分子リング仮説を強めるもの と考えた。





図22.モデル l10't2540 において、視点位置を変えた時の l-v 図の変化。 上:バーの傾斜角を変えた。下:距離Roを変えた。図15では Ro = 9 としている。

 7.バーパラメタ―への幾何学的制約 

 視点位置による l-v 図の変化 

 図22では、視点の方向により、モデル l10't2540 の l-v 図が変化する 様子を示す。傾斜角 φ0 を小さくすると、構造の銀経巾を縮小 し、同時に視線速度を増加させる。135 km/s 腕の l = -5 にある膝はよりよく 再現されるが、3 kpc 腕から結合腕への遷移が負速度過ぎ、結合腕の傾きが急 になり過ぎる。逆に φ0 を大きくすると、禁制速度を小さくし、 終端速度ピークの位置を遠くへ離し、結合腕を分子リングの接点近くに移す。 距離を大きくすると銀経巾を狭くするが速度はあまり変えない。

 幾何学的関係  

 バーの性質に制限を加える作業はモデルを誤ると間違えた結論を導くので 注意が必要である。しかし、バーの傾き角と大きさはモデルにあまり依存 せずに決めることが可能である。その原理を示した図23では、l1 = 3 kpc 腕が軸衝撃波と交差する角度、l2 = 135 km/s 腕が軸衝 撃波と交差する角度、q = s1/s2 である。



図23.実線=分枝腕、破線=軸衝撃波の幾何学表示。短破線=中心核リングは 拡大表示されている。下は太陽。
すると、
si = sin |li|      i = 1, 2
Ro sin (φ0+ji)


tan φ0 = - 1 + q
cot l2 + q cot l1


s1 = [ (1 + q) sin2l1 + q sin2l2 - q ] 1/2
sin2(l1 - l2)


完全に左右対称なら q = 1 であるが、実際には q > 1 である。また、上の式は 分枝枝と軸衝撃波の交差点と銀河中心が直線上に並んでいることが前提である。

 第2の分枝腕? 

 l-v 図上で、結合腕を 3 kpc 腕方向に外挿して l1 = 14.5° を得る。そこでは 3 kpc 腕の膝がギリギリ見える。一方、 135 km/s 腕は反対 側の衝撃波と l2 = -4.5 で出会う。図1を見よ。図24にはそれから 得られる拘束条件を示した。明らかに φ0 が小さくなると、 長さ s1 は長くなる。しかしこれまでの所、 φ0 の 値は不明である。ただし、図1には向こう側分枝腕の第2の枝が l2 = -7±0.5 まで伸びていることを示している。それは 135 km/s より 低い禁制速度を持ち、さらにほぼ同じ銀経で垂直な速度構造を示す。こちらは 同じ腕から中心核リング/円盤に落ち込むガス成分なのであろう。その落下軌道 は衝撃波と平行なのではないか。もしそれが正しいなら、この腕は 3 kpc 腕とより対称性が高い。その場合は q = 1 となり、φ0 = 25± 4, s1 = 3.15 kpc である。ついでだが 135 km/s 腕に対しては q = 1.76, s2 = 1.8 kpc である。

共回転半径 

 早期型棒銀河では a = バーの半長径、 RL = 共回転半径とすると、 a/RL = 0.85 である。a に s1 を使うと RL = 4.0 kpc となる。

 動的シミュレーション 

 しかし、我々の非対称で時間変動するシミュレーションでは図25に示す ように事情はもっと複雑である。
( この先は議論が面倒で付いていくのが 困難になったので中断。)



図24.バーのパラメタ―への制約のグラフ表示。実線=式(26)から異なる l1 毎に描かれている。灰色領域=異なる q に対する式 (24) . s2 = s1/q と置き、 l2 = [-4.75, -4.25] と仮定して、l2 の不定性が q にどう伝播するかを示した。



図25.シミュレーション l10 における分枝腕と軸衝撃波の交差のバーに関する 相対位置。左上:交差点の密度中心からの距離を共回転半径で規格化。 左下:交差点のバー主軸に関する位相。交差点が主軸より先の時を正とする。 点線=両方の位相があった時の軌跡。右:実線と破線=バーの同じ側にある腕の 交差点。太線=最も強調された分枝腕の交差点。
( ここもよく理解していない)


 8.結論 

 計算の概況 

 15 万成分の SPH 計算を 400 万粒子で行った。軸対称の初期条件で開始し たが、直ちにバー配置になった。恒星バーは固有のパターン速度で回転し、 ガス成分は恒星腕と相互作用した。恒星バーの密度中心は振幅 100 pc で 質量中心の周りを振動する。ガス流は決して準平衡状態には落ち着かない。

 バーと腕の幾何学 

 シミュレーション中から選んだ幾つかのモデルは HI, CO 観測の理解に 役立つ特徴を示した。バーの傾き角は 25±4, 共回転半径 4.0 - 4.5 kpc, パターン速度 50 km/s/kpc、 上から見た軸比 0.6 である。多くの 早期型棒銀河と同じく、バー主軸の先行側にダストレーンが生まれる。 ダストレーンのガス流対応物として、観測された l-v 図には太陽に近い側の 結合腕と、 l = -4 付近に向こう側の結合腕が見える。これらのダストレー ンは、強いずれ衝撃波をなぞっていて、そこでの速度変化は 200 km/s に およぶ。その位置は尖がり x1 軌道の先行側の縁よりもバーの 主軸に近い。l = ±2.5 の終端速度ピークは後衝撃波ガスによるもので、 x1 軌道によるものではない。 x1 軌道はもっと離れた l と低い v を示す。太陽に近い側のダストレーンは b < 0 にあり、反対 側のレーンは b > 0 側に見える。銀河面からは最大 100 pc 離れる。
 分枝腕と結合腕 

  3 kpc, 135 km/s 腕は渦状腕の内側への延長で、どちらもバーの端近くを 通り、中心核リング/円盤の周りの大きなバウによってバー軸の反対側の ダストレーンに繋がる。その長さは 3.2 kpc と 1.8 kpc である。135 km/s 腕 の方がより大きな禁制領域速度を持つのは、それが中心ポテンシャルにより 深く入り込んでいるからである。

クランプ 

 l-v 図で結合腕の下、つまりこの腕より小さい速度で l 一定、 速度伸長の構造は正に衝撃波を越えようとしているガスの塊りとして理解された。 その良い例は l = 5.5 の垂直構造である。バニアのクランプ2はもっと議論を 呼ぶ天体で、その平均銀緯が結合腕から 1.5 離れている。一方バニアクランプ1 は 135 km/s 腕の一部で、向こう側ダストレーンに 100 km/s の速度でぶつ かっている。ガスの一部はダストレーンに吸収される。残りはさらに外へはみ出て いる。