アブストラクト(l, b, v) = (3, 0.2, [+20. +150]) のクランプ2分子雲を 12CO と 13CO J=1-0 及び CS J=2-1 で観測した。分子ガスは16個の CS コア に分かれていた。その各々は n > 2 × 104 cm-3, M > 5 × 105 である。分子線の視線速度は銀河回転からの許容 範囲内にある。複合体全体での異常な線幅はバーポテンシャル中のダストレーンまたは 内部渦状腕の表明であろう。 12CO での異常な形状はコアが潮汐力で 引き裂かれている結果である。1.イントロダクションBania 1977 の銀河面 CO サーベイにより見つかった (l, b) = (3, 0.4), VLSR = [20, 150] km/s の分子雲複合体はクランプ2と名付けられた。クランプ2の 速度巾は銀河系内のどこにもない大きさであった。 |
サンプル点がまばらなため、
クランプ2の構造は不確かであった。中心速度は 110 km/s であるが、その他に
66, 100, 140 km/s の成分の存在が示唆された。
今回は 12CO, 13CO, CS 観測を報告する。
2.観測観測は AT&T ベル研 7m 鏡と IRAM 30 m 鏡で行われた。 |
![]() 図1.クランプ2の V = [40, 240] km/s 12CO 強度分布。データは ベル研アンテナで取得。観測点は 3′ 間隔。等高線は 50 K km/s 間隔。 クランプ2の性質 図1はクランプ2の V = [40, 240] km/s 12CO 強度分布である。 V = [0, 40] km/s は前景放射の除去のため落とした。クランプ2は狭く折れ曲がった 形で周辺の少なくとも 10 倍は明るい。この天体の奇妙な点は、放射域全体を通して ライン巾が 150 km/s を越えていることである。通常の巨大分子雲ではそれが 5 km/s 程度であり、銀河中心付近の巨大雲でさえ、V の FWHM = 15 - 45 km/s である。 クランプ2は複数の天体を重ねて見ている可能性がある。 成分への分解 この可能性を探るため、 30 m 望遠鏡で 12CO と 13CO の高分解能観測を行った。図2は 12CO と 13CO の高分解能及び低分解能スペクトルとCS スペクトルを 比較している。CO ラインは複数の成分に分解し、夫々は銀河系中心分子雲の 典型的な速度巾を持っていることが分かる。成分の多くは CS または 13CO では検出されず、コラム密度、密度共にあまり高くない。 13CO と CS ラインではクランプ2が 16 の銀河系中心分子雲 と似た性質の成分に分解された。それら CS コアの性質は表1にまとめた。 コアの間は比較的薄い分子雲で埋まっているため、12CO で見ると異常な外観を呈する。 視線方向に重なった成分雲? これら 16 成分が偶々同じ視線方向に並んでいた可能性はある。 クランプ2の成分の視線速度は銀河回転からは許容される。仮に全成分 が平坦回転速度 220 km/s で円軌道を回っているとしよう。すると、 VLSR = 207 km は銀河中心から 470 pc 離れた接点にある。 また、 VLSR = 75 km/s のガスは視線方向に沿って、 1100 pc 離れていて、銀河中心から 1200 pc 離れている。 (207 km/s ガスは接点ではないが、 Ro = 8.5 kpc で計算すると、確かに銀河中心距離 473 pc となる。このガス の接点からの距離 = 54 pc。75 km/s ガスは銀河中心距離 = 1305 pc, 接点 から 1226 pc なので、207 km/s ガスと 75 km/s ガスとの距離は 1226 - 54 = 1172 pc となる。本文と少し違う。 ) クランプの巾は 0.6° = 8.5 kpc x 0.01 = 85 pc, 長さは 1172 pc なので、 縦横比は 14 くらいになる。それで、本文では、こう書いてある: もしクランプが視線方向には横方向の10倍長ければ、円軌道運動の雲が偶々 重なって見えることで速度巾を説明できる。その確率は低いが、他銀河で見え るように、ダストレーンが偶々視線方向から数度の間に入る確率は 数度/180度 でそう低くもない。 |
![]() 図3. b = 0.250 における CS の (l, v) 図。観測はベル研 7 m 望遠鏡。等高線は 0.2 K 間隔。CS は濃い領域のトレーサーである。CS が孤立したコアに分布している ことに注意。夫々は直径 4′ でライン巾は 30 km/s である。 ![]() 図2.クランプ2複合体の (l, b) = (3.1, +0.150) V = 150 km/s コア 方向の CO スペクトル。CS の幅広いラインはおそらく二つのコアのブレンド。 |
非円軌道モデル 非円軌道を考えるとクランプ2をもっと丸くできる。例えば、 Bania, Stark 1986 によれば、クランプ1は速度超過 100 km/s の非円軌道を巡っている。 非円軌道運動 クランプ2はバー内部の内側腕なのかも知れない。外側銀河のような軸対称 ポテンシャルでは、腕の接点に多数の雲が視線方向に重なり、かつそれらはほぼ 同じ視線速度を持つ。棒ポテンシャルでは、接点方向に多数の雲が重なる点は変 わらないが、非円軌道運動によるずれのためにそれらの速度巾は大きくなる。 ( なぜ、非円軌道だと接点方向での 速度巾が大きくなるのか?その理屈が呑み込めない。) Mulder 1986 や、Vietri 1986 はバーポテンシャル内の軌道運動の計算を行い、それらを 銀河系中心領域でのガス運動のモデルに用いた。それらの幾つかはクランプ2 と似ている。 個々の雲の重力拘束密度 潮汐力と重力のつり合いを考えると、個々の雲で、
ここに T = 単位長さ当たりの潮汐力、R = 銀河中心距離、Θ = 220 km/s = 回転速度である。 一方、CS J = 2-1 ラインの励起には n ≥ 2 × 10 4 cm-3 が必要である。従って、CS 領域は潮汐力には安定と 言える。 個々の雲の質量 CS が一様に分布していると仮定すると、雲の質量は、
これは、個々雲の質量が巨大分子雲程度であることを意味する。 銀河中心距離では CS コアの典型的大きさ 2′ は 5 pc である。 Bania, Stark 1986 の解析に従うと、球対称の天体が潮汐力に勝つ条件は、
この値は CS コアより明らかに大きい。ただし、 この大きさでは 12CO 雲全体をカバーできない。つまり、 CS ガスはコアに重力的に拘束されているが、CO ガスはそうでない。低密度ガスは潮汐力により剥ぎ取られていくのである。 |
![]() 表1.クランプ2の16個の CS コア 破壊されていく分子雲の光学的深さ 12CO と 13CO = 20 というライン強度比は銀河中心付近での 同位体比 12C/13C にほぼ等しい。これは、12CO の 光学的深さが 1 かそれより小さいことを意味する。通常の巨大分子雲では光学的深さが 10 以上であるので、これは銀河中心雲の著しい特徴である。 このように光学的に薄い 12CO は次のような天体で発見されている: 太陽近傍の薄い星間雲中の濃い部分 M 82 のフィラメント ロゼッタ分子雲の外側層 これらはいずれも濃い雲の破壊に伴って生まれた光学的に薄い構造である。クランプ2の 場合にはコアからの潮汐力による引き剥がしの結果そのような薄い構造が生まれたので あろう。もし、クランプ2がバー内部の渦状腕またはダストレーンであるなら、ガスは 離心軌道に沿って周回しており、潮汐力は軌道上で大きく変動する。< コアのライン巾 表1のライン巾は準平衡状態にあるコアの自然な結果である。この時近似的にビリアル 定理が成立するから、Bally et al 1987 によると、
この巾 41 km/s は表1の典型的な値である。 |
クランプ2は銀河中心分子雲の集合として理解できる。それはクランプ1と
似ているが、より銀河中心に近いので、潮汐力の影響をより強く受けている。その
結果、雲のコアは非常に濃く、内部運動は大きい。
( 潮汐力が大きいから濃いコアでないと 存在できないという理屈はあるが、潮汐力が濃いコアを生み出すわけではないだろう。 すると濃いコアの原因は何か?) | 雲集合は16個の CS コアに分離された。夫々は直径 10 pc, 質量 5 × 105 Mo 程度である。これらのコアは銀河中心 潮汐力に抗して重力拘束されている。 12CO の大部分は 光学的に薄く、コアからはがされた少量のガスから放射されている。 |