Clump 1: An Unusual moleculr Cloud Complex Near the Galactic Center


Bania, Stark, Heiligman
1986 ApJ 307, 350 - 366




 アブストラクト

 クランプ1分子雲複合 (l, b, v) = (355, 0.4, 100) を 12CO, 13CO J = 1 - 0 で観測した。84 × 54 マップには, 個々の雲の内部に分布する禁止速度ガス が示されている。 VLSR > 20 km/s 放射の大部分は三つの大き な雲、それぞれが +68, +85, +100 km/s, から出ている。これ等の雲は銀河 系内天体の中で最も大きな非円運動を示している。  +100 km/s 雲は HIIR G354.67+0.25 により加熱されている。他の二つは電離 ガスを含む証拠はない。クランプ1の 13CO サイズは 42pc × 72pc で、M(H2) = 2.4±1.5 × 105 Mo で ある。複合体内の雲は全て重力的に拘束されているが、外層部は潮汐力で剥され ているかも知れない。雲間の相互速度は外側銀河系の分子雲複合体での値より 大きい。付随する HIIR のエネルギーはこの相互速度を引き起こすには不足である。 おそらく、分子ガス、原子ガス、銀河ポテンシャル間の相互作用の結果であろう。


 1.イントロダクション 

 概観 

 クランプ1分子雲複合 (l, b, v) = (355, 0.4, 100) はもっとも初期の銀河中心 HI サーベイ(Rougoor, Oort 1960)に既に見ることが出来る。 Bania 1980, Bania 1985 の予備的 13CO 観測によると、 HI の割合はガスの 10 % 程度で残りは H2 である。クランプ1には HIIR G354.67+0.25 が伴って いる。この方向には H2CO や OH も観測される。

 禁止速度 

 クランプ1は銀経が負であり、正視線速度は禁止されている。しかしその視線 速度は +100 km/s である。この天体の運動は非円軌道に沿っているに違いない。
3 kpc 回転膨張リングの一部 

 我々は Bania 1980, Bania 1985 に従い、クランプ1を 135 km/s 構造の一部とみなす。 この構造は、R = 3 kpc のリングで回転速度 222 km/s, 膨張速度 135 km/s を 持つ。この解釈では、クランプ1は +135 km/s 腕の南端に当たり、太陽から 11.4 kpc (Ro = 8.5 kpc) 離れている。
( より大きな (l,v) 上で見たい)


 CO 観測 

 本露文ではクランプ1の 12CO、 13CO J = 1-0 (l, b) = 84 × 54 観測について述べる。



表1.観測パラメター。

 3.クランプ1の大構造 


図1.観測略図。実線= 13CO、 VLSR = [20, 170] km/s 積分強度。10, 20, 30, 40, 50 K km/s.破線= 5 GHz 連続光強度。



 図1:HIIR の位置 

 図1は CO 観測点と VLSR = [20, 170] km/s 13CO, 5 GHz 連続光強度分布を示す。図中には 1 K 以上の連続光ピークが 6 個所あり、 明るい4箇所で再結合線観測が行われた。内二つだけ、G354.486+0.085, VLSR = +14.6 km/s, G354.665+0.247, VLSR = +96.5 km/s が大きな正視線速度を示す。さらに、G354.665+0.247 のみがクランプ1に属する。 図1を見ると、この HIIR が分子雲の端に位置するのがはっきりと見える。11.4 kpc の距離では、HIIR は分子雲コアから 4.1 = 13.6 pc 離れている。

 図2:禁止速度ガスの分布 

 図2には禁止速度ガスの分布が示されている。図2a は 12CO、 図2b は 13CO の VLSR = [20, 170] km/s 積分強度 である。光学的に薄い、 13CO 強度は 12CO の約 1/10 の強さであり、図からそれらが 22 × 13 = 72pc × 43 pc の単一雲に含まれていることが判る。 12CO 放射は幅広の高原形状を示すが、(l, b) = (-5.0, +0.2), (-5.0, +0.4), (-5.4, +0.2) は 12CO ピークとなっている。それらは 13CO 雲の縁に当たる。マップの端 (l, b) = (-4.5, +0.2) には VLSR < 60 km/s の雲が見え、今回のマップが完全でなく、雲 複合体は + 135 km/s 腕に沿ってもっと銀経大の方向に伸びていることを示唆する。 しかし、 クランプ1の +100 km/s コアは完全にマップされている。

図2. VLSR = [20, 170] km/s 積分での CO マップ。
(a): 12CO マップ。等高線は 50, 100, 150, ... K km/s
(b): 13CO マップ。等高線は 5, 10, 15, ... K km/s



表2.クランプ1方向の CO 強度


図3.速度巾 10 km/s 積分での CO 強度分布。 12CO 等高線は 25, 50, 75, ... K km/s, 13CO は 2.5, 5.0, 7.5, ...



 速度別のマップ 

 クランプ1方向に観測された運動は極めて複雑である。図3には 10 km/s 巾 での CO 分布を示す。 VLSR > 20 km/s では放射の大部分が VLSR = [55, 115] km/s で出ているので、マップもこの範囲に 限定した。はっきりした速度構造、例えば回転とか膨張といった、が見えない。

 高速雲の厚み 

 NRAO 12 m 鏡の 1 分解能観測から、 13CO ピークは (l, b, v) = (354.72, +9.30, +98) と求まる。図4にはこのピーク での CO スペクトルを示す。光学的に厚い 12CO には、+98, +82, +54 km/s の三つのピークが存在する。 13CO には +98, +82 km/s ピークが見える。

図4. 12CO と 13CO の (l, b) = (354.72, +0.30) でのスペクトル。(b) のガウシャンフィットは中心 +83.4, +98.4 km/s, ライン巾 12.0, 6.4 km/s である。



この二つの雲の励起温度はどちらも 14 K である。 +98 km/s 雲は Bania 1977 がクランプ1とした雲である。この雲の 12CO/13CO 強度比は 2 である。13CO の光学的厚みは 0.7 に達する。その H2 柱密度= 2.4 × 1022 cm-2 である。+82 km/s 雲では 12CO/13CO = 9 で銀河円盤 の分子雲に較べファクター2高い値である。13CO の光学的厚みは 0.1, H2 柱密度= 7 × 1021 cm-2 である。

スペクトル解析法 

 この論文では Bania 1985 の解析を用いている。そこでは 12CO を光学的に厚いと仮定し、従って Tex の決定に用いた。次の仮定として、 12CO と 13CO の双方とも H2 と衝突 励起で熱平衡にあるとし、TK = H2 の熱運動温度と して、Tex = TK とする。Tex が判ったらそれを使って、光学的に 薄い 13CO の光学的深さ、τ13 が、次に柱密度 N(13CO) を導く。さらに
     N(13CO)/N(H2) = 2×10-6
を仮定すると、
     N(H2) = 1.21×1020τ13ΔV Tex/ [1-exp(-5.29/tex)]
が得られる。注意すべきは上式太陽近傍メタル量で妥当な式なことである。

 クランプ1、3、4 

 上式を観測点の各速度成分に適用した結果を表2に示す。その結果から、CO 放射の大部分は三つの分子雲複合 VLSR = +100, +85, +68 km/s から出ていることが判った。 Bania 1977 の命名法に従うとそれらはクランプ1、クランプ3、クランプ4である。表2 の速度成分中、わずかに8個がこれら3つの雲複合に属さない。表2で "0" と 貼られた4つは多分 +100 km/s クランプ=クランプ1の高速成分であろう。 "5" と貼られた4つは観測領域の端にあり、明らかに +68 km/s クランプ4と 異なる。



表2.クランプ1方向の CO 放射

 クランプの配置 

 図5に三つの主要分子雲複合体を示す。クランプ1とクランプ4は速度でも 空間でも分離している。クランプ3はクランプ1と速度で 15 km/s ずれている。

 クランプの性質 

 表3にはそれぞれの性質を数値で示した。3つのクランプは互いに似ている。 その質量は外側銀河の巨大分子雲と同じくらいである。それらの運動軌道と 大きなライン巾が違う点である。


表3.三つのクランプの性質

図5.三つのクランプ。各クランプの速度 +100, +85, +68 km/s の周り 25 km/s 積分した CO 強度マップ。黒実線=13CO 2.5, 5.0, 7.5, 10.0,... K km/s 等高線。灰実線=12CO 25, 50, 75, ... K km/s 等高線。プラス印は観測点。





図6.クランプ1ピーク周辺の 12CO (細線)、13CO の2倍 (太線)スペクトル。

 4.クランプ1の細かい構造 

 三つの速度成分 

 観測された速度構造は非常に複雑である。図7には 63 点での視線速度の分布 を示した。図から3つの速度成分が見分けられる。内二つは明らかにクランプ1 とクランプ3によるものである。3番目はしかしクランプ4から 12 km/s 青い 方にずれている。

 クランプ1、3、4の構造 

 クランプ1、3、4の細かい構造を図8、9、10に示した。図8には二つの 雲成分が見える。一つは HIIR G354.67+0.25 であり、もう一つはクランプ1の コアである。両者は 4 離れている。図9はクランプ3の 構造を示す。4つの雲が見分けられる。最大の雲は HIIR からやはり 4 離れている。図10には、クランプ4の二つの雲が見える。 近い方は HIIR G354.67+0.25 から 6 離れている。



図7.NRAO 12-m 鏡で測った 63 点での 13CO ピークの VLSR ヒストグラム。





図8.点々=HIIR G354.67+0.25. クランプ1の VLSR = +99 km/s に近い 13CO 成分のマップ。




図9.クランプ3の VLSR = +85 km/s に近い 13CO 成分のマップ。




図10.クランプ4の VLSR = +67 km/s に近い 13CO 成分のマップ。




表4.クランプ1方向の個別雲の性質

 5.クランプ1方向の分子雲の性質 

 表4にはクランプ1を構成する8つの分子雲の性質を載せてある。 雲の位置は図11に示した。表4の雲の数値は図8、9、10から 採った。雲 A, B はクランプ1の質量の 69 % を、雲 C, D, E, F はクランプ3の 93 % を、雲 G, H はクランプ4の 78 % を占める。


 6.クランプ1領域の力学 

 HIIR と雲との作用 

 クランプ1の雲Aとクランプ3の雲Cは HIIR G354.67+0.25 から僅か 14 pc しか離れていない。この二つはおそらく HIIR と相互作用しているであろう。 それはこの二つの雲の励起温度が最も高いことからも推察される。この領域には 超新星残骸は存在せず、この HIIR は新しく生まれた星と分子雲とのエネルギー 交換が行われている唯一の例である。

HIIR の質量 

 この HIIR の Te = 6600 K, ne = 17 cm-3, MHII = 6.6 × 103 Mo である。これは分子雲質量 の 1 % にあたる。この HIIR パラメタ―は Panagia 1973 を参照すると O5.5 に相当する。このように小さな HIIR では単一巨大分子雲を表4にあるような個々 の分子雲へと分裂させるには力不足である。

 個々の雲の運動エネルギー 

 図11には HIIR に対する個々の雲の速度を示した。それらは雲Aの 1 km/s から雲Hの 39 km/s にまで及ぶ。もしクランプ3とクランプ4が初めはクランプ1 の一部であったとすると、現在の運動を与えるのは 5.5 × 1050 erg のエネルギーが必要となる。

 大きな特異運動の反映か 

 しかし、クランプ1複合体の雲が重力的に拘束されていたと考える理由は ない。もっとありそうな状況は、雲相互間の見かけの運動エネルギーは単に 銀河重力ポテンシャル中の異なる軌道が原因で生まれたことである。内側銀河系 のポテンシャルは外側より深いので、 +135 km/s 腕成分の特異運動(peculiar motion) と速度分散は局所腕で見出される値より大きい。外側銀河渦状腕の 巨大分子雲は特異速度 15 km/s, 内部分散速度 2 km/s 程度であるが、クランプ1 の雲は銀河動径方向速度 135 km/s, 内部分散速度 6 km/s である。同様な 特異速度の増加は M31 でも観察されていて、内側渦状腕は中心核方向に 80 km/s の速度を持ち、一方外側渦状腕はわずか 20 km/s である。

 重力拘束半径 

 個々の雲の質量は銀河系潮汐力に対し対抗する重力を生み出すに十分である。 拘束密度の下限は、
⟨ρ⟩≥ T = G-1 [ Θ2 - d ( Θ2 )]
G R2 dR R


= 96 amu cm-3 [ 3 kpc ] 2
R


ここに T = 単位距離当たりの潮汐加速度、 R = 銀河中心からの距離、 Θ = 円運動速度である。この式を変形し、
r ≤ [ 3GMc ] 1/3 = 21 pc [ R ] 2/3 [ Mc ] 1/3
4πT 3 kpc 105 Mo


雲の中心から 21 pc 以内の物質は重力拘束されている。これは雲の半径の数倍大きい。

 ビリアル平衡 

 もし雲が比較的長命であるなら、雲物質はビリアル平衡にあるであろう。
⟨V21/2 = [ 2GMc ] 1/2
⟨r⟩


= 6.4 km/s [ Mc ] 1/2 [ 21 pc ] 1/2
105Mo ⟨r⟩


表4を見ると、FWHM 速度はこの値の 2.35 倍で丁度準平衡に要求される値である。

図11.(a) 八つの分子雲位置。各雲の性質は表4に載せた。雲輪郭線はピーク値の半分 をなぞる。 (b) 斜線=HIIR G354.67+0.25 を原点とした各雲の性質の相対プロット。 縦軸=銀緯 b. 横軸=HIIR からの角距離。雲の大きさは表4のサイズを示す。雲の速度、 励起温度、 FWHM ライン巾も示す。速度は HIIR 速度 +97 km/s からの相対速度。


 雲同士は重力的に拘束されていない 

 以上から浮かび上がるクランプ1領域の描像は定性的には外側銀河の巨大 分子雲環境と類似している。各雲ではガスの大部分は重力に拘束され、乱流運動 で支えられている。雲同士は互いに拘束されてはいないが、空間、速度の二点で 集まっている。このように雲が腕状に集まる現象はおそらく銀河系全体で働く 重力の作用による。
(意味不明 )


 HIIR が少ない = 星形成率が低い 

 クランプ1および +135 km/s 腕上の雲は他の雲より、濃い、内部乱流速度が 大きい、相互間の乱雑速度が大きい。これは内側銀河系における強い潮汐力のため と理解できる。+135 km/s 腕、 4 kpc 腕、M 31 収縮腕の雲は運動学的に激しい点 以外は通常の GMC と変わらない分子雲である。しかし、この激しい運動は星形成 を妨げる。クランプ3、4と同程度の質量がある外側銀河系分子雲ならほぼ確実に 数個の HIIR を伴っている。しかし、クランプ3、4には HIIR が一つもない。 4 kpc 腕、+ 135 km/s 腕、銀河中心から 4 kpc 以内のガスには HIIR の数が 少ない。

 6.まとめ 

 クランプの性質 

 銀河系内で最大の非円運動を示す分子雲複合クランプ1の 12CO および 13CO 観測を行った。我々はクランプ1は +135 km/s 腕の 南端天体であると仮定して、 Ro = 8.5 kpc での太陽距離 D = 11.4 kpc、 銀河系中心距離 R = 3 kpc とした。禁止速度域からの放射の大部分は三つの 分子雲複合、クランプ1(+100 km/s)、3(+85 km/s)、4(+68 km/s)から出て いる。それらの励起温度=10K, サイズ= 40 - 100 pc, M(H2) = 2.2 - 7.7 105 Mo は通常の巨大分子雲と同じであるが、特異 速度が上述のように大きい点と 12CO 線巾が FWHM = 14 km/s と 大きい点が異常である。
(サイズと質量が同じなら、ビリアルから 線巾も同じになるべきなのに、なぜ異なるのか? )
 雲の性質

 クランプ1の 1 13CO マッピング観測による と三つのクランプは位置、速度で8個の分子雲に分解した。それらは平均して サイズ 25 pc, ライン巾FWHM = 14 km/s, 質量 Mc = 7 105 Mo である。
(雲の線巾がコンプレックスとなぜ同じ になるのか? )

雲の運動は重力拘束されていない 

 これら雲間の相互速度は外側銀河系分子雲複合より大きい。HIIR G354.67+0.25 の励起星は多分 O5 で、そのエネルギーは相互速度を生み出すには足りない。 雲同士は重力的には束縛されていない。したがって、それらが位置、速度空間で 集まって見えるのは銀河系スケールでの重力作用の結果である。
(どんな論理か不明? )