A Molecular Spiral Arm in the Far Outer Galaxy


Dame, Thaddeus
2011 ApJ L24 - L27,




 アブストラクト

 銀河系第1象限にアウターアームのさらに外側 R ∼ 15 kpc の腕を発見した。 現存する 21-cm サーベイデータ上でこの腕を追跡した後、 CfA 1.2 m 望遠鏡により、 分子雲を探し、10/220 点で CO を検出した。検出された雲は (l, v) = (13, -21) から (55, -84) に掛けて分布しており、その位置は H I の高密度部と大体一致する。  その内の一つを完全にマップした結果、半径 47 pc, 質量 50,000 Mo の分子雲である ことが分かった。平均距離 21 kpc での検出は銀河系では最も遠方での検出である。 新しい腕は盾座ーケンタウルス座腕の延長のようである。これは、近傍のペルセウス腕の 対応物となる。


 新しい腕の発見 

 向こう側の腕が明瞭に確認された第2の例 

 過去 50 年間、我々の銀河系の腕構造については、多くのモデルが提案されてきた。 しかし、銀河系のような棒銀河に期待される 180 度の回転対称性の明瞭な証拠は 依然として得られていない。そのためには、銀河系の向こう側の腕を追跡する必要 があるが、遠方天体は暗くなることと、銀河系中心の向こう側は手前の放射を強く かぶるので、非常に困難な作業となる。唯一の例外は遠方 3 kpc 腕 Dame, Thaddeus 2008 で、近い側の腕との対称性が明瞭に見えるのはひとえに二つの腕の外向き運動 が強いためである。本論文では、向こう側の腕が明瞭に確認された第2の例 として、太陽円外側第1象限に見つかった腕を報告する。この腕は、どうやら 盾座ーケンタウルス座腕の外側銀河系への延長であるらしく、ペルセウス腕の 対応対称腕らしい。

 発見の経緯 

 始まりは盾座ーケンタウルス座腕をその接線 l = 309° の先へ、第4象限 まで追いかけようと試みたことであった。後に述べる理由でこれは失敗したが、 接線より遠く、第1象限の LAB 21-cm サーベイ Kalberla et al 2005 に現れたのである。このレターではその HI 観測にそっての CfA 1.2 m 望遠鏡に よる CO 観測の結果を述べる。

 見過ごし 

 この腕が見過ごされてきたのは、腕の位置が銀河面から離れていたためで あろう。その銀緯はワープに追尾して銀経と共に増加していく。図1(a) で 分かるように、第1象限 b = 0 では、はっきり見える外側銀河ガス(負速度)は 良く知られたアウターアームのみである。図4に見えるように、この腕は CO でもはっきり分かる。しかし、 b = 3° では図1(b)を見ると、代わり に新しい腕が現れる。この腕はアウターアームよりも視線速度で 30 km/s より 負である。このずれがあっても、プラス銀緯での (l, v) 図はアウターアーム と間違えやすい。 Weaver 1974 の図7にはアウターアームと今回の新しい腕の両方が示されているが、どちら の腕もそれとして論じられていない。最近では、 Binney, Merrifield 1998 Galactic Astronomy の図 9.21 にこの新しい腕の b = 0° で見える一部が載っているが、やはり 何のコメントもない。


表1.新しい腕での CO 検出。

図1.21-cm (l, v) 図。(上)b = 0°. (下) b = +3°. 青ー白は(上)では 30 - 110 K、(下)では 15 - 55 K に対応。 上の破線=アウターアーム。下の破線=新しい腕。



図2.Stil et al 2006 VLA 銀河面サーベイによる l = [25, 30] 積分の 21-cm (b, v) 図。この 1 高分解能サーベイではアウター アームと新しい腕ははっきりと分かれて見える。不幸にも、このように区別 出来るのは狭い銀経範囲でだけである:l < 20° ではアウターアーム は v > 0 km/s の近傍放射と重なる。l > 35° では新しい腕の位置 はサーベイの銀緯限界 1°.3 を越えてしまう。





図3.(a) 新しい腕速度に沿って、巾 14 km/s で速度積分した LAB H 21 cm 強度マップ。速度中心は図1の下側破線 v = -1.6 × l にあてた。灰色 スケールは 100 K km/s から 600 K km/s まで。
(b) LAB データの新しい腕の尾根 b = 0°.375 + 0°.075×l に 沿って、巾 3°.5 の窓で銀緯積分した (l, v) 図。灰色スケールは 40 K deg から 160 K deg まで。小枠は、二つのサンプルスペクトルと一つの分子雲強度マップ である。スペクトルはスィッチングのため 39 km/s 離れて逆転している。マップの黒点 は観測位置。50pc矢印は距離 20.8 kpc に相当。黄色丸は CO 検出点。


 腕の位置と CO 雲  

 転がり腕説 

 Feitzinger, Spicker 1986 は腕が回転しながら転がり運動も行うと、 銀緯に応じて視線速度が変化すると論じた。しかし、この可能性は薄い。 多くの銀緯で双方の腕が見えるからである。

v(l = 0) の値  

 図1b を伸ばすと、新しい腕は l = 0° で v = 0 km/s を通る。これは l = 0 で腕が太陽円のずっと外側を通っていることのよい証拠である。この点、 アウターアームは l < 20° で v > 0 つまり太陽円の内側に入り 込んでいるという違いがある。

 新しい腕までの距離 

 図3(a)は LAB HI データを新しい腕に沿った速度窓で積分して得た HI 強度 マップである。同様に図3(b) は銀緯で積分して作った (l, v) 図である。 腕は銀経で 60° に渡ってはっきり見える。平均距離 21 kpc を仮定して、 厚みは低銀緯で 1.1 kpc, 高銀緯で 1.6 kpc である。銀河面からのずれは低銀経では 銀河面に乗っているが、高銀経では 1.5 kpc も上にはずれる。これらの変化は ワープとフレアリングの一般的傾向 Levine, Blitz, Heiles 2006 の図 2, 4 と合致する。IAU 値を使用して、太陽円外側で回転速度一定と仮定すると、 腕の銀河中心距離は l = 10° で R = 14 kpc から l = 60° で R = 17 kpc まで変化する。太陽距離では逆に 23 kpc から 20 kpc へと減少する。
CO 検出 

 CfA 1.2-m 望遠鏡で検出した CO は図3の黄色丸で示されている。CO データ は表1を参照せよ。望遠鏡のビーム巾は 8.4 で、 21 kpc では 50 pc に相当する。腕での CO 観測は LAB HI サーベイを基礎に計画され、当面の 目標は HI の強い箇所で CO を検出することであった。これまでに 220 個所での 観測が行われ、 5 % = 11 点で検出に成功した。平均距離 21 kpc として、これらは 銀河系では最も遠方の CO 天体である。CfA 望遠鏡による腕の完全サーベイが計画中 である。これには 6400 点が必要で、2観測シーズンを必要とする。

 分子雲の CO マップ 

 検出点の一つの周りでは、ビーム巾の半分の間隔グリッドでマッピング観測を 行った。その結果、半径 47 pc の巨大分子雲が見つかった。変換ファクターを
   X = 1.8 × 1020 cm-2 K-1 (km/s)-1 (Dame et al. 2001)
として求めた雲の質量は 2.5 × 104 である。フェルミ衛星 のガンマ線観測から太陽円外側では X がこの値の 2 - 3 倍大きいとされる。 X のこの上昇は Rolleston et al 2000 が測ったメタル量低下とも合致する。





図4.第1、第4象限での CO (l, v) 図。灰色= HI 放射で見える新しい腕。 CO は b = [-1, +1] の積分で強度を 0.1 K deg (濃紺)から 10 K deg(白)まで 対数表示している。黒線=盾座ーケンタウルス腕で規定される対数渦。渦の 接線方向は l = 30.7 と l = 308.7 で巻き込み角=14°.2 である。 差し込み枠は、 Churchwell et al 2009
による、バーの両端から出発する二本の主要腕の略画である。略画中の破線部は 観測で確認されていないので外挿である。太陽位置も示されている。 A, B, C, D は本文で議論されている個所を示す。


 2回対称性を持つ銀河系像に向けての展望 

盾座ーケンタウルス座腕の外挿がフィットする 

 新しい腕は、盾座ーケンタウルス座腕の北側延長部と解釈できる。この腕は太陽と 銀河系中心との間にある、分子リングと呼ばれる分子雲集合の主要構造である。 図4に示されるように、第1象限での盾座腕、第4象限でのケンタウルス座の 接線方向で制限されてフィットした対数渦は、外側銀河系第1象限に外挿される と、見事に新しい腕にフィットする。既知の他の腕を伸ばしてもこれほど良く フィットさせることはできない。

 腕各部分の性格 

 今回見つかった構造を外側盾座ーケンタウルス座腕と確認するには大量の新しい 観測データが必要である。図4のAB区間が今回の観測でカバーした領域であるが 明らかにデータが不足している。十分なデータの取得には CfA で数年かかるだろう。
 BC部は長さ 7 kpc あり、腕が銀河系中心核と中心核円盤を横切る。ここは 同定にはほとんど役に立たない。というのは、ここには無関係の雲が多数存在して 区別ができないからである。今後もここが分別されることはないだろう。
 第4象限の CD部は 13 kpc あり、こここそが真に困難な個所である。この部分 での腕の検出は腕の全体構造を確認する上で最強の支持を提供するだろう。

 CD部をもう少し詳しく 

 CD部はAB部より銀河中心距離は少し近く 18 kpc 程度であるが、この部分は 視線速度がゼロに近く、近傍ガス及びカリーナ腕の近距離側の放射が混入するので、 追跡が極めて難しい。 HI 21 cm では速度分散がより大きくなるため、困難さが さらに大きい。
 この領域での星形成の同定も同様に困難である。なぜなら、前面に明るい内側銀 河系星形成が横たわるからである。第1象限では腕が銀河面の上方にあったので 検出が楽であった。
確認に必要な観測 

 盾座ーケンタウルス座腕の終端部に沿ってかなりの量の原子、分子ガスが検出 されたことは、最近 Drimmel 2000,
Benjamin 2009,
Churchwell et al 2009
が提唱した、この腕とペルセウス腕とが銀河系バーの両端から対称に出発する 二本の主要腕であるという説に支持を与えるものである。盾座ーケンタウルス腕の 全長は 60 kpc を超え、銀河系を 310° に渡って巻く。この考えを確かめる には、

(1)盾座ーケンタウルス腕を第4象限に追跡し、

(2)ペルセウス腕を、それが太陽円を過ぎる l = 50° 付近から、バー先端の 出発点まで追う

ことが決定的なポイントである。 Vazquez et al 2008
のペルセウス腕を第3象限に追うことは、今述べている腕部の対応天体であるから 重要である。

 2回対称性を持つ銀河系像 

 最近明らかにされた 3 kpc 腕の遠い側の存在と今回発見されたアウターアーム外側の 腕の発見は、古い星の2本腕パターン、バーと共に、銀河系の渦構造は長い間考えられて きたよりも単純であることを示唆している。まだ多くの仕事が残っているが、とくに 大きく改善される恒星位置探査により、 この単純だが新しい銀河系像が確認されていくだろう。