GLIMPLSE の主な成果を述べ、将来可能な応用を示唆する。特に、星の形成と初期進化、 星間媒質、銀河系構造、晩期巨星について議論する。赤外暗黒雲、YSO,赤外バブル/HIIR は詳しく述べる。膨張赤外バブルに触発されたと思われる星形成についても簡単に触れる。 ダストとPAHの分布と形態も論じる。大規模星形成領域における、バウショック、 象の鼻、不安定性のGLIMPSE 画像を示す。赤外減光則を論じる。 | 銀河系大規模構造を GLIMPSE 点光源カタログのレッドクランプ星を 用いて追跡した。中心バーの半径と傾き、恒星分布の動径スケール長、Scutum-Centaurus 腕の端点方向での星計数の増加、それに反して、Sagittarius 腕の端点方向での星計数 増加が見られないこと、バルジ方向での星計数の急激な増加が示される。2008 年末までに GLIMPSE データを用いて、70以上の論文が書かれた。 |
GLIMPSE I のスペック |l| = 10° - 65°, |b| < 1° = 220 deg2. 1.2"x1.2" /ピクセル、 256 x 256 ピクセル、空間分解能 < 2 ". λ = 3.6, 4.5, 5.8, 8.0 μ, 1.2 s 露光 x 2回で、 3 σ 検出限界は 15.5 mag (3.6μm), 15.0 mag (4.5μm), 13.0 mag (5.8μm), 13.0 mag (8.0μm). 飽和限界と検出限界は混み具合、背景光などで 変化する。 high reliability 天体 (Point Source Catalog = GLMC) は 49,133,194 星。 Point Source Archive ( GLMA) は 49,133, 195 天体を載せた。 GLIMPSE II のスペック |l| = 5° - 2°, |b| < 1.5°, |l| < 2° |b| < 2° ] で、各点最低3階は観測した。GLMC は 18,145,818 星、GLMA は 23125046 星。 GLIMPSE 3D のスペック 9 銀経線上を |b| < 3°, |l|<2° で |b| < 4° を観測して、 20,403,915 星(GLMC), 32,214,210 星(GLMA)。 MIPSGAL のスペック MIPS による銀河面サーベイ = MIPSGAL(Carey 2008). 特に 24 μm は重要。 画像は http://irsa.ipac.caltech.edu/SPITZER/GLIMPSE から採れる。 |
![]() 図2.(l, b)=(18.56, -0.15) にある赤外暗黒雲の 8 μm画像(シルエット)例。 |
2.1.赤外暗黒雲 (IRDC) と星形成IRDC の発見IRDC は中間赤外背景光にシルエットとして見える濃い分子雲である。そこは将来 大質量星が生まれる場所と考えられる。その最初の発見は ISO により 銀河面上で なされ(Kessker et al 1996) 中間赤外域では MSX で見つかった(Price et al 2001) それらは、 n ≥ 105 cm-3 、冷たく (< 20K) 星形成 の場所である。(Carey et al 1998, Pillai et al 2006, 2007) GLIMPSE では 8 μm の背景放射が PAH により明るいので、このバンドで多数の IRDC が発見された。 IRDC が遠くなると、前景放射が強くなるのでシルエットのコントラストが弱まり、見え にくくなる。暗黒雲のレビューとして Bergin,Tafalla 2007 が優れている。 2.1.1.赤外暗黒雲 (IRDC) の形態IRDC は細長く見えるものが多い多くのIRDC は細長く、長さ:巾 > 10 : 1 のものが多い。典型例を図2に示す。長い ものは Jackson により Nessie と名付けられ, l = 336° - 334° に及ぶ。 細長い形態は少なくとも部分的には、より薄い雲が角運動量を保ちつつ収縮して平坦化 っした結果と考えられる。しかし、問題はしばしば見られる nonplanar 構造や wiggly フィラメントである。銀河系微分回転も分子雲を引き延ばす効果がある。しかし、この メカニズムは銀河面上の方向に働き、wiggly フィラメントの説明は難しい。おそらく それらは乱流星間物質の結果であろう。 IRDC の縁は通常滑らかでない。 IRDC 内部の小さなかたまりは何か? IRDC 内部にはより暗い小さなかたまりがある。これは重力分別の兆候だろうか? この問題はより研究が必要である。YSO がフィラメント状 IRDC に沿って並んでいる のが、図3ではよく分かる。興味深いことにそれらは互いに孤立しており、また、 IRDC の大部分は星形成活動を示さず静かに見える。IRDC の核は 8 μm で不透明で ある。これは Av > 70 mag を意味する。その温度を T < 20 K とすると なぜ全 IRDC が崩落しないのか不思議である。どうやら 8 μm で不透明なだけ では星形成には不十分であるらしい。 |
2.1.2.赤外暗黒雲 (IRDC) の電波観測IRDC の観測例IRDC は NH3, NH2D, CO, 13CO, C18O, H2CO, CCS, N2H+, HC3N で 観測された。Rathborne et al 2006 は 1.2 mm 観測を 38 IRDC について行い、 コアマスが 10 - 2100 Mo に渡り、IRDC 自体は 120 - 16,000 Mo であることを 確認した。コアマスの質量スペクトルは傾き ∼ 2.1 ±0.4 であり、 星の IMF と近い。 電波では IRDC の全てにコアが見えた 高密度部分を反映する分子を使った観測では、 IRDC 全てに濃いコアが存在し、 現在星形成の最中か、近いうちに星形成を開始するであろう。特に NH3 と CH3OH と 24 μm 点光源との間に相関が認められる。電波データは クリティカル速度、励起温度を与え、そこから密度、質量、運動距離が導出される。 ![]() 図3.糸状に並ぶ YSO を伴う IRDC. 図は 8 μm と 24 μm の合成。 YSO は 24 μm の方が明るい。 |
2.1.3.広がった緑色天体 (EGO)EGO の発見GLIMPSE 画像作成の初期段階に 4.5 μm が明るい広がった天体が数多く発見された。 それらは "extended green objects" EGO と呼ばれた。その原因は H2(v=0-0)S(9,10,11) ラインか CO(v-1-0) バンドヘッドと考えられ、双極流のショック面からの放射と考えられる。 ![]() 図4.IR バブル N49. 上:24μm(赤), 8μm(緑), 4.5μm(青), 20cm(等高線) 画像。 N49 の底境界付近に YSO が見える。 下: N49 の銀経に沿った輝度分布。24 μm(点線), 8μm(破線), 20cm(実線)。 20 cm と 24 μm に見える窪みは中心 O5 星による穴である。 |
Cyganowski et al 2008 は 300個以上の EGO をカタログにした。図4にはその例として
N49 を示す。緑色のシェルの底に位置する赤色の 24 μm 星が励起星である。 EGO では
CH3OH メーザーとEGO の相関が強い。クラス II メタノールメーザーは中心 YSO
の輻射で温められたダストからの赤外放射で励起されている。EGO の大部分は MIPS 24 μm
画像に対応天体を持つ。しかし、 MIPS の空間分解能は 6" なので、24 μm 放射が 単一
天体だけからかどうかを決めるのは難しい。
EGO の進化段階 現在、 EGO は星形成の初期に起こる急速な降着期天体と考えられている。落下エンベロープ があまりに不透明か、冷た過ぎるかのため 8 μm PAH 放射を大規模には励起不能で、この ため 4.5 μm 放射が目立つ結果となったのである。 EGO の SED は若い YSO と同じ 図5には二つの典型的EGO の SED を示した。EGO の MIR カラーは, 厚い降着エンベロープに 囲まれた非常に若い YSO のSEDと一致する。 EGO による巨大質量星形成現場の同定 Cyganowski et al 2008 のカタログは、完全ではないが、GLIMPSE I の範囲では広がった 4.5μm 放射超過を示し、明らかにそれと分かる EGO の大部分は載っている。銀河系中心領域では Yazeh-Zadeh et al 2007 を見よ。EGO が 4.5 μm でこれほどはっきり目立って見えるという 事実から、巨大質量星の形成初期の現場を画像から同定する手法が可能となった。EGO の赤外強度 は強く、IRAC バンドでの減光がほとんどないことを考えると、銀河面上非常に遠い距離まで 検出可能である。 EGO が巨大質量星の形成初期天体である証拠 YSO が広い質量巾に渡っているのに対し、 EGO が巨大質量星の形成初期天体であるという証拠は 何であろうか? (1) 6.7 GHz クラス II CH3OH メーザーを伴う。 (2) CH3OH メーザーから決めた運動学遠距離、2.6 - 5.3 kpc、は巨大質量星 形成領域の典型的な距離範囲 (Cyganowski et al 2008) である。 (3)HH 天体のような低質量星放出流の表面輝度は低いので、 GLIMPSE の浅いサーベイでは 検知できない。 ![]() 図5.二つの EGO の SED. 4.5 μm 超過、時には 5.8 μm までも、 に注意せよ。 |
YSO は 8, 24 μm ダストg放射が強い GLIMPSE/MISGAL サーベイを調べると、YSO や O-, B- 星周囲からは ≥ 5.8 μm 特に 24 μm で強いダスト放射が出ていることが分かる。2.1.3節で述べたように YSO は、暖かいダストや PAH からの 8 μm 放射や 極小粒子のストカスティック加熱に と普通の熱的過程での 24 μm 放射が強い。図3にそのよい例が示されている。そこでは IRDC を背景に YSO が鎖状に連なっている。 赤い天体は YSO 60 %, AGB 40 % GLMC/GLIMPSE では K-[8] > 3 の赤い天体が約 45,000 個見つかっている。それらは、 図6に示すように、IRDC 付近に集中している。これら赤い星の実体は何であろうか? 可能性は、(1)IRDC 背後で強い赤化を受けた正常星、(2)YSO, (3)AGB, (4) 銀河である。GLIMPSE は浅いサーベイなので、銀河を検出する可能性は小さい。Robitaille et al 2008 は GLMC 中から、[4.5]-[8.0] > 1、明るさが一定値以上、測光精度の高い、 19,000 天体を選び、その特性を調べた。4.5 - 8.0 μ では中間赤外減光曲線が比較的 平坦(Indebetouv et al 2005) なので、この赤いカラーの原因の大部分は赤化よりも放射に よるものである。YSO と AGB をカラー分離して、 Robitaille et al 2008 は約 60 % ( 11,000 天体) は YSO であり、 40 % (7000 天体) は AGB であることを見出した。 しかし、候補星選択基準が厳しいので、これから漏れた YSO はもっと沢山あるだろう。 また GLMC を用いたので広がって見える YSO は初めから考慮されない。 ![]() 図6.緑丸=K-[8] > 3 の赤い星の画像。赤=μm、緑=5.8 μm、青=3.6 μm。 IRDC に緑丸が集中している。 |
GLIMPSE AGB 星の変光 YSO の分布は塊状(図7下)であるのに対し、 AGB は円盤上に滑らか(図7上)に分布している。 銀河中心から 10° 以内は2回のサーベイを行ったので変光の調査が可能と なった。その結果、極端 AGB 星のうち 70 % 以上は変光星であることが分かった。 ( では残り 30 % は何か? ) 銀河系星形成率の再決定 GLIMPSE/MIPSGAL サーベイからは内側銀河で YSO 種族のかなりの割合を検出した可能性が高い。 特に将来 O-, B- 型星になりそうな YSO についてそうである。すると、 YSO のカウントから 現在の星形成率を直接導く可能性が出てきた。 YSO までの距離 YSO が検出可能な距離は背景光強度に依存する。Robitaille et al 2008 には YSO stage I, II について、GLIMPSE 検出可能距離が図示されている。1000Lo の stage I YSO は 2 kpc, stage II だと 6 kpc が平均到達距離である。 広がった星形成活動の貢献はどのくらいか Spitzer の観測結果から、 星形成は星形成域や若い星団の中心 を越えて、もっと広い範囲で起きているらしい。現在、銀河系星形成率の再評価 に向けての努力が続いている。これらの広がった星形成の寄与が現在の標準値、 0.8 - 13 Mo/yr で最確値 3 Mo/yr、 をどう変えるかが問題である。 解析ソフト Robitaille et al.2006 は Whitney et al 2003a,b, 2004a の 2D モンテカルロ 輻射輸達コードを用いて、 200,000 SEDモデルグリッドを作った。Robitaille et al.2007 は χ2 法でフィットモデルを選んだ。許容範囲のモデルパラメタ―の範囲 を見るとどの程度の精度でパラメタ―が決定されているかが分かる。このようなSED フィッティング法はカラー・カラー解析法と比べて、物理量を直接求められる利点が ある。レガシーの精神にのっとり、解析ソフトは http:www.astro.wisc.edu/protostars に公開されている。 このトールを用いて、大質量星の形成現場、YSO と AGB の分離、星形成率の評価、 HII 領域電離源の同定などの研究が行われた。 バブル内の星のスペクトル型 SED フィッティングから T* と Av が決まる。バブルと星が同距離と仮定して、 R* が求まるので、モデル T* - R* 関係からスペクトル型が決まる。現在、 Robitaille et al 2008 のカタログに基づいて YSO の YSO 大規模分布を調べる 計画が進行している。 β Pic 星の同定 Uzpen et al 2005, 2007 は主系列星の周りの星周物質を中間赤外超過から 調べた。 RCW49 星形成域付近で 8 μm 超過のある星を探した結果、 超過星を 33 天体発見した。その内 18 個はデブリ円盤と合致する。その 研究を 230 の Tycho-2 スペクトルカタログ星に広げ、 14 個がデブリ円盤 を持つらしいことを発見した。 |
赤外バブルの画像 Churchwell et al 2006, 2007 は約 600 の赤外バブルをカタログ化した。 明るいバブルの大部分は電波 HII 領域と一致した。それらは年齢 ∼ 106 yr である。カタログは単に明るい天体を載せただけであり、 完全性を主張するものでない。GLIMPSE I カタログは特に < 1'の小さい、 > 30' の大きいバブルに関して不完全である。図4には O5 星による 典型的な赤外バブルの例として、Churchwell et a; 2006 カタログの N49 を 示す。図8では全く異なるタイプのバブルの例として明るい星団と WR 星に より作られた WRC49 を示す。 2.3.1.赤外バブルの統計リングの破れ赤外バブルの 38 % はリングが不完全である。図8にその例を示す。また、 形状は球形からかなり外れている。 65% は離心率 = 0.55 - 0.85 でピークは 0.65 にある。このようなズレは周囲の星間物質の非一様性にあるのではないか。 円盤のような構造が影響している可能性もある。O 型星からの星風は基本的には 等方的と考えられる。円盤の存在の確証はない。バブルの厚みは半径に比例し、 これはモデルと一致する。 ![]() 図8.Westerlund 2 星団に吹き飛ばされた RCW 49 バブル。数字は銀河系座標。 中心の穴、複数の柱。Wes 2 星団、バウショックが容易に見て取れる。カラー の図は電子版から得られる。 |
バブルの分布 バブル分布は O-, B-型星と同じで、厚みスケール ∼ 0.63° ± 0.03°, GLIMPSE II 領域で ∼ 5個 deg-2, GLIMPSE I 領域で > 1.5個 deg-2である。 ![]() 図9.上:N010 中央の緑は 24 μm 放射。等高線は 20 cm 連続電波。 下:断面図。実線=20 cm 連続光。破線= 8 μm. 点線 = 24 μ 中央で 24 μm はサチっている。 N49 では中心ピークがないことと対照的である。 |
2.3.2.赤外放射の性質HII 領域から 24 μm, 光解離領域から 8 μm 放射Spitzer で分かった重要な結果の一つは HII 領域内部と周囲の光解離領域 からのダスト放射である。 HIIR は光解離領域からの 8 μm 放射による 明るいシェルに囲まれている。 8 μm 放射シェルの内側には熱的 24 μm ダスト放射が支配的である。 24 μm ダスト放射と電波連続波は 同一領域から出ている。さらに電波連続波は 8 μm 放射シェルのすぐ内側 で止まっている。これは HIIR が PDR に囲まれていることを示す。図4と9 はそのよい例である。 |
吹き飛ばされた穴 星風で吹き飛ばされた HII 領域では星のすぐ近くの空間はガスとダストが 消えて、図4のように (N49) 24 μm と電波連続波で窪みが生じる。8 μm PAH 放射もないのは PAH が星の UV 輻射で破壊されたからであろう。一方 晩期 O 型星や B 型星の場合、図9 N010 のように 8, 24 μm, 電波連続波は 全て中心星がピークとなる。 HII 領域のダスト 以上の形態からダストは H+ ガスと分離せずよく混ざり合っている。 これが意味することは、 (1) ダストが無い場合より半径が小さいから、HIIR はその力学年齢より古い。 (2)敵対的環境のなかでもダストの寿命は ≥ 106 yr かダストが 常に供給されているかのどちらかである。 (3)ダストはプラスに帯電するので良い冷却剤となる |
2.3.3.誘発性の星形成バブルと YSO の位置相関Churchwell et al 2006, 2007 の 600 バブルで、13 % に YSO が 見つかった。それらは HIIR やダストバブルの境界または重なって存在した。 これらの YSO が HIIR 膨張の結果、掃き寄せられたり、分子雲内の塊片が 圧縮を受けたりして誘発された可能性はある。Watson et al 2008 は幾つかの HIIR で YSO の研究を行い、たしかに星形成が誘発されているらしいとした。しかし 同時に PDR に YSO の集中が見られないことから、誘発性星形成は主要メカニズム とは見なせないことを注意している。 図4の例 図4のバブルは YSO の誘発を引き起こしているように見える。右下に 見える明るい 24 μm 天体は EGO 特有の 4.5 μm ボウタイ状パターン を見せていない。その左には 24, 4,5 μm 双方で明るい天体が見える。 これは EGO の典型例である。EGO の左の天体は 20 cm 電波を含めあらゆる 波長で明るい。 |
一番右端の天体は 4.5 μm 放射の余裕がない低質量 YSO であるか、
不透明なエンベロープに覆われているか、流出流が弱すぎて Spitzer では
検出不能であろう。
3つの YSO の性質と年齢 N49 まで 5.7 kpc、流出速度 50 - 100 km/s として、中間の天体は明らか に双極流に伴う 4.5 μm 放射を持っている。上の数値から 2 ピクセル = 2.4" は 270 - 540 年である。左端の天体は検出可能な HIIR と小さな IR バブルを示し、より長い年齢を意味する。 2.3.4.星団Mercel et al 2005 は星密度の超過から星団を検出するアルゴリズムを開発した。 59の新しい星団が見つかった。さらに眼試で 33 個発見した。アルゴリズムは 期待したほどでなかった。背景が変動しすぎたためである。 |
3.1.星間空間のダストと PAHフィラメント構造GLIMPSE 画像を見るとダストと PAH の分布は決して一様でないことが分かる。 < 2" の分解能ではダストの分布は明らかにフィラメント状である。HIIR を 囲む濃くて明るい光解離領域(PDR) でさえ、PAH はフィラメント状でその間には 何も見えない。これは、星間空間は濃い光解離領域領域でさえもほとんど空虚な 空間であることを示している。これは星からの光、特に O-, B- 型星からの光、 の伝播に重要な意味を持つ。λ > 912 μm のソフト UV 光は電離領 域や惑星状星雲の電離面を潜り抜けて、非常に遠くまで到達できるようになり、 星間空間の遠方まで PAH を励起し、メタル原子を電離する。 電離フロントの概念に訂正が要る 星間空間がそういうフィラメント状分布であるとすると、電離「フロント」という 概念自体が変化して、H+, H0, H2 領域の すかすかで厚みを持つやや曖昧な境界となる。バブルから離れると希薄星間空間の 赤外カラーは比較的一様になるが、それも「隙間だらけの星間空間」を支持している。 |
Heitsch et al 2007 分子雲画像モデル Heitsch et al 2007 は GLIMPSE 拡散放射の構造が実体をどのくらい反映して いるかを O-, B- 型星の輻射に浸された分子雲画像モデルで調べた。 物質密度、したがって光学的深さが増すと、蔭や照射効果が天体の 見かけ形状を実際と全く変えてしまうことが判った。しかし、n(H) ≤ 100 cm-3 の希薄領域では輝度分布が物質密度構造を反映していると 考えてよい。 Bethel et al 2007 の UV 伝播モデル Bethel et al 2007 はむらむらな分子雲中 UV 伝播をモデル化し、一様な雲 に比べ 2 - 3 倍深く UV 光が浸透することを見出した。 分子雲位置で背景星の数が減る 中間赤外領域でさえ、濃い分子雲は星の減光が効く。図10では名前を書き込んだ 有名な分子雲、M16, M17, W31, W33, W43 の位置で背景星密度が減少している ことが見て取れる。星の SED をモデル化してその方向の光学的深さを評価可能 である。さらに Whittet 1992 によれば分子雲質量が見積もれるので、電波観測に 対する独立なチェックとなる。 |
3.2.バウショック、ピラー(pillars)、不安定性Povich et al 2008 が星形成域にバウショックを発見Povich et al 2008 が星形成域にバウショックを発見した。図11では報告された M17 と RCW49 中の6個のバウショックが示されている。 ピラー HII 領域の周りの解離領域の内側と内部に天柱と不安定性が普通に見られる。 有名な M16 の「創造の指先」(the finger of creation)は GLIMPSE でも はっきり見える(Indebetouw et al 2005). RCW49 での天柱の例 RCW49 内の星団 Westerlund 2 を囲むシェルは星の輻射と星風により ひどく壊されている。そこでは高密度のピラーが星団方向に伸びている。 ピラーの先端はショックで明るく輝いている。RCW4 では星団と二つの WR 星 の周りから母分子雲のガスが星風と星の輻射によって掃き払われつつある 様子が見える。 Vishniac 不安定性 Churchwell et al 2004 はその図1でこの領域で、薄いガスの層が両側から 圧縮されたときに生じる Vishniac 不安定性を発見した。 図11.上:M 17 GLIMPSE 3.6, 4.5, 5.8, 8 μm 画像。拡大図は バウショック。距離 1.6 kpc を仮定して 30" = 0.23 pc. 下: RCW 49 画像。図8と重なる。 |
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Lutz 1996 の赤外星間減光則 Lutz et al 1996 は ISO 赤外スペクトルを用いて、赤外星間減光則を導いた。 彼らは 2.5 - 9 μm 水素再結合線強度から 4 - 8 μm で A(λ)/A(V) が平坦であることを見出した。 Indebetouw et al 2005 の減光則 Indebetouw et al 2005 は GLIMPSE の星測光を用いて、視線3方向でレッドク ランプから減光則がやはりその波長域で平坦になることを見出した。 Raman-Zuniga et al 2007 の減光則 Raman-Zuniga et al 2007 は星形成暗黒雲 B 59 の減光則を調べ、それが Indebetouw et al 2005 の減光則と同じであるが、 Rv = 5.5 で大きなグレイン の方が観測とより合うことを見出した。 Ganesh et al 2008 の減光則 Ganesh et al 2008 は、ISO, 2MASS, GLIMSE を用い、 l = -45°, b = 0.0° のレッドクランプからIndebetouw et al 2005 の減光則と矛盾しない結果を導いた。 |
Jiang et al 2003 の減光則 Jiang et al 2003 は l = -18.63°, b = 0.35° の ISOGAL, DENIS データから A(7μm)/A(V) = 0.03 を導いた。この値は内挿すると、 Indebetouw et al 2005 の値より A(7μm)/A(K) で 0.1 高くなる。 Flaherty et al 2007 の減光則 Flaherty et al 2007 は IRAC と MIPS 24 μm バンドで近傍の星形成域 5個の減光則を調べた。彼らは 4 - 8 μm では減光則が平坦であるが、 その値 A(λ)/A(K) はIndebetouw et al 2005 より 0.05 - 0.1 高いとした。彼らはこの差の原因を希薄星間空間と分子雲との減光則の違い によるのではないかとした。 中間赤外減光則の問題 中間赤外減光則の決定には不確実な仮定、方向による環境の差、異なる 天体種を使用することによる選択効果が働く。それでも、一般的には 4 - 8 μm で減光則が平坦であるという結果は共通している。 明らかに 2 - 4 μm の減光則に差異が存在するのである。この問題の 究明が望まれる。 |
2MASS, SDSS と GLIMPSE との比較 GLIMPSE 一億個のカタログ。 90 % は赤色巨星 そのかなりはレッドクランプ星。標準光源に使える。 限界等級: m(3.6) < 14.2, ,m(4.5) < 14.1 mag m(J) < 15.8, m(H) < 15.1 mag, m(K) < 14.3 mag SDSS は 20 mag. まで A3.6 ∼ 0.6 AK ∼ 0.06 AV ( GLIMPSE レッドクランプはギリギリGC まで 届いている。向こう側円盤は?) |
2MASS の Ks バンドでは減光が強すぎ、 長波長では拡散光強い。 ーー> 銀経 l 大で低減光の領域: 2MASS の方が少し深い。 |l| < 40° の内側銀河:GLIMPSE の方が深い。 Confusion limitted 13.3 - 13.6 mag. SDSS は限られた低減光領域でのみ銀河円盤を横切れる。 通常は数 kpc までしか到達しない。 |
|l| < 30° では北側が多い 図10では第1象限と第4象限の間に星の数の非対称性が明らかである。 0° < l < 30° の星の数は 330° < l < 360° より 25 % 多い。これを別の形で示しているのが図12で、銀河中心に対 して両側等角度のペアに対しての GLMC 光度関数(Benjamin et al 2005)が 比べられている。m = 6.5 - 14 mag における星計数は |l| > 30° では南北で等しいが、 l = 15.5° の数は 344.5° よりどの等級でも 多い。 ( バーで数密度が増加する理由は?) コブの意味 光度関数の勾配はどの方向も同じだが、 l = 15.5° では 12 mag でコブが見える。このコブは l = 344.5° には存在しない。 (観測帯内の b による変化は無視して積分? ) Benjamin et al 2005 はコブの意味を探るために、図13で星計数の べき乗指数の分布を縦軸 = m(4.5)、横軸 = 銀経 l 面上に示した。 その結果は (1)図の上辺で混み合い限界が明らかである。 ( 空間分解能でどこまで必要か?) (2)下辺ではサンプル数不足による乱れが見える。 (3)l = 0° - 30° に系統的な指数の増加パターンが見える。 これは図12コブの急勾配部である。 コブ斜面の反対側は青帯として現れている。 (4)コブの巾から星種族の固有等級巾は約 1 等。 (5)コブが銀河中心に向かって弱くなることは、この種族の 距離が銀河中心に向かって増加することを意味する。 ![]() 図12.銀河中心に対して両側等角度のペアに対しての GLMC 光度関数。 |l| > 30° では南北の数は等しいが、|l| < 30° では北側が 南側より 25 % 多い。さらに北側には ∼ 12 mag. にコブがあり、南側 にはない。これは中心バーの北腕の表れ(Benjamin et al 2005) である。 PASP の電子版でカラーグラフが得られる。 |
バーが見える Benjamin et al 2005 は図10, 12, 13 を 半径 (4.4 ±0.5 kpc) と太陽 - 銀河中心線に対する傾き (44° ± 10°) を持つ バーの存在の証拠と考えた。 ![]() 図13.4.5 μm 星計数のべき乗指数の分布を縦軸 = m(4.5)、横軸 = 銀経 l 面上に示す。基本的には図11(12?)曲線の勾配である。上図 m = 12 mag, l < 30° の橙ー黄色 帯は図11(図12?)のコブに対応する。 青色の帯は勾配が平らになった部分である。 Benjamin et al 2005 はこのデータ を解析して、バーの半径 (4.4 ±0.5 kpc) と太陽 - 銀河中心線に対する 傾き (44° ± 10°) を得た。ビンサイズは 0.1° × 0.1 mag. である。 |
4.2.スケール長図14に 4.5μm 数分布を指数関数型円盤で期待されるベッセル関数で フィットした。|l| = 10° - 65° で良く合う。その間にファクター 12下がっている。Benjamin et al 2005 によるベストフィットでは 角度スケール長 = 24.2° ±0.3° である。これは実長さに して 3.9 ±0.6 kpc に相当する。その際、レッドクランプは MK = -1.62 ±0.03, (J-K)o = 0.7 で わずかなメタル量効果がある(Cabrera-Laverrs et al 2007)と仮定した。 また、|l| < 65° で分布の中間点は l = 0° の上下を ± 0.5° で揺れる。図14.平方度あたりの星数(4.5μm, J, H, K)の l 変化。減光が弱くなるため に長波長ほど増える。 ( SED、空間分解能、感度の絡み合いだけどね。) 4.5μm 分布にベッセル関数でフィットした。良く合う。l = -55° のずれは ケンタウルス腕が接線方向になる効果。|l| < 5° の超過はバルジ。 サジタリウス腕の接線効果による超過が見えないことに注意。 ( その意味は何だろう?) |
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4.3.渦状腕Sagittarius 腕接線方向の増加が見えないScutum-Centaurus 腕の接線方向 l = 306° - 313° では星の数が 増加していることが図14から分かる。しかし、反対方向 Sagittarius 腕 の接線方向にあたる l = 45° - 51° には対応する増加が見られ ない。Drimmel, Spergel 2001 は赤外減光を取り入れた K バンドモデルを 作った。我々は現在さらに減光の少ない中間赤外モデルを作っている。 銀河系の正面図 第212米国天文学会では銀河系腕特別セッションが開かれ、その会では 銀河系を正面から見るとどう見えるかを既存の全データから再現する試みが 成された。Dame, Thaddeus 2008 は銀河中心の向こう側に 3 kpc リングの 対応パターンを発見した。Hurt による正面図15、16は半世紀に及ぶ 電波、赤外、可視観測の集大成である 銀河系中心距離 図15、16の結果は R(GC) = 8 kpc (Reid 1993) に揃えた。Sag A* 周囲の 星の軌道を解析した結果 (Eisenhauer er at 2005) は R(GC) = 7.62 ± 0.32 kpc であるが、他の独立な測定による確認が得られていない。 バー Gerhard (2002) は 長さ:巾:高さ = 10 : 4 : 3, 半軸長 = 3.1 - 3.5 kpc, GC-太陽線に対しての角度 φ = 20° を得た。この構造は 銀河円盤より縦に高い bulgey-bar である。 |
長いバー (long bar) Hammersley et al 2000 はレッドクランプの分布から平たい "Long Bar" の 存在を主張した。この存在は GLIMPSE データから確認された。二つのバーの 力学的関係は不明である。 3 kpc 腕 van Woerden 1957 は 21 cm 観測から 3 kpc 膨張腕を発見した。これは バーと平行に流れるガス流に付随すると考えられている。銀河系中心の向こう側 の対応物は Dame, Thaddeus 2008 が見つけた。 Fux 1999 のモデルが CO, HI の位置・速度データの解析に用いられた。このモデルはバーのダストレーンと 中心分子帯 (Morris, Serabyn 1996) の解析にも用いられた。 外側腕 (Outer Spiral Arns) バーの影響圏の外側には4本の主腕、 Norma, Sagittarius, Perseus, Scutum- Centaurus がある。最後の腕は Scutum-Crux と呼ばれることもあるが、接線方向 は明らかに Centaurus 座内にある。最もよく使われるモデルは Georgelin, Georgelin 1976 による HII領域の研究である。図15、16は伝統的な彼らの モデルからスタートして、 (1)VLBA による星形成域メーザー源視差 (Xu et al 2006) (2)CO サーベイから腕接線方向 Dame et al 2001 (3)腕で密度超過が起きているかどうかで Scutum-Centaurus, Perseus を 主腕、Sagittarius, Norma は二次腕と分離。Drimmel 2000, Drimmel, Spergel 2001, GLIMPSE の結果。 を取り入れた。研究会では腕の構造が最も議論された。 図15,16には "Outer arm" と "Distant arm" の位置も加えてある |
空間分布 Robitaille et al 2008 は GLIMPSE から 7500 の IR AGB 星を発見した。 この研究以前に見つかった既知 AGB 星は大部分 < 1 kpc の太陽近傍星 であった。それらは GLIMPSE ではサチっている。Robitaille et al 2008 の AGB 星はこれに反して銀河系全体に広がっている。 ( 距離をどう決めたか?) 変光 GLIMPSE と MSX の比較から Robitaille et al 2008 はそれらの内約 500 星が 大きな変光を示すことを見出した。それらは進化した星の研究者に追尾研究の 機会を与える。 |
惑星状星雲 Cohen et al 2005 は電波と GLIMPSE で発見された惑星状星雲 G313.3+00.3 の研究を行った。Cohen et al 2007 では 58 PNe を 調べ、可視、中間赤外フラックスから熱的、非熱的放射を分離した。 Kwok et al 2008 は GLIMPSE サーベイから 30 PNe を同定した。 超新星残骸 Reach et al 2006 は 99 の既知超新星残骸を調べ、 18 個を GLIMPSE I サーベイ領域内に見出した。 |
これまでの発見 GLIMPSE からは多数の思いがけない発見がなされた。それらは (1)EGO (2)古い種族の K, ME 星による銀河系大規模構造 (3)膨張バブルに誘発された星形成 (4)大質量星形成領域におけるバウショックの優越 (5)ダスト放射の性質 球状星団 2MASS から検出された "Zone of Avoidance" 中の球状星団 l = 31°, b = -0.1° は GLIMPSE により Av = 15 mag で Kobulnicky et al 2005 により報告された。これは最も明るい球状星団である。 |
Southern Jellyfish Nebula Mercer et al 2007 が発見した。中間赤外でフィラメント状または 星雲放射のロープ状に見える。その長さ対巾の比は 20 : 1 である。この 天体の性質は不明である。なぜこのような形に見えるかの説明として、 (1)磁場による閉じ込め (2)不安定性の結果 (3)散乱表面の照射 (4)輝線スペクトル (5)投影効果 このような物体は他にもあるらしい。 YSO 分子雲全体に渡って YSO が発見された。これは HII 領域の中心付近に集中 すると考えていた YSO 研究者の予想を覆した。 |
GLIMPSE の発見 GLIMPSE による寄与として、 (1)赤外暗黒雲 (2)EGO とその他の YSO (3)中間赤外バブルと HII 領域 (4)30を超す β Pic 天体の同定 |
(5)銀河系広域構造を赤色巨星で探った。二本腕の棒渦状銀河 (6)バーの形と方向 (7)Sagittarius 腕の接線方向に星数増加が見られない (8) ダストと PAH の分布 (9)バウショック |