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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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TAOの鏡をコーティングするための蒸着チャンバーが、山頂観測運用棟に設置されました

蒸着装置は、ガラスでできた主鏡および副鏡、第3鏡の上にアルミをコーティングし、反射鏡としての役割を持たせること、そして長期間の観測運用による汚れや劣化により反射率が低下した鏡を蘇らせる役割を果たします。TAOの蒸着装置の特徴は、(1) 主鏡が入った主鏡セルが上下チャンバーにサンドイッチされて蒸着作業が行われること、つまり主鏡セルも蒸着チャンバーの役割を担うこと、(2) 下部チャンバーが移動昇降台車と一体化されており、蒸着エリアと望遠鏡を行き来して主鏡セルを運ぶことができることなどがあります。(3) 何より世界最標高にある天文台に設置されたチャンバーは、世界最高標高にある蒸着チャンバーであると言えます。そのため、運搬や設置、起動試験など、多くの検討事項や課題がありました。その困難や課題を克服し、2024年12月ついに山頂観測運用棟内に設置され、問題なく稼働することを確認しました。

1. 山頂への運搬

TAOは5000mのパンパラボラ平原からさらに600mほど高いチャナントール山頂にあります。安全な荷物の運搬・搬入のための道路工事は困難を極めましたが、2021年3月にようやく完成し、大型物品、重量物を運べるようになりました。(道路工事の記事はこちら
蒸着チャンバーは2021年から5000mのヤードに保管されていました。TAO関連の物品の中で、上部チャンバーは単体で最も大きく、 最も重い部品であるため、このチャンバーの山頂への運搬が成功することは、それ以降の望遠鏡関係物品や主鏡の輸送の安全を保証するマイルストーンになることになります。そのため、チャンバー輸送のための試走が事前に行われ、確実性や安全性を確認する必要がありました。この試走は2024年3月に実施され、今回のチャンバー輸送へのフィードバック情報を得ることができました。 (チャンバー輸送のための試走の記事はこちら
チャンバーの運搬作業は2024年10月に行われました。試走で行ったのと同様にトレーラーをタンデムにし、ゆっくりと且つ安全を確認しながらの輸送でした。結果、想定通りの輸送が無事に完了!山頂観測運用棟への設置へと進むことになりました。

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▲fig1:TAO道路を運ばれていくチャンバー
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▲fig2:チャンバーが無事に山頂に到着!

2. 山頂観測運用棟への設置

蒸着チャンバーは製作の後、日本で一旦組み立てられ、動作試験を行なっています。但し、そこは大きな工場内で、しかも温暖、1気圧の空気もある人にとって優しい環境下で行われました。しかし今回は5,640mという非常に厳しい環境の中での組み立て作業になります。そのため事前の作業手順の確認や工具・使用機材の予めの準備の他、作業員の健康管理・工程管理も重要になります。このような準備は本件に限らずあらゆる作業に必要になってきます。
蒸着装置は大きく分けて、上部チャンバー、下部チャンバー、移動昇降台車、周辺機器があります。最終的には観測運用棟の蒸着エリアに各々が設置される訳ですが、手順を間違えると奥にあるべきものが設置されず最終型にならないことが起こり得るため、まず一番大きなチャンバーが入る前に周辺機器を設置しておく必要があります。そのため作業は予め設置計画案に従って注意深く行われました。この周辺機器には真空配管、冷却水配管なども含まれます。これも予め設置されている必要がありますが、現場の実際のサイズに合わせて現地での追加加工・調整も行いました。

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▲(左)fig3:粗引ポンプと配管(右)fig4:所狭しと配置される周辺機器

TAOの蒸着装置の特徴の一つとして下部チャンバーと移動昇降台車が一体になっていることを前述しましたが、この組み立ては観測運用棟とエンクロージャーを繋ぐブリッジ上で行われました。移動昇降台車は下部チャンバーと組み合わされることで台車としての形状として確立し、機能することになります。台車の各々の脚や下部チャンバーは大型クレーンで慎重に吊り込まれ、丁寧に組み立てられました。

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▲(左)fig5:ブリッジへと吊り込まれる下部チャンバー(右)fig6:移動昇降台車(ジャッキ)と下部チャンバーが結合

次にTAOの中で最大重量・最大ボリュームの上部チャンバーの設置作業に移ります。この搭載には非常に高いクレーン操作技術が必要であり、これはクレーンを操作するオペレータと指示役のリガーのコミュニケーションが必要なのはもちろんのこと、作業工程の事前の理解と調整も重要です。詳細打ち合わせを経て、上部チャンバーが下部チャンバーに搭載されました。その後上部チャンバーは観測運用棟内蒸着エリアへと運ばれ、ジャッキアップすることで観測運用棟の天井に固定されることになります。チャンバーは確実に且つ水平を維持した状態で固定される必要があるため、上部チャンバーと天井サポートの間には4本の中間サポートを挟むことでこれを実現しました。この部品の溶接などの追加加工にはカラマにある重機工業の会社の設備とスペースを利用しました。(その他、冷却水配管のカットやねじ切りもカラマの業者に依頼しました。このように今回のチャンバー設置には多くの地元業者の協力もあって成り立っています。)
今回の作業のメインイベントとなる上部チャンバーの天井への設置は、4つが独立に上昇量を変えることができるジャッキアップ台車を慎重に上げ、最後には32本のボルト止めを行うことで完成します。遂に取り付けが完了した瞬間には開発・製造に関わってきた多くの関係者や作業員とともに喜びを分かち合うこととなりました。この上部チャンバーは望遠鏡同様にこの先TAOの運用の間は二度と取り外されることはなく、観測運用棟奥に鎮座することになります。

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▲(左)fig7:上部チャンバーの吊り込みの様子、(右)fig8:組み上がった台車、下部チャンバー、上部チャンバー
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▲fig9:カラマの工場での中間サポート加工の様子
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▲fig10:観測運用棟天井へ設置された蒸着チャンバー

懸案事項として、上部チャンバーと下部チャンバーのフランジ間に歪みがあることがわかりました。また、台車での移動時とジャッキアップポジションでは荷重重心位置が変わるため、ジャッキ(台車)が傾き、下部チャンバーの歪みが発生したりすることがわかりました。蒸着エリアで両者が勘合した状態ではこの歪みは解消され、真空状態にすることは可能であることが確認されていますが、主鏡セルをサンドイッチして運搬したり、蒸着する際の安全性・確実性を確保するためには改修が必要です。これについては、現状把握と改修計画が検討されています。

3. 動作試験

今回主鏡セルはないものの、上下チャンバーが勘合した状態での動作試験も行いました。真空ポンプやクライオポンプなどチャンバー付帯機器の取り付けを行った後、起動試験、動作パラメータ調整・確認から始め、さらに冷凍機コンプレッサー冷却水循環やヘリウムガス圧の確認、そして真空ポンプの起動・動作試験を行いました。その作業と並行して、チャンバー内の144本のフィラメント配線と導通確認も行いました。そして電気設備の確認の後、イオンボンバードの起動試験と蒸着フィラメントへの導通試験を実施しました。この試験の結果は良好で、全ての装置が機能することが確認されました。一部センサーの不具合や動作パラメータの調整はあるものの、これは今後本番の蒸着の前の蒸着試験を繰り返すことで最適化していくことになります。
今後は、望遠鏡の組み立ての後、いよいよ主鏡の山頂への運搬、そして最初の主鏡蒸着へと進むことになります。主鏡に息が吹きこまる瞬間が来るのを期待して止みません。

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▲fig11:上部チャンバー内部の様子。床にフィラメントボックスが見える
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▲fig12:チャンバー付属機器が取り付けられたチャンバーの全容
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▲(左)fig13:イオンボンバード通電(右)fig14:蒸着試験終了!
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