Lifting the Dusty Veil with Near- and Mid-Infrared Photometry. II. A Large-Scale Study of the Galactic Infrared Extinction Law


Zasowski, Majewski, Indebetouw + 8
2009 ApJ 707, 510 - 523




 アブストラクト

 2MASS+GLIMPSE から 1.2 - 8 μm 減光則を l 150° 巾で決めた。G, K 型 巨星 レッドクランプの色超過から 5 バンドの相対減光を求めた。銀河中心からの銀経距離 に応じて両側で対称的に減光則の形に強い単調な変化が見られた。この強い銀経による変化は、 浅い減光曲線を示すとされる濃い分子雲を消去した後にも残った。  銀河中心から離れるにつれて急になっていく減光曲線は、 Rv が次第に減少していくことを 意味する。8 μm における減光曲線の折れ曲がりは銀経と共に強くなっていく。これが Rv 変化と同調することをモデルから明らかにした。いくつかの視線方向に対しては Aλ/ AKs を RGC の関数として表し、それが RGC で変化することを 見出した。減光曲線の l 依存性は減光曲線の RGC 依存性の反映であろう。



 1.イントロダクション 

 べき乗則 
 近赤外減光則は Aλ &prtop; λ で 表されるが、 Rieke, Lebofsky 1985  や Rieke, Lebofsky 1885 Draine 2003 は β = 1.6 - 1.8, Nishiyama et al 2006, Nishiyama et al 2009 は 2 に近い値を主張している。減光は固有カラーは既知の星例えば レッドクランプ星 ( Indebetouw et al 2005, Nishiyama et al 2006 ) や RGB tip または低質量質量放出星 (Jiang et al 2003, 2006) を使用して決められた。

 分子雲での MIR 減光 
 最近、分子雲での MIR 減光
( 文献が上がっているが省略する。)
そこでは背景星と看做せる星(Flaherty et al 2007) や電離領域の水素再結合線 Lutz et al 1996, ) Moor et al 2005, や水素分子線 Rosenthal et al 2000 が用いられた。さらに進んで、 Chapman et al 2009, McClure 2009 ではこれまでの「濃い」、「薄い」でなく密度の 関数として減光を表す仕事も出てきた。

 「宇宙」減光則が存在するか? 
 密度が薄い星間空間と濃い分子雲で減光則が変わることを考えると、環境が様々な 銀河系全体に渡っては減光則が大きく変化するのではないかと予測される。これまでの 減光則の研究はせいぜい 10 deg2 程度の領域であった。したがって、 「宇宙」減光則が存在するという証拠はないのである。
 目標 
 ここでは、「宇宙」減光則のテストを行い、さらにすすんで、減光の立場から 星間空間を「薄い」と「濃い」の二分法で記述することが適当かどうかを調べる。


 2.データ 

 図1には IRAC サーベイ領域を 2MASS 全天画像に重ねて示した。表1にはそれを 数値で示している。


表1.この論文で使った領域。




図1.上:2MASS 全天画像。水平線は b = &olusmn;5°
 下:銀河面拡大図。 正斜線=GLIMPSE I。逆斜線=Vela-Carinaサーベイ。黒菱形=ARGO

 3.減光の測定 

 3.1.サンプル選択 

 レッドクランプ星 
 レッドクランプ星は G-, K-型巨星で、 MKs ≈ -1.54, (J-Ks) ∼ 0.65 ±0.10, σM(Ks) ∼ 0.04 (Groenewegen 2008) である。このグループの星を使う。

  JHKs 測光誤差 
 サンプルの測光精度は JHKs で σ ≤ 0.4 mag とした。その結果 多数の固有カラーが赤く、赤化自体は小さい星が 2MASS では検知されないため に落ちたが、それは赤化の大きなレッドクランプ星への混入を防ぐ結果となった。

  IRAC 測光誤差 
 IRAC データに関しては、   Indebetouw et al 2005, に従い、 S/N ≥ 10 以上で、σ ≤ 0.2 mag を採用した。 固有カラーが赤い YSO やマスロス星を除くため、以下の基準を設けた。

   [3.6-4.5] ≤ 0.6
 かつ、
   [5.8-8] ≤ 0.2   (Flaherty et al 2007)

図2(b) にはこのような精度、カラーの制限を加えた後に残る星を表している。





図2.(l, b) = (310°, 0°) での色等級図でレッドクランプがどう見えるか? (a): 全てのカタログ星の2MASS CMD. レッドクランプは減光ベクトル沿いにはっきり見える。 (b): 測光精度、カラー制約を課した後の CMD. (c): 赤化補正後の CMD. 点線は MS と RGB. カラー幅が拡大されていることに注意。 (d): ボックス=赤化補正カラー選択後のレッドクランプ領域。
 MIR カラーを用いる新しい赤化補正法 
   Majewski et al 2011 の新しい方法で赤化補正した後に、補正カラーがレッドクランプの固有カラー範囲に 入る星を選んだ。簡単に言うと、この方法は λ ≥ 1.5 μm では SED が レーリージーンズ部になることを利用している。それはつまり色超過を個々の星について 決められることを意味する。

 レッドクランプ星の選択 I 
図2(c) のように、レッドクランプ星カラーを (J-Ks)o = 0.55 - 0.9 とした。この方法により、すこし赤化を受けた RGB 星や、大きな赤化を 受けた青い主系列星を観測された CMD から除去することが可能となった。
 注意しておきたいのは、この方法に潜在的に潜んでいる循環論法的な論理、すなわち、 減光則を調べるために星を選択するのに既存の減光則を使用する、によるエラーはそれほど 大きなものではない。というのは、 RC 選択のカラー幅 0.9 - 0.55 = 0.35 mag が広くとって あるので、減光則の少しの変化ではほとんどすべてのレッドクランプ星が含まれることに 変わりはないからである。
(それでも逐次近似は要る? )

 レッドクランプ星の選択 II 
 次にカタログを 2.5° × 2° の区画に分け、各区画毎に CMD を描いた。明らかに レッドクランプ領域からはぐれていると見える星、多分赤色巨星、やレッドクランプと思われるが 非常に明るい段階の星などは手作業で取り除いた。この段階で、暗いために積極的にレッドクランプ 星と同定しにくい星が多数省かれた。銀河面沿いの測光が高度に不確実なことは、フラックス過大評価 バイアスの潜在的な指標であるが、
(この部分意味が不明。 )
図3から、このバイアスが関与する制限よりも最終的な NIR 測光エラーは小さいことが 分かる。

 レッドクランプ星の選択 III  
 最後に、これから調べるカラー・カラー関係の信頼度を上げるために、各区画では、 レッドクランプの平均赤化量を最低でも 0.35 mag, 赤化量の巾を最低 0.15 mag という 要求を課した。


図3. レッドクランプ最終サンプルの測光精度の分布。初めに課したエラー上限値は 0.4 mag. であったことに注意。



 3.2.色超過の比 

 CERλ の定義と変形式 

CERλ = E(H-λ)
E(H-Ks)


(H-λ) = E(H-λ) [(H-Ks) - (H-Ks)o ] + (H-λ)o
E(H-Ks)


ここに、Giirardi et al 2002 モデルからメタルにほとんど依らず (H-Ks)o = 0.10 とした。
 CERλ のプロット 
 図4には、λ = J, 3.6, 4.5, 5.8, 8 μm の場合に、CERλ を (H-Ks) - 0.1 に対してプロットした。

 区画内レッドクランプ星の数が大きく異なる 
  2.5° × 2° の区画中、レッドクランプの平均赤化量を最低でも 0.35 mag, 赤化量の巾を最低 0.15 mag という要求に合うのは l = 10 - 65, l = 90, l = 260 - 350 の間で 65 区画あった。各区画で、 CERλ を [H-λ] に対して 直線フィットした。区画内のレッドクランプ数は 820 から > 6 104 まで 変化した。このサンプル数の違いがフィットに影響するかを見るため, 各区画内では無作為 に選んだ 820 個の星を使って 25 回のフィットを行った。このテストの平均と全ての星を 使ったフィットの結果との間には有意な差は認められなかった。



図4.(l, b) = (30°, 0°) における CERλ フィットの例。横軸は E(H-Ks) = (H-Ks)obs - )H-Ks)o で、(H-Ks)o = 0.10 を仮定した。


 3.3.結果 

 3.3.1.CERλ の値 

  CERλ の銀経依存性 
 図5は CERλ の銀河系中心からの距離 (l) による変化を示す。 これを見ると減光則に銀経依存性があることが一目で判る。この銀経依存性は、
(1)銀河系中心に対し対称であり、
(2)勾配は長波長になるほど急である。
CERλ が大きくなることは E(H-λ) が大きくなることであり、 つまり、銀河系外周部では減光則 Aλ/AKs が急勾配に なることを意味する。 CERλ の値は表2に載せた。


図5.CERλ = E(H-λ)/E(H-Ks) の 銀河系中心からの距離 (l) による変化。各区画の巾は Δl = 2.5° である。黒丸は l < 180°, 白丸は l > 180°. 白黒間の差異は認められない。エラーバーはフィットの 1σ エラーか 25 回テストの標準偏差のうち大きい方。 3.6 μ の CER はほぼ一定値である が、他は傾きが波長と共に大きくなる。
 CERJ  
  CERJ は l = 55° までほぼ一定の値を示し、その先はマイナスで大きくなる。 この挙動は l = 25° までほぼ一定の MIR 減光と対照的である。また分散も大きい。 J バンド はレッドクランプの等級がメタル量や温度の影響を受ける帯域と考えられる。J-減光強度の 種族効果はここでは評価しない。




表2.式3で用いられる CERλ の値



 3.3.2.(H-λ)o のチェック 

 図6では、固有カラーはほぼ一定 
 図6にはレッドクランプの固有カラー (H-λ)o を銀河系中心からの角度の関数 として示した。この値は一定値を示すはずなので、我々の方法に対するチェックとなる。 図6を見ると、確かに一定であるばかりか、パドヴァモデルの予想とも良く合っている ことが判る。僅か < 0.025 mag の違いは輻射補正の違いか、使用したフィルター透過 曲線の不正確さに起因するものであろう。

  (H-Ks)o =一定、という仮定はどうか? 
もちろん、真の固有カラーが少し変化する可能性は ある。と言うのは、我々の方法は (H-Ks)o =一定、という仮定に依存しているからである。 この仮定の妥当性を、
(1)銀河系円盤の元素組成勾配 Pedicelli et al 2009
(2)パドヴァ等時線の [Fe/H] と (H-Ks)o 関係
を使って調べてみよう。
 -1.22 ≤ [Fe/H] ≤ +0.18 のメタル量変化により、レッドクランプ星の (H-Ks)o は ≤ 0.06 mag の変化を示す。 Pedicelli et al 2009 によると、
     d [Fe/H]/dR = -0.13/kpc (R ≤ Ro)
           = -0.042/kpc (R > Ro)
これはどの視線方向に対しても Δ[Fe/H] ≤ 0.46 を意味する。
( もろ GC 方向を向いたら視線距離 3 kpc ということ? それとも l > 10° Ro(1-cos10°) ? )
これは (H-Ks)o の分散では << 0.06 mag となる。測定 E(H-Ks) は通常 ≥ 0.8 mag なので、固有カラーの分散値は無視できる。また、図4のプロットが非常にタイトであることからも この推測は支持される。



図6.レッドクランプの (H-Ks)o = 0.10 mag を仮定し、 CERλ フィットの y-切片から求めたレッドクランプ固有カラー。エラーバーはフィットパラメタ―の 1σ 不定性か 25 回実験で求めたパラメタ―の標準偏差か、大きい方である。破線=銀経沿いの 値の平均値。実線= パドヴァモデル Girardi et al 2002 の固有カラー。



 4.減光と密度 

 4.1.希薄星間空間を定義する 

 分子雲の減光曲線の勾配は緩い 
 分子雲の MIR 減光の研究、Flaherty et al 2007, Roman-Zuniga et al 2007, McClure 2009, Chapman et al 2009, から、局所密度が上がると減光曲線の 勾配が緩くなるという結果が得られている。これはグレインサイズの増加が原因 で、灰色減光に近づくためと考えられている。Chapman et al 2009 は分子雲に おいて、⟨ Av ⟩ に伴って 3.6 - 8 μm 減光曲線の勾配が緩くなって 行くことを示した。

 銀河系円盤の大規模密度勾配が減光則変化の原因? 
 本研究では 2.5° という広い幅でサンプルを集めているので、減光則の変化を 招く原因と考えられる密度変化としては、銀河系円盤の大規模密度勾配であり、 暗黒雲の小規模なフィラメンタリー構造ではないと思われる。

 希薄星間空間は一意か? 
 密度勾配は、(1)平均星間空間の密度変化か、(2)分子雲寄与の割合の変化である。 本論文の目標は普通に使われている星間物質の2分法、濃密な分子雲と希薄星間空間、 をテストすることにある。ここでは、希薄星間空間を二つの方法で調べる。 それは "RPD" 法と、 "13CO" 法である。

 4.1.1.RPD 法 

 RPD の意味 
 希薄な前景物質のみで赤化を受けている星を選び出す方法は、個々の星への 近似的距離を決めて、単位距離当たり最大減光量( reddening per unit distance = RPD ) の限界値を与えることである。 RPD 値がこの限界値より大きい星は「濃い雲」 の中または背後にいると看做す。この方法で難しいのは、希薄星間空間に対する RPD 限界を計算することである。
( この先の議論が分からなかった。)

 4.1.2."13CO" 法 

 "13CO" 法 
 13CO の J=1-0 遷移は濃い星間物質から出る。その放射限界は Av = 1 - 2 mag の雲の密度に対応する。典型的な雲の大きさとして r ∼ 200 pc を取ると、これは 数密度で n(H) ∼ 1 - 5 cm-3 になる。希薄領域での値 0.5 - 数 cm-3 と比べると、上に述べた既知の浅い(緩いの意味?)減光曲線を示すのに十分なほど濃い領域 に対して、13CO は鋭い感知能力を持つ。

 CO 領域の星の除去 
 13CO の雲の背後にある星だけを特定してそれを除くのは難しい。そこで、 荒っぽいが、13CO 放射がある領域の星は全て除くことにする。雲の前面に ある有用な星まで除かれる不利益はあるが、確実性を重視する。13CO の放射限界 の低さを考えると、この方法で選ばれた星の方向には濃い雲が存在しないことはほぼ確実である。

 この除去法の利点 
 暗黒雲はむらむらが激しく、個々の星毎の濃い星間物質のフィルタリング(?)を難しく している。このむらむらを再現する空間分解能のガス放射マップの使用は、中間距離の サンプルに対してこの困難さへの有効な反撃となる。





図7.様々な希薄星間空間の定義に対し、CERλ の銀河系中心角度 による変化を示す。エラーバーは図5と同じ。
(a): 13CO 放射無し領域からのレッドクランプ。
(b): (a) と同じ視線方向 であるが、黒菱=計算した RPD ≤ 0.22 サンプル、灰菱=計算した RPD ≤ 0.15 サンプル。
(c): RPD ≤ 0.22 サンプル。黒丸= l < 180°, 白丸= l > 180°. 実線=第1 象限の渦状腕位置。破線=第4象限の渦状腕位置。

 4.2.希薄星間物質の CERλ 導出 

 "13CO" 法のサンプル 
 FCRAO Galactic Ring Survey (GRS) l = 18° - 54° の 13CO データ, Jackson et al 2006 を濃い星間物質の指標に使った。 このマップは分解能 0.75' で中間距離にある雲の筋糸状構造を識別している。 最も安全な選択法として、我々は 13CO 放射が検出されない領域を 選んだ。GRS 実施領域内でこの非検出領域内にはレッドクランプ星の 55 % が 含まれている。 以前に述べたように、これは n(H) ≥ 1 - 5 cm-3 の雲が除去されていることを意味する。

 "RPD" 法のサンプル 
 RPD法では、単位距離当たり赤化量(RPD) の最大値として、RPD ≥ 0.22 mag/kpc と RPD ≥ 0.15 mag/kpc の二つを考察する。このカットはレッドクランプ星の 79 % と 57 % をそれぞれ残す。

 サンプル数の比較 
 以上の様々な選択法によるサンプルに CERλ フィットを行った。 GRS サーヴェイの範囲が l = 18° - 54° なので、"13CO" 法のサンプル はその範囲に限定される。それで、 RPD 法の結果も銀経の制限を付けた場合と制限なしの場合 の両方を示した。各区画でフィットに使用したサンプル星の最低数は、3.2.節での 820 から、RPD ≤ 0.22 mag/kpc での 14,000, RPD ≤ 0.15 mag/kpc での 5700, 13CO 法での 8000 である。初めの時より最低数が増加したのは l の範囲が 54° 以内になった からである。図7のエラーバーが小さいのもそのためである。

 13CO 法の結果 
 13CO 法の結果は図7の左 (a) に示されている。驚くことに、図5の希薄、濃密 の区別をつけなかったフィットと全く同じで、銀河中心角度依存性が見られる。

 RPD 法の結果  
 図7の中央 (b) には RPD 法の結果 を示した。今度は 銀経 l によって激しく CERλ が変動するが、大局的な変化傾向は 見られない。さらに、直観に反することだが、RPD 制限値を 0.22 から 0.15 に下げた時に、 Indebetouw et al 2005 の希薄星間空間減光則からの乖離は、 却って大きくなる。

 希薄空間サンプルの減光則は不可解なことに急 
 その上、これらの希薄空間サンプルのみを選んで作った減光則は、単純なべき乗則
( JHKs での A(λ) ∝ λ を指すのか?)、
や Rv = 3.1 ダストモデル(5.3.節参照) よりも急であることは理解が難しい。
( 希薄空間ではグレインサイズが小さくなるから 「理解が難しい。」と言うのか?
 少なくとも CERλ の分散が大きい原因の一部は、高赤化星ほど優先的に 除去されてフィットが不確実になったためである。もし、l = 28°, 50° 付近の 低い CERλ を "trough" と考え、l = 37° の高みをピークとは 見なさないならば、これらの窪みは Scutum と Sarittarius 渦状腕の接線方向 (Englmaier, Gerhard 1999)にほぼ対応する。これは "trough" の説明となるかもしれない。 というのは、 CERλ が小さいことは減光曲線が浅くなることを意味し、 渦状腕が濃密であることと一致するからである。
 本当に腕が原因? 
(1)RPD 大の星を除去しているので、RPD 限界を下げるほど分子雲原因の特徴が強まる とは考えにくい。
(2)太陽から腕の接点までの距離はまだ確定していないが、最近の結果では、 我々のレッドクランプの存在距離よりも遠いらしい(Hou et al 2009)。すると、 RPD の低いサンプル星が腕の接点付近を見ている可能性は低い。 (3)第4象限での対応接点、l=284° (Carina) と l = 310° (Crux) で RPD 法を適用してみた。RPD 法は 13CO サーベイの範囲に捕われない。 図7(c) を見ると、Crux, Carina に対応する窪みは見当たらない。

 これらの点から l = 18° - 54° 間での CERλ の振る舞い を銀河系構造に起因すると考えるのは難しい。

 図7(b),(c) の特徴は本物か? 
 図7(b),(c) の特徴は本物かどうかに関しても、次のような疑問がある。
(1)RPD 限界を決める際の仮定が妥当だったか?
(2) RPD 限界値を下げると、現実的な CER 値から乖離する。
(3)RPD 計算は星までの距離に強く依存し、距離決定は仮定した減光則の影響が 大きい。

 13CO 法の方が安全 
 これらの要因を考えると、13CO 法は完全ではないが、より安全と思われる。 「希薄」空間減光則と、「全サンプル」減光則が似ていることは、「全サンプル」レッド クランプ星が探った星間空間環境は 13CO が存在するには希薄過ぎることを 意味する。
(「全サンプル」も分子雲減光は受けていない と読める。分子雲も希薄空間も同じ減光則だが、何かの要因で同じ経度変化を被ると 考えるべきではないか? )

 今後の解析は 13CO データがある区間に限定されず、可能な限り広い 銀経区間での減光則を扱う。希薄空間での減光則が、特に 5.8, 8 μm で、経度による 変化を示すことは、銀河系平均密度勾配の効果(ただし分子雲でのサイズ成長効果を 越えた何か)銀河円盤全般に渡る二次効果、例えば化学組成、サイズ、結晶の割合、を 指し示す。

 希薄空間の意味 
 ここでは作業仮説として、「希薄空間物質」とは n(H) ≤ 1 - 5 cm-313CO が解離してしまうような星間物質を指す。この定義は普通に 「希薄空間物質」と言う場合に思い描かれるものに近いだけでなく、我々の結果を 実際かつ直接に赤化補正のために使用する場合に有用なものである。4成分星間空間 モデル(Whittet 2003) では「暖かい」と「冷たい(原子状)」成分が相当する。 この希薄成分は円盤全体で密度勾配を有する。と言うのは、この成分には分子雲の 周辺部が含まれていて、分子雲の空間占有率は円盤全域で変化するからである。
(ここも、なんで分子雲周辺部が密度勾配の 原因になるのか分からない。)

 しかし、強調しなければいけないのは、我々の定義から、この星間空間物質は 「濃い星間雲」と考えてはならず、(prior to this study ?)一定で不変の減光則と結びつけてはいけないのである。 我々の結果では、この不変減光則は全ての視線方法の減光の振る舞いを正確に記述している と言えない。希薄星間空間での減光則が変動することを考慮しない赤化補正は大きな系統誤差を 導入する危険がある。



 5.議論 

 5.1.Aλ/AKs への変換 

 AH/AKs が必要なのに 
 CERλ を Aλ/AKs へ 変換する式は以下のようである。
Aλ = AH - ( AH - 1 ) ・CERλ
AKs AKs AKs


銀経により変化する正しい減光則を導くには、独立に決められた AH/AKs が必要である。これは 極度に困難な仕事である。 Nishiyama et al. 2006, Nishiyama et al. 2009 は銀河中心方向で、全てのレッドクランプ星が等しい距離にあるという 仮定を基に、この値を定めた。ただし我々の場合にはそのような仮定を 立てることができない。 Indebetouw et al. 2005 は NIR の CMD 上でレッドクランプの軌跡をフィットし、 AH/AKs を直接に定めた。
彼らは距離を フリーパラメタ―とし、単位距離当たりの減光量を一定と仮定した。 この仮定は一般的には適用可能でない。そして、我々のより広い範囲 のサンプルには非一様なダスト分布を示す CMD 上 RC 軌跡の折れ曲がり やずれが見つかっている。このように、銀河円盤全体に対して 信頼できる AH/AKs を与えることはできない。

AH/AKs = 1.55 を採用する 
 そうではあるが、他の研究と比較するため、よく使われている AH/AKs = 1.55 を採用する。これは、 Aλ ∝ λ で β = 1.66 とすることに相当する。典型的な β の範囲は  β = 1.6 - 1.8 であり、 AH/AKs = 1.52 - 1.6 にあたる。β = 1.6 - 1.8 のこの巾は Aλ/AKs に 3 % - 15 % の不定性をもたらす。この不定性は銀経による変化の 数倍小さい。その上、 AH/AKs の選択は Aλ/AKs の絶対値には関係するが 相対的な減光曲線の形には影響しない。



 5.2.他の観測との比較 

 銀河中心方向の結果とは少し違う 
 図8では我々の Aλ/AKs を、 Lutz et al. 2006, Jiang et al 2006, Indebetouw et al. 2005, Faherty et al 2007 Chapman et al 2009 と比較した。全体的には 互いに似ていると言える。しかし、よく見ると、我々のデータは MIR では少し低めである。つまり、減光曲線は MIR でやや急である。 これは、他の研究結果の傾向と一致する結果である。 濃い星形成域の背後にある銀河中心方向での Lutz et al 2006, Jiang et al 2006, Flaherty et al 2007 は 浅い結果を出しているが、分子雲ではダストの性質が希薄星間空間とは 少し違っていると考えられる。

 Indebetouw et al. 2005 とは似ている 
 Indebetouw et al. 2005 の結果は我々のと近い。彼らの結果は l = 42°. 76° で 希薄星間空間と HIIR を通り抜けてきた。我々の減光曲線が少し下になるのは、 我々の観測範囲が希薄域を多く含むことで理解できる。

 Chapman とも 
 Chapman et al 2009 の A(Ks)≤ 1 データ も我々のと良く合う。このダーク星雲探しで、最も減光の小さい星は 分子雲から影響されていないのだろう。



図8.Aλ/AKs の比較。 黒丸=本論文。菱形= Lutz et al. 2006 の銀河中心方向。三角=Jiang et al 2006 の銀河中心方向。 細線= Indebetouw et al. 2005 の星間空間。四角= Flaherty et al 2007 の暗黒雲。プラス = Chapman et al 2009 の AKs ≤ 1 のみを選んだ結果



 5.3.理論モデルとの比較 

 Weingartner, Draine 2001 の ダストモデルと比較した 
 図9では色々な銀経における我々の観測減光曲線を Weingartner, Draine 2001 の ダストモデルと比較した。モデルのケースAとケースB では炭素組成が少し異なる。ケースAはグレインサイズが 1 μm までで、 ケースBは 10 μm までを含む。

 減光曲線に近いのは、  Rv = 4.0, 5.5 のケース B モデル 
 図8の時と同じく、我々の減光曲線は Rv=3.1 の理論モデルや NIR べき乗則 からの外挿よりも浅い。我々の内側銀河系減光曲線に最も近いのは、  Rv = 4.0, 5.5 のケース B モデルである。

 銀経と最適モデルとの間には相関がある 
 このように明らかに銀経と最適モデルとの間には相関がある。銀河系 内側は高 Rv に、外側銀河系は希薄星間空間の Rv = 3.1 減光曲線、 またはダスト平均サイズの小さなケース A と似てくる。外側銀河系の 希薄性は本論文のような広領域減光サーベイがこれまでなされてこな かった理由の一つである。



図9.指定銀経区間での平均減光曲線。丸=最少区間。三角、菱形= 中区間。四角=太陽半径超え。曲線= Weingartner, Draine 2001 の モデル。Rv と サイズ分布(A, B) は図中にあり。比較用に 実線=Aλ ∝ λ-1.66 を示す。



 5.4.8 μm の折れ曲がり 

 9.7 μm 吸収帯の影響は 20 % 以下? 
 8 μm で減光が強くなるのは通常 9.7 μm 非晶質シリケイト の広い共鳴帯が原因とされている。 Indebetouw et al. 2005 はこの吸収からの寄与は 8 μm フィルターでは 20 % 以下の影響しか 及ぼさないことを示した。

 希薄星間空間では A(8) が強くなる 
 このバンド強度は強く制約されていない (Whittet 2003) が、一般には粒径が大きくなるとバンド強度は弱まる。したがって、希薄 星間空間では A(8) が強くなることが予想される。図10で見ているのは 正にその現象である。図10には、図9に示した5組のダストモデルに 対する A(8)/A(5.8) も示した。ただし、その計算では正しいフィルター 透過プロファイルは使用せず、各バンドパスの FWHM と isophotal wavelength を K2 巨星に畳み込んだだけである。

 ダストサイズ 
 この結果も再び、銀河系外周部に向かって、粒径が減少していくことを 示している。

図10.A(8)/A(5.8) の銀経による変化。点は 10° 毎の平均。 破線=平坦な減光曲線。点線=Weingartner, Draine 2001 のダストモデル。 Rv と サイズ分布を付けてある。



 5.5.Aλ/AKs の銀河中心距離依存性 

 銀経依存性から中心距離依存性へ 
 観測された CERλ の銀経依存性は CERλ が銀河中心距離依存性を持ち、ある視線方向ではそれが重なって見えるためと 考えられる。銀経依存性から中心距離依存性を導き出せる可能性は非常に 魅力的であるが、同時に難しい。

 変換実行のための仮定 
(1)ダスト分布はスケール長 2 - 3 kpc で減少
   その場合、|l| < 13° の視線方向では、ダストの大部分
   はサンプル星のうち、最も遠いグループの RGC にある。
   本論文の RC に対しては RoGC = 8 kpc を仮定して
   RGC = 5.5 kpc. 同様に、|l| > 150° の外向き視線方向
   では、太陽に近い RGC = 10.4 kpc.
   ここでは3.1.節の最少赤化の要請は外している。
(2)サンプル星の大部分が同じ RGC を持つ方向がある。
   内側銀河視線方向は銀河中心環への接点付近で同じ
    RGC を持つ。
   一般には接点の手前にも向こうにも星やダストが存在す
   る。しかし、図11に見るように、手前の星は明るすぎて
   カタログから落ちるか、青い主系列星で、向こうの星は暗
   すぎてやはり落ちるような銀経がある。
   それが、 l = 58°, 302°, RGC = 6.8 kpc で起きている。


 レッドクランプ星の距離 
 レッドクランプ星の距離決定法は、3.1.節で述べ、 Majewski et al. 2011 に詳しい。太陽距離から銀河中心距離への変換は単純な幾何学から、
     RGC = SQRT[d2 + RoGC 2 - 2d RoGCcos(l)]
で与えられる。MKs = -1.54 (Groenewegen 2008) と  Indebetouw et al 2005 の減光則を用いる。

図11.我々のレッドクランプサンプルの RGC 分布。 RoGC = 8 kpc を仮定。点線= RGC の広がりが 最少な銀経。そこではサンプル星の大部分は同じ RGC を持つと 考えられる。実線=太陽位置の関係で幾何学的に排除される距離限界。

 系統誤差 
 この方法ではかなりの系統誤差が入るだろう。4.1.1.節に述べた ように、視線方向での分子雲の占める割合が一定ではないからである。 ここで出した RGC は円盤前面の減光分布をフィットする目的 ではなく、方法の有効性を示すためなので、近似的で十分である。


  CERλの変化 
 図12には、方向による CERλ の変化を示した。 銀河中心距離による変化の傾向が明らかに見て取れる。外側銀河円盤での 希薄な星間物質は高い CERλ を示す。これは急な減光則 となる。理論モデルと比較すると、内側円盤で大きなグレインが存在して、 大きな Rv を生み出すという推測と一致することが判る。

 ダストサイズが変わる? 
 星間ダストのサイズは、形成時のサイズ分布とその後の変化プロセスに 依存する。形成時のサイズ分布ははっきりとは理解されていない。さらに その上に、グレインの合体、ガス吸着、アニーリングなどのプロセスが加わる。 我々の銀河円盤全体でのサイズ変化、すなわち銀河中心に近いと平均 グレインサイズが大きい、は星間ダスト過程に制限を付ける。

図12.銀河中心からの角度範囲が 四角= ≥ 150°, 菱形= 57° - 59°, 丸= ≤ 13° の3つの方角に対する CERλ。それぞれ は図に示した RGC 付近のダストの効果が支配的である。 二重に点が打ってあるのは銀河中心に対して反対側での違いを示す。 曲線は Weingartner, Draine 2001 のモデル。



 6.まとめ 

 減光則の変化 
 2MASS/GLIMPSE を使って、 1.2 - 8 μm 相対減光強度を銀経範囲 150° に渡って調べた。G-, K-型レッドクランプ星を用いて CER を 計算し、減光曲線の銀河中心角による変化を検出した。銀河中心から 離れるに従って、減光則は急になる。

 希薄星間空間サンプルにしても同じだった 
 分子雲における MIR 減光が希薄星間空間と全く異なることが 最近多数報告されている。我々は 13CO (J=1-0) が検知され た方向のサンプルを全てデータから除去し、希薄域, n(H) < 1 - 5 cm-3 サンプルのみを使った。それでも、先に見出した傾向は 変わらなかった。これは、高密度の分子雲とは関係なく、何らかの2次 効果が円盤全体で働いていることを意味する。これまでの「希薄」と 「濃密」で星間空間を2分する考えでは不十分である。

 他研究との比較 
 我々の結果は希薄星間空間を対象にした Indebetouw et al 2005 や  Chapman et al 2009 の最も低密度ケースとは一致したが、濃い分子雲 を対象にした Lutz et al 1996, Jiang et al 2006, Flaherty et al 2007 とは合わなかった。Weingartner, Draine 2001 モデルと比べると、ある パラメタ―でフィットすることが判った。 銀河中心角が増加すると、ベストフィットの Rv は 5.5 から 3.1 へと 減少する。
 A(8)/A(4.5) 
 A(8)/A(4.5) は銀河中心角の増加と共に増えていく。9.7 μm シリケイト 吸収帯は外側円盤に向かうにつれ、ダスト粒径が小さくなる、結晶性が落ちる 等の理由で強くなると思われるが、我々の結果はそれを支持している。

 RGC 依存性への変換 
 銀河中心角度依存から銀河中心距離依存への変換は難しい。その第一歩として ダストの典型距離が比較的狭い範囲にある 3 方向で減光を調べた。 銀河中心距離による強い変化が示唆された。

 外側円盤 
 外側円盤では星の数が少なく、減光も弱いので研究が難しい。 それでも GLIMPSE-360 Cycle-6 サーベイの 3.6, 4.5 μm サーベイ は円盤の最も外側の測光結果を与えてくれるだろう。