A Comparison between Observed and Theoretical H-R Diagrams for the Young LMC Cluster NGC 1866


Becker, Mathews
1983 ApJ 270, 155 - 168




 アブストラクト 

 (M, Y, Z) の3次元パラメターグリッドでの恒星進化計算から作った、 (t, Y, Z) で指定される HR-図を作った。それを使って、LMC 星団 NGC 1866 の観測 CMD へのフィットを行った。この比較は、恒星進化モデルに対する 鋭敏なテストであると同時に、星団の年齢とメタル量も与える。  ベストフィットは (t, Δt, Y, Z) = (86±5 Myr, < 5 Myr, 0.273±0.010, 0.0160±0.0008) であった。セファイドの星数も 計算した。不定性の原因となるのは何か、対流の非局所過程の重要性を強調した。


 1.イントロダクション 

 概要 

 Ford 1970 は NGC 1866 質量として、3.6 104 Mo, Heckman 1974 は 8.5 104 Mo を与えた。NGC 1866 は主系列と共に多くの赤色巨 星と幾つかのセファイドを有する。 Searle, Wilkinson, Bagnuolo (1980) はこの星団を タイプ III とした。

 NGC 1866 の H-R 図は貴重 

 NGC 1866 の H-R 図は星数が多いので進化の速い時期まで表現されている。 これに対し、銀河系では散開星団が小さいので、 Harris (1976) がやったように、グループ分けされた星団を重ねてもはっきりした HR-図を得 ることは難しい。
 過去の研究 

 Arp 1967 は HR図を様々な組成の 5 Mo 進化経路と比較した。Meyer-Hofmeister 1969, Harris, Deupree 1976 は進化経路からの合成等時線を用いて観測と比較した。 表1には NGC 1866 年齢に対するこれまでの研究結果をまとめた。これらの研究は 組成、特にヘリウム量の選択が不適当であった。

 年齢、年齢の散らばり、組成の同時フィット 

 過去の研究では使用できる進化経路のパラメターセットの数が少なかった。 しかし、今や十分な数のモデルが使用可能である。この論文では、 年齢 t、年齢の散らばり Δt、組成 Y, Z を同時にフィットする。 ベストフィットは (t, Δt, Y, Z) = (86±5 Myr, < 5 Myr, 0.273±0.010, 0.0160±0.0008) であった。さらに、セファイド から、Δt < 1 Myr という結果が得られた。



表1.NGC 1866 年齢に対するこれまでの研究結果

 2.観測データ 

 2.1.CMD 

 データの選択 

 測光データは、Arp, Thackery 1967, Robertson 1974, Walker 1974, Flower 1981 から採った。全体では 537 星になる。Hodge 1961 は NGC 1866 には B < 19 の星が約 2000 あると推定した。フィールド星の混入を避けるために、 星団中心から2'.5 以内の星を使用する。さらに隣の星の影響が強いなどの星を 外すなどの操作を加えると、 409 星が残るが、サンプル数の少ない V > 18.5 の星を省くと、星数 353 になる。

 ブルーループのギャップ 

 図1にそれらの星の CMD を示す。中心核ヘリウム燃焼のブルーループ中に あるギャップは Robertson 1974 が注意したが、今回のデータでも見える。

 2.2.距離と赤化 

 これまでの研究結果は LMC の距離指標 m-M = [18.3, 18.75] に散らばる。 ここでは m-M = 18.6 を採用する。NGC 1866 近傍の赤化は Walker 1974 の E(B-V) = 0.061 を採用する。LMC 方向の R = Av/E(B-V) には、Essensted 1976 の 2.95 と Cohen et al 1981 の 3.20 を平均して、R = 3 とした。

 2.3.セファイド 

 Shapley, Nail 1951 は NGC 1866 にセファイドを発見した。これらのセファ イドは log P = [0.421, 0.547] に分布する。星団に属するセファイドの数は 11±4 と見積もられている。

 2.4.観測限界と不定性 

 測光エラーと距離エラー 

 測光エラーは暗くなると共に増加する。その効果が良く現れているのは図1 の主系列三角形である。赤化の値は誤差が小さいと考えられるが、距離指数は やや怪しい。距離指数が大きくなると、組成一定ならば年齢を若く見積もるこ とになる。しかし、年齢と組成のフィットに及ぼす効果はもっと複雑である。

 フィールド星 

 Meylan, Maeder 1982 は銀河系前景星は 3 % 程度と見積もった。Roberston 1974 は NGC 1866 の周りのフィールド星 HR-図は星団 HR-図と大体同じ外見 を示すことを見出した。したがって、LMC フィールド星の混入は、HR-図上に ランダムな散らばりではなく、実際の星団 HR-図に分散を加える結果になる。

 連星 

 連星は明るさを上げ、間違ったカラーを与える。


 図1.NGC 1866 の観測 HR-図。 


図1.NGC 1866 の観測 HR-図。主系列の形が三角形であること、ヘリウム核燃焼 による青い輪(ブルーループ)に注意。

 3.合成 HR-図 

 3.1.恒星モデル 

 熱パルス後は外挿 

 Y = [0.20, 0.36], Z = [0.001, 0.03], M = [3, 11] 範囲のグリッドのモデ ル進化経路 Becker 1981, Becker, Brunish 1983 を内挿して、必要な等時線を 得た。AGB を第1パルスまで上がる AGB 初期進化は、Becker, Iben 1979, Becker, Bruish 1983 から採った。その先の AGB 進化は
   log(Lmax/Lo) = 4.8          (M/Mo>5)
   log(Lmax/Lo) = 3.54 + 1.8 log(M/Mo) (M/Mo=[1, 59)
を仮定して、外挿する。最終有効温度Tmaxの方は、種族 I 星で
logTmax=3.5-0.06(logL-4.5)+0.1log(M7)+0.04logYs-0.04logZs+0.2logα
種族II 星(Z=0.001) では、
logTmax=3.7-0.08(logL-4.5)+0.1log(M7)+0.06logYs-0.04logZs+0.2logα
ここで、M7 = M/7Mo, Ys = Y/0.28, Zs = Z/0.02, &alpha: = l/Hp である。 l = ミクシングレングス、Hp = 圧力スケール高。実際の計算は α = 1 で行われた。

 AGB期間 

 AGB 最終点までにかかる時間は
   Δt = 5log(Lmax/Lt) Myr
ここに、 L' = 最初の熱パルス時光度
(どこまで外挿するかは分かるが、 その内容が? )

 3.2.モデル内挿の方法 

 最終点はマスロスで外層が消えるか、C/O 縮退核の爆発で決まる。M > 11 では C/O 核が縮退しないので、星は AGB 期を経ない。
(どこに使うのか分からない。 )
目的の (M, Y, Z) を挟む8本の進化経路を選び、最初に (Y, M)固定の経路間で logZ の内挿を行う。次に logY, 最後に log M で内挿する。

 3.3.モンテカルロ法に依る等時線作成 

 HR-図上にランダムに選んだ星を配置するためにモンテカルロ法を用いた。 発生確率を計算するために指定する必要があるのは、初期質量関数 ψ(m), 星団星の平均年齢 to の周りでの個々星の年齢分布 π(t-to)である。
 τ = log Te, λ = log(L/Lo) とした時、星が dτdλ にある確率は、

 P(τ,λ)dτdλ=dτdλ∫ψ(m) π[t(m,τ,λ)-to]dtdm

で与えられる。

 3.4.セファイド帯 

 セファイド境界は Iben, Tuggle 1975 の式 (1), (2) から決まる。簡単な 表式は log Te(BE) = log Te(RE) - 0.04 である。ただし、幅が光度で変化す る証拠もある。

 3.5.CMD への変換 

 理論モデルでの TL は観測で得られる CM に変換される。Flower 1977 は この点を議論している。 全体として TLD と CMD の見かけの差は、青い端と赤い端で大きい。どちら でも輻射補正が大きく、(B-V) が T 変化に不感性になるためである。 青い側では、若い星団での水素殻燃焼期と水素核燃焼期が区別しにくくなり、 その結果主系列ターンオフが年齢の良い指標にならない。B-Vのかわりに U-B を使うと良いが U データは少ない。赤い側では、明るい赤色巨星の大きな 輻射補正のために AGB の上昇は小さく抑えられる。これは、合成 H-R 図上 でAGB 先端に星が集まる原因になる。

 3.6.理論的限界と不定性 

 恒星モデルで最大の困難は対流の扱いである。我々は、セミコンベクション やオーバーシューティングを生み出す対流の非局所的扱いを行っていない。 これは主系列及びヘリウムの核燃焼で生じ、寿命を延ばすことになる。混合距 離比 α が大きくなると RGB と AGB の位置が青い側に移動する。その他 オパシティ、核反応、マスロスなども論じたが略。
 驚くべきは、これらの曖昧な項目の多さに拘わらず、Meyer-Hofmeister 1969, Robertson 1974, Harris, Deupree 1976 は NGC 1866 に対し有意味と 考えられるモデルフィットを生み出した。


 4.理論と観測の比較 

 4.1.比較の基礎 

 観測とモデル双方の不定性の結果、データに完全にフィットするモデルはあ り得ない。そこで問題はデータのどの側面をフィットの対象に選ぶべきかに なる。Meyer-Hofmeister 1969 は post-main sequence 期に、Robertson 1974 は 巨星と主系列星の比と青巨星と赤巨星の比に、harris, Deupree 1976 は ブルーループの全体的な様子に絞ってフィットした。我々は、ブルーループの 端を合わせることに気を遣った。若い星団ではターンオフは不適当だからである。 さらに、他の観測的特徴も全体として最もよく合うようにした。セファイドの数も その一つである。

 4.2.組成と年齢の影響 

 星間ガス組成(HIIR)は合わない 

 Peinbert, Peinbert 1974, Pagel et al 1978 は LMC 星間ガスに対し、 (Y, Z) = 80.249, 0.0083) を得た。LMC の星に関しては、求まった組成の 幅は大きい。図2には、彼らの値を使った計算結果を示す。最初に注目すべき は、どの年齢でもブルーループの先が高温過ぎる B-V < 0.3 て、データの 0.5 - 0.7 と合わないことである。 HIIR から決まる星間ガス組成は NGC 1866 組成とは合わない。

 フィットは一意でない 

 図3では、(t, Z) を固定して Y を変える、(t, Y) を固定して Z を変える の二つを試した。この二つを比べると、(Y, Z) を同時に変えると似たような フィットが得られる。何故かというと、Z の変化が反対方向の Y の変化で相 殺されるからである。つまり、モデル CMD のフィットは一意ではないのである。 これが、Meyer-Hofmeister 1969, Robertson 1974, Harris, Deupree 1976 が、 現在では非現実的な組成を仮定したに拘わらず、フィットを成功させて年齢を 決定できた理由である。

図2.(Y,Z)=(0.249,0.0083)固定での、t = 60,90,120 Myr モデル HR-図。



図3a.(t, Z) = (90, 0.015) 固定での Y = 0.26 と 0.28 モデル。  

図3b.(t, Y) = (90, 0.27) 固定での Z = 0.015 と 0.017 モデル。



図4.t = 90 Myr 固定で,Lequex et al 1979 の Y-Z 関係を仮定した  

図5.(t,Y,Z) = (86,0.273,0.0160) で 年齢の散らばり=10 Myr モデル


 Y と Z は相関する 

 Lequeux et al 1979 は 8個の青い不規則コンパクト銀河とオリオン星雲の 観測に基づき、Y と Z に次の関係を見出した。

   Y = 0.228 + 2.83 Z

図4には、この関係に沿うモデルの変化を t = 90 Myr の場合に示した。
 年齢の散らばりは 5 Myr 以下 

 最後に図5には、年齢の散らばりを 10 Myr にした時の結果を示す。 散らばりを大きくしていくと、観測に見られる半円形のループが消し去られて いく。それから、散らばりは 5 Myr 以下と推定される。


 4.3.ベスト解 

 ベスト解 

 ブルーループの青先端が観測される (B-V, V) の 1 標準偏差内に位置する という基準でエラーを決めて、 Y-Z 関係を仮定して、我々が得たベスト解は

   (t, Y, Z) = (86±5, 0.273±0.010, 0.0160±0.0008)

である。

 図6a=人工的な散らばりをつけたベストモデル 

 図6a にはベストフィットに人工的な散らばりをつけて作ったモデル CMD である。この散らばりの結果、狭い主系列が観測に見られるような三角形に 変わった。我々のベスト解は種族 I の標準組成 (Y, Z) = (0.28, 0.02) と あまり変わっていない。表1を見ると、我々の解は Robertson 1974 の (Y,Z) = (0.272, 0.02) に近い。
(等時線も示して欲しい。)
しかし、我々の年齢 86 Myr は彼の 70 Myr より古く、 Hodge (1983) が他の測定(ターンオフ)から得た 80 Myr に近い。
(結局若い星団でもターンオフは有効?)
以前の結果との年齢差の原因を探ると組成の選択に行きつく。これは年齢と 組成の同時フィットを扱う必要性を示す良い例である。

 図6b = 5 Mo 星の進化経路 

 図6b には 5 Mo 星の進化経路を NGC 1866 データに重ねた。図から post-MS 期にある星の質量は 5 Mo より僅かに小さいことが分かる。図はまた、実際の ターンオフは V = 17.5 より明るい所で起きていることも示す。

 フィットは一意でない 

 最後に繰り返すが、図6a のベストフィットは一意な解ではないことを強 調したい。例えば、同じ年齢でも Y = 0.443 - 10.6 Z を満たす他の組成で 同じくらい良いフィットが可能である。



図6a.ベストフィット CMD. (t, Δt, Y, Z) = (86, 1, 0.273, 0.0160). Robertson 1974 の方法で人工的な分散を入れた。点総数は図1と同じ。  

図6b.NGC 1866 CMD 上に重ねた 5 Mo 星の進化経路。主系列ターンオフの 位置に注意。


 4.4.一般的な注意 

 他のフィットする特徴 

 図1と図6を比べると、ブルーループ先端以外にも一致する特徴がいくつか あることに気づく。

(1)主系列と早期水素殻燃焼期の三角形は良く再現されている。

(2)三角形の先端=ターンオフの光度も V = 16.5 で観測に合う。

(3)ヘリウム中心核燃焼期の特徴:時間の大部分はブルーループ先端と赤色 巨星下端で過ごされる、B-V=0.9 のロバートソンギャップの再現。 (4)NGC 1866 セファイドはブルーループ先端にある。 モデルループ先端も Iben, Tuggle 1975 のセファイド不安定帯に重なる。
 モデルと観測の不一致点 

 観測 CMD にある以下の特徴が再現されていない。

(1)右下の暗い赤色巨星
(2)V=15.2 より明るく、B-V=1.5 より赤い星

暗い赤色巨星はおそらく、星団近傍で以前に起きた星形成で生じた星であろう。 CMD 上辺の星は Flower 1981 が提案した post-AGB 進化段階の星かも知れない。 我々の計算では、AGB は V = 13.8 まで上がる。これは NGC 1866 観測 CMD の AGB 上端 V = 15 より高く、マスロスの仮定が弱すぎたことを意味する。


 4.5.細かい差異 

 表2=進化段階ごとの星数 

 ベストモデル=図6a と観測=図1の星数は同じに揃えてある。表2は進化 段階ごとの星の数を示す。この比較は過去のサーベイの不完全性により限界が ある。

 モデル主系列星の数が少ない 

 モデル計算は IMF ∝ m-2.3 を仮定して行われた。その結果 は主系列部が少なすぎ、巨星部が多すぎるという結果になった。もし、観測で 暗い主系列星の見落としがあれば、その効果は逆に働くので、この違いは リアルである。 IMF ∝ m-14 を仮定すれば、観測に合うように できるが、非現実的である。可能性としてはモデルの改良で、 水素の核燃焼期に対流オーバーシュートが起きると、主系列寿命が 20 - 40 % 伸びる。これは、モデル主系列星数を増加させる。ただし、光度も上げ るので我々が得た年齢 86 Myr は上限値となる。
(マスロスは無視。)

 モデルの RGB, AGB カラーは赤すぎる 

 これは、温度・カラー変換に誤り があるためかも知れない。対流のミクシング長の決め方の影響も大きい。

表2.NGC 1866 進化各段階での星の数


 5.結論 

 星団パラメター 

 (Y,Z,M) の進化経路グリッドを基に、NGC 1866 のパラメター (t, Δt, Y, Z) = (86Myr, 1Myr, 0.273, 0.0160) を得た。フィットはブルーループの 先端カラーで決め、それ自体は一意ではない が、Lequeux et al 1979 の関係 Y = 0.228 + 2.83 Z で一つに絞ったのである。 我々の年齢は以前の結果より古い。その原因を辿ると (Y,Z) の選択に行きつく。 我々の値は Peinbert, Torress-Peinbert 1974 が LMC 星間物質で得た (Y,Z) = (0.249,0.0083) と Lequeux et al 1979 がオリオン星雲で得た (Y,Z) = (0.280, 0.019) の中間である。NGC 1866 は LMC 星間物質より高メタルという ことになる。しかし、この星団メタル量自体は Cohen (1982) が LMC 星団に対して得た年齢・メタル量関係とは合致する。
 不一致な点 

 モデルはモデル主系列星が少なく、巨星が多いという結果を与えた。これは モデルに何らかの修正が必要なことを意味する。対流オーバーシュートと ミクシング長の見当が必要であろう。