Spectroscopy of Red Giants in the LMC Bar


Cole, Tolstoy, Gallagher, Smecker-Hane
2005 AJ 129, 1465 - 1482




 アブストラクト 

 LMC バー光学中心の 200 平方分にある 373 赤色巨星の近赤外スペクトルから メタル量と視線速度を導いた。これは LMC 表面輝度最大地点での中間年齢と 高齢の星の最初の測定である。メタル量分布は [Fe/H] = -0.4 に鋭いピークを 持つ。 赤色巨星の 10 % は [Fe/H] ≤ -0.7 であり、分布の小さな尾が [Fe/H] = -2.1 まで伸びている。低メタル星が比較的少ないことは、 LMC にも 銀河系と似た "G-矮星" 問題を持つことを示唆している。組成分布は二つのガウ シャンの重ね合わせで近似できる。 一つは星の 89 % を含み、[Fe/H] = -0.37, σ = 0.15, もう一つは星の 11 % を含み、[Fe/H] = -1.08, σ = 0.46 である。 第1成分のメタル量分布は LMC 円盤中間年齢星団と似る。それらの太陽中心 平均視線速度 257 km/s は円盤の中心から遠く離れた箇所の測定で決めた重心 速度と同じである。我々の観測領域はバーの中心にあるので、運動学的な拘束 は強くない。しかし、バーの運動が円盤全般の運動からずれていることを示唆 する証拠はない。  サンプル全体の速度散布度は σv = 24.7±0.4 km/s である。最も低メタルな 5 %, [Fe/H] < -1.15, は σv = 40.8±1.7 km/s で、最も高メタル 5 % の倍以上となる。これは、古 くて、厚い円盤またはハロー種族が存在することを示している。年齢・メタル 量関係は t = 5 - 10 Gyr でほぼ平坦であり、メタル量の散布度は平均関係の 周り、 ±0.15 dex である。これを文献の化学進化モデルと比較すると、 3 Gyr の爆発的星形成は観測と合致せず、星形成率が 6 Gyr 以降漸減するモ デルの方が良い。LMC と銀河系の性質を比較し、両者の潮汐作用で星と星団の 形成史を説明するモデルとの関連を調べた。


 1.イントロダクション 

 フィールド星と星団とは異なる形成史 

 LMC は 1010 Mo で矮小銀河と巨大銀河との境界に位置する。 また LMC は SMC, MW との潮汐作用の影響を受けている。LMC が銀河系と較べ、 数 Gyr の星の割合が高いというような一般的な性質 Butcher (1977) は数十年前から知られていた。しかし詳細が調べられるようになったのは WFPC2/HST による深い測光が可能になってからである。その結果、 Holtzman et al. (1999) はフィールド星と星団とは異なる形成史を有することが明らかになった。

 年齢・メタル量縮退 

 LMC の年齢・メタル量関係は明らかでない。その最も良い追跡天体となる 星団は 3 - 10 Gyr の欠落がある。そこで我々は、このギャップを埋め、中心 距離によるメタル量変化、バー、円盤、厚い円盤、ハローの星を区別するため LMC フィールド星の化学組成を測り始めた。観測時間を考慮して、中分散 分解能で Ca II 3重線の分光を用いる。 この方法は Olszewski et al. (1991) により、 LMC 星団に適用され、その後の研究の標準となった。
 多体分光の開始 

 我々は LMC 円盤の2か所で赤色巨星のロングスリット分光 (Cole et al2000) を開始した。その後 Smecker-Hane et al 2004 はセロトロロの多体分光器を使 い、数を6倍に拡大した。その結果、中心から1スケール長における赤色巨星 の平均メタル量が [Fe/H] = -0.45 で、[Fe/H] < -1 の星数は 10 % 以下で あることがわかった。

 メタル分布の非一様性 

 Smecker-Hane et al 2004 はまた、中心部のメタル分布が以前の投影角度 8° 以上離れた地点で得られたメタル分布 Olszewski 1993 と大きく異なる ことを示した。特に大きな違いは、中心近くでは低メタル星の割合がうんと 小さいことと、分布ピークが鋭くて幅が狭いことである。

 ここでやること 

 この論文では、LMC バー中心領域における化学組成と視線速度を測る。領域 は混み過ぎて、Hydra の太い 2" 角ファイバーではスカイの差引ができない。 この論文では、 WFPC2 による観測、ESOParanal Obs.8.2 m 鏡による分光観測 について述べる。


 1.1.マップと用語 

 図1= LMC 略図 

 図1に LMC 略図を示す。2° 等値線内部はバーからの光が支配的である。 外側では等値線が銀河系方向に引き伸ばされている Marel et al. (2001). そこではほとんどが円盤星である。円盤の回転中心(Marel et al 2002)を黒四角で示す。

 HI構造 

 良く知られているように、HI の分布は星の光の分布と大きくずれている。 黒三角は Kim et al. (1998). による HI 回転中心である。破線は Staveley-Smith et al. (2003). による HI 主要構造=径9° の円盤、超巨大シェル LMC 4, 円盤の南東と 西端から伸びる潮汐腕、である。彼らが述べているように V = [260, 280] km/s の HI 分布は, ガスのブリッジの両端から二本の腕が延び、晩期型棒渦状銀河 に似ている。図1にはこのブリッジも破線楕円で描いた。この図はガスの分布 が可視光バーと重ならないことを示している。

 観測箇所 

 図1には我々の観測領域も示した。領域内の観測星数は 36 - 373 である。 D1, D2 は内側円盤領域で既に発表されている。TD = transitional disk field = HI 円盤の縁と E = eastern field の結果は次論文で述べる。B フィールドは LMC バーの光学中心で、 Marel et al 2002 が炭素星の運動から決めた回転中心 から 0.3° 離れている。

図1.LMC 略図。実線=長軸半径 a = 1°, 1.5°, 2°, 3°, 4°, 6° での近赤外等値線(Marel 2001)。破線=主要 HI 構造 (Staveley -Smith et al 2003). 黒四角=中間年齢星の回転中心(Marel et al 2002). 黒三角= HI 回転中心(Kim et al 1998). 大星印= 30 Dra. 小星印=N 11. アルファベット+数字=今回の観測領域。



図2.バー領域、中心 (RA, Dec) = (5h24m, -69°49') 30' 角のデジタル スカイサーベイ画像、Canadian Astrophysics Data Center から。北が上。 大四角=観測領域。小四角=FORS2 ポインティング箇所。黄色、緑=WFPC2 画 像位置。青楕円=星団。マゼンタ= HIIR. (Hodge, Wright 1967) 赤楕円= Hodge 1972 が同定したダスト雲。

 図2=今回の観測領域、バーセンター 

 概要 

 図2はバー領域、中心 (RA, Dec) = (5h24m, -69°49') 30' 角のデジタル スカイサーベイ画像である。この中に、青楕円=約 30 の星団、マゼンタ楕円= Hα領域が Hodge, Wright 1967 の名前を付けて示されている。赤楕円= Hodge 1972 のダスト雲。OB アソシエイションは見当たらない。

 希薄星間物質の構造 

 希薄星間物質の構造は省いたが、LMC の他の場所と較べ、この付近は比較的 単調である。ここでは中性水素が LMC 北西や南東領域のように高速と低速成分 に分離することもない。HI 柱密度は大体 8 1020 cm-2 である。Cohen et al 1988 が見つけた小さな分子雲が領域の南西端と 中央ー東領域にある。

 赤化 

 Luks, Rohlfs 1992 の HI 柱密度から, 領域巨星までの E(B-V) = 0.08 ±0.02 と見積もる。最近の星形成が殆どないので、バー領域は中間年齢 と高齢の星を研究するのに適している。

 若い星と古い星 

 バー領域は古くて赤い星の中心に近いが、明るく青い星は HI と随伴して いて、赤い星に沿わない。 Staveley-Smith et al. (2003). のチャンネルマップにみえる羽毛状のガスブリッジは今回の領域の丁度北を 通過していて、光学バーと向きも揃っていない。また、若い種族の星も 同様である。違いのはっきりした例は Nikolaev, Weinberg (2000) の 2MASS マップに明らかである。
 fossil バーと stelliparous バー 

 年齢による構造の違いは円盤構造の進化として解釈可能である。それは内部 と外部からの摂動の結果、Dottori et al 1996, と考えられる。時間進化のため、 LMC の”恒星バー”を単体として取り出して議論する意味は薄い。なぜなら、 異なる年齢の星は異なる分布をしているからである。所謂光学バーは多分、化石 バーと看做すのが最適で、極端種族 I の星や HI 速度場の乱れから追跡される あまりはっきりしないバーは "stelliparous" バーと考えられる。"stelliparous" はラテン語の "stella" と "parere" (=to bring forth) からの造語である。 Nikolaev, Weinberg (2000) による異なったタイプの星の分布、Bica et al 1992 の星団の分布を比較して、 大体 6 - 8 Mo より重い星、 SWB タイプ III より早期の星団は stelliparous バーに属し、それより古い星は fossil バーと考える。両者の区切りは年齢 で 70 - 200 Myr に当たる。

 stelliparous bar の形成仮説 

 これは SMC との最後の近接遭遇の時期に近い。この出来事が LMC 円盤の 角運動量再配分に導いた可能性がある。バー構造が一度形成されると、 何周期に亘りこの構造は維持され、星が生まれて捕まり、力学的な副構造 を作り上げる。Sparke, Sellwood 1987, Shen, Sellwood 2004. 以降では 非常に若い= 0 - 0.2 Gyr, 若い= 0.2 - 1 Gyr, 中間年齢= 1 - 10 Gyr, 老齢= 10 Gyr とする。


 2.CaT = Ca II 3pD - 4pD 遷移の分光 

 CaT 8498, 8542, 8662 は K 型巨星で最も強い吸収線の一つで、強い地球 大気水蒸気吸収線の中間に収まっている。このため、中間年齢、老齢星の メタル量の観測に広く利用されている。最近では 8 - 10 m 望遠鏡に多体分光 装置が装着され、局所群矮小銀河の中間年齢、老齢星の組成観測が加速して いる。
Jorgenson et al 1992
 CaT は V と [Fe/H] に関係というモデル。 Rutledge et al 1997
 古い、低メタル星の重力効果を V 等級の線形関数で除去。3重線を観測的 に較正する。
Cole et al 2004, Friel et al 2002
 上の方法が太陽メタルまで、また 2.5 Gyr まで適用可能。
Cenarro et al 2002
 大規模スペクトルライブラリー

 2.1.天体選択 

 M-型巨星を避ける 

 赤色巨星枝をできる限り下り、M-型巨星を避け、かつ十分なカラー巾を確保 する。図3の実線枠内がサンプル星の領域である。I = [15.5, 16.5] で  Girardi et al 2000 の log t = 9.40 (2.5 Gyr) で Z = 0.0001 ([Fe/H] = -2.3) と Z = 0.019 ([Fe/H] = 0) 等時線で挟まれている。

 領域変更 

 図2の NGC 1950 周辺の観測コアは予想外に混み合い、多数の非常に明るい 星が多いことが判った。これらは多分星団の非拘束コロナ星であろう。そこで、 隣接領域から OGLE-II サーベイを用いて、サンプル星を選んだ。




図3.バー領域の CMD. I = [15.5, 16.5] 区間から観測天体を選んだ。青線 = Z 0.0001 の 2.5 Gyr 等時線。赤線= Z 0.019 の 2.5 Gyr 等時線。 白丸=レッドクランプ。





表1.観測ログ

 2.2.データ取得と整約 

 観測 

 観測は ESO Paranal Obs. 8.2 m Yepun (VLT-UT4) + FORS2/MOS モードで 2002 Dec 24 - 26 に行われた。観測ログは表1に載せてある。表にはメタル 較正用の 12 星団も載せてある。

 観測結果 

 サンプルスペクトルは図4に示す。観測結果の例を表2に示す。







図4.LMC 赤色巨星のサンプルスペクトル。暗い方半分から採った。3つの星 は V = 17.5 である。ラベルは 2MASS 名とメタル量。メタル量と CaT 強度の 相関に注意。  



表2.バー領域の赤色巨星 CaT 分光観測結果

 2.3.視線速度 

 視線速度の決定 

 視線速度の決定は、対象星スペクトルと既知視線速度のテンプレートスペク トルとのフーリエクロスコリレイション (Tonry, davis 1979) で定める。 実際の計算には FXCOR/IRAF を用いた。得られた太陽中心視線速度 Vo を表2に 示す。

 速度分布 

 平均視線速度は 257 km/s であった。観測された速度範囲は Zhao et al 2003 の結果と合う。図5に速度ヒストグラムを示す。曲線=薄い円盤モデル (Marel et al 2002) の速度。平均速度は 260 km/s、散布度は Zhao et al 2003 から 24 km/s とした。




(円盤とバーは分離しない? )

図5.LMC バー領域赤色巨星の視線速度ヒストグラム。左上は 1 σ エラ ーバー。曲線は Marel et al 2002 の薄い円盤モデルの平均速度に Zhao et al 2003 の速度散布度でガウス分布を描いたもの。データへのフィットではない。  




 2.4.等値巾と組成 




図6.バー領域 373 赤色巨星の CaT 等値巾の和と V-VHB の関係。 左上= 1σ エラーバー。右目盛り:Friel et al 2002 によるメタル量。




表3.バー領域赤色巨星の組成例。全体は電子版。



図7.バー領域赤色巨星のメタル量ヒストグラム。滑らかな曲線は二つの ガウシャンの和。内枠は低メタル部分の拡大図。

 CaT 等値巾とメタル量との関係 

 CaT 等値巾とメタル量との関係は観測的に較正される。標準とする銀河系 星団12個(Smecker-Hane et al. 2004)は [Fe/H] = [-2.0, -0.1], t = [2.5, 12] Gyr に亘っている。
(ADS になし )
バー赤色巨星の多くは 2.5 Gyr より若いと思われるが、 較正を 1 Gyr より若い星まで外挿するのはそれほどおかしくはない Cenarro et al 2002。較正にはまず還元等値巾 W'([Fe/H]) を以下に定義する。
     W'([Fe/H]) = ΣW + 0.73(V-VHB)
次に、メタル量 [Fe/H] は
     [Fe/H] = (-2.966±0.032) + (0.362±0.014)W'
図6には (V-VHB, ΣW) 面上に対象天体をプロットした。 注意すべきは、較正は球状星団の観測 (Carretta, Gratton, 1997) と銀河星団の情報(Smecker-Hane et al. 2004)に基づいている。両者に矛盾は ないが、総合的なシステムの構築に向け作業中である。


 2.5.年齢 

 CMD からメタルを決めるのは難しい 

 図8に RGB の CMD を示す。すぐ分かるように、非常に低メタルまたは高メ タルの星は CMD 上ではっきりした位置を保つ。しかし、 [Fe/H] = [-0.6, -0.2] の星はカラー巾全体に広がっている。実際、 [He/H] = -0.2 と -0.8 の星が重な っている例さえある。これは、年齢幅が広い星集団を見る時、 RGB の平均カラー があまり良いメタル量指標にはならないという良い例である。

 その他の CMD 特徴 

(i) 予想に反して、最も青い RGB 星の多くは比較的高メタルであった。
(ii) MDF ピーク付近の星のカラーが散らばっているのは年齢巾を示す。


 ハヤシのモデル 

 ハヤシ 1962 によると赤色巨星はほぼ対流平衡にある。近似的に、
     M1/2L3/4Teff-3 = const.
従って、 L = 一定では、 Teff ∝ M1/6
dTeff/dM = 300 - 500 K/Mo 程度となる。

 V-I 測光から年齢を決める 

 d(V-I)/dTeff と dM/dT (TOのこと?)が知れていれば、メタル量と距離が 既知の場合, V-I 測光から年齢を決められる。年齢エラーの最大の原因は [α/Fe] で、α 元素は電子源として赤色巨星のオ パシティ、さらに Teff に大きく影響する。 従って、等時線を用いて年齢を 決めようとするなら、正しい [α/Fe] の使用が重要である。実際には、 Salaris et al 1993 の近似式
   [M/H] = {Fe/H] + log(0.638 10[α/Fe]+0.362)
を用いる。ここに、[M/H] は電子源となる元素量の実効値である。 Hill et al 2005 によると、
     [α/Fe] = 0.05 - 0.10[Fe/H]  if [Fe/H] ≤ -1
          = -0.413 - 0.563 [Fe/H]  if [Fe/H] > -1


 等時線 

 パドヴァ等時線は log t = 10.25 (17.8 Gyr) まである。これは最も古い 球状星団の CMD を再現すると考えられていた。現在宇宙年齢は 13.7 Gyr という WMAP 観測データがある一方、球状星団年齢は距離とモデル の精度が上がり、最大 13.5 Gyr になった。これらの結果、パドヴァ等時線 は古い方の精度にやや問題があると思われるが、中間年齢での精度に関しては 多くの証拠がある。星団 (Bonatto et al 2004), フィールド星 (Binney et al. 2000) の研究は太陽近傍の最高齢星団や星の年齢 (9 - 11 Gyr) を改訂した。 これらはトリウム年代学から決めた銀河系円盤の年齢 9 Gyr や白色矮星光度 関数の暗い端の結果と整合する。10 Gyr より古い年代を扱うために、便宜的に 以下の式を用いる。
     Age = 10 + 0.41 (Ageraw - 10) Gyr


 RGBとAGB 

 こうして得た年齢には不定性がある。我々はサンプル星が第1赤色巨星枝を 上っている途中と仮定した。それらがもし AGB にあれば得た年齢は平均して 30 % 若い。得た年齢とランダムエラーを表3に示す。13.7 Gyr に星が集中 するのは、カラーが赤すぎて最も古い等時線でもカバーできなかった星で、 宇宙年齢を付与されたからである。我々のサンプル星の中間年齢は 2 Gyr で あった。1/4 づつのはばで 1.4 - 3.4 Gyrである。90 % の RGB は 6 Gyr より若い。

図8.バー領域赤色巨星の CMD. 分光観測を行った星はメタル量に応じて色分け されている。極端低メタルと高メタル星は RGB カラーとメタル量が相関する。 メタル分布ピーク付近の星は全体に広がる。  


これを図にすると以下のようになる。[α/Fe] が太陽でゼロにならない。





 3.解釈と解析 

 3.1.メタル量分布関数 




図9.バー領域赤色巨星のメタル量分布関数。太陽近傍(McWilliam 1990)と 比較した。太陽近傍星は平均 0.2 dex 高メタルである。

 2ガウシャン近似 

 図7のバー領域赤色巨星のメタル量分布関数は平均 [Fe/H] = -0.45, 散布度 σ = 0.31 であるが、分布に強い非対称性があるので、あまり意味 を持たない。2ガウシャン近似では、 89 % が μ1 = -0.37, σ1 = 0.15, 11 % が μ2 = -1.08, σ2 = 0.46 となる。

 低メタル成分 

 太陽近傍主系列星のメタル量分布と較べると、赤色巨星の低メタル量比率は ずっと小さい。しかし、RGB 星の寿命効果が系統効果をもたらしている。図9 には太陽近傍赤色巨星のメタル量分布と較べた。太陽近傍星では低メタル成分 がバー領域よりさらに小さいことが判る。

 星団メタル量の再較正 

  Olszewski et al. (1991) は LMC 70 星団の組成を調べた。ただし、彼らのメタル量較正は我々と異なる。 その変換式は、
 [Fe/H]clus = -0.212 + 0.498[Fe/H]OSSH - 0.128[Fe/H]OSSH2
この再較正は M67, Melotte 66 を取り入れている。最近の高精度観測の結果も この再較正を支持している。

 星団メタル量のヒストグラム 

 この再較正星団メタル量のヒストグラムを図10に示す。星団のメタル量 分布は明らかに双頭型であり、バー領域赤色巨星が低メタル側に長い尾を引い ていると対照的である。星団分布の主ピークは 1 - 3 Gyr の古い星団で、 バー分布のピークと良い一致を示している。別来ら 2004 は星団形成の期間 はフィールド星より短いというモデルを立てているが,その結果ともあう。 ただし、メタル決定のスケールが異なるので、過度の解釈は危険である。



図10.白ヒストグラム=バー赤色巨星のメタル量分布。黒ヒストグラム= LMC の 70 星団 ( Olszewski et al. (1991) )のメタル量分布。星団データは本文にあるように、この論文の較正と整合する ように調整した。内枠は [Fe/H] > -0.9 の拡大図。

 低メタルと進化スピード 

 低メタル星では恒星進化スピードが加速される。そのため、年齢が増すにつれ、 数が減るという効果がある。この効果は星団とフィールド星の数を比較する際に 考えなければいけない。例えば、バー赤色巨星の 5 % は [Fe/H] = [-1.5, -0.9] であるが、同じ割合 4/70 星団が同じメタル量区間にある。しかし、低メタル フィールド星の数が相対的に少ないことを考慮すると、この区間の星の数は 2 - 3 倍になるので、バーフィールド星も双頭型というような示唆は消し去ら れてしまう。より低メタルに行くと、 [Fe/H] < -1.5 星 4 % はバイアス を考えると星団の 8/70 = 11 % に近づく。詳しい比較はCMDとメタル量の 総合研究を待つ。

 バーメタルは円盤と星団の中間分布 

 メタル量スケールやサンプルバイアスの問題とは独立に、両者のメタル量 分布の形には差が明らかである。これは論文2(未出版?)で扱った 内側円盤で既に見えた傾向である。しかし、我々は円盤内側よりバーの方が 星団分布に近いことを見出した。例えば、星団のメタル量分布のギャップ 区間に落ちるバー領域赤色巨星は 5 % であるが、D1 では 13 %, D2 では 11 % である。これはバーの方が円盤より中間年齢星の割合が高いためと思われる。

 平均メタル量 

 バー赤色巨星の平均メタル量は [Fe/H]bar = -0.45 で D2 の [Fe/H]D2 = -0.46 と同じで、[Fe/H]D1 = -0.59 より 0.1 dex 以上高い。D2 はバーの端にあり、D1 がバーのはるか外にある ことに関係するのかも知れない。


 3.2.LMC 中心での星の運動 


表4.メタル量と速度散布度の関係

 バーの運動が現れるはず 

 我々のサンプルは Marel et al. 2002 の回転円盤から予想される視線速度に 良く合っている。我々の観測領域は回転中心に近いので、回転現象の表われは 小さい。バーの星はバー長軸に沿った大きな星流を示すと考えられる。(Sparke, Sellwood 1987) バーが天空に垂直に横たわっていない限り、視線速度データに それが現れるだろう。矮小銀河における中心からズレたバーの運動学的徴候 の研究はまだない。そのような、非円対称運動は視線速度分散に現れるだろう。

 速度散布度の比較 

 視線方向の速度散布度は σ = 24.7±0.4 km/s で、Zhao et al 2003 の LMC 一般場の値と良く合う。それは、van der Marel et al 2002 の 炭素星 20 km/s より少し大きく、 Kim et al. (1998) の HI 16 km/s より 60 % 大きい。観測された速度散布度は比較的厚い構造 を示唆するが、力学的に熱いバルジやハローのような種族ではない。 Zaritsky 2004 はそのような構造が LMC 内側の形態の説明に合うと主張している。

 視線速度分散と年齢 

 LMC の中間年齢種族と高齢種族の研究から視線速度分散が年齢と共に増加し、 最大 30 - 35 km/s に達することが判った。最高齢の星団も楕円体と言うよりは 厚い円盤を形成する。対照的に、 RR Lyr の散布度はバー領域で 53 km/s で ある。これは M = 1010 Mo の LMC ポテンシャル中の運動学的に 熱いハローに相当する。
 我々のサンプルにも年齢効果があるのかを見るため、図11に視線速度と メタル量の関係をプロットした。[Fe/H] < -1 の星の速度巾が高メタル 星より大きいことが判る。最も高メタルの区分では散布度= 16.7 km/s で、 次の区分では大きく飛躍し、その後漸増する。[Fe/H] = -1.15 で散布度は 40.8 km/s にジャンプする。これはハローに相当する価である。サンプル 取得領域が狭いのでこれらのマイナー成分について構造を議論するに至ら ない。

図11.バー領域赤色巨星の視線速度とメタル量の関係。サンプル数が多い 所は小さい点を使用した。低メタル星の速度散布度は高メタル星の倍くらいある。



 Zaritski のバーモデル 

 Zaritski 2004 は LMC バーが実は3軸不等バルジであるという提案をした。 バーの光度を 108 Lo とし、 Faber-Jackson 関係を適用すると σ = 70 km/s が古典的バルジには期待される。そのような構造は LMC の ような晩期型銀河には存在しない。一方、棒銀河はボックス型またはピーナツ 型の擬バルジを伴う。古典バルジより力学的に冷たい擬バルジは円盤とバーの 永年力学進化から生まれる。 LMC の擬バルジは速度散布度 30 - 40 km/s を 持ちそうである。この値は我々のサンプルの最も低メタルなグループと合う。 しかし、擬バルジは一般円盤の星種族から形成されるので、それらが特に 低メタル星のみを選ぶ理由はない。実際、 Peletier, Balcells 1996 は 擬バルジの星種族が円盤種族と同じであることを見出した。

 可能な解釈 

 可能性としては、バーの星種族は年齢と共に増加する連続した速度散布度で 特性付けられということである。面白いのは、最も高メタルの星が HI と 同じくらいの速度散布度を有することで、円盤が 0.2 Gyr 昔の SMC との遭遇 ではうんと強くは加熱されなかったか、または連続する MW との作用が HI が 冷えるのを止めていることを意味する。 


 3.3.年齢・メタル量関係 


図12.バー領域赤色巨星の年齢・メタル量関係。年齢は本文の方法で 求めた。

 誤差の評価 

 図12にサンプル星の年齢・メタル量をプロットした。与えられた年齢に対 するメタル量の分散は大きい。その幾分かは実際の分散、幾分かは微分赤化、 幾分かは {α/Fe] の仮定の誤りに依るだろう。それらの効果の大きさを 図13に示す。メタル量は安定していて、効果は主に年齢に現れることがわかる。

 低メタル中間年齢星? 

 サンプル中14星が [Fe/H] < -1, t < 10 Gyr である。D1とD2 領域にはこのような種族の星はずっと少ない。これはそれぞれの論文における 選択基準の差が原因ではない。14個の星の内、前の論文の範囲より青い側に あったのは一つだけである。D1, D2 選択域が落とした星の大部分は非常に若い、 t < 0.5 Gyr の星である。これらの星が RGB の青い側にあることは、 バーでは円盤よりも若い星が普遍的であることを意味する。
( バーで星形成か?)
 図13の結果は、見かけ上中間年齢の低メタル星の幾つかが、実際には高齢 低メタル星と中間年齢レッドクランプ星が重なって見えている物かも知れない ことを示唆する。

 ギャップの追跡 

 図14はメタル量が初めは急増し、その後 10 Gyr には 0.5 dex 以下しか 増えていないことを示す。我々が導いた年齢・メタル量関係は表5に載せた 個々の星種族と比較される。表5最初の2行は3.1.節で述べた二つのガウ シャン成分の繰り返しである。残りはそれぞれの星種族の平均メタル量を 年齢の増える順に載せた。中間年齢を追跡できるのはほんの僅かしかない。 4 - 10 Gyr の星団は ESO 121-3 [Fe/H] = -0.93 しかない。我々の サンプルの 3 - 6 Gyr 星は平均 [Fe/H] = -0.46&plumn;0.02, 6 - 8 Gyr 星 で -0.72±0.03 で約2倍の差がある。

図13.混み具合、微分赤化、α元素量の影響で年齢推定がどう変わるか。 黒丸=真の位置。矢印=各色の影響でどう見えるか。




図14.LMC バー領域の年齢・メタル量関係。0.2 - 13.7 Gyr を 2.7 Gyr で 区切った。記号の大きさは各区間内の星の数。エラーバーは横=区間巾と縦= 区間内の散布度を示す。微分赤化を受けていると疑われる5つの星は省いた。 Pagel, Tautvaisoene (1998) の実線=爆発的形成モデルと破線=連続星形成モデルを重ねた。




表5.LMC 恒星成分のメタル量

 3.3.1.モデルとの比較 

 二つのモデル 

 図14には Pagel, Tautvaisoene (1998) のモデルを重ねた。破線は星形成率が 10 Gyr 昔に幅広のピークを持ち、その後 ゆっくり落ちて行くケース、実線は一様で低い星形成率できて、3 Gyr 昔に形成 率が 6 倍に跳ね上がり、すぐに急落と言うケースである。 3 - 10 Gyr に星団 がないため、どちらのモデルも観測に合う。
 5 - 7 Gyr バースト? 

 D1, D2 ではフィールド星が星団の年齢ギャップを連続的に埋めている。 この観測値は破線の方に良く合う。バーストモデルでは若い星が多くなり 過ぎる。しかし、星形成バーストを支持する証拠は多い。したがって、 実線モデルを調整して、バースト時期を 5 - 7 Gyr に設定すると 良さそうである。


 3.4.空間パターンと集合 

 4.まとめと議論 

 やったこと 

 バー中心の 200 arcmin2 内 373 赤色巨星のスペクトル観測を 行った。球状星団 (Carretta, Gratton 1997), 銀河星団 (未出版)で較正 したメタル量を、フーリエクロス相関で視線速度を求めた。Girardi et al 2000 の等時線と観測したメタル量、仮定した [α/Fe] を用い、エラー 60 % で年齢を決めた。その結果、

 1.メタル量分布 

 バー中心赤色巨星の平均メタル量は [Fe/H] = -0.45 で、散布度 0.31. メタル量分布は二つのガウシャンを 8 : 1 で足して再現できた。主分布は、 平均値 -0.37, σ = 0.15, 副分布は平均 -1.08, σ = 0.46 で ある。半数の星が [Fe/H] = [-0.51, -0.28] で、[Fe/H] < -0.7 の 星は 10 % である。

 2.視線速度 

 太陽中心視線速度の平均値= 257 km/s, σ = 24.7 km/s. この 散布度は LMC 中間年齢星の典型値である。最も高メタル 5 % の星の散布度 は 16.7 km/s で、それが最も低メタル 5 % では 40.8 km/s まで上がる。
 3.年齢分布 

 赤色巨星サンプルの年齢中間値は 2 Gyr で4半分巾= 1.4 - 3.4 Gyr. RGB 全体の 90 % は 6 Gyr より若い。ただし、 RGB 寿命のバイアスが 掛かっているから、年齢分布を直接星形成率に解釈は出来ない。

 年齢・メタル量関係 

 年齢・メタル量関係は高齢及び若年星団の観測値と良い一致を示す。 初めて、星団ギャップ 3 - 10 Gyr を埋めるメタル量の時間変化を得た。 これを化学進化モデルと組み合わせると、 5 Gyr 昔に星形成率の山が 合ったようだ。


 4.1.議論 

 メタル量 

 バーのメタル量分布の高メタル成分は太陽近傍赤色巨星メタル量分布と同じ 巾であるが、 0.2 dex ずれている。しかし、低メタル成分に当たるものは 太陽近傍にはない。これは、 LMC の場合円盤を上から下まで貫き、色々な高さ の天体が重なるためであろう。

 速度 

 速度散布度とメタル量の関係は銀河系と似る。生まれたては低分散であるが、 初めの 2 Gyr は急激に上昇し、その後は 10 Gyr までほぼ一定になる。

 バー 

 Zaritsky 2004 はバーは実は3軸不等バルジが一部円盤に埋もれている姿で あると提唱した。このモデルは古典バルジで期待される速度分散に較べ、観測 された値がずっと小さいことから否定される。赤色巨星の大部分は厚い円盤型 の分布に整合する。ボックス型またはピーナッツ型の擬バルジ、r1/4 バルジよりずっと低い速度散布度、ある程度の回転支持、周辺円盤と似た星 種族が観測から許容された。Kormendy, Kennicutt 2004 のレビューにあるように、 バーと擬バルジの間に非常に近い関係が有るので、それらをバーの代替物とする ことは許されない。
(最後は何だか分からない )
 年齢・メタル量関係 

 銀河系薄い円盤には明白な年齢・メタル量関係がない。(Freeman, Bland- Hawthorn 2002) しかし、厚い円盤にはそれがある。 Benby et al 2004. LMC バーサンプルは時間と共に明白にメタル量が増加していく。増加の大部分 は 6 Gyr 以降に起きた。
( "with most of the increase occuring since - 6 Gyr ago" の訳だけど内容が? )
銀河系と同様、我々のデータは同時期における宇宙組成の散布度 ±0.15 dex が存在することを意味している。

 MW との作用 

 村井、藤本 1980 以来、 LMC の形態と星形成史を銀河系の衛星銀河の観点 から解釈する試みは長い歴史を持っている。 Scalo 1987 は銀河系と LMC の 星形成史で、Weinberg 2000 は LMC の構造で相互作用の重要性を指摘した。 Bekki et al 2004 のモデルは強い相互作用の最初は、二つのマゼラン雲間で 6 - 7 Gyr 昔に起き、 SMC が LMC に潮汐捕縛され、高輝度の LMC バーを 生み出し、強い星形成を引き起こした。この強い活動期は 3.6 Gyr 昔の  LMC - SMC の衝突で最高点に達し、 1 - 3 Gyr 年齢の星団を作り、 LMC の平均メタル量をこの期間内で 3 倍にした。このモデルは LMC の構造、メタル量分布を考える際に重要である。



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