An HI Aperture Synthesis Mosaic of the LMC


Kim,S., Staveley-Smith,L., Dopita,M., Freeman,K., Sault,R., Kestrven,M., McConnell,D.
1998, ApJ 503, 674 - 688




 アブストラクト

 LMC 1344 点の HI 開口合成モザイク観測の結果を述べる。観測は Australia Telescope Compact Array (ATCA) による。画像の分解能は 1'.0 (15pc) で、以前の 15 倍細かい。乱流的でフラクタルな星間物質の構造が見えるようになった。中性原子 の構造はシェルや穴を伴うフィラメントが支配的である。大きな構造として、HI 円盤は著しく対称的であり、よく整った回転場を示す。HI の大部分は直径 7.3 kpc の円盤内に存在している。LMC 円盤成分の質量は 2.5 × 109 Mo で、半径 4 kpc 以内の質量上限は 3.5 × 109 Mo である。

 1.イントロ 

過去の大規模サーベイ
 星:    de Voucouleurs/Freeman 1972, Kennicutt et al 1995,
       Smith etal 1996, Zaritsky 1996

 電離ガス: Henize 1956, Davis etal.1976
 連続電波: Klein et al 1992, Filipovic et al 1996
 X:     Snowdon/Petre 1994
 HI21cm   McGee 1964, McGee/Milton 1966, Mathewson/Ford 1984
       Rohlfs et al 1984, Luks/Rohlfs

単一鏡ではParksでも15′で分解能が粗い。
全体の運動  Dopita,Mathewson,Ford 1985
ATCAによりHI分解能が1′に上がった。――>この論文

 2.観測 

ATCA 1994-1996.
  ゼロスペーシング(単一鏡に相当)観測はまだ行われていない ので、フラッ
  クスの絶対量は不明。
  11°×12.4°の図



図1.HI のピーク輝度マップ。このマップは視線方向での最大コラム密度の雲 に敏感である。そして、LMC 星間空間の糸状構造を強調して示している。










左図:IRSFの計画段階でのLMC可視画像。右図:図1の縮小図。LMCバーの位置に何が あるか?図1は上半分と下半分で縮緬の感じが違うような。30Dor付近はHIでさざ波が 圧縮されているような。

 3. 全体の特徴 


ピーク輝度マップ 

HI は 190 - 387 km/s の間で検出された。そこで、(多分)8km/s で区切った チャンネルマップを並べて各点毎に信号の最大のを取り出して、その点の値とする 合成マップを作った。それが図1である。
信号最大値を集めたマップの物理的解釈が分からない。
この図は各視線方向に沿った雲の最大密度に敏感で、従ってひげ状、糸状の HI 構造を 摘出している。光学像で行われるアンシャープマスキングと似た操作である。全体として は像は軸対称で可視での LMC 増と異なる様相を呈している。
円盤の傾き角

HI ピーク輝度温度の外側等高線に楕円フィットを行い軸比=0.93 ± 0.05 を 得た。これから、
Inclination = cos-1(a/b)= 22° ±6° ≤ 27°(deVaucouleur/Freemann) となる。

全体の特徴 

 HI 放射からは、バーの存在は読み取れない。HI の最大の塊りは 30 Dor 雲複合体 の中にあり、そこからさらに 2° 南に伸びている。この領域はまた、 分子雲複合体が最も顕著な領域 Cohen et al 1988 でもある。我々のマップでは この領域にはもっとも複雑な小規模構造が見られる。これは、高密度、多くの 分子雲、星形成の複雑なパターンを反映しているのである。
 この複雑さはこの領域での多モードライン輪郭線(Luks,Rohlfs 1992)にも現れ ている。また、局所乱流もそこでは大きい。この乱流は LMC は高温銀河系
ハローガスの中を通る際のラム圧力によるものであろう。このシナリオは LMC 東側に薄い HI アームが欠けていることからもいくらかは支持される。
HIは30Dorでピークで、そこから南に2°伸びている。
ここはCohen1988によるとGMCが集まっている。
 しかし、最も目立つ特徴は糸状構造の複雑な系である。それに HI の穴やシェル が重なっている。これらの特徴の多くは Hα 放射で同定された巨大シェル、 良い例は Shapley Constelllation III (Dopita et al 1985)、である。

アーム 

 図1のもう一つの特徴は、渦状腕である。ただ、腕の様子は繊細で密度波とは 思えない(Dixon, Ford 1972)。
特に南の腕は、チャネルマップ 225-249 km/s に あるようにはっきりしている。腕は光学バーの近くで生じ、de Vaucouleurs/Freeman (1972)の「B3」突起部に沿い、(α, δ)=(05h36m , -71°46′)、30 Dor の 2.8° 南、で分裂する。最も南の腕はSMCの方に伸びてHIブリッジに繋がる。この腕の起源は したがって潮汐力だろう。対応する北側腕は見当たらない。

外側 R = 3 kpc での腕のピッチ角 25° であり、V=70km/sのフラット回転曲線 を仮定すると、寿命 = 70 Myr または、(1/3)銀河回転時間である。
出し方不明

腕がトレイリングになるのは、円盤回転が時計向きの時に限る。北円盤の視線速度 =離れていく観測結果と合わせると、東側がわれわれに近いことになる。これは セファイド距離から決めた結果、最も近い方向の方位角 = 52° - 77° (Caldwell, Coulson 1986, Laney, Stobie 1986, Welsh et al 1987) と一致す る。



 4. LMC の速度場 


南腕 

図2に個々のチャネルマップを示す。その中で特に、225 - 258 km/s には南腕 がバー近くから発生し、B3 突起部から伸びて行く様子が示されている。チャネル マップには運動学的にはっきり区別される巨大ループ、多分星形成に関係する、が 見られる。

速度場 

 LMC 速度場を作るには、まずマップ中の負値をゼロにする。次に強度で重み を付けた平均速度を各点で計算する。速度輪郭は二重ピークかも知れないし、 解析には不完全であるが、これはデータセットから導かれるベストな速度場である。

 しかし、LMC が張る角度が大きいため横断速度の視線方向への投影は一方の縁 から他方の縁へ移ると大きく変化する。
横断速度と視線方向は直交していないらしい。どういう状況 なのか不明。LMC 中心の横向き速度が中心から違う視線方向への投影のことらしい。


以前の Mathewson,Schwartz,Murray 1977, Feitzinger, Schmidt-Kaler, Isserstedt 1977, Lin,Lynden-Bell 1982 によると、LMC の横断速度は 300 km/s のオーダーである。 Meatheringham et al 1988 は横断速度として 275 ±65 km/s を得た。その 逆を適用すると(ここも意味不明) 94 惑星状星雲から 決めた運動学的なノード線を回転させて、測光的なノードと 同じ方向にするのである。

最近の固有運動 Jones,Klemola,Lin 1994 は μα = 0".120 ±0".028 /世紀, μδ = 0".026 ±0".027 /世紀, で横向き速度 286 km/s に対応する。我々はこの値を用いて、速度場の訂正を行う。








図2:HI チャネルマップ。左上に太陽中心速度を示す。








横断速度補正後の平均速度場 

 図3には横断速度補正後の平均速度場をカラー等高線図として示した。全体の 回転パターンがはっきり分かる。円運動からのずれが認められる。特に運動学的な 主軸が直交していないことは大事である。 意味不明 また、短軸を横切るゆがんだ S 字型の等速度線にも注意。これは 円盤のワープ、または非円運動が原因であろう。



 





図3.LMC 横断速度の補正をした後の、HI 平均速度場。全体の回転パターンは 明らかである。運動学的主軸は直交していないことに注意。 意味不明 短軸を横切るゆがんだ S 字型の等速度線にも注意。



均した速度場マップ 

局所的乱流の影響を抑えるため、分解能 20' に均した速度場を図4に示す。この 図は回転曲線と光学的な天体との対応をはっきりさせる。図4で最も目立つのは バーの北西付近で、α = 05h05m, δ = -68 °00' の周り約 1° に渡って、急激な速度勾配が見られることである。 これはバーにより大規模なガス流が引き起こされている力学的な証拠である。




図4.分解能 20' に均した横断速度補正平均速度場。重ねているのは Hα 像。バー付近で大規模な乱流が明らかに見える。


 4.1.速度曲線と質量 

回転曲線の導出 

 図4に示した平均速度場から、標準的なリングアルゴリズム ROCUR (Begeman 1989) を用いて、回転曲線を導いた。銀河を中心共通の 8' 巾のリングに分割した。リング 系列に対し、系統速度 Vsys、回転中心 (x0, y0), 方位角 Θ, 傾斜角 i, 回転速度 V(r) を χ2 最小に なるよう決める。方位角と傾斜角はリング毎に決められるので、ワープがあれば 結果に現れるであろう。

 実際の計算では、系統速度と回転中心は初めに決めておいた。回転中心位置は α = 05h17.m06, δ = -69° 02'(J2000) である。この位置は通常のバー中心から 0.°5 W, 0.°7 N である。この 位置は Luks,Rohlfs 1992 が与えた、 1.°0 W, 0.°7 N とかなり近い。 系統速度は 279 km/s で、これも Luks,Rohlfs 1992 の 274 km/s に近い。
 この論文で、初めに与えたと言っている中心位置、 系統速度をどう決めたのかは書いていない。 

 こうして決めた傾斜角が文献値より大分大きく、他のパラメターと大きく相関 していることが判った。これは多分非円形運動その他の影響であろう。そこで、 傾斜角も標準値 i = 33° (Westerlund 1997) を採用して、回転速度と方位角 のみを決めた。 初めからそうしたと言えばいいのに。 その結果が図5である。

回転曲線の特徴 

 中心から 1.5 kpc の間は Vrot = 55 km/s まで急激な立ち上がりを示 す。そこからは穏やかに上昇を続け、R = 2.4 kpc で Vrot = 63 km/s に 達する。そこからは突然低下が始める。LMC の速度分布には多くの点で非円運動の影響 が見られる。30 Dor 領域と南の腕は特異であり、バーの北西方面も同様である。これ らの奇妙な様子はおそらく、SMC や銀河系との相互作用、スーパーシェル運動学、 バーの重力場への力学的反応などが重なりあって起きているのであろう。

運動学的ノード線の方位角  Θ

 これらの効果と、我々がそうせざるを得なかった固定傾斜角度が一緒になって 突然の回転速度低下を引き起こしたのであろう。R = 2.7 - 3.8 kpc での回転速度は 炭素星からの回転速度 (Kunkel et al 1997) と一致する。図5は後退する運動学的 副軸の方位角が 20° から -25° の間を変動し、平均 Θ = -12° であることを示す。この値は Luks,Rohlfs 1992 の Θ = -18° に近い。 Θ の測定は中心付近ではバーの影響が強く決定困難である。その先では Θ は中心距離の関数として 22° の巾に渡って規則的に変化する。 これは第3章で述べた等速度線の S 字型のゆがみを反映している。




図5 上:運動学的なノードの方位角。 下:回転曲線



図6.投影還元した回転曲線。プラス=HI。四角=炭素星。傾斜角 i = 33° 仮定。
   実線= HI(He 分 30% 増し。点線) + 星(M/LR=1.8。破線)+ ダークハロー(RCore=2.5 kpc, ρc = 0.009 Mo pc-3) からの予想回転曲線

質量 

 回転曲線が意味する質量を評価するため、我々はドヴォークルー(1958) の R バンド測光を星成分の質量分布を示すとして扱い、Luks, Rohlfs (1992) の単面鏡 HI データを HI の密度を表わすものと考える。双方共にスケール高 600 pc の 厚い円盤に収まり、HeI の補正として HI データを 30% 増加させた。星と中性ガス から予想される回転曲線を図6に示す。最もよいフィットは M/LR = 1.8 とした時であった。HI データだけ合わせるにはダークハローは必要ない。しかし、 炭素星を R = 8 kpc まで合わせるためには必要である。
M/L 比は現実的な値か?そこで既にダークハロー が必要とされないか?

非円運動やワープが R > 2.5 kpc でフィットが良くない原因かもしれない。 Kunkel et al 1997 は潮汐モデルで遠方の回転速度を説明した。


 図6の回転曲線フィットは星の総質量 = 2.0 × 109 Mo を 意味する。He 補正後のガス質量 5.2 × 108 Mo と合わせると、 円盤総質量 = 2.5 × 109 Mo となる。この 70 % は R < 4 kpc に存在する。この内側ではダークハローの力学的な影響はほとんどない。 しかし、我々はダークハローの質量分布を球対称と仮定しており、そのため R < 4 kpc でもその質量 = 1.0 × 109 Mo, R < 8 kpc ではその質量 = 3.4 × 109 Moとなる。したがって、LMC 全体の R < 4 kpc での質量 = 3.5 × 109 Mo である。
ではバーを振り回しているのは円盤の星なのか?大体、 ここで使用しているR測光にはバーが入っているのかいないのか?


 5.HI ガスの乱流 

P-V 図 

 運動学的方位角 Θ と回転速度 Vrot(R) から我々は LMC モデル 速度場を作れる。このスムーズな速度場を観測された速度場と較べてみる。 平均すると回転曲線のノード線はほぼ南北に揃っている。そこで、観測データを 並べる簡便な方法は位置ー速度図(P-V diagram)である。図7a - 7g にそれを 並べた。各切片中央の 赤経 α が図に載せてある。赤緯 δ は &delta: = -69° 44' 22" からのオフセットを載せた。そして平均(スムーズ) 回転曲線は図中の実線で示されている。

特異速度 

 各位置での特異速度成分はP-V図上ではっきりと見える。LMC 円盤の大部分で乱流 運動は 15 km/s 程度である。しかし、幾つかの領域で特速度が 30 - 60 km に増大 する。極端な例は膨張泡と関連している。例えば、超巨大シェル2は α = 05h47m21s Δδ = -50' の特徴と して現れている。どう解釈してよいのか?特徴の速度は -50 km/s 付近だから、 Vrad = 279 - 50 = 229 km/s 付近の図2 233 の図の左下の特徴がそれに対応するのか?

 それに、 05h45m27s から 05h 35m53s で Δδ = -50' の 30 Dor, α = 05h43m32s から 05h 35m53s で Δδ = -120' の HI 超巨大泡など である。

それに加えて、バーに沿ってガス流が α = 05h14m 43s から 05h08m58s で Δ δ = 0' から +30' にかけてありそうで、 α = 05h10 m48s と 04h57m30s の間では最も南側の端にブリッジへのガス流入がはっきり認められる。


図7.P-V図。横軸 VEL = Vrad - 279 km/s。縦軸 = δ - (-69° 44' 22" )。


















乱流速度 

 乱流を定量化するため、マップの各点毎に横断速度を補正したピーク動径速度 (図2)とムーズ化した動径速度(図4)との 差の絶対値をマップした。高い値は力学的に「熱い」領域である。つまり、視線 方向速度分散が大きい。平滑値との差は分散に対応 しないのでは? LMC の傾斜角が 33° しかないので、この値は 円盤面に垂直な速度分散を表わす。力学的に「熱い」領域が 30 Dor の東側 の縁に沿って延びている。その他、 30 Dor の南側に広がった分子雲領域、 Constellation III の内側、バーウエストの北側、第3章で論じた腕の近く も「熱い」。30 Dor 領域と Constellation III 領域は激しい星形成のため に「熱い」と考えられる。ただし、30 Dor 領域の乱流のいくらかは LMC が銀河系 ハローを突っ切る際にその先端端がラム圧ではがされるためかも知れない。 非常に明るい HIIR 複合体 N44 の位置は力学的に「温かい」。しかし、全体と しては HIIR マップで示される活発な星形成箇所と力学的に「熱い」箇所との 対応は悪い。バーウエスト領域が「温かい」のはバーが引き起こしたガス流が 存在するためであろう。

分子雲 

 しかし最も著しい特徴は、明るい HI 雲と特異速度の間の反相関である。図1と 図8を較べると分かるが、最も大きな HI 雲複合体はスケール高が最小である。




図8.各ピクセル毎に動径速度(図2)とスムーズ化した動径速度(図4)との 差の絶対値をマップした。高い値は力学的に「熱い」領域である。つまり、視線 方向速度分散が大きい。平滑値との差は分散に対応 しないのでは? LMC の傾斜角が 33° しかないので、この値は 円盤面に垂直な速度分散を表わす。




分子雲内の速度分散 

 図9には最も明るい HI 雲の各ピクセル毎の特異速度分布のヒストグラムで ある。この分布は指数関数で良によくフィットする。速度分散の二乗平均のルート、 ⟨Δv21/2 = 15.8 ±0.2 km/s である。なぜ、分布が指数関数型になるのだろうか?どうも、速度分散はストカ スティックな過程で生じるようだ。Miesch, Scalo 1995, この過程が速度空間で 働いていることは、これが星間空間への運動量注入の結果であり、運動エネルギー ではないことを強く示唆する。このアイデアは Dopita,Ryder 1994 による。




図9.図8と同じ特異速度の分布を分子雲の場合に示す。

 6.結論 


LMC の HI 開口合成観測結果を示した。全体として、HI 円盤は対称的な 形をし、きれいな回転速度場を持つ。バー近傍にはガス流の証拠がある。 円盤から引きはがされるガスの証拠も見つかった。回転曲線に基づき、 R < 4 kpc 以内の総質量は 3.5 × 109 Mo を越えない ことが示された。HI 雲内の速度分散の分布は指数関数型である。これは 速度分散がストカスティックな過程で生じたことを示す。