アブストラクト星団星の Ca 三重線スペクトルLMC 80 星団中の 150 星で測った Ca 三重線 (λ ∼ 8500 A) の 等値幅と視線速度を報告する。速度精度は 5 km/s である。 三本の Ca 線から 決めた擬等値幅の合計値を銀河系標準星と比較した。これは -2.3 < [Fe/H] < 0.0 で ± 0.2 dex が得られる感度の高いメタル量指標である。 年齢ーメタル量関係 観測した星団は較正に用いた銀河系星団と較べると若いのであるが、表面重力 の違いは組成の決定にはあまり影響しない。70 星団に対し組成が決定さ | れた。 その大部分はこれまで分光的な組成決定が行われていなかった。これらの組成を CMD を使って年齢が決められている 31 星団と組み合わせて、年齢ーメタル量関係 を導いた。 メタル量勾配はない この関係は LMC 内側 (半径 < 5°)と LMC 外側 (半径 > 5°) とで導かれ、簡単な一層元素形成モデルで説明できることが判った。しかし ながら、年齢 3 - 10 Gyr の星団が欠落しているので、初期のメタル増加の 詳細は不明である。年齢 2 Gyr では内側と外側の組成は、内側で -0.3, 外側 で -0.42 と殆ど同じである。したがって、中心距離による組成勾配は星団に 関しては見られない。 |
1.イントロLMC 星団は役に立つLMC の大きな星団の年齢は 107 年 (NGC2100) から球状星団年齢 (NGC 2257) にまで及ぶ。もっと暗い星団と組み合わせると、星団システムの 分布は半径 10° に達する。星団は LMC 北と東側で HI より大きく広がって いる。Bothum, Thompson 1988 によると、LMC の半輝度半径は 3° であり、 スケール長は 1.7° である。つまり、星団システムは 6 スケール長まで 探査できるのである。このシステムを用いると、LMC の運動や組成を他の天体で は不可能な遠方まで調べられる。 遠方で 5 ° より先では HI 密度は 1.6 × 1020 cm10-2以下 である。したがって、星形成が起きるとは考えられない。幾つかの文献によると そこには、1 - 3 Gyr 星団 (LW 47, 177, 195, 207, 399 Olszewski 1988) と 10 - 15 Gyr 星団 (NGC 2257 Stryker 1988, Walker 1989, ESO 121SC03 Mateo et al. 1986) がある。だから、この環境下でも星団形成は起きていたのである。 |
Ca 三重線の分光 星団の視線速度と組成のサンプル (Freeman et al 1983, Cohen 1982, Cowley, Hartwick 1982, Smith et al 1988) は積分測光や個々の星の 青いスペクトルに基づいている。晩期型巨星は B より I で 8 倍も明るい 利点を使うため、我々は Ca 三重線 (∼ 8500A) の分光を行った。 Ca 三重線は組成のよい指標である。 これまで、LMC の星の Ca 線観測の例はない。そこで、 解析法について少し詳しく述べる。Ca 指数は 0.0 ≥ [Fe/H] ≥ -2.2 にお いて、組成の鋭敏な指標となることが判った。 。 星団の平均組成とCMDを用いて、年齢ーメタル量関係が導かれる。。 連続シリーズの内容 この論文はシリーズの第1論文であり、データ解析結果を述べる。解析はこの 先の論文で行う。第2論文 Schommer et al 1990 では視線速度の解析から LMC の回転運動を調べる。第3論文(Suntzeff et al 1990)では最も遠方にある2星団、 NGC 1841, Reticulum (12° - 15°離れている)について述べる。 |
2.1.星団サンプル52/84 星団は視線速度初観測 この論文では 82 星団中の星を観測した。その内 54 星団では視線速度が初めて 測られた。さらにその内、39 星団は中心から 5° 以上離れている。4 星団は 4° - 5°, 6 星団が 3° - 4°, 5 星団が 3° の内側にある。 既に視線速度観測例のある星団は 28 である。 星団の選択 新しい星団の内、幾つかは積分カラーから非常に年齢が古い(NGC 1718, 1916, 2005) と期待されて選ばれ、"Hoge"星団(Hodge 1960) から赤い星が報告されて いる 7 星団を選んだ。混乱を少なくするために述べておくと、 NGC 2257 と NGC 2097 の視線速度は決定できなかった。したがって最終的には、速度を 観測した星団数は 80 で、その内新しい観測は 53、再観測が 27 である。 観測星の選択 観測星の選択は以下の3通りによった。 (1)明るい星団は大抵 M- か C- 星を含む。それらは、Aaronson,Mould 1982, 1985, Mould,Aaronson 1979, 1980, 1982, Lloyd Evans 1980a, 1980b, 1983, 1984, Blanco, Frogel 1990 に載っている。 |
2.2.観測.(2)幾つかの星団では、最も明るくて赤い星を観測した。 (3)暗い星団の大部分は中心から 5° 以上離れている。これらでは単に最も 明るい星を測った。 こうして 181 星を観測した。 観測システム 観測は CTIO 4m 望遠鏡、RC 分光器、red air シュミットカメラ、front illuminated GEC CCD の組み合わせで行われた。グレーティングは 790 lines/mm で分散は 1.2 A/pixel つまり、2.0 - 2.5 分解能エレメント当たり 2.5 - 3 A である。分光は 8170 - 8860 A で行われた。 ゴースト この波長帯だとグレーティングが CCD とほぼ平行に置かれ、チップの反射光が グレーティングで戻りスペクトルに重なるゴーストを産み出す。これを避けるため スペクトル位置を出来る限り左に持って行き、ゴーストを右に移るようにした。 観測 観測は 1987 年 1 月 8 - 12 日と 12 月 27 - 31 日 の 10 晩、内 8.5 晩が 晴れた。 積分時間は 4 - 15 分であった。 |
2.3.整約IRAFとTVRED データ整約には TVRED と IRAF を用いた。詳細は略す。 2.4.スペクトルの議論大気光 λλ 8200 - 8850 A では夜光と大気吸収が強い。 Armandroff, Da Costa 1986 による夜光スペクトルを見ると、強い Meinel OH バンド (6-2, 7-3 振動遷移)が全領域に広がり、それに O2 0 - 1 8650 A が 加わっているのが分かる。 Ca II 三重線の内2本はその強い輝線と重なっている。三重線の最も弱い ライン 8498 A は OH 6-2 振動線 P2(5) 8494 A と OH 7-3 振動線 P1(5) 8505 A の中間に位置する。中間強度の Ca II 8662 A は O2 バンドと重なる。最強の Ca II 線 8542 A は OH P2(6) P1(6) ラインの間にある。 O2 バンドは観測 ![]() 図1.高温、高速回転星 HR 5764 の高S/N比スペクトル。地球大気吸収線は 殆どすべて λ < 8400 A にある。残りの部分では水蒸気吸収は 弱い。 幅広の恒星大気吸収線はパッシェン系列である。 | 分解能では 分解ギリギリのため幅広の連続輝線帯として見えるので、差し引きで消去出来る。 スカイ光差し引きの精度が 1 % 以下でも、弱い Ca II 8498 A 線は差し引きの際 に壊れてしまう。もっと強い線では問題ない。 高温度星スペクトル 図1に高温度星スペクトルを、エアマス = 2.2 で取って示した。8400 A より 短波長側では地球大気水蒸気の吸収線が多いが、長波長側はきれいである。 Ca II 線強度の変化 図2には 組成と視線速度テンプレートに使う5星のスペクトルを示す。これら の星の MI は共通である。星のメタル量は底の [Fe/H]= -1.69 (M79) から天井の [Fe/H]= -0.06 (M67) へと上がって行く。4.1.節では Ca 線強度を 測り、 MI に対しプロットした。図2に示したような、強度変化が 我々が LMC で測りたいものである。 他の元素の吸収線 Ca II 線以外には Fe I マルチプレット 60 の 8514, 8689, 8824 A, Ti I マル チプレット 33 の 8435 A, Mg I マルチプレット 7 の 8807 A がある。 ![]() 図2.銀河系球状星団、散開星団の 8600 A 等級一定の巨星スペクトル。 底の [Fe/H] = -1.7 からメタル量が上がって行き、天井で [Fe/H] = 0.06 星名は下から、M79 237, NGC 288 20C, 47Tuc 5312, Melotte66 1242, M67 IV-202。各スペクトル毎に、上の目盛り = 1.2, 下目盛り = 0.35。 |
![]() 図3.λ 8400 A の TiO (Δv = 0) ε システムのスペクトル。 下の2つ、球状星団 M79 15 と NGC 5927 799 は MI は同じだが [Fe/H] は -1.4dex 異なる。NGC 5927 巨星の TiO ε システムのブランケッテ ィングのため Ca II 強度は同じとなっている。 上の二つは LMC 星団 NGC 2134 の 最も明るい星で、AMIII1 と AMIII2 で等しい MI を持つ。上目盛り 1.2, 下目盛り 0.4. メタル量が異なるのに Ca II 三重線強度が同じ! 組成標準星(図2)で等値幅を測った時に驚いたのは、メタル量が大きく異なる 二つの星、M79 15 と NGC 5927 799 とで Ca II 三重線の合計等値幅が等しかった ことである。図3にその二つのスペクトルを示す。 NGC 5927 799 は λ 8400 A で容易に目につく連続光の折れ曲がりを示す。 TiO バンドがあると危険 M5 より晩期の巨星スペクトル中のバンドは Merrill 1934、 Nassau, Albada 1949 が記録している。Merrill 1934 によると、最強のバンドは λλ 8441.4, 8451.3, 8858.8, 8868.3 A である。これらのバンドは Collins 1975 により TiO ε (&Delta:v = 0) システムの一部であることが判った。λ 8860 A の少し赤寄りに TiO δ (&Delta:v = 0) システムも存在するが弱い。Brett 1990 は M 型巨星の合成スペクトルからそれらの存在を確認した。これら TiO バンドの 存在は Ca II 三重線領域においてオパシティに大きく寄与する。その結果、4.1節 で論じるように、三重線の合計動値幅が低下し、連続光等級が上がる。このような ので、TiO が存在する星は使わないよう注意する必要がある。 LMC 星団巨星の多くは NGC 5927 799 よりずっと強い TiO バンドを示す。図3 の上の二つは LMC 星団 NGC 2134 中の同じ MI だが、TiO バンドが 全く異なる例である。 TiO なしの星団巨星スペクトル TiO バンドのない星を眺めると、星団間で Ca II 三重線の強度に大きな違いが 存在することに気づく。図4は図2と同じ形式でスペクトルを並べた。図2と 比較すると、LMC 星団の組成に巾のあることが予想される。 炭素星スペクトル 赤い星という基準で選んだので、炭素星が10個紛れ込んだ。組成決定には 全く使えないが視線速度はよく決まる。図5にその例を示す。 |
![]() 図4.MI 共通の LMC 星団巨星のスペクトル。Ca 線強度が下から上へと上が る。メタル量は [Fe/H] = -2.1 (底) から -0.4 (天井)。 星は、 H1 11, NGC2210 1, NGC1898 AMIV6, IC2140 2, NGC1978 LE9 目盛りスケールは 0.4 - 1.2 ![]() 図5.炭素星 IC 2140 1 の高 S/N スペクトル。炭素星スペクトルは CN red で一杯。 |
速度を決めるクロスコリレーションプログラムは Tonry,Davis 1979 の
アルゴリズムを適用して作られた。データは4次式で平坦化され、エッジの
所でコサインベルを使ってアポダイズされる。フーリエ空間でデータは
ランプフィルターにかけられ 1.5 A より高い周波数成分と 150 A より低周波
成分を除く。こうして平坦化でも残った低周波成分と装置の分解能より細かい
成分を除くのである。3.1 標準星速度一次標準星 南天で、晩期型で暗い視線速度標準星は多くない。我々は Armandroff, Da Costa 1986 が使った HD 23214, 31871, 43880, それに Evans et al 1964 から CPD-43°2527, HD 70462 を採用した。この他、組成標準星の中には速度がよく 決まっているものがあり、それらも標準星に加えた。標準星リストを表1に示す。 表1 速度標準星の速度 ![]() |
Evans データの誤り Evans の速度がおかしいので、CORAVEL グループに再観測を依頼した。その 結果が表1の右側にある。表2には速度一次標準星と速度二次標準星の 値が各晩毎に載せてある。速度のゼロ点は各晩の速度一次標準星から決めた。 速度ゼロ点 速度一次標準星は毎晩、速度の和が文献速度和と等しくなるように相関させた。 互いの相対速度をクロスコリレーションで決めて、和が 一定という条件で下駄を与えるのかな? 表2の平均速度を見ると CORAVEL 値をよく再現していることが分かる。また、 一回の測定が数 km/s のエラーを含むことも見て取れる。 組成標準星の赤緯によるエラー 組成標準星の速度は天体位置によりエラーが発生することが判った。例えば、 M 67 (δ = +12°) は系統的に -8 km/s のエラーが出る。 おそらく 分光器のたわみによるものと思われる。 組成標準星、炭素星の速度 追加に、速度が与えられていなかった組成標準星の速度も求め、表3に載せた。 また、炭素星も観測したので、V Hya を速度標準星として使用して速度を決定し た。 表1のコメント ![]() |
3.2.観測星視線速度の観測結果 視線速度は5個の速度標準星との相対速度から決められた。それらを表4に示す。 1987年1月の観測星はナンバーが付いていなかった星が多かった。それらには ファインディングチャートを付けた。これは SRC 画像のコピーである。 |
3.3.エラーエラーには2種類ある。それらを順に論じると、 各晩のゼロポイント 速度標準星のシステムは毎晩観測から決定される。平均のエラーは 0.95 km/s である。これは各標準星観測に伴うエラーと標準星速度文献値のエラーである 観測星の観測エラー これは実際の個々の観測に伴うエラーである。 この後は略 |
4.1.吸収線強度の測定等値幅 Ca II λλ 8498.02, 8542.09, 8662.14 A の3本のライン の等値幅を測った。方法は、Armandroff,Zinn 1988, Da Costa 1988 と 同じだが、直接数値積分する代わりにガウスフィットを用いた。ライン ウインドウは Armandroff, Zinn 1988 の表3を用いた。 測定結果 標準星での測定した等値幅の合計を表5に載せた。観測星の値は表6に示した。 ただし、この表の値は Ca ラインの真の等値幅ではない。ガウスフィットをした 領域には他のラインがあり、連続光のレベルは "連続" 帯域の平均フラックスで 決めている。従って、特に高メタル星では真の連続光レベルはここで使った 値よりずっと上にある。したがって、特に高メタル星では表の等値幅は真の 等値幅よりずっと小さい。この混乱を避けるため、表6ではカルシウムライン強度 EW(Ca) という用語をあてた。 標準星団のメタル量ーCaライン強度関係 図8には組成標準星のカルシウムライン強度を (B-V)o に対してプロットした。 標準星が属する星団の特性は下の表7に載せた。水平枝の等級、赤化、 メタル量の推定値も載せてある。組成標準星は星団組成に応じて分離している。 しかし、分離量は非常に小さい。図8を見ると、特に高メタル星団の M 67, NGC 5927, 47 Tuc 同士は殆ど分離していない。 観測星の Ca ライン強度エラーが 0.34 A なので、[Fe/H] ≥ -1.2 では Ca ライン強度はメタル量に鈍感になる。似た例として、Ca II の H, K 線に対 して、[Fe/H] > -1.4 ではライン指数のメタル量依存が小さいことを Suntzeff et al 1986 が指摘している。 図8 表5の星のカルシウムライン強度ー(B-V)o 関係。 同じ (B-V)o では低メタルほど ![]() |
表5 銀河系星団(組成既知)の星のカルシウムライン強度![]() |
4.2.標準星団のメタル量と Ca ライン強度 |
赤化は Cohe et al 1981 の値を内挿して求め、以下の式を採用した。 A8600 = 1.76 E(B-V) 星団標準星の M8600 対 Ca ライン強度 図9にはカルシウムライン強度を M8600 に対してプロットした。 予期した通り、分離はずっと大きくなった。その上、高メタルになっても縮退 しない。図には、M 67, 47 Tuc, M79 を通るフィット直線を引いた。 M8600でなく Te で較べるとEW(Ca)差が出ない イエールモデルを使って式(4) が [Fe/H] に伴う W の変化を 図9のフィットラインと合致する様に予言しているか、ちょっとチェックして みよう。 モデルからは、[Fe/H] が -1.7 から -0.7 へ変化すると、Te = 4400 K で MI は -2.80 から -0.97 へと変わり、log g は 1.12 から 1.86 となる。式(4) は [W] の増加 = +0.065 つまり、EW(Ca) が 16 % 増加することを 予言する。 0.25(-0.7+1.7)-0.25(1.86-1.12)=0.25-0.185 = +0.065 次に、モデルの Te=4400K にあたる点を星団で探し、 そこでの EW(Ca) 観測値をフィット直線を使って求める。 我々の観測ダイアグラム図9では、M 79 ([Fe/H]=-1.69)は M8600 = -2.8 で EW(Ca) = 5.6 A, 47 Tuc ([Fe/H]=-0.71) は M8600 = -1.0 で EW(Ca) = 6.35 A である。 この二つは等時線モデルを信じるなら Te=4400K 同士 の EW(Ca) なのである。 47 Tuc の予想値は EW(Ca) = 6.5 A だから、 この 47 Tuc 予想値はどう導いたのだろうか? 等時線 モデルからの log g を信じて、M 79 での観測値 EW(Ca) = 5.6 A に式(4) を 足して、47 Tuc の予想値 EW(Ca) = 5.6 × 1.16 = 6.496 か。 評価の雑さ加減を考えると、M 79 と 47 Tuc で MI 対 EW(Ca) プロットに差があることは理解されたと 看做してよいだろう。 ![]() 図9 星団標準星の M8600 に伴う Ca ライン強度の変化。 図8よりメタル量に対する感度(分離度)が向上した。 |
EW(Ca) を考える(1)結局何なんだ? EW(Ca) は、Mass, t, [Fe/H] で決まる。これを、post-MS の進化スピードの速い ことを考慮して、L, t, [Fe/H] と考える。この論文では t = 15 Gyr で固定する。 すると、L, [Fe/H] の2パラメターが残り、等時線は[Fe/H]=一定の線と見直せる。 先の、(B-V) - EW(Ca) 図はHR図の縦軸 V を EW(Ca) に置き換えた図で、 ここの MI - EW)Ca) 図は HR 図 の横軸 (B-V)を EW(Ca) に置き換え て 90° 回した図なんだな。だから、HR 図上に EW(Ca) = 一定の線を引けば どうして図8が EW(Ca) 分離の切れ味が鈍く、図9がよいか分かりやすいはず。 CMD 上に引いた EW(Ca) = 一定線 表5、表7を使って、下のような図を作った。大雑把には、 EW(Ca) の決めて は [Fe/H] なので、EW(Ca) = 一定線は等時線に沿っている。ただし、等時線 の先端へ向かうと温度が下がり、重力が弱くなる効果が働き、 EW(Ca) が増えて くる。このため、 EW(Ca) = 一定線 は等時線を左下から右上に突き抜けるので ある。 しかし、それだけでは、なぜ EW(Ca) を M8600 に対してプロットする と分離がよく、(B-V) にプロットすると鈍くなるのか判らない。 ![]() | 第2作戦: EW-[Fe/H] 図 そこで、EW(Ca) と [Fe/H] 面上に標準星団の星をプロットした。各星の M8600 と (B-V) を使って、M8600 = 0, -1, -2, -3, -4 と (B-V) = 1, 1.2, 1.4, 1.6 一定の線を引いたのは下図である。図を見ると、 すぐ分かるように、(B-V) = 一定の線の勾配の方が小さい。したがって、 B-V を一定にして EW(Ca) を測ると狭いΔEW の中で [Fe/H] が大きく 変わる。つまり、EW(Ca) が鈍い。[Fe/H] が高い所で(B-V) = 一定の勾配が 平らになって行けばさらに鈍くなるのである。 M8600 = 一定の線 これに反してM8600 = 一定の線 は勾配が立っているから、 EW(Ca) が大きく変わらないと [Fe/H] が 変化しない。強引だがこれがこっちの方が [Fe/H] を決めるのに適している 理由か。なぜ、こっちが立って、あっちが寝るのかいい説明は分からないが。 ![]() |
EW(Ca) を考える(2)同じ問題をすごく単純化したグラフで考えてみる。右の図は、CMD図上に 藍線でメタル量が低、中、高の星団HR図を、赤線で EW(Ca) = 大、中、小で 一定の線を引いたものである。 図の中にも書いてあるが、EW(Ca) = 一定の線の方が勾配が立っているため、 Δ[EW(Ca)]/Δ[Fe/H]を較べると、 M8600 = 一定で測ると、EW(Ca)(大ー小)/[Fe/H](中ー低) B-V = 一定で測ると、EW(Ca)(大ー中)/[Fe/H](高ー低) 感覚的だが、M8600 = 一定で測る方が、[Fe/H]が少し動くだけでEW(Ca)が 大きく変動することが納得できる。 |
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4.3.EW(Ca) の較正 (新節)注意1 図9を用いて組成を求める前に注意することがある。その(1)は NGC 5927 799 のEW(Ca)は全体とかなり外れていることである。この星の スペクトルは図3にあるが、 TiO バンド有し非常に明るい巨星である。明らかに TiO バンドがEW(Ca) を弱めている。これらの TiO バンドを示す星は除いた。 注意2 第2は表6にある観測星の多くは EW(Ca) が 5 A 以下であることである。これは 標準星団で最も弱い M 79 よりさらに低い。より低い標準星データのため、他の プログラムで取られた NGC 1841 と Reticulum のファイバー分光データを用いた。 このファイバー分光器でとった 47 Tuc, NGC 288, M 79, M 30 からのデータも 図9には重ねてプロットした。ただし表5には前に述べた星しか載せていない。 ちょっと理解できないことここで、EW(Ca) から [Fe/H] への変換を詳しく記述するところだと思っていたら いきなり観測星の組成に行ってしまう。標準星団の内挿線を使うとかちょっと書い てはあるけど。 LMC 観測星の EW(Ca) 図10には炭素星、TiO を示す星を除く観測星の EW(Ca) を示す。距離指標 には 18.5 を採用した。 フィット線の利用 図10には図9からの較正用フィットラインが引かれている。較正線間の 内挿値を用いて、観測 EW(Ca) から観測星の組成 m(Ca) を決定した。 観測星が較正用星団の星と同じ [Ca/Fe] と同じ 重力 g を有している限り、 ただしい [Fe/H] が得られるはずである。EW(Ca) のエラーが 0.34 A として [Fe/H] のエラーは 0.2 dex となる。 | 中間年齢星団にも使える理由 表6には観測星の m(Ca) を載せた。前と同じように再びイエール等時線を 使って年齢効果をチェックしてみよう [Fe/H] = -0.3 で、年齢を 15 Gyr から 3 Gyr へ変えると、光度が 0.67 等 上がる。(MI = -0.15 から -0.82 ) 一定にしているのは Te か B-V か、書いていない。 とにかく何かが共通値のはず。 その時、重力は log g = 2.209 から 2.141 へと 0.068 減少する。これは、(4) 式を使うと、[W] = 0.25 × 0.068 = 0.017. 100.017=1.03992 なので EW(Ca) の 4 % の増加を意味する。 (4) 式を使用 して 4 % を出したということは一定温度で較べたらしい。 [Fe/H] = -0.3, MI = -0.15 では、図9から EW(Ca) ∼ 6.5 A 程度 である。等時線モデルの予言では年齢が 3 Gyr になると、EW(Ca) = 6.76 A (MI = -0.82) となる。図9の [Fe/H] = -0.3 フィットラインの 勾配は、MI = -0.15 から -0.8 への変化は EW(Ca) を 6.5 A から 6.8 A へと変化させる。 このように、年齢効果は較正ラインと平行に移動させるので、中間年齢星団でも 得られたメタル量は信頼できるのである。 少し怪しい場合もある 実際にはこの年齢効果はメタル量に依存する。例えば [Fe/H] = -0.7 では、 3G yr で出したメタル量が実際より 0.15 - 0.2 dex 低くなる。しかし、この シフトは小さいので観測エラーの範囲内と言える。 |
5.0.マゼラン星団毎の平均メタル量と速度低メタル星団 表9にはマゼラン星団毎の平均メタル量指数と速度を載せてある。SWB タイプも 併記した。新しい星団の大部分は 47 Tuc と 太陽との間に位置し、僅かに低メタ ルである。SWB IV - V に近い。低メタル ( [Fe/H] < -1.4 ) の星団は CMDの形、 RR Lyr の存在、積分スペクトルなどから全て SWB VII の古い 星団である。それらの中には伝統的な球状星団 NGC 1468. NGC 1635, NGC 2210, Hodge 11 が含まれ、また NGC 1754, NGC 1898, NGC 1916, NGC 2005 は 積分カラーが古い球状星団と似ていて、導いたメタル量も低い。 外辺部の星団に [Fe/H] < -1.5 より低いものはない。これはそれらの位置 を考えると驚くべきことだ。 中間メタル星団 -0.8 ≥ [Fe/H] ≥ -1.5 の中間メタル星団の中に、興味深いグループ が存在する。その代表例は ESO121SC03 ([Fe/H] = -0.93, t= 10 Gyr) で、その 他に LW 480, OHSC 33, OHSC 37, SL 126, NGC 1898 を含む。NGC 1898 の UBV カラーは非常に古い星団と類似である。これらの星団は年齢分布に存在する ギャップ(第6章)を埋めるものかも知れない。 5.1.測定が不確かな星団5.1.1.NGC 1644 観測星1,2のスペクトルは高い S/N を有するが星1のラインはずっと弱い。 視線速度は同じくらいである。この星団には平均組成指数 m(Ca) を与えられない。 5.1.2.NGC 1835 LMCの混んだ領域にあるためフィールド星の混入が激しい。炭素星 E20, 強ライン星 LE2, 弱ライン星 LE3 は全て異なる視線速度をもつ。この星団には RR Lyr があるので、我々は適当に弱ライン星を選んだ。 5.1.3.NGC 2005 観測星1は弱ライン、2は強ラインである。宇宙線のため観測星2の組成 指数は決められなかった。一応低指数を採用した。 |
![]() 図10 マゼラン星団 EW(Ca) を M8600 に対してプロットした。 標準球状星団のフィットラインを図9から重ねた。これらの較正ライン の内挿から星団毎の組成を決めた。 5.1.4.NGC 2019 AMII 5 は非常に弱ラインで、AMII 6 は非常に強ライン。SWB VII という以外に 強い理由はないが、弱い方の組成指数を採用した。 5.1.5.NGC 2097 3つの内2は前景星で残りの S/N はひどいため Ca ライン強度が測れない。 5.1.6.NGC 2257 LE 7, LE 8 は同じ速度を持ち、どちらも強ラインである。平均組成 [Fe/H] = -0.4 は、Walker 1989 が CMD 形態学から決めた [Fe/H] = -1.8 と大きく異なる。 Walker は Le 8, Le 9 の二つは RGB 延長線より下に位置すると注意した。 この二つはメンバーではないのかもしれない。そこで、この論文では -1,8 を 採用した。この大事な星団の速度は求まっていない。 |
5.2.以前の研究による星団組成との比較Cohen 1982 今回扱う星団に関し、メンバー星のスペクトルから組成を決めた例は殆どない。 Cohen 1982 は 6 星団の星を 3.4 A 分解能で観測した。彼女は λλ 3800 - 5900 A で Ca I, Ca II, Fe, Mg, Na から 7 ラインを観測した。彼女は これらのライン指数を銀河系球状星団と較べ、星団組成を導いた。 Cowley, Hartwick 1982 Cowley, Hartwick 1982 は 9 星団の 90 A/mm 青スペクトルを取った。内、 7 星団は共通している。NGC 2155, NGC 1978 は中間年齢星団である。その二つ に彼らは [Fe/H] = -1.5 という低い値を与えた。彼らの指数からメタル量への 変換は t < 10 Gyr では適当でない可能性がある。 Cohen 1982, Cowley,Hartwick 1982 と共通する星団 表10には先行研究と我々の得た組成を比較してある。エラーの範囲で一致は よい。Cohen の組成は我々の組成より平均して + 0.29dex 高い値を持つ。その 一因は組成のスケールの違いにある。彼女は 47 Tuc を [Fe/H] = -0.8 としたが 我々は -0.71 としている。しかし、それでもなお 0.2 の差が残る。差が最も 大きいのは NGC 1652 で 0.65 dex 異なる。 この星団を除いて、47 Tuc のス ケールを合わせると、5星団のずれの平均値は 0.11 となる。 古い星団での Cowley, Hartwick 1982 との一致は大変良い。前に述べたが、 2つの中間年齢星団の組成は我々の値とも NGC 1978 の場合、Cohen とも 異なる。 | ![]() 表10.Cohen 1982, Cowley,Hartwick 1982 と共通する星団の組成 |
使用したデータ 図11はサンプル中、年齢が得られている 31 星団からの年齢 - メタル量関係 を示した。この論文で導いたメタル量と表11にある Sagar,Pandey 1989 からの年齢が 用いられた。年齢は CMD からのものを用いた。t > 10 Gyr は全て 12 Gyr と した。CMD から 12 Gyr と 15 Gyr の差は出ないからである。 組成分布 大部分の星団は 0.5 - 3 Gyr の間にある。図10で四角印は中心から 5° (4 kpc) 以内、X印はその外側の星団である。外側と内側との組成分布は 大体同じである。平均では内側が 〈[Fe/H]〉 = -0.29 ± 0.2, 外側で 〈[Fe/H]〉 = -0.42 ± 0.2 で外側がやや低メタルである。 しかし、組成分布の広がりはかなり重なっている。 内側星団の組成は LMC 内の若い天体、例えば F 型超巨星(Russell,Bessell 1989)、 で個々に決められた組成に近い。 はずれ天体 NGC 1754 は全体から大きく外れている。この星団は非常に密集していて、その CMD (Jensen et al 1988) はおそらくフィールド星のものであろう。この星団は SWB VII であり、積分カラーからの年齢 10 Gyr の方が正しそうである。 Cohen モデル 図11の鎖線は Cohen 1982 が彼女のデータをよく表現するよう引いた線である。 この関係は孤立した一様モデルから導かれた。モデルの仮定は、一定のイールドと 星形成率 ∝ ガス密度である。 ギャップ 3 Gyr < t < 10 Gyr, -1.5 ≤ [Fe/H] ≤ -0.8 は重要な区間である。 暗い星団 ESO121SC-03 (Mateo et al 1986) を除いて、3 - 12 Gyr の年齢 を持つ星団は存在しない。この「ギャップ」は LMC の星形成率のバースト が起きたという議論につながる。 メタル量分布にも -1.7 < [Fe/H] < -0.8 にギャップが存在する。 星団の大部分の年齢は不明であるが、このメタル量ギャップは年齢ギャップ と相関していると考えてよいだろう。 2 Gyr の星団の組成は 12 Gyr 星団の組成よりかなり高いことは明らかである。 しかし、組成増大の正確な形は現在のところ不明である。したがって、 Cohen の Z(t) 関係と 12 から 4 Gyr にかけてより緩やかな増加を示す Smith et al 1988 の年齢 - メタル量関係のどちらがよいかを決めることは できない。Smith et al の関係は、積分カラーや積分スペクトルから年齢を 求めている。そして、3 - 12 Gyr では詳細な CMD からの年齢は積分法と 一致しない結果を与えている。 溶解過程 この年齢区分に星団が存在しないのは溶解・破壊が原因かも知れない。 Wielen 1988 は LMC の溶解タイムスケールを計算した。彼によると、バー から 1° のところにある星団は、M > 9000 M๏ なら ハッブル時間の間生存可能である。6° ならM > 4000 M๏ である。 ハッブル時間を越えるに十分な大きさの中間年齢星団が見つかっている。 それらが年齢と共に恒星進化と溶解過程双方のため暗くなるとしても、もし 存在するならばギャップ星団は見つかるはずである。 したがって、 3 - 10 Gyr の大きな星団は殆ど形成されなかったと言ってよい。 メタル量勾配 外辺部星団の平均メタル量が内側と殆ど変らないのは注意に値する。以前の 研究(Harris 1983, Pagel et al 1978)によると若い星団のメタル量には 中心距離勾配は認められない。しかし、本論文では外辺部の範囲が以前の研究 よりずっと大きい。 Kennicutt による星形成の条件 LMC 外辺のガス密度は非常に低く、非対称である。北方 5° では 1.0 × 1020 cm-2, 南方 5° で 1.6 × 1020 cm-2 である。 Kennicutt 1989 は面密度が局所重力不安定で定まる値以下の場合、 星形成が止まることを示した。それ以上の所では星形成が指数則に よって次のように起こる。 Σ(M๏ pc-2) = 0.59αV (km/s)/R(kpc) (6) ここに、α = 0.7, V = 半径 R での回転速度である。面密度が臨界値に 近い領域では星形成は全体でなく、密度波やショックによる局所的な密度の 高まり箇所でのみ起こるのであろう。 LMC での星形成条件 上の臨界値を LMC で求めよう。LMC での回転曲線は半径 1.5° で 80 km/s である。この値が 5° まで続くとして計算すると、臨界値は 8.2 M๏ pc-2 である。これは、HI 面密度 6.7 × 1020 cm-2 に対応する。(ここでは HI が ガスの 69 % を引き受けると仮定している。)この値は観測値の 4 - 5 倍高い。 内側では、R = 2 kpc で、Σ = 1.3 × 1021 cm-2 で観測 HI 面密度はこの値を上回っている。 LMC 外辺部での星団存在の意義 我々は外辺部で星形成が 10-12 Gyr と 2 Gyr 昔に起きたことを知っている。 一つの可能性は、LMC が銀河系か SMC と作用して「バースト」を起こした というものである。もう一つの可能性は LMC 外辺の物理条件が銀河系との 作用などにより、数Gyr の間に変化してしまったというものである。 実際、Bothun,Thompson 1988 は LMC 表面輝度が内側で決めた指数関数の 延長より急速に低下していることを指摘した。彼らは 30 % の物質が 剥ぎ取られたと推測している。 外辺部での恒星種族の詳細な研究がこの相互作用のタイムスケールを 定めるだろう。外辺における若い星や星団の存在はこの様な極端な 環境でも星形成が進行したことを示し、矮小楕円銀河のような低密度 天体での星形成の理解に役立つ。 |
![]() 図11.この論文で導いたメタル量と Sagar,Pandey 1989 からの年齢を使った 年齢 - メタル量関係。t > 10 Gyr は全て 12 Gyr とした。個々の 星団年齢のエラーは∼ 0.2dex なので、ある年齢での分散は主に これが原因である。外辺部は少し低メタルな傾向がある。 ![]() 表11.Sagar, Pandey 1989 が 集めた星団年齢。元文献の LMC 距離と年齢 決定法がそれぞれ異なるので、データの質は非一様である。 |
。 | 表10. |