LMCのパークス多ビーム HI サーベイの結果を報告する。オーストラリア テレスコープコンパクトサーベイが 15 - 500 pc 構造に敏感であるのに対し、 この観測は 200pc - 10 kpc 構造に敏感で相補的である。線幅が狭い場合には 感度が 8 1016 cm-2, 通常の 40 km/s 線巾では 4 1017 cm-2 感度なので、LMC の広がった領域からの 放射を見出した。腕状の構造が LMC からマゼランブリッジとマゼランストリーム の前方対応物である先行腕に繋がっている。 | これ等の構造はSMCの場合ほど劇的ではないが、銀河系の潮汐力場の中で 共通の起源を持ち、星について 2MASS, DENIS が見出した最近の結果と一致する。 LMC を囲む希薄ガスは特に PA = [90, 330] 方向で、緩い潮汐構造を伴って いるが、薄い銀河系ハローのラム圧力で剥されている可能性も捨てきれない。 LMC 星の紫外スペクトルに現れる高速度星は LMC に付属しているらしい。それら はおそらく LMC 円盤からの高エネルギー噴出の産物であろう。 LMC HI ガスの 質量は (4.8±0.2) 108 Mo と判明した。これは以前の推定値 よりかなり大きい。 |
大規模構造の研究が少なかった Kim et al. (1998) の ATCA = Australian Telescope Compact Array による HI 高分解観測は、 星形成域と周辺星間ガスとの相互作用のような小さいスケールの現象の解明に 利用されてきた。しかし、Alves, Nelson 2000 の円盤・ハロー相互作用の研 究を例外として、大規模構造の研究は殆どなされなかった。 干渉計は小スケール構造 理由の一つは ATCA が λ/B、B=最短基線長、より大きな構造に鈍い ことである。 B = 30 m, λ=0.2m とすると λ/B=1/150=0.4° なので、LMC 上 0.4 kpc 以上の構造の研究は難しい。 |
パークス 64 m 鏡によるサーベイ そこでパークス 64 m 鏡によるサーベイを行った。以前の観測には様々な欠 点があったからである。0.2m/64m = 12' なので、ナイキストサンプル 5.7' で LMC (10°x10°)を被うには (10°/5.7')2 = 10 4 点必要である。幸運にも多ビーム受信機の開発により、観測が 容易になった。 |
チャンネルマップ 図1に今回の観測領域を示す。図2にはそのチャンネルマップを示す。 速度帯は 185.9 - 359.0 km/s で 4.92 km/s 間隔で並べた。LMC の HI 速度 は 100 - 425 km/s に亘るから、全てをカバーし切ってはいないが、速度の 主要部は覆っている。 V = [186, 211] km/s V = [186, 211] km/s での主要構造は腕Bである。これは LMC とマゼラニ ックブリッジを直接つないでいるように見える。 V = [210, 240] km/s V = [210, 240] km/s では、 LMC 主要部の南半分が見えてくる。LMC 主要部は 別の腕、腕S(RA, Dec) = (05h30m, -71°00') から (04h20m, -70°00') と超巨大シェル LMC 2 に付随する八の字型構造、 30 Dra の南側ガス構造 (RA, Dec) = (05h41m, -72°00') から (05h45m, -69°00') で区切られている。 V = [260, 280] km/s LMC は棒渦状銀河, 例えば NGC 1365, のように見えてくる。二つの腕が、 ほぼ同じ Dec -69° から開いていく。一つは RA 04h45m で腕 W と呼び、北へ 5° 伸びる。もう一つは RA 05h40m で腕 E と呼び、南へ 6° 伸びる。二つの腕は HI でつながるが、光学バーの場所と角度ではない。 腕 E は先行腕雲の (RA,Dec) = (05h28m, -80°15') VLSR = 323 km/s を真直ぐに向いている。この雲は腕Eがスタートする場所から 11° 南にあり、 我々の観測領域から 4° 外れている。深い HIPASS データによると、先行腕と 腕 E が VLSR = [260, 280] km/s でつながっている。 VLSR = [260, 280] km/s で腕B は可視で見える。 V > 300 km/s V > 300 km/s では、主要部の北半分が見える。それらは (i) LMC 4, (ii) LMC SGS 6, (iii)腕 E である。 |
![]() 図1.LMC の HI 構造。Kim98 の回転中心と、光学バーを参考に示す。 腕 B, E, S, W = 外側腕。 LMC 4 (Meaburn et al 1980), LMC SGS 6 (Kim et al. 1990) は超巨大シェル。LMC の南東、南、西 に希薄ガスがある。 銀河系中心、マゼランブリッジ、SMC,先行腕、マゼラニックストリームの 方向が示されている。固有運動の方向も。 |
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![]() 図5.LMC の方位角平均 HI 柱密度。単位は 1020 cm-2. 中心は力学中心 (RA, Dec) = (05h17.6', -69°02') 平均柱密度は中心付近 で、縁で増光がある。様々な種類の可視円盤半径を示す。α-1 = B バンドスケール長。RHα = Hα 半径。 R25 = B バンド面輝度 μB = 25 mag arcsec -2. HI 分布とピーク位置 ピーク輝度温度と柱密度の分布を図3に示す。輝度温度は (RA, Dec) = (05h39m22s, -69°51'13")2000 でピーク 83.1 K となる。 ここは N 159 と 30 Dra のやや南である。そこの柱密度は 5.6 1021 cm-2 である。図3の特徴は (i) 円盤傾き角 ほぼ円形の HI 円盤が見える。円形を仮定して見かけの扁平度から導いた インクリネイションは 22 度付近だが、距離を直接出して導いた角度 35 - 42 度 とは異なる。 (ii) HI の穴 円盤には穴があり、見かけをマダラ状にしている。その最大は LMC 4 で、 さらに、(RA, Dec) = (05h00m, -70°12') を中心にする東西のギャップ がある。 |
![]() 図6.LMC の方位角平均 HI 柱密度。単位は 1020 cm-2. 図5と同じだが、対数表示。垂直線=図5の線に対応。 (iii) 周辺増光 図5を見ると、 HI が周辺増光している。方位角平均した密度は力学 中心で、ピーク値 2 1020 cm-2であるが、R = 2.2 kpc で再び 1.7 1020 cm-2に上がる。この増光は 一部は 腕 E と LMC 2 と 30 Dra のガスで起因する。南東のガス密度増加 を LMC が MW ハローを通過するためとする説もある。 (iv) 希薄ガス 希薄ガスが LMC 周辺特に PA = 90° - 330° 方向に多い。 図5によると、R = 5 kpc で 1 1020 cm-2 である。 図6に表面密度の対数表示を示す。この図を見ると R = 2.5 kpc で急速な 密度低下が起きるがカットオフはないことが判る。密度変化は、 Σ ∝ R-3.3 で指数関数型より緩い。 (v) 腕 腕 B と E は共に、LMC 南東から異なる速度で発する。これらは、図5の 南半分にある希薄ガスに伴っている。これらの腕が同一平面にあるとは考えにくい。 最近、 Kim et al. (1998) や Gardiner et al 1998 が述べているように、LMC には明らかな腕構造が見える。 これは、van der Marel 2001 の星近赤外マップと異なる。 |
3.3.空間積分した LMC の性質表1には LMC 全体の性質を載せた。図7の LMC 全体での速度分布は、他の 晩期型銀河との比較のために作成した。![]() 図7.LMC 全体の HI 速度分布。 |
3.4.潮汐作用腕 B腕 B はマゼラニックブリッジに直接向いている。そこで SMC ガスと一体化 するらしい。ブリッジは潮汐起源であろう。モデルでは形成が 0.2 Gyr 昔 である。腕 B の存在はブリッジのガスの幾分かは LMC 起源であることを示す。 しかし、主成分は SMC からはがされたガスである。腕 B は少なくとも二つの フィラメントから成る。 腕 E と W 腕 E と W は LMC の出発点からそれぞれ南と北を目指す。既に述べたが、 腕 E は先行腕雲の出発点を目指す。腕 W は北を目指し、希薄ガスの中に 広がって行く。このガスはブリッジを省いてマゼラニックストリームに 直結するようだ。これらの特徴の原因は銀河系であろう。銀河系からの大円は ほぼ南北方向を向き、したがって潮汐力もその方向である。 腕 B と E 腕 B と E が LMC 南東の同じ点から出発して、腕 B はブリッジへ、腕 E は 先行腕へ流れて行くように見えるのは異常である。モデルでは SMC が 0.2 Gyr に 近くを通過した際に LMC-MW ラグランジュ L1 点のガスをブリッジに流し込んだ。 現在は、 MW の潮汐力が SMC より大きいが、近接遭遇の時には違った。 星は腕無し 星が腕の構造を見せないのは不思議である。 |
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![]() 図10.SGSの位置。LMC 1 - 5 と 8 は Meaburn 1980. LMC SGS 6, 17, 23 は Kim et al 1999. |
![]() 図11.図10でマークした HI 穴を横切る位置・速度スライス。スライスの 方位角は PA = 0°. 例外は LMC 4 (10°), LMC SGS (90°), LMC SGS17 (85°). 弱い部分を強調するため、9 K でサチっている。 完全 なシェルの証拠は LMC SGS 17, 23 のみであった。 |