Observational Evidence of Supershell Blowout in GS 018-04+04; The Scutum Supershell


Callaway, Savage, Benjamin, Haffner, Tufte
2000 ApJ 532, 943 - 969




 アブストラクト

 盾座スーパーシェル 
 二つのスーパーシェル GS 018-04*04 と GS 034-06+65 を含む領域の HI 21 cm ラインマップを作った。今回は GS 018-04*04、以降盾座スーパーシェルと呼ぶ、 を扱う。このスーパーシェルは直径 5° で銀河面の下側 -7° まで広がる。 盾座シェルの距離は 3.3 kpc で直径 290 pc, 銀河面と垂直方向 400 pc 延び ている。壁に掃き寄せられた質量は 6.2×105 Moである。

シェルの頭から HI 雲が。 
 我々の観測ではシェルのてっぺんは破れていてかなりの量の HI が b = -11° まで達し、 3.7×104 Mo の HI 雲を銀河面からの高さ 630 pc の所に作っている。

 X-線は HI と逆相関 
 ROSAT によると X 線強度は HI 強度と逆相関している。この放射は盾座シェル 内部の高温ガスと関係するものであろう。1.5 keV X-線のピークはシェルの基部にあり、 0.75 keV はシェル内部と頭部でピークをしめし、0.25 keV はシェルの上の方まで広 がっていることが分かった。X-線光度は 5 × 1036 erg/s である。

 ウィスコンシン Hα マッパー(WHAM) は HI とよく似た形の Hα 分布を 示している。スペクトルは電離ガスが HI と似た視線速度を持ち、電離ガスと HI が 同じ距離にあることを示す。

 IRAS
 IRAS 60, 100 μm マップはダストが HI と相関して存在することを示す。 赤外輝度は 100 μm 放射の超過を示す。これは分子水素成分 2.4 × 1021 cm-2 の濃い雲が高銀緯にあることを意味する。

 IUE
 HD 177989(l=17.°89, b=-11.°88) と HD175754(l=16.°40, b=-9.°92)の IUE UV スペクトルは盾座スーパーシェルからの放出ガスと 同じ速度に、高い電離度のガスによる吸収を見出した。HD 175754 の場合、 高いイオンコラム密度比は低温と高温のガスが乱流混合層を作っていることを 示唆する。

 スーパーシェルの頭からの吹き出し 
 こうして、多波長データは盾座スーパーシェル内部の熱い物質がシェルの頭から 噴き出すというモデルを支持する。


 1.イントロダクション 

 シェルからの吹き出し 

 HI のマップにはシェル( Heiles 1979, Heiles 1984, )、ホール、アーチなどが見える。シェルは超新星や OB-星からの風などが協合して作ると考えられている。銀河面スケール高の数倍 まで広がると、シェル内部の熱いガスがシェルを突き破ってハローへ噴き出す。

 盾座シェル=スーパーシェル 

 盾座シェルは (l, b) = (17.5, -4) にあり、 Heiles 1979 により GS 016-06+43 と 名付けられた。最近の HI サーベイはより正確には GS 018-4+44 ではないかとしている。 この論文で示す HI データには複雑な構造が見えているので、他波長データと突き合わ せて構造を解明する。
IUE スペクトル 

 HD 1779899 (l, b)=(17.9, -11.9) と HD 175754 (l, b) = (16.4, -9.9) の IUE スペクトルにはスーパーシェル起源と思われる吸収線が存在する。その 解析からスーパーシェル噴出電離ガスの性質を調べることが可能である。

論文の目的 

 この論文では、視線方向に重なり合う銀河腕天体を調べ、21 cm HI、IRAS 60, 100 μm 放射光、0.25, 0.75, 1.5 keV X-線、IUE スペクトルデータを述べる。 そして盾座シェルの特性を導く。





図1.盾座 l = 18° 方向に重なる天体の配置。左上:Garmany 1982 カタログにある O-型星。左下:Lockman 1989 サーベイの HIIR。右:Dame 1986 の分子雲。

 2.銀河系環境 

 シェル方向の渦状腕 

 盾座シェルは (l, b) = (17.5, -4) 方向にある。視線方向には局所腕の内側部分、 運動距離 = 2 kpc, Vr = +20 km/s のサジタリウス腕、距離 3 - 4 kpc、 Vr = +40 km/s の定規・盾腕がある。これは Clemens 1985 の回転曲線に基づいている。 これらの腕は HIIR( Lockman 1989 , Blitz,Fich,Stark 1982 )、分子雲( Dame 1986 )、 O-星( Garmany,Conti,Chiosi 1982 )で追跡されている。この先、視線速度は LSR 速度である。




表1.HII 領域。 Lockman 1989 より。
 図1左上= O-型星 

 O-型星までの距離は、星団やアソシエイションの成員である時はその値を、孤立星の場合は Conti 1975 のスペクトル型と絶対等級の較正に Av = 3.1E(B-V) の減光を用いた。

 図1左下= HII 領域 

 HIIR までの距離には運動距離を用いた。回転曲線は Clemens 1985 から取った。

 図1右= 分子雲 

 分子雲は Dame et al 1986 をから取り、運動距離に 使う回転曲線は Clemens 1985 を用いた。Dame et al 1986 の図 9, 10a, 10b には渦状腕が 現れている。

天体距離 

 図1に現れている分子雲と HIIR は Vr = +20 km/s, d ∼ 2 kpc 付近 = サジタリウス腕と Vr = +40 から +50 km/s, d ∼ 3 - 4 kpc 付近 = 定規ー盾座腕に集中している。O-型星の分布はサジタリウス腕付近と 3 kpc 付近、おそらく定規ー盾座腕の手前部分の集中を示す。

 多波長観測 

 これから先の多波長観測ではこれらの腕物質による輝線、吸収線の存在を考慮 して解析を進める。 


表2.盾座スーパーシェル内の O-型星。 Garmany,Conti,Chiosi 1982  より。


 3.観測データ 




図2.上:NRAO HI サーベイの VLSR = +44±1 km/s 強度図。 銀河面から離れた部分の HI 柱密度を強調するため sin|b| を掛けてある。 二つの目立つ特徴は盾座シェルとそこからの噴出物でできた高銀緯雲である。盾座 スーパーシェルは中心速度 + 44 km/s を持つ。
左下:上図の特徴部分。右下:その説明。大体球形のシェルが中心 (l, b) = (17.5, -4) にある。開いた頂頭部がはっきり見える。同じく噴出する HI の 柱が l = 18 に見える。
(うーん。これをシェルって言うのか。 )





図3.速度空間における盾座シェルの進化。各図は速度巾 2 km/s で 4 km/s 間隔である。 コントラストを上げるため柱密度に sin|b| をかけた。石鹸泡状の構造が 36 km/s に見える。 それが 40 km/s では開いて盾座シェルとなった。シェル構造は 52 km/s まで続き、その後 弱まり、 72 km/s で完全に消える。

 3.1.H I データ 

 HI 観測 

 21 cm 観測は NRAO 43 m 望遠鏡で 1990 - 1992 に行われた。 Maciejewski, Murphy, Lockman, Savage 1996 は同じデータで鷲座スーパーシェルの解析を行った。角分解能は FWHM = 21" である。観測範囲は l = [11, 40], b = [-15, -0.5] である。この先、「上に」 と言う言葉は銀河面から遠い方向を指すので注意せよ。b = -5 は b = -4 より 「上に」ある。

 図2= 44±1 km/s H I マップ 

 l = 35 にある明るいシェルは鷲座スーパーシェルである。l = 17.5, b = [-6, -11] に盾座シェルから伸びる HI の柱が見える。その部分を図2左下 に切り取った。図2右下の図はその特徴を示してある。図3は視線速度毎の HI 柱密度マップである。l = 17.5, b = -4.0, V = +44 km/s 方向のシェル 構造に注意せよ。 Koo, Heiles, Reach 1992 はこの特徴と IRAS 100, 60 μm マップとを合わせて検討し、その形から 銀河虫 (galactic worm) と呼んだ。彼らのカタログには GW 14.9-1.6, GW 16.9-3.8, GW 19.5-6.4 が載っている。Koo et al 1992 は GW 14.9-1.6 と GW16.9-3.8 は 実際にはスーパーシェルの壁であろうと述べているが、我々もそれを確認した。この シェルを盾座スーパーシェルと呼ぶ。
 図3=速度毎の HI 柱密度マップ 

 最も目立つ特徴は、b = [-1, -6] のシェル自体と高銀緯雲 b = [-9, -12] である。 シェル構造が分布する速度は V = [+38 km/s, +68 km/s] である。シェル構造が最も 鮮明に見えるのは、V = +44 km/s であり、そこでは l, b 共に 5° の大きさに 広がっている。シェルの頭頂部 b = -6° は見えない。その代り、我々には空隙が 見える。そして、 l = 18°, b = -11° 付近を中心として、縦に HI の柱が 立ち上がって (l, b) = (18, -11) を中心とする大きな分子雲へと達している。

高銀緯雲 

 シェルの構造が最も鮮明に見えるのは、V = +40 から +50 km/s に掛けてである。 そこでは、複雑な石鹸泡構造はシェルの空白部へ溶け込んでいく。シェルの頭がある べきところに空いた間隙は全ての速度帯ではっきり見える。高銀緯雲の柱密度は ∼ +44 km/s 図で最も厚くなる。それはシェルの壁から伸びる HI の垂直 柱の端にある。シェルの前面速度は +38 km/s、後面速度は +68 km/s で、 雲の中心速度 +44 km/s は雲がシェルの前面と後面の中間にあり、シェルから の吹き上げ物質であることを示唆する。シェル内部にあった高温物質は銀河円盤 を突き抜けて行ったと考える。シェルの周りにある石鹸泡構造は l = 17.5, b = -4 を中心にあり、 V = +38 km/s でよく見える。これから泡はシェルの前側にあると 考えられる。シェルの後面はよく見えない。しかし、何本かの視線方向での H I ラインプロファイルを見ると、後面が存在することが分かる。図4には それらの幾つかが示されている。

 Koo et al 1992 との関連 

 HI の解釈は複雑で難しい。はっきり言えるのは、 Koo, Heiles, Reach 1992 の GW16.9-3.8, GW19.5-6.4, GW19.5-6.4 赤外特徴物が 銀河面から立ち上がる HI の柱に対応しているということである。これらの壁はほぼ球形の H I 空白部を 囲んでいる。その上、球形シェルから垂直に H I の柱が高銀緯まで伸びている。 視線速度はこれらシェルの壁と柱が関係することを示す。この件に関し、他の 波長でどうなのかを調べる。



図4.シェル内での速度構造。中心付近でダブルピークになっていることに注意。 これらはシェルの前面と後面であろう。垂直柱と高銀緯雲の速度はそれらの中間 である。




図5.IRAS 60, 100 μm アンシャープマスキング画像。l = 18.5, b=-6.5 に 塊りが見えるが、これは H I シェルの壁に対応する。l = 18, b = 10 には高 銀緯雲に対応する雲が見える。100 μm 超過は O-型星による加熱か、分子雲の 柱密度が高いためかのどちらかであろう。

 3.2.赤外データ 

Wheelock et al 1991 2nd Generation IRAS maps 

 Wheelock et al 1991 の公開した IRAS マップは分解能が 6.1' である。 画像のコントラストを上げるためアンシャープマスキングを施した。この過程で、 原画像は 25 ピクセル(0.3°) のぼかし像で割り算される。12, 25 μm には 目立つ特徴がなかった。

 図5=アンシャープマスキング画像 

 図5には 60, 100 μm の赤外放射マップが示してある。l = 18.5, b = -6 には H I に対応する塊りが見える。
また、シェルの中心位置 l = 17.5, b = -4 付近 では赤外放射が弱い。また、シェルのふたが飛んでいるところでも弱い。

IRAS と HI の相関

 IRAS 60, 100 μm 放射が強い塊位置では H I 21 cm も明るいことは面白い。 これはダストが H I 領域に存在することを示す。特に高銀緯雲 b = -10 で もそうであることは注意に値する。





図6.ROSAT X-線画像と NRAO +44±1 km/s HI マップの比較。X-線各 バンド画像の形態が H I と逆相関になっている。 1.5 keV と 0.75 keV が、 0.75 keV と 0.25 keV のピークがそれぞれ重なっている。これは高温ガスが 連続的に分布していることを示す。1.5 keV は盾座シェルの根元にあり、そこは S 55 HIIR および O-型星 HD 171198 の位置でもある。

 3.3.X 線データ 

 ROSAT

 X-線データは Snowden et al 1995 の ROSAT 拡散光マップから取った。 観測は ROSAT X-Ray Telescope (XRT) の Position Sensitive Proportional Counter (PSPC) で 3 つの広帯域バンド 0.25, 0.75, 1.5 keV で行われた。 公開マップの分解能は2 ° である。最近 Snowden et al 1997 は 12' 分解能のマップを発表したが非公開で使えない。

 サブセットデータ 

 l = [5, 25], b = [0, -20] のサブセットを全天マップから取り出した。

 3.3.1.X 線吸収補正 

 H I から吸収を補正 

 前景 H I は X-線強度を著しく低下させる。略するが、最悪ケースとして H I 放射が X-線源の前面にあると考えて吸収を補正した。

 3.3.2.X 線放射の定量解析 

略 




図7.観測 ROSAT 放射と局所放射と H I 吸収の補正マップ。 盾座シェルと関連した特徴が見える。シェル内部と基部の高温ガスが 1.5 keV 放射をしている。シェル頭頂部付近では散逸して 0.75 へと、次に 0.25 keV へと移っていく様子が見える。




図8.Hα 放射の速度別マップ。各図は 10 km/s 巾で 10 km/s ずつずれている。 HIIR S45 と S55 は +40 km/s フレームに見える。これらは盾座シェルの基部に おける放射の主因である。

 3.4.Hα データ 

 ウイスコンシン Hα マップ (WHAM)  

 ウイスコンシン Hα マップは 0.6 m サイデロスタット望遠鏡 + ファブリーペロー干渉計で観測された。速度巾は 200 km/s で、直径 1° の 速度 12 km/s 分解能の像が取れる。1回の露光は 30 秒である。

 

 

 

 


 

 

 

 

 



図9.WHAM サーベイの +40±5 km/s 画像。選択位置での線プロファイル も示す。プロファイルは放射ピークが2成分からなることを示す。第1ピークは +20 km/s でおこり、S45 HIIR に対応する。第2成分は +40 km/s で起こり、 S55 HIIR に対応する。Hα の縦の柱部では二つの成分が重なって、 幅広の +30 km/s ピークとなった。+40 km/s 成分は HI 柱と同じ 視線速度=運動距離を持つ。これは盾座シェル内部に電離ガスが 存在し、 -12° まで広がっていることを示す。




図10.3つの星の UV LSR 速度スペクトル。




表3.IUE で観測した星の性質

 3.5.UV データ 




図11.3つの星の CIV 1548,1550 A 吸収線。





図12.左: Dame 1986  CO サーベイ。 盾座シェル基部に 3 つの分子雲複合が存在することが分かる。 l = 16 と 20 の間にある 3 つの分子雲は、右下図の白丸 = HIIR と対応する。
右上: Garmany,Conti,Chiosi 1982 からの O-型星の位置。SNR は Green 1998 による。盾座シェルの起源は若くて 高温の星からの星風かも知れない。UV 吸収を調べた3つの星もマークした。 その内 2 つ、 HD 175754 と HD 175876 は O-型星である。第3の HD 177989 は 非常に遠方の B-型星である。

 4.盾座スーパーシェルに関連した天体 

 若い星 

  Koo, Heiles, Reach 1992 は、GW 14.9-1.6, GW 16.9-3.8 は多分スーパーシェルの壁であろうと述べた。 彼らはさらに、エネルギー源は Ser OB1-アソシエイション、9 O + 11 B で l = [15, 19] だろうと予想した。 このアソシエイションの内 8 個の OB-星 が b< =[-1.3, 0] である。O-型星は Garmany,Conti,Chiosi 1982  から取って 図12の H I マップ上にプロットした。星の情報も Garmany 1982 カタログから 取って表2にまとめた。SNR, HIIR も同様にプロットした。盾座シェル領域に 若い高温度星が存在することはこれらの星からの星風がシェルの起源であると 言う考えを支持する。
 分子雲 

 3つの分子雲が l = [14, 19] にあるのは、盾座スーパーシェルの位置が活発な 星形成領域と重なることを意味する。 Dame 1986   は l = [12, 25] 領域ではっきりした分子雲構造を見出した。 それらの雲のうち 3 つは速度が盾座シェルと一致する。それらは図12左上に l, V の形で示してある。(l,V) = (17,44), (18,48), (20,42) がそれである。

HIIR

 Lockman の HIIR カタログからは l = [15, 25] に 74 HIIR が載っている。 その内 V = [40, 50] km/s は 11 個ある。それらは 盾座スーパーシェルと関係 のある天体であろう。

 SNR  

 Green 1998 の SNR カタログからは盾座シェル領域に 10 SNR がある。距離情報が 無いので、それらがシェル内にあるかどうか決められない。


 5.盾座スーパーシェルの物理的特性 

 5.1.盾座スーパーシェルのサイズ、質量、エネルギー 

 5.2.ダストの特性と高銀緯雲の H2 成分 

 5.3.X-線光度 

 5.4.暖かい電離物質のエミッションメジャー 

 5.5.盾座スーパーシェルに重なる電離ガス 



 6.他のスーパーシェルとの比較 

 オリオンーエリダヌス スーパーシェル 

 エリダヌスシェルは距離 400 pc, 直径 120 pc である。中心は (l, b) = (200, -32) で、l で 35°. b で 20° の大きさを持つ。 可視のファブリーペロー分光の結果は Reynolds, Ogden 1979 にある。Burrows et al 1993 は HEAO 1 データから X-線光度を計算した。彼らは Ori OB1 の星風と超新星爆発の相乗効果でエネルギーを与えられてスーパーバ ブルが形成されたと考えた。エリダヌス領域に 1.5 keV 放射が無いのは、 盾座シェル ほど熱いガスを欠いているためである。
LMC

 Chu et al 1995 は LMC にあるスーパーバブルの X-線光度を 2 - 10 × 1034 erg/s と見積もった。それらと 較べると、盾座シェルは明るいスーパーシェルの典型例であるらしい。


 7.結論 


表8.盾座シェルの性質。