The Largest Molecular Cloud Complexes in the First Galactic Quadrant


Dame, Elmergreen, Cohen, Thaddeus
1986 ApJ 305, 892 - 908




 アブストラクト

 複合の検出 
 コロンビア CO サーベイの 第1象限を使い、内側銀河系で最大の分子雲複合の 位置と物理的性質を決定した。 l = [12, 60] で M > 5 × 105 の 26 複合が検出された。これから、太陽園内には数百の複合があると推定される。 これら複合は、種族I の多くの母天体であろう。

位置分布 
 複合までの距離は運動学的に決めた。随伴する HIIR, OB アソシエイション、 メーザー、他の種族I 天体を使って、遠距離・近距離縮退を解いた。複合はサジタ リウス腕をはっきりとなぞった。
17 の巨大複合が腕に沿い、 15 kpc の長さに 渡り、系外銀河で観察される HIIR の規則正しい配列と同じ程度の間隔で一様に 分布している。

 線幅、サイズ、密度の関係 
 線幅と複合体のサイズの間、および密度とサイズの間にはにはそれぞれ べき乗則が成り立つ。その形は以前に我々や他の研究で見出されたものと よく一致し、今回の研究はこの関係を質量にして一桁の巾に広げた。



図1.銀河系第2象限のコロンビア CO サーベイ (l, v) 図。等高線は∫-3 +3Ta db である。l = 128 付近のサーベイは急だったので 0.5 度分解能に 平滑化して S/N 比を上げた。L 矢印は局所腕を、P 矢印はペルセウス腕を示す。 ペルセウス腕にある3つの巨大複合体を付随する HIIR の名前で示してある。

 1.イントロダクション 

 分子雲複合体 

 太陽から数 kpc 内の CO 輻射は少数の非常に大きく、他とはっきり 区別できる分子雲複合体から出ている。例えば、図1で第2象限、 l = [104, 180] のペルセウス腕の放射の大部分は3つの巨大複合体 NGC 7538, W 3, S 235, で占められている。図1を見れば互いに独立な天体で あることが分かる。それらをより小さな雲の分布の統計的揺らぎで 説明することは無理である。オリオンや M 17 と同様に、 NGC 7538 複合体は太陽近傍最大の複合体である。それらはまたいくつかの緩く 繋がった小さな塊りから成る。その質量は ∼ 106 Mo で、内部運動は 15 km/s を超す。

 第2象限の分子雲複合体約30個 

 NGC 7538 と似た天体は内側銀河前面に広がっている。図 2a では 第1象限の (l, v) 図を示すが、大きさ 1° - 2° × 10 - 20 km/s の雲 約30個が大きな構造を支配している。 その角サイズ、速度の広がり、CO 見かけ光度はそれらが近傍で見られる 巨大分子雲複合体を似た性質を持つことを示す。

 それらの幾つかは良く調べられている 

 それらは太陽近傍の巨大分子雲複合体と似た性質を持つ。またそれらには、 様々な早期型種族 I 天体が付随している。幾つかは有名で良く調べられている。例えば 天体 [14, 20] は HIIR の M 17 に重なる分子雲で、距離 2.3 kpc にある。また、 [49, 59] は W 51 と重なり、距離 7.3 kpc である。以下の解析では図2(右) に示された天体は互いによく似た分子雲複合体と仮定する。
 分子雲複合体は銀河系構造の良い指示天体 

 分子雲複合体は明るく、銀河系遠方でも同定でき、付随する種族 I 天体の助けで 距離精度が上がるので、銀河系構造を探るには最適の天体である。

表1.コロンビア CO サーベイ



図2.背景除去第1法:(左)銀河系第1象限のコロンビア CO サーベイ (l, v) 図。等高線は ∫-1+1Ta db である。分解能 1° × 5.2 km/s の平滑化で背景の影響を軽減している。
(右)左図にある表2の複合体を名前で示してある。v < 20 km/s で 500 pc 以内の雲と思われる放射については銀緯がこの論文の範囲をはみ出るので Dame, Thadeus 1985 を見よ。


 2.解析 

 2.a. 雲の同定 

  CO 背景放射の問題 

 銀河赤道の近くでは、弱くて広がった CO 背景放射が複合体の同定を困難 にする。それらは多数の小さい雲や遠方の雲の重なりである。この混入は 分子リング領域では特に問題となる。そこでは雲の密度が高く、端点付近では 速度の集中も激しい。複合体の銀河面分布を決めるためには、まず第一に 複合体をどう定義し、背景放射をどう除くかを考える必要がある。

 背景放射の除去(1)平滑化法 

 平滑化は一つの方法である。しかし、第1象限の図2のみでは、図中の多くの 特徴が本当はこの平滑化操作の結果ではないかと疑わせるだろう。図3には平滑化 を行っていない、 (l, b) 図を示す。この図3を図2と比較すると、 図2で示された複合体が内部に副構造を含んではいるが、確かにそれぞれが独立 の天体であることが分かる。副構造の存在も近傍の複合体で示された通りである。

 背景放射の除去(2)閾値でカット法 

 背景放射を押さえ込むもう一つの方法は、ある温度閾値以下のチャンネルの測定値を 全てゼロとすることである。この方法は強くて局在する放射を浮き上がらせる。

複合体が実在する 

 図4には閾値 2 K での (l, v) 図であるが、分子リング領域では依然として 混乱が残っている。そこではより高い閾値が必要である。重要な結果は平滑法 の図2と同じ複合体が選び出されたことである。図2、3,4が同じ天体を 浮かび上がらせたのは、この複合体が実在することの強い証拠である。

 図5=複合体の2例 

 図5には典型的な複合体の閾値法による空間分布図を示す。どちらも星形成 領域である数個の副成分からなっていて、近傍複合体オリオン、モノセロス、 NGC 7538 と似ている。例えば、図5(左)に見える4つの HIIR は複合体 [22, 53] に付随する。一方、図5(右)では SNR 位置が [46, 59] と重なっている。

 背景放射モデル 

 次の疑問は、複合体固有の輻射を背景から切り分けることである。我々は、[l, v] 図上の背景放射は銀経に沿っては銀河系中心に対して対称であり、CO 全体の動径 分布と同じ形(=分子リング)と仮定する。
こうして作った、モデル背景放射の (l, v) 図を観測 (l, v) 図から差し引いた(図3)。適切な背景放射レベルが設定 されると、図11に示すように残差放射から良く分離された複合体が現れる。 方法の詳細は付録Bで述べる。




図4.背景除去第2法:銀河系第1象限のコロンビア CO サーベイ (l, v) 図。ただし、 ∫-1+1Ta db > 2 K のみを示す。。



図3.図2と同じ、銀河系第1象限のコロンビア CO サーベイ (l, v) 図。カラー版。




図5.CO 強度分布。(左)[46, 59] 雲。(右)[22, 53] 雲。等高線間隔は 5 K km/s. [46, 59](左) では v = 50 - 65 km/s 積分で、点印は HIIR の位置である。 その再結合線速度は複合体速度とほぼ同じである。[22, 53](右)は 40 - 60 km/s 積分 で、三角印は HIIR 位置であるが、その速度は 75 km/s で複合体速度より大きい。 これらの HIIR は複合体速度で H2CO 吸収を示す。これは複合体が運動 近距離にあることを示す。十字印は SNR Kes 69 である。その距離は 4.2 kpc で運動 近距離と一致する。

 2.b. 個々の雲の性質 

 2.b. i. 雲の質量 

 複合体の質量は CO フラックス W(CO) = ∫T(CO)dv から求める。飽和 している CO フラックスが質量に比例する理由は不明である。とにかく、 得られた半経験式は、

     M = 1.3 × 103SD2 Mo

である。ここに、D = 距離(kpc)、S = CO フラックス(K km/s deg2) である。個々の雲の質量は表2を見よ。

 2.b. ii. 雲の距離 

 遠近分離法 

 複合体への距離は Burton 1971 回転曲線による運動距離である。遠近の分離 にはいくつかの方法がある。それらは
(1)付随する HIIR の原子、分子吸収線を測る。
(2)もっと高速の背景 HIIR 連続光に対し H2CO 吸収線。
(3)R(サイズ) - ΔV 関係。
通常は上の幾つかを組み合わせて距離を推定する。付録Aに個々の複合体に対 する距離決定の方法を述べた。表2には最も信頼できる値を載せた。

 図5=遠近分離の例 

 図5には遠近分離の例を二つ示した。複合体 [46, 59] は遠距離とされた。 その理由は付随する3個の HIIR が連続光に対する 70 km/s HI 吸収線を示す、 つまり HIIR の手前により高速のガス成分が存在する、からである。
図5(右)の [22, 53] を近距離とした理由は3つある:
(1)速度 75 km/s と大きい速度を持つ、見かけ随伴 HIIR に H2CO 複合体速度 (53 km/s) 吸収線が見つかった。
(2)見かけ角が大きい。
(3)おそらく随伴する SNR Kes 69 の距離。

 2.b. iii. 複合体の半径とライン巾 

 表2で複合体の立体角 A から有効半径 = (A/π)1/2 とした。 積分線輪郭は領域内のスペクトルの平均でだし、それを眼視でガウシャンフィット してその FWHM で表2の線幅とした。




表2.b = [-1, +1] 積分 Tco の (l, v) 図上の明るい CO 天体


 2.c. 雲の統計的性質 

 べき乗関係 

 図1を見ると、ペルセウス腕のライン巾が雲の大きさに連れて大きくなって いくことが容易に分かる。Dame, Thaddeus 1982 はこの増加はライン巾と雲の 光度の間のべき乗則で近似できることを示した。最近になり、ライン巾とサイズ の間にも類似のべき乗則関係が成立することが幾つかの研究で示された。

 log R と log ΔV とのべき乗則関係 

 図6には log R と log ΔV との間の綺麗な関係が示されている。この 図は Larson 1981 の見つけたべき乗則関係を10倍大きな複合体にまで広げた点 で意義がある。フィットした関係式は、

     ΔV = (1.22&plusma;0.22)R0.50±0.05

で表される。複合体の形が不規則で、輝線輪郭も複雑であることを考えるとグラフに 現れた相関の良さは驚くほどである。べき乗則指数は以前の Larson 1981, Leung, Kutner, Mead 1982, Myers 1983 の値とよく一致した。















 平均密度とサイズの関係 

 図7には複合体の平均密度とサイズの関係がプロットされている。フィット直線は 以下のように表された。

     ⟨n(H2⟩ = (3.6&plusma;1.2)×103 R1.3±0.1

⟨n(H2⟩ の計算は、H2 1個当たりの平均分子量を 2.72mH と仮定し、表2の R と M から計算した。べき乗則指数は分子雲 コアに対する Myers 1983 の値と一致し、Larson 1981 が 1 Mo - 3 ×103 Mo の雲に対して求めた 1.3 とも近い。























 ビリアル平衡 

 上に示した二つのべき乗則指数 α = 0.5 と β = 1.3 は複合体が 近似的にはビリアル平衡にあることを示しているように見える。厳密なビリ アル平衡では、 α + β/2 = 1 である。ビリアル平衡にある一様な 球では、FWHM 速度分散 ΔVVT は次式で与えられる。
ΔVVT = ( 8G(ln2) M ) 1/2
5 R


 超音速の内部運動には、様々な大きさの乱流、雲塊の軌道運動が含まれる。我々はこれらの 運動の速度分散が CO ライン巾に反映されていると看做した。観測的に決めた ライン巾 ΔV を上の ΔVVT と比較したプロットが図 8である。 ΔV/ΔVVT の平均値は 1.04&pusmn;0.29 であった。M 決定に伴う多くの系統誤差を考えると、この一致は部分的には 偶然である。にも拘らず、我々のデータが大部分の複合体で大体ビリアル平衡 にあることと矛盾しないのは、複合体が少なくとも部分的には自己重力に支配 されていることを示唆する。

図6.複合体ライン巾(FWHM) と半径の関係。最少二乗フィットは、
  log Δv = 0.08 + 0.50 log R





図7.n = H2 密度と半径の関係。最少二乗フィットは、
  log n = 3.56 - 1.32 log R





図8.観測ライン巾 ΔV(FWHM) とビリアルライン巾 ΔV vi(FWHM) との比と半径 R(pc) の関係。最少二乗フィットは、
   ΔV(FWHM)/ ΔVvi = 0.89 + 0.002 R
 






図9.表2の分子雲複合体の銀河面上の分布。M < 105 Mo の 4つの複合体は示していない。円の半径は質量の 1/3 乗に比例する。17 複合体から重み無しでフィットしたサジタリウス腕はピッチ角 5°.3 で 太陽ー銀河中心線を R = 8.24 kpc で横切る。盾座腕と 4 kpc 腕は複合体では フィットしていない。代わりに Shane 1972 の HI 観測からの図を使った。 盾座腕はピッチ角 7° で太陽ー銀河中心線を R = 6.39 kpc で横切る。 4 kpc 腕はピッチ角 10° で太陽ー銀河中心線を R = 5.28 kpc で横切る。

 3.銀河系内分布 

 分子雲複合体の位置 

 図9では、表2の分子雲複合体の位置を銀河面上にプロットした。M < 105 Mo の4つの複合体は示していない。円の半径は質量の 1/3 乗に比例する。17 複合体から重み無しでフィットしたサジタリウス腕は ピッチ角 5°.3 で太陽ー銀河中心線を R = 8.24 kpc で横切る。盾座腕と 4 kpc 腕は複合体の分布でははっきり見えない。代わりに Shane 1972 の HI 観測からの図を使った。

 サジタリウス腕 

 サジタリウス腕は銀河中心から見て 120° 以上に渡り、巨大複合体で はっきりとなぞられている。腕内には 17 個の複合体が認められる。全体の 質量は 28 × 106 Mo であり、複合体間の平均間隔は 1 kpc である。この間隔の大きさは多くの銀河で HIIR 間の規則的連なりに見られる 値(Elmegreen, Elmegreen 1983)である。サジタリウス腕の内側に認められる 1個か、もしかすると接近した2個、の腕から成る全体的な渦状構造は以前 HI(Burton,Shane 1970, Shane 1972), HIIR ( Georgelin, Georgelin 1976, Downes et al 1980) で見られた分布と似ている。

 分布の非対称性 

 図9に現れた驚くべき特徴は巨大複合体分布の非対称性である。R = 4 - 7 kpc の複合体の大部分は、図9のAで示されるあたりの近運動距離にある。 これらはおそらく雲が作る大規模バーを表しているのだろう。遠距離側に ある複合体の同定は困難であり、いくつかは未検出だったとしても、 サジタリウス腕が 14 kpc まではっきり辿れることを考えると、検出困難性 だけではこの非対称性を説明できない。Bok の "Finger of God" もはっきり 見えない。同様の非対称性は、HIIR Georgelin, Georgelin 1976, HI Shane 1972, CO Bania 1980 でも見られた。この非対称性が本当に存在するならば、対称性を仮定 して CO 光度とそれから導かれた分子ガス質量の見積もり、Cohen,Thaddeus 1977, Sanders, Solomon, Scoville 1984, は過大である。

図10=分子雲複合のパノラマ画 

 図10には分子雲複合のパノラマ画を閾値カットし、遠距離と近距離に分けた CO 強度空間分布を示す。
( 積分速度範囲は図3に図示されている。不自然に見えるのだが?)
 サジタリウス腕 

 サジタリウス腕上にはかなり規則的な間隔で複合体が並んでいるのが分かる。 腕の近距離側では M 17, M 16, W 44 が遠距離側の複合体にくらべ、角サイズが 大きく、銀経間隔も大きいことが分かる。遠距離側の複合体銀緯は太陽からの 距離と共に銀河面に接近していく。しかし、マップにはこの傾向に反する現象が l = 35° に現れている。これはおそらく SNR W 44 に付随する近傍複合体 [35, 44] に関連した高速流であろう。Dame 1983.
(理解できず。)


 銀河系内側部 

 サジタリウス腕の複合体と異なり、図10b に示す銀河系内側部の複合体は 密に詰め込まれ、配置も不規則である。その上、背景放射のレベルも高く、それは 高速成分マップ、特に終末速度付近の混み合いは著しく背景レベルを上げている。

 腕上か腕間か? 

 サンプルには遠方複合体にバイアスがかかっていて不完全であるが、腕間分子雲 に対して不利になってはいない。それどころか、腕間領域では各複合体の識別は より容易である。サンプル中の非常に多くが腕の上にあることから、複合体全体も 同じくらいの割で腕に属すると考えてよい。小さな分子雲も大部分は腕に載っている。 Cohen et al 1980 Cohen et al 1980, が注意したように、図1に現れているペルセウス腕と局所腕の間の空虚な隙間は 巨大雲の後には小さな雲が続く。

 なぜ、サジタリウス腕だけはっきり? 

 図9や図10a で分かるように、サジタリウス腕はマップ上にはっきりと表れる。 これは、分子雲複合のより完全なリストが完成すれば、渦状腕全体の姿が得られ ることを期待させる。実際、第4象限の CO データ(Cohen et al 1985)は、少なく ともカリーナ腕はサジタリウス腕と同じくらい明瞭になぞれ、おそらく サジタリウス腕とつながることを示した。





図10.分子雲複合体の空間マップ。(a) = サジタリウス腕の雲、(b) = 盾座 または 4 kpc 腕の雲。マップは速度積分の前に Ta < 2 K 以下をゼロにして 作った。積分の速度範囲はマップ個所により変化する。(a) ではサジタリウス腕の 運動に合わせて設定、(b) では混んでいる内側銀河で複合体を浮き上がらせる目的 で決める。マップの等高線間隔は 9.8 K km/s である。
 鳥瞰図は銀河面上太陽の 2 kpc 上空から俯瞰したものである。円の半径は 質量の 1/3 乗に比例する。銀河中心経度 0°, 45°, 90°, 135° 直線も描き込んだ。点線は図9の腕である。

( 積分速度範囲は図3に図示されている。 不自然に見えるのだが?)


 4.星間雲サンプルの完全度 

 サンプルのバイアス 

 表2は見かけ強度の明るい CO 源リストであり、第1象限の巨大分子雲の 完全でも公平なリストでもない。どちらかと言えば、表の天体数や質量分布は 内側銀河系での見かけ明るさ限界サンプルからの予想値に近い。そのような サンプルは勿論非常に大きな分子雲複合体にバイアスがかかる。巨大複合体 以外では、小さいが太陽に近い雲を含む。表2の天体の距離と質量が決まれば そこから大きなものだけを抜き出せる。

 雲の検出限界を定めるもの 

 表3には、Ntot = 既知雲質量分布と雲の総質量から計算した 太陽円の内側の雲の総数、 Nacc = そのような雲の l = [12, 60] 範囲での数、 Nexp = 検出限界 Smin の時、S > Smin の雲数、 Nobs = 実際に観測された数を載せた。 表3の数値の一致はサンプルが 見かけ明るさ制限のサンプルであることを示唆する。予想されるようにサンプルには 小さい雲の方が大きい雲より数が少ない。

 サンプルの完全度 

 サジタリウス腕では我々が検知したのより大きな雲が検出を逃れていること は考えにくい。105 Mo より大きい雲は 20 kpc 離れても容易に 検出されるであろう。

表3.分子雲のサンプル質量分布の比較。


 5.結論 

 巨大分子雲複合体 

 第1象限で最も目立つ CO 天体を選び、それらが ペルセウス腕 NGC 7538 と 同じくらいの非常に大きな分子雲複合体であることを確認した。その内で 最大のものは 106 Mo もあり、 105 Mo 程度の標準 的な分子雲、例えばオリオン雲、より一桁大きい。

 分子雲配置 

 最大クラスの分子雲複合体の配置は 21-cm, HIIR で既に明らかになっている 渦状腕に沿っている。サジタリウス腕の内側に一つ、もしかすると二つの 互いに接近した腕が見える。複合体が腕の内部に留まることは、 Cohen et al 1980, の結論、すなわち、CO l-v 図の腕構造は純粋に分子腕によるものであり、 Listz, Burton 1981 の言うような大規模流が原因ではないことを 示している。サジタリウス腕に見られる巨大分子雲複合体の比較的 等間隔の配置は、系外銀河で「糸に通したビーズ」として知られる HIIR の規則的な配置は分子雲の規則的配置によることを示唆する。
軸対称から外れている? 

 サジタリウス腕内側の複合体は大部分が運動近距離にある。これは この領域で、大規模構造が軸対称から外れていることを示す。これは、 軸対称を仮定して進められている電波、赤外、γ線の銀河系構造の 研究に重大な影響を持つ。

 多数はまだ未研究 

 M 17, W 44, W 51 などいくつかの複合体は非常に良く研究されているが 多くの複合体は詳細な研究を待っている。


 付録A:表2の個々の複合体 

 略号 

 以下、HIIR カタログは DWBW = Downes et al 1980, GG = Georgelin, Georgelin 1976 である。コロンビア CO サーベイは Dame, Thaddeus 1985 を指す。

[14, 20] = M 17 

 可視では暗黒雲として見える分子雲であり、 HIIR M 17 と連れている。この雲には M 17 の分光距離を採用した。

[14, 39] 

 近くに見える3つの HIIR l = 13.998, 14.600, 14.626 と連れていると考え、 近距離採用。低銀緯側の縁を b = 13.5 とした。その下の放射は W 33 近くの もっと広い速度巾を持つ別の雲からのように見える。それは表2には含めなかった。 分解能の低い図2では銀経の縁がはっきりしない。しかし、高分解能の図3、4 でははっきり見える。

 [ 17, 44 ] 

 角サイズが大きく、速度分散が小さいので近距離採用。

 [ 17, 22 ] = M 16 

 連れの星団 NGC 6611 への分光距離を採用。コロンビア広銀緯サーベイはこの雲 からの放射が今回の観測範囲 b = [-1,1]より銀緯ではみ出ていることを示す。雲 質量はこのはみ出し分を補正して 66 % 増しにした。

 [ 18, 48 ] 

 近くの HIIR l = 18.143, 18.185, 18.231, 18.258 (DWBW) と 可視 HIIR GG No10 と連れていると考え、近距離採用。

 [ 19, 65 ] = W 39 

 近くの HIIR l = 18.881, 18.936, 19.066, 19.614 (DWBW) と 連れている と考え、近距離採用。

 [ 20, 26 ] 

 近運動距離の近い星団 GG No11 と連れていると考え、分光距離採用。近くに HIIR l = 20.988 (DWBW) が存在し、他の HIIR l = 18.936 (DWBW) の連続光で この雲は v = 25.5 km/s H2CO 吸収線を示す。この雲は M16 - M17 複合と 連れているらしい。

 [ 20, 42 ] 

 雲の近くにある HIIR l = 19.608, 20.074 (DWBW) と連れていると考え近距離 採用。その銀緯 -0.75 が高いので近距離と考えた。もし遠距離とすると 銀河面から 200 pc も下となってしまう。

 [ 22, 53 ] 

 HIIR l = 22.982, 22.760 (DWBW) の連続光に対し v = 55 km/s に H2CO 吸収 が見える。これらの HIIR の遠運動距離はこの雲の遠運動距離より近いので、 この雲は近運動距離にある。この雲は SNR Kes 69 (l = 21.8, b = -0.6) に 付随しているかも知れない。

 [23, 78N] と [23, 78F] = W 41 

 この構造は多分近距離(N)と遠距離(Fにある)二つの大きな雲が重なっている。 遠距離側にある HIIR l = 22.760, 22.947, 22.982, 23.524 (DWBW) は遠距離に 非常に巨大で活発な星形成雲が存在することを示唆する。l = 23.421 (DWBW) 遠距離 HIIR 連続光にある強い H2CO 81 km/s 吸収は近距離にもかなり大きな雲が 存在することを意味する。これはどちらの雲も巨大であることを示唆し、そこで、 放射を双方に等しく分けることにした。ここが込み合うのは、 Cohen et al 1980, にあるように、(l, v) 図上で遠い側の盾座腕と近い側の 4 kpc 腕が交差する 箇所だからである。
(しかし、Cohen et al 1980 図2を 見るとそうはなっていない。??)


 [24,98] 

 HIIR l = 23.43 との近さから、近距離とした。多数の HIIR がこの方向にある。 いくつかの雲が 4 kpc 腕接線方向に並んでいるのかも知れない。

 [24, 98] 

 HIIR l = 23.43 (Lockman 1979, GG)と近いので近距離採用。この方向に多数の HIIR が存在するが、全て終端速度に近く距離の分離は難しい。この構造は 4 kpc 腕の接点付近に存在する複数の雲の重なりの結果かも知れない。

 [25, 55N] と [25, 55F] 

 全速度を積分した空間強度マップでは [25, 55F] ははっきりしないが、 速度帯を 遠距離 HIIR W42 l = 25.382 (DWBW) 付近に制限すると、この構造 ははっきりと表れる。その CO 光度は l = [25, 25.5], b = [0.125, 0.875], v = [50, 62] km/s の放射から得た。残り 75 % の CO 放射は [25, 55N] に 帰属させた。

 [25, 55] 

 [23, 78] と同様に、近距離雲と遠距離雲の重なりが予想される。なぜなら、 Cohen et al 1980,   の (l, v)図上で、盾座腕の手前側とサジタリウス腕の向こう側とが交差する からである。

 [29, 80] 

 この大きな複合体は付随する HIIR がない点で異常である。近くにある多数の HIIR の 4 つではこの雲による H2CO 吸収線が検出された。したがって、 この雲は近距離である。

 [29, 52] 

 l = 29.944 (DWBW) の連続光に H2CO 吸収線が検出されているので、近距離。

 [31, 95] 

  l = 30.776, 31.400 (DWBW) の連続光に H2CO 吸収線が検出されているので、 近距離。この方向には多数の HIIR が検出されるがその多くは端末速度に近く、 距離が決めにくい。したがって、この構造は盾座腕の接点近くに並ぶ複数の 雲の重なり合いかも知れない。
 [31, 48] 

 HIIR l = 30.776, 31.401 (DWBW) と近いので遠距離を採用。速度巾が大きく、 銀河面に張り付いていることも遠距離を支持する。

 [35, 44] = W 44 

 雲の近くにある HIIR l = 34.254, 35.063, 35.194, 35.346, 35.603, 35.663 (DWBW) と連れていると考え近距離採用。v = [50, 65] km/s 成分のどのくらいを この雲に付与するかによって、雲の質量は 50 % 過大評価されている可能性がある。

 [36, 57] 

 HIIR l = 37.439, 37.538 (DWBW) と近いので遠距離を採用。二つの HIIR は 雲の高銀緯端に位置する。S 72 は l = 36.4, v = 57.4 (GG) で銀河面の下 3° にある。これは近距離 HIIR で [36, 57] と繋がりはないであろう。低分解能の 図2ではこの雲は W 44 と区別できない。しかし、図4のように分解能を上げると はっきり分離して見え、図10a にあるように銀緯ももっと銀河面寄りである。

 [37, 82] 

 この構造は図2b 上で同定された他の構造と比べ、長い糸状の形で区別される。 また付録Bにあるように、この構造は背景差引を行うと消えてしまう。以前から 21-cm ではこの場所に腕間の支脈があるのではないかと議論されていた。[37,82] は明らかにその CO 版である。Dame 1983 はこの構造を鷲座支脈(Aquila Spur) と名付けた。(l, v) 図では向こう側渦状腕の支脈とすると自然につながるので 遠距離を採用した。銀緯が低いのもそれを支持する。

 [39, 32] 

 コロンビア広銀緯サーベイではこの雲は b = 3° より上まで広がる。 従ってこの天体は近距離に違いない。[41, 37] も似た銀緯にあり、関連する と思われる。

 [39, 42] 

 図10a の閾値処理をした絵ではこの雲は小さい。これは弱くて広がった構造 だからである。広がりの大きさと銀緯がやや高いことから近距離と考える。 大体同じ距離にある大きな雲 [39, 32], [41, 37] とつながるのかも知れない。

 [40, 59] 

 HIIR l = 37.763, 37.871 (DWBW) と近いので遠距離とする。それらの HIIR は銀緯と速度は雲と一致するが、銀経は少しずれている。雲はその両側にある 遠距離雲 [36, 57], [42, 63] と同じくらいに銀河面から下にずれ、その広がり も似ている。

 [41, 37] 

 コロンビア広銀緯サーベイではこの雲は銀緯 3° より上にはみ出ている。 したがってこれは近距離天体であろう。はみ出た分の補正として質量は 64 % 増やした。

 [42, 63] 

 距離は不確定であるが、図10a の空間マップで [44, 60] と [46, 59] と同じくらいの銀緯に並んでいるので遠距離を採用した。HIIR l = 42.108 (DWBW) の連続光上に H2CO 吸収が見られないのもそれを支持する。

 [44, 60] 

 雲の高銀経端にある HIIR l = 45.125 (DWBW) から遠距離とする。角サイズ、 速度の広がり、銀緯、輝度の点でこの雲は [46, 59] と似る。

 [46, 59] 

 HIIR l = 45.125, 45.451, 45.475 (DWBW) と近いので遠距離とする。ただし、 HIIR 45.451 の運動距離に関して近距離とする説(Lockman 1979) もある。  それは当時 HI 吸収が検出されていなかったからであるが、後に DWBW では  v = 70 km/s にまで及ぶ吸収を検出している。

 [46, 25] 

 この雲は弱く広がった構造なので、図10a の閾値マップでは小さく見える。 しかし、実際には銀緯で 1.5° に広がる。この広がり角の大きさから近距離 が採用された。

 [49, 59] = W 51 

 HIIR l = 49.384, 49.437, 49.486 (DWBW) との近さから遠距離とした。 この天体と HIIR は広範に調べられている。VLBI による水メーザー固有運動 観測から D = 7±1.5 kpc が得られていて、遠運動距離の結果と合う。

 [50, 45] 

 距離は不確定である。HIIR l = 49.407 (DWBW) と連れているなら遠距離だが、 この HIIR は W 51 複合体に属しているのかも知れない。

 [52, 59] 

 速度は終端速度を超えている。位置を subcentral point とした。

 [53, 59] 

 見込み角が大きく、速度巾が小さいので近距離を採った。

 [56, 36] 

 終端速度から 10 km/s 以内にあるので、位置を subcentral point とした。 距離は不確かで 3 - 8 kpc である。


 付録B: 背景放射の差引 

 閾値法 (Clipping Method)

 Myers et al 1986 は雲の質量を評価するために、ここで扱っている複合体を 含むサンプルに対して閾値法を適用した。図5、10で分かるように閾値法は 巨大複合体を効果的に背景から識別する。しかし、背景のレベルが銀経、銀緯 で変化することを考慮していないという欠点があった。

 背景モデル法(本研究) 

 単純化のため、背景放射は銀河中心に対して対称であり、かつ CO の全体的な 放射の動径分布と同じ形であると仮定する。それには Dame 1983 が Cohen, Thaddeus 1977 モデルから決めた CO 動径分布の解析的表現を使う。さらに、 CO は光学的に薄く、速度分散は 8 km/s (< 104 Mo で典型的な値) と固定する。以上の仮定に基づき、背景の銀経、銀緯分布が計算され、観測値から 差し引かれた。得られた残差を図11に示す。背景レベルは雲間輻射が最大に除去 されるよう調整された。


図11.背景モデル法を観測(図3)に適用した残差。v > 20 km/s では 63 % が背景として除去された。
モデルの適度さ 

 背景モデル法は分子雲を抜き出すという目的には十分である。もっと複雑な、 例えば、背景雲が渦状腕に含まれている、というような仮定はパラメタ―数を 増加させ、データに渦状性を導入する危険がある。逆にもっと単純なモデル 例えば (l, v) 面で一様、は銀河面から (l, v)面への変換の性質を無視している。

 閾値法との比較 

 閾値法と背景モデル法とでは得られた雲の質量はファクター2の範囲で一致 している。両研究に共通な 33 の雲で比較すると、平均して M(閾値)/M(背景 モデル) = 1.9±0.9 であった。

 どっちがいい? 

 閾値法と背景モデル法とのどちらが優れているだろうか?今のところはっき りしない。12CO が光学的に厚いに拘わらず、CO 放射の積分が 柱密度の良い指標になっているという事実の原因が解明されていないので、 どっちと決めるのは早い。


図4.参考のため閾値法を再度載せた。


 付録C:雲質量分布の予言ーー>略