CN, TiO 吸収バンドに合わせた中間帯域フィルターを用い、炭素星と M 型星を 区別する方法を開発した。銀河系炭素星でこの技法を試した後、近傍銀河 M31, M33, NGC6822, IC1613, WLM を観測した。得られた C/M 比は銀河の絶対等級と良い相関 がある。これは絶対等級とメタル量の間に存在する関係を反映していると考えられる。 | LMCの大きな C.M 比は得られた関係に自然にフィットした。これはこの性質が LMC の銀河系ハロー内にあるという位置に起因するのではなく、内在性のもので あることを示唆する。特に、中間年齢成分が低光度、晩期型システムの一般的な 性質であるらしい。AGB 種族のより完全な サーベイは近傍銀河の星形成史の理解に貢献するだろう。炭素星光度関数の 距離指標としての有用性も論じる。 |
I.イントロ炭素星の探査にグリズムでは 0.5 Mpc までしか届かないし、混んだ箇所でも使 えない。このためCN, TiO 吸収バンドに合わせた中間帯域フィルターを用い、 炭素星と M 型星を区別する方法を開発した。II.方法フィルターこの方法は既に Aaronson et al 1984, Aaronson, Mould, Cook 1985 に 述べてある。図1には炭素星 UX Dra (C7,3) と M 型巨星 BS6146 (M6) の スペクトルを載せた。図には二つのフィルター位置、7750 A (Δλ=300A) と 8100 A (Δλ=350A)、 も示してある。これは基本的には Wing 1971 システムの幅広版である。炭素星に対しては "81" フィルターは CN 吸収を、"77" フィルターが連続光を測る。一方 M 型星では "81" フィルターは連続光を、"77" フィルターが TiO 吸収を測る。Nassau, Velghe 1964 も見よ。 ![]() 図1.炭素星と M 型星のスペクトル。フィルター帯域も示してある。 | 温度情報 その結果、"77-81" カラーは晩期型星の区別に役立つ。温度情報を得るために 広帯域測光も必要であることが判った。特に低温になると CN 吸収が増しても連続 光が赤くなるので相殺され、"77-81" カラーのみでは高温度星との区別がつかなくなる からである。このため V-I カラーを追加した。 銀河系炭素星 図2にはスペクトル型が既知の星をプロットした。差し込み枠は "77-81" カラーと山下の炭素量クラス、M型サブタイプとの関係を示す。 ![]() 図2.既知炭素星と M 型星の二色図。差し込み枠は "77-81" カラーと山下の 炭素量クラス、M型サブタイプとの関係を示す。V-I はクロンカズンズ システムである。 |
望遠鏡 観測はスチュワード天文台 2.3 m 望遠鏡 320x512 ピクセル CCD で 行われた。1.5'x2.5', 0.29"/pixel である。 |
観測対象 M31 は主軸に沿って R=7 kpc, 10 kpc 地点が選ばれた。それらは腕間と腕 領域である。NHC6822 は中心を挟んでバー上に2個所取った。IC1613 は中心 付近に並べた2個所である。WLM では中心に近い領域を選んだ。観測ログは 表1にある。 |
(V-I, 77-81) 二色図 図3は観測天体毎の (V-I, 77-81) 二色図である。完全性限界 MI = -4.4 までを載せた。分類が確かかどうかを確認するため Hale 5m 望遠鏡で分光観測を行った。図3のスペクトル型がその結果である。 分岐 図3を見ると V-I = 1.5 付近で分岐が起きるようだ。この付近では C, M, K 型星の区別が困難である。炭素星は M 型星より速く巨星枝から分離するようだ。 結局のところ炭素星の温度系列は K 型まで遡るから当然かもしれない。 (それはAGB星なのか? 変な気がする。) 一方 M3 より早期の M 型星は巨星枝のてっぺんに見つかった。これは TiO がまだ 弱いからである。 分類 (1) V-I=0 での赤色巨星枝の (78-81) カラーを決める。 (2)(78-81) でこれより 0.06 以上等青く、(V-I) で 1.5 以上を炭素星。 (3)装置(78-81) で 0.18(0.43) より大、(V-I) 1.6 以上を M3(M5)-星とする。 図3にはその区画が表示されている。NGC 6822 では赤化のためそれが 0.1 mag 上 げられている。M33 では赤色巨星枝からの分岐が早いので V-I 区画線を 0.1 等下げた。 ![]() 図3.(77-81, V-I) 二色図。MI < -4.4 の星のみを選んだ。 この等級は全天体での完全性が得られた値である。分光的にスペクトル型が判った 星は C, K, M, S というシンボルを使用した。破線=炭素星区画と M3< 区画。 矢印は赤化ベクトル。 WLM では赤化=0とした。 |
銀河毎に違う炭素星種族 図3を見ると5つの銀河が驚くほどに違う赤い星の種族を持つ事が判る。3つの 矮小不規則銀河 WLM, IC1613, NGC 6822 は多数の炭素星を有し、万機M 型星は ほんの少ししかいない。 M33 には炭素星があるが、 より多数の M 型星がいる。 M31 には沢山の M-型星があるが今回の観測では -4.4 mag までに観測領域では 各領域で1個づつしか見つかっていない。その原因は次に考察する。 腕間領域と腕領域 一方で、同じ銀河内では領域間の差は小さい。これは M31 に関して、 興味深い問題である。というのは、これは腕間領域と腕領域で、我々が 極端種族 I に影響されずに、古い円盤成分を測っていることを意味するか らである。 S 型星 もう一つ興味深いのは、図3の M-, C- 区域の間の中間領域に V-I > 2 の赤い星が幾つか見つかることである。それらは S 型星の候補であり、 実際 NGC 6822 では分光観測から S 型星が発見された。 赤化 図3の赤化ベクトルを見ると、C-, M- 分類には赤化の影響が小さい事が わかる。 ![]() 図3(続き) |
C/M3+ と C/M5+ 表2には C/M3+ と C/M5+ を載せている。IC 1613 と WLM で上限しか 載っていないのは M5+ 星が見つかっていないからである。比の不定性は 少数統計誤差から来る。7% 深さは測光誤差 7% までの統計であり、数が 増すのでこちらの方が信頼できるが後の議論では使わない。われわれの M31 値は Richer, Crabtree 1985 と一致する。表2の一番下には Blanco, McCarthy 1983 の C/M2+ を載せた。 MI = -4.4 MI = -4.4 だと炭素星光度巾の半分までしかカバーしない。 Blanco, McCarthy の結果は炭素星を完全に集めている。従ってその差が 比較の際にどう影響するか考慮する必要がある。同年代集団では、炭素星 が M-型星から進化したことを考えると C/M 比は限界等級に大きく影響 するはずである。しかし、今回のような銀河では様々な種族が混在しており 限界等級による効果は薄められているだろう。 (そうは思えないが。) ![]() 図4.(a) C/M5+, (b) C/M3+ と銀河絶対等級の関係。 |
M 矮星の混入の影響 M 矮星の混入の影響は Bahcall, Soneira 1980 モデルから評価した。NGC 6822 ではかなりの前景星が予想され、M 型星の 多くは矮星である可能性がある。表2ではその効果を補正した C/M 値を 括弧の中に与えた。他の銀河ではその影響は小さい。 C/M 比と銀河絶対等級の関係 図4には C/M 比を銀河絶対等級に対してプロットした。強い相関が 見られる。図5では同じ量を log(C/M) に直してプロットした。ここ では直線関係がよく現れてきた。特に、LMC と SMC が自然に関係 ラインの上に乗るようになった。これから LMC/SMC で見られた大きな C/M 関係は特殊なものでなく、さらに両銀河の星形成史は潮汐効果 よりは内的性質で主に決まっていると言えそうである。 楕円銀河は何処に? もう一つ面白いのは、矮小楕円銀河がこれらの図の何処に位置するのか という問題である。実際、どの矮小楕円銀河にも炭素星は見つかるが、 M3 より晩期型の M 型星は確認されていない。それらの中で最大の フォルナックスは 70 C 星と共に少なくとも数個の早期 M 型星を含んで いるらしい。従ってこれらの矮小楕円銀河は見出された C/M 系列に滑らかに 接続するようだ。 ![]() 図5.図4と同じだが、 log(C/M) を縦軸に取った。 |
メタル量と C/M 比の相関 図4,5の可能な説明として図6に酸素存在比を C/M に対してプロット した。ガスのメタル組成は絶対等級と相関するので驚くべきことではないが、 明瞭な相関が見える。低メタルになると、(1)巨星枝が色等級図上で左に 移り、同時に同じ温度でも TiO 吸収が弱まる。その結果、晩期 M 型星の 数が減る。(2)ドレッジアップで C と O の逆転が起きやすくなる。 どちらの効果が大きいのか? Blanco,McCarthy 1983 は LMC 11,000, SMC 2900 の炭素星があるとした。 この数はほぼ光度の比になっている。したがって、おそらく C/M の違いは M 型星の数の違いに起因するのではないか。炭素星のなりやすさはメタル量が ある値以下では変わらなくなるらしい。実際、Iben 1983 の計算によれば Z = 0.01 で既に一回のドレッジアップで M 型星から炭素星に変換してしまう。 矮小楕円銀河で炭素星の数の比率がメタル量に無関係になるのもこの仮説を 支持する。 しかし、年齢も しかし、メタル量が全て出ない事は、銀河系球状星団中で炭素星であろうが 無かろうが明るい AGB 星がないことから明らかである。年齢も 大事なファクターである。これに関連して、星の初期質量 Mi と 寿命の例を集めることが面白い。 炭素星年齢 炭素星は Mbol ≈ -4.5 to -6 mag で、これは年齢に直すと 1 - 10 Gyr( Mould, Aaronson 1982, Aaronson, Mould 1982 ), Mi = 1 - 2 Mo (Iben,Renzini 1983 Fig7) になる。 年齢の下限 (1 Gyr)=質量上限(2Mo) は Mbol = -6 より明るい炭素星 が知られていないことから付けられた。我々のサンプルした M 型星は炭素星 と同じ年齢分布を持つに違いないが、それより若い成分も含んでいるだろう。 というのは、AGB 星の理論限界 Mbol = -7 まで明るい M 型星が実際に存在 する Wood, Bessell, Fox 1983, からである。 Mi > 8 Mo で第1巨星枝上の M 型超巨星もまた存在するかも 知れない。しかし、 Reid, Mould 1984 の単純な進化モデルに従うと、 M > 5 Mo (年齢 < 0.1 Gyr) の星が RGB + AGB に寄与する可能性は 10 % 以下である。 マゼラン雲炭素星の意味 マゼラン雲における多数の炭素星の存在はしばしば 3 Gyr 以前に星形成 爆発が起きた証拠 (。Blanco, McCarthy 1983) とされていた。これは Butcher 1977 によってフィールド 主系列ターンオフの位置からも指摘されていた。しかし、我々の見解では 炭素星の数だけでは定常的な星形成より爆発的星形成を優位に置くのは無理が ある。特に、一定星形成史でマゼラン雲炭素星光度関数のピークが Mbol ∼ -5 にある事が再現できた (Iben, Renzini 1983 図9)のでなおさらである。 ただし、明るい炭素星がない事の謎は残る。これに関して、Aaronson, Mould 1985 は総光度に占める炭素星の寄与から判る事は、 1 Gyr より古い成分のたった 40 % が中間年齢種族であると述べている。 矮小銀河における炭素星の意味 矮小銀河における炭素星の全種族はまだ捉えていない。しかし、 図4,5からはこれらの銀河にはかなりの数の中間年齢種族が含まれ ているようだ。したがって、表2に見られるように、小質量銀河は 星形成の効率は低かったがそれでも過去のかなりの期間に渡って 星形成を行ってきたことがわかる。 |
![]() 図6.(C/M) 比と 酸素組成(HIIR)の関係。 矮小銀河の」メタル量と炭素星比 他の銀河における C/M 比の測定はそれらの系のメタル量の推定に役立つ。 ただし、それは中間年齢期のガス組成で現在の組成ではない事に注意せよ。 そうは言っても 5 Gyr 以前と今とで大きくは変わっていないだろう。 M33 と LMC M33 と LMC は同じくらいの光度を有し、 M33 の観測箇所でのメタル量 は LMC に近い。二つの銀河が大きく異なる形態タイプなのに拘らず C/M 比が近い事は驚きである。全体の銀河形態よりも局所的な条件の方が そこでの星形成史に対しては決定的なファクターなのであろうか? |
明るい AGB 星の欠落 図7に炭素星光度関数を示す。 NGC 6822 以外ではサンプル数が少ない ので統計的扱いに注意が必要である。しかし、光度関数は相互に似ており、 マゼラン雲のと似ている。重要なのは MI < -6 mag の 明るい炭素星が見つかっていないことである。最近、 Reid, Mould 1984 は LMC AGB 星の光度関数を作り、炭素星ばかりでなく、M-型星でも この欠落が生じている事を示した。この問題を解決する一つの方法は 星形成史や IMF をいじることである。しかし、より尤もらしい のは AGB 進化をマスロス、オーバーシューティングなどの検討により 考え直す事であろう。 将来 他の銀河の光度関数は比較に必要だがサンプル数が少なすぎる。しかし、 もっと完全なサーベイ (Reid, Mould 1985) ともし仮に AGB 先端進化 が独立に取り出せたら、詳細な規制が星形成に掛けられる。 |
![]() 図7.観測した炭素星光度関数。MI > -4.4 では不完全。 |