背景 過去10年間、銀河系に長軸半径 4.5 kpc, 位置角約 45 の長くて平たい バーが存在するという仮説を支持する証拠が集まってきた。このバーは 3軸バルジとは明らかに異なる構造体である。 目的 内側銀河系の減光を再解析して、二つの3軸楕円体またはバーが 銀河系内に存在する確実な証拠を得ることを目指す。 |
方法 レッドクランプを銀河系構造の追跡体に使用して、内側銀河系の形状を 決定する。UKIDSS の深くて高空間分解能の観測から、星の混み合いが 大きい銀河面の最内側部まで調べることが出来た。 結果 OKIDSS の結果は以前の研究でレッドクランプを用いて得られた結果を 確認するものであった。銀河面上には二つの構造が共存していた。 一つは位置角 23.60°±2.19° で銀河中心から、l = 10 まで 伸びている。これはバルジである。もう一つは位置角 42.44°± 2.14° で l = 28 で終わっている。これはロングバーである。 |
GPS DR3 Lucas et al 2007 のレシピ―で UKIDSS データベースから l = [30, -0.5], b = [-0.5, 0.5] データを 1° 角四方単位で採ってきた。 |
限界等級 名目上の は J = 19.77, H = 19.00, K = 18.05 である。しかし、 l < 20 の銀河面 では J = 18, H = 17, K = 16 になる。 |
![]() 図1.SKY 減光モデルを使った巨星種族の理論的軌跡の利用例。 K0III と M0III, 二つの軌跡の間に挟まれた星はレッドクランプ星と考えられる。この図の場合、 (K, J-K) = (12.8, 1.8) にあるコブは視線方向に存在する細い構造を表す。 ( この図は K = 14 - 16 に下からの大きな 混入がある。間違えた構造を導かないか?) レッドクランプ星の抽出 Cabrera et al. (2007) は Wainscoat et al 1992 の SKY 減光モデルを用いて、巨星種族の色等級図 上での理論軌跡を導いた。それらの軌跡を用いて、矮星を除去し、図1に示す ように、レッドクランプ星を抽出した。 距離指数 距離指数は以下の式で定義される。
AKs/E(J-Ks) = 0.68 (Rieke, Lebofski 1985), MK = -1.62±0.03 (Alves 2000) を採用する。 距離指数 m の分布 距離指数 m の分布を以下の式でフィットする。
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3.2.測光不完全性の影響![]() 図2.(l, b) = (10, 0) におけるレッドクランプ星分布の比較。 アステリスク= TCN-CAIN。黒点= UKIDSS。双方、最大値で規格化 した。 縦線はそれぞれの限界等級。TCN-CAIN の測光は浅いため、 限界線が分布ピークに近すぎ、暗い部分の表現が不完全になる。 TCS-CAIN サーベイの結果 Cabrera et al. (2007) は TCS-CAIN サーベイを用いて l = [30, -30] データを解析した。その測光 は 2MASS より 1 - 2 mag 深い。しかしそれでも l = [-15, +15] の銀河面 を調べるには不十分である。彼らは |l| = [15, 30] では銀河面、 l = [5, -5] では銀河面外しデータを組み合わせて用いた。解析から、 銀河系最内側部に厚い構造=バルジとより大きい薄い構造=ロングバーが l = 27 まで伸びていることを明らかにした。 データの比較 この論文では彼らの手法を用いて、 UKIDSS 銀河面データを解析する。 図2には二つのデータセットを比べた。UKIDSS の方が深いことが明らかであるが、 重なる部分では同じ密度分布を出していることも注意すべきである。 |
![]() 表1=コブ位置と巾 表1には UKIDSS データから 銀河面沿い Δl = 1 間隔の、 Δl = Δb = 0.5 正方形領域 の星を用いたコブ位置と巾を示す。 図3=距離指数分布の例1.最内側 図3には銀河面上の5点における距離指数の分布を示す。全ての地点でコブ の存在は明らかである。コブ距離が銀経に従って変化すること、コブ幅が l = 27 で増大することに注意せよ。幾つかの点ではデータの不完全さのためフィットが 怪しい。l ≤ 1 の最内側では減光補正等級が浅すぎて、コブに届かない。 また、 l = 2, 3 の場合ピーク位置が限界等級に近いのでフィットの確実さが 保証されない。図3に l = 3 の場合を示す。なので、 l ≤ 3 の結果は以下 の議論では使わない。 例2.l = 23, 24 l = 23, 24 ではコブが見えない。これは強い減光のためである。 Benjamin et al. (2005) の図1を見ても分かるが、この方向の減光は非常に強い。下の図4には l = 24 と l = 25 の CMD を比較した。すぐにわかるのは星の数の差である。また、 l = 25 では赤色巨星枝の構造が (J-K, K) = (2, 13) から (4.5, 14) へ伸び ているのがはっきり分かるが、これは l = 24 にも現れている。ただしこっち では (4, 14) に現れているが。明らかに 2 mag 深い観測が必要である。 (何のことか? 図で見ても分からない。 ) |
![]() 図3.銀河面内5領域での距離指数分布の例。ヒストグラム区間巾= 0.2 mag. 太線=フィット。破線=減光補正後の限界等級。 |
![]() 図4.上:l = 24 と下: l = 25 の CMD の比較。l = 24 では減光が強いために コブ構造に達していない。 |
図5:l = 10 で点列の角度に変化 図5には銀河面 X-Y 面上にレッドクランプのコブをプロットした。 l = 10 で点列に大きな変化が現れている。l < 10 では点列の傾き角は3軸 バルジとよく一致する。その軸角は 23.6±2.2 である。しかし、 l > 10 ではその角度は 42.4±2.1 に変わる。l > 28 では明白な コブは見られない。 コブ位置の乱れ l = 17, 19 のコブはロングバーから推定される場所から遠く離れた所に位置する。 表1を見るとそこはコブの巾が大きく、減光の強い方向であることが判る。この 方向には、G19.6-0.2 のような大きな星形成域がある。いずれにせよ、 Picaud et al. (2003) が l = 20, 21 について述べているように、密度超過は幾分か非一様である。 軸角の不定性 注意すべきはレッドクランプフィットで決めた距離は視線方向の密度極大とは 同じでないことである。 Lopez-Corredoira et al. (2007), Cabrera Lavers et al. (2007), が述べているように、構造体の厚みが増すと軸角は実際の角度から離れていく。 ロングバーの場合は薄くて長いのでそのズレは小さい。バルジではズレの値が 10-18度に及ぶので注意が必要である。 ![]() 図5.銀河面 X-Y 上のレッドクランプコブ位置の分布。太陽は (0, 0), 銀河 中心は (0, 8kpc) である。図には可能な二つの配置を示した。実線=バー角 45° と 破線=バー角 25° である。一点鎖線は R = 3 kpc と 4.5 kpc の二つの円を定義する。銀経 10 おきの視線方向も示す。 |
バルジの巾とバーの巾 距離指数分布に現れたコブの巾にも銀経依存性が現れる。図6を見よ。 l < 10 では幅が明らかに大きく、〈σ〉 = 0.75 である。 l < 10 での σ分布標準偏差は 0.128 である。l > 10 ではこれが、 〈σ〉 = 0.496 で、標準偏差は 0.098 となる。図6のデータを 直線フィットすると、 σ = 0.64 - 0.004 l となる。 Lopez-Corredoira et al. (2007), はロングバーの半巾値 0.6 kpc を得たが、図6とほぼ一致する。 バルジ領域ではロングバー分離は無理 レッドクランプ星の数もバルジ領域では増加する。l < 10 の星数表面 密度は平均して l > 10 の3倍である。これは3軸バルジ領域ではロング バー成分を分離して取り出すことが不可能であることを意味する。 |
![]() 図6.レッドクランプコブの巾の銀経による変化。 |
Cabrera Lavers et al. (2007)との比較 図7には TCN-CAIN を用いた Cabrera Lavers et al. (2007), の結果を図5と較べた。明らかに両者は一致する。 ![]() 図7.図5と同じだが、Cabrera-Labers et al 2007 の銀河面外データから の結果も取り入れた。 |
TCN-CAIN と UKIDSS の測光を比べると、ΔJ = 0.015 mag, ΔH = 0.167 mag の違いがある。K バンドでの違いが大きいのは使用フィルターの差によるものである。 距離指数で 0.05 mag の違いは実距離で 150 pc の誤差である。 ![]() 図8.この研究で得た距離指数と 、Cabrera-Labers et al 2007 の 同じ領域に対する距離指数との比較。実線=1:1の場合。使用した K- フィルターの違いによる 0.05 mag のずれがある。 |
レッドクランプが暗くなる影響 Groenewegen 2008 によるレッドクランプ星絶対等級の再計算はこの研究で 使用した値 MK = -1.62±0.03 と少し異なる値を与えた。 彼はヒッパルコスで決めた絶対等級は明るい方にバイアスがかかっていると 指摘し、真の値は MK = -1.54±0.04 とした。この結論は 我々の距離指数に系統誤差 0.08 mag を付け加える。これは最も近い対象点 D = 5 kpc に対して 0.15 kpc, 最も遠い D = 6.7 - 7 kpc 点では 0.2 kpc の誤差となる。 しかし、図9を見ると分かるように、全体のスケールが縮むだけなので 大きな影響はない。 ( Ro 固定で、バーは中心通過とすると そうはいかない。 ) 軸角の変化 Ro = 8 kpc を固定すると軸角は、ロングバーに対して 39.97±2.22, 3軸バルジに対して20.93±2.61 に変化する。 |
![]() 図9.図5と同じだが、絶対等級 MK = -1.54 を仮定した。 |
二つの構造 UKIDSS データを用い、銀河面内側 4 kpc 領域に二つの構造が存在することを 見出した。一つは l < 10 の巾厚の構造で軸角=23、l = 10 -28 では 軸角 42の構造が見出された。 |
銀河にも この3軸バルジ+ロングバーの構造は銀河にも見出される。 |