New Models for the Evolution of post-AGB Stars and Central Stars of Planetary Nebulae


Miller Bertolami
2015 AA 588,




 アブストラクト 

 現在使用されている post-AGB 進化モデルは古い物理を使用しており、互い に矛盾している。色々な星系での CSPNe = PN 中心星と post-AGB 星の観測は モデル予想と大きな違いを示す。主系列から白色矮星までの進化のグリッドを 計算した。 Mi = 0.4 - 4 Mo, Z = 0.02, 0.01, 0.001, 0.0001 である。 その結果、post-AGB 水素燃焼のタイムスケールを M = 0.5 - 0.8 Mo について 調べることが出来た。  古いモデルに比べ、今回の post-AGB タイムスケールは古いモデルの 3 - 10 倍短く、メタル依存性が小さいことが分かった。また、新しいモデルは古いモ デルより 0.1 - 0.3 dex 明るい。この短いタイムスケールは最近バルジ CSPNe から求められた post-AGB タイムスケールと整合する。新しいモデルが予想する より少数の post-AGB, CSPN 星の数はこれまでの矛盾の解消に役立つ。また それは、post-AGB 通過時間、Mf/Mi 比も異なり、星震学や分光学から予想され てきた低質量 CSPNe 形成の理解にも役立つ。


 1.イントロダクション 

 二つのタイムスケール 

 PNe の形成と観測可能性には二つのタイムスケールが関係する。1= CSPN 進化のタイムスケールと、2=ガス膨張のタイムスケールである。1が速すぎ ると、電離期間が短すぎ検出されない。もし長すぎると電離開始前にガスが散 逸してしまう。

 post-AGB モデルには TP-AGB モデルが必要 

 ここでは post-AGB と CSPN 期の進化を追う。post-AGB 進化の速度は高水 素外層が WD 外層質量に減少するまでの時間で決まる。 TP-AGB を離れる際に、 高水素外層の質量が小さいほど、光度が高いほど、星風が強いほど、進化は 速くなる。そして、post-AGB 光度や外層質量は TP-AGB 進化で決まる。 従って、 psot-AGB のモデル化にはそれ以前のモデルが必要なのである。

 二つの post-AGB 進化グリッド 

 現在存在する二つの post-AGB 進化グリッドは、 Vassiliadis, Wood (1993) の AGB モデルに基づいた、 Vassiliadis, Wood (1994) Blocker (1995) の AGB モデルに基づいた Blocker 1995 の post-AGB モデルグリッドである。 それらは低質量星では Schonberner 1983 のモデルで補われている。

 PNe の利用法 

(a)TP-AGB 期の核合成の情報 
(b)銀河内のメタル量勾配 
(c)星形成史 
(d)光度関数を 20 Mpc までの距離指標に使う。 
 二つのタイムスケール 

(a) 動力学タイムスケール=AGB 星風の速度

(b) CSPNe の進化タイムスケール
  短いと電離期間が短期になる。長いと電離前にガスが散逸。

ここでは、 post-AGB から CSPNe にかけてのフル進化計算を示す。 post-AGB 期間は高水素外層が白色矮星の外層量まで減少する時間で決まる。 それは TP-AGB を離れる際の高水素外層質量、光度、星風強度に依存する。 したがって、 TP-AGB モデルが重要である。

 過去のモデル 

 (a) 先に述べた post-AGB モデルは進化タイムスケールに関し、互いに一致 しない。(b) 白色矮星質量はどちらのモデルも進化速度が遅すぎることを示す。 (c) 銀河の PNe 光度関数が一定光度で切断されるかをモデルが説明できない。 (d) 最新の物理を取り入れた、狭い質量範囲の post-AGB 進化、(Kitsikis 2008, Weiss, Ferguson 2009) の結果は現存グリッドと大きく異なる。(e) 現在の モデルで使われているオパシティ(Cox,Steward 1970) は 45 年前のもので、 OPAL(Iglesias, Rogers 1996) や Opacity Project(Seaton 2007) による 改訂が必要である。(f) 核反応率、状態方程式、熱伝導率、ニュートリノ放射 率も 80 年代あるいはそれ以前の値が使われている。(g) Herwig et al 1997 は低光度炭素星の存在は熱パルス期の形式的な対流境界を越える付加対流を 必要とすることを示した。(h) Marigo (2002) は炭素星の有効温度を出すには C/O 変化に応じたオパシティを使用する必要がある ことを示した。有効温度はマスロス率に効くのでこれは重要な問題である。 これらの改善点は AGB 進化に関しては既に取り込まれている。 Weiss, Ferguson 2009, Cristallo et al 2009, Ventura, Marigo 2010, Karakas 2010, Lugaro et al 2012, Constantino et al 2014, Doherty et al 2015. しかし、 post-AGB 進化モデルではまだである。この論文はその穴を 埋める。


 2.入力物理 

 LPCODE = 計算コード 

 進化計算コード LPCODE は白色矮星の形成と進化の解決に用いられ、最近で は主系列から巨星までの進化も扱えるようになった。

 2.1.微視物理 

 核反応ネットワーク 

 オパシティ 

 高温オパシティは OPAL を採用した。熱伝導率は Cassisi et al 2007 から 取った。低温分子オパシティは C/O 比変化を考慮した。計算には Nc/No に関し 線形内挿式を用いたので Marigo et al 2013 のような精度は出ていない。
 状態方程式 

 主系列期の状態方程式は OPAL EOS (Rogers et al 1996) を用いた。 白色矮星初期の低密度状態方程式は Magni, Mazzitelli 1979 から、 高密度になってからは Segretain et al を用いた。

 ニュートリノ放射 

 ニュートリノ放射は Itoh et al 1996 を用いた。

 外側境界条件 

 外側境界条件は単純なエディントン灰色大気 T(τ) 関係を使用した。


 2.2.巨視物理 

 対流層と非対流層との間の混合と星風は恒星進化の2大不確定問題である。 Weiss, Heners 2013 にこの問題のよいレビューがある。

 2.2.1.星風 

 レイマーズの式の改訂 

 Schroder, Cuntz 2005, 2007 はレイマーズの式を再解釈して、その背後に ある物理を考察した。その結果、星風式にさらに二つのファクターが加わる こととなった。Girardi et al 2010 と Rosenfield et al 2014 はこの新しい 定式化が predust AGB 星風を以前より上手く記述することを示した。この 新しい式は、
dM/dt =8 10-14 (L/Lo)(R/Ro) ( Teff ) 3.5 ( 1+ go )
Mo/yr (M/Mo) 4000 K 4300g


 マスロス 

 Groenewegen et al 1998, 2002 の式を採用する。

   log (dM/dt) = -9 + 0.0032*P (O-リッチ)

   log (dM/dt) = -16.54 + 4.08*P (C-リッチ)

周期 P は Ostile, Cox (1986) の次の式から求める。

   log P = -1.92 - 0.73 log M + 1.86 log R

この式は、log R ≥ 2.5, M = [1,10] Mo では Wood 1990 の与えた P = P(M, R) 関係式に 10 % 以内で一致する。
 マスロス上限 

   (dM/dt)Limit = L/(v*c)

 輻射駆動マスロス 

 Pauldrach et al 2004 の式を採用する。

  dM/dt = 9.778 10-15 L1.674 (Z/Zo)2/3

 マスロス区分 

(1) 予想される P < 100 d の時は、クラマースの式。

(2) P > 100 d の時は、クラマースかグロエネウェーゲンか大きい方。

(3) CSPN 期は輻射駆動式。

(4) AGB と CSPN の中間は、はっきりしない。

 post-AGB 期のマスロス 

  Schonberner, Steffen (2007) は post-AGB 星の SED フィットから、AGB 型星風が T = 5000 - 6000 K まで 持続すると主張した。我々は log Teff = 3.8 から 4.1 までは内挿を採用する。

  log(dM/dt) = x log(dM/dt)AGB + (1-x) log(dM/dt)CSPN

ここに x = (log Teff - 3.8)/0.3 である。
(logTeff = 3.8 の前は AGB 星風ということか。 しかしそのメカニズムをどう考えるか? 別の話だが、 P(M,R) は不安定帯と関係なく適用すると、脈動が起こら ないところでもマスロスを起こしてしまわないか?)


 2.2.2.対流ミクシング 

 ミックシングレングスセオリー 

 太陽で較正した結果、α = 1.825 を採用した。

 CBM = 対流境界混合 

 CBM = 対流境界混合の扱いは、速度場が指数関数型に減衰する仮定で Freytag et al 1996 の拡散係数 Dov を採用した。

  Dov = Do exp(-2z/fHP)

ここに、Do = vαHP は対流境界付近での拡散係数、 HP = 圧力スケール高、z = 形式的な対流境界からの高さ、 f = フリーパラメター。 対流境界混合(CBM)領域の広がりは Dov が Dcut-off = 10-10Do になるまでとした。この値は ゆっくりした進化段階では重要である。この領域内では混合は完全とする。

 対流境界の場所 

 我々のモデルでは対流境界の場所は、(i) コア水素燃焼の対流核境界 fCHB, (ii) コアヘリウム燃焼の対流核境界 fCHeB, (iii) 外層対流層の下側 fCE, (iv) 熱パルス駆動対流層境界 fPDCZ である。

 H 燃焼核対流層の f はいくつ? 

 一般には上部主系列星のモデル計算の際、対流核を 0.2 HP 広げると観測に合うことが知られている。我々の Dcut-off に関しては、Mi > M2 では fCHB = 0.0174 とし、それより下では Mi に対し線形に落ちて Mi = M1 でゼロとする。表1を 見よ。 合う結果が得られる

表1.主系列の対流核における対流境界の取り扱いに使用する M1 と M2 の値。 fCHB = 0.0174 (Mi-M1)/(M2-M1).

 He 燃焼核対流層の f はいくつ? 

 He 燃焼核対流層の f はさらに不確実になる。他の値を選ぶ強い理由がない ので、全ての星に対し fCHB = 0.0174 とする。

 fCE と fPDCZ 

 特に重要なのは、熱パルスにおける CBM である。CBM なしの低質量 AGB 星 モデルではサードドレッジアップ (3DUP) が起きないかとても非効率である。 しかし、これは低質量 AGB において炭素星比率 Nc/No > 1 であるという 観測と矛盾する。また熱パルス駆動対流層の底では、 CBM は post-AGB 星 PG 1159 星の O-存在量を説明するために必要である。 (Herwig et al.1999) fCE と fPDCZ の値は、 s-元素の量と 初期最終質量関係(白色矮星)を観測と合わせるために調整される。 我々は fCE = 0 と fPDCZ = 0.0075 を採用する。



表2.ZAMS から TP-AGB までの進化の特性

 3.ZAMS から AGB までの進化 

 AGB 進化モデル 

 表2に Zo = 0.02, 0.01, 0.001, 0.0001, Mi = [0.8, 4] Mo の範囲から 27 系列の MS 開始から TP-AGB 終了までの結果を示す。Mf = [0.5, 0.85] Mo であった。Weiss, Fewrguson 2009 に従い、

   Y = 0.245 + 2 Zo

とした。主系列、赤色巨星、 He 核燃焼期の寿命はそれぞれ τMS, τRGB, τHeCB とする。通常寿命は Mi が小さ いほど、Zo が大きいほど長くなる。表2の第4列には He 核に火が付くのが He 核フラッシュ (HeCF) = "yes" か違う "no" かを示す。第5列を見ると、Zo = 0.02, 0.01 では Mi = 2 Mo 付近で τHeCB が最長になることが 分かる。低メタルではもう少し低質量にピークが移る。それより低質量星では τHeCB ∼ 0.1 Gyr の一定値となる。 ヘリウムフラッシュを起こす縮退核質量は一定であることがその原因である。 一方高質量側では縮退から非縮退へ移る際にヘリウム核質量が減少し、その後 は増大していく。Mi と共に He コアが小さくなるので、τHeCB は短くなっていく。He 核燃焼の終了から熱パルス開始までの早期 AGB 期間 τeAGB の期間は He 核燃焼後に残された He 質量の大きさにも 影響される。同じ理由で、第1熱パルス開始時の水素欠乏核質量は Mi と共に はっきりした極小を示す。表2の第7列を見よ。これが非常に効率的な第3 ドレッジアップが Mi < 2.5 Mo で強調された初期最終質量関係の強調され たプラトーを示す理由である。

 炭素星の形成 

 過去20年間 TP-AGB は多くの研究の対象であった。ここでは詳細を省くが、 post-AGB 星は水素欠乏核の性質と外層の CNO 量に影響される。 非常に効率的な第3ドレッジアップの結果、一定質量以上の星は TP-AGB 期に C-リッチになる。その下限質量は Mi = 1.5 Mo(Zo=0.02), 1.25 Mo(Zo=0.01), 1 Mo(Zo=0.001), 0.85 Mo(Zo=0.0001) である。図1は我々のモデルが作る炭素 星が LMC, SMC の球状星団の観測から推定される炭素星の質量範囲にあること を示す。Mi ≤ 1.25 Mo では第3ドレッジアップがないために炭素星が形成 されず、 Mi > 3 Mo でもできない。

 炭素星のマスロスは急増 

 AGB 星が炭素星になると C-リッチ分子のオパシティのために表面温度が低下 する。半径が大きくなる結果、炭素星のマスロスは急増し、炭素星形成後は数 回の熱パルスの間で水素外層が失われ、AGB を離れる。

図1.Zo = 0.01 と 0.001 の C-リッチ、O-リッチ AGB 星の寿命。LMC(上)と SMC(下)の観測結果を Girardi,Marigo 2007 のモデルと比較。我々の計算では Mbol < -3.6 を O-リッチとすると Girardi,Marigo 2007 の結果と合う。これ が表2の τTP-AGB が図1と合わない理由である。



図2.銀河系円盤 AGB, post-AGB 星の炭素、酸素存在量。上線は Zo = 0.02. 下線は Zo = 0.01。 青線=強い第3 ドレッジアップを経験した星の経路。黒線=第3ドレッジアップをあまり経験 しない星の経路。赤線= 4 Mo(Zo=0.02) 星で第3ドレッジアップとホット ボトム燃焼を経験した星の経路。log εX = log (NX/NH) + 12.

 モデル炭素星を観測と比較すると 

 炭素星が数回の熱パルスしか経過しないことは図2に見られる PNe の C/O データとも合致する。もし、炭素星が多数回の熱パルスを経過するなら PNe の C/O 比はもっと高い値にまで分布するだろう。つまり、C 量に関しては我々の モデルが TP-AGB から離れるのはちょうど正しい時期であったということである。 さらに我々のモデルは図2に示すように、 M-, C-型星の C/O 比( Lambert et al.(1986), Smith, Lambert (1990) )および、post-AGB 星の C/O 比をも正しく反映する。

 初期最終質量関係 (IFMR)によるチェック 

 第3ドレッジアップは、初期最終質量関係 (IFMR) とコアマス光度関係を 決める。どちらも post-AGB 進化のタイムスケールを決める。図3に示す我々 の IFMR は観測から得られたものとよく合う。これは、我々の post-AGB は 適切な初期質量の星から進化したものであることを意味する。Weiss, Ferguson 2009 や Miller 2015 のように、外層対流層底部での対流境界混合を強くした モデルは Mi = 3 Mo 付近で小さすぎる Mf を与えるので適切でない。

 モデルはインターシェル層の組成と合う 

 我々のモデルは図4に示すように、PG1159 星 ( Werner, Herwig (2006) )の観測から求まったインターシェル層の組成とよく合っている。これは重要 な結果である。なぜなら、 PG1159 星から決まる AGB インターシェル組成は fPDCZ に制限を与えるほぼ唯一の手段だからである。fPDCZ はヘリウムフラッシュの強さとそれに続く 3DUP に影響する。図4を見ると、 fPDCZ = 0.0075 は PG1159 星の O 量を再現することが分かる。

図3.このモデルとMiller15 モデルの初期最終質量関係を星団観測から定めた Salaris et al 2009 と Gesicki et al 2014 の半経験的関係と比較。




図4.post-AGB 星の He, C, O インターシェル組成。モデルと PG1159 タイプ 星観測結果との比較。高 log g 星の大部分は重力安定構造への経過中で高い He 量は元々のインターシェル組成を表さないかも知れない。



図5.上:Zo = 0.02 モデルの初期最終質量関係の比較。 下:λ = 3 Mo Zo 0.02 モデルでの第3ドレッジアップ効率係数の比較。

 他のモデルとの比較 

 図 1 - 4 の結果は、TAGB 期の水素欠乏核の成長と炭素汚染に関する AGB と post-AGB 星の観測から我々の post-AGB 星モデルは正しい出発点にある と言えることを確証している。図5の上図は我々の初期最終質量関係を他の最新 モデルと比較したものである。これを見ると、我々の結果が他の計算と合って いることがわかる。図5下図は Mi = 3 Mo, Z=0.02 ケースに対し、3DUP 効率 λ を Mcore の関数として示したものである。この場合も我々のモデル は他のモデルの散らばりの範囲内に収まる。この散らばりは主に、境界混合過程 の扱いの差に起因し、モデルの不確定要因となっている。

図6.TP-AGB 終了時の C/O 比の予想値の比較。

  C/O 比の予想も他モデルと合う 

 図6では我々の post-AGB モデルでの C/O 比を、他のモデルでの AGB 進化 最終端での C/O 比と比べた。図6上で分かるように、我々の C/O 比は Weiss, Ferguson 2009 と Cristallo et al. 2011 のソーラーと近い。例外は Mi = 1.5 Mo (Zo=0.02) モデルで我々はこれに高い C/O 比を与えている。これは、 TP-AGB の最終末期に熱パルスが起き、小さい外層質量でドレッジアップされた  C を希釈したので C/H が上がったのである。


 4.Post-AGB 進化 

 4.1.結果の記述 

 post-AGB 進化の概略 

 AGB からの離脱は定常星風が水素外層の質量を下げるからである(Schonberner 1979). 結果として、この遷移は穏やかに進行し、このため post-AGB の開始 = AGB の終わり、を明確に定義するのは難しい。図7に、有効温度と外層質量 の関係を Zo = 0.001 の場合に対して示す。外層質量がコア質量と同じくらいに なると(Menv/Mstar = 0.5 - 0.1) モデルは外層質量の減少と共に青方向に動き 出す。最初は外層質量が大きく減少しても有効温度の変化は小さい。この状態は 外層質量が白色矮星外層質量の数倍になるまで続く。この点を過ぎると、外層 質量の小さな変化は有効温度の大きな変化に跳ね返る。 大部分のモデル計算では初期の進化のゆっくりした期間に AGB 領域から離れる。 その結果、 AGB の終わりに対する自然な定義は存在しない。 我々は post-AGB の開始を Menv/Mstar = 0.01 と決めた。この時点でモデルは 既にかなり青くなっている。この定義は AGB 終末を一様な基準で決めており、 AGB からの離脱に関する物理的なメカニズムとも合致する。
(AGB から post-AGB への遷移時期に 脈動がどうなっているか一切考慮していないようだ。L と M だけでマスロスを 決めて、それで外層質量を変えて進化させているらしいが、そこでマスロスが 起きるかどうか、脈動周期はどうなるのか、等の検討をモデルで詳しくしてい るのかどうか不明。観測的に押さえるべきか? )


 二つのタイムスケール 

 図8には、色々な質量とメタル量に対して、HR 図上の進化を示した。 post-AGB と CSPNe 期進化計算では、通常二つのタイムスケール τtr と τcross を定義する。 τtr は初期 post-AGB 進化の期間で、AGB 的星風が吹き、Teff は Menv にあまり依存しない。一方、τcross は後半 post-AGB 進化タイムスケールで、初期 post-AGB 進化の末期から有効温度最高点まで、 強い Teff - Menv 関係が成立する。我々の計算では log Teff = 3.85 付近で 速い post-AGB 進化が始まる。その上その温度あたりからは、星風は進化速度 決定に二義的な役割しか果たさない。このため、この第2進化期のタイムスケ ールは第1期より信頼できる。post-AGB タイムスケールを τtr と τcross に分けると、 τcross が有用で信頼度の高い物理量となる。 τcross は第1期の post-AGB 星風の知識が不安定なことや、 AGB 期の終末が不明確であることに影響されない。

  τtr は Menv = 0.01 Mstar から log Teff = 3.85 まで。

  τcross は log Teff = 3.85 から有効温度最高点まで。

と定義する。

 第2期の開始は? 

  Vassilidis, Wood (1994), Weiss, Ferguson 2009 は log Teff = 4.0 を境界とした。一方、 Blocker (1995) は、脈動周期 P = 50 d を遷移期の終端とした。
(脈動を計算しているんだ! )
そこが彼の post-AGB 進化出発点 である。この定義は HE 図上では log Teff = 3.78 - 3.90 に対応する。 それらのどの定義を採用しても τcross は大体同じである。

図7.上:水素燃焼星として AGB を離れた Zo 0.001 星の HR 図。 下:同じ星の log Teff と 水素外層質量 Menv の関係。赤丸: Menv/Mstar= 0.01 の位置で, この論文では post-AGB 期の入り口とした。

 タイムスケールが星質量に強く影響される 

 図8と表3には、水素燃焼 post-AGB 星の進化と性質をまとめた。 強調したいのは、post-AGB タイムスケールが星質量に極めて強く影響される ことである。高質量 ≥ 0.7 Mo では HR 図を横切るのに数百年しかかから ず、光度が二けた下がるのに数千年しか要しない。一方 0.55 Mo では、 横切るのに一万年、光度が一桁下がるのに十万年かかる。この時間はメタル量 にあまり依らない。





図8.水素燃焼型 post-AGB 星の HR 図。経路は Menv/Mstar = 0.01 から L = 1 Lo まで。そこでは、重力調整が post-AGB から DA-WD へと変えるのだが、今 回の計算にはそこは含まれていない。赤線は、log Teff = 3.85 を原点とした 等時線。Zo = 0.001, 0.0001 図の薄い灰色線:Mi = 0.8 Mo 星のヘリウム燃焼型 post-AGB 系列。図10の Mf=0.4971 Mo と 0.5183 Mo モデルに対応。




表3.水素燃焼系列の post-AGB 星の性質。


図9.HR 図横断タイムスケール。先行研究との比較のため log Teff = 4.0 から最高有効温度までの期間を取った。 VW94 = Vassilidis, Wood (1994), B95 = Blocker (1995), S83 = Schonberner 1983, WF09 = Weiss, Ferguson 2009. 大きな丸=今回の 計算と WF09 の結果が他より著しく小さなタイムスケールを与えている。 また、 Mf = 0.58 Mo での突然の落下はそれ以前の進化モデルの違いに原因を 辿れることが分かった。

 Mf = 0.58 Mo タイムスケールジャンプ 

 Mf = 0.58 Mo にはタイムスケールのジャンプが見られる。これは以前の進化 でヘリウムコアフラッシュを起こしたかどうかがその後の進化に影響した結果 である。それらは似た値の最終質量で終わるが、 AGB に入るときには異なる 大きさの水素欠乏コア質量を持つ。その結果、AGB 期の長さも、コアの温度 分布、組成分布は異なる。それが 3DUP に反映され、遷移の高質量側では 光度が高く、水素外層の質量は小さい。その結果、Mf ≥ 0.58 Mo では タイムスケールが急落するのである。

 τtr 

 表3によると Mf = 0.53 から 0,58 Mo にかけて、τtr は 急速に縮小し、その後は緩やかな低下を示す。τtr は AGB 期 をどう定義するか、星風の強度がどのくらいかに強く影響される。それら を考慮すると、 Mf = 0.53 Mo で τtr = 2000 - 7000 年、 Mf > 0.7 Mo で τtr = 500 - 1000 年程度であろう。

 水素燃焼 

 AGB 離脱時の熱パルス位相を調整する努力はされていない。しかし当然なが ら、post-AGB モデル系列は水素燃焼型となった。非常に低質量、低メタル量 の 0.8 Mo, Zo=0.001, 0.0001 モデルのみはヘリウム燃焼モデルで AGB を離 れた。また、1.5 Mo, Zo0.001 モデルは LTP = 遅れた熱パルスを経ることと なった。1.25, 2 Mo Zo0.02 の2モデルは VLTP = 非常に遅れた熱パルスを 起こしている。

 ヘリウム燃焼 post-AGB 進化 

 図10には、計算された3つの ヘリウム燃焼 post-AGB 進化経路に対し、 log Teff と log L の時間変化を示す。 Mf 0.4971 Mo(Mi0.8Mo, Z0.001)=ヘリウム燃焼モデルの τcross = 487 kyr, Mf 0.5183 Mo(Mi0.8Mo, Z0.0001)=ヘリウム燃焼モデルの τcross = 334 kyr で、水素燃焼系列、例えば Mi=1Mo, Mf=0.53Mo に対する τcross = 20 - 60 kyr に比べ ると一桁長い。ただし、インターパルス期と同様にヘリウム燃焼星でもヘリウ ム光度が水素光度を上回るのは、図10に示すように、最初の 100 kyr で残 りは水素燃焼である。post-AGB 期の水素再点火は Teff の一時的低下を引き 起こす。

図10.TP-AGB と post-AGB 期における、上= Teff と下= L の時間変化。 時間のゼロ点は log Teff = 3.85 に取った。表示のために青線(mi=1.5Mo) は時間を十倍に拡大して示している。Mi 0.8 Mo の二つはヘリウム燃焼 post-AGB, Mi 1.5 Mo は LTP 星である。

 LTP, VLTP 

外層部の水素量が非常に低い場合、Mi=1.5Mo, Z=0.001 の LTP が そうだが、全 post-AGB 期を通じてヘリウム燃焼を維持する。その時の 表面組成は [H/He/V/N/O/Ne] = [0.036/0.504/0.353/5.8 10-4/ 0.075/0.029] である。この低水素量は3DUPによる希釈効果のせいである。 この星の τcross = 12.4 kyr は同じ質量の水素燃焼星で 3.4 - 2.1 kyr なので随分長い。 非常に低マスの post-AGB 星ではまた複数回のフラッシュを経験する。


 4.2.他のモデルとの比較 


図11.Post-AGB 質量光度関係の比較。新しいモデルは log L で 0.1 - 0.3 明るい。

 post-AGB タイムスケールが短くなった 

 我々の研究の主な結果は、新しいモデルによる post-AGB タイムスケール τcross が以前の Vassilidis, Wood (1994), Blocker (1995), に比べ10倍も短いことである。 我々の結果は Weiss, Ferguson 2009 とは一致する。我々と彼らは異なる進化 コードを使っているが、入れた物理は最新である点で共通する。新しいモデルは 図11に見るように、大部分の Mf に対し、log L で 0.1 - 0.3 明るい。

 星風は進化に効かない 

 水素燃焼 post-AGB 進化の速度は水素外層質量の減少速度で決まる。光度最高 でメタル量も多い、 Mi 4 Mo, Zo 0,02 ケースを除いて、post-AGB 星風は二義 的な役割を占めるに過ぎない。post-AGB 期では ΔMenvwinds/ ΔMenvtotal = 0.15 - 0.35 程度である。

 外層が小さく、明るいので速い 

 今回の計算でのコアマス光度関係は図11に示すようにこれまで採用されて いたものと大きく異なる。この違いはまた TP-AGB 離脱時に水素外層質量を変える ことになる。

図12.図9と同じ τcross の比較だが、こちらは最初の Miller15 と比べている。これは同じコードを使い、同じ物理が入っているが、 TP-AGB 進化の際の仮定が異なる。これは 3DUP の扱いの違いが post-AGB 進化に影響する例の一つである。Miller15 モデルは Weiss,Ferguson2009 と より一致が良い。これは両者が TP-AGB モデルで非常に効率の良い対流境界 混合を仮定しているからである。

新しいモデルでは、星は前のモデルより明るく、かつより小さな 水素外層を持って TP-AGB を離れる。その結果、進化速度が速まるのである。 その上、3DUP の効率が高いので、水素外層の高炭素化も進み、 IFMR も変わる。

  f の大きさで調整 

 対流境界混合効率 f の大きさは post-AGB 進化速度に大きな影響を持つ。 実際、Weiss, Ferguson 2009 は我々より大きな fCE = fPDCZ = 0.016 を TP-AGB 計算で採用して、我々よりさらに早い進化速度を得ている。 図12にそれを示す。ただし、f を上げると、Mi に対する Mf が小さくなり過ぎる。 これが我々があまり大きな f を採用しなかった理由である。


 5.議論 

 バルジ 

Gesicki et al. (2014) はバルジの WDs と CSPNe の質量分布ピークから、 Blocker 1995 の post-AGB 進化は約3倍速くなる必要があると指摘した。 我々の進化速度はそのくらいに速く、Gesicki et al 2014 の観測的見積もりに 合致する。

 球状星団の PNe  

 我々の進化が速くて明るい post-AGB モデルは惑星状星雲の形成にも大きな 変更を迫る。Schonberner 1983 の低質量モデルは、今なお Blocker 1995 モデルを補足するのに使われるが、横断時間が、0.546 Mo で 340 kyr, 0.565 Mo で 20 kyr である。我々の水素燃焼系列では、横断時間がそれより 3.5 - 15 倍速い。この差は Vassilidis, Wood (1994), の場合はさらに大きい。惑星状星雲を作るには中心星は数万年以下で進化する 必要がある。このため、古いモデルでは 0.55 Mo 以下の post-AGB 星は PNe を作れないとされていた。Bond 2015. 新しいモデルはまた、球状星団で 惑星状星雲が作れるか (Jacoby et al 2013) という問題に影響する。我々の 水素燃焼 post-AGB モデルは球状星団に対応する 9 - 12 Gyr で、 τcross = 25 - 70 kyr、5 - 7 Gyr で τcross = 5 - 10 kyr を与える。タイムスケールは Weiss, Ferguson 2009, Miller 2015 ではさらに短くなる。したがってこの短い post-AGB 期間は孤立星は球状星団では PNe を作れないという考えに疑問を 呈する。

 ハローの post-AGB 星 

  Weston et al. (2010) はハローの post-AGB 星を調べた。しかし、観測された post-AGB 星の数が少なく、単に進化速度だけで調節しようとすると、 Weiss, Ferguson 2009 よりさらに速い進化が要求される。我々のモデルは彼らよりゆ っくりであるから、我々のモデルではこの矛盾を解決できない。
 M 32 の post-AGB 星 

 M 32 はほぼソーラーのメタル量を持ち、その種族は 2 - 5 Gyr の中間年齢 が質量の 40 %, > 5 Gyr の古い種族が 55 % を占める。つまり、post-AGB 星の圧倒的大部分は Mi = 1 - 1.5 Mo ということである。 Brown et al (2008) は M 32 の post-AGB 星を調べた。彼らが使ったモデルは遅いが、我々と比べる と Mi = 1 Mo で 1.4 倍、Mi = 1.5 Mo で 2.6 倍遅いだけである。この差では 我々の新しいモデルでも見つかった post-AGB 星の数が少ない矛盾は解決しない。

 LMC 星団 

  Girardi, Marigo (2007) はマゼラン星団から、M, C 星の寿命を調べた。彼らの結果によると、C,M 星の 寿命は我々の予想より数倍長い。特にメタルの多い LMC 星団では、我々の モデルは M 星も C 星も観測値の 1/4 の寿命を予言している。C 星に関しては マスロスを過大に評価したためかも知れないが、 M 星に関してはこの方法では 上手く行かない。M 星の寿命は 3DUP 強度で決まる。それが炭素星になるまでの 熱パルスの回数を決めるのである。ところが既に、表面対流層の境界での fce = 0 になっているから、ドレッジアップ効率を下げるにはパルス駆動対流層の 対流境界混合=CBM を下げるしかない。しかし fPDCZ を下げると インターシェルの O 量を表す PG1159 星の観測に抵触する。こんなわけで、 何か別の混合過程を考えるか、 AGB になる前の進化を考え直すかする必要が あるかも知れない。


 6.結論 

 新しい成果 

 過去20年間の天体物理の成果を取り込んだモデルで、以前のモデルで解釈 できなかった現象も説明できるようになった。それらは、銀河系円盤 AGB, post-AGB 星の C/O 比、Lambert et al 1986, Smith, Lambert, 1990, Kingsburgh, Barlow 1994, Milanova, Kholtygrin 2009, Mello et al 2012, delgado-Inglada, Rodriguez 2014、それにマゼラン雲炭素星の質量範囲である。 さらに、新しい post-AGB モデルの IFMR と シェル間組成は、球状星団と PG1159 星から観測的に決めた結果と一致した。

 post-AGB 進化が速まった影響 

 新しい post-AGB 進化の速度は古いモデルに比べ 3 - 10 倍速い。また 0.1 - 0.3 dex 明るい。速い進化は Gesicki et al 2014 のバルジ CSPNe の観測結果 とよく合い、我々の計算が正しいことが支持された。古いモデルとの差の原因は TP-AGB 期における 3DUP の扱いの差にまで遡ることが分かった。新しいモデル グリッドは CSPNE の研究に大きな影響を持つ。理論サイドでは、もっと速い進化 は PNe の形成と進化に重大な影響を及ぼす。PNe 進化の輻射動力学シミレーシ ョンが期待される。post-AGB 進化が速まった結果、従来言われてきた、孤立星 進化は球状星団に PNe を形成できない、という考えに疑問が突き付けられた。 また、コアマス光度関係が明るい方にシフトした結果、従来与えられてきた、 光度から決めた psot-AGB 星質量も変更の必要がある。
 post-AGB 星数の問題 

 我々のモデルは M 32, 銀河系ハロー内の post-AGB 星の検出数がモデルから の予測を下回るという矛盾を和らげる。しかし、その完全な解消はまだ難しい。

 未解決の問題 

(1)マゼラン雲星団から決まった M-, C- 星の数を定量的に再現できない。 前の節で述べた通り、現在の対流境界混合の枠内で観測される AGB, post-AGB 星の制限を満足させられるかどうか怪しい。

(2)モデルでは TP-AGB とその後のモデルで定常的な星風を仮定している。 しかし、 TP-AGB の最後に不安定が発生するという根拠 Wagenhuber, Weiss 1994b, Lau et al 2012, がある。もし、外層が全て吹き 飛んで post-AGB 星ができるなら、post-AGB 星の外層質量は今回のモデル が予想するより小さなものになる。

 データ 

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