The Elemental Abundances in Pre Planetary Nebula Central Stars and the Shell Burning in AGB Stars


Werner, Herwig
2006 PASP 118, 183 - 204




 アブストラクト 

 スペクトル型=[WC] と PG1159 型で極度に高温、かつ水素欠乏の post-AGB 星の観測的性質をまとめて解説する。その水素欠乏性はおそらく非常に遅れた ヘリウムシェルフラッシュまたは AGB 最終熱パルスが、通常は水素層の下に 隠されている星の内層をさらけ出した結果であろう。  これらの星の光球元素組成は、前駆 AGB 星内の核反応と混合の詳細を明らかにする。 AGB 進化と遅れたヘリウムシェルフラッシュを計算するモデルをまとめ、予想される 元素分布をスペクトル解析の結果と比べる。


 1.イントロダクション 

 標準進化経路 

 1 - 8 Mo 星は C/O コアを持つ WD として終わる。8 - 12 Mo 星はスーパー AGB 星となり、 ONeMg WD となる。標準進化モデルでは、この間、ドレッジ アップで汚されるとはいえ水素外層が保たれる。そのような進化の例を図1に示す。

 PG1159 星の発見 

 数十年前、大質量ウォルフライエ星と非常によく似て強いヘリウム、炭素輝線 のスペクトル(スペクトル型 [WC])を示す惑星状星雲中心星 (CSPNs) が発見され た。これは水素欠乏の post-AGB 星の存在を示す(Heap 1975)。 その後、パロマー・グリーンサーベイは新しい水素欠乏 post-AGB 星のグループ、 PG1159 星、を明らかにした。それらは高電離の He, C, O 吸収線が支配的な スペクトルが特徴である。Wesemael et al 1985. 現在では PG1159 星は、 ウォルフライエ型 CSPNs の後継子孫であると考えられている。それらの多くは ヘリウム大気を持つ WD = non-DA 白色矮星、へと進化するのであろう。

 ボーンアゲイン AGB 星 

 [WC] と PG1159 星の水素欠乏の起源はおそらく遅れたヘリウムシェル フラッシュ=post-AGB 星または WD でヘリウム殻燃焼に火が点き、星を AGB に 戻したことであろう。この「ボーンアゲイン AGB 星」は恒星進化モデルの早い 時期に、藤本 1977, Schonberner 1979 により提唱され、後に Iben et al.1983, Herwig et al. 1999 により、水素欠乏型高温 post-AGB 星を説明するのに使わ れた。図1に点線でそのような例を一つ示す。
 殻間層(インターシェルレイヤー) 

 ボーンアゲイン AGB 星の遅れたヘリウムフラッシュは外層を完全に混合する。 外層の水素は燃焼しつくされ、表面の組成は、以前あった水素燃焼殻とヘリウム 燃焼殻の間=殻間層(インターシェルレイヤー)の He/C/O が支配的な組成に 変わった。

 第3ドレッジアップ汚染 

 通常の高水素 AGB, post-AGB 星では殻間物質が第3ドレッジアップで表面まで 巻き上げられ、光球を 3α 生成物の C, O, Ne と s-過程元素で汚染する。 AGB 星の s-過程元素の研究は燃焼と混合の詳細を調べる上で最も重要な課題で ある。それらは AGB 星からの放出元素の割合に影響し、銀河系の化学進化を 駆動する。

 殻間物質組成は直接検証 

 それに反し、[WC] と PG1159 星の組成は殻間物質である。これは殻間質量が 水素外層よりずっと大きく、遅れたシェルフラッシュによる二つの層の混合組成 を支配するからである。これらの水素欠乏 post-AGB 星は殻間物質組成を直接 調べる貴重な機会を与える。





図1.2 Mo 星の進化。実線=水素が正常の post-AGB 星の標準的進化。破線 =同じ質量の星のボーンアゲイン進化。表示は見やすさのため ΔlogTeff = -0.2, ΔlogL = -0.5 ずらした。星印は PG 1159-35 の位置。

 2.定量的スペクトル解析 

 [WC] と PG1159 星はボーンアゲインシナリオで説明されるが、もちろんそれ 以外の説も提唱されている。それらも後に簡単に述べる。その他のタイプの水素 欠乏 post-AGB 星はボーンアゲイン機構では説明できない。それらは RCB 星、 極端ヘリウム B 星、高ヘリウム O 型準矮星、O(He) 中心星である。これらの グループはヘリウム量が圧倒的に多い。それに反し、[WC] と PG1159 星は C 量 が高いのが特徴である。  これら高ヘリウム星は星の合体で生まれた星なのかも 知れない。組成パターンの起源が不明なためにこれらは現在 AGB 進化の研究に は役立たない。表1にそれらの組成を示す。  PG1159 星の探索にはまず、古い進化した PNe の分光観測が使用され、続いて、 Palomar-Green サーベイ、Montreal-Cambridge-Tololo サーベイ、Humburg-Schmidt サーベイ、Humburg/ESO サーベイ、SDSS サーベイなどから暗くて青い星を探す 探査、ROSAT サーベイで検出されるソフトX-線源が調べられた。


 表1.水素欠乏 post-AGB 星の元素組成(質量比) 



 2.1.PG1159 星 


図2.水素欠乏高温 post-AGB 星の g-Teff 面上の位置。実線=Schonberner (1983), 破線=Blocker(1995).一点鎖線=Wood, Faulkner(1986), Herwig(2003) 数字は星質量。後の0.604 Mo 線(Herwig?) は非常に遅れた熱パルス後の最終 CSPN 経路であり、したがって水素欠乏星である。 しかし、図上の位置は主に AGB 期の進化の差による。

 2.1.1.スペクトル分類 

 PG1159 星の可視スペクトルは HeII と CIV の弱くて幅広の吸収線が特徴で ある。最高温度グループでは OVI と NeVII 線も見える。Werner 1992 は3つの サブ分類を提案した。それらは "A"(吸収線), "E"(輝線), "lgE"(低重力輝線) である。

 2.1.2.温度、重力、He/C/O 比とマスロス率 

 質量と光度 

 表2には PG1259 星のスペクトル解析結果を示す。図2には Teff と log g をプロットした。log g ≤ 6.5 で折れ曲がり前の星はまだ ヘリウム殻燃焼中である。モデル経路との比較から、質量と光度が推定される。 PG1159 星の平均質量は 0.62 Mo であった。ただ、これは古いモデルからの値で 新しいモデルを使うと質量はやや小さくなるだろう。

 観測可能性 

 HeII と CIV ラインから He/C 比が導かれる。また Teff ≥ 120,000 K でないと OVI 線は観測されない。それ以下の温度では UV スペクトルがないと O 量は出ない。Ne も同様である。水素線は全て He II 線と重なる。

図3.PG1159 星のヘリウム質量比と星質量の関係。




図4.PG1159 星における C/He と O/He 質量比の関係。

したが って、中分散 (1 A) スペクトルでは水素の質量比が 0.1 以上でないと水素線 は検出不能である。PG1159 星が PN 内にある場合は星雲のバルマー輝線がある ので観測はさらに難しい。

 C, O, Ne 存在比 

 元素の質量存在比は He = 0.30 - 0.85, C = 0.15 - 0.60, O = 0.02 - 0.20 である。He は 0.3 - 0.5 に集中し、数少ない星で 0.6 - 0.8 に伸びる。図3を 見よ。図4から分かるように O 比が高いのは C 比が高い星に限られる。


 表2.PG1159 星スペクトル解析の結果。 



 2.1.3.ハイブリッド PG1159 星 

 水素線は検出しにくいが 4 天体では明らかなバルマー線が検出された。それ らの水素比率は表1にあるように H = 0.17 と非常に高い。これらの星の組成は 水素を除いては他の PG1159 星と似ている。

 2.1.4.窒素と脈動不安定 

  幾つかの PG1159 星では窒素のラインが観測される。不思議なことに窒素 ラインの存在と脈動とは相関があるらしい・

 2.1.5.ネオン 

 ネオンは 10 個の PG1159 星で検出された。その組成比は 0.02 で太陽の 10 倍である。ただし、それらは高温でネオンを強く励起できる星に限られ、 低温 PG1159 星での組成は不明である。

 2.1.6.フッ素 

 FV と FVI 線が FUSE スペクトルに見つかった。組成比は太陽からその 250 倍にまで散らばる。星質量が産生率に影響するという研究があり、存在量に関 係があるのかも知れない。

 2.1.7.Si, P, S  

 幾つかの PG1159 星 FUSE スペクトルに Si, P, S ラインが見つかった。

 2.1.8.鉄の欠乏 

 あまり高温でない PG1159 星 Teff ≤ 140,000 K で FeVI と FeVII ラインが観測された。それより高温では鉄の電離が進み、 EUV 出なければ線が 現れない。現在のところ、PG1159 星では鉄のラインは検出されていない。しかし、 それはソーラーとは矛盾しない。

 2.1.9.未同定線 

 C, O ではないが、他の元素の高電離イオンのラインリストは完全でないので 不明。

 2.1.10.マスロスと超高電離線 

 PG1159 星可視スペクトルに星風の特徴はない。しかし、UV 分光では多くの 低重力中心星が CIV, OVI, HeII, OV, NeVII の P Cyg プロファイルを 示す。マスロス率は log (dM/dt) = -8.4,..., -6.9 である。 非常に明るい PG1159 星と多くの [WCE], [WC}-PG1159 遷移星では超高電離が 観測される。おそらく衝撃波であろう。



図5.黒丸=脈動 PG1159星。白丸=非脈動星。破線=不安定帯の青と赤境界。 実線=図2から採った 0.6 Mo post-AGB 星経路。

 2.1.11.特異星 H1504+65 

 可視スペクトルは PG1159 星によく似るが、この星はヘリウム欠乏で、大気 は主に C と O から構成されている。

 2.1.12.PG1159 星の行く末=DA, 非DA 白色矮星 

 最も冷たい PG1159 星は Teff = 75,000 K で、最も高温の白色矮星は 120,000 K である。この温度帯で、PG1159 星は重力調整を経て、残余水素があるかどうかで、 DA または 非DA 白色矮星へと移っていくに違いない。大部分の PG1159 星は まず、DO(HeII), 次にDB(HeI), DQ(炭素線) へと移っていくと考えたくなる。しかし それはまだ確認されていない。明らかにハイブリッド PG1159星は DA 白色矮星に なるだろう。しかし、それは原理的にはそれは他のすべての PG1159 星にも可能である。 なぜなら、H 量 0.01 までは現在の観測では排除できないからである。PG1159 外層に どのくらいの水素が残されているかで、様々な水素外層質量を持つ白色矮星が誕生する。 薄い H 外層をもつ DA 脈動性 AA Cet 星は PG1159 の子孫という説もある。

表3.PG1159 星と NGC1501 の [WC4] 中心星の星震学からの結果。

 2.1.13.星震学からの結果 

 振動質量と分光質量の一致 

 PG1159 星のいくつかは非動径 g モード脈動性であり、それらは GW Virginis (= PG1159-035) 不安定帯を定義する。図5を見よ。表3には星震学からの結果を まとめた。振動質量と分光質量の一致はよい。

 外層質量 

 重要なのは、周期間隔におけるモードトラッピング解析である。それから 内部構造が分かる。表3には外層質量=C-O コアとH-外層との境界より上の質量 が載せてある。それらの外層質量は、(非常に)遅い熱パルス直後に C-O コア より上に残されていた質量 0.02 Mo に比べ、著しく小さい。Gehrz et al 2005 による FG Sge のマスロス観測は、ボーンアゲイン星が長く引き伸ばされた期間 高いマスロスを維持することを示した。それにより、外層質量は星震学が与える ような小さい値にまで減少したのであろう。ただ、モードとラッピングは C-O コアで起きるという最近の説もある。

 「H-, He 毒薬現象」 

 以前は PG1159 星の C-O κ メカニズムがいわゆる 「H-, He 毒薬現象」 の影響を受けると考えられていた。しかし、新しいモデルではその影響は深刻では ないことが分かった。


 2.2.[WC] 中心星 

 [WC] 中心星スペクトル 

 [WC] 中心星は大質量の WC 星と非常によく似たスペクトルを示す。高いマス ロス log(dM/dt) = -7.0,... -4.9 の結果、それらは基本的に純粋な輝線スペ クトル、 He, C, O の明るく幅広な輝線である。

 2.2.1.[WC] 中心星の組成 

 [WC] 中心星は2つのサブグループ [WCL] と [WCE] に分かれる。図2を見よ。 [WCL] の C 量平均値は 0.50 であるが、 [WCE] はその半分である。ただし、 双方で使用するラインが違うので系統誤差の可能性もある。PG1159 星は [WC] 星の子孫と考えられる。

 2.2.2.[WC]-PG1159 遷移天体と弱い輝線星(WELS)

 二つの天体 Abell 30 と Abell 78 は輝線と吸収線が混在する。それらの He/C/N/O 組成は PG1159 と [WC] 星と似ている。しかし WELSs は [WC], PG1159 星とは違うらしい。

 2.2.3.WO と O VI 分類

 「O VI 系列」は Smith, Aller 1969 が最も高励起な恒星可視スペクトルを 呼んだ名前である。その特徴は O VI λλ3811,3834 二重輝線で ある。今日の用語ではそれらは [WCE], PG1159, [WC]-PG1159 遷移天体の最高 温度成分を指す。WO ("O"は酸素)クラスは Barlow, Hummer 1982 がウォルフ ライエ星の内、励起度が最高の星を呼んだ名前である。

 2.2.4.WN中心星はあるか?

 大質量 WN 星と似たスペクトルを示し、 C 輝線の代わりに N 輝線を示す星 が二つある。その一つ PM 5 では、これが周りにリングを持つ WN 星の可能性も ある。もう一つ LMC の N 66 は連星系にある WD かも知れない。


 2.3. ヘリウムが支配的な post-AGB 星=RCB、極端 He B, He-sdO, O(He) 星 

 O(Ne) 星 

 Mendez 1991 は ほとんど完全な He II 吸収線を示し Teff > 100,000 K の星 4つを O(He) 星と名付けた。その大気はほとんどが He で、それに僅かな量 の CNO が検出された。表1の元素組成を見よ。log g - Teff 図上それらは PG1159 星と同じ領域に分布する。しかし、ボーンアゲイン進化ではそのようにヘリウムが 支配的な大気は作れない。

 O(He) から RCB 星へ? 

 ボーンアゲインシナリオで説明できないなら、第3の post-AGB 進化シナリオ があるのではないか、と考えたくなる。 そのヘリウム量から O(He) 星は長らく探されてきた RCB 星の子孫なのかも 知れない。RVB 星は比較的低温 Teff < 10,000 K で、やはりヘリウム量が 非常に高い。
 He-B 星 

 He-B 星と He-sdO 星はやはりヘリウム量が高く、RCB から O(He) への遷移 天体かも知れない。

 進化のつながり? 

 これらの post-AGB 星の間の進化のつながりはまだよく調べる必要がある。 それらは二つの白色矮星の融合の結果なのかも知れない。


 2.4.歴史的な(非常に)遅いヘリウムシェルフラッシュ 

 実際に確認されたボーンアゲイン星 

 これまでに3つの星が実際にボーンアゲイン星として知られている。それらは、 FG Sge (Gonzalez et al 1998), V605 Aql(Clayton, De Marco 1997), V4334 Sgr (Sakurai's object, Duerbeck, Benetti 1996) である。重要な疑問 はボーンアゲイン進化は非常に遅れた熱パルス(VLTP) に続くものなのか、それ とも遅れた熱パルス (LTP)に続くのかということである。VLTP は post-AGB 進化の後期に起こり、水素燃焼も誘発して表面層の水素も食い尽くす。VLTP 星 の進化は二回のループが特徴で、最初の回帰は数年で一回りする急速な回転、 二回目は 100年程度かかる。LTP はもっと早期の post-AGB 経路が一定 光度で水平に進む期間に起こる。この場合、表面水素の欠乏は星が AGB 期 に戻った時のドレッジアップ混合の結果である。LTP 進化は単ループである。 その速度は VLTP の第2回ループに近い。

 V605 Aql 

 V605 Aql は 1917 に LTP を経験した (Lechner, Kimeswenger 2004) それはたった2年間しか明るくならず、その後3回の減光と増光を示した。 その後 V605 Aql はダスト雲に埋もれて消えた。1970 年初めにその位置が 惑星状星雲 Abell 58 と一致することが確認された。その後、 PN は小さく、 高速で水素欠乏の中心ノットを持ち、外側の星雲は水素量正常であることが 発見された。 1986 年に撮られたスペクトルには幅広な C IV 輝線が写ってお り、100,000 K の高温な [WC] 星が存在することが分かった。V605 Aql は既に 再高温化を開始し、高温の水素欠乏または水素なしの中心星になっている。 2002 年に撮られたスペクトルはこの星が [WCE] 星で Teff = 95,000 K であることを確認した。
 FG Sge  

 FG Sge の場合はそう単純でない。FG Sge は 1894 年に増光を開始し、それが 1970 年代中ごろまで続いた。その後光度は安定している。1960 年代には FG Sge は太陽組成であった。その後 1970 年代に希土類元素が表面に現れ、 1992 にこの星のダストによる強い減光を受けた。1990 年台には炭素と重元素 の量はさらに増加し、現在水素欠乏の証拠がある。 40 年前に太陽組成であり、 最近水素欠乏の証拠が出てきたという事実は、FG Sge が VLTP でなく、 LTP であるという有力な証拠である。なぜなら、 VLTP ボーンアゲイン星は第2ループ の間に既に水素欠乏となっていて、観測期間中ずっとそうであったはずだからで ある。ただし、 FG Sge が実際に水素欠乏かどうかに関しての疑問も呈されている。

 Sakurai's 天体 

 桜井天体は最も最近に観測されたボーンアゲイン星である。その VLTP は半 観測的に 1992 - 1994 と決められた。その Teff は 1996 年に 10,000 K 以下 に下がったがその時点で星は既に水素欠乏となっていた。そして、その後6か月 続いた分光観測期間の間表面組成は変化し続けた。H がさらに減少する一方で、 既に高かった Li は増加した。その上、 C, N, O 量が増加し、12C /13C と Fe/N 比は下がった。これらの観測の後、桜井天体は他の ボーンアゲイン天体と同様ダスト雲の中に消えていった。


 3.恒星進化 

 3.1.AGB 進化 

 3.1.1.熱パルス 

 中性子放射の効果 

 ヘリウム燃焼は12C を作るが、同時に α 捕獲反応が起きる。 特に、22Ne(α,n)25Mg 反応はパルス駆動対流層= PDCZ の底において中性子を放出する。その結果、多くの鉄より先の n-リッチ 元素(s-過程元素)が作られ、同時に56Fe が失われる。

 熱パルス 

 熱パルス時に He シェル上部層は膨張し、温度低下するため、水素燃焼は一時 停止する。100 年程度の後退(図6を見よ)の後、対流外層が下がって、PDCZ 内 にあった物質は混合されて表面に運ばれる。この第3ドレッジアップの最後に H 外層と12C にとんだシェル間層は直接触れ合う。そして、オーバー シューティングや内部重力波のような機構の結果、H と12C の両方を 含む薄い層が形成される。熱パルスの後、この層の収縮と高温化に伴い水素燃焼 が開始する。この過程の副産物として、H と12C から13C が作られる。詳細なモデルによると、13C ポケットでの13C (α,n)16O による中性子放射は s-過程で最も重要である。
 13C ポケット 

 H シェルが拡大すると、その内側には主に4He のコアが残される。 以前外層に含まれていた CNO は14N に変わっている。さらにそこ には外層からの新鮮な 56Fe が含まれている。 この燃えたばかりの 灰のすぐ下には先の熱パルスの産物である13C を含む薄い層が存在 する。この 13C ポケットの13C ピークのすぐ上に 14N を多く含む領域が存在することは、微分回転に誘導されるシア ミックシングとって極めて重要である。

 PDCZ 内の組成 

 その後の PDCZ 内の組成は、水素燃焼の灰、13C ポケットからの s-過程元素に富んだ物質、それに前回の PDCZ での核反応に晒された物質の 混合物である。

 3.1.2.対流超過混合と回転 






図6.内部構造の時間変化。実線=対流層境界。Herwig 2005 より。

 3.2.post-AGB 進化 

 外層質量が 10-2 Mo まで下がると、星は巨星構造から 白色矮星構造 (Schonberner 1979) に転移する。残っていた外層は収縮して、 星は一定光度で Teff ≥ 30,000 K まで進む。この時期の進化速度はマス ロス率に影響される。ついに、水素殻燃焼が停止し、光度 L と表面温度 Teff は下がり始める。その時点までに水素燃焼でできたヘリウム層の質量と密度が 十分に高ければ、ヘリウムシェルフラッシュを起こすことができる。このような post-AGB ヘリウムシェルフラッシュは星をボーンアゲイン進化で再び巨星と して生まれ変わらせる。Iben 1983. 驚くことに Iben 1983 はその時点で既に 二つのボーンアゲイン路線= VLTP と LTP を考えていた。我々はそれに加えて、 ボーンアゲイン進化なしに水素欠乏高温 post-AGB 星を作る AGB final thermal pulse = AFTP を考える。

 3.2.1.VLTP 

 原因 

 VLTP では、PDCZ=パルス駆動対流層(図6)は残った水素外層内に侵入していき、 水素摂取フラッシュ(hydrogen ingestion flush=HIF)を起こす。この HIF は post-AGB 進化の非常に晩期の白色矮星に収れんする過程で起きるヘリウムシェル フラッシュが原因である。その時には水素燃焼殻は停止しておりエントロピーの 壁は存在しない。  この熱パルスがいつ起きるかを決めるのは、星が AGB を離れるときの熱パルス 位相である。サイクルのあまりに早い時期に離脱が起きるとヘリウムフラッシュ は起きない。遅すぎると post-AGB 期の初期でまだ水素燃焼が活動している時に ヘリウムシェルフラッシュが起きる。これは LTP である。

 VLTP の進行 

 ヘリウムシェルフラッシュのピークに近づく頃に対流不安定が水素外層部に 及ぶ。その結果水素がパルス駆動対流層の基底に運ばれ、12C(p, γ)13N 反応が対流タイムスケールで進行する。そして、 水素燃焼による対流層とヘリウム燃焼対流層は小さな輻射層で隔てられる。
 桜井天体は予想と違った! 

VLTP モデルは成功したと思われていたが、桜井天体はそれを覆した。この天体は ヘリウムシェルフラッシュから巨星に移るまで2年しかかからなかった。しかし、 これまでの進化計算は全て一桁か二桁長い時間を予言していた。そこで、 Lawlor,MacDonald 2002 は二重ループの VLTP 経路を発表した。Herwig 2001 は 表面水素が深くて熱い層にあるヘリウムと 12C に混ざる速度が 高温の白色矮星寸前状態から巨星構造に戻るタイムスケールと関連することを 示した。これらの新しいモデルでは、核燃焼と時間依存の対流の取り扱い、各 元素ごとの拡散を同時に解いている。Herwig 2001 は混合速度をいろいろに変 えた計算を行った。取り込まれた水素の燃焼ピークは核反応と混合のタイムス ケールが同じになる箇所で起きる。混合速度を低下させると、混合タイムスケ ールが伸びて、核反応と混合のタイムスケールが等しくなる点が表面近くに 移る。0.604 Mo、Zo モデルでは、対流混合速度を 100 倍低下させると桜井天 体の速いボーンアゲイン進化を再現できる。

 新しい描像(HIF=水素取り込みフラッシュ) 

 現れてきたボーンアゲインシナリオは、 VLTP 進化は二つのフラッシュの 重なりで、それが HR 図上の二重ループに反映されるというものである。初め の高速ボーンアゲイン進化は取り込まれた水素フラッシュであり、第二のより ゆっくりしたループは混合過程と無関係に殻間層の基部で続くヘリウムシェル フラッシュが原因である。Althaus et al 2005 の計算は VLTP 現象が PG1159 星と DB, DQ 白色矮星の観測的性質に結び付くことを示した。Miller Bertolami et al 2006 は対流理論や平均分子量勾配を考慮して、混合速度の人為的変更 なしでも速い進化を起こせることを示した。

 3.2.2.VLTP 間の水素飲み込み混合について 



 3.2.3.遅れた熱パルス(LTP) と AGB 最終熱パルス 

 LTP = 遅れた熱パルス 

 post-AGB 早期の光度一定水平進化期にヘリウムシェルフラッシュが起きると、 ボーンアゲイン進化には HIF = 水素取り込みフラッシュが伴わない。 これは Blocker, Schonberner 1997, Blocker 2001 により LTP = 遅れた熱 パルスと呼ばれた。LTP では表面層の水素欠乏を引き起こすには至らないが、 巨星化に伴い表面対流層が発達して、ドレッジアップを引き起こすので、非常 に薄い 10-4 Mo の水素層が 10-4 Mo の殻間層と混じ り、水素を希釈する。Herwig 2001 の LTP モデルでは X(H) = 0.02 となる。  LTP は一回のループしか持たず、そのタイムスケールも百年くらいかかる。 HIF がないために組成進化も VLTP と異なり、Li 形成、14N 増加 は起きず、12C/13C は VLTP より大きい。ただ、詳細 な LTP モデルはまだない。

 AFTP = AGB 最終熱パルス 

 ボーンアゲインシナリオでは水素欠乏型の CSPNs = 惑星状星雲中心星は系 統的に年齢が古いはずである。しかし Gorny 2001 はそのようなことはないと した。これに対し、AFTP では長時間の第1 CSPN 期がない。AFTP では、まだ AGB 期の内に最後の熱パルスで水素欠乏に持っていく。最終 AGB TP の時に 外層質量が非常に小さいため、ドレッジアップによる希釈の結果水素量は大きく 落ちるのである。その直後に星は AGB から離れる。
 外層下限? 

 現在のドレッジアップモデルでは、必要な外層質量に下限がある。例えば、 Straniero et al 1997 はドレッジアップには最小で 0.5 Mo の外層が必要と 結論した。しかし、ドレッジアップモデルは混合パラメターの精密調整で悪名 高い難しい問題である。したがって、 AFTP に要求される小さな外層質量を 排除するものではないだろう。AFTP モデルでは PG1159 星や [WC]-CSPNs に 比べ、水素量が大きい「ハイブリッド」PG1159 星が自然に説明できる利点が ある。

 AFTP モデルの難点 

 AFTP モデルの難点は、熱パルス位相がゼロまたは非常に小さい時に AGB から 離脱するメカニズムがないことである。熱パルスがマスロスを増強し、 AGB 離脱 を促進するのかも知れない。


 3.2.4.HR 図上での post-AGB 進化 

 図7では、ボーンアゲイン現象のない正常な post-AGB 進化を AFTP 進化、 VLTP 進化と比べた。三つは同じ主系列モデルから出発して同じ進化を辿って、 TAGB モデルに到達した。AGB 離脱時の質量は 0.604 Mo である。

 3.3.表面組成 









図7.Mi = 2 Mo, M(postAGB) = 0.604 Mo の log g - log Teff 面上進化の 比較。


 4.理論と観測の比較 

 水素 

 VLTP モデルでは水素が取り込まれて完全に燃焼される。 LTP では水素外層 が殻間層と混合して X(H) = 0.02 まで希釈される。比較的 X(H) の高いハイブ リッド PG1159 星といくつかの [WC] 星 (大体 0.15)は AFTP で説明される。

 He/C/Ne 

 He/C/Ne は殻間層の主要構成元素である。その散らばりは星の質量と、それが 経過した熱パルスの数で大体説明される。しかし、いくつかの極端な存在比の 星は説明できていない。
 惑星または近接伴星 

 惑星または近接伴星が 1 - 2 AU にあると、AGB 膨張期に飲み込まれて、角 運動量を AGB 星大気に与える。そしてマスロスが増大して AGB 離脱を促す。 そのようなシナリオでは大気組成が変化する可能性がある。