シリーズ第1論文 Garzon et al. (1997) では、TMGS の l = 27 領域での分光観測の概略を示した。 この第2論文では、より詳細な解析を報告する。我々はこの領域の K < 5 星の 50 % 以上が光度クラス I であり、残りの大部分は非常に低温の巨星で 急速な進化の過程にあることを見出した。我々はこれをバー先端部における星形成 活動を観測していると解釈する。その原因は、バーが渦状腕とぶつかって多数の 衝撃波が集中するからであろう。そのような現象は棒銀河で観察されている。 | 反対側バー先端に当たる l = -22 でも分光等値巾解析を行うべきである。もし そこでも強い星形成が起きていることが確認できたら、それはバーの軸角が 75 付近であることを意味するので重要である。この角度は他の研究者が得た軸角と 異なる。我々はその原因は彼らがバーでなく3軸非対称バルジ成分を扱って いるせいだと考える。 |
第1論文、 Garzon et al. (1997) では TMGS (l, b) = (27, 0) 領域内の 60 星に対する分光観測の概略を 報告した。解析は Ca II 三重線を用いた光度クラスの決定が主である。 | この論文ではスペクトルを提示し、スペクトルのより詳細な上方を与え、 その解析結果を述べる。その結果、この領域が活発な星形成域であることを 支持する証拠が得られた。 |
(l, b) = (27, 0) 付近の K < 5 の 70 星の分光観測を INT を用いて 行った。内 10 星は可視対応星が見つからず排除した。表1と図1にそれらの 位置と特性を示す。 |
![]() 図1.観測星の位置。 |
TiO 混入のない場合 Diaz et al 1989 に従い、等値巾 W(λ) を以下のように定義する。
CaII 三重線の等値巾として EW = W(8542A) + W(8667A) (2) を採用する。 超巨星のスペクトル指標 Jones, Alloin, Jones (1984), Diaz et al 1989 はスペクトル型 F5 - M3 の星について、 CaII 3重線 EW と 光度クラスの関係を調べた。その結果、 EW がメタル量と有効温度にもある 程度は依存するが、表面重力の影響が最も大きいことを見出した。Diaz et al 1989 によると、その関係は、 log g = 7.75 - 0.65 EW (3) である。この式に寄れば、 EW > 9 A は log g < 1.75 の超巨星である。 Idiat et al 1997 は t > 1 Gyr の古い星では金属量、有効温度の影響が 無視できないことを示したが、超巨星は若いので影響が小さい。 CN (7916 - 7941 A) も超巨星に特有 (MacConnell, Wing, Costa 1992) で あるが、ノイズが高い。 TiO 混入のある場合 38/60 星では TiO が弱いので式2で EW を得た。残りの 22/60 星はより 晩期型で、 TiO バンドが Ca II 線に一部かぶる。図6c, d を見よ。この場合、 以下のようなラインの深さを用いる。
ここに、Ic(λ)は TiO の影響のない I(8432) と I(8844) の内挿値である。 吸収線の深さはスペクトル分解能に影響されるが、他の不確定性の方が大きい ので気にしない。 最も深いライン 8542 A を用いて測った Depth(8542A) と前の方法で決めた EW との関係を TiO の影響の少ない 38/60 星でプロッタしたのが図2である。 直線フィットした結果は、 EW = -0.1 + 17.8×Depth(8542A) (5) となる。 |
![]() 図2.式2を使って測った EW と式5で決めた EW の比較 高い超巨星比率 この式は大体良いが、サンプル中二つの星ではあまりに TiO が強く 光度クラスの決定は出来なかった。そこで、 58/60 星が解析された。 38 星は M3 より早期型で、20 星は M3 より晩期であった。 EW の 最終結果は Garzon et al. (1997) の図1に載せてある。驚くべきは 38/58 = 66 % という超巨星率の高さである。 |
スペクトル型の決定法 図6には 60 星のスペクトルを示した。スペクトル型は標準星スペクトルとの 対比で決めた。その結果は表1に示した。M3 より晩期の分類には Bessel 1991, Schulte et al. (1988), Barbieri et al. (1981) の TiO 吸収の深さを見て決めた。図6c, 6d を見ると、M3 から M9 に かけて 8432 A と 8844 A が次第に深くなっていくのが分かる。これだけで スペクトル型を 0.1 - 0.2 の精度で決められる。 G2より早期の星は Torres-Dodgen, Weaver (1988) と Schulte et al. (1988), から吸収線、 Mg I 8897, Fe I 8612, Fe I - Ti I 8468, O I - Fe I 8446 とパッシェンラインを調べて決めた。これらの精度はパッシェンラインのある 星を除いて 0.5 くらいである。 |
スペクトル型の分布 スペクトル型の分布は Garzon et al. (1997) の図2と図3に示す。最も多いのは K-型超巨星である。非常に晩期の超巨星は 大変珍しいのであるが、このサンプルにはそれらも多い。これらの結果には TiO が Ca II にかかっている星の EW 決定の所でバイアスが掛かっている。 そのような場合には EW を低く評価する傾向があり、このため、最低温の星で 超巨星の比率を下げていると思われる。 |
![]() 図3.銀経に対する b = 0 TMGS 星の星計数分布。Wainscoat et al 1992 の 円盤モデルと Lopez-Corredoira et al 1997 のバルジモデルによる寄与は除いた。 星形成活動の存在 多数の超巨星と明るい巨星の存在は強い星形成活動が最近起きたことを意味 する。ただし、それに伴う B-, O-型星は K-バンドでは暗くて、 K < 5 には 届かないためにまだ検出されていない。 Garzon et al. (1997) はこの星形成域が通常の円盤や渦状腕には属さないことを示した。 超過の範囲 TMGS 星計数は銀河面から離れると、Wainscoat et al 1992 の円盤モデルと Lopez-Corredoira et al 1997 のバルジモデルで完全に説明できる。星計数の 超過があるのは |b| < 2 の銀河面に貼り付いた領域に限られる。図3には 銀河中心部で星計数が大きく減少する様子が見える。また図からは l = 27 における光度関数の形は他と異なる、つまり K ≤ 9 の星数と K ≤ 5 の 星数の比が違う、ことが判る。これらは超過の原因としてリング構造を考える 事には無理があることを示す。 減光分布の穴? l = 27 の超過は減光分布の穴が原因ではないかと Jones et al 1981 は述べた。 この説は川良その他 1982 がこの領域を横断して (H-K) カラーに変化がないこと を観測して否定された。その上、l = 27 領域では K = 5 までの星の数が 100 deg -2 以上で、例え減光ゼロでも通常の円盤星ではこの数に達しない。 その上、 Mahoney 1999, Hammersley et al 1998 の VRI 観測はこの方向での 減光が Av で 標準値 0.62 mag/kpc を越えていることを示す。 |
![]() 図4.バーの配置図。負銀経の減光超過はダスト帯による。星形成活動が バーの両端で起きている。 このようなわけで、尤もらしい解釈は図4に示すように、バーの端に巨大星 形成域が存在すると考えることである。 Viallefond et al. (1980) はその中心を l = 27.5 とした。この領域は遠赤外では数度に亘って広がっている。 この領域がバーの端にあるなら、バーの軸角決定にも用いられるだろう。 |
向こう側のバー端点 負銀経では l = -22 にもう一つのピークがある。これは l = 27 のピークと 性質が似ているのでバーの向こう側の端点と看做す。すると、図5に示す 配置からバーの軸角が決定できる。 軸角 こうして得たバー軸角は α = 75.6 である。 |
![]() 図5.バーの軸角と端点の関係。 |
光度クラス l = 27 には多数の超巨星が集積している。この集積は 銀河系バーの端点で、 そこから盾座腕が break away する。 |
軸角 l = -22 にも同様の赤外ピークがあり、それからバーの軸角は 75 と見積もられた。 |