局所群矮小不規則銀河 IC 1613 の Spitzer IRAC 測光の報告をする。IRAC 3.6, 4.5, 5.8, 8.0 μm 観測と可視測光データを組み合わせて解析した結果、 IRAC AGBs の 43 % が可視で検出されず、さらに 11 % 追加分が誤認であるとわかった。 原因は星周ダストによる減光であろう。さらに、狭帯フィルター観測は AGB 星の 半分しか検出できず、 C/M 比を計算する際に全 AGB 星の 18 %しか考慮してい ないことがわかる。 | AGB 星全体からの全マスロス量は (0.2 - 1.0) 10-3 Mo/yr である。 輻射等級とマスロス率の分布は他の近傍低メタル銀河と合う。IC 1613 の可視 検出完全性とマスロス率は局所群矮小不規則銀河 WLM と非常によく似ている。 特性と進化の歴史の類似性から想定されていたことである。 |
基本性質 IC 1613 は局所群の孤立メンバーで DDO Ir V 型矮小不規則銀河の典型天体 である。Wolf 1906 により発見され、D = 730 kpc, i = 38° b = -60° で E(B-V) = 0.025 で前景減光は弱い。数多くの研究が積み重ねられている。 星団がない 銀河はガスリッチで、大部分の性質はほぼ典型的な値を示す。ただ一つの例外は 星団が存在しない(van den Bergh 1979, Wyder et al 2000)ことである。それは この銀河の孤立した進化の証拠 van den Bergh 2000 かも知れない。 |
![]() 表1.IC 1613 の基本性質 |
2.1.赤外・可視データと測光赤外は IRAC, 可視データは OGLEII から採った。2.2.前景星 |
![]() 図1.IC 1613 の DSS 14'x14' 画像。四角枠= IRAC 画像との重なり部。 |
図2に IRAC 画像を並べて示す。赤外天体が銀河内でほぼ一様に分布して いることが分かる。 | それに加え、星形成領域の明るい星の集団が銀河の NE に見える。8 μm 画像にはダスト熱輻射か PAH 放射に起因する拡散光が見える。それは Hα に重なる。 |
図3=可視 CMD 図3に示す可視 CMD (Udalski01)上で幾つかの系列が見える。それらは、 (a) 青い天体。大質量主系列星+ 非分解 HIIRs. (b) AGBs. (c) RSGs. (d) sub-TRGB 星. Skillman03 が示したように、 可視 CMD は、最近の星形成星と非常に古い星を 含み、宇宙年齢に渡る比較的平坦な星形成史を示唆する。 図4=赤外 CMD 図4は M3.6 - [3.6]-[4.5] CMD を示す。左は 3.6, 4.5 で検出 した星全て。右はそれに加え、 V, I の検出も揃った星を示す。図の AGB 限界 線は Groenewegen (2006) の Te2650, 3600 K、Mbol =-7.1 のマスロス無し炭素星モデルの2点を結んで 決めた。マスロスが激しく、ダスト熱輻射が強い星ではこの上限線を越える可能 性がある。しかし、それらは同時に [3.6]-[4.5] も赤くなるはずである。その ような星は IC 1613 では観測されていない。図4右にはTRGB のラインも引いた。 これは図5=3.6 μm 光度関数の急落点から決めた。 LF から決めたから水平線になる。 実際は右上がり? 図4右中、青い sub-TRGBs は全て M3.6 = -6.2 ラインの下。 赤い方では TRGB ラインの上に赤四角が見える。これらは実際には sub-TRGBs ではなくて、マスロス AGBs であろう。 TRGB ラインが右上がりとは認めず? TRGB より上にある赤い星は図3では(d)四方形の右側にある無定義領域の星 なのか?ムーン、いい加減でイライラする。 |
![]() 図3.OGLR II データによる I-(V-I) CMD. (a) 青い星。(b) AGBs (c) RSGs. (d) sub-TRGBs. この図の目的は, 図4の赤外CMD の解釈を助けることである。 TRGB は(b) と (d) の間隙の中央、 MI = -4 で決められる。 この図で炭素星は? (d) の右 の I で暗くて赤い星はマスロスAGBs? |
![]() 図5.実線= 3.6, 4.5 μm で検出された全ての星の光度関数。破線=さらに V, I で検出されて、TRGB の下と判定された星。 |
![]() 図6.M3.5 - [3.6-4.6] CMD. |
![]() 図10.マスロス率と輻射等級の関係。破線= Jura84 のモデル最大マスロス率。 実線= van Loon et al. (2005) の観測的上限。 |
![]() 表2.検出統計 |
5.1.可視検出の完全性5.2.炭素星CN/TiO フィルターAlbert et al 2000 は CN/TiO フィルター観測を行った。彼らのデータは 我々のIRAC 天体の 50 % を含む。この割合は Udalski et al 2001 の V,I 観測より僅かに低い。彼らは二色図上で O-リッチと C-リッチを分けた。 彼らの R-I カラーが赤い方では分離ははっきりしているが、青い領域では 分離が不分明となる。そこで、 C/M 分類は R-I カラーの赤い領域でのみ 行われた。 |
炭素星の数 我々の IRAC 観測領域内で Albert00 炭素星は 74 個である。彼らの C/M = 0.64 を仮定すると、 AGB 星の数は 190 となる。 (どうして、分類された M-型星 の数をそのまま使わないのか? ) こうして、カラー制限を掛けた分類では AGB 星の 18 % のみが C/M 比 の産出に使用された。図9には IRAC CMD 上に Albert00 炭素星を 示す。炭素星は比較的青い方を占めている。ただ、4炭素星は赤く、かなりの マスロスが予想される。 |
5.3.マスロス率シェルモデルマスロスは Groenewegen (2006) のシェルモデルにスケーリングを施して求める。 スケーリング Ψ = Z/Zo として、 dM/dt ∝ Ri2Viρi τ ∝ RiρiΨ Ri2 ∝ L なので、 dM/dt ∝ Vi L1/2Ψ-1 τ となる。 |
不定性 メタル量に現在の値を使って良いのか? AGB 星の大気の値を使うべきで ないか、という問題はある。また、マスロス星のカラーは本来青い星が星周 層の赤化で赤くなったのか、マスロスゼロだが大気温度が低いため赤いのか、 縮退して判断が難しい。もっと大きな問題は O-リッチか C-リッチかの情報を 持っていない事である。 図10=マスロス率と光度 図10にはマスロス率と光度の関係をプロットした。 星風の組成は仮に AMC = 85 %, SiC = 15 % とし、Teff は 黒丸= 2650 K, 白丸= 3600 K とした。比較のために、モデルのラインを示す。 最もマスロスの大きな星は最も明るい星のグループに属することが判る。 総マスロス 総マスロス量は Teff = 2650 K の場合 2.4 10-4 Mo/yr, Teff = 3600 K の場合 4.3 10-4 Mo/yr である。この値は WLM の約半分である。しかし、マスロスの大部分が少数の高マスロス星 からであることを考えると、矮小銀河の総マスロス量は激しく時間変動 すると考えるべきである。 |
AGBs の可視検出完全性 Spitzer IRAC 測光を OGLE II V, I 測光と較べた結果、 IR で検出された AGB 星の 43 % は可視で検出されていず、さらに追加の 11 % は TRGB の下に ある赤色巨星と誤認されている。可視の観測でのこの不完全性は [3.6]-[4.5] カラーとの相関が強い。これは可視で非検出の AGB 星は星周物質の減光に起因 するのであろう。 C/M 比 可視狭帯フィルター観測 Albert00 と比較すると、彼らの観測は全 AGBs の 50 % を検出している。かれらの C/M 比の計算は AGBs の 18 % を使用して いるに過ぎない。 Valcheva et al. (2007) は NIR 観測から C/M = 0.58 を出している。 |
マスロス率と熱近赤外放射 AGBs からの全マスロス量(MLR)は (0.2 - 1.0) 10-3 Mo/yr で ある。値は仮定する星の有効温度と化学組成により変化する。個々星の Mbols と MLRs の分布はマゼラン雲での分布 van Loon et al. (2006) とよく似ている。熱近赤外放射の 85 % が AGBs と RSGs 起源である。 WLM とよく似ている IC 1613 AGBs の測光特性は WLM Jackson et al. (2007) と非常によく似ている。これは銀河特性が似ており、類似の進化史を有する ことが原因である。両者は dIrr 銀河の典型例である。 |