Dust-Enshrouded Giants in Clusters in the Magellanic Clouds


van Loon, Marshall, Zijlstra
2005 AA 442, 597 - 613




 アブストラクト 

 VLT/ESO で行ったマゼラン雲星団の L'(3.8μm) 撮像観測から、post-MS 星からのマスロスを調べた。観測データに J,H,Ks(ESO, 2MASS), MIR 測光( TIMM2at ESO, ISOCAM on ISO, IRAS, MSX を加えた。研究目的は進化最終期の マスロスに、星質量、メタル量がどう影響するかを明らかにすることである。 ダストに包まれた巨星は赤外カラーから検出される。それらの大部分は中間年齢 星団内の AGB 炭素星で、母星質量 1.3 - 5 Mo である。若い星団には星周ダス ト層を持つ赤色超巨星が見いだされる。それらの母星質量は 13 - 20 Mo である。  post-AGB 星(PNe) と 分離外層 を持つ高温度中心星がいくつかの星団に見つ かった。星団 IR 星の SED をモデルフィットして、輻射光度とマスロス率を決め た。赤外天体は星団内で最も明るい星であり、その光度は初期質量とメタル量か ら予想される値と一致する。赤外星のマスロス率は数 10-6 から 10-4 Mo/yr に渡り、その広がりは主に進化効果であり、母星質量や メタル量の依存性は弱い。 1.3 - 3 Mo 星からの総マスロス量の約半分は超星風 期= 105 年程度、に放出される。分離シェルを持つ星は最高のマス ロス量.

(サンプル赤外星36個、各星が 1 Mo 失うので、35 Mo がマスロスに遭う。マスロス総計 1.4 10^-4 Mo/yr なので、超星風のみだと、0.26 Myr 掛かる。。 赤外星/TRGB の上の星 = 0.1 - 0.2. TRGB より上での滞在時間 = 1 Myr から、 赤外星は 0.1 - 0.2 Myr したがって、赤外星=超星風の寄与はマスロス全体の 0.38 - 0.77 である。 上の議論に使われる数字の一つ一つが粗すぎる結論マスロスの半分が超星風は 言い過ぎと思う。 )


 1.イントロダクション 


表1.星団リスト

 2.星団の選択 


図1.年齢-メタル量関係。白四角=SMC星団。黒四角=LMC 星団。

 星団選択 

 表1に広い範囲の年齢とメタル量から選択した星団(C)を載せた。大きい星団 が好ましいのだが、 t ≤ 1 Gyr の小さい星団は数が多く、 IR 天体のある 星団(I)はこのタイプの星団であることが多い。そのような星団はこれまで詳しい 研究がなされておらず、年齢とメタル量が不確かという欠点がある。また密度 超過が小さいのでメンバーシップの確定も難しい。それらに加え、文献から 2星団(L)を選んだ。

図2.上:星団の質量・半径関係。白丸=SMC. 黒丸=LMC. 下:M/Mr,t の変化。

 年齢・メタル量関係 

 図1に年齢メタル量関係を示す。若い星団が低メタルになる現象は SMC, LMC の双方で見られ、問題となっている。

 星団質量と半径の関係 

 図2には星団質量と半径の関係を示す。


 3.観測 

 3.1.J, Ks 観測 

 SOFI/NTT 3.5 m 望遠鏡により、 J, Ks 撮像を行った。

 3.2.L’ 観測 

 L'= 3.78 μm 撮像を ISAAC/VLT で行った。

 3.3.N 観測 

 N = 8 - 13 μm 撮像を TIMMI2/ESO 3.6 m で行った。

 3.4.その他の MIR 観測 

 IRAS, MSX データも使用した。

図3.SL 519 の ISOCAM 画像  


 観測結果 




表2.星団赤外線星のリスト




表3.星団赤外星の NIR 観測

表4.DENIS カタログから得た星団赤外星の NIR 等級


表5.星団赤外星の TIMMI2 MIR 観測


表6.星団赤外星の ISOCAM MIR 観測

表7.星団赤外星の 分類



図4.重ね合わせ色等級図 上:Ks - (J-Ks). 下:Ks - (Ks-L')

 4.結果 

 4.1.赤外分類 

 図4=重ね合わせ色等級図 

 図4は赤外で検出された天体の重ね合わせ色等級図である。 RGB のはっきりした枝が MKs = -6 まで伸びるのが見える。 AGB は MKs = -9 まで伸びる。大質量主系列星と RSGs も 見える。 RSGs は MKs ≤ -10 で支配的である。J-Ks カラーでは大質量の高温度星が目立つが K-L' では区別が難しい。 明るい MKs ≤ -10 で, 青い (Ks-L') ≤ 0 の星は全て NGC 1994 と NGC 2004 からのものである。ただ星団の込み合いが激しく Ks は混入で明るく出過ぎる可能性が強い。L' では込み合いが弱いので ほぼ正しい。従って、 Ks-L' は過小評価される。


 赤外星 

 J-Ks ≥ 2 または Ks-L' ≥ 1 の星は赤外天体とみなされる。 Ks-L' > 3 で MKs > -6 の星は全て J バンド では検出できなかった。Ks-L'=3.4, MKs = -5.6 の付近 に固まっている5天体の内 4 天体は J で見えない。いくつかの星団星 は非常に赤いわけではないが MIR で支配的な明るさを示す。



図5.高齢星団」 NGC 2210. RGB が MKs = -6 で途切れている。  

図6.二つの巨大中間年齢星団の例。どちらにもダスティ星が数個 ある。  



図7.大きな若い星団 NGC 330(SMC) と NGC 1866(LMC).  

図8.奇妙な post-MS 形態を示す二つの LMC 星団の例。  


 4.2.いくつかの星団の CMDs 

 NGC 2210 

 我々のサンプルで 10 Gyr より古い星団は LMC 外辺にある NGC 2210 (図5) である。その込んだ RGB は MKs = -5.95 で突然断ち切られる。 AGB 星の標はない。また赤外天体もない。
(HB は?TRGB の下に AGB はないのか? )


 中間年齢星団 

 図6に巨大中間年齢星団を二つ示す。AGB が MKs = -8, (J-Ks) = 1.8 まで続いている。NGC 1978 は AGB が RGB と分離して見える良い例である。 星密度は TRGB まで高いがその先 AGBs だけになると低い。AGB 進化は RGB 期よりずっと速い。多くの中間年齢星団は一つか数個の赤外炭素星を含む。 最も極端な例では星周減光のため Ks で暗くなる。例えば、 NGC 419 IR-2 は MKs = -3.4 である。

 若い星団 

 25 Myr 星団 NGC 330 は J-Ks = 1 に明るい RSG 枝を持ち、大質量星 主系列を J-Ks = 0 付近に持つ。130 Myr 星団 NGC 1866 は少なくとも3つ の非常に明るい赤色巨星を有する。それらは Mi > 4 Mo の AGBs に違いない。 それら、O-リッチ M 型巨星の NIR カラーは炭素星よりは RSGs に近い。 非常に明るい AGBs や RSGs のダストシェルが光学的に厚くなるには、 低光度の AGBs よりずっと大きなマスロスを必要とする。したがって、赤くな った星がないからと言って、マスロス星がないことを意味しない。

図9.NGC 1903 の L' 天体分布。青い主系列星と「青い」明るい赤色巨星 が見えるが、より暗く赤い赤色巨星は SW 方向に固まっている。

 図8=奇妙な CMD 

 図8の奇妙な CMD を示す一つ NGC 1903 は二つの系列を示す。青い方は多分 高質量の若い AGBs か RSGs であろう。一方赤い方は中間年齢 AGBs であろう。 最も明るい IR3 は星団中心近くにあり青系列に属しているらしい。 IR1 と IR2 は縁にあり、炭素星なのでより古い系列に属する。したがって、 NGC 1903 自体は若く、 IR1, IR2 はフィールド星またはたまたま重なり合った 星団かもしれない。NGC 1984 でも若い星団と、中間年齢フィールド星の重なり が見える。



図10.HS 33 と IRAS04496-6958(IR1) の周りの黒丸=星団星と白丸= フィールド星の可視 CMD. 等時線は Bertelli et al. (1994) から採った、 t = 0.1, 0.2, 1, 10 Gyr, [Fe/H] = -0.4.

 4.3.星団の年齢 

 年齢不明の星団 

 LMC の HS 33, KMHK 292, HS 270, BSDL 1837 は年齢の研究報告がない。 粗い年齢推定のために、表1のように [Fe/H] = -0.4 を仮定して、CMD を用いる。BSDL 1837 IR1 は L = 105 Lo で、中間年齢 AGBs が到達可能な光度の倍明るい。多分この星は星団星ではない。HS 33 は 図10に示す可視 CMD を当時線と較べて t = 130 Myr と推定される。

 4.4.星団 IR 星の測光分類 

 NIR 二色図 

 図11の NIR 二色図でダスト星ははっきりした系列を示す。 O-リッチ星はこの系列の青い方の端に位置し、炭素星は赤い端を 占める。
(O-リッチでマスロスが大きく なっても炭素星に重ならないのか?色々疑問が多発する図。 )


 NIR/MIR 二色図 

 図12=NIR/MIR 二色図では, 炭素星と O-リッチ赤色巨星とは別の経路を 辿る。経路が重なるあたりでは分類が困難になる。 図上の位置から、NGC 1903-IR3, NGC 1994-IR1, NGC 2100-IR1 は O-リッチ、 HS 270-IR1, NGC 1984-IR1, NGC 1978-IR3, SL 482-IR1 の IR カラはー 低励起 PNe と似ている。

図11.星団 IR 星を調べるための NIR 二色図。
(サンプル不明 )





図12.星団 IR 星を調べるための NIR/MIR 二色図。

 5.光度とマスロス率 

 5.1.SED モデル 

 DUSTY モデル 

 SED モデル計算は DUSTY により行った。炭素星では BB(2500K), O-リッチ星 には BB(3000K) を仮定した。炭素質ダストには Henning, Mutschke 1997 の非晶質炭素を、O-リッチ星には Draine, Lee (1984) の天文シリケイトを用いた。 強い OH/IR 星 NGC 1984-ZIR1, HS 327=E-IR1 は Ossenkopf92 の温かい、O-欠乏 シリケイトの方がよくフィットした。特異炭素星 NGC 1978-IR3 は SiC 29% を 必要とした。SL 482-IR1 は Ossenkopf92 の冷たい O-リッチシリケイトと Td = 750 K の幾何学的に薄い等温シェルがよく合った。

 マスロス 

 マスロス率を決めるために、ρ = 3 g cm-3, ソーラーメタル でガス/ダスト=Ψo = 200 を仮定し、メタル量に合わせ、 Ψ = Ψo 10-[Fe/H] とする。

 マスロスの結果 

 ベストフィットモデルのパラメターを表8にまとめた。

 5.2.光度と星団赤外星の性質 

 Mi > 4 Mo の炭素星 

 図13にの中段には赤外星の光度を Mi に対して示す。それらはモデルの 最高光度とよく一致する。特に興味深いのは、炭素星 HS 33-IR1 の光度が モデル AGB 先端光度と一致することである。これは、この星が Mi > 4 Mo の高質量 AGB 星から進化したことを支持する。

 HBB 

 Mi = [1.3, 2.2] Mo でのダスト星は全て炭素星であった。一方、 Mi = 6 Mo では常に O-リッチである。我々の星団サンプルで、Mi = 4 Mo のものが4つある。 SMC 星団 NGC 458 は大きくて、比較的高めたるであるが、赤外星は一つもない。 LMC 星団 SL 453-IR1, HS 327-E-IR2, SL 519-IR1 は炭素星である。それらはモデル が予想する最高光度よりずっと暗い。しかし、それらより明るい HS 327-IR1 の 光度はちょうど予想最高光度であるのに、O-リッチである。van Loon 2001 は Mi = 4 Mo (t = 0.2 Gyr) が HBB 開始の境界なのではないかと述べた。つまり、 明るい O-リッチ星(HBB)より暗い炭素星は Mi が少し小さいので HBB が起こら ないので炭素星のままなのである。

 Mi = 5 - 8 Mo 

 図の斜線部 Mi = 5 - 8 Mo の進化は不確かである。Bertelli モデルでは AGB 星になる最大質量は 5 Mo である。ただし、この質量帯で見つかった3星団 内の唯一の赤外星 NGC 1903-IR3 は O-リッチであるが、モデル予想最大光度より 明るい。理由は HBB と思われるが、モデルに HBB は入っていない。

 Mi = 14 - 19 Mo 

 Mi = 10 Mo 星団に赤外星は見つからない。それらは super-AGB 星 (Ritossa96)になる可能性があり、最後はコア炭素燃焼を起こす。 Mi = 14 - 19 Mo の超巨星光度はモデル予想値と離れている。


 5.3.星団赤外光度へのダスト星の寄与 

 ストカスティック過程 

 ダスト星が出現すると赤外、特に > 8 μm では支配的な寄与を 生み出す。しかし、ダスト星期間は短く、特に小星団ではそれらのある、なし はストカスティックである。

 NGC 419 

 NGC 419 は二つのダスト星を含んでいる。それら二つは合わせて L' = 8.66 である。星団の他の星全体で 7.49 なので、ダスト星の L' 寄与は < 30 % である。

 5.4.星団赤外星からのマスロス 

 マスロスの分布 

 ある質量の星のマスロス率は進化と共に変わる。しかし、 Mi = 1.4 Mo の星のマスロス率の分布は 2 Mo の星のそれよりも低目である。 分離シェルのマスロスは少し、数百年、以前のマスロスを表している が、その星団の中では最大のマスロス率を示す。」

 赤外星のない星団 

 Mi < 1.3 Mo または [Fe/H] < -0.9 の星団に赤外星は 見つからなかった。赤外星の最小マスロス率は 10-6 Mo/yr だから、それが原因かも知れない。





表8.星団赤外星のモデルフィット。


図13.星団赤外星の Mi(年齢指標)と [Fe/H], L, dM/dt の関係。上(a): [Fe/H]. 白印は星団メンバーではないらしい。 中(b): 実線= Bertelli et al. (1994) モデルでの最高光度。モデルは M < 2 Mo では [Fe/H] = -0.7, M ≥ 2 Mo で [Fe/H] = -0.4 とした。中央の斜線部は AGB と RSG の移行帯。


表9.総星団質量。総マスロス率。還流時間。初期質量ごとの集計。

 5.5.マスロス時間 

 星団消失時間 

 表9に星団の星質量とマスロス率を集計した。古い星団の総質量は 若い星団のそれに比べ一桁上である。しかし、総マスロス率は若い星団の 方がずっと高い。星団質量の減少率 tmassloss = ΣMcluster/Σ(dM/dt)cluster は したがって、非常に強い年齢依存性がある。

 還流時間 

 原理的にはこれは現行のマスロスが続いた場合に今ある星団の質量が 全て失われる時間である。これは銀河のような恒星系では、恒星質量が ISM へ還流される時間である。

 超星風期間 

 マスロス時間を測るもう一つの考え方は、星団の赤外星の数を 滞在時間が分かっている進化段階にある星の数と較べることである。 後者の例として、TRGB より上にある星の数を考えよう。AGB が ハッキリしない若い星団、赤外星のない非常に古い星団を除くと、 赤外星と TRGB より上の星の数の比はファクター2以内で約 10 % - 20 % 程度である。 中間質量の星は TRGB の上で 1 Myr 滞在するので、赤外星=超星風 の時間は 0.1 - 0.2 Myr となる。これは熱パルス 1回分程度の 長さである。これは赤外星光度が AGB 先端光度の1等以内であることと整合 する。その幅は熱パルスによる光度変化を反映しているのではないか。
 超星風の重み 

 低・中質量星における超星風の重みを評価しよう。Mi = 1.3 - 1.8 Mo 星は AGB 上で約 1 Mo を失う。その範囲にある星団には TRGB より 上に 36 AGBsが見いだされた。つまり 36 Mo がマスロスで失われる。 マスロスの総計 1.4 10-4 Mo/yr で割ると、0.3 Myr が 超星風で 36 Mo を失うのに必要な時間となる。つまり総マスロスの 30 - 70 % が超星風で失われている。
(粗すぎ。 )


 AGB 星の数 

 星団の総質量と TRGB より上の星の数の間には相関がある。それは

   log(M[Mo]/N>RGB) = 3.6 + 0.3 t[Gyr}

である。


 6.まとめ 

 基準 

 LMC, SMC から星団を選んだ。基準は大きな星団、と赤外星を含む 星団。
(マスロス星に選択バイアス がかかっている。 )


 炭素星 

 SMC 9 星団、LMC 29 星団から 30 IR 星が検出された。 Mi = [1.3, 2.2] Mo の全ては炭素星であった。Mi > 6 Mo の 全ては O-リッチであった。
 SED フィット 

 DUSTY による SED フィットから光度、マスロス率を求めた。

 超星風 

 TRGB より上の星は、その期間の 10 - 20 % を dM/dt > 10-6 Mo/yr の 赤外星として過ごす。低中質量星では AGB で失うマスロス量の 約半分を超星風で失う。