A WISE View on Extreme AGB Stars


Groenewegen
2022 AA 659, 145 - 175




 アブストラクト 

 WISE から大質量放出率星のサンプルを得ることを目的に、SiC 吸収帯を 持つ炭素星と、周期が 1000 日以上の O-リッチ星 の計 2000 天体を調べた。 WISE W1, W2 変光曲線を "a sinus curve" でフィットした。他の変光サーベ イの結果もダウンロードしてフィットした。特に赤い 316 天体の SED を作り、 可能なら MIR スペクトルも合わせ、輻射モデルでフィットして質量放出率を 求めた。幾つかの赤外データベースとの位置相関を調べた結果、 1/3 は合って いないと分かった。単に WISE フラッグを使っただけでは誤りを防ぐのは難しい。 非常に明るい星のクローンであり、幾つかでは既知の周期と一致する。  最近の論文に刺激を受け、多数の非変光 OH/IR 星が見つかった。振幅に基づ いた選択の結果、約 750 の LPVが見つかり、内 145 は周期が 1000 日を超す。 その多くは新発見である。極めて赤い炭素星 EROs と同じカラーを持つ天体の SEDs をフィットした結果、C-リッチと O-リッチに分かれた。質量放出炭素星の MIR スペクトルをフィットすると、 Av ≥ 2 mag での星間減光が判る。5 kpc 以内の EROs が完全に同定された。そこからのダスト還流総量が決定された。 LMC では新たに 12 の EROs が見つかった。それらは LMC 炭素星数の 0.15 % 二しか過ぎないが、それらからの質量放出は LMC での還流を 8 % 引き上げた。


 1.イントロダクション 

 LMC では大質量放出星が支配的 

  Matsuura et al. (2009), Boyer12, Nanni19 による LMC AGB 星完全サンプルの解析から、星間空間への ガスとダストの還流は放出率最大の少数の星が支配的であることが判った。
 WISE の利用 

 WISE, NEOWISE, NEOWISE Reactivation の総期間は 9 年で長周期変光星の 探査に最適である。



表1.極端 AGB 星 (XAGBs) の例。本文注に付けた SQL query を用いて、 34天体が得られた。

 2.サンプル例と天体選択 

 2.1.C-リッチ AGB 星 

 XAGBs 

 "extreme AGB stars" という言葉を最初に使ったのは Volk et al 1992 で、 IRC +10216 や AFGL 3068 のような厚いダストシェルを持つ炭素星を指して いた。彼らは 31 個の IRAS 天体を XAGBs として挙げた。Groenewegen92 は 彼らの V グループ星から 8/109 星を Volk92 の XAGBs と類似の星とした。 Speck09 は ISO SWS データを用いて 10 XAGBs を調べ、その多くが SiC 吸収 帯を示すことを発見した。表1にはそれらの7個を示す。

 EROs 

 Gruendl08 は LMC [4.5]-[8.0] > 8 で SED ピークが 8 - 24 μm に ある12天体を調べ 7/12 個の IRS スペクトル(Houck04) が SiC 吸収又は 平坦な連続光を持つ事を見出した。かれらはそれらを EROs=extremely red objects と名付けた。表1にはそれら 7 EROs と他の(Sloan16, Groenewegen18) IRS 観測で見つかったSiC 吸収帯を持つ 4 炭素星を示す。SMC には EROs が 存在しない。Ventura16 はそれを SFH のせいとした。
 定義 

  Blum et al. (2006) は J-[3.6] > 3.1 を x-AGBs とした。Boyer12 は [3.6]-[8.0] > 0.8, Boyer15 は [3.6]-[4.5] > 0.1 を採用した。 Sloan et al. (2016) はこれらの名前は良くない、なぜならそれらは大量のダストを形成するからと述べた。

 2.2.O-リッチ AGB 星 

 OH/IRs は x-AGBs によく似た集団である。Jones82 はそれらを K-L > 7 の星とした。Justtanont15 はシリケイト 18 μm 帯も吸収になる OH/IR 星を extreme OH/IR 星と名付けた。その典型例は OH 26.5+0.6 (Etoka07) である。 Menzies19 は P > 1000 d の O-リッチ星をカタログ化した。




 2.3.WISE カラーによる選別 


図1.上=[W2-W3]-[W1-W2] と[W3-W4]-{W2-W3] CCDs。赤三角=表1の星。 黒小三角=主文に述べる基準で選んだ星。点=選ばなかった星。つぶれを 防ぐため、図ではより厳しい SN 基準を適用した。他のシンボルは MLR = 質量放出率の違いを表す。青印=C-星モデル。橙印=O-星モデル。モデルの (Teff, Tin) は, 菱形=(2600,1000), 星=(3300, 800), 白十字=(4000, 400).

 2.3.WISE カラーによる選別 

 サブサンプル= 60,000 星 

 ALLWISE カタログには 7 億以上の星が載っている。カラーと S/N 比に基づ き、注に示す query を IRSA/ALLWISE で走らせて、60,000 個のサブサンプルを 得た。そのカラーと S/N の基準は

図2.サンプル星の (RA, Dec) 分布。シンボルは図1に同じ。



 W2-W3 > 2.2, W3-W4 > 1.4,
 S/N(W2)>20, S/N(W3)>50, S/N(W2)>40 または、

 W1-W2 > 2.8, W2-W3 > 2.2, W3-W4 > 1.4,
 S/N(W1)>2, S/N(W2)>0.75, S/N(W3)>0.5, S/N(W4)>100 か、

 W1-W4 > 3, S/N(W4) > 60

図1にそれらの二色図=CCDs を示す。モデル点は More of DUSTY = MoD Groenewegen12 で求めた。パラメターは late-AGB と early post-AGB 用で, C-星に対しては Aringer09 大気モデルに SiC + 非晶質カーボンダスト、O-星 に対しては MARCS 大気モデル Gustafsson08 にシリケイト+金属鉄ダストを 適用した。光学的深さは τ(0.55μm) = 0.001 - 1000 である。 モデルの WISE 等級は SED から求めた。

 追加基準 

 以下の追加基準を設けた。

この基準を満たす星を図1では黒小三角で示す。cluttering=つぶれを防ぐため 非選択星は S/N > 45 の物のみをプロットした。
(選択基準、追加基準の式と 図1の区画の対応が全然分からない。そもそも、基準の理由が書いて いない。 )

 非常に明るい星 

 実際にはいくつかの既知星、 OH21.5 や AFGL3068 はこの基準から外れる。主な原因はそれらが極端に明るく、 カラーが壊れるからである。そこでそれらは後から加えた。 これらの明るい星では WISE の変光データは有用でない。しかし、それらには parasitic source があり周期が得られる。図2にはそれらの (RA, Dec) 分布 を示す。

 総サンプル 

 追加に Groenewegen20 からのマゼラン雲 VMC 217 LPVs を加えた。こうして、 WISE 時系列解析用に 1750 + 217 = 1992 星が選ばれた。これらが完全サンプ ルではないことを注意する。



表A2.bona fide sources に対する WISE データからの周期解析の結果


表A4.bona fide sources に対する 文献データの周期と再フィットの結果。


表A6.non bona fide sources に対する 周期情報

 3.時系列データ 

 2.1.WISE  

 ALLWISE multi-epoch photometry table と NEOWISE-R single exposure Source Table から ALLWISE 星位置の 1 " 以内 で error < 0.25 mag, saa_sep > 5, moon_masked = 0 (Uchiyama19) の W1, W2 測光データを全て 集めた。NEOWISE Explanetary Supplement Sec. II.1.c.iv には明るい星の 飽和補正が載っており、それを適用した。補正値は NEOWISE-R W2 では 1.5 mag に達する。Explanetary Supplement によると W1 ≤ 2, W2 ≤ 0 では有用な情報は得られない。

 2.2.SAGE-VAR  

 warm SST missionn 中の SAGE VAR [3.6], [4.5] データも LMC 星の W1, W2 データと合体させた。Sloan16 の SAGE-WISE 変換式を用いた。  

 2.3.他の時系列データ  

 ASAS-SN 

 666,502 変光星が同定されている。対象星の 2" 以内のデータを取った。LC を再フィットする場合は V-バンドデータをサイトから得た。

 ATLAS 

 ATLAS = Asteroid Terrestriaal-impact Last Alert System Tonry18 には 4.3 百万星の変光データ Heinze18 が載っている。2" 以内のデータを取った。 ATLAS では様々な手法で周期を求めており、内二つが載せられている。fp-LSper = original period from fourierperiod's Lomb-Scargel periodgram と fp-lngfitper = final master period from the long-period Fourier fit で ある。二つのバンドの内長い方の o-バンド 0.68 μm を再フィットに用いた。

 ZTF 

 ZTF = Zwicky Transient Facility Masci19 の Sloan g-フィルターデータを 再フィットに用いた。
 VVV 

 VVV =VISTA Variables in the Via Lactea Minniti10 はバルジおよび隣接 南側円盤の Ks 画像モニタリングである。VIVA-I = VVV Infrared Vaariability Catalogue (FerreiraLopes20) は 4500 万 変光星候補が載っている。5つの 方法で求めた周期が載っていて bestPeriod = best period が指定されている。 670 万の P > 0.5 d 星から 探索半径 3" のデータを取り出した。変光曲線 を再フィットする場合、注にある query を用いて時系列データを得た。

 DIRBE 

 DIRBE = Diffuse Infrared Background Experiment (RPrice10) の 3.6 年 観測から 597 変光星候補が得られた。4バンドデータは VizieR から得られる。 再フィットする場合, 検索半径 8" とし、 4.9 μm データを用いた。

 他のサーベイ 

OMC = Optical Monitoring Camera (Alfonson-Garzon12) は INTEGRAL に 搭載されたカメラで1天体が得られた。CSS = Catalina Sky Survey (Drake09) は 3 天体、 GDS = Bochum Galactic Disk Survey (Hackstein15) は2天体、 Kerschbaum06 から 2 天体、VMC K バンドデータ Groenewegen20 は今回得られた 周期を用いて再フィットされた。

 3.4.周期解析 

 単周期近似 

 Numerical Recipes (Press92) のFASTER サブルーチンを用いてフーリエ解析 を行った。チェックのため、PERIOD04 (Lenz05) を用いた。MRQMIN により、
 m(t) = mo + A sin(2πt ef) + B cos(2πt ef)
でフィットした。周期 P = exp(-f) である。結果を表 A2, A4, A6 に示す。 単周期の近似が粗いことは確かであるが、データ点の数から仕方がない。

 他周期の可能性 

 データ点とフィット曲線の比較から他の周期の存在が疑われる場合、PERIOD4 を用いて求めた他周期 Palt を表A2,4,6に載せた。表には reduced χ2 = Σ((mii)2) /(N-Np), N = データ点数、Np = 1 (周期非固定でフィット), 4(周期固定でフィット) を示す。総観測期間が 400 日以下か、観測点数が8以下の場合、フィットは中断される。 その場合一つの変光曲線しか得られず、それらは細かく調べられた。 大部分=約100個のケースで、ALLWISE データは偽天体であった。(6.1.節) 15ケースでは同定が信頼できるように見え、データ点は少ないがフィッティングを続行 した。



表A1.WISE周期解析された純正恒星サンプルの他カタログマッチ


表A3.文献データで周期解析された純正恒星のサンプルの他カタログマッチ


表A5.恒星ではないらしい天体のリスト(凄く多い?)

 4.文献データ 

 他カタログ 

Numerical Recipe  本物と認められた星は多バンドでも検出されているだろう。ViZieR で他サーベイの結果を調べた。
2MASS  1"
AKARI  3"
MSX   5"
Hi-GAL 4.5"
GLIMPSE 3"
MIPSGAL 2"


 OH メーザー 

 ターゲットリストを OH カタログ Engels15 3.5" で調べた。また IRAS LRS スペクトル Kwok97 12" とも調べた。スペクトル型 Skiff14 3.2" も調べた。
 クェーサー 

 "Quasars and AGNs" 等とのマッチはなかった。しかし、"The Million Quasars" Flesch15 には二つのマッチがあった。"Gaia DR2 quasar and galaxy classification" Bailer-Jones19 には 60 マッチがあった。QSO candidates catalogue with APOP and ALLWISE Guo18 で3マッチ、The WISE AGN candidates catalogue Assef18 2マッチ、EDR3 list of AGN and QSOs 3 マッチである。これらのマッチを 表 A.1., A.3., A.5. に載せた。



図B1.WISE W1(左)、W2(右)変光データの例。緑点=WISE, 青点=NEOWISE. バツ=撥ね。
 

図B2.VMC Kデータへのフィット。黒点=VMC. 緑点=2MASS. 藍点=2MASS-6X. 淡青=IRSF. マゼンタ=DENIS.



図B3.VVV K データ。

図B4.ASAS−SN V データ



図B5.ATLAS o-バンドデータの例。

図B6.ZTF r-バンドデータの例。



図B7.DIRBE 4.9 μm フラックスへの」フィット例。  

図B9.CSS 天体の V-バンドフィット。  



図B8.一個のOMC天体へのフィット。無変光。

図B10.Kerschbaum06 K-バンドフィットの例。  



図B11.二つの GDS 天体の I-バンドフィット例。  

図B12.変わった形の WISE 変光曲線の例。6.4.節参照。   


 5.結果 

 まとめの表 

 表A1−6には文献検索と周期解析の結果をまとめた。表A1,A2 には WISE で 周期解析を行った 1224 純正恒星サンプルが載っている。表A3, A4 には WISE で周期を定めるには観測点数不足だが、文献データから周期が求まった 118 純正恒星サンプルを載せた。残りの 650 天体の幾つかは系外天体で あるが、多くは非純正恒星であろう。表A5、A6を見よ。

 純正、非純正の区別 

 純正、非純正の区別は SIMBAD に引用されている同定の数と, 他の系外カタログ、 変光曲線の視察によって決めた。フェイク天体には "no" と付けた。
 文献サーチ 

 表A2,A4,A6 には文献からの周期を引用した。また、LRS 分類、スペク トル型も載せてある。

 B1- B6 = 変光曲線の例 

 図 B1-B6 には様々なサーベイからの変光曲線の例を示す。また、B7-B11 には、数が少なく一枚の絵に収まる図を載せた。


 6.議論 

 6.1.本当とは思えない ALLWISE 天体 

 クローン 

 偽物らしい天体の位置(表A5)を調べていて驚いたことは、それらが互い に非常に似通っていることである。実際、多くが非常に明るい天体("clone") に付随している。その著しい例は CW Leo である。
   CW Leo   (RA, Dec) = (146.989193, +13.278768)
は ALLWISE カタログには載っていない。ターゲットリストにはこの位置から 17' 以内に、既知天体と重ならない 42 天体が載っている。
もう一つ、有名な赤外源としては AFGL 3068 がある。
   AFGL 3068 (RA, Dec) = (349.802533, +17.192628)
は W1 = 4.7 mag, W2 = unreliable で 9' 以内に 16 天体。
   VY CMa   (RA, Dec) = (110.7430362, -25.7675659)
は W1 = 1.7 mag, W2 = 3.4 mag. 10' 以内に 9 天体。
   IRC +10420   (RA, Dec) = (291.700408, +11.354634)
は ALLWISE に載っていなく、 9' 以内に 7 天体。やや暗くなると、
   IRAS 08171-2134   (RA, Dec) = (124.8263077, -21.737400)
は W1 = 7.3 mag, W2 = 3.8 mag. 1.2' 以内に 3 天体。

 clones の周期 

 clones には文献の値と同じ周期の変光曲線を示すものがある。例えば、 CW Leo の W1, W2 の重み付き平均周期は 643±1.4 d であるが、 文献周期は 639±4 d である。他のclone 例としては、
  IRAS 15194-5115   WISE 565±2.3 d 文献 580, 576.
    IRC +20326      WISE 549±3.6 d 文献 540.
    AFGL 3116      WISE 630±3.3 d 文献 620, 599.
    AFGL 2135      WISE 619±13 d  文献 655.
 

 偽天体の割合 

 偽天体の割合はサンプルの 1/3 であり、ALLWISE のフラッグを使えば、事前 に排除できるのではないかと思う人もいるかも知れない。Chen18, Uchiyam19 の 両者はそれらを使用している。偽天体中の 88 % は 混入・混同フラッグ cc_flag が "00" でない。しかし、純正天体でも 77 % はそうでない。また、偽天体は 必ずしも測光精度が悪いわけではなく、 77 % は W1W2 測光フラグ ph_flag = "AA" である。他のフラグも調べたが、どのフラグも結果として多くの純正天体 を除去する結果となる。

図3.クローン 変光曲線の例。左=W1, 右=W2. 上から Leo,
IRAS15194-5115,
IRC +20326,
AFGL 3116,
AFGL 2135 
の クローン.


 6.2. VVV 天体 

 Ferreira20 天体 

 Ferreira20 では 122 VVV 天体の変光を解析した。51 天体の周期は約1日 で10天体が 10 日以下であった。残り 9/61 個がここで決めた周期と 10 % 以内で一致した。32/61 星はこことの差がファクター2 以上、最大ではファク ター 10 まで離れていた。原因は主に Ferreira20 では周波数捜索巾が (2/T) -1 以上に限定されているからであろう。ここに T は観測期間。
 Contreras17 

 Contreras17 では大振幅 VVV 星を探したが、そこに載せた周期は Fereira21 とは違っていた。Contreras17 で周期が与えられた 10 天体の内、9 天体では WISE からの周期が得られ、7/10 は WISE 周期と 10 % 以内で一致し, 残りも 20 % 以内であった。それらの星に対する Ferreira20 周期は全てファクター 1.7 - 3.2 小さく不正確である。


 6.3.非変光 OH/IR 星 

 Herman85 の注意 

 通常 OH メーザー 強度は中心星の変光に追随して変動するが、 Herman, Habing (1985) は非変光メーザーの存在に注意した。彼らはそれを AGB から P-AGB への遷移 期に対応すると考えた。

 上塚20の 16 非変光 OH/IR 星 

 上塚20 は Herman85 から、メーザー振幅が最小の 16 OH/IR 星を選んだ。 6天体は 2MASS, UKIDSS, OAOWFC (Yanagisawa19) からの多期観測データを得た。 5/6 天体に対して、0.01-0.13 mag/yr の増光を検出した。

 4/16 が WISE x-AGB リストに載る  

 4/16 上塚20天体が WISE サンプルに含まれる。
OH 17.7-2.0 = 上塚20では増光を検出できなかった。
OH 31.0+0.0 = 上塚20では増光を検出できなかった。
OH 31.0-0.2 = 上塚20では 2.04 mag/2250 days の増光を検出。
OH 37.1-0.8 = 上塚20では 0.35 mag/2170 days の増光を検出。
図4の上4つはこれら4天体の W1, W2 変光曲線である。OH17.7-2.0 は 3200 日間に 0.7 (W1), 0.4(W2) mag 暗くなっている。OH31.0+0.0 の W1 ははっき りしないが、W2 では 0.4 mag 暗くなっている。OH 31.0-0.2 でははっきりし た増光、減光は見られない。一方 OH 37.1-0.8 は 8.7 年間に 0.2 mag の 増光がギリギリ見えるかどうか。WISE データからの形式的周期は相対的観測 期間の短さから注意が必要である。

 Lewis02 の OH 観測 

 Lewis02 は 328 OH メーザー源を 12 年後に再び観測した。その結果 4 星では OH メーザーが非検出であった。また 1星は "terminal decline" を 示した。これら5星中の一つ IRAS 18455+0448 は今回のサンプル中にある。 その WISE 変光曲線を図4の最低部に示す。非変光という想定に矛盾しない。

 WISE による非変光星の捜索 

 SIMBAD で OH/IR とされたか、Engels15 に載っていたかの星をサンプル中で 探し、その変光曲線を調べた。

図4.サンプル内 非変光 OH/IR 星の変光曲線。


WISE 周期が出た星、文献に周期が載っていた星、 文献から周期を再フィットで求めた星、OH が検出されず O-リッチと分類され なかった星は全て除去した。非変光 OH/IR 星候補として、新しく 20 星が残っ た。それらは 表A.2.と表A.4. で "nvoh" と書かれている。以前に 非変光とされた 5天体は "NVOH" とされている。


 6.4.LPVs の選択 

 基準 

 WISE データからの LPVs の選択には振幅を用いた。W1 とW2 振幅の幾何平均 を ampW , そのエラー σAmpW とする。LPV 候補は, W1 か W2 で、

AmpW > 0.2 mag, AmpW/σAmpW >2.5, S/N > 6

で選んだ。有名な AFGL 3068 も手動入力で加えた。振幅カットの 0.2 mag は I で 0.45 mag, K で 0.5 mag にほぼ相当する。SN 比のカットは、変光曲線と それへのフィットを眺めて決めた。
 752 LPVs が選ばれた 

 こうして、752 LPVs が選ばれた。356/752 は新登録である。それらは表A1 とA3で "LPV" と書かれている。145天体の周期は P > 1000 日であ る。109/145 は新発見である。ただ、内 13 は以前に P = 160 - 700 日とし て報告されている。これは Menzies19 の16例からの大幅な増加である。 レフェリーの指示で Chen20 の ZTF データ解析と比較したので、その結果を App E に示した。

 非 LPV 星 

 LPV の補集合となる non-LPVs の幾つかは周期性を持つ。それらには、振幅 が小さい、良い変光曲線が1フィルターのみ、変光曲線の形が特異などの星が 含まれる。表 A2、A4で、これらは "PER" と書かれている。それらの中に は既知 OH/IR 星だが WISE データが悪いものが含まれる。Sakurai 天体も その一つである。Evans20 を見よ。図B.12にその例を示す。



表2.C-星のフィット結果。

 6.5.EROs と星間空間への還流 

 SED フィット 

 イントロに書いたように、マスロス率最大の炭素星が AGBs から星間物質へ の質量還流を支配しているので、このクラスの天体の新しいメンバーを同定す ることは興味ある作業である。表1にある EROs 代表例は MIR SED の特徴= 赤く平坦、または SiC 吸収帯、に基づいて選ばれた。しかし、サンプルの スペクトルデータは通常得られていない。表1から求めたカラーに基づいて、 W2-W3 > 3 の 316 星の SED を求めた。 141/316 星に対しては MIR スペクトルがあった。MoD = More of DUSTY (Groenewegen 2012) を用いて SED フィットを行い、光度と質量放出率を求めた。詳細は App C を見よ。
(TAO ? )

 距離 

 マゼラン雲炭素星の PLR App C は、

  Mbol(mag) = -5.07(logP-2.8) - 4.47

この関係を銀河系 C-, O-リッチ双方に適用する。PLR は log P < 3.1 の 星から得られたが、今回の最大 log P = 3.4 までの星にも適用する。 C-、O-リッチどちらにも同じ式で良いことは P < 400 d の場合には Whitelock08 が確認している。周期 P がない炭素星にはマゼラン雲炭素星の中間値 7100 Lo を使用する。周期ナシの O-リッチ星は一様に距離 2 kpc を使う。星間減光(AppC)も入れた。
(これも狙い目? )
読者が他の距離 d を使う場合 L ∝ d2, dM/dt ∝ d と すればよい。

 分類 

 MIR スペクトルと SED フィットから、サンプルは 197 C-星 + 119 O-星に 分かれる。

C-星
 典型例(表A1、A3で"ERO")     10 星
 MIR スペクトルあり "eroS" 。     65 星
 SED で推定 EROs "eroP"       110 星
 C-リッチ non-ERO "sedC"        4 星

O-星
 O-リッチの AGBs + P-AGBs + HIIRs + PNe + YSOs

表2は C-星の結果を、表 C1 はO-星の結果を示す。ダスト/ガス比=0.005、 Vexp = 10 km/s を仮定した。

図5.EROsの距離累積分布。右=拡大図。モデルパラメターは (太陽近傍数密度kpc-3、スケール高 pc)が 紺= (1.6, 150). 赤=(0.8, 300). 淡青=(0.3, 800).

 累積距離分布 

 図5は累積距離分布を示す。Groenewege92 は Hρo = で分布曲線が縮退 することを示したが、左図では Hρo = 0.24 kpc kpc-3 の3例 が示されている。少ないサンプル数からの結果では H = 195±20 pc, Hρo = 0.23 - 0.27 kpc kpc-3 が得られる。図を見ると EROs 検出は 5 kpc までは完全と考えて良さそうである。

 総質量放出率 

 太陽周りの半径5kpc円柱 内には 36 EROs が存在する。その総質量放出率は 4.1 10-4 Mo yr-1 = 5.2 10-6 Mo yr-1kpc-2 である。エラーを評価するため、他の距離とMLR でモンテカルロ計算を行った。 その為、Mbol に巾 0.3 mag のガウシャン分布=距離を変化させ、 MLR を変える、 と光学的深さに同様の変化を与えた。2.7, 97.3, 50 % パーセンタイルは星数と して 37 (33-44; 0.4 - 0.5 kpc-2), MLR = 4.0 (3.3 - 6.6) 10-4 Mo yr-1, H = 190 ((156 - 224) pc を与えた。

 LMC  

 LMC 内の 45 EROs の総 MLR は 1.0 10-3 Mo yr-1 (ガス)= 5 10-6 Mo yr-1 (ダスト)である。内 33 個 は Nanni19 でモデル化されており、その総 MLR = 7.8 10-3 Mo yr-1 (ガス) = 3.7 10-6 Mo yr-1 (ダスト) である。興味深くまた重要なことは、12個の EROs が増えただけで大きな影響 が生じたことである。Nanni19 は 8239 C-星からの総ダスト還流を 16 10-6 Mo yr-1 とした。内 82 % が 1332 X-星(16%)からとした。 33 個の EROs (0.4 %) だけでも総 MLR の 21 % を占めていたが、そこに 12 EROs が新たに加わっただけで総 MLR が 8 % も増加したのである。



図D1a.図6と同じだが、 Teff = 3800 K とした。  



図6a.左 AGB 78.257469 と 右 AGB 181.703629 のマスロスが突然停止したと 仮定して、上二行=直後(t=0)のSEDとスペクトル。中二行 t = 30 yr の SEDとスペクトル。底 t = 50 yr の SED.

 6.6.EROs の性質 

 変光 

 C-EROs は AGBs から ISM への還流の主役であるが、これらの星の性質は まだ完全には理解されていない。その多くは大振幅 LPVs であり、P 1260d までは PLR に従うことが判っている。しかし、中には SED や MIR スペクトル から ERO に分類されたが、変光の明確な証拠が無いものもある。

 Tin 

 Sloan16 は埋もれた星の幾つかが短波長側で他の星より青いことに気付いた。 その原因は中心星が見えているためでないかと述べた。SED フィッティング の際、大部分の星は Tin = 800 - 1200 K (炭素凝縮温度)で合う。Tin ≥ 800 K でフィットした C-星のうち 116/133 は適切な変光周期を持つ。12 % はは っきりした変光が見られないか、周期が 1300 日より長い。197*(1/3) = 64 星では Tin < 800 K であった。それらの 73 % = 47 星では変光がはっきりしない か、周期が 1300 d 以上である。つまり、無視できない数の星で Tin が低く、 それらの変光は平均して弱い。

 タイムスケール 

 図6には 2600 - 2800 K AGBsの MLR が突然ゼロになった後の進化を Vexp = 10 km/s で追った。 Miller Bertolami (2016) の P=AGB モデルでは Mi = 2 - 3 Mo の Me = 0.01 Mo の時 Teff = 3800 K である。図 D-1 にはその場合の進化を示す。ただ、その差は小さい。 マスロス停止後 20 - 30 年で中心星が見え始める。この時期 Teff の変化は 0.22 - 0.55 K/yr と小さい。 500 年後には P-AGB の SED をダブルピークと分類できる。重要な点は、 この時期でも MIR の盛り上がりは依然明るい。したがって、 MIR カラーで 天体選択を行っても膨張シェルの効果は小さい。EROsにはダブルピーク の兆しがある星がもっと多く含まれても良いはずだが、そうはなっていない。

図6b.上=t 50 yr のスペクトル。中2行= t 200 yr の SED とスペクトル。 下二行= t 500 yr の SED とスペクトル。

 連星 

 Dell'Agli21 は連星の共通外層進化 = CEE の結果、1日程度の周期を持つ 連星が隠れていると述べた。彼らは、単一星進化モデルではある種の CCD 上 で EROs の位置を説明できないというものである。また MLR 1 - 2 10-4 Mo/yr が示唆される。ただ、そのような短周期連星 を検出する問題があるし、そのMLR は大き過ぎる。

 PLR の範囲 

 MCs の EROsで二天体が PLR から外れている。同様にMW でも数個の EROs が P = 2000 - 5000 d で PLR の適用外にある。また、P = 1000 - 2000 d でもPLR から決める L は D ≥ 20 kpc となり、非常に大きな Av が期待 されるのに SED はそうでないという矛盾を抱えている。恐らく PLR が 不適当なのであろう。

 まとめ 

 EROsの多くは AGBs と解釈できる。しかし、かなりがそこからはみ出る。 そのいくつかは P-AGBs として説明可能であろう。しかし、 P-AGB の進化 時間からはもっと多くのダブルピーク SED 星が期待される。共通外層モデル は興味深いが、予想される短周期連星の存在が不明で、その MLR が観測より 大きいという難点を持つ。非球対称シェルは今後研究する価値がある。MIR と ALMA の高分解観測が期待される。 Rin は 10 mas Rout なら10" の スケールである。

 6.7.マスロス炭素星の MIR スペクトル 

 図7は星間減光の効果を示す。星間 9.8 μm 吸収帯の効果が はっきり見える。MIR で明るくてバンドが弱い炭素星は星間吸収帯 を使って Av を探るのに適している。



図7.9.8 μm 星間減光帯の効果。上2段:Av=0での SED とスペクトル フィット。下2段:三つの星への Av = 2.4, 4.3, 5.7 でのフィット。

 7.まとめ 

 EROs の発見 

 平坦,または吸収帯を持つ C-星と周期 1000 日以上の O-星 に マゼラン雲から 217 星を足した 1775 星の WISE/NEOWISE 時系列 データを周期解析した。文献周期、他のサーベイデータの再解析の 結果も提示した。内 316 星は SED、MIR スペクトルフィットも行 った。新しい C-リッチ EROs と 新しい LPVs が見つかった。内  145 星は P > 1000 である。

 C-リッチ EROs の謎 

 C-リッチ EROs の性質は不明である。マゼラン天体の多くは PLR に従う。 その結果を MW 天体に適用して距離を決めた。
しかし、MW 天体の多くは 不適切なほど周期が長かったり、変光が見られなかったりと、AGB星の性質 と合わない。 それらの一部が P-AGB である可能性はある。しかし、進化を 考えると、その場合、もっと多数のダブルピーク SED が見つからなければな らないのにそうなっていない。連星およびそれに伴う非球対称性が原因の 可能性もある。高分解観測が必要である。

 視差観測 

 銀河系 EROs候補 150 中 85 % は K ≤ 20 mag である。赤外 Gaia の良い候補であろう。