M31 北西部の高メタル TP-AGB 星のほぼ完全なカタログを示す。これは、SAGE プログラムによる LMC の低メタル AGB カタログの星を補うものである。カタ ログには HST Panchromatic Hubble Andromeda Treasury survey からの広帯域 測光HST、化学組成を分類するための 中間帯測光、それに ダストに覆われた星を 選ぶための Spitzer MIR, FIR 測光が含まれている。346,623 AGB 星が検出さ れた。内 4802 星は大量のダストを形成していた。また年齢のわかる星団内に 1356 AGB 星が見つかった。星団のいくつかではメタル量も知られている。 | スピッツアーデータと中間帯データによる化学分類を用いて、大量のダストを 形成する AGB 星が O-リッチか C-リッチかを分けた。LMC のダストの多い 星に対するカラー対マスロス関係を使い、PHAT 領域にある AGB 星からのダスト 放出量を評価した。ダストの 97.8 % はO-リッチである。ダスト寿命のい くつかのシナリオを用い、M 31 全体のダスト収支の中で AGB 星の貢献度は 0.9 - 35.3 % である。これはマゼラン雲での以前の評価に一致する。 JWST による M31 AGB 候補星の追尾観測により、恒星、化学進化モデルに さらに拘束を加えられるだろう。 |
ダスト形成に関し、AGB 星の貢献は大きい。過去の研究は、Matsuura09,
Riebel12, Schneider14, Srinivasann16, Boyer17 である。1.1.M 31PHATPHAT = Panchromatic Hubble Andromeda Treasury は M 31 の 1/3 を UV, 可視、 NIR 画像でカバーする。このデータセットには 一億二千万の星が 含まれる。 M31 の大きな恒星数はポアソン誤差の影響が 小さい、統計処理で恒星の様々な過程を研究する機会を与える。特に AGB 星 を含む多数の星団の検出は重要である。 地上観測 これまでの地上観測、Brewer et al 1995, 1996, Kodaira et al 1999, Davidge 2001, Battineli, Demers 2005, Davidge et al 2005, Boyer et al 2013, Hamren et al 2015, Boyer et al 2019, Ren et al 2021, Massey et al 2021, Wang et al 2021, は浅い等級、低い各分解能、それに狭い視野 という欠点があった。 |
1.2.メタル量とダストO-リッチダスト形成は影響を受けるマゼラン雲と近傍矮小銀河における AGB ダスト形成が Sloan et al 2009 に まとめられている。O-リッチダストに関してはメタル量がダスト形成に影響する ことが分かっている。それはダスト凝結核の数が減るためと考えられる。 C-リッチダストは? C-リッチダスト形成がメタル量の影響を受けるかどうかについては、受ける という説 van Loon 2000, van Loon et al 2005 と受けないという説 McDonald et al 2011, Sloan et al 2012, Sloan et al 2016 があり、決着していない。 星風速度 サンプル数は少ないが、メタル量が星風に強く影響するという研究がある。 高メタル AGBs の 低メタル環境における AGB 星は十分な数が研究されている。しかし、高メタル 環境における AGB 星の研究はまだ十分でない。 |
今回のデータは HST と Spitzer の画像アーカイブから採ってきた。
星スペクトルは Keck のスペクトルアーカイブから持ってきた。
2.1.広帯域測光2.1.1.HST/PHATPHAT サーベイには 120M 星が記録されている。観測は 23 の副領域=ブリック に分割される。ブリックは 0.5 平方度で、HST の紫外(F275W, F336W), 可視 (F475W, F814W), 近赤外(F110W, F160W) 撮像が行われた。観測深度は低混雑 の外側円盤では RC (F160W=24mag) まで達する。バルジのように込み合った領 域では F160W = 21.5 mag まで落ちる。 |
2.1.2.SpizterSpitzer 測光Spitzer による M31 円盤全面画像は 3.6, 4.5, 5.8, 8.0, 24 μm で撮 られている。Spitzer/IRAC の空間分解能は ≤ 2" で、 HST の 0.07"-0.15" に比べると劣る。また感度も劣り、TRGB( |3.6|=21.2 mag) 付近である。 IRAC 測光 IRAC 測光(多分 3.6, 4.5 μm のみ) は DAOphotII + ALLSTAR を組み合わせた DUSTiNGS パイプラインで 行った。良質の測光を GSC = Spitzer good-star catalog に収めた。GSC 天体 を Khan 2017 の [5.8], [8.0], [24] カタログ天体とマッチした。Khan カタ ログの測光はキャリブレイションが甘いので、測光値は天体分類には用いない。 |
![]() Boyer17図1.WFC3/IR 中間帯フィルター。赤=C-星。青=M-星。 2.2.HST 中間帯測光Boyer et al 2019 は M 31 の 21 領域において F127M, F139M, F153M の NIR 中間帯観測を行った。これらのフィルターはスペクトル分類に用いられる。 22 - 23 mag まで観測した。TRGB の数等下である。 |
![]() Boyer17図4.モデルスペクトルによるHST 二色図。青丸=LMC ダスティM星。 赤菱=LMCダスティC星。 2.3.SPLASH1867 AGB 可視スペクトルが SPLASH = Spectroscopic and Photometric Landscape of Andromeda's Stellar Halo (Guhathakurta et al 2006) から 得られる。それらは Keck II 10m鏡により撮られた。 |
![]() 図2a.HST の中心距離一定幅 2kpcの弧での M31 光度関数。 2.4.完全性F160W = 22 magデータの完全性は込み具合=中心距離により制限される。図2には中心距離 4つにおける完全性を示す。 HST データは F160W = 22 mag = TRGB の4等下 まで完全である。最も低質量でしたがって最も暗い進化の進んだ星も HST では 検出可能である。ただし、強いマスロスの星は暗すぎて見えない。これらは Spitzer の役割である。 Spitzer 限界 Spitzer データは [3.6] = 15.9 mag (M3.6=-8.5) まで 完全である。ただし混んでいるところでは [3.6] = 15.4 に落ちる。 これは HST ほど深くないが、ダスティ星には充分である。 |
![]() 図2b.Spitzer のの中心距離一定幅 2 kpc の弧での光度関数。 2.5.混入前景星銀河系モデルから推定される PHAT 領域内の前景星は 367 = 0.1 % である。 後景天体 M31 AGB 星の見かけ明るさは銀河に近い。 HST では空間分解能が高いので quality cut で除去される。 溶け合い バルジや星団中心以外では HST の blending は深刻でない。Spitzer では 低分解能のためブレンディングが起きやすく、測定光度が過大になる。しかし その割合は 0.17 % と見積もられるで無視できる。 ISM 赤外で光る ISM が特に MIPS 24 μm では問題である。MIPS は AGB 選択に は用いない。 |
高メタルで C/M 低下 モデル、Marigo et al 2013, Karakas 2014, Marigo et al 2017, は C/O 境界がメタル量と初期質量で激しく変わることを予想する。そして、観測 Brewer et al 1995, Boyer et al 2013, Boyer et al 2019 によると炭素星の形成は高メタル環境では極端に低下する。 分類の較正 中間帯測光、分光での分類を基礎に分類の較正を行った。 2.7.星団TP-AGB boostingAGB を持つ約30の LMC 星団では、1.6 Gyr 星団で AGB 寿命に比例しない 数が観測され、"TP-AGB boosting" Girardi et al 2013 と呼ばれる。 M 31 では年齢幅と数が大きいので、その効果が緩和される。 M 31 では 947 の星団 AGB 星が検出された。 |
![]() 図3.M31 AGB 星の二色図。白四角=LMC のダスティO-リッチ星。白菱= LMC ダスティ C-リッチ星。 |
マッチングの順序は、 (1)PHAT: 図4のような初期化カット。 120 M から 23 M へ。 (2)CAT 1 : 中間帯データを 1" で PHAT データにマッチする。 Williams et al 2014 を再整約する。 (3)Spitzer: 3.6, 4.5 μm GSC = Spitzer good-star catalog の星を Khan 2017 の [5.8], [8.0] カタログとマッチさせる。これらを cat2 と呼ぶ。 (4)最終カタログ: cat1 と cat2 を合体したものを cat3 と呼ぶ。 各段階の詳細を次に記す。 3.1.PHAT データの切り分けHST は Spitzer よりはるかに深く、空間分解能も高い。そこで、HST データから AGB でありそうにない星を先に除去しておく。その基準は、(A)F110W < 20.28 mag. 明るい星に限定。 (B)F160W < 19.28 mag. 明るい星に限定。 (C)F110W-F160W > 1.2 かつ F160W = 2(F110W-F160W) + 16.88 の上。 ダスティAGB を吸収。 |
![]() 図4.HST CMD とそこへの initial cut. 図4で分かるように、ここでは TRGB の 1 mag 下までの PHAT 星を選んだ。 また、星周赤化の大きな星に対してはより暗いところまで選んだ。 |
バイアス GSC の [3.6], [4.5] 星を Khan17 カタログとマッチする。我々は混んでい る領域、画像の鋭さでカットを入れているので、数は少ないため、Khan17 の うち 52 % しかマッチしていない。マッチしない Khan17 天体は、図5のどの 領域にも限定されていない。これは我々のマッチが特定の恒星タイプに偏って いないことを確認している。 マッチ候補からのベスト選択 PHAT 領域内にある Spitzer 天体 137,717 個を 1" 以内にある Khan17 天体 201,381 個 と比較した。 1" 以内3候補の中から [3.6] が最も近い星を選んだ。 |
この方法
で2番目に近い星が選ばれたのは 3453 = 3.6 %, 3番目に近い星が選ばれたのは
183 = 0.2 % であった。どの等級もが 3 % 以上の時は Khan17 の [5.8], [8.0]
は解析には使わない。その結果、 1010 子= 1.1 % が弾かれた。
HST と Spitzer のマッチ 第4段マッチでは、HST cat1 星と Spitzer cat2 星をマッチする。 cat2 Spitzer 星の中で 7023 星= 5 % が HST 星にマッチしない。その場合には Spitzer データを捨てた。HST 天体に複数の Spitzer 候補が存在する場合は 最も近い天体を採用した。 |
AGB を選ぶ 1.HST 基準 F110W < 19.28 mag. または F160W < 18.28 mag. (F110W-F160W) > 0.88 (F814W-F160) > 2.4 (データがある場合) 基準の有効度 上の基準で選んだ星を Boyer et al 2019 が中間帯測光で分類した AGB 星 20,787 個と較べる。6282/20787 = 25 % は我々の基準に合わない。その内 訳は、4648/20787 = 14 % が F110W と F160W で TRGB より下。 2281/20787 = 11 % が F814W-F160W カラーが青い。1074/20787 = 5 % は F110W-F160W カラーが青い。 74/20787 = 0.3 % は PHAT データにマッチし ない。 |
(この先は何を言っているのかがハッキリしない。) Boyer19 法の方が強い 以前の中間帯カラーによるカットの方が AGB 星をふるい分ける能力が強い。 Boyer19 は 5 バンドのどれかが TRGB より明るければOKとしたので、我々の 採用した2バンドよりも AGB とされるチャンスが大きい。我々はこれらの 中間帯波長域で除去された天体 (我々の基準では除去されるが Boyer 19 では掬い上げられるという意味なのか?) が以前の(Boyer19の?)分類で再び AGB 星と分類されることを期待する。 完全度と混入度 我々のカラー分類は Boyer19 で AGB 星に分類された星と釣り合い、 かつ、より高温の RSGs は排除するように選ばれた。色々な等級、 カラー基準値に対する完全度と混入率が図7に示される。 |
RC 期のマスロス Dupree et al 1984 が示したように、コアヘリウム燃焼期の中間質量星は ある程度のダストを形成する。しかしマスロスは acoustic and chromospheric process を通じて行われる。 AGB 期 コアヘリウム燃焼から AGB 期へと進化すると、星は脈動を開始し、大量の 物質を星のはるか上空へ持ち上げ、かなりの量のダストを形成する。 ダスティ AGB 星の追加 PHAT データで暗くて赤い星をサンプルに組み入れても、まだダスティ AGB 星のいくつかを逃している可能性がある。そこで、図8の赤枠の星を組み入れた。 その結果 78 個の新しい AGB 星を加えた。その追加基準は、 (A) [3.6-4.5] > 0.5 かつ [4.5] < 16.4 mag. (B)Boyer19 が AGB 星とした星は全て AGB カタログに戻す。 ( Boyer19 領域外の星にはその措置がない。) LMC における ダスティ AGB 星の結果と較べるために、LMC AGB サンプルに 我々のと同じ基準を適用して調べると、 3 個= 0.017 % しか逃さないことが分かった。 銀河の排除 (A) [3.6-4.5] > 1.9 で [4.5] < 13.4 |
![]() 図8.赤枠=明るく星周赤化の強い星で、HST の AGB 基準に関係なく AGB カタログに入れる。Marigo et al 2017 の PARSEC 等時線はマスロス開始 までの進化を示す。 |
表1=星数統計 表1に PHAT 領域内で見つかった AGB 候補をまとめた。346,623 候補が発見 された。さらに Spitzer により 1,976 星が追加された。Johnson15 の星団と 較べた結果 1,356 AGB 星を星団に属するとした。SPLASH との対応からは 34 O-リッチ AGB 星と 76 C-リッチ星、また Ben21 から 1933 RSG 候補を同定した。 これらは RSGs か 光質量 AGBs かのどちらかであろう。 PHAT が円盤の 1/3 をカバーすることから円盤全体では 1 M 個程度の AGB 星 が存在すると考えられる。 表2=カタログ項目 表2には AGB カタログの項目を挙げた。M31 の前景減光は E(B-V) = 0.062 と した。 Schlegel et al. (1998) この値は M31 内部の微分減光強度に較べるとはるかに低い。表2には減光 補正はしていない。 Gaia EDR3 では 593 AGB 候補星が 1" 以内で正の視差を与えられている。 それらのいくつかは前景の赤色矮星の可能性がある。それらにフラグを立てた。 メタル量勾配 Gregersen et al 2015 は PHAT CMD 上の RGB を当時線とフィットして、 メタル量勾配を検出した。M31 バーによる 3 - 6 kpc での非対称なメタル量 上昇を除くと、円盤のメタル量分布は滑らかである。表2に使われた円盤傾き 補正半径は位置角 38°, インクリネーション 74°, 中心 (00h42m44.330s, +41°16'07.50") で計算した。[M/H] = -0.02 Rdeproj(kpc) + 0.11 である。 |
![]() 表1.M31 天体の統計 |
![]() 図9.様々なサンプルの光度関数。狭い領域での化学組成分類された星に対して は円盤傾き角補正半径 ±1kpc の範囲を使った。 図9=F110W 光度関数 図9には F110W 光度関数を3つの中心距離に対し示す。当初の PHAT データ には TRGB から RC に至る諸特徴が表れている。完全性は F110W = 25 mag から 低下し始める。最終 AGB カタログは F110W が TRGB より上の星か 赤化の強い Spitzer 星が載っている。 |
![]() 図10.赤外光度関数。LMC/SMC の光度関数はほぼ完全であるが、M31 の方は M(4.5) = -9 付近から完全性が失われることが、傾きが平坦に変化すること から分かる。 化学的に分類された星と我々の AGB 候補 との類似は完全性の問題により暗い AGB 星を落としてはいないという確信を 与える。 (わざわざ完全性で1節設けて、この 怪しげな論理はないよな。ある意味参考になるけど。 ) マゼラン雲と比較 我々の Spitzer IR データをマゼラン雲と比較すると、 M 31 AGB 候補の検出 限界がより鮮明になる。DM(M31)=24.4, DM(LMC)=18.477, DM(SMC)=18.96 を 採用した。 図10には M 31 Spitzer 等級を示す。[3.6] = 15.4, M3.6 = -9, 付近から指数則からずれ始める。マゼラン雲の Spitzer 測光は非常に完全に近く(Meixner06, Gordon06)、光度関数のダストの強い 炭素星が位置し完全性が欠け始める所 で滑らかなコブを生じる。 (つまり、コブのピークがリアルか 不完全性で無理やり暗い方が押し下げられた結果かは不明。) M3.6 = -10 で光度関数の形が変化するのは整約パイプラインが 二つに分かれているための効果である。 M3.6 = -6 までかなりの不完全性がある。したがって、薄いダスト 層の AGB 星にはSpitzert等級が与えられないことがある。 (論理が分からない。[3.6] は減光 を受けた光球なのか、ダスト放射なのか?) |
図11には AGB 候補、化学分類された星、 x-AGB 星が示されている。 図12には Spitzer IR CMDs を示す。CMDs の形をマゼラン雲と較べて、 化学組成の違いによる別な特徴を検出できない。 | 星団の AGB 候補は全 AGB 候補と同じ領域を覆っている。つまり、それらは 全 AGB サンプルと同じ性質を持っている。 Spitzer サンプルは赤い。 |
x^AGBs がダスト生成の主役 「超星風」による強いマスロス期のほしは "extreme" または "x-" AGB 星と呼ばれる。マゼラン雲では AGBs の 6 % を占めるに過ぎない が、ダストの 95 % を生み出す。(Matsuura09, Boyer12, Riebel12. ) M31 においても Spitzer IRAC カラーと等級カットを使って x-AGBs を 選び出し、AGB 星からのダスト生成量を求めたい。 x-AGBs の基準 x-AGBs の基準は、 (1) [3.6]-[4.5] >: 0.25 (2) [4.5] < 16.4 mag (M4.5 < -8) 上の基準は AGB 候補カタログの細分類基準であり、新しい AGB 候補選択基準の一部ではない。この基準は、 以前に AGB 候補の追加で採用した、HST データに関わりなく、 [3.6]-[4.5] > 0.5 なら AGBs という基準と似ている。 [3.6]-[4.5] = 0.25 - 0.5 の星が AGB カタログに含まれないが、 このカラー範囲では他種からの混入が多いためである。もしこの 領域で AGB と決められる天体があったら、それを x-AGB に含める。 (x-AGB の基準がこの周辺領域では 曖昧になっている。統計を取る際にどう処理するのか?) x-AGB と分類した 4802 星の内、2597 = 54 % が追加基準で含まれた。 4.1.1.x-AGB 星の完全性M 31 x-AGB の比率がマゼラン雲に比べ低いことは、メタル効果を予想させる。しかし感度、定義の差、星形成史の問題もあるかも知れない。 |
感度の問題 中間帯データからは、完全性の問題で x-AGBs を落としている可能性が 示される。図3を見ると、Boyer19 が分類した x-AGB 候補星はダストと減光 が増加する方向に散っている。ダストが増加し、水分子による吸収帯が隠され て行くと、二色図上で赤化ベクトルの方向に右上に動いていき、ついには吸収 帯のないC-リッチとO-リッチの接合点に達する。 図13の赤外図にはマゼラン雲炭素星に見られる [3.6]-[4.5] > 2.75, マスロス率 10-4 Mo/yr に達するような星が M 31 には見えない M31 AGBs では O-リッチ星が主にダストを形成している。 M 31 での M4.5 = -9.12 という限界感度だと、マゼラン雲炭素 星では 22.4 % の完全度だが、O-リッチ星だと 98.9 % まで上がる。 星形成史 最近の星形成率が高ければ、高質量 AGB 星の比率は高まる。LMC は M 31 や SMC と比べ最近星形成活動が盛んであるが、x-AGB 比率でいうと両者の 中間に位置する。 (その理由は?) したがって、M 31 で x-AGBs 比率が低い理由を星形成史のせいにすることは できない。 選択基準 x-AGB 分類の目的は AGB ダストを放出する星を選択することにある。 この分類は恒星構造や進化に基づいた分類ではなく、星周層が厚いという 観測基準で決められている。マゼラン雲では x-AGB 基準が [3.6] が TRGB の 上にあり、j-[3.6] > 3.1 というものであった。HST と Spitzer の間 でのミスマッチを避けるため、我々は Spitzer データのみで x-AGB を定義 した。この基準の差、特に [3.6]-[4.5] > 0.25 というカラーカットが M 31 で x-AGB 比率が低い原因かも知れない。近傍矮小銀河では x-AGB 比率 が 2 - 6 % なのに、我々の M 31 x-AGBs は 1.3 % である。 |
星団 AGBs の同定 星団 AGB 候補星は最近 Girardi20 により同定された。ここでは我々の AGB 基準で星団 AGB 候補星を再同定する。図14と表2には Johnson15 の 年齢、メタル量、質量をまとめた。全部で 1356 星団 AGB 候補星を得た。 Girardi20 の星団候補星中 672/697 = 96 % がその中に含まれる。追加された 星団 AGB 星中 456/616 = 74 % が Girardi20 では扱われなかったブリック 1 か 3 に含まれる。残りの大部分は我々の基準 F160W < 18.28 mag に は適合するが、 Girardi20 の F160W < 18.14 には合わなかった星である。 混雑度 Girardi20 は PHAT で同定された M 31 星団天体は混雑度の影響を受けて いることを示した。混雑パラメターが星毎に計算された。しかし、それらは 0.2 mag 以内で影響が小さいことが分かる。 |
星団 x-AHGBs 我々の化学分類されたサンプルとスピツアー測光との組み合わせとから 星団内にかあ学分類された星 102 と X-AGB 候補 17 を同定できた。 付録 B にそれらを載せる。混雑度の影響でそれらの赤外フラックスを過大に 見積もっている可能性があり、再観測が望まれる。 フィールド星の混入 Girardi20 によると、星団候補星のうち約半数はフィールド星の可能性が ある。また。 log t < 8 の星団には AGB 星がないはずである。 304/1856 星団 AGB 候補星がそのような若い星団に属し、フィールド星と考えられる。 |
大質量星 blue loop 星や赤色超巨星はコアヘリウム燃焼を行い、観測的に互いを区別 できないので一つに扱われることが多い。それらを可視の等級、カラーカット で選別した。それらの進化段階は異なるのではないかと思われるが、ダスト 生成には寄与するのでここに AGBs と一緒に扱う。 RHeB 星の選択 図15に CMD 上での RHeB 星の選択を示す。境界線は、暖かく明るい星を 選ぶように眼視で決めた。境界線は以下の通り: (1)F814W < 22 mag (2)F814W = -2(F475W-F84W) + 26 mag より上 M31 星団 RHeB/RSG 星 184 個を調べたら、 65(35%) 個が Girardi20 AGB リストに含まれていた。我々のサンプルではこの割合は 14 個 (8%) に落ちていた。それは、我々が F814 - F160W カットを適用した効果である。 これは我々の方法がこれらより大質量の星からの混入を防いでいる証拠である。 分類 我々の RHeB 候補星の中で、 53 個が Ren et al 2021 の RSGs 候補リスト にあり、53 個が星団 AGB 候補、 88 個が化学分類された AGB 候補、 90 が Spitzer で追加された AGB 候補であった。 (結局あまり精度が高くない 選別なのか> ) |
![]() 図15.RHeB 星を切り取る 可視 CMDs. 図はブリック 18 の PHAT 測光。 これらの天体は我々のカタログ中にフラッグを立てて載せた。 |
炭素星質量範囲とメタル量 Boyer19 の領域では炭素星の性質を調べることができる。現在の恒星進化モ デルは炭素星へと進化する質量範囲に関して一致していない。メタル量が HBB と TDU 過程にどう影響するかが不明確であるが、炭素星質量範囲はメタル量 により大きく変化する。Karakas14 は Z = 0.007 で 1.75 - 7 Mo, 太陽メタル で 2 - 4.5 Mo, 高メタルで 3.25 - 4 Mo とした。一方、Ventura20 はより 狭い 2.5 - 3 Mo とした。観測はより低質量でより狭い質量帯を示唆する。 Marigo20 は CO wd の質量関数にコブを発見した。彼らはそれを炭素星の 低質量限界 1.8-1.9 Mo に対応すると考えた。我々はより高メタルでの Boyer19 サンプルを用いて、この化学遷移の問題を調べる。 炭素星光度関数 図8から分かるように、炭素星光度関数は [3.6] = -9 mag 付近でピークを 示す。ただしそこは図16にあるように、スピッツアーデータが感度不足に なり始めるところである。それより明るい方では測光が完全であり、炭素星 光度上限はしっかり現れていて、マゼラン雲より少し暗い。暗い方では [3.6] = -8 mag で急減する。O-リッチ星の光度関数がより暗い方向に 延びていることから炭素星光度関数の減少は感度低下ではなくリアルな下限 を示しているのだと分かる。 |
![]() 図16.M31 と LMC炭素星 (Boyer19,11) の [3.6] 光度関数。 斜線部は完全性が 90 % 以下。 M31O−リッチ星の光度関数も示す。O-リッチサンプルが C-リッチ星より暗い方まで伸びていることに注意。 |
4.5.1,M 31 メディアン SEDs吸収帯図17には化学分類された AGBs に対し、 [3.6] で区分けされた星のメディ アン SED を示す。O-リッチ AGBs では 1.39 μm 水バンドの吸収が明らか である。これは測光で水バンドが明らかにされた最初の例である。 C-リッチ SEDs には 4‐8 μm 帯で暗い星に CO + C3 吸収帯 が見える。明るい C-リッチせいでは SED が x-AGBs と似てくる。これは サンプルの x-AGBs が c-リッチであることを示唆する。 x-AGBs M 31 x-AGBs は主に O-リッチであろう。x-AGB SEDs が明るい C-リッチ SEDs とよく似ているのは観測的に x-AGBs を選ぶ際のバイアスと思われる。 |
4.5.2,M 31 とマゼラン雲との メディアン SED 比較M31 の赤外が明るいがM 31 とマゼラン雲の SEDs の違いは、M 31 の IR フラックスが大きいこと である。これは我々が暗い星を落としがちなことに関係するようだ。また、 長波長で空間分解能が悪いこと、 Khan17 データの較正が悪いことも関係する。 バンド強度と M/C 分離の混入 マゼラン雲と較べると、M31 の炭素星は CO+C3 帯が暗い星に 向かって強くなる。これは HST 中間帯測光による M31 での C/M 分離が J-Ks を使った マゼラン雲での分離よりしっかりしているためではないか?この幅広な吸収帯が われわれの GSC と Khan17 のより長波長でのカタログの差び関係するとは思えない。 |
![]() 図18.AGB 候補星の空間分布。混んでいるブリック1 と 3 は除く。 最も明るい区分の星は 10 kpc リングに存在する。 |
![]() 図19.x-AGB 候補星の分布。 星形成史とAGBs 分布 星の年齢、メタル量、数密度は PHAT により M31 全体で特性付けられた。 この情報を使い AGBs の空間分布を調べられる。PHAT 観測領域内にはバルジと3つのリングが含まれる。内 10 kpc リングは強く、 5, 15 kpc リングは 弱い。10 kpc リングでは過去 500 Myr に渡って続いている。しかし、 大部分の星形成は 8 Gyr より前に起きた(Williams17)。では、 AGB 星の 分布はこの星形成史と合うだろうか? 暗い星ほど滑らかな分布 図1を見ると、 AGB サンプルはバルジに集中して外側に向け滑らかに低下 して行く。 10 kpc リングの縁が見え、その外側円盤では星形成が低いことを 示唆している。図18には [3.6] の区分ごとの分布を示す。最も明るい集団 が 10 kpc リングを示している。そこは最近の星形成活動が起きている個所で あり、高質量 AGB 星や RSGs が存在するはずの場所でもある。暗い星の集団 へ移ると空間分布は次第に滑らかになる。これは星が形成された場所から次第 に移住していくことを表しているのかも知れない。 x-AGBs の分布 図19= x-AGBs の分布にははっきりと 10 kpc リングが現れている。 しかし、同時に r < 10 kpc の x-AGBs も多数存在する。 これはダスト形成が高質量 AGBs に限られてはいず、AGB ダスト放出が 10 kpc リングの内側でも滑らかに進行していることを示唆する。 M 31 円盤の傾きは星間赤化を通じて x-AGB 分布に影響する可能性もある。 |
![]() 図20.上: AGB/RGB 比マップ。赤=RGBs 圧倒的の古い領域。 10 kpc 外側はサンプル数不足で図が乱れている。 下:Utomo19 からのダストマップ。 リングの拡散 Dalcanton et al. (2012) は 10 kpc リングで RGBs が密度超過であることから、これが長期間維持され てきた構造であると述べた。 Lewis et al. (2012) は 10 kpc リングの巾が古い星ほど広いことを見出した。これは分子雲中で 形成された星が母雲から離れていく(Harris,Zaristsky99, Bastian09) こと を示している。このシナリオは図18に示す空間分布とも合う。これらから、 RGBs も 暗くて古い AGBs と同じように拡散化が進んでいると考えられる。 RGB サンプル RGB 種族の定義を F110W-F160W = [0.5, 1.2] で どちらの等級でも TRGB から 1 等下までの星とする。 (RGB はここで初めて定義されてい るように見える。青天井で TRG より上の AGB は気にしない、TRGB より上 に引いた AGB ラインの下とし、そのラインの下と TRGB の間の AGBs は気に しない、それとも明るい方を TRGB までとし、E-AGB の混入を無視している と考えるのか、3番目が良さそうが。 ) ブリック 1, 3 は混み過ぎで除く。各領域で RGBs の完全サンプルではないが、 このサンプルを相対的年齢比較に用いる。完全性の問題は RGB サンプル (N=1,058,694 星) を PHAT の完全性限界より上から採ることで回避する。 (完全性と年齢比較の関係が 不明。) この比は絶対値として較正されていないが相対的年齢指標として使える。 |
![]() 図21.上:x-AGB, AGB, RGB の分布。下 x-AGB/RGB の分布。 AGB/RGB 比 図20に AGB/RGB のパップを示す。これは各区域での種族年齢を示す。 M 31 の小さな領域では Hamren15, Boyer19 が既に行っている。このマップを Utomo19 のダストマップと比べると、10 kpc リング内で AGB 増強域がダス トの多い所をなぞっていることが分かる。また RGBs が動径に従って滑らかに 減少して行くのに対し、 AGBs は 10 kpc でコブを作ることがわかる。 x-AGB/RGB 比 図21には x-AGB/RGB 比を動径に対してプロットした。その振る舞いは フル AGBs と似ていて 12 kpc にはっきりした盛り上がりが見える。x-AGB の割合がリング内側で合う (何と「合う」か不明。 ) が、ピーク位置が少し外側にあるのは 10 kpc リングから外向きの小さな拡散 が生じていることを意味するのかも知れない。 完全性の問題 M31 恒星種族の研究では完全性の問題を考慮しなければならない。スピッツ アーデータ= x-AGB サンプルは銀河中心付近で混み合い制限をより強く受け ている。また、RGB サンプルは HST 画像から選ばれているが、x-AGB サンプ ルはスピッツアーから選ばれるので、RGB サンプルの幾つかは 10 kpc リング 内ダストで失われているかも知れない。どちらの完全性問題が緩い 動径距離が大きな所で、 x-AGB の割合が低いのは、 10 kpc リング外側で 実際に密度超過があることを意味するのかも知れない。 |
カラー - DPR 関係 Groenewegen, Sloan (2018) は LMC/SMC AGB 星の赤外スペクトルをモデルフィットして、Vexp= 10 km/s, ガス/ダスト=200 の仮定で、ダスト形成率と光度を求めた。我々は彼らの ダスト形成率- [3.6-4.5]カラー関係を二次式でフィットした。炭素星と O-リッ チ星のそれぞれに分けて、二次式フィットを行った。それらは 22 図で、 y = -9.335 + 2.634 x - 0.310 x2 (O-リッチ) y = -10.256 + 2.396 x - 0.407 x2 (C-リッチ) と示されている。 (G18 には DPR-[3.6-8.0] 図はある。 DPR-[3.6-4.5] 図はない。図22は DPR-[3.6-5.8] であり、[3.6-4.5] ではない。) この関係を PHAT 領域中の [3.6] と [4/5] のある AGB 星に適用して (ブリック1, 3 を除く) ダスト形成量を求めた。 (そうやってカラーだけで DPR を決 めたなら、図22の点の広がりをどう説明するのか?[3.6-4.5]-[3.6-8.0] 関係の広がり? 非常な混乱か間違いがある?) O-リッチ ダスト放出比 ブリック 1, 3 を除く PHAT 領域全体で [3.6], [4.5] を持つ AGB 候補星か らの総 DPR は、炭素星から 1.19 10-5 Mo/yr, O-リッチ星から 2.13 10-4 Mo である。 C- リッチと O-リッチの識別は完全ではない。割合を評価するために、中間 帯バンドで分類が行われた X-AGB 329 星を見ると、86 % O-リッチである。 それにさきのカラー - DPR 関係を適用すると AGB ダストの 97.8 % が O-リ ッチとなる。これは Riebel12 による LMC での結果:3 % の O-リッチ x-AGBs から 13 % の O-リッチダストが生まれる、と対照的である。 総放出量 PHAT 領域が M 31 の 1/3 程度なので、 M 31 全体で AGB からのダスト放出率は 6.39 10-4 Mo/yr である。 |
![]() 表3.M31 ダスト質量と AGB ダスト放出が占める割合の過去の研究。 |
5.2.ダスト注入率Draine14 はスピッツアー IRAC データを用いて、 M31 の総ダスト量を 5.4 107 Mo と計算した。しかし、 Dalanton15 はそれが 減光をファクター 2.5 大きく見積もっているとした。表3に示すように過去の 研究は様々な方法で AGBs が形成するダスト量を見積もっていた。カラー - DPR 関係: Matsuura09 赤外超過 - DPR 関係: Boyer12 SED フィット: Riebel12, Srinivasan16 |
5.3.ダスト収支仮定Jones, Nuth 2011 は星間ダストの寿命評価が甚だ怪しいことを示した。 しかし、それでも一応ダスト収支を試みる。M31 ダスト量として Drain14 の 値を 1/2.5 倍にして 2.16 107Mo とする。また、 M31 で最古の 星 12 Gyr が出来てから DPR は一定とする。また以下の仮定をおく。 1.ダスト破壊=0と仮定すると、 AGBs は M31 ダストの 35.5 % = 7.67 106Mo を生み出すには十分な量を生産できる。 2.MW でのダスト寿命 300 Myr (Draine, Salpeter 1979, Jones94) を仮定 すると 僅かに 0.9 % = 1.92 105 Mo のダストしか説明できない。 前太陽系ダストの星周環境特徴 前太陽系ダストは種々の星起源の星周環境の特徴を備えたダストが無視でき ない割合で存在することを示す(Gail09). M 31 のダストが星周環境の特徴を 保持しているかどうかは不明である。ダスト収支をより確実にするためには、 MIR でのより高感度な観測が必要である。 |
AGBs の検出 PHAT は 346,623 AGB 候補を検出した。そこから選ばれた 4,802 AGBs が M31 からの AGB ダストの主要放出源である。星団に帰属する AGBs 候補星を 1356 個発見した。星団の幾つかは年齢とメタル量が分かっている。 C/M 比 以前に C-リッチかO-リッチかを決められていた星を マゼラン雲の星と比較 した。 M31 AGBs は O-リッチが支配的である。AGB で作られるダストの 97.8 % は O-リッチである。 |
10 kpc リング 高光度でダスティな AGBs は 10 kpc リングに随伴することが多い。 古く、赤外で暗い AGBs はより一様な分布を示す。これは拡散の進行 シナリオに合う。 AGB ダストの寄与 LMC x-AGB 星のカラー - DOR 関係を M31 AGBs に適用して、それらの DPR を求めた。星間空間でのダスト寿命シナリオにより、星間ダストへの AGB 寄与 は 0.9 - 35.5 % に広がる。 |