l = [12, 100], b = [-5, +6] の CO サーベイを角分解 1° で行った。 l = [20, 60] では b をもっと広くした。CO 放射の約半分は Great Rift に伴う 近傍雲から、半分は R = 4 - 7 kpc の内側腕内の雲から来た。視線速度を用い、 Rift を 太陽距離 200 - 2300 pc の 10 個の分子雲に分解できた。 | 近傍のリフト 雲は 数 104 Mo - 数 105 Mo である。そう大きいという わけでもない。近傍雲の平均半値半径は 75±25 pc であった。銀河面上 での分子密度は 0.013 Mo pc-3 である。CO 積分強度と可視減光との 相関は殆ど全ての暗黒雲が分子雲であることを示す。 |
グレートリフトに沿った分子雲を調べるため、第1象限の大部分と、第2 象限の一部の低分解 CO サーベイを行った。表1にまとめたように、観測は 一様で、 l = [12, 100], b = [-5, +6]、ある部分では特定の分子雲を観測 するために b = +11 まで拡張して行われた。分解能は 1° である。 |
![]() 表1.観測パラメタ― |
望遠鏡 ゴダード・コロンビア 1.2 m 望遠鏡を用い、115 GHz CO 観測を行った。 望遠鏡のスペックは表2にまとめた。 サーベイ (1/8)° づつ離して、8 × 8 ラスタースキャンを行い、その 64 スペクトルを足して、分解能を 1° にした。 ![]() 表2.望遠鏡パラメタ― |
![]() 図1.l = 25° でのサンプル CO スペクトル。 b = +11°, +10°, -4°, など銀河面から遠く、CO 放射のない箇所でベースラインが非常に 平らであることに注意。+ 70 km/s 成分は遠方の内側銀河天体。 |
図3=速度積分した空間マップ 図3a は図1に示されるような全視線速度を積分した等高線を示す。 l < 45° に Δb = 2° の強い尾根が見える。これは盾座腕と 4 kpc 腕の分子雲で、分子リングと呼ばれている。これは銀河中心の周りに 軸対称な分布を仮定しているための名前である。この遠方成分を除去するため、 図3b では積分速度範囲を v = [-10, +20] に限定した。図4は少し異なる ( v = [-10, +34] にした。) が同様のマップを、ウィルソン山の写真モザイク と比べた。図45での速度上限 34 km/s は、グレートリフトに属する雲を 全てすくい上げるために設定された。二つの一致は大変に優れている。 写真上の暗黒雲はほぼ全てが分子雲で、逆もまた正しい。リフトの中で目立つ 二つの成分は鷲座リフト(Aquila Rift) l = [20, 40] と白鳥座リフト (Cygnus Rift) l = [65, 85] である。 図5= (l, v) 図 図5a では、v < 20 km/s では観測した全銀緯に渡る積分をプロットし、 v > 20 km/s では b = [-2.5, 2.5] に積分を限定している。銀緯の高い ところでは高速の放射はないからである。その結果、v < 20 km/s では ノイズレベルが低速部の2倍となった。等高線間隔 1.75 K deg は 20 km/s 以下でのノイズピークに合わせて設定されたが、この値は右図、コロンビア サーベイのノイズよりずっと上にある。したがって、図5a は遠方の雲を 十分完全には拾えていない。 遠方雲をはっきり示すため、図5b では銀緯積分区間を b = [-2.5, +2.5] とし、速度分解能を 5.2 km/s と下げ、等高線間隔を 0.75 K km/s にした。 こうして、W 44, W 50 を含む内側銀河の最も目立つ分子雲複合体が現れてきた。 図5c ではコロンビアサーベイの分解能を落として図5b と比較した。等高線 間隔は同一である。両者の一致は極めて良い。僅かな差は鷲座リフトの近傍雲や サジタリウス腕にのる W44 や W50 に付随する雲で 1 度より大きく広がったもの のせいである。 |
![]() 図2.銀河面から 3° 以内のサーベイでカバーされた領域。 v = [-10, +20] km/s 積分に対応する領域も斜線で示した。 |
図5b と図5c の比較 今回の観測とコロンビアサーベイを定量的に比較するため、図6では 銀経分布をプロットした。一致は大変よい。 |
![]() 図6.実線: b = [-1.5, 1.5], v = 全部積分。破線:コロンビアサーベイの b = [-1, 1], 銀経分解能 1 度になました速度積分。 M16, W44 は広がり角が コロンビアサーベイの銀緯範囲を超えている。 |
![]() 図7.ΔR = 250 pc ビンに区切った見かけ CO 輝度。グラフの作成は各速度帯 の強度を運動銀河中心距離ビンに入れて行った。グラフは、サーベイに寄与する CO 放射がどの銀河系中心距離からのものかを示す。 図7を見ると、観測された CO 放射は近傍の主にグレートリフトに属する 局所雲と、遠方の分子リングからの寄与がほぼ等しい。 |
![]() 図8.速度、銀緯で積分して得た、CO 強度の銀経変化。下の細線は b = [-1.5, 1.5] 積分。上の太線は観測した全銀緯積分。 グレートリフトの主な成分は、鷲座リフト l = [20, 40], 白鳥座リフト l = [70, 87], Cyg OB7 分子雲 l = [88, 96] である。鷲座リフトは分子リングの前面 にあり、このためいくつかの研究グループが分子リングの密度を過大に評価する 原因となっている。SAS2 γ線サーベイは b = [-10,10] と大きな銀緯巾の 視野を持ち、従って、局所雲からの寄与が大きくなるのに、比較される CO サーベイは 銀緯巾が小さいため、大きな γ線強度を説明するのに、分子リングの密度を 上げざるを得なかったのである。 |
構造A 図5で v = +10 km/s 付近の縦帯が図4に見えるグレートリフトである。この 帯は Lindblad 1967 21-cm HI (l, v) 図で構造Aとされているものの分子対応天体である。構造 A は 全象限で存在が確認されている。CO と似て構造Aは銀緯の広がりが大きく、速度 分散が小さい。どちらも、低銀緯では遠方の内側円盤に対して吸収で、高銀緯では 輝線として観測される。 Lindblad et al 1973 は構造Aを太陽を囲む膨張ガスリングで、グールドベルトの若い星および グレートリフトの暗黒雲に関係するのではないかと示唆した。しかし、この関連は 21-cm 観測のみでは確認できなかった。我々の CO 観測はこの関連を確立した。 構造Aとその分子対応構造はグレートリフトを作るグールドベルト暗黒雲から 生み出されている。 グレートリフトの本質 グレートリフトの本質は長年の問題であった。最近でもNeckel, Klare 1980 の ように、リフトをいくつかのほぼ一様な減光の天体の組み合わせで表現しようと する試みがある。しかし、我々の CO 観測によれば、リフトを独立な分子雲に 分解するのは容易である。なぜなら、視線方向で重なっていても図5のように、 視線速度では分離するからである。図9にはこうして分離した雲が示されている。 雲までの距離は遠い場合は運動距離、近くでは帰属する種族 I 天体を用いて 決めた。個々の雲の距離に関する議論は付録を見よ。 個々雲の物理量 個々雲の物理量は表4にまとめた。雲半径は (A/&pi)1/2 として 定義した。ここに A は距離と見かけ立体角から計算した。雲質量は、N(H 2/WCO = 2.7 × 1020 cm-2 K-1 km-1 s と平均分子量 = 2.76mH から 計算した。表4にはビリアル質量も載せてある。その計算には ΔV = ラインの FWHM, R = 雲半径とし、雲を一様密度の球として、
で与えられる。 表4を見ると、半径で一桁、質量では二桁の散らばりがある。コロンビアサーベイ で見つかった遠方の雲と比べてほぼ平均的な雲である。ビリアル質量と CO 質量の比は 2.2 &pllusmn;1.3 で雲がビリアル平衡に近い状態にあることが 分かる。この R - ΔV 関係は分子雲距離を導くのに使われる。 |
鷲座リフト グレートリフトの中で最も明るいのは鷲座リフト l = [20, 40] である。 これは 1 × 105 Mo で 150 pc 離れた単一分子雲である。 この雲は ρ Oph 分子雲と低温で広がった HI 雲、 l = [345, 25] に HI 自己吸収として見える、 の双方と関連している。Lebrun, Huang 1984 は、 ρ Oph と 鷲座リフトを空間的、速度でもつなぐかなり広がった CO 放射 を発見した。図4でも鷲座リフトから右上へ伸びる暗黒帯の一部が見えるが、 この帯で二つの雲はつながっているので、この結果は当然である。鷲座リフトと 低温 HI 雲は角度で同じくらい大きく、同じように正銀緯側にずれていて、 l = [20, 25] では部分的に重なっている。視線速度と線巾も似ている。 この三つの雲は従って、銀経にして 55 度に渡り伸びる、単一の低温ガスの 帯なのかも知れない。これは実長にして 140 pc である。そして、帯自体は Lindblad et al 1973 が主張する膨張リングの一部なのかも知れない。 ![]() 図10.グレートリフト雲の半径 R とライン巾 ΔV の関係。A, C 白丸 = 雲 A, C が近運動距離 ∼ 2 kpc にある場合、Vul Rift 白丸 = 雲が Vul OB1 アソシエイション距離 (2.3 kpc) にあった場合。直線は Dame et al 1985 の 内側銀河系雲のライン。 |
太陽系の銀河面振動 距離が決まると、分子雲種族の厚みと密度が分かる。これは銀河系構造にとり 興味があるばかりでなく、以下に述べるように地質学的な意味もある。Rampino, Stothers 1980 は、太陽系が銀河面の上下に振動する際に分子雲と遭遇し、 それが巨大隕石孔や生物の大量絶滅に現れる三千万年周期の原因ではないかと 述べた。彼らはそのような時には太陽系外辺部の彗星の雲をかき乱し、多数の 彗星を内側太陽系に落とし、いくつかが地球に衝突するのであると考えた。 Thaddeus, Chanan 1985 は太陽系振動の振幅 72 pc と分子雲層の厚みの比がこの 推論に決定的な値であることを示した。彼らはコロンビア探査に基づき、太陽円 での平均半値幅 85±20 pc では、隕石孔や大絶滅の数個のサンプルから 統計的に有意味な周期を導くことは無理であると論じた。明らかに、純粋に観測 的な見地から分子雲円盤の厚みを求めることが大事である。 局所雲の定義 局所雲として、表4にある太陽から 1 kpc 以内の雲を指す。仮定として、 白鳥座リフトはシグナスXを通って伸びており、その強度は l < 74° での 平均強度に等しいとする。図11の太線は当該領域における分子ガス密度の銀河面 からの距離 z による変化である。 3象限のガスを含めると この研究で扱っていない他の3象限のガスを含めると平均厚みは数十 pc 増加する。 と言うのは、我々はグールドベルトの高銀緯雲、へびつかい、牡牛、オリオンの銀河面 から 10° - 25° 離れた雲は殆ど扱っていないからである。オリオン星雲、NGC 2023, NGC 2068 に付随する分子雲複合体の z 分布は図11の薄線で示した。このように、 他の象限の雲を加えると平均厚みは 75 pc 程度になる。また、銀河面密度は 0.013 Mo pc-3 = 0.2 H2 cm-3 = 2 Mo pc-2 で ある。 |
![]() 図11.太線=太陽から 1 kpc 以内の分子雲質量の銀河面高度 z による変化。 点線=オリオン・一角獣領域の質量の高度分布。 |
1.グレートリフト グレートリフトは少数のはっきり区別できる分子雲から成る。その内最も目立つ 4つは鷲座、子ぎつね座、白鳥座リフトと、アソシエイション Cyg OB7 に随伴 する。ウィルソン山モザイク写真との対合は、暗黒雲と近傍分子雲との一対一対応 をはっきりと示す。 2.分子雲質量 近傍分子雲質量は遠方の分子雲と比べるとそう大きくない。それは数 10 4 − 数 105 Mo である。 |
3.遠方雲のもつれ 内側銀河が l < 50° では銀河面でのもつれを生じる。大きく言って、 観測された放射は銀河中心から 10 kpc 離れた太陽近傍からと、 4 - 7 kpc 離れた盾座、 4 kpc 腕とからが半々である。 局所分子雲の厚み 局所分子雲の厚みは、半ピークでの巾の半値をとって、75 ±25 pc である。 |
a). M 17 遠いのでグレートリフトの中では目立たない。銀緯が低いので、図4 CO マップでは目につき表に入れた。Dame et al 1985 はこれを二つに分けている。 ここでは単一天体とした。距離は Crampton, Georglin, georgelin 1978 の 分光視差を用いた。この複合体は強い背景放射に埋もれていて、ライン巾、質量 の決定は難しい。ここでは Dame et al 1985 に従った。 b). 鷲座リフト 様々な距離推定は大体 200 pc で一致している。しかし、それは銀経と共に増 加し、 l = 20 で D = 150 pc から l = 40 で D = 300 pc となる。この傾向は Lindblad et al 1973 の膨張リングモデルの性質と合致する。第5章で述べたように、鷲座リフトは より低銀経で Riegel, Crutcher 1972 が発見した低温度 HI 吸収シートの拡張 なのであろう。その傾向は Fitzgerald 1968 の図 10, 11, 12 (多分、図 5, 6, 7 の間違い)に示されている色超過と距離 の関係図に明らかに見て取れる。 ( 見てもあんまりよく分からない!) Neckel, Klare 1980 の類似グラフは距離 250 pc を示唆している。彼らの領域 254 中心 (21, +40) と 260 (30, 0) は鷲座リフトの半分以上をカバーしている。 Lucke 1978, Sherwood 1974, Krautter 1980, Forbes 1985 も 200±100 pc を与えている。 c). W 50 暗黒雲として見える Huang, Dame, Thaddeus 1983 中では最も大質量かつ遠方にある。Dame et al 1985 は それを3つの成分に分解したが、おそらく相互に関連している。今回の目的には 単一天体として扱うので十分である。角サイズが大きいので距離は近距離 2.2 kpc を適用。 d). 雲 A と C 非常によく似ており、一緒に論ずる。近運動距離は 2 kpc だが以下の理由で ずっと近いだろう。 (1) グレートリフトの遮蔽に大きな貢献をしている。もっと低速の雲がない。 図5を見よ。 (2) Neckel, Klare 1980, Fitzgerald 1968 の吸収研究では 500±100 pc である。また、 Forbes 1985 の OB 星吸収の研究によると D = 700 pc - 2 kpc の吸収は殆どゼロである。 (3) R - ΔV 関係はもっと近い距離を示唆する。 (4) 偶然かも知れないが、二つの雲が銀経で並んで、二つのギャップを低速度側 に持つのは(図5)理由が何であれ、これらの雲が異常に大きな LSR 速度を持つ ことを示す。 (よく分からない!) 雲Aは多分ダスト雲 L 673 を伴う。と言うのは HH 天体の距離が 300 pc くら いだから。ここでは R - ΔV 関係からの 500 pc を採る。 |
e). 雲B 場所と速度から多分鷲座リフトの延長だろう。そこで距離 300 pc を採る。 これは鷲座リフトの高銀経側の距離(Sherwood 1974) である。この雲は Neckel, Klare 1980, によりかなり一様な吸収が認められた箇所と重なる。 f). 子ぎつね座 OB1 子ぎつね座(Vul) OB1 アソシエイションは距離 2.3 kpc である。一方、 Neckel, Klare 1980, はこの方向 400 pc にダストを配置した。Vul OB1 は雲の作る部分弧の中心 近くにあり、両者は関係しているらしい。しかし、 R - ΔV 関係も近い 距離を押す。 g). 白鳥座リフトとシグナスX 我々は白鳥座リフトをもっと強烈なシグナスXと区別する。白鳥座リフトは グレートリフトを形作る、第1象限から第2象限にかけての低速度雲の一部であろう。 一方、シグナスXの方は局所腕を接線方向に見ていて、速度が込み合っているのである。 白鳥座リフトは l = 86° までシグナスX領域の前面に伸びている可能性がある。 しかし速度が込み合っていてリフトと腕の分離はできない。白鳥座リフトに沿った吸収 研究は強い吸収が 700±100 pc から始まるとしている。白鳥座リフトは l = [64, 74] ではシグナスXと重なっていないので、平均速度や速度巾はそこで 測定された。l = [64, 74] で決めた質量をシグナスXにまで広げ、 2.9 倍して 白鳥座リフトの質量とした。一方、シグナスXのパラメタ―はそれが最も強い、 l = [74, 85]、b = [-2, +2] で決めた。Cong 1974 はシグナスX領域は多数の 分子雲が D = 500 - 2700 pc に渡って存在するとした。我々はここでは Cong 1974 が同定した 16 個の大きな分子雲の平均として 1700 pc を採る。 h). Cyg OB7 Cyg OB7 と Cep OB2 アソシエイションはこの雲の低銀経端と高銀経端に 存在する。その視線速度は雲と近い、またアソシエイションの星が雲と作用 している証拠もあるので、その距離を雲距離として 800 pc である。 |