Carbon Monoxide in the Inner Galaxy: The 3 Kiloparsec Arm and Other Expanding Features


Bania
1980 ApJ 242, 95 - 111




 アブストラクト

 内側銀河の CO 銀緯分布の観測から、濃い分子雲の多くが l で数十度に及ぶ 幾つかの大規模構造に属することが分かった。最も目立つのは回転中心円盤、 3 kpc 腕、それに +135 km/s 構造である。これらは HI でも見えるが、全体 として銀河回転から 50 - 180 km/s の速度の逸脱を示している。(l, v) で 見ると、 3 kpc 腕と +135 km/s 構造は単純な運動学的円環で記述できる。 しかし、 R = 4, 3.5 kpc にある二つの不完全円環の追加が要求される。
 後者の二つの CO 放射は雲塊状である。単純な円環距離を仮定すると、雲の サイズは 125 pc となる。
 二つの不完全円環の水素質量は 2 × 10 7 Mo である。従って内側銀河には少なくと二つの長さ 2 kpc に 伸びた雲があり、共に銀河中心核から外側に 4 × 1054 ergs で膨張速度を示している。もしそれらを 90° 角の 弧とすると 1.3 × 1055 ergs の膨張エネルギーは爆発モデル への制限となるだろう。この構造は l = 0 を -53 と +135 km/s で交差する ので、対称性爆発や軸上の棒回転(?)では観測の特徴を説明できない。爆発や 棒は強い衝撃波を形成し、それが星形成を生み出す。しかし、そこに大量の 電離ガスがある証拠はない。
Ro = 10 kpc, Vo = 250 km/s 仮定。


 1.イントロダクション 

 銀河面から飛び出す構造 

 CO J = 1 - 0 サーベイ観測の多くは l = 0 に限定されている。しかし、 Listz, Burton 1978 の |b| < 2° CO 観測は HI 観測から提案され ていた傾いた中心核円盤を CO でも確認した。その他にも、銀河面から外れ た構造が銀河中心域には潜んでいるかも知れない。CO は線幅が狭く、 HI よりは近傍ガスの混入の影響が少ないという利点がある。
 3 kpc 腕 

 銀河核円盤の次には 3 kpc 腕が非回転運動を示す点で興味深い。これは 21 cm HI 観測で、Woerden, Rougoor, Oort 1957 により発見された。 Bania 1977 による l = 0° CO 観測によると、大きな正視線速度が太陽から 10 kpc 以上離れた円環部から期待されるのに見えなかった。したがって、この円環 が銀河面に対し大きな傾き角を持っているのでなければ、円環は不完全なの であろう。  こうして、ここでは l = [350, 25], b = ±20 に 沿った CO 観測を b = 0 での HI, CO 観測と比べることにした。


 2.観測 

 データ 

 12C16O J =1-0, λ = 2.6 mm の観測は NRAO 11 m 望遠鏡で行われた。データを 図1a, b, c に示す。b は Gordon, Burton 1976 と Bania 1977 の足し合わせである。

 概要 

 l > 0 では b < 0 側で CO が 強い。l < 0 で CO は b = 0 または +20 で等しい。(意味不明)l < 0 で 正速度禁止領域に 強い CO 放射が観測される。その大部分は 雲塊1のせいである。


図1b.b = 0 での CO (l, v) 図。

図1a.b = +20 での CO (l, v) 図。
 HIIR 

 マップに現れた CO 模様の大部分は明らかに HIIR に起因している。b = 0 CO マップには明るい(≥ 1 Jy) H 109α 電波源、 Pauls, Mezger 1975, Lockman 1979, Downes et al 1980 の位置を表している。多くの再結合線源は一般に (l, v) = (10, 0) から (22, 80) へ続く CO の強い尾根に乗っている。 l = [353, 359] は HIIR が少ない。
 明らかに HIIR と随伴している CO 雲については後にまとめる。





Bania 1977 図2.b = 0 での 模式図。





図1c.b = -20 での CO (l, v) 図。


 3.高速成分 


図2.上:図1の平均 CO 強度の (l, v) 図。斜線部= Ta > 5 K.
   下:HI b = 0 (l, v) 図。斜線部= Ta > 75 K.
 回転中心核円盤 

 l = [352, 6] の CO の多くが Burton, Liszt 1978 の傾いた回転円盤モデル で説明できる。最新モデル Liszt, Burton 1980 では、ガス運動は楕円軌道で 中心核領域外からの物質流入はない。

 3 kpc 腕 

 図2に CO 平均強度と HI の (l, v) 図を比較した。  (l, v) = (350, -100) から (12, +25) まで伸びるラインが 3 kpc 腕である。 HI では l = 6 より先には追跡不能である。l > 0 では b = -20 で最もはっきりしているが、逆にl < 0 では b = +20 で最もはっきりしている。しかし、図1c( b = -20) を 見ると、 b = +20 でギャップがある個所に 3 kpc 腕 の放射が見える。これらのデータは v > 50 km/s の放射を検出していない。 これは 3 kpc 腕が連続した円環を成しているならば見えるはずの速度である。
Cohen, davies リングモデルでは l = 23.6 が端点となるが、実際そこでの CO は強い放射を示す。 図3に l = 23.5 での CO 銀緯マップを示す。放射の 多くが b = 0 より下部に来て、 v = 78 - 108 km/s に分布する。3つのピーク が見えるがこれは HIIR に伴うものである。と言うのは、この (l, v) で H 109 α が検出されている (Lockman 1979) からである。この想定端点はしかし、 運動学的には矛盾する。モデルでは 110 km/s に来るはずだからである。




図3.l = 23.5° における CO (b, v) 図。v = 110 km/s 付近の吸収は不安定チャネル の影響であり、リアルではない。


+135 km/s 成分 

 図1a で (l, v) = (354, +90) から (9, +180) に続く尾根が見える。 HI でも (l, v) = (0, 135) を通る尾根が見える。 HI は Sgr A 連続波 に対して吸収を示さないからこれは銀河中心の向こう側にあり、3 kpc 腕と同様に、膨張している成分である。この 135 km/s 尾根の終点は (l, v) = (355, +100) 付近にある。これは Bania 1977 で「雲塊1」と呼ばれたものである。
 図4に、「雲塊1」の存在する l = 355° における CO (b, v) マップを 示す。ピークが b = 0.4° にあることが分かる。また、(0.2, -80) には 3 kpc 腕が、(-0.2, +40) には別の塊りが見える。
 この構造が銀河中心の向こう側に位置するもう一つの膨張リングかどうかはっきり しないが、(l, v) 勾配が + 300 km/s/rad で 3 kpc 腕とは著しく異なる。



図4.「雲塊1」の (b, v) 図。v = +100 km/s の構造が b で 0.5° に渡り広がっている。 3 kpc 腕は (b, v) = (0.2, -80) に見える。





表2.|l| > 2° の CO と HI 再結合線の位置が一致した天体

 4.放射スペクトルの特徴 

 H 再結合線天体の特徴 

 2種類の CO 天体 

 第1タイプは HIIR を伴う巨大分子雲複合に属し、 Ta = 10 - 50 K, Δv = 5 - 10 km/s である。一方、第2タイプは可視 暗黒雲で観察された特徴で Ta = 2 - 10 K, Δv = 2 - 4 km/s である。CO サーベイでは、 第2タイプ暗黒雲の数は第1タイプよりずっと多い。例えば l = [10, 36], b = 0 では、巨大 HIIR の多くがこの領域にあるに拘わらず、 Ta ≥ 10 K の個所は殆どない。(Gordon, Burton 1976)

第2タイプに付随する HIIR 

 これら低表面輝度の暗黒星雲型 CO 雲にも HIIR が付随する。近傍 OB アソシエイションの詳しい CO マップから、調べたアソシエイションは全て 巨大分子雲複合にとり囲まれていることが分かった。そのような OB アソシエイション を通る間隔 12' のサーベイでは、低輝度で幅が 5 - 10 km/s の輝線を観測する であろう。

( ここの輝度は輝線でその前に出た CO の Ta とは違うことに注意。低輝線 HIIR と 低輝度暗黒雲は関係があるのか ないのか、意味不明。)


 CO と 再結合線 

 以上が実際にどうかを表2で見てみる。ここには CO 輝線が水素再結合線と 随伴していると考えられる例が並んでいる。この領域では独立した F(5GHz) > 1 - 2 Jy の電波源(Altenhoff 1970, 197) は全て H 109α で 観測された。Pauls,Mezger 1975, Lockman 1979, Downes et al 1980. 表2には、再結合線から 5 lm/s 以内にある CO ライン天体は表2に載せた。 ただし、複雑な |l| < 2° は省いた。観測がアンダーサンプリングで、 かつ再結合線観測は感度制限があることを考えると、表2の CO/HII 複合の 数は下限値である。


 3 kpc 腕と 135 km/s 構造 


表3.膨張を示す雲塊のパラメタ―

 雲塊の大きさ 

 表3には 3 kpc 腕と +135 km/s 構造を構成する 21 個の CO 雲塊の平均 的な性質を載せた。13CO データがないので H2 質量は確かではない。しかし 雲の核では HI の割合は 1/4 以下である。雲塊の平均サイズは 3 kpc 腕で 1.1°, +135 km/s 構造で 0.6° である。仮に表4にある 4 kpc と 3.5 kpc を銀河中心からの距離と看做すと、雲のサイズは共に 125 pc となる。 質量は 2 × 106 Mo である。この大きさは近傍の OB アソシエイションを囲む分子雲複合体とほぼ同じである。この大きさは 潮汐分解の限界近くにある。

  3 kpc 腕 

 銀河系中心から見て 90° 角の 3 kpc 腕の総質量は 6 × 10 7 Mo である。その膨張運動エネルギーは 4 × 1054 erg


図5.12CO 輝線の Ta と Δv のプロット。 三角= 3 kpc 腕の雲。白丸= +135 km/s 構造の雲。黒丸= HII と付随した雲。

表4.高速度成分の運動パラメタ―



CO/HII 一致天体

 図5には CO/HII 一致天体の放射の性質をプロットした。それらの性質は 他の 3 kpc、+135 km/s 雲塊と区別できない。しかし、Lockman 1980 は 少なくとも l < 7° では 3 kpc 腕には電離ガスが殆どないことを 示した。また、彼のデータには +135 km/s 構造に電離ガスがある証拠は全く ない。図6には CO/HII 一致天体と 3 kpc 腕、+135 km/s 構造雲塊の (l, v) 図を示す。


図6.CO 雲の (l, v) 図。斜線帯=表4パラメタ―の単純回転リングの 位置。原点からの直線は剛体回転 Ω = 53 km/s /kpc  


 5.議論 

 3 kpc リングと +135 km/s 構造 

 (l, v) 線の説明にリングは簡便であるが間違った結論に導きやすいモデルである。 3 kpc リングと +135 km/s 構造は、仮に円環としてもその一部に過ぎない。両者は 繋がっているようには見えない。どちらの距離も不明である。特に +135 km/s 構造 は接点さえ不明である。Sgr A に対して HI 吸収がある 3 kpc 腕は Sgr A の手前、 ない +135 km/s 構造はその向こうというの がほぼ唯一の手がかりである。
 モデル 

 表には提案されたモデルのパラメタ―を載せた。速度の非対称性が最大の難関 である。Huntley 1980 が示したように NGC 1300 のように内部に著しいバーがあれば 説明可能だろうが、そのようなものが銀河系内にあって探知されないはずがない。


 6.まとめ 

 3種類の構造がある 

 12CO を l = [350, 25], b = 0, ±20 で観測した。3つの大きな構造が現れた。それらは (1) 回転中心核円盤、(2) 3 kpc 腕、(3) +135 km/s 構造、である。それらは 50 - 180 km/s の非円形 運動を示している。明らかに銀河中心から遠ざかる運動である。中心核円盤の 場合、この外向きの流れはどこかで内側の流れにより相殺されているはずである。

 3 kpc 腕と +135 km/s 構造 

 3 kpc 腕と +135 km/s 構造の (l, v) 線は単純なリング構造で説明できる。 図7にはそれぞれの位置と運動を示した。銀河中心から 4 kpc と 3.5 kpc 離れた 二つの円環がある。夫々は完全な円の一部のみが雲塊の連なりとして存在して いる。雲塊の平均サイズは 125 pc で平均質量は 2 × 106 Mo である。どちらにも HII は殆ど存在しない。

 HII 

 膨張腕を作り出すモデル、爆発、力学共鳴、回転棒、のどれも強い衝撃波を 作り出し、盛大な星形成を引き起こす。それにも拘わらず電離ガスの証拠は ない。検出限界の問題はあるかもしれない。

 Liszt, Burton bar

 Liszt, Burton 1980 の bar も図7に組み入れた。バーの主軸の方位角 40° は様々な 3 kpc 腕の共鳴軌道モデルで導かれた角度 30° - 45° に近い。 これらの軌道は主軸半径 4 kpc で模式図的に図7に書き込まれている。 3 kpc 腕にあるとされる HIIR は北側では仮定的な主軸上に連なっているが、南側には そのような天体は存在しない。

 モデルの問題 

 メカニズムが何であれ、 3 kpc 腕と 135 km/s 構造の両方を作り出すモデルは l = 0° 方向で観測される運動の非対称性ばかりでなく、 1.3 × 10 55 erg の膨張エネルギーを説明する必要がある。非対称爆発か中心が ずれた棒状形態が要求される。しかし、それでもまだ問題が残る。必要な爆発 エネルギーは現在静かな中心核には極端すぎるし、(?)観測されているガス速度 場は図7にあるような方位角の軸対称な 4 kpc バーから期待されるもの (Sanders, Tubbs 1980) とは違う。特にこのサイズのバーでは +135 km/s の 非円運動を作り出せない。

 バー 

 3 kpc 腕と +135 km/s 構造が銀河中心距離一定の位置に留まる円環か、渦状腕か、 渦状構造か回転バーと共鳴軌道にあるガスか、確定しない。電離ガスは殆どない。 この点で M31 では、明るい HIIR や OB-星が現れるのは中心核から 3 kpc 離れて からで、そこでは二本の目立つダスト腕が中心から 300 pc まで伸びている。実際、 Lindblad 1958 はこの領域でバーの痕跡を主張している。渦状銀河の半数には 中心バーがあり、中心核領域での円運動からのずれは当たり前の現象である。Rubin 1980 の NGC 5728 の研究によれば、中心核はレンズ状で半径 2 kpc のリングに接し ている。中心核からは Hα が強いがリングからは出ていない。中心核の運動には 250 km/s の非円運動が必要とされる。

図7.内側銀河の高速構造の模式図。3 kpc 腕と 135 km/s 構造の実線枠 は CO 観測からの最も保守的な環片。破線枠と黒べた枠は HI から示唆される。 黒べた部では HII の証拠もある。中央は半径 1.5 kpc の中心核円盤で、その 主軸の方位角 40° は Liszt, Burton 1980 による。



図.

  

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 



図.

  

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 



図.

  

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 



図.


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