Optical Spiral Structure at l = 30° - 70° II. The Distribution of Interstellar Extinction


Forbes
1985 AJ 90, 301 -

 アブストラクト

 新しい、及び既存の 300 OB-星の観測を基に l = 30 - 70 での星間減光の 変化を調べた。領域を 16 に分けた。各領域で Av - D 関係を調べた。一般に 減光は太陽から 500 - 1000 pc にある雲で起きていることが分かった。  この区間を過ぎると、 D = 4, 5 kpc までは殆ど減光のない区間が続く。最も減光の 強い領域は l = 32 - 44 で、最近 Huang et al 1983 により発見された分子雲 に随伴しているように見える。



 1.イントロダクション 

 これまでの l = 30 - 70 の減光研究、 Fitzgerald 1968 , Sherwood 1974, Lucke 1978, , Neckel, Klare 1980, は全て D = 300 - 500 pc で 2 - 3 mag/kpc の強い減光の存在を示している。 それらの研究はサンプル星の数が少ないという欠陥があった。その結果、 l = 30 -70 区間の詳しい研究が不可能であった。そこで、本研究では 以前より暗い星の観測を用いて、この区間の詳しい減光の様子を行った。

 2.データ 

 UBV 測光値と MK 分類を持つ 300 OB-星が l = [22, 70], b = [-5, +5] で 集められた。使用した文献は、Hiltner 1956, Munch, Munch 1964, Lutz, Lutz 1972, Sherwood 1974, Drillimg 1975, Deutschman et al 1976, Blanco et al 1970, Mermilliod, Nicolet 1977 である。さらに Moffat 1979 より 未公開データの提供を受けた。より暗い V ≤ 13.5 の OB-星観測 Forbes 1984 がこの目的のために行われた。Jane, Adler 1982 の若い星団のデータも使用した。

 図1には、サンプル星の V 等級分布を示した。平均値は 11 等である。 Neckel, Klare 1980, では平均等級が 9.0 等であった。この2等の差により、探索距離が 2.5 倍に 広がった。図2にはサンプル星の方向分布を示す。l = 40° 付近を除いて 完全にカバーされている。


図1.300 OB-星の等級分布。



図2.拡大図。

 3.解析 

 スペクトル型の決定 

 サンプル星の 70 % は UBV と MK タイプのどちらも備わっている。それらの 各星毎に、Fitzgerald 1970 のスペクトル型と光度クラスによる 固有カラー較正に基づいて、 E(B-V) と Av を決めた。 E(U-B)/E(B-V) = 0.72 と R = 3.0±0.1 を適用した。MK タイプを欠く星に対しては Crawford 1971 in "Dark Nebula, Globules, and Protostars" p 27 の逐次法を用いて固有カラーを決めた。次に、これ等のカラーを用いて、FitzGerald 1970 の較正による主系列測光スペクトルタイプを導いた。

 距離 

 MK または測光スペクトルタイプを用い、Crampton, Georgelin 1975, Turner 1980 のスペクトル型ー絶対等級関係により、距離を求めた。測光スペクトルタイプの場合、 光度クラスが欠けているため、導かれた距離は下限である。ただ、そのような星の数は 少なく、天空上の分布も一様なので、深刻な系統誤差の原因にはならない。

 エラー 

 距離決定の不定性は主に絶対等級の決定精度による。OB-星の絶対等級精度 として、 Balona, Crampton 1974, Neckel, Klare 1980, Conti et al 1983 などが述べている値は 0.6 mag であり、これは距離に対し 25 % エラーとして はね返る。これに対し、Av の予想誤差は 0.3 mag である。

 4.Av - D 図 

 区分分け 

 前研究者の例に倣い、POSS 写真、Lynds 1968 暗黒雲分布、l = [28, 70] 領域は 16 に区分された。図4に得られた Av - D 図を示す。図では、孤立星 と星団中の星、 HIIR 内の星が区別されている。

図2.黒点=孤立 OB-星。白丸= HIIR 中の OB-星。十字=若い星団。


図3.区分図。A(D=4 kpc) が示されている。縦線: Av ≤ 2.2 mag. 横線:  2.2 ≤ Av ≤ 3.2. 網目: 3.2 ≤ Av ≤ 4.2. 黒:  4.2 ≤ Av.


 個々の区分について 

 A 

 盾座スタークラウド (Barnard 1927)の北端を占める星の多い領域である。 図4a を見ると、Av は 1 kpc で 3 mag まで急激に上昇し、その後 2.5 kpc まで平坦である。その後、 3 -4 kpc で 3.6 mag まで上がる。D = 3.5 kpc の星の集団は Turner 1980 が発見した無名のアソシエイションに属し ている。
(全体を一本の直線で近似できそう。)


 B 

 ほぼ完全に盾座クラウド内にある。高くて一様な星の密度は低減光を 意味している。300 pc で Av = 2.3 mag まで上昇し、その先 D = 6 kpc まで 殆ど減光はない。
(急上昇部分をヒッパルコスでカバーできないか?)


 C 

 POSSを見れば明らかだが、ここは盾座スタークラウドに食い込む暗い湾 である。減光が強いので OB-星はあまり見つからない。300 pc で Av = 3 mag まで上がり、その先 3.5 kpc まで Av はほぼ一定。

 D 

 POSS ではCよりさらに暗い領域。星数が少なく Av - D 図は難しいが、 1.2 kpc で Av = 4.5 mag まで一本調子で上昇し続ける。その先はデータ欠如。

 E 

 b = [2, 6] で穏やかで一様な減光域である。D = 0.5 - 3.5 kpc で Av = 2 mag.

 F 

 b = [-5, -1] で、隣の区分 B 少し星数が少ない。D = 500 pc で Av = 2 mag. D = 4.5 kpc まで Av = 2.7 一定。B よりダスト分布が非均一なのはプロットの ばらつきが多いことからも分かる。

 G 

 500 pc で Av = 2 mag. その先、2.5 kpc で Av = 5 mag まで上がり、データが 無くなる。減光の強さは SS 433 での大きな減光を説明する。
H 

 割と星の多い区分で、500 pc で Av = 2.5 で、5 kpc で Av = 3.5 まで上がる。

 I 

 D = 700 pc で Av = 2.9 で、Av(5kpc) = 3.5 である。W 51 がこの区分内、 D = 6 - 7 kpc にある。W 51 が写真に写っていることはこの区分の遠方での 減光が大きくないことを物語る。

 J 

 b = -4、l = [42, 60] に広がる大きな区分で、Av(1kpc) = 1.5 mag と透明 である。その先も D = 8 kpc まで殆ど減光は増加しない。可視で明るい HIIR S 84 が D = 2.4 kpc にある。D = 5.5 kpc にある WR-星 HD 187282 は Av = 0.7 である。

 K 

 POSS を見ると、ダストが散在している。図4k の破線は下辺をなぞった。 Av(500pc) = 3.5 で 4.5 kpc まで一定である。

 L 

 やや非均一な区分で、Av( 1-4.5 kpc) = 3.3 である。

 M 

 サンプル数は少ないが Av(1 kpc) まで鋭く上昇している。その先 2.5 kpc まで Av 増加の証拠はない。

 N 

 一様で穏やかな減光区分。Av(500pc) = 3 mag. 5 kpc まで増加せず。

 O 

 b = 1 で星が多い。Av(1.5 -5 kpc) = 2 mag.

P 

 b = 2 の比較的大きな区分で星数は少ない。遠方の星が見えない。 Av(2kpc) = 2 mag.


 区分毎の Av - D 関係 





 l = 40° 区分について 

 区分 D と I の間に減光の非常に強い区分が存在する。そこでは星が少ない ため、減光の距離変化を調べることができない。  この区分で最近見つかった D = 2.2 kpc にある分子雲との関連が興味深い。 l = 40 付近での OB 星の欠落は Huang, Dame, Thaddeus 1983 の CO, HI 等高線の形とよく相関している。  したがって、この区分での強い減光は少なくとも部分的には、彼らが発見した W 50 フィラメントに付随する分子雲による可能性がある。現在この区分の減光 分布と星種族の研究を進めている。


 5.議論 

 選択効果 

 大きな減光を受けた星は観測にかかりにくくなる。したがって、サンプル星 からの平均減光は系統的に小さく出がちである。Neckel 1966 はこの影響を 少なくするには減光が一様な区域を選ぶのがよいと述べている。

 急上昇、次に平坦のわけ 

 これと関連する が、図4を見ると大部分は 500 - 1000 pc で Av ∼ 3 mag に達し、その先 で平坦になる。一見、局所減光が大変強いかのようである。しかし、観測等級 の上下限は観測的に到達不可能な領域を生み出していることを忘れてはいけない。 その限界減光量 Av(lim) を、観測限界 V(lim), Mv(lim) で表すと、

   Av(lim) = V(lim) - Mv(lim) + 5 - 5 log D

となる。Neckel 1966 が述べているように、与えられたデータセットの等級限界 により、観測から得られる Av(D) プロットは D が増加するにつれ減少していく。 明らかに、Mv(lim) 一定の時、暗い等級まで観測が降りて行けば、観測される Av(D) は実際の減光ー距離関係に近づいていく。今回の観測に関して言えば、 現実的に、V(lim) = 11 mag., Mv(lim) = -5 mag. としよう。多くの区分では V が 1.5 mag. 暗く、Mv で 2 mag. 明るい星が観測される。
(訳を間違えたか?意味不明。 )
図5 a) - p) には破線で Av(limit) をプロットした。強調したいのは、 多くの図で平坦部は限界曲線に到達する前に現れている。従って、少なくとも D < 4 kpc では平坦化は実際の現象と考えられる。

 (i) D < 500 pc の Av 急増 

 D < 500 pc では Av が急増する。(dAv/dD) = 5.5±0.5 mag/kpc である。 特に強い区分では 7 mag/kpc に達する。

(ii) D = [1, 4] kpc で Av は平坦 

 多くの区分で、D = [1, 4] kpc で Av は平坦で、 0.5 mag/kpc 程度である。 その先の Av は信頼度が低い。
(iii) 透明領域と暗黒領域 

 D ≤ 4 kpc, b = [-2, +2] で最も透明な区間は l = [62, 70] と小さい 領域 l = [28, 32] で、Av ∼ 2.5 mag である。最も不透明な区間は l = [32, 44] で、Av ∼ 4.5 mag である。この不透明領域は D = 2.2 kpc に ある分子雲複合体と関連しているかもしれない。
(遠すぎないか? )
その他の区分 l = [44, 62] では減光は Av ∼ 3 mag で穏やかである。

(iv) 高銀緯 |b| = [2, 6] 

 高銀緯 |b| = [2, 6]では平均減光は小さい。一般に銀河面の下側の方が上側 より Av は小さい。これは区分Jのように特に透明な区分ではそうである。そこでは Av(D=4-8 kpc) = 1.5 mag である。

 グレートリフト 

 上のような結果に鑑みると、天の川銀河 l = [30, 70] ではどこでも強い 減光がある=グレートリフト、という考えは l = 40 付近にのみ当てはまる。 その付近でさえも区分 E, F のように減光の低い「窓」が存在する。

 近傍ダスト雲の裏側 

 銀河面の写真に見られる黒い遮蔽部は D = 500 - 1000 pc のダスト雲である。 これは Fernie 1962, Sherwood 1974 などが指摘していたことである。以前には 分からなかったのは、その後ろ D = 4 kpc 付近までが殆ど透明なことである。 これは、 Neckel, Klare 1980 の巨大複合体の間(ここでは裏だが)はしばしばダストなしであるという主張と 合致する。銀河構造を研究する上で重要な点は、局所的な減光領域を突破して この研究のように今より 1 - 2 等深く観測すると、その裏側の比較的透明な領域 でサンプルが得られるということである。

 最終結論 

 l = [30, 70] の星間減光は主に局所的 D ≤ 500 pc であり、その裏側 D = [1, 4] kpc は比較的透明である。D > 4 kpc では、データの信頼度は 低い。b = [-2, +2] では強い減光、Av(D=2kpc) = 4.5 の場所が l = [32, 44] にある。これは D = 2.2 kpc の分子雲、 Huang, Dame, Thaddeus 1983 に対応している。l = [44, 62] では穏やかな Av(D-4kpc) = 3 mag しかないが、 l = [28, 32], [62, 70] では透明で Av(D=4kpc) = 2.4 である。吸光物質の 分布は、銀河渦状腕の可視光追尾天体の分布に生じている割れ目に丁度対応 している。観測を 1 - 2 等深めるだけで、渦状腕構造を研究できるようになる。


 区分毎の Av - D 関係