Galactic Center Molcular Clouds II. Distribution and Kinematics


Bally, Stark, Wilson, Henkel
1988 ApJ 324, 223 - 247




 アブストラクト

 銀河系中心付近のガスの分布と分散速度 
 様々なミリ波分子線で観測した銀河系中心付近の分子の運動と分布を報告する。 分子の分布は銀河系中心に対し非対称にで、 13CO, CS の 3/4 は 銀経正である。また、別の 3/4 は正の視線速度を持つ。ガスの速度場は高度に 混乱している。ある雲は円運動から予想される速度場から 100 km/s 以上逸脱 している。しかし、ガスの 70 % は銀河面上の薄いシート状に分布する。シート のスケール高から、銀河面に垂直方向の雲中心の分散速度は、個々の雲の内部分散 速度と同程度であることが推定される。

銀河系 500 pc 以内のガス回転速度 
 ガスの分布と速度構造が複雑なため、銀河系 500 pc 以内の回転速度を一意に 決めることは不可能であるが、各(l, b)での最高速度から等値回転速度(?)が l の減少に伴って非常にゆっくりと、もし減少するとしても、しか減少していか ないことが分かる。回転曲線は vrot(l=5) = 200 km/s から、 vrot(l≈0) ≥ 120 km/s である。
 簡単な質量分布モデルを使い、観測されたガススケール高と比べた。その比較から マップに見られる様々な構造の銀河中心距離を定めた。それらの幾つかは 銀河面からかなり上または下にまで伸びている。それらの構造の軌道傾斜角は大きいに 違いない。

電波フィラメントとの対応 
 分子構造のエッジには Sgr A から 0°.2 離れた連続波アークに付随する電波 フィラメントと看做せるものがある。電波再結合線を放射するフィラメントの視線速度 は隣接する分子雲と一致する。分子雲が雲間物質と衝突してできる衝撃波が産み出す 熱的および非熱的放射が電波フィラメントなのであろう。円回転運動からの大きな乖離と 傾き角の大きな運動から、センチメートル波放射を説明するのに必要な Δv = 50 - 150 km/s の衝撃波が生まれる。


 2.銀河中心付近でのガスの運動と分布 

観測 

 観測はベル研 7 m 鏡で行われた。13CO は n ≥ 300 cm-1 の濃い分子雲をよく追跡する。CS 98 GHz 線はさらに濃い n ≥ 104 cm-1 領域の良いトレーサーである。観測結果から、

(1)雲の中心速度が禁止領域=円運動では不可能、にある。

(2)銀河面から上下に離れた雲の存在。

 マップ(1)

 図1は幾つかの点でのスペクトルを、図2は 6 の低分解 13CO マップ を、図3は銀河中心付近の 2 分解 能 CS マップを示す。 
















図1.13CO のスペクトル。(a) Sgr A, (l, b) = (-0.017, -0.067), (b) Sgr B, (l, b) = (0.683, -0.017) -400 km/s の輝線は CH3CN の J = 6-5.

図2.低分解 6 13CO マップ。速度区間は上から、 VLSR = [-200, -100], [-100, -20], [20, 100], [100, 200] km/s。 中心 40 km/s 巾は銀河円盤放射の混入を避けるため除いた。




図1.(c) (l, b) = (0.9, -0.2) 雲。(d) (l, b) = (3.2, 0.3) 雲。



図3.2 分解 CS J = 2-1 マップ。上からVLSR = [-150, 200] km/s 範囲を ΔV = 10 km/s でカットした。画像は l = [-1.0°, +3.7°], b = [-0.4°, +0.4°]. 左端が l = 3.7 である。

























図4. 13CO b = [-0°.6, 0°.6] 積分の平均輝度の (l, v) 図。 等高線の間隔は 0.1 K.

 図4と図5 

 図4は全 b 区間で積分して得た (l, v) 図である。図5には VLSR = [-40, 100] km/s に渡り、ΔV = 10 km/s でカットした分解能 1 の画像を示す。

 銀河系中心分子雲は普通の10倍濃い 

 銀河中心付近の分子雲ではスペクトル線ライン巾 (FWHM) が 10 - 50 km/s である。これは銀河系円盤の分子雲 (R > 1 kpc) と較べ約 10 倍大きい。 銀河の微分回転によるずれ応力は雲の密度に下限を与える。この制限が意味する のは、銀河中心分子雲は CS J = 2 - 1 を励起するほどに濃いということである。 図3と図5とを較べると、 13CO データに見える特徴のほとんどは また CS にも現れていることが分かる。これも、銀河中心分子雲が濃いことを示 している。先に述べたライン巾の大きさも、ビリアル平衡を考えると濃い密度 を示している。このようになるのは比較的平坦な回転曲線の効果である。この 点は論文3で詳しく調べる。

 運動と分布の非対称性 

 ガスの分布は中心に対して非対称である。ガスの 3/4 は左側に見える。速度 に関しても非対称性が見られ、 3/4 は正の視線速度を持つ。負速度を持つガス の半分は銀経正(中心の左側)にある。これは前行性の円軌道を描くガスに対し ては禁止された領域である。これらのガスは反方向に回転しているか、動径方向 速度が回転成分と同じくらい大きい非円運動をしているかのどちらかであろう。
単純円軌道と観測結果は反している 

 もし銀河中心ガスが円軌道を描いており、分散速度が小さいなら、単純な放射 パターンが得られるはずである。そのような場合、ガスの分布は銀河中心に対 して対称で、禁止領域に入るガスはない。しかし、観測はこの予測に全く反して いる。

 雲集団の特徴 

 図3と図5を見ると、 13CO と CS は表1の数種類に分類される。 放射の大部分は、銀河系中心円盤に属し、許容速度を持っている。これらの雲は R ≥ 3 kpc の円盤分子雲とはっきり区別される。なぜならそれらの雲は VLSR = [-20, 20] km/s で、線巾も Δv ≤ 5 km/s と狭い からである。銀河系中心での二つの明るい放射集中は Sgr B2 と Sgr A である。 この二つは後で独立に扱う。l = 1.5 近くには多数の分子雲からなる巨大な希薄 ガスの塊りがある。これを l=1.5 複合と名付ける。l = 3.2 付近には独立の 分子雲複合があり、 l=3 複合、またはバニアの集合2と呼ばれる。負銀経では l = -0.5 付近に b 方向に並んだ集団に付随して Sgr C がある。
 目立つ構造として、Sgr C 付近で VLSR = -100 km/s から Sgr A 付近で VLSR = -10 km/s となる急な速度勾配を持つ狭い構造体が 存在し、これを負速度勾配フィラメントと名付ける。
 Sgr A 付近には銀河面に対し 45° の傾きを持つガスの尾根が見え、 VLSR = -50 km/s から 100 km/s まで追跡できる。これは、 ポーラーアークと名付けた。 Sgr A の上と下には + 135 km/s アークと -150 km/s アークという希薄な構造体が見える。これらは二つで、l-v 図上に 数度に及ぶ大きな卵型の構造を形成する。これを膨張リングと主張する研究 もある。
 最後に l = -5° VLSR = 135 km/s 付近, には禁止領域内の雲、 バニアの集合1がある。

表1.銀河中心分子放射の特徴




図5.VLSR = [-40, 100] km/s に渡り、ΔV = 10 km/s で カットした分解能 113CO 画像。 Sgr A は右側 l = -0.05, Sgr B2 は l = 0.66 付近に見える。
a: VLSR = [-40, -30] km/s.  b: VLSR = [-30, -20] km/s

e: VLSR = [0, 10] km/s.  f: VLSR = [10, 20] km/s

i: VLSR = [40, 50] km/s.  j: VLSR = [50, 60] km/s

m: VLSR = [80, 90] km/s.  n: VLSR = [90, 100] km/s 
c: VLSR = [-20, -10] km/s.  d: VLSR = [-30, -20] km/s

g: VLSR = [20, 30] km/s.  h: VLSR = [30, 40] km/s

k: VLSR = [60, 70] km/s.  l: VLSR = [70, 80] km/s


 2.a.銀河中心円盤種族 

 内側中心ガス円盤は厚み 19 pc で薄い 

 分子放射の最も強い部分は正の視線速度側、銀経正側に片寄り、Sgr B2 と Sgr A が支配的である。これは銀河中心領域での分子の非対称分布を端的に 示している。これらのガスは b = 0 より少し下、b = -0.033 のラインを中心 に分布する。この精度での議論では、銀河座標の l, b 軸は厳密に銀河中心を 通らない。銀河円盤種族は実際の銀河中心 = Sgr A West を中心に分布し、 我々の観測精度内で銀河面に平行している。 Sgr A, Sgr B2 付近の雲の大部分 は分子放射の平均銀緯から数分角以内に存在する。Ro = 8.5 kpc で 1 = 2.5 pc である。l = [0.2, 0.3] = [12, 18] = [30pc, 45pc] での分子線放射層の全巾平均値は 0.13 = 19 pc である。分子層のスケール高がこのように 小さいことはそこが静かであることを意味する。

 円盤に属する雲 

 6 分解能 13CO, CS サーベイはこのガスが 正視線速度で l = 1.8° = 267 pc まで伸びていることを示している。図2 を見ると、銀河中心円盤で第3に明るい雲複合体は l = 1.5 にある。孤立した 雲は l = 3 まで存在する。銀経と視線速度が負の領域からの放射は非常に低い 強度であるが l = -1.2 までは伸びている。図5にはそれらの一部分が 1 分解能で示されている。

 ガス円盤はバーか筋? 

 見かけスケール高は Sgr A 付近で 0.1 と低く、Sgr B2 付近で 0.3 へ上がり、 さらに l = 1.5 複合体付近では 0.8 に達する。これはガス分布が方位角に関し て、(多分、銀河中心から見た方位角?)対称でないことを意味している。あり 得そうな様子は、ガスの大部分がバーか筋状の領域に含まれていて、その中で 最大の集中が銀河中心距離の順に Sgr A, Sgr B2, l=1.5 複合体 であるという ものだ。ガス層の厚みはガスの銀河中心距離に関する情報を与えてくれる。分子 ガスの分散運動は銀河面方向への重力で押さえ込まれる。近赤外測光から知られる 恒星質量分布を用いると重力が計算でき、そうすれば分子ガスシートのスケール高 をガス分散速度に関連付けられる。

ガス運動とスケール高 

 ガスの運動を次式と考え、微分して速度を出し、位相でアンサンブル平均を取る。

   z = z0 sin(ωzt)            (1)
   (dz/dt) = z0ωz cos(ωzt)       (2)
   σ0 = <(dz/dt)2>1/2 = <(z2)>1/2   (3)

 ωz を軌道角振動数 ωcircular = Θ /R を使って表すと便利である。
   ωz = (ωzcircular) ωcircular = (ωzcircular) Θ/R
こうすると、(ωzcircular) が無次元量になる。 質量分布が球対称な場合、(ωzcircular) = 1, 質量分布が扁平な場合、(ωzcircular) > 1. である。

回転楕円体の場合 

 Schmidt 1956 モデルに従い、回転楕円体密度分布を仮定する。α = 主軸長、 e = 離心率とする。

 ωz2 = 4πG(1 - e2)1/20 Rρ(α)(R2 - α2e2)-3/2α2 dα   (4)

 ωcircular2 = 4πG(1 - e2)1/20 Rρ(α)R-2(R2 - α2e2)-1/2α2 dα (5)

もし、ρ(α) ∝ αγ であるなら、 角振動数の比は銀河中心距離に依らない:

ωz2 = 01 (1 -x2e2)-3/2x2-γ dx    (6)
ωcircular2 01 (1 -x2e2)-1/2x2-γ dx


γ = 2 (等温) の場合は、ωz2/ ωcircular2 = (1 - e2)-1/2 e[arcsin(e)]-1 である。図6には ωzcircular を e の関数として示した。 Becklin, Neugebauer 1968, Becklin, Neugebauer 1975 は、彼らの 2 μm 輝度分布を γ = 1.8, e = 0.92 の回転楕円体に フィットして、ωzcircular = 1.46 を得た。この先ではこの値を使用する。

図6.バルジ扁平度 e に対する ωzcircular の変化。ρ(α) ∝ αγ を仮定。



しかし、バルジが三軸不等である効果 や分子ガス層の重力効果などの影響で。真の比の値は少し異なる。そこで、

   σz = 2>1/2 ωz  
= 2>1/2 ωz Θ = 1.46 2>1/2 Θ  (7)
ωcircular R R


を得る。

 雲の分散速度  

 大雑把に言えば、速度分散は分子層のアスペクト比(短辺/長辺)かける 回転速度かける幾何学ファクター ωzcircularつまり質量分布の平坦度、である。 銀河中心円盤種族では雲の最も明るい位置は銀河中心から l ∼ 0°.5 離れたところで銀河面から ∼ 3 ずれている。 Θ = 200 km/s とすると σz = 30 km/s となり、 太陽近傍巨大分子雲内の分散速度 6/6 km/s より著しく大きい。図2と図3 を見ると、雲種族の平均高さが銀河中心からの距離と共に増加していくことが 分かる。例えば、l = 0°.8 で = 0°.15 で式(7)を使うと、 σz = 54 km/s となり、雲のライン巾とほぼ等しい。雲 分布の全体的なスケール高は雲の内部分散速度程度の雲同士の速度分散に よると考えられる。

 l = 3° の雲複合体 

 l = 3° の雲複合体は速度巾 150 km/s を持ち、スケール高 = 0°.6 である。13CO, CS サーベイはこの複合体が多数の雲から成る ことを示した。個々の雲の性質は Stark, Bania 1986 が研究した銀河系中心 分子雲と同じである。

 2b.Sgr B2 


図7.CH3CN = メチルシアノイド J = 6 - 5 による Sgr B2 マップ。強度積分 は 140 km/s 速度巾に渡った。等高線は 5 K km/s 間隔。



 CH3CN = メチルシアノイド マップ

 Sgr B2 は図5の左端 l = 0°.66 に位置する。最も明るいのは VLSR = 50 - 60 km/s チャネルにおいてである。 Sgr B2 の 差し渡しは 15 = 45 pc である。雲の中心部直径 20 pc 領域は CH3CN = メチルシアノイド(図7) 110 GHz で検出される。この 遷移には n ≥ 105 cm-3 が必要である

 Sgr B2 の特徴 = 20 - 40 km/s リング 

 Sgr B2 の特徴は図5g, h = 13CO VLSR = 20 - 40 km/s に良く現れている。この速度では Sgr B2 からの放射は非常に弱い。 その代り、Sgr B2 を取り囲むリング状のガスが見える。この速度帯で Sgr B2 位置での 13CO 強度は 0.3 K である。これはこの速度で本当に ガスが存在しないことを意味する。 CS でもこのリング構造が確認されている。

図8.(l, b) = (0.9, -0.033) から (-0.5, -0.067) にかけての、 13CO 速度ストリップマップ。横軸は上の二点を結ぶ直線上の位置。 0.333 K 間隔。


 リングと穴の大きさ 

 Sgr B2 の大きさは 12 × 18 である。図5に見えた穴は直径 14 で 半径 21 pc に相当 する。

Sgr B2 の力学質量 

 図8には 13CO 速度ストリップマップを示す。これを見ると、 Sgr B2 のコアとリングとの速度差は 25 km/s 程度である。このリングと 穴とは、 Sgr B2 の大きな質量に起因する雲の分布の乱れと解釈される。 もしも V = 20 - 40 km/s に見える雲のリングが Sgr B2 に重力的に束縛 されているとすると、 Sgb B2 の重力質量として、

Mdyn ≥ 3.0× 106 Mo ( Vring )2 ( rring )
25 km/s 21 pc


この評価はライン巾とヴィリアル定理、 Sgr B2 直径に基づく推定質量に 近い。また、13CO コラム密度から Scoville, Solomon, penzias 1975 が導いた値とも近い。


 3c. Sgr A 


図9.CH3CN の分布。等高線は 2.5 K km/s.



 速度分布 

 銀河系の力学中心は電波源 Sgr A W 方向 (l, b) = (-0.054, -0.046) にある。 Sgr A 分子雲はこの方向にある。 V = [-40, 90] km/s で分子マップには 銀河面と 10° 傾いた放射尾根が見える。この尾根は l = [0.2, -0.2] に見える。ガス分布は正銀経、正銀緯側に寄っている。尾根上にはいくつかの ピークが見え、最高峰は銀河中心と考えられる赤外・電波源から数分角東の 所にある。この位置の周り 10 以内にある分子雲は 1 サーベイ全体の中でも最大の速度勾配を示す。 図8に見るように、ピーク速度は 0°.2 (36 pc) 領域で VLSR = -25 km/s から +70 km/s へと変化する。

 天体の相対位置 

 ホルムアルデヒド吸収観測によると、この雲の一部は Sgr A 近くの電波 連続波源の前面に存在する。 Sgr A の東にある分子雲ピークは非熱的な シェル状天体 Sgr A East の前面にあるが、多分 IRS 16 を囲む熱的 渦巻きを含む Sgr A West の背後である。

 急速度勾配の分子ガス 

 Sgr A 近くの急速度勾配の分子ガスには、中心熱的電波源を挟んで、二つの ピークがある。南西のピーク (l, b) = (-0.117, -0.083) の中心速度は V LSR = 17 km/s, 北東のピーク (l, b) = (-0.017, -0.067) の中心 速度は VLSR = 53 km/s である。  銀河系の力学中心は、この二つのピークを結ぶ仮想直線の中心から 2 北西にずれている。ピーク間の距離は 6.5 = 16 pc である。

 中心付近の雲の分布 

 銀河中心の 8 pc 以内にある星の質量は近赤外光の分布から導かれ、 Oort 1977 によると M(r≤10pc) = 7 × 107 Mo で回転速度として Θ = 170 km/s を与える。ピーク間の大きな 速度差に拘わらず、ガスは円環を形成していない。 3 km/s/pc という大きな ガス速度勾配中にピークは埋もれていて、しかもスケール高は小さいことから、 これ等の雲は中心近くにあると考えられる。 Sgr A 熱電波源までの減光は Av = 30 mag しかないが、これは 13CO 観測のガスから期待される 減光量よりずっと小さい。これらから、この構造は銀河中心の背後にあると 考えられる。

Sgr A を囲むリング 

 Becklin, Gatley, Werner 1982 は、銀河中心熱電波源の周り r = 3 pc にあるリング状の遠赤外(100 μm)電波源を発見した。Liszt, Burton, van der Hulst 1985 は 12CO で Θ = 100 km/s のやはり リング構造を発見した。今回の 13CO データにはそのような小 スケールの構造は見えなかった。恐らく 13CO にはかからない 程、光学厚みが薄いのであろう。マップのノイズは大きいが分布は CS と 似ている。

 Sgr A の CH3CN

 CH3CN 110 GHz は非常に濃い n ∼ 105 cm-3 ガスの分布を示す。図9にあるように、この分子の最強点は 13CO と一致する。

図10. 13CO VLSR = [-100, -40] km/s 積分 によるマップ。等高線は 10 K km/s 間隔、この図の速度勾配は 図3の CS データにもよく現れている



 その他の雲 

  13CO と CS マップは Sgr A 付近にはその他にいくつかの雲が 存在することを示す。

(1)(l, b, VLSR) = (0.1167, -0.033, 55 km/s) に分子ピーク がある。

(2)VLSR = [20, 40] km/s、(l, b) = (0.1167, -0.133) に 別のピークがある。この雲は南北に伸びている。その高銀緯の縁は Yuzef-Zadeh, Morris, Chance 1984 が観測した電波連続光弧と位置が重なる。 (3)(l, b) = (0, 0.08) ふきんには、後に述べる "polar ring" の 底の縁が VLSR = 90 km/s に見える。

(4)VLSR = [-30, 40] km/s, (l, b) = (0.05, 0.0) 付近 には4つのピークが見える。

(5)l = [0, 0.2], b = [-0.1, 0.1] 領域には VLSR = [-40, -10] km/s には雲の群れが見える。これらは再結合輝線フィラメントに付随して いるらしい。

(6)Sgr A の南西、(l, b, VLSR) = (-0.117, -0.083, 17 km/s) にある分子ピークは l = [-0.4, -0.1], b = [-0.2, 0], VLSR = [-40, -10] km/s にある尾根とつながっているようだ。この尾根と再結合線 電波フィラメントに付随する(4)のガスは一緒になって、Sgr A を囲む分子ガス は銀河面に傾き 10° を持つ集団を形成しているという印象に寄与している。

 全体像 

 全体として、銀河系中心領域のガスは分子雲の部分的リングまたは弧状配列 として、熱電波源 Sgr A West のすぐ近くに存在している。これらの雲の 最内側の縁は銀河核の数パーセク内に存在する熱スパイラルと相互作用している 可能性がある。潮汐力が高速度勾配雲を引き裂き、熱スパイラルのすぐ外側に 分子リングを形成した可能性もある。類似の結論は Ho et al 1985 も述べて いる。Becklin, Gatley, Werner 1982 が報告した遠赤外放射と Gatley et al 1984 による 2.1 μm 衝突励起水素分子輝線はそのようなリングのよい証拠 である。この構造を 13CO でとらえることに失敗したが、その 原因は光学的深さが薄すぎたか、100 ビーム径が 大きすぎたからであろう。

 中心近くのフィラメント 

 負速度で大きな速度勾配を持つ目立つ構造が Sgr A のすぐ北側にある。 この構造は図10にあるように、 (l, b, VLSR) = (-0.5, -0.033, -110) に見える。この構造は他とはっきり区別できる独立の 細いフィラメントとして Sgr A に接近するにつれ速度を変えていく。 (l, b) = (-0.05, 0.05) では VLSR = -45 km/s になる。 この構造の厚みは 5 = 12 pc で、長さは 30 = 74 pc である。速度勾配 0.9 km/s/pc は軌道運動の視線速度成分が 変化する結果として説明できる。比較的小さなスケール長と明らかな 端末速度が l = -0.6 に見られることから、この構造は中心核から 100 pc 以内にあると思われる。


 2d.禁止速度域および銀河面外の構造 


図11.(a) 銀河面の下方、負速度の雲の集団である -150 km/s アーク。 図は VLSR = [-160, 100] km/s 積分の 13CO マップ。 等高線は 10 K km/s 間隔。
(b) 13CO VLSR = [135, 165] km/s で正銀緯に見える 135 km/s アークのマップ。等高線は 10 K km/s 間隔。この構造は -150 km/s アークと関連しているかも知れない。双方共に Bania 1977 が提案した 300 pc 分子リングの一部かも知れない。




 面から遠く離れたガス 

 13CO マップに見える構造の内のいくつかは銀河面からはるかに 離れた場所にある。負視線速度ガスの多くは正視線速度で見える銀河中心円盤 種族が形作る面から遠く離れている。

 300 pc 分子リングの負速度成分 

 b = [-0.4, 0.1] の低銀緯では、VLSR = [-155, -100] km/s で禁止速度構造が見える(図11a)。これは Bania 1977 が 300 pc 分子リングと呼んだものである。この構造は多数の雲から成り、 1 サーベイの巾 1°.4 全長に渡って伸びていて、 b 巾は 0°.2 である。b 巾が他の構造より大きいことはこの雲複合体 のスケール高が大きいことを意味する。スケール高を 30 pc とすると、 内部分散速度は 30 km/s となり、銀河中心距離は 240 pc となる。 この構造は 1 マップでは (l, b, VLSR) = (-0.5, -0.1, -150) に現れる。 13CO 輝度 ∫Ta dV ≤ 10 K km/s であまり明るくない。6 マップでは この構造は (l, b, VLSR) = (-0.5, -0.1, -100) 銀河面円盤種族雲と混 ざってしまい、判別不能である。正銀経側ではこの構造を (l, b, VLSR) = (1.8, -0.4, -25) まで辿ることが出来る。

図12.表1で「傾いたアーク」とされた構造の銀河面に対し 50° の傾き を持つ直線に沿った位置・速度図。出発点は (l, b) = (0.25, 0.3) で l = -0.35 で終わっている。



 300 pc 分子リングの正速度成分 

 300 pc 分子リングの正速度成分は図11bに見られるように、銀河面に対し 傾いた雲の弧として見える。これは 135 km/s アークと呼ばれ、 (l, b, VLSR) = (-0.5, 0.0, 130) で現れ、(0.8, 0.4) で 消える。6 マップでは この構造を (1.5, 0.2) まで 辿れる。銀緯方向の広がりは (1, 0.3) 付近で最大である。構造の 平均視線速度は 140 km/s で分散速度は 20 km/s である。-150 km/s アーク と同様に、この雲複合体は高度に分裂していて、低輝度の雲から成る。 スケール高は 0.1 である。我々はこの構造は銀河中心の 180 pc 背後にある と考える。

全て 300 pc 分子リングの内側 

 図4から分かるように、 300 pc 分子リングを構成する二つの弧は 銀河中心付近では速度の両極端を示している。l = [-1.2, 3.0] の 分子放射は位置・速度図上で、全てこの二つの弧の内側に位置する。

 ポーラーアーク 

 図12に示されるように、ポーラーアークと我々が呼ぶ分子雲の集団 がある。この構造は(l, b, VLSR) = (0, 0.05, 70) から出発し、 北に向かい (0.2, 0.25, 140) に達する。このフィラメントは銀河面に対し、 40° 傾いている。速度勾配は非常に大きい。VLSR 70 km/s 以下ではこの構造は銀河面に接近し円盤種族と紛れてしまう。 図12の位置・速度図はこの構造がさらに (-0.3, -0.25, -50) まで伸びて いることを明らかにする。このごちゃごちゃした領域で、負速度ガスが本当に ポーラーアークの一部なら、この構造の速度の広がりは、 ΔV ≥ 190 km/s となり、長さは 0°.8 である。速度は許容領域 内に位置するのであるが、銀河面との大きな傾きは特異である。

 その他の構造 

 図12にはまた、 135 km/s アークの一部(上の方)、3 kpc 腕の一部分 (V = -50 km/s)、-150 km/s アークの一部 (V = -140 km/s), V = [-10, 40] の銀河中心円盤種族、V = 0 km/s 付近の円盤雲からの混入がある。ポーラー アークは CS サーベイにもよく現れている。これはアークの平均密度が 高いことを物語る。


 2e. 113CO サーベイの外側の構造 

 l = [1.2, 3] の巨大な雲集団 

  613CO, CS サーベイには銀河中心最近域 のみの 113CO サーベイの外側にまだ多数の 天体が見えている。銀河中心円盤種族の高銀緯端ではスケール高の増加が 認められる。l = [1.2, 3] では分子放射は b = 0.8 まで広がる。l = 1.5 では 6 13CO マップに 0.5 平方度に渡り、 b = -0.3 から 0.4 にかけて巨大な雲の複合体が認められる。個々のスペクトル はピーク速度が VLSR = -70 から 110 q/s にかけて分布し、 巾 FWHM = 50 - 60 km/s のラインが見える。最低等高線のレベルでは 150 km/s アークがこの巨大雲複合体に合体するかに見える。-150 km/s アークもまたこの雲複合体の南端で終わって見えるが、速度が異なる。 この領域では 6 マップ上に12個の雲が同定される。 2 CS マップでは数ダースの雲が認められる。全体の 印象は多くの内部構造を内包した巨大な雲の集団である。

 

 l = 1.2 には 13CO フィラメントが銀河面から垂直に正銀緯 方向に立ち上がっているのが見える。これは VLSR = 30 km/s に 見え、60 km/s まで追跡できる。もっと小さいストリーマが l = -1.2 に 負銀緯方向 b = -0.6 まで伸びるのが見える。この構造は VLSR = [-20, -80] km/s に見える。この雲は l = ?? において銀河面から銀河中心円盤 種族から垂直に立ち上がる "ment" の投影筋である。一方 l = 1.2 フィラメントは は同じ種族の正速度端がわでの縁である。
( 英文がおかしい。訳はあてずっぽう。)
クランプ2 

  Bania 1977 のクランプ2は l = 3 に見える VLSR = [0, 200] km/s, b = [0.0, 0.6] の著しい雲集団である。図2のパネル 3, 4 に見られる。空間マップには 多くの雲から成る。個々の雲の速度巾は 40 km/s で典型的な銀河系中心雲の 性質を持つ。(l, V) 図では 10 の間に 200 km/s という 大きな速度勾配を示す。これははっきりと異なる速度を有する別々の雲が 重なって見えるためと解釈される。

 他にもある大きな速度巾  

 我々のマップを見るとクランプ2で見出された大きな速度分散は特別な現象 ではなく、 l = [-1.2, 1.2] では狭い領域に大きな速度巾が付随する例が 他にもある。

 禁止速度の雲 

 Bania のクランプ1は l = -5, VLSR = 100 km/s という 禁止速度域に大きく踏み込んだ例であるが、他にも (l, b, V) = (-3.2, 0.4, 100) が (-1.6, 0.7, 140) へ伸びている。(-0.9, 0.0, 100-150) もある。 銀河中心の反対側では l = [0.0, 1.8], b = [-0.4, 0.2], V = [-80, -20] km/s が禁止速度ガスで埋められている。おそらく銀河系内で最高の速度を持つ雲が (2, -0.1, 270) にある。この雲複合体は直径 20 である。


 2.f 銀河円盤内の構造 

 円盤雲 

 視線上には我々と銀河中心との間、銀河中心の向こう側の銀河面の 雲が載っている。それらは VLSR = 0 km/s 付近にあり、 巾が 5 - 10 km/s 以下なので区別される。

 二つの構造体 

 それら以外に運動学的に目立つ構造体が二つ、 VLSR = -35 km/s と -50 km/s にある。これら円盤雲は 13CO のみに現れて、 CS には出てこない。それは円盤雲の密度が銀河中心分子雲に較べ密度が 1/10 以下であることを意味する。銀河中心分子雲では 13CO が見えるのと大体同じ体積から CS も放射するのだが、円盤雲では中心の コアのみで CS が検出されるのである。

-50 km/s 雲 

  VLSR = -50 km/s 雲は   Bania 1980 が HI 観測から 3 kpc 腕とした構造である。雲は 5 - 8 km/s 以下 の速度巾内に存在する。
 個々の観測点でのライン巾も同様に狭い。3 kpc 腕のスケール高は 0° .5 である。形態学上のこの特性は銀河中心雲集団のそれと異なる。3 kpc 腕は銀河円盤分子ガスの典型的な性質を有する。その唯一独特な性質は その視線速度が負で大きなことである。

-30 km/s 雲 

 1 サーベイ b = 0.15, 0.2, 0.25 での (l, V) 図 には VLSR = [-25, -35] km/s で ΔV ≤ 5 km/s の 雲の群れが見える。この速度成分は 3 kpc 腕とも、通常の円盤雲とも 異なる。この構造は HI(Menson, Ciotti 1970), CO(Liszt et al 1977), HCO+ 吸収(Linke, Stark, Frerking 1981) にも見える。これは、銀河中心 から 2 - 4 kpc にある他の腕の一部なのかも知れない。


 2g. 1 kpc 以内での回転曲線 

 円軌道は存在しない? 

 分子雲の非対称な分布、禁止速度領域での雲の存在はガスが円運動軌道には ないことを強く示唆する。おそらく内側銀河では円軌道自体が存在しないので あろう。この場合、回転曲線を定義しようとすると、銀河系物質分布の単極項 に対するケプラー運動の変化という人工的な形でしか可能ではないだろう。 実際に関心があるのは平均重力ポテンシャルであり、それは回転曲線を 用いて定義するには複雑すぎるだろう。
平坦回転曲線 

 もし、粗く非円周運動を無視するなら、データが近似的に整合するのは平坦な 回転曲線である。13CO 観測データは全て HI 21 cm 放射の内側に ある。また、その速度は近赤外放射の分布(Oort 1977)から許容される速度範囲 内にある。観測された大きな速度はポテンシャル勾配が大きくて、どこにも 固体回転運動で記述できるところがないことを示している。外側銀河から 銀河中心距離数パーセクまで"回転速度"はほぼ平坦である。


 3.非円運動の起源 

 二つの説 

(1)爆発または流出運動
(2)高離心率軌道運動

 爆発 

 爆発は 3 kpc 腕の 50 km/s 視線速度を説明するために提出された。この モデルには幾つかの問題がある。
(1) 3 kpc 腕を説明する爆発は 6×107 年前の必要がある。 中心から 100 pc 以内の非円運動には 2×106 年前の爆発 が必要である。他の位置・速度の説明に多くの爆発が必要。
(2) Sgt A, Sgr B2 のような雲が中心すぐ近くの許容速度内にある。 3 kpc 腕を作ったような強い爆発がそれらの分子雲を通常軌道に留めておく理由が ない
(3)銀河中心雲は様々な密度成分を保持している。爆発は薄い成分を 吹き飛ばしただろう。
(4)一連の爆発があったなら、軸方向に大量のガスが存在するはずである。
(5)爆発エネルギーは 1060 エルグで、そのような大爆発は いくらかのガスを脱出速度以上に加速したはずだが、そのようなガスはない。
(6)内側 1pc は現在静穏である。
(7)M31 のような他の銀河に 3 kpc 類似の腕が見つかるが内側に落ちている。

 高離心率軌道 

 もしも内側銀河の恒星分布が3軸不等楕円体なら、 Schwartzschild 1979, Heiligman, Schwartzschild 1979 が示したように楕円閉軌道が存在する。 また、3軸不等楕円体は楕円体対称面に対して大きく傾いた軌道を許容する。 いくつかの銀河に見られるダストレーンは恒星分布の長軸に対して直交して おり、そのような軌道が実際に存在することを示唆する。Lake, Norman 1982 は、我々の銀河の内側回転曲線が三軸不等楕円体の楕円閉軌道により再現 できることを示した。Vietri 1985 は大きな傾き角と強い離心率の楕円閉 軌道が三軸不等質量分布の自然な結果であることを示した。

 三軸不等楕円体のガス運動 

 三軸不等楕円体ポテンシャル中の安定軌道を運動するガスは大きな動径方向 速度成分を有する。禁止速度はその結果である。多くの近傍渦状銀河は 小さなバーを内側に有する。例えば、IC 342 には 軸比 3 : 1 の 1.5 kpc 恒星バーがある。 CO 開口合成観測によると分子雲が 5 : 1 のレーン内に ある。多数の銀河写真を見ると、中心核のダスト分布がダストが細長い フィラメントに沿っている例が多い。
我々の銀河系中心部のガス運動 

 我々の銀河系でも分子ガスが三軸不等質量分布のまわりを高い離心率と 傾いた軌道に沿って回っている可能性がある。 Mulder 1986 の3軸不等ポテンシャル内ガス流のモデル計算によると、フィンガーやアーク上の ガスパターンが軌道に沿って出現し、円軌道運動からの大きなズレを引き起こしている。 銀河円盤内の観測者からガスの運動を観測すると、禁止領域速度や、非円運動が見える。 スパーやアークが観測者の方向を向いているような特別の場合には、l = 3 のクランプ2 のような大きな速度範囲に渡る構造が見える。

銀河に見えるアークやフィンガー 

 短期間露出で撮った Sb, Sc 銀河中心部の画像には、ダストバーに多数のアークや フィラメントが伴って見えるが、それらはしばしばメインの恒星バーやダストバーに 直交している。3軸不等ポテンシャルでは離心軌道はゆがんだ非楕円軌道を描くことがある。 それらはバーを横断するところで「コーナー」を示す。そのような軌道に属する粒子集団の 視線速度は非常に大きな区間を占めるであろう。クランプ2雲の視線速度が大きな幅を有する ことは、この雲が丁度そのような折り返し点にいることを示す。 M83 の写真を見て、 自分が銀河円盤内にいてダストフィラメントからの CO 輝線を観測していると想像して見よ。 これらのダストレーンに円対称性が欠けているのは、円運動からの強いズレを示唆している。

 潮汐力と雲の形 

  l = [-1, 2.0] にある雲の形は、この領域内の雲の大部分がバーの中に囲われていて、 個々の雲は大きな離心率の軌道で運動しているという解釈を支持する。図3の CS マップ を見ると、l = 0 の中心付近では、分子雲が銀河面に沿って長く伸びていることが分かる。 一方、 l = 1.5 複合雲では雲の多くは銀河面に対して垂直方向に伸びている。雲の形の この系統的変化は高離心軌道に沿って運動する雲に働く潮汐力で理解できる。

 雲の形が違う理由 

 同じ離心軌道を回る二つの粒子の間隔は近心点で最も大きく、遠心点で最も小さい。 また、同じ分散速度を持つ分子雲では銀河中心に近い時にはスケール高が小さくなり、 遠いところでは大きくなる。この二つの効果が、 Sgr A 付近の雲と l = 1.8 付近の雲 との形の違いを生み出している。


 4.連続電波アークと分子雲の関係 

 VLA アーク 

 Yuzef-Zadeh et al 1984 は VLA 21, 6 cm 観測から、電波アークの最も明るい 個所が分子雲の端に当たることを発見した。
 10.7 GHz Effelsberg マップには、アーク上に二つのピーク、   G0.16-0.15
 G0.18-0.04   VLSR = +40 km/s の熱的成分を持つ。

があり、アーク北西部と Sgr A をつなぐフィラメントには、
 G0.09+0.01
 G0.07+0.01
 G0.07+0.04
が存在する。

 最近の電波再結合線の観測は、それらは熱的 f-f 放射によりVLSR = [-40, 0] km/s で励起されたラインであることを示した。

 アークと銀河中心の間の雲 

 図5にも示されるように、分子ガスの端は電波構造と一致する。その上、 電波再結合線の視線速度は 13CO, CS のそれと同じである。 それらに編み込まれた非熱的電波アークは G0.16-0.15 と G0.18-0.04 を伴っているが、 それは中心が (l, b, VLSR) = (0.12, -0.12, 30-40) にあり、銀河面の下 0.2° まで侵入している雲の高銀緯端に当たる。この雲は連続波アークと銀河中心の 中間にある。

  VLSR = -20 km/s 雲 

 北側では、再結合線を励起している熱的フィラメント G0.09+0.01, G0.07+0.01, G0.07+0.04 の位置に強い 13CO 雲が VLSR = -20 km/s が ある。この負速度雲は (l, b) = (0, 0) での13CO を支配しており、 Sgr A の北東端から電波連続波アークの北端まで追跡できる。

  VLSR = -30 km/s 雲 

   VLSR = -30 km/s 雲の北端の形は再結合線フィラメントの形と一致する。 視線速度と形が一致することは両者の間に強い関係が存在することを意味する。熱的及び 非熱的フィラメントは高銀緯側に傾いた軌道に沿って運動する分子雲が銀河中心付近の 銀河面ガスを通過する際に形成されたものではないだろうか? 

 「正常」雲 

 13CO 放射の 70 % は「正常」軌道=許容視線速度を持ち、小さなスケール高 の分布をしている雲から出ている。残り 30 % は高銀緯、又は禁止速度を持つガスから出ている。

投影フィリングファクター f 

 高銀緯雲の軌道半径を 1 pc - 300 pc (銀河中心核分子円盤の広がり)とすると、 雲が銀河面を通過する間隔は 2 × 104 - 5 × 106 yr である。もし銀河面上で他の雲と衝突すると、強い衝撃波が生じる。銀河面での雲の面積 フィリングファクターを f (光学的深さみたいなもんだな)とすると、傾斜軌道の雲の 寿命は
τC = τorbit πrorbit
2f Vrotf


≈2×107yr ( rorbit ) ( Vrot )-1 ( f )-1
100 pc 170 km/s 0.1


ここに、rorbit = 軌道半径、Vrot = 回転速度である。 外側銀河では f = 0.01 程度であるが、銀河中心領域の高い放射率は f が もっと大きいことを示唆している。l = [-1, 2] において、 13CO 放射が 連続的に見えていることは、平均して視線方向に少なくとも一個の雲があることを意味する。 天球上に投影された雲の広がりは、雲の銀緯方向の広がり ≈ 0.4° で特性 付けられる。典型的な雲が直径 0.3° = 45 pc とし、これらが銀河面上の直径 3° に分布しているとすると、 f ≥ 0.1 である。
( これは要するに、分子雲円盤のサイズと厚みとの比である。)


 傾斜軌道への雲の注入が必要 

 この簡単な計算が示すのは、銀河面外の雲種族を定常に維持するには、108 年のタイムスケールで傾斜軌道へ雲が放出または降入される必要があるということである。 もしも面内軌道にガスが全くない状態が保たれるなら、この要請はかなり緩められる。

 衝突面は超新星と似る 

 l = 0.18 付近の熱的、非熱的フィラメントは傾斜軌道の雲と面内軌道のガスが衝突して いる証拠であると考える。銀河面を通過中の雲は G0.12-0.12 (VLSR = +30 km/s) と G0.14+0.1 (VLSR = -30 km/s) である。我々の モデルでは二つの雲は銀河面を下から上へ抜けようとしている。このため、衝突面 が VLSR = -30 km/s 雲の北端に生じている。衝突速度が 50 - 100 km/s で、周辺ガス密度が n > 10 cm-3 の場合、衝撃波背面は 電離される。この速度と密度は進化した超新星シェルが濃いガスと遭遇、例えば IC 443, Cas A, Cygnus Loop, した状況と似ている。
 衝撃波が形成するプラズマはセンチ波再結合線を生み出すであろう。v = 100 km/s, n0 = 100 cm-3 では、衝撃波背面では n = n0 (vs/vc)2 = 103 cm-3, ここに、T = 104 K に対する vc = 10 km/s である。

 磁場の話 省略 



 5.結論 

 1.分子雲の速度分散 

 銀河中心内側 900 pc の分子ガスは空間、速度の双方で非対称な分布を示す。 銀河面の外に存在するガスもあるが、それらは傾斜軌道を運動しているに違い ない。銀河面に存在するガスのスケール高は雲間の分散速度で決まり、その大 きさは雲内部のガスの分散速度と同程度である。外側銀河では個々の雲内の ガスの乱流速度と比べて、雲間速度は数倍大きいので、この点で内側銀河と 外側銀河では分子雲種族の性質が異なる。

 分子雲内部乱流が強い 

 銀河中心付近分子雲の内部は非常に乱流が強く、内部分散速度は 15 - 50 km/s で普通の銀河円盤分子雲にくらべ 3 - 10 倍大きい。この乱流速度と ガス層の見かけ厚さを組み合わせて、様々な分子ガス構造の銀河中心距離の 推定に使った。
3.離心軌道上のガスのつくる細いレーン 

 円運動からの大きなズレと、 l = 3 のクランプ2のような孤立構造体の形態 からガスの多くが高離心率軌道に沿って運動していると予想される。そのような 軌道は恒星バーまたは3軸不等な重力ポテンシャルのサインである。近傍渦状銀河 のバルジや中心核で見出されるように、我々の銀河系でもガスは細いレーンに 沿って分布しているのではないか。
 そして、 Sgr A, Sgr B2, l=1.5° 分子雲のような大きな雲複合体はそのレーン の中の質量集中かも知れない。l=3° 雲のような構造体は主要レーンに対して 交差する形に存在する二次的なダストレーンではないか。そのような構造が近傍 渦状銀河の中心部画像にはしばしば見られる。もしそのようなダストレーンが 視線方向と平行になると見かけ上、つながった天体内に大きな速度勾配があるかの ように見える。クランプ2はそのようなものの例かも知れない。

 4.連続電波源は衝撃波? 

 連続電波源の位置は分子雲の端と一致する。それらは細長い傾斜軌道を描く分子雲 が、銀河面ガスを突っ切る際に生じた衝撃波である。