研究内容
活動銀河核と銀河宇宙
活動銀河核研究の意義
セイファート銀河やクエーサーをはじめとする活動銀河核は 銀河の中心部の非常に狭い領域から極めて強力な放射が 生じる現象であり、銀河の中心に存在する超巨大質量ブラックホールへの 質量降着をエネルギー源としています。ブラックホール周辺には 降着円盤、電離ガス雲、ダストトーラスなどの構造が形成され、 X線から紫外線・可視光・赤外線、そして電波まで 多様な波長での放射が産み出されています。 その特異な活動性のメカニズムは天文学者の興味を集めてきましたが、 多くの銀河の中心に巨大ブラックホールが存在することが明らかになって以降、 ブラックホール成長と銀河自体の進化の関係の観点からも 活動銀河核は改めて注目されています。
変光現象で探る活動銀河核
しかし活動銀河核の内部構造は極めてコンパクトであるため、 「写真」をもとに研究することは大変に困難です。 そこで光赤外線の分野では分光観測や 偏光観測などによって研究が進められてきました。 これらに加えて重要が手法が活動銀河核の光度の時間変動の観測です。 活動銀河核は一般的に X線や紫外線・可視光、近赤外線で変光します。 これは実は活動銀河核の放射領域が極めてコンパクトであることを示します。 異なる波長での放射間の変動相関はそれぞれの放射領域と放射機構の関係を 含有しています。 このように活動銀河核からのシグナルの時間変動の観測は 幾何学的構造や放射機構を明らかにするための有力な研究手段として、 「時間軸天文学」という言葉ができるはるか以前から幅広く展開されてきました。 とくに我々は赤外線・可視光・X線などで多波長モニター観測を遂行し、 活動銀河核内部の構造と放射機構を研究しています。
遠方宇宙の探査
銀河自体をはるかに超える明るさにもなる活動銀河核は、 初期宇宙から現在までの銀河宇宙の進化や膨張宇宙そのものの研究のための 有力な探査プローブとして重要な役割を担ってきました。 我々も活動銀河核の構造・放射機構について得られた情報を基礎に、 ブラックホール成長や宇宙膨張の測定などのテーマに取り組んでいます。
重力レンズクエーサーとダークマター
冷たいダークマターモデルの課題
冷たいダークマター(CDM)による構造形成モデルは現在の標準的な理論モデルとなっていますが、小空間スケールにおいてはいくつかの課題があります。 銀河系近傍で観測される矮小銀河の数に対して CDM モデルが予想する 同質量スケールのサブハローの数が圧倒的に多いのもその一つです。 この課題に取り組むためには観測的には矮小銀河中の星やガスからの電磁波だけでなく、 質量源そのものを検出することが重要です。
重力レンズ現象の摂動を探る
そこで我々は重力レンズ効果を受けたクエーサー・サブミリ波銀河に注目し、 重力レンズ像間の明るさ比や局所的な形状変化を探すことで、 光路上にある局所的な重力摂動源を観測的に同定し、 重力レンズを形成する主重力源となっている銀河の周辺にある 矮小銀河質量スケールの CDM サブハローや、 クエーサー・サブミリ波銀河から地球までの銀河間空間における CDM 分布の揺らぎの様子を研究しています。 このとき活動銀河核の内部構造に対する知見を応用することで、 摂動源質量について一定の定量評価を可能にしています。 現在、CDM モデルとの比較における統計的な精度を向上させるため、 観測例数を積み重ねています。
天文観測装置の開発
現代の観測天文学は高度な技術基盤上で開発された望遠鏡・観測装置によって成立しています。「とがった」研究を実現すべく、観測装置の開発にも力を入れています。
補償光学
地球大気の揺らぎの影響により天体像がぼやけてしまうため、地上にある光赤外線望遠鏡はその角度分解能に大きな制約を受けています。これは遠方天体の詳細な研究を困難にしています。これを克服する技術が補償光学で、天体像の「ぼけ」を高速に測定し、即時に修正することでシャープな天体像を得るものです。これまでに実用化されている補償光学装置は大型望遠鏡に搭載されている大規模なものがほとんどです。そこで、大気揺らぎによる制限を超える高い角度分解能での観測を身近にしユニークな天文学研究を進めるため、我々は小型望遠鏡向けの可視補償光学装置や TAO 望遠鏡用の補償光学装置の基礎的な研究を進めています。
光赤外線望遠鏡・カメラ開発
天体からの光を精確に集めて観測装置に導くのが望遠鏡の役割です。このためには光学系を正しい配置に調整・維持し、天体の運動を高精度で追尾する必要があります。望遠鏡はいわば巨大な精密機械です。私はこれまで宇宙科学研究所1.3m望遠鏡の調整、MAGNUM 2m 望遠鏡と miniTAO 1m 望遠鏡の立ち上げと調整に携わり、現在は TAO プロジェクトの一員として各企業と協力しながら TAO 6.5m 望遠鏡の開発を進めてます。また MAGNUM 望遠鏡に搭載する観測装置の検討も開始しました。
その他
これまでに超新星やガンマ線バーストのフォローアップ観測なども行ったことがあり、「時間軸天文学」の手法をキーワードに、変光現象を示す他の天体にも興味を広げつつあります。