On the Pulsation Mode of Mira Variables: Evidence from the LMC


Wood, Sebo
1996 MN 282, 958 - 964




 アブストラクト 

 ミラ型変光星の視直径測定はこれらの星が非常に大きくて、基本振動よりは 第1倍音振動と合致することを示している。一方では、ミラ型星の非線形脈動 モデルは、少なくとも M ≤ 2 Mo 星に関しては、観測されるような大きな 速度振幅を達成できるのは基本振動だけであることを示す。ここでは、LMC の LPV が二本の (K, log P) 系列に乗ることを示す。一本は良く知られたミラ 系列で、もう一本はそれと平行する Δlog P = 0.35 の系列である。 ミラ系列上の LPV 振幅は ΔI = [0.1, 3] という大きな散らばりを持つ。 第2系列の振幅は ΔI < 0.5 と小さい。ΔI > 0.5 の 既知 LPV は全て第1系列に乗る。  LPV の理論モデルは基本振動周期の第1、第2倍音周期に対する比として、 Δlog P = 0.3 - 0.4 を予想し、かつ倍音振幅は基本振動よりも小さな 極限振幅を持つことを予想する。もし、第1系列が基本振動で、第2系列が 倍音ならば、観測結果は自然に理解できる。第2のテストとして、 LMC の 古い巨星枝にある星に対して振動モデルを計算し、計算された周期を観測と 比較した。基本振動脈動星の周期は観測されたミラ型星と一致した。倍音周期 はミラ型星周期には短すぎた。これらの結果はミラ型星が基本振動という説を を強く支持する。


 1.イントロダクション 

 基本振動か第1倍音か 

 ミラの振動モードを説得力を持って定める事は未だになされていない。ミラ のような赤色巨星では基本振動周期と第1倍音周期の比は2より大きい (Fox, Wood 1982) ことを考えるとこれは驚きである。ミラの質量と半径を 適当な方法で決めさえすれば、最初の数モードに対する理論的な周期・質量・ 半径関係と比較して、振動モードを決めることが出来るはずだ。このような 解析は過去に多くのしごとがある:Wood 1975a, 1990b, Whitelock 1986, Tuthill et al 1994, Haniff,Scholz,Tuthill 1995, Feast (1996) などがそれである。周期数百日のミラの運動学的性質は古い円盤種族 Feast (1963), Jura, Kleinmann 1992 と一致することから、ミラの質量として通常 1 Mo が 仮定される。半径は直接視直径を測定するか、温度スケールを仲立ちにして 有効温度から決める。これらの研究は一般にミラは第1倍音モードで振動して いるという説を支持している。ただし、非変光赤色巨星のもっと暖かい温度 スケールを採用すれば、ミラが基本モードで振動するという説も成り立つ。

 第1倍音説の大きな難点 

 しかし、第1倍音説には大きな難点がある。第1倍音振動星の半径は非常に 大きいので、重力が小さく、脈動速度が観測される速度よりずっと小さくなっ てしまう Hill, Willson 1979, Willson 1982, Bowen 1988, Wood 1990a, Bessell, Scholz, Wood 1996 のである。ただし、ここでも状況はあいまいで、 M ≥ 2 Mo か P ≤ 250 d の第1倍音モデルは観測される速度振幅と 一致する。Wood 1974, Tuchman 1991. 基本的に言って、問題の根源はミラの半径を決める困難さにある。その大気は 非常に広がって、次第に星間物質に溶け込んでいき、境界を決めにくいのであ る。
 二本の系列の間隔 

 赤色巨星脈動モデルによると、星が AGB を昇って行くと倍音モードが不安定 になる。最も不安定なモードは光度が上がるにつれて低次になっていき、AGB 先端では基本振動が最不安定となる。(Fox, Wood 1982) もし、ミラが基本 振動星であるなら、LMC の (K, log P) 図中に Δlog P = 0.34 離れた 二本の系列が見えるはずである。なぜなら、P0/P1 = 2.2 だからである。一方、もしミラが第1倍音振動星なら P1/P2 = 1.3 に対応して、Δlog P = 0.11 くらい にしかならないだろう。

 CCD で小振幅 LPV を発見 

 LMC 星団の CCD 観測は多数の LPV を発見した。以前の写真観測では振幅の 大きな、例えば Hughes 1989 は ΔI > 0.5 を LPV とした、変光しか 検出できなかった。しかし、新しく発見された LPV は既知 LPV に較べ振幅が 小さい。この論文では新しく発見された LMC LPV 中に第2の K-logP 系列を 探す。振幅が小さいことから、それらがミラより高次のモードで振動している 可能性は高い。

 以前の試み 

 Wood 1975b, Barthes, Tuchman 1994 は以前に太陽近傍のミラの 変光曲線中に多重モードの存在を探した。しかし振幅の大きな振動星中に 第2モードを検出することは失敗に終わった。

 第2の方法 

 第2の方法として、大振幅振動が開始される光度より暗い所で、理論モデル を巨星枝にフィットする。次にそれをミラ領域に伸ばし、モデルを LMC ミラ の観測と較べるという方法がある。Wood 1995 に予備的結果がある。


 2.観測データ 


表1a.NGC 1850付近(?)の LPV 赤外観測


表1b.NGC 2058/65 付近(?)の LPV 赤外観測
 この研究で用いる LPV は、(1)LMC 星団 NGC 1850 = LMC バー北端付近 と、(2)NGC 2058, NGC 2065 = LMC バー南端付近、で発見された。赤外撮像 観測は 1994 May 29 と 1995 May 14 に行った。また、単素子赤外観測が 1994 Dec 19 に 10 arcsec アパーチャで行われた。表1に観測を、表2にはその 平均を載せた。





 

表2.LPV の平均等級とカラー


 3.観測された (K, log P) 関係 

 図1= Ko - log P 関係 

 図1には観測された Ko - log P 関係を示す。E(B-V)NGC1850 = 0.15, E(B-V)NGC2058/65 = 0.21 を仮定した。A(K) = 0.4E(B-V) とした。

 第2系列 

 図1を見ると、 LMC ミラ系列にあるのは LPV の半数である。図1には明ら かに第2の系列が見られる。それは第1系列と平行し、ΔlogP = -0.35 離れている。同じ光度での周期の比では 2.2 に当たる。この値は第1節で議論 した値 2.1 に驚くほどに近い。従って我々は、ミラ系列は基本モード、第2 系列を第1倍音モードと考える。



図1.LPV の Ko - log P 関係。丸= NGC 1850 付近の星。三角= NGC 2058/56 付近の星。実線= LMC ミラの関係 (Feast et al 1989).  


 4.振幅分布 

 図2=振幅分布 

 一般的に倍音振動は基本振動に較べ振幅が小さいと考えられる。そこで、 図2に二つの系列に属する星の振幅 ΔI の分布を示した。ミラ系列の振 幅は ΔI = [0.1, 2.0] に亘るが、大部分は ΔI ≥ 0.5 である。 一方、ΔI ≤ 0.5 に限られる。




図2.I 等級振幅の分布ヒストグラム。実線=ミラ系列。点線=第2系列。  


 5.理論的 AGB 星 

 図3に NGC 1850 周り、10'x10' の星の (I, V-I) 図を示す。黒丸=NGC 1850 周りの LPV。黒三角= NGC 2058/2065 周りの LPV. M = 0.8(破線), 1.0(実線), 1.5(点線) Mo の理論 AGB 経路も示す。0.8 Mo はコアマス=0.6 Mo になる質量、 1.5 Mo は 3 Gyr 昔に始まった星形成バースト(Butcher 1977, Bertelli et al 1994) に対応する。質量と光度の組に対し、光度・核質量関係 Wood, Zarro (1981) で核質量を定め、外層部のモデルを計算する。混合距離 l は Mbol = -1, MI = -2.5 の AGB 下部で正しい有効温度を与えるように定めた。 l/HP = 2.5 が最適値であった。この l/HP で AGB 上部 まで計算を進める。(L, Teff) から (MI, V-I) への変換には、 Teff > 4000K では Kurucz 1993 のモデル大気を用いた。より低温では、 Bessell 1979 の (V-I, logTeff) 較正と、Bessell, Wood 1984 の BCI を用いた。この手法で LPV の温度スケールを考えずに済んだ。LPV の温度と半径 は、混合距離比 l/HP 一定の仮定から直接導かれた。この仮定は 一般に、例えば球状星団の巨星枝を上手く再現した。AGB 系列のためには、OPAL オパシティ(Iglesias, Rogers 1993) が用いられ、そこに Chios, Wood, Capitanio 1993 の分子オパシティが加えられた。Y = 0.30, Z = 0.008 を用いた。

図3.NGC 1850 周り、10'x10' の星の (I, V-I) 図。黒丸=NGC 1850 周りの LPV。黒三角= NGC 2058/2065 周りの LPV. M = 0.8(破線), 1.0(実線), 1.5(点線) Mo の理論 AGB 経路も示す。


 6.LPV の脈動モデル 


図4.(Ko, log P) 面上で観測 LPV とモデルとの比較。点の意味は図1と同じ。 基本振動モデルは Feast et al 1989 に合うように強制した。そして、モデル 周期比を用いて、第1倍音、第2倍音、第3倍音ラインを引いた。

 線形非断熱動径振動 

 図3の AGB モデルに対し、 Fox,Wood 1982 の方法に先に述べた新たなオパ シティを加えて、線形非断熱動径振動を計算した。これらを観測結果と比較する ために二つの方法を用いた。

図5.図4と同じだが、ミラ系列に第一倍音を強制的に合わせた。

 第1の比較法 

 第1の方法では、モデルで得られるモード間の周期比を用いる。しかし、 周期自体は用いない。   この方法は混合距離比 l/HP が巨星枝を昇る 際に変化して、距離比一定では不正確な Teff を、さらに不正確な周期を 与える可能性を避けることができる。周期比は星のパラメタ―に鈍感なので 比較的安全である。そこで、与えられた K 等級に対する振動モデルの基本振動 周期を観測値に変え、周期比はモデル値を使って、倍音の周期を計算する。 その結果を図4に示す。同様の処理を、第1倍音を使って行った結果が図5 である。図4の方が観測と合う。


 第2の方法 

 この方法では、モデルで決まる基本、第1、第2、第3倍音の4つの周期を 0.8, 1.0, 1.5 Mo に対して直接プロットした。AGB 星モデルは前と同じ である。図6にその結果を示す。

 光度と共に質量が増せばよい。 

 図6を見ると、ミラの周期光度関係は、光度が上がると共に、質量が上がると 考えれば、基本振動でうまく説明できることが判る。

 銀河系ミラの運動と年齢 

  Feast (1963), Jura, Kleinmann (1992a) は銀河系ミラ型星の運動学的性質から、周期と共に質量が増加することを 示した。ここで見つかった第2系列の星は倍音系列として説明できる。


図6.質量 0.8, 1.0, 1.5 Mo の基本、第1、第2、第3倍音の周期と光度 の関係。太い実線= LMC ミラ (Feast et al 1998). 丸= NGC 1850 付近の LPV. 三角= NGC 2058/2065 付近の LPV. 白印= M-型星。黒印=炭素星。  


 7.まとめ 

 LMC の小振幅と大振幅の LPV を赤外で観測した。それらは、K-logP 面上で 二つの系列に分かれた。一つはミラ型星系列で、第2系列はミラ系列と平行だ が、周期が 2.2 倍小さい。理論振動モデルとの比較から、ミラ系列は 基本振動で、第2系列は倍音と考えられる。  ミラに対して、視直径の観測、または Teff の観測から得られた大きな半径 には説明が必要である。可能な説明としては、ミラ距離を過大に見積もってい る、大気オパシティを過小評価、脈動によるミラの膨張などがある。 この問題の理解は明らかに必要である。