The pulsation, temperature and metallicities of Mira and semiregular variables in different systems


Feast,M.W.
1996 MN 278, 11-21




アブストラクト

晩期型星の角直径とIR測光のデータを集めた。無矛盾な Te スケールが得られた。 Te - (J-K) 関係は以前考えられていたより急になったが、モデル大気の予言とは合う。
赤波長と赤外で測った直径を較べると、赤波長では大気が広がって見えるというモデル の予想が正しかったことを示した。また、データはミラ脈動が第1倍音であることを 支持する。

球状星団のミラと SR のデータを恒星進化と振動の理論と較べた結果はやはり、 Te - (J-K) 関係を支持する。47 Tuc のミラとSRはもしそれらが ∼ 3 × 10 -7 M yr-1 のマスロスをしているとするなら 理論と合う。高メタル、低メタル双方の球状星団中にあるSRはミラと同様、多分第1倍音 振動している。

この論文で見出された観測と理論の一致は、赤外カラー周期関係を使って異なる星系に 属するミラの間でのメタル量の違いを調べられることを示す。メタル量既知の銀河系 球状星団中のミラを、LMC, バルジ SgrI 領域と比較した結果、LMC の周期 100 - 300 日ミラでは平均メタル量 ∼ -0.6, SgrI では ∼ -0.2 であった。 SgrI の 値は BW 内の球状星団 NGC 6522 の値に近い。

今までのところ、 P - L 関係のメタル 量依存の証拠はない。また、理論からも明確にメタル依存性は予想されていない。

1.イントロ 

ミラが大事な理由 

 ミラは次の点で重要である。

(1)AGB先端にあり、恒星進化の理解に重要である。

(2)銀河系内の運動学的特性と周期の関係は星種族の研究に大事。

(3)P - L 関係は距離指標に使える。


SRとミラの関係   球状星団の研究からSRはミラの前駆天体であると言われてきた。したがって 両者を一緒に調べることは意味がある。

ミラの振動 

 ミラの研究においては過去に理論予測と観測との間の不一致があった。例えば、 P - L 関係のメタル量依存性(Wood 1990) は観測的には証明されない(Whitelock et al. 1994, Wood 1995)。また、(J-K) - logP 関係にメタル量依存性があることは Wood, Moore, Hughes 1991 が予言したが、メタル量が知れている球状星団で調べた結果 (Feast 1992) は否定的であった。Whitelock 1986 は球状星団の SR をミラと共に 調べ、log P - log Te または log P - (J-K) 関係のメタル依存性は理論と一致 しないか、または高メタルと低メタルとでSRの振動モードが違うとしなければなら ないことを示した。

 Te - (J-K) 関係 

 理論と観測との比較において、どんな Te - (J-K) 関係を使うかは決定的な重要性 がある。この論文では、新しく得られた関係が以前とは異なるが、大気モデルから の予測とうまく合うことを示す。また、振動と進化理論を結合して導いた長周期変光星 の Te は新しい関係に合致する。このことは、Te - カラー関係からミラのメタル量を 導く可能性を示唆する。ほんとなら使ってみたい! 実際、この方法により、バルジ、LMC、球状星団のミラのメタル量に差があることを 示した。

その他の 関係 

 その他、ここでは以下の点を論ずる。

(1)ミラとSRの振動モード

(2)47 Tuc 内ミラ、SRの振動モード

(3)ミラ P - L 関係のメタル依存性


 2.有効温度とカラー 

二つの Te - (J-K) 関係 

 Te - (J-K) 関係に二つの意見があった。この二つは殆ど同じ勾配 dlogTe/d(J-K) ∼ -0.21 (Feast et al. 1989) を持つが、ゼロ点が 0.1 異なる。 もう一つの方 Wood et al 1991 は主に月掩蔽から決められた非ミラ型星の角直径から 導かれた。かれらの関係の勾配は高温側はやや早期型の星、低温側は炭素星の観測 から決められた(Bessell, Wood, LoydEvans 1983)。

炭素星使用への疑問 

したがって、ミラやSRの領域 での関係は炭素星の結果に強く依存する。しかし、炭素星とM型星とはオパシティが 異なるので、適用可能性に疑問が残る。
さらに、炭素星はしばしば周囲にダストシェルを有しこれがカラーに影響する。しかし、 もしわれわれが炭素星の結果を無視すると、(J-K) - logTe 関係の勾配が低温度 領域で決められなくなる。

黒体温度の適用範囲 

 良く使われる他の関係式ではミラの角直径の観測に基づいたゼロ点を有している。 この様にして決めたミラの有効温度は赤外SEDに黒体フィット(TBB) して決めた温度 (Roberts,Feast 1981, Glass,Feast 1982)と近い。この関係の 勾配は dlogTBB/d(J-K) (Feast et al 1989) から決められる。しかし、 Te ∼ TBB はある限られた温度領域でのみ角直径測定により 確認されているだけであり、 dlogTBB/d(J-K) = dlogTe/d(J-K) の観測的証拠とは言えない。

早期型の角直径測定の例はないのか?やっぱり、黒体フィット の有用性はチェックしておきたいな。



角直径データ 

 表1,2に酸素型のミラと非ミラに対し、(J-K) - Te 関係を調べるための データを集めた。Te は角測定に依存する。ミラと非ミラの双方で 2 μm での 直径を「真の」直径と考える。この論文の中では脈動関係式に使われる半径という 意味である。非ミラでは角直径は波長によってあまり変化しない。しかし、ミラでは 大気が広がっているため波長で大きく変化する。赤波長域で得られた角度は大気モデル を使って「真の」角直径に直された。このデータと輻射等級とから Te が導かれる。 非ミラでは Te は表2にある文献から採られた。ミラに対しては新しい mbol が、公刊されたデータ、または SAAO JHKL 測光から求められた。大部分 の場合、ミラの測光データは角測定と類似の変光位相での値である。

 Ridgway et al 1992 は 2 μm で散乱光のため、見かけ直径が大きくなると 述べた。しかし、その効果を入れないでも観測とモデルが良く合うことから 考えると、この効果は小さいのではないか?

測光データ 

 可能な限り SAAO データを使った。SAAOの二つの赤外装置の間の関係は、 (J-K)1.9 = 0.955 (J-K)0.75 である。赤化補正は 通常は必要ないが、Feast, Whitelock,Carter 1990 にある手続きに従った。 SAAO データのない非ミラは Ridgway et al 1980 に 0.073 を Carter (0.75) システムに加え、次に 1.9m システムに変換して用いた。




 3.改訂された log Te - (J-K) 関係 

表1,2から導いた Te - (J-K) 関係 

 図1には、表1,2のデータをプロットした。エラーバーは角測定のエラーのみを 考慮しているが、特にミラでは測光が角測定と異なる時に行われているので、エラーは もっと大きいはずである。したがって、平均関係の周りの分散はかなりが観測起源と 考えられる。ミラも非ミラも一緒にしてM型星を考えると、傾きは以前使われていた dlogTe/d(J-K) より大きいことが分かる。かけ離れているデータ HR 6861 を除いて、 データ点の重みを均一にした線形近似式は(多分縦と横で誤差をとった?)
       log Te = -0.474(J-K)o + 4.059     (2)

       log Te = -0.706(J-K)o + 4.331     (3)

この後は、この二つの平均をとった、下式を使う。 

       log Te = -0.590(J-K)o + 4.194     (4)



図1 角測定のある星の log Te - (J-K)o プロット。白丸=G, K 型星。
   黒丸=非ミラM型星。バツ=M型ミラ。M ミラと非ミラに回帰直線フィット。



モデル大気との比較 

 図2は同じデータをモデル大気と重ねた。モデルは徐々に改善されているが、まだ 定量的な一致は望めない。しかし、モデルも勾配が急であることは注目すべきである。 レフェリーは、図1を非ミラとミラを別のグループとしてあつかい、それぞれが 緩い勾配を持つという解釈を示唆した。しかし、最もよく温度が決められた非ミラ がこのラインに沿って位置しているので、そのような解釈はデータと合うとは 言えない。その上、そのような解釈は図2でのモデル、理論との一致を破壊する ものである。

 図1でデータ点の分布が非一様なのは観測的効果であり、角直径が測られた ミラは大きくて低温のミラが多かったせいである。球状星団中のより短周期の ミラがその間隙を埋めるだろう。メタル量の違いは どうなるんだ?





図2 図1中の M 型星のTe-(J-K)oプロット。実線=Bessellモデル(1989)。
   白丸=静的大気。四角=極大ミラ。三角=極小ミラ。

 4.ミラの振動モード 

実直径の決定 

 もし、角直径測定のあるミラまでの距離が分かれば実直径が出る。すると、振動 モードを決められる。月の赤外掩蔽観測データと P - L 関係から決めた距離を 使い、ミラは第1倍音で振動していることが分かった。(Robertson,Feast 1981, Glass,Feast 1982) この結論は、10個のミラに対する干渉計角直径観測 (Haniff et al 1995) により強く確認された。表3に角度観測データを載せた。 PL 関係に使った SAAO 赤外測光データは表2にある。K バンド PL 関係には Feast et al 1989 のLMCミラに対する式、

         MK = -3.47 log P + 0.91       

を使い、LMC までの距離指数は 18.57 (Feast 1995) を用いた。図3には基本振動 と第1倍音振動に対する周期ー半径関係の予想値が M = 1.0 と 1.5 M に対してプロットしてある。ミラが低質量であることは、銀河系運動学特性やその他 の性質から明らかである。(Feast,Whitelock 1987)基本振動には Wood 1990 の式を 用いた。第1倍音には標準的な P M0.5 R-1.5 = Q を 使った。Q = 0.04 とした。この値は Fox,Wood 1984 と似ている。図3を見ると、 第一倍音が強く支持されることが分かる。

PL 関係、分子散乱の検討 

 この結論はどんな PL 関係を採用するかに依存するが、基本振動に合うようにする ためには 1.5 等ずらす必要がある。今までのところ、銀河系フィールドミラは LMC ミラと合う(Whitelock 1994)としてよい。さらに、角直径データのある R Leo は 三角視差が知られていて第1倍音と合致する。(Tuthill et al 1994)

 第2章で述べた通り、Haniff et al の測定は赤波長で行われ、大気モデルで 「真の」半径に直された。それらは図3でバツ印で表わされている。他の点は 2 μm 観測に基づき、直接「真の」半径を与える。バツ印と他の点との間に 縦方向の有意なずれは見られない。





図3 ミラの半径ー周期関係。黒丸=赤外観測。バツ=可視干渉計。
    白丸=可視スペックル。実線は1.0, 1.5 M のモデル。


 分子散乱で 2 μm 半径は膨れて見えるという指摘もあるが、そうだとしたら、 その値は丁度基本振動から第1倍音へ移るだけの量である必要がある。それ よりは膨れ上がり効果は小さいと考える方が合理的である。

基本振動ミラ 

大部分のミラが第1倍音で振動しているという結論は、幾つかのミラが、特に 長周期では、基本振動をしているという可能性を排除しない。もし、 ミラが第1倍音から基本振動へと切り替わったら、それらの星は、例えば OH/IR 星のように、P - L 関係の下に位置するものとして認識されるだろう。 そのような星が実際に存在するかどうかは論争中で、(Feast 1985, Whitelock 1991) あるが、LMC の赤外サーベイが決着をつけるだろう。

どうついたのか?



 5.ミラ・SRの観測と理論を較べる 

半経験的ミラ log P - L 関係 

 Wood 1990 は、AGB の位置を表わす式と脈動方程式を組み合わせて 観測と較べることを提案した。イントロで述べたように、そのような 比較は過去においては十分満足の行く形では行われなかった。 その理由の一部は、途中で log Te - (J-K) 関係を用いる必要があるが、そこは 大きな訂正を必要としていたからだ。したがって、この問題を新しく 調べなおす必要がある。 Wood が用いた AGB 関係は、

 Mbol = 15.7 log Te + 1.884 log z -2.65 log M -59.1 -15.7Δ   (6)

ここに、z と M は太陽単位である。この関係はここでも使う。また、Wood にならい、 Δ = 0 と仮定する。次に脈動定数の式は、

 log P = 1.5 log R - 0.5 log M + log Q           (7)

ここに、通例の

 log L = 2 log R + 4 log (Te/T)              (7a)

を加えると、

Mbol= -2.036 log P +0.73 log z -2.049 log M +2.881 +2.036 log Q    (8)

logTe = -0.130 log P -0.073 log z +0.038 log M +3.948 +0.130 log Q  (9)

初めの3式の変数は、Mbol, Te, P, z, M, R の 6個で、式 (8), (9) は R を消去して式の数を3から2に減らした形になっている。 (6) の AGB の式は星団のような、Minit, z, 年齢が共通の SSP に対する式である。

 くどいが、(8)、(9)は、与えられた AGB の先端部にあって、マスロスに依るマス の減少、光度、周期の増加を伴いつつ進化する一団のミラに対する式である。様々な母集団 からのミラの集合に対しては注意がいる。


 log P - L 関係式のテストデータ 

 これらの式をテストするために、球状星団内のミラを使った。データは Whitelock 1986 からとった。メタル量は Djorgovski 1993 による改変を考慮した。表4は メタル量と (J-K)o を載せた。他のデータはWhitelock の表1にある。






5.1.球状星団SR,ミラの Te - (J-K) 関係 

(9)式は質量Mの項が小さいので、もっともらしいMならば概算値で十分に使える。 この点は実用面で非常に重要である。  図4には、上の(9)式から決めた球状星団内ミラの Te をプロットした。 ただ、直ぐ後の回帰直線との一致を良くするため -0.03 の補正を加えた。 非ミラと ミラの観測 log Te に対する回帰直線を図1から採って引いてある。  Te は(4)からではない。球状星団は(4)適用外 だから当然か。Tbbでもないのね。星団毎に異なるzを入れて(J-K)oと独立に (Mはどうしたのかわからないが。)P から決めた Te が縦軸。

図4の点分布は 図1とよく似ている。特に、低温側で傾きが急になり、カラーが青くなると傾き が緩くなる点に注意せよ。これは図1でも見られた特徴である。これらの結果は 式(9)が適用できることの定性的証拠と言える。しかし、式(9)から得られる log Te は同じ (J-K)o の図1線より少し高い。この差は式(9)に -0.030 の 定数を加えると是正される。同じ -0.030 の補正は式(8)にも施されるべきである。

 上の議論では、全ての星が第1倍音で振動しているとした。高メタル星団、例えば 47 Tuc、 ではこの仮定は以下のように正しい。

 図4で、(J-K)o < 1.0 は全て log z ≤ -1.1 の星団から来ている。もし これらの星が基本振動しているなら、式(9)の Q が少なくとも2倍になる必要が ある。そして、 log Te は 0.04 増加する。これは、図1と図4の比較で図4の点を 悪い方向(log Te を上げる)に動かすことになる。

 図1は銀河系円盤太陽近傍の非ミラ、ミラの Te - (J-K) 関係を半径測定を足がかりにして決めた。一方、図4の Te - (J-K) 関係は、第1 倍音のQ値の式を使い、周期測定をキーデータに使って、色々なメタル量の 球状星団ミラをつないで求めた。球状星団の非変光星にこの関係を適用してよいか どうかは未定。


図4.式(9)から決めた球状星団内SR,ミラの Te
   黒丸=SR、バツ=ミラ。実線は図1の平均線。




5.2. 47 Tuc の 光度 - 周期 関係 

光度 - 周期 データをフィットする   式(8)のテストは式(9)より難しい。このテストには 距離が分かっている必要があり、また式内の M 項が大きい。 しかし、47 Tuc 内のSRとミラを使って微分比較が可能である。 図5にはMbol を log P に対してプロットした。 データは表3と Whitelock 1986 表1からのものである。47 Tuc の距離指数は 13.27 を採用した。

 データへの最小二乗フィットを縦と横方向で行い、

         Mbol = -1.128 log P - 1.317      (10)

         Mbol = -1.394 log P - 0.802      (11)

どちらの傾きも、式(8)で、M, z = 一定として得た傾き -2.036 と 大きく違っている。これは十分予測されていたことで、なぜなら AGB 星は SR, ミラを通過する際に多量の質量を失うだろうからである。 図5の点の主な不定性は mbol よりは SR 周期にあるので、逆回帰 (式11) をとった方が正しいフィットができる。

M = 一定のモデル式との差はマスロス効果  式(8)は、z 一定で

         Δ Mbol = -2.036 Δ log P - 2.049 Δ M     (12)

と書けるので、(11), (12) から Δ log P を消去して、

         Δ log M = 0.22 Δ Mbol         (13)

同じことだが、 Δ Mbol = -0.8 に対して Δ log M = -0.17 である。このように、式からはこの等級巾の上下で質量がファクターで 1.5 減少する ことが予想される。つまり、0.9 M から 0.6 M へというような。
図5.47 Tuc 内SR、ミラの Mbol - log P プロット。回帰線も示す。
SR=B系列、ミラ=C系列で別々にフィットすべきである。
SRの頭からMbol同じで右に飛んでいるのは転移が短時間であることを示す。
log P =2 のSRは転移中かも知れない。


マスロス率  Wood 1990 によると、星は AGB を 1 等上がるのに 1.21 Myr かける。したがって、この結果は平均マスロス率 ∼ 3 × 10-7 Myr-1 を意味する。この値は薄いダストシェルを持つ 星のマスロス率として期待される程度のものである。ここまでの議論の粗さを考えると 観測と理論の一致は満足すべきレベルである。勿論、SRがミラと同じ程度のマスロス 率を示すとは思えない。ミラはSRよりマスロス率が高いであろう。実際、Frogel,Elias 1988 は 47 Tuc のミラに (5 - 10) × 10-7 Myr -1 を与えている。


SRの振動モード 

 ここまで、SRとミラはどちらも第1倍音で振動していると仮定してきた。もし、 SRが基本振動だと仮定すると、 Mbol - log P 関係の勾配はもっと 緩くなる。逆回帰線の勾配は -0.972 となる。この 勾配はモデル式の Q が変わるためか? 図5のフィットは変わりようがないし。 マスロス率は前に与えた値の倍になる。これは、SR 初め 0.9 M だったのがミラ終わりには 0.3 M になることを意味し、あり得ない。 つまり、観測からはSRとミラは同じモードで振動しているのである。 

LMCの P - L 関係 

 式(8)をテストするもう一つの方法はLMCミラの利用である。Whitelock et al 1994 によると、LMCの P - L 関係 は球状星団に適用できる。

         Mbol = -3.00 lpg P + 2.78         (14)

これを、式(8)と合わせると、

         log M = 0.470 log P + 0.356 log z - 1.340      (15)

z ∼ -0.6 の球状星団には P ∼ 200 d のミラが存在する。式(15) に依れば、 その星の質量は ∼ 0.34 M となり、不自然に低い。 この星に妥当な値 ∼ 0.6 M を与えるためには、式(8) の定数項を +0.5 上げる必要がある。

この補正をすると、 400 日 ミラで z ∼ 0 は ∼ 1.4 M となる。

 式(8), (15) への以上のような補正は、Q を0.040 から 0.046 へ変え、式(6)の 定数項を ∼ 1.0 増やすことで達成される。しかし、この改訂はどちらも 現行の進化理論的の確実性と観測値の較正からは許されない。

 上で示唆された補正自体がデータの数や精度を考慮すると不確かである。 もっと重要なことは、少なくとも定性的には、理論から質量、温度、メタル量、 周期を説明できたということである。これは、異なる環境にあるミラを、 少なくとも微分的比較には理論が使えることを意味する。


図  式(8)をlog z = -0.6, Q=0.04, でM = 0.3 - 1.2 M に対し、P−L 関係。
黒線=LMC P−L関係。赤線=47 Tuc P-L 関係
 前に述べたように、47 Tuc でSRとミラを結んだ 赤線は問題あり。


 6.カラー周期関係へのメタル量効果 

Sgr I と LMC とでの、カラー周期関係の違い 

 式(9)はもし異なる星系でメタル量と周期の関係が異なると、Te - P 関係 もカラー log P 関係も異なってくることを示している。Glass et al 1995 は Sgr I 領域の周期カラー関係がLMCと異なることを示した。彼らは赤化の補正 をどうやっても (J-K),(H-K), (J-H) と log P の関係を同時にLMCと合わせる ことは出来ないことを示した。(J-K) ≥ 2だと星周赤化が効いて、大気の カラーと異なるので、議論を(J-K) ≤ 1.5 に絞る。そのような星では,

         (J-K)o = 0.56 log P - 0.12 (LMC)          (16)

         (J-K)o = 0.86 log P - 0.81 (Sgr I)          (17)

である。2式の差を取ると、

         Δ(J-K)SgrI-LMC = +0.03(250d), +0.05(300d), +0.07(350d)

である。この差はメタル量効果であろう。

カラー周期関係のメタル量依存を式で導出すると 

 このメタル量効果を数値的に表現したい。式(9)から、周期 P を固定した時、 (M は?) Δlog z = +0.2 の変化は、 -0.015 になることが分かる。円盤太陽近傍ミラの Te - (J-K) 関係である (4)式を用いると、Δ(J-K) = +0.025 に対応する。 この関係がユニバーサルならね。特に、ゼロ点が z に 依らないならね。 加えて、(J-K) - log Te 関係はメタルに影響される。 Bessell et al 1989 のモデルをこの論文のシステムに変換すると、 log Te ∼ 3.45 と一定にして、 Δlog z = +0.2 の変化は、Δ(J-K) = +0.021 を もたらす。この二つを足すと、Δ(J-K) = +0.046 が最終結果である。

上をなぞると、周期 P を固定した時、式(9)から、 Δlog Te = -0.073 Δlog z. この Te 変化は(4)式によると、太陽 メタルの星のカラー(J-K)を (0.073/0.59)Δlog z 変化させる。いっぽう、 Bessell et al 1989 によると、Te が同じでも メタル量によるカラー変化が存在し、 その大きさは Δ(J-K) = (0.021/0.2) Δlog z である。この両者を足して、 周期 P が同じで、メタル量が異なるミラ同士では、カラー (J-K) のメタル量 z 依存は、
Δ(J-K) = (0.124+0.105) Δlog z = 0.229 Δlog z


 この結果から推察すると、 Sgr I と LMC のミラ間での Δlog z は、 +0.2 ∼ +0.3 であろう。
メタル量に鋭敏なカラー指数 φ  

 上の結果は採用された赤化量に影響される。LMC ミラの赤化は小さいのでその 効果の不定性も無視できる。Glass et al が Sgr I に採用した赤化量が もし Av で 0.2 小さいと(Terndrup の示唆) Δ(J-K) は 0.03 大きく なり、 Δlog z SgrI - LMC ∼ +0.4 となる。

 Glass et al によると、LMC に較べると、Sgr I での (J-H)o - log P 関係は かなり下に、(H-K)o - log P 関係はかなり上に位置する。これにより、

         φ = (J-H)o - (H-K)o          (18)

は利用価値がありそうである。Feast et al 1989 のデータを使うと、

         φ = -0.081 log P + 0.733        (19)

Sgr I では、Glass et al のデータを使い、

         φ = -0.329 log P + 1.213        (20)

φ を式で扱う 

 φ は Bessell et al のモデルから導き出せる。前の時と同様に、メタル量 変化が Te と (J-H)- Te, (H-K) - Te 関係に及ぼす効果を考慮して、周期を 固定すると、log Te &sim: 3.45 付近で、つまり、 log Te &sim: 3.45 あたりになる P の所では、 Δlog z = +0.3 だと Δφ = -0.10 で、Δlog z = +0.5 で  Δφ = -0.16 である。式(19)と(20)から、

     Δφ = -0.09 (P=200d),  = -0.15 (P=350d)

φ の不定性は $sim; 0.02 程度である。これらから見ると、

     Δlog z(Sgr I - LMC) ∼ +0.4

らしい。この導出は Av の影響を受けにくい。というのは、Av を 0.2 変えても φ は 0.01 しか変わらないからである。 減光フリー指数でメタル量に鋭敏ならなおいいんだ

 以上の議論は近似的な性質に関わらず、異なるカラーからの結果は互いに合致 しており、 Sgr I と LMC との間で Δlog z ∼ +0.4 の差があること を示唆する。このメタル量差がどの周期でも同じであると考える強い理由はない。 しかし、現在のレベルでは周期依存までは扱えない。

別の解釈:星周赤化? 

 別の解釈として、同じ周期でも Sgr I の星は厚いシェルに覆われているという のも可能である。これはやや安易だが、排除するのは難しい。この場合でも 原因はメタル量なのだが、較正が難しい。



 7.バルジとLMC内ミラのメタル量 

 7.バルジとLMC内ミラのメタル量 

LMC のメタル量 

 前節の結果はメタル量の相対的な大小を論じている。このメタル量の絶対値の較正 は現在のところメタル量の知られていた球状星団に頼っている。Menzies, Whitelock 1985 は9つのそういうミラを LMC と SgrI と同じ測光システムで観測した。その結果、

       Δ(J-K)GC-LMC = -0.013 ± 0.010      (21)

       ΔφGC-LMC = -0.057 ± 0.028      (22)

この値は、LMC ミラはこれらの球状星団内のミラよりもほんの少し低メタル、  Δlog z = 0.0 ∼ -0.2、である。9観測中6ミラの周期は 200 d 付近で あり(平均 204 d)、平均メタル量は log z ≈ -0.64 であった。残り2つは、もっと長周期 (平均 288 d)で、平均メタル量 log z ≈ -0.30 であった。

 これらのメタル量評価が今後の研究に依り精密化されることは明らかである。 特に、同一星系のミラに対し、球状星団のように、周期とメタル量の相関が 取り入れられるべきである。現在の結果でも、LMC内で、古くて低質量の ミラは銀河系高メタル球状星団と似たメタル量を持つことを示している。

バルジ のメタル量 

一方、Sgr I の周期 P = 200 - 300 d ミラは、log z = -0.2 とLMCミラより 明らかに高メタルである。

 上の推定値が McWilliam, Rich 1994 の NGC 6522 領域 K型巨星のメタル 量 log z = -0.25 と一致したのは偶然かも知れないが、このバルジ領域では 主要成分のメタル量がほんの僅か太陽より低いということにいくらかの確実性 を与えるものである。

 8.ミラの P - L 関係へのノート 

Wood の予想 

 これまで LMC, 球状星団、銀河系フィールドで得られた証拠(WHitelock et al 1994, Wood 1995) は、ミラの P - L 関係には、メタル量の影響がないか、あったとして も極めて小さいことを示す。一方、Wood 1990 は式(8)類似の式に基づき、 かなりのメタル依存性, ΔMbol = 0.73 Δlog z、がある はずと主張している。

Wood の予想への反論 

 しかし、この論文で示したように、観測データは式(8)と矛盾しないが、この 関係は P - L 関係ではない。球状星団や他のデータが示しているのは、与えられた 質量とメタル量の下ではミラの周期は短い領域をカバーするだけである。ミラ P - L 関係は、ある範囲に渡る、質量とメタル量の系列に対するものである。式(8)が 示すのは、同じ質量で異なるメタル量を有する二つの星が ミラになる時に同じ半径でしたがって同じ周期を持つなら、 Wood 1990 の結論が 成り立つということである。もし、高メタル星の半径が大きいなら、周期の変化は log z の変化に依る Mbol 変化を打ち消す可能性がある。

 別の言い方をすると、同じ周期だが異なるメタル量を持つミラが同じ質量を もつ理由はない。この問題はマスロスとそのメタル量依存に依り複雑なものに なっている。現在のところ、ミラPL関係へのメタル量効果を確実に理論的 予言を行うことはまだ可能ではない。


 9.結論 

角直径観測と温度スケール 

 ミラと非ミラ双方に対する共通の有効温度尺度が角直径の測定と赤外測光から得ら れた。log Te と (J-K)o との関係は低温度側で極めて急勾配になる。したがって、 (J-K)o は低温ミラの温度決定に関してはあまり役に立たない。この関係の分散の どれだけが観測エラーでどれだけがリアルかもっとデータが必要である。

振動モード 

 ミラとSRは同じ第1倍音で振動している。少数のミラが基本振動天体である 可能性は残されている。OH/IR 天体が PL 関係のうんと下に来るかどうかが問題 である。


カラー周期関係 

 LMCと Sgr I とのカラー周期関係の差はメタル量効果と解釈された。 比較的短周期(200-300d)のミラに対する評価は,LMC に対し log z = -0.6, Sgr I に対し、 log z = -0.2 であった。この手法を銀河系の色々な周期のミラに 適用してメタル量変化を調べることは興味深い。