Too Little Radiation Pressure on Dust in the Winds of Oxygen-Rich AGB Stars


Woitke
2006 AA 460, L9 - L12




 アブストラクト 

 AGB 星からの大規模星風はダスト駆動で脈動がそれを増幅していると考えら れている。しかし、振動数毎の輻射輸達式を組み入れた力学モデルで観測され る大きさの質量放出を説明できたのは炭素星のみである。このレターでは、酸 素過多 AGB 星に対しての同様なモデルの報告である。
 モデルでは Mg2SiO4, SiO2, Al2O3, TiO2, Fe の 非一様混合ダストダストの核形成、成長、蒸発を時間依存で扱う。 波長毎のモンテカルロ輻射輸達を組み込んだ酸素過多ダスト駆動力学モデルの 計算では、 R = 1.5 - 2 R でガス温度が 700 - 900 K と冷たく、核形成を助成する。ダスト温度は組成により大きく変わり、温度 差にして 1000 K にまで達する。動力学モデルでは二つのダスト層が形成され た。星表面近く R ≥ 1.5 R ではほぼ純粋なガラス Al2O3 粒子が、それより遠くではもっと吸収の強い Fe の少ない Mg-Fe シリケイトが出来る。
 固体 Fe と Fe の多いシリケイト だけが星からの近赤外光を効果的に吸収できるダストである。従って、それら は星風駆動機構の中心要因であり、かつガス温度の調節機構ともなっている。 少量の Fe しかグレイン内に組み込めない。というのはそうでないとダスト 温度が高くなる過ぎるからである。こうして、結果として、質量放出率がほぼ ゼロで、ダストシェルもないモデルが誕生した。
 質量放出率が上がるに連れ、出現するダストが Al2O3 &rarrow; 低 Fe の Mg-Fe シリケイトになるという観測事実は我々のモデルと 一致する。 Al2O3 は星の広がった外層大気中、 星風加速領域の下か、あるいは星風なしの星に存在する。 Mg-Fe シリケイト はもっと外側で形成され、その量は放出率に依存する。酸素過多 AGB 星の 星風駆動機構は依然として謎である。


 1.イントロダクション 

 炭素星は非晶質炭素でダスト駆動星風可能 

  Winters et al (2000) は非晶質炭素ダスト(高温に耐え、光をよく吸収する) の時間依存形成を含む炭素星動力学モデルから、輻射圧が大きな星風を引き起 こすことを示した。これは Hofner, Gautschy-Loidl,Aringer, Jorgensen (2003) のより詳細なモデルでも確認された。

 ダスト駆動星風モデル 

 しかし、酸素過多の場合そのようなダストが存在しない。高温に最も安定な Al2O3 は量が足りない。量の多い、Mg2Si O4 は凝結温度が低く、かつ星輻射が集中する 1 μm 付近で ほぼ完全に透明である。固体 Fe と Fe-Mg シリケイトは不透明だが、凝結温度 が更に低い。Ferrarotti, Gail 2006 による酸素過多 AGB 星のダスト駆動 ( Ossenkopf, Henning, Mathis (1992) のシリケイト吸収使用)、 グレイ輻射輸達を仮定した定常星風モデルと、Jeong et al 2003 の脈動を入れ たグレイ輻射輸達の動力学モデルは、共に酸素過多 AGB 星からの星風がダスト 駆動であり、脈動はダスト形成に必要な密度を星の近傍に作って、星風を増幅 すると述べた。
 輻射圧の効果が小さい 

 一方、 Ireland, Scholz (2006) による、波長毎の輻射輸達と簡単なダスト形 成を組み込んだ非線形脈動モデルでは Al2O3, Mg2xFe2-2xSiO4 ダストによる輻射圧の効 果は重力の 0.08 - 0.29 倍にしか達しない。

 観測的ダスト形成系列 

 Lebzelter et al 2006 による球状星団酸素過多 AGB 星の Spitzer 中間赤外 観測と、Blommaert et al 2006 によるバルジ AGB 星の ISO 観測は AGB 星 周囲のダストと質量放出率 dM/dt との明らかな相関を示した。その系列は " 観測的ダスト形成系列" と呼ばれる。それは低質量放出率星は主に Al2O3 を示し、一方質量放出率が上がると Mg-Fe シリケイトが増してくるというものである。Verhoelst et al 2006 は MIDI による α Ori 干渉計観測から Al2O3 粒子が R = 1.5 に既に存在すると結論した。


 2.モデル 

 流体力学 

 流体力学は Fryxell et al. 2000 の FLASH-solver を用いて、球対称の 配置で解いた。このコードは重力とダスト、分子への輻射圧、輻射加熱と冷却 が組み込まれている。内側境界は脈動を模倣してピストン運動を仮定した。 H+, e-, H, H2 ガスの状態は局所熱平衡 で解いた。輻射輸達は波長毎のモンテカルロシミュレイション Woitke06b を行った。 ガスの吸収率は Marcs コードから採った。

 ダストの吸光率 

ダストの吸光率は Posch が提供 したイエーナ光学データベースからのレイリー近似を使う。ダストの総吸光率は

κλ,ext dust = 3 L3 Σ Vs Qexts(a,λ)
4 Vtot a


ここに、L3 = ダストサイズ分布の3次モーメント、Vs/Vtot = ダストの s-成分の体積比である。Q/a の波長変化を図1に示す。酸素系ダスト の大部分はガラス質である。それらは可視と近赤外では透明で、中間赤外で 不透明という特性を持つ。対照的に金属鉄と鉄を含むシリケイトは可視でさえも 不透明である。

 ダスト形成 

 ダストの形成と蒸発を記述する式は Helling, Woitke 2006 によって、 Mg2SiO4, SiO2, Al2 O3, TiO2, Fe の混合物から成るダストの形成が 扱われた。核形成率は Jeong 2000 の式が使われた。同時に以下の分子の 形成が計算された。H, He, C, O, N, Mg, Al, Si, S, Ti, Fe, H2, CO, CO2, OH, H2O, CH4, N2, CN, HCN, NH3, H2S, SiS, SO, HS, SiO, SiH, SiH4, SiO2, SiN, SO2, MgH, MgS, MgO, MgOH, Mg(OH)2, FeO, Fe(OH)2, AlOH, AlO2H, Al2O, AlH, TiO, TiO2.

図1.レーリー限界近似での Qext/a の波長による変化。光学定数は イエーナ光学データベースより。


 3.静止解 

 ダストのない静止解を図2に示す。我々の粗い 10 波長点モデルでも、Marcs モデルとの類似性は明らかである。ガス温度 Tg(r) は r = 1,25 R 付近で 1000 K ほどの低下を示す。Marcs モデルはそこ まで広がっていない。これは単なる表面効果ではない。この Tg 段差の外側で は、最も強い分子線でさえも光学的には薄い。そしてラインブランケッティング 効果が完全に良く効く。灰色モデルはこの段差を予言することに完全に失敗した。 この段差はダスト形成に極めて重要である。温度だけでなく、密度、圧力等の 物理量に関しても我々のモデルは Marcs モデルと良い一致を示す。ガス分子に 働く輻射圧の割合、 Γgas = arad/g(r) の一致 も良い。











図2.実線=静止解。破線=Marcs モデル。灰色 Tg-線= グレイモデル。 M = 1 Mo, T = 2800 K, log g = -0.6 (L = 6048 Lo), Z = Zo S を仮定。STiO2 = TiO2 の 過飽和度で星の表面近傍で核形成が既に可能であることを示す。長破線は r.h.s. に 属す。


 4.ダスト加速度の粗い推定 

 ダストに働く輻射圧 

Γdust(r) = (1/c)∫κλ,ext dustFλ(r) dλ
[GM(r)/r2]


 表1にはダスト成分毎に、Γdust を r の3か所で求めた。 表1を見ると、ダスト温度 Td がダストの成分によって大きく異なることが判る。 同じ距離でも最大 1000 K も違うのである。特に、Al2O3, SiO2, Mg2SiO4, MgSiO3 のよう に、可視、近赤外で透明で中間赤外で不透明なダストは低温で、星の近傍でも 存在可能である。

 ガラス状の凝結物に働く輻射圧は小さい 

 同じ理由で、ガラス状の凝結物に働く輻射圧は小さい。したがって、例えば、 Mg2SiO4 があろうがなかろうが星風の加速機構には 関係ない。潜在的にせよ、加速に関係しそうなダスト成分は MgFeSiO4 のような鉄を含むシリケイトか金属鉄である。

 輻射圧が大きいと高温で遠くに存在 

 こうして、酸素過多のダストのスペクトル特性として避けられない結果は、 ダストが輻射圧加速に係るとしたらダスト温度は高い、したがって、その 存在域は r ≥ 5 R のように星から離れたところである。 対照的に非晶質炭素は不透明でかつ高温安定なので、2 R の距離で存在でき、かつ輻射圧も Γdust = 20 と大きい。

表1.上段=ダスト温度。下段=ダスト加速度比 Γgas = arad/g(r). ∗ 付きの T は熱的に 不安定な凝結であることを示す。


 5.動力学モデルの結果 

 輻射圧を人為的に増強したモデル 

 我々はかなり極端な条件、(1 Mo, 2500 K, 10,000 Lo) で計算を行ったが、 十分な質量放出は得られなかった。そこで、人為的に輻射加速を次のように 増加させた。

     Γ = Γgas + 5 Γdust

モデルは、前に述べたガス温度の段差のところまで広がった分子層を持つ。 それはラインブランケッティング効果のためである。脈動はこの分子層を 時間変動し 1.5 - 2 R まで広げる。

 ダストの形成 

 ダストの形成はその分子層のすぐ上で起こる。ダスト温度は 700 - 900 K と 低い。モデルではダスト層は二つに分かれる。一つはガラス状 Al2O3 グレインで星表面に近く、 r ≥ 1.5 R で一部分子層と重なる。もっと遠くに Mg-Fe-シリケ イトで、多分アルミナの種の上に成長したものである。

 鉄の効果 

 ダスト温度は鉄成分の量に影響される(Tielens et al 1998)。鉄分は増え 過ぎるとダスト温度が上がり、鉄分蒸発量が増えるというフィードバックが 掛かるので約 17 % に落ち着く。このように、鉄のダスト変換率が低いことが 質量放出率が低い原因である。実際、 Bower et al 2002 は AGB 星のシリケ イトは鉄分が低いことを示した。

  

 r = 3.5 - 4 R でダストへの輻射圧が重力加速度を 上回る。これは定常星風での音速点に対応すると看做して良い。周期変化する 質量放出を平均すると、Γ = Γgas + 5 Γ dust という人為的増強輻射圧で無理やり絞り出しても、 ⟨dM/dt⟩ = 2.3 10-9 M/yr, ⟨v⟩ = 2.6 km/s, ⟨ρdg⟩ = 1.6 10-3

図3.シミュレイション時間 100 年間の動力学モデルの結果。 M = 1 Mo, T = 2500 K, L = 10,000 Lo (log g = -1.015) Z = Zo. ピストン周期は 600 日、脈動速度は Δv = 2 km/s. 点線=静止大気。破線の目盛は右側軸。Γ は勝手に増幅させた。


 6.結論 

 1.脈動+ダスト輻射圧モデルの失敗 

 酸素過多の AGB 星の動力学モデル計算を行ったが、観測される質量放出 には達しなかった。

 2.鉄の役割 

 金属鉄と鉄分豊富なシリケイトが星風機構が働く上で重要である。これ等の ダストのみが、波長 1 μm 付近で不透明であり、効率的に星の輻射を利用 できる。Fe を含む凝集体は温度に対して非常に安定という訳ではない。この ため、その形成距離は星風機構に働くには遠すぎる。

 3.灰色モデルは不適切 

 以前 Jeong et al 2003, Ferrarotti, Gail 2006 の灰色モデルはダストに 働く輻射圧の計算に際してロスランド平均吸収率を用いた。酸素過多星に対す るその値は過大評価であった。恒星輻射の 1 μm 付近のピークと、シリケ イトの 10 - 20 μm 付近の吸収ピークとの間にはズレがあり、灰色近似 ではそれを上手く記述できない。
 ガラス質ダストは低温なので星近くに存在可能 

 ダスト凝集系列には輻射輸達の効果が影響する。純粋のガラス質アルミナ Al2O3 のダスト温度は固体鉄や鉄過多シリケイトより 低い。その差は 1000 K にまで達する。これがガラス質ダストの形成に有利に 働き、鉄含有体の形成を妨げる。この結果は観測的には、αOri の 1.5 R という近距離で Al2O3 が検出 されたことと合い、また一方 AGB 星におけるダスト凝集系列の観測結果とも 合う。

 5.酸素過多低温度巨星の質量放出機構は謎 

 酸素過多低温度巨星の質量放出機構は謎のままである。脈動のみでは、 輻射冷却が急速に起きて星風の駆動には不十分である。この論文は脈動と ダスト輻射圧の組み合わせでも星風を起こせないことを示した。アルフベン波 を再考すべきだろうか?