内容 Red MSX Source (RMS) サーベイは大質量 YSO (MYSO)の中間赤外カラー選択 サンプルに対して多波長観測を行う現在進行中の観測計画である。既知 MYSO の カラーを MSX, 2MASS 検出天体と較べ、約 2000 の MYSO を選び出した。我々の 追尾観測の目的はカラーが類似の他種天体、例えば超稠密HII領域 (UCHIIR), 進化した晩期型星、惑星状星雲を同定し、さらに MYSO と低質量 YSO とを区別 することである。 観測目的 追尾観測の主内容は 13CO 観測である。その目的は MYSO の 運動距離を決めることである。距離と遠赤外、サブミリフラックスから 総光度を求める。これにより、近傍の低光度 YSO を分離する。同時に弱い CO 放射天体である晩期型星も同定可能となる。 |
手法 JCMT, PMO, Onsala, Mopra 望遠鏡を用いて 508 MYSO 候補の観測を行った。 空間分解能は 20" - 50" である。それに、銀河系リングサーベイ (GRS) を 使い、さらに 403 天体を補充した。 結果 911 MYSO 候補天体の 13CO 観測の結果を報告する。780 RMS 天体 に CO を検出した。これは 84 % である。520 天体 (56 %) には複数の速度成分 が見られた。平均して各視線方向に 4 つの分子雲が見えることになる。これが 運動距離を確定する障害になった。文献から CS(J=2-1) とメーザー速度を探し、 複数成分を 175 天体については分解できた。そしてそこで決めた最も確からしい 成分の基準を適用してさらに 191 天体についても固有速度成分を定めた。単成分 の天体と合わせ、CO が検出された 638/780 MYSO 候補について運動速度を 決定できた。Brand, Blitz 1993 の回転曲線を用いてそれらの運動距離を決定した。 |
表2と図3のデータは http://cdsweb.u-strasbg.fr/cgi-bin/qcat?]/A+A/487/253 から取れる。 1.1.背景大質量星の形成過程の理解が遅れている大質量星の形成過程の理解は低質量星(Shu et al 1993)にくらべ遅れている。 理由は(1)数が少なく、進化時間が短いので見つかっても遠い、(2)星団の 中で生まれるので同定が困難である、(3)ガス降着中に主系列に達してしまう ので深い雲の中に埋もれている。 MYSO がまだ探されていない 最近まで MYSO カタログ (Henning et al 1984)は偶然見つかった 30 程度しか 含んでいなかった。しかも大部分は近傍のものであった。しかし、 IRAS カラー に基づき, Molinari et al 1996, Walsh et al 1997, Sridharan et al 2002 は MYSO の選択域準を提出した。しかし、 IRAS は混んだ領域、銀河面に弱い。 明るい大質量星のスケール高は 30' (Reed 2000)である。 1.2. RMS サーベイ冷たいコア最近のサブミリ連続波観測から多数の冷たく濃い塊りが検出されている。 これらの冷たいコアは大体 M ∼ 100 Mo, n > 105 cm-3 と似た値を持ち、大質量星形成域で見つかるより暖かい コアと同じである。これから、これらは大質量星形成の最初期の天体では ないかという推測が生まれた。 |
温かいコア 成長する原始星が周囲を温め、ダストからはがれた分子が蒸発するように なる。これが熱い分子雲コアである。この時期、中心天体はまだ降り積もる ガスの奥に埋もれている。分子雲外層が吹き飛ばされると 中心星が中間・近赤外で点源として輝くようになり、 MYSO と呼ばれる。 この時期はまだ HII 領域は生まれていない。通常、巨大双極分子流が 見られる。最後にライマン連続光が出現すると超極小電離領域 (UCHIIR) が 生まれる。 多波長観測の必要性 Lumsden et al. 2002 は既知の MYSO のカラーを MSX, 2MASS で研究し カラー選択基準を与えた。我々はそれを用いて 2000 の MYSO 候補を得た。 問題は厚い雲に埋もれた天体の SED は加熱源によらず類似の形になる ことである。このため、そこには UCHIIR, PN, AGB などが混入する。 我々は多波長観測を用いて MYSO を分離する計画を進めている。 電波連続波により UCHIIR と PN をわけ、MIR 画像から真の点源を 選び出し、UCHIIR の縁にある MYSO が排除されるのを防ぎ、NIR 分光で晩期星を区別するのである。 CO 観測 運動距離を得るには CO 観測が必要である。晩期型星の CO 強度は強く ないので、この方法でより分けられる。 Urquhart et al. 2007 では 南天(180° < l < 350°) 854 RMS 天体を、この論文では 北天(10° < l < 180°)911 RMS 天体の観測結果を報告する。 |
既存データの利用 12CO は自己吸収や複雑なライン構造がありややこしい。 CS は時間がかかり過ぎる。12CO が適当である。文献調査 から 100 個近くは既に良いデータが存在していた。次に GLIMPSE 領域 を 12CO でサーベイした Galactic Ring Survey データから 約 400 の RMS 天体を抽出した。最後に残った RMS 天体を観測した。 2.1.文献捜査SIMBAD2000 RMS 天体の内 324 個が SIMBAD で分子線の観測ありと見つかった。 それらは主に、 (1)Bronfman et al 1996 の IRAS UCHIIR 対象の CS(J=2-1) サーベイ (2)Woulterloot, Brand 1989 の IRAS 天体 CO サーベイ から得られた。CS サーベイからは 253 個が見つかっている。CO サーベイから は 110 個が得られた。 2.2.GRS サーベイGRS サーベイは 18° < l < 55.7°, |b| < 1° の 75.4 deg2 で行われた。 403 RMS 天体が観測領域内に存在する。 GRS データキューブからそれら全てのスペクトルを抽出して調べた、 |
2.3.観測望遠鏡北銀河面に位置する 1021 RMS 天体の内 508 天体の 13CO 観測を実施した。使用した望遠鏡は JCMT, PMO, Onsala, Mopra の4つ である。 RMS 天体と CO マップ 図1には Dame et al. 2001 の 12CO サーベイのマップを背景に、RMS 位置を示した。 赤=非検出、青=単ライン、緑=複ライン。13CO で検出 された天体は 12CO サーベイと良く相関している。図1の 下側は同じ Dame et al 2001 の 12CO l-v 図である。 この図には Taylor, Cordes 1993 の渦状腕モデルの図をプロットした。 北銀河面の分子雲は -100 km/s から +150 km/s までの速度を持つ。 観測の速度巾はそれより狭いので、 Dame et al 2001 の l-v 図を 参考に観測中心周波数を l により変化させた。 ![]() 表1.CO 観測のパラメター |
3.1.検出結果の統計検出数GRS サーベイと今回の観測で 911 RMS 天体の方向でスペクトルが得ら れた。その内 780 天体で 13CO が検出された。これは 84 % で、 南天の 88 % と同程度である。全検出の 56 % は複ラインを持つ。 ラインパラメター 図3にはスペクトルラインの例を示す。ラインのパラメターはガウシャン フィットで求めた。結果の一部を表2に示す。図4にはピーク温度を、 図5には FWHM を示す。図6にはライン強度の分布を示す。 3.2.空間分布図1には、CO 非検出、単ライン、複ラインの天体の分布が示されて いる。複ライン天体は内側銀河系に集中し、かつ銀河面に張り付いている。 単ラインは銀経分布がより一様で、かつ銀緯分布の巾がやや広い。 非検出天体はさらに広く分布しており、我々のサンプルに混入した晩期型星 の可能性を窺わせる。図7にはこの3種類の天体毎に銀緯分布を示した。 全体の分布は b = -6° から +6° までに分布している。複ラインは 銀河面から 1° 以内に集中している。単ラインはもっと巾広な分布を 示す。非検出はより幅広であるが、b が -1° と 0° の間で極小が 存在する。![]() 図3.スペクトル例。上3行は異なるプロファイルのサンプルである。 下2行は複ラインの例。 |
![]() 図4.T分布 ![]() 図5.FWHM 分布。 ![]() 図6.ライン強度の分布 |
3.3.複ラインの同定どのライン成分が RMS か?図8にはラインの成分数分布を示す。ある成分が他を圧して強い場合は それを RMS 天体に付ける。しかし、それ以外では、どの成分が RMS 天体 に付随するかを決めなくてはならない。図3下列左は一成分が強いので それを RMS 天体とする。右のケースでは同じくらい強い2本の成分が 見える。 CS 観測の利用 CS は濃い領域から出るので、 MYSO の方が分子雲よりありそうである。 Bronfman et al 1996 の CS 観測を天体が重なる単ラインと比較すると 差が 1 km/s 以下である事が判った。そこで、複ライン で CS 観測が 30" 以内にある 79 天体の場合は CS と一致する VLSR 成分を RMS とした。 水とメタノール MYSO には水とメタノールメーザーが付随する場合も多い。Valdettaro 2001 と Pestalozzi et al 2005 のメーザーカタログを探した結果、159 RMS 天体に 121 メタノールメーザーと 95 水メーザーを検出した。 メーザー速度とある CO 成分の速度差が 3σ(≈ 7.5 km/s メタノール、10.5 km/s 水)より小さい場合は それを最も確からしい CO 成分と決める。 この基準で 96 RMS 天体の CO 成分を決めた。メーザーと CS データを参照して 175/519 複ライン天体の速度を確定した。しかし未確定天体がまだ残っている。 最強成分 南天の研究では、殆どの場合メーザーは最強ライン成分に付随していた。そうで ない場合でも最強成分の 50 % 以下の強度の成分に付随した例は稀であった。 そこで、最強成分が他の成分の2倍以上に強かった場合は最強成分が RMS に付随 すると決める。この基準の結果、さらに 191 天体の成分を取り出せた。 単ライン天体と合わせると、検出天体の 80 % に対し視線速度を決定できた。 表2ではこの成分にアステリスクを付けた。 |
![]() 図8.ラインの成分数分布。 残りの 141 天体 最後に 141 天体が残る。その多くは進行中のメタノール複数ビーム観測 で分解されると期待している。 |
3.4.運動距離銀河面上の表面密度Brandt, Blitz 1993 回転曲線を運動距離を求めるのに用いた。Ro = 8.5 kpc と Vo = 220 km/s を仮定した。図9に前節で求めた成分の 表面密度の銀河系中心距離による変化を示した。北銀河面の面密度は R = 4 - 5 kpc で強いピークを持つ。一方南銀河面ではピークは それより小さく R = 5 - 6 kpc にある。また、北銀河面での距離分布は ピークより長い方に重みがある。 二つの運動距離 銀河系中心 10° 以内と反中心方向 168° > l の距離は不定性が大きすぎて決め られない。 我々のサンプルの 90 % は太陽円周の内側にあり、ライン成分の運動 距離は二つの候補を持つ。表2では遠距離と近距離の二つを載せてある。 二つの値の差が 1 kpc 以内ならその成分は接点にあると決める。その ような成分は 203 個あった。 太陽円周より外側では距離候補は一つだけである。それらは 210 天体ある。 こうして決めて行くと、2171 成分が 2 つの候補のまま残った。しかし、 それらの多くは RMS 天体に付随していない。 2つの距離の解消 2つの距離の解消のため、 MYSO と UCHIIR に付随する成分全てに対し HI 吸収法を用いて距離の確定を試みている。しかしその結果は将来の 論文で述べる。 |
![]() 図9.分子雲の表面密度の銀河系中心距離による変化。実線=北銀河面。 一点破線=南銀河面。ビン巾= 1 kpc。北側では 4 - 5 kpc にピーク があり、5 kpc 分子リングの位置と一致する。 |
銀河系第1、第2象限の 911 MYSO 候補に対する CO 観測の結果を報告 した。780 RMS 天体で検出に成功した。56 % が複成分を持つ。それら に CS、メーザーデータを援用し、 520 複成分天体中の 379 天体で MYSO 候補との同定を行った。単成分天体と合わせ、638 天体で視線速度を決め られた。決まらなかった 141 天体は更なるラインデータが必要である。 |
131 天体では CO が検出されなかった。それらの天体の分布は広がっており、
晩期型星の可能性が高い。 これらは南銀河面で行った観測と対を成している。全データは 1765 MYSO 候補の 13CO 観測を構成し、今後の NIR, MIR 観測の基礎となる。 |