内容 Red MSX Source (RMS) サーベイは大質量 YSO (MYSO)の中間赤外カラー選択 サンプルに対して多波長観測を行う現在進行中の観測計画である。既知 MYSO の カラーを MSX, 2MASS 検出天体と較べ、約 2000 の MYSO を選び出した。我々の 追尾観測の目的はカラーが類似の他種天体、例えば超稠密HII領域 (UCHIIR), 進化した晩期型星、惑星状星雲を同定し、さらに MYSO と低質量 YSO とを区別 することである。 観測目的 追尾観測の主内容は 13CO 観測である。その目的は MYSO の 運動距離を決めることである。距離と遠赤外、サブミリフラックスから 総光度を求める。これにより、近傍の低光度 YSO を分離する。同時に弱い CO 放射天体である晩期型星も同定可能となる。 |
手法 JCMT, Onsala, Mopra 望遠鏡を用いて第3、第4象限 854 MYSO 候補の観測を 行った。 結果 752/854 RMS 天体 = 84 % に CO を検出した。461 天体 (60 %) には複数の速度成分 が見られた。平均して各視線方向に 4 つの分子雲が見えることになる。これが 運動距離を確定する障害になった。文献から CS(J=2-1) とメーザー速度を探し、 複数成分を 82 天体については速度成分と RMS との同定に成功した。そしてそこで 決めた最も確からしい成分の基準を適用してさらに 218 天体についても固有速度成分 を定めた。単成分の天体と合わせ、CO が検出された 591/752 MYSO 候補について運動速度を 決定できた。Brand, Blitz 1993 の回転曲線を用いてそれらの運動距離を決定した。 CO 非検出の 161 天体はさらに詳しい観測が必要である。 |
表2と図3のデータは http://cdsweb.u-strasbg.fr/cgi-bin/qcat?]/A+A/474/891 から取れる。 1.1.背景大質量星の形成過程の理解が遅れている大質量星の形成過程の理解は低質量星(Shu et al 1993)にくらべ遅れている。 理由は(1)数が少なく、進化時間が短いので見つかっても遠い、(2)星団の 中で生まれるので同定が困難である、(3)ガス降着中に主系列に達してしまう ので深い雲の中に埋もれている。 MYSO がまだ探されていない 最近まで MYSO カタログ (Henning et al 1984)は偶然見つかった 30 程度しか 含んでいなかった。しかも大部分は近傍のものであった。しかし、 IRAS カラー に基づき, Molinari et al 1996, Walsh et al 1997, Sridharan et al 2002 は MYSO の選択域準を提出した。しかし、 IRAS は混んだ領域、銀河面に弱い。 明るい大質量星のスケール高は 30' (Reed 2000)である。 1.2. RMS サーベイ冷たいコア最近のサブミリ連続波観測から多数の冷たく濃い塊りが検出されている。 これらの冷たいコアは大体 M ∼ 100 Mo, n > 105 cm-3 と似た値を持ち、大質量星形成域で見つかるより暖かい コアと同じである。これから、これらは大質量星形成の最初期の天体では ないかという推測が生まれた。 |
温かいコア 成長する原始星が周囲を温め、ダストからはがれた分子が蒸発するように なる。これが熱い分子雲コアである。この時期、中心天体はまだ降り積もる ガスの奥に埋もれている。恐らく中心部で核反応が開始され、 中心星が中間・近赤外で点源として輝くようになると MYSO と呼ばれる。 この時期はまだ HII 領域は生まれていない。 従って、 MYSO は近赤外、中間赤外で明るく(104-5 Lo) 電波 連続光では比較的静かな天体と考えられる。通常、巨大双極分子流が 見られる。最後にライマン連続光が出現すると超極小電離領域 (UCHIIR) が 生まれる。 多波長観測の必要性 Lumsden et al. 2002 は既知の MYSO のカラーを MSX, 2MASS で研究し カラー選択基準を与えた。我々はそれを用いて 2000 の MYSO 候補を得た。 |l| < 10° 天体は混み過ぎなので除外した。 問題は厚い雲に埋もれた天体の SED は加熱源によらず類似の形になる ことである。このため、そこには UCHIIR, PN, AGB などが混入する。 RMS サーベイは多波長観測を用いて MYSO を分離する計画である。 電波連続波により UCHIIR と PN をわけ、MIR 画像から真の点源を 選び出し、UCHIIR の縁にある MYSO が排除されるのを防ぎ、NIR 分光で晩期星を区別するのである。 CO 観測 CO 観測による運動距離は光度を決定し、近傍の低光度 YSO を区別する のに必要である。晩期型星の CO 強度は強くないので、この方法で除外できる。 この論文では 180° < l < 350° 854 RMS 天体の観測結果を報告する。 |
2.1.候補天体の選択SIMBAD2000 RMS MYSO 候補天体の内 963 個が第3、第4象限にある。多くは 文献にない。しかし、 1/4 程度は IRAS 天体であり Simbad で調べた結果 (1)Bronfman et al 1996 の IRAS UCHIIR 対象の CS(J=2-1) サーベイ (2)Woulterloot, Brand 1989 の IRAS 天体 CO サーベイ での観測例が見つかった。CS サーベイには 259 個の観測があり、うち 55 個 は非検出であった。CO サーベイからは 76 個が得られた。 2.2.観測手続き2.3.観測望遠鏡南銀河面に位置する 963 RMS 天体の内 854 天体の 13CO 観測を実施した。大部分の観測は 22, Mopra 望遠鏡で、南過ぎて届かない 天体を 15 m JCMT で行った。22 m Onsala も援用した。 |
RMS 天体と CO マップ 図1には Dame et al. 2001 の 12CO サーベイのマップを背景に、RMS 位置を示した。 赤=非検出、青=単ライン、緑=複ライン。13CO で検出 された天体は 12CO サーベイと良く相関している。図1の 下側は同じ Dame et al 2001 の 12CO l-v 図である。 この図には Taylor, Cordes 1993 の渦状腕モデルの図をプロットした。 北銀河面の分子雲は -100 km/s から +150 km/s までの速度を持つ。 観測の速度巾はそれより狭いので、 Dame et al 2001 の l-v 図を 参考に観測中心周波数を l により変化させた。 ![]() 表1.CO 観測のパラメター |
3.1.検出結果の統計と分布検出数今回の観測で 854 RMS 天体の方向でスペクトルが得ら れた。その内 752 天体で 13CO が検出された。これは 88 % に相当する。全検出の 60 % 461 天体は複ラインを持つ。 ラインパラメター 図3にはスペクトルラインの例を示す。ラインのパラメターはガウシャン フィットで求めた。結果の一部を表2に示す。図4にはピーク温度を、 図5には FWHM を示す。図4で強い切断があるが観測限界である。 図6にはライン強度の分布を示す。 空間分布 図1には、CO 非検出、単ライン、複ラインの天体の分布が示されて いる。複ライン天体は内側銀河系に集中し、かつ銀河面に張り付いている。 単ラインは銀経分布がより一様で、かつ銀緯分布の巾がやや広い。 非検出天体はさらに広く分布しており、我々のサンプルに混入した晩期型星 の可能性を窺わせる。図7にはこの3種類の天体毎に銀緯分布を示した。 全体の分布は b = -6° から +6° までに分布している。複ラインは 銀河面から 1° 以内に集中している。単ラインはもっと巾広な分布を 示す。非検出はより幅広である。銀緯分布の違いは図7で明らかに 認められる。非検出天体は分布の特徴からダスト雲中の YSO と似たカラー を持つ晩期型星と思われる。 ![]() 図3.スペクトル例。上3行は異なるプロファイルのサンプルである。 下2行は複ラインの例。 |
![]() 図4.T分布 ![]() 図5.FWHM 分布。 ![]() 図6.ライン強度の分布 |
3.2.複ラインの同定どのライン成分が RMS か?図8にはラインの成分数分布を示す。ある成分が他を圧して強い場合は それを RMS 天体に付ける。しかし、それ以外では、どの成分が RMS 天体 に付随するかを決めなくてはならない。図3下列左は一成分が強いので それを RMS 天体とする。右のケースでは同じくらい強い2本の成分が 見える。 CS 観測の利用 CS は濃い領域から出るので、 MYSO の方が分子雲よりありそうである。 Bronfman et al 1996 の CS 観測を天体が重なる単ラインと比較すると 差が 1 km/s 以下である事が判った。 水とメタノール MYSO には水とメタノールメーザーが付随する場合も多い。Valdettaro 2001 と Pestalozzi et al 2005 のメーザーカタログを探した結果、79 RMS 天体に 78 メタノールメーザーと 12 水メーザーを検出した。 メーザー速度とある CO 成分の速度差が 3σ(≈ 7.5 km/s メタノール、 10.5 km/s 水)より小さい場合はそれを最も確からしい CO 成分と決める。 この基準で 64 RMS 天体の CO 成分を決めた。メーザーと CS データを参照して 82/461 複ライン天体の速度を確定した。しかし未確定天体がまだ残っている。 最強成分 南天の研究では、殆どの場合メーザーは最強ライン成分に付随していた。そうで ない場合でも最強成分の 50 % 以下の強度の成分に付随した例は稀であった。 そこで、最強成分が他の成分の2倍以上に強かった場合は最強成分が RMS に付随 すると決める。この基準の結果、さらに 218 天体の成分を取り出せた。 単ライン天体と合わせると、検出天体の 80 % に対し視線速度を決定できた。 表 3 ではこの成分にアステリスクを付けた。 |
![]() 図8.ラインの成分数分布。 残りの 141 天体 最後に 161 天体が残る。その多くは進行中のメタノール複数ビーム観測 で分解されると期待している。 |
3.3.運動距離銀河面上の表面密度Brandt, Blitz 1993 回転曲線を運動距離を求めるのに用いた。Ro = 8.5 kpc と Vo = 220 km/s を仮定した。図10に前節で求めた成分の 表面密度の銀河系中心距離による変化を示した。南銀河面ではピークは R = 5 - 6 kpc にある。これは銀河中心の周りの厚いリング状のガス 分布に対応している。 二つの運動距離 銀河系中心 10° 以内と反中心方向 168° > l の距離は不定性が大きすぎて決め られない。 我々のサンプルの 80 % は太陽円周の内側にあり、ライン成分の運動 距離は二つの候補を持つ。表3では 192° < l < 350° の天体に対し遠距離と近距離の二つを載せてある。 二つの値の差が 1 kpc 以内ならその成分は接点にあると決める。その ような成分は 97 個あった。 太陽円周より外側では距離候補は一つだけである。それらは 210 天体ある。 こうして決めて行くと、1679 成分が 2 つの候補のまま残った。 2つの距離の解消 2つの距離の解消のため、 H2CO 吸収や、HII 領域方向の 電波再結合線と HI 吸収線、MYSO や分子雲に対する HI 自己吸収線 と分子輝線の組み合わせなどの方法が提案されてきた。中でも HI 吸収法は距離の確定に有効である事が既に実証されている。 その結果は将来の論文で述べる。 |
![]() 図10.分子雲の表面密度の銀河系中心距離による変化。実線=北銀河面。 一点破線=南銀河面。ビン巾= 1 kpc。北側では 4 - 5 kpc にピーク があり、5 kpc 分子リングの位置と一致する。 |
銀河系第3、第4象限の 854 MYSO 候補に対する CO 観測の結果を報告 した。752 RMS 天体で検出に成功した。60 % が複成分を持つ。それら に CS、メーザーデータを援用し、 461 複成分天体中の 300 天体で MYSO 候補との同定を行った。単成分天体と合わせ、591 天体で視線速度を決め られた。決まらなかった 161 天体は更なるラインデータが必要である。 |