Optical Properties of the Silicate Dust Grains in the Envelopes around AGB Stars


Suh
1999 MN 304, 389 - 405




 アブストラクト 

 O-リッチ AGB 星の周りにあるシリケイトダストの光学的性質を調べた。 実験室で得られたダスト候補物質の光学データと星の観測データに注意を 払った。 IRAS PSC, LRS データを含む赤外線星のSED観測を輻射輸送モデル を較べた。OH/IR 星の λ > 13 μm でのオパシティは光学的に 薄いシェルを持つ星のダストオパシティと異なることが判った。  これは、ダストの光学定数に温度依存性があるためかも知れない。オパシティ から、冷たいダスト物質と暖かいダスト物質との光学定数を導いた。 光学定数はクラマース・クロニッヒ関係を満たし、以前の研究よりフィットの よいオパシティを与える。光学定数からプランク平均光学有効係数を得た。
(λ=3-8μm の k がうんと上げてある。一種のダーティ シリケイトモデル。(n,k)の表がない。暖かいオパシティは18μm に弱い 振動子を付けている。必然性が?FIR はλ-2? )


 1.イントロダクション 

 これまで 

(i) K-K 関係を無視し、フィットの良いκ(λ)を探す。 
    Jones, Merrill (1976), Bedijn (1987), Volk, Kwok 1988, Griffin 1993, Suh, Jones 1997

(ii) K-K 関係に配慮するが、観測とのフィットはあまり考えない 
Draine,Lee (1984), Ossenkopf, Henning, Mathis 1992

(iii) どちらにも配慮 
  David,Pegourie 1995 は David, Pegourie 1990 で得た観測的、物理的 制約の下でオパシティ関数を求めた。彼らが扱った天体は LRS = 2n に 限られていた。
 厚いダストシェル 

 このため、David,Pegourie 1992, Lorenz-Martin, de Araujo 1997 のフィット は良くない。

 OH/IR 星用オパシティ 

 そこで、この論文では OH/IR 星に合うオパシティ関数を求める。



図1.求めたダスト吸収効率と以前の研究値との比較。

 2.ダストオパシティ 

 2.1.オパシティ関数 


表1.オパシティ関数の特性

 暖かいダストと冷たいダスト 

 図1には今回求めたダスト吸収効率を以前の研究値と比較した。 ここに示した Q は 半径 0.1 μm の球形グレインに対するものである。 今回、暖かいダストのオパシティは 10 μm 放射帯を示す OH/IR 星との フィットから、冷たいダストのオパシティは 10 μm 吸収帯を示す OH/IR 星とのフィットから求めた。二つは λ < 8 μm では同じ である。しかし、 λ > 13 μm では、冷たいダストの 10, 18 μm ピーク値及び、全体の値も大きくなる。表1には様々なオパシティ モデルの特性をまとめた。

 レイリージーンズ近似 

 この論文では半径 0.1 μm を仮定する。サイズパラメター

   x = 2πa/λ << 1  の時には、

表2.Day 1976 が測定したシリケイトグレインの特性

Qがレイリージーンズ近似

   Qabs = Qext = (8πa/λ) Im[(ε-1)/(ε+2)

からあまり離れない。従って、 a < 0.5 μm のダストで、λ > 1 μm ならば、半径にはこだわらない。

 オパシティの温度依存性 

 Bedjin 1987, Volk, Kwok 1988, Suh 1991 が述べているように、観測に フィットするダストオパシティは、光学的に厚いシェルに対しては λ > 13 μm で大きい値を取る。これは、オパシティに温度 依存性があることを意味する。Day 1976 は減光効率が温度依存することを 実験で見出した。表2にその結果をまとめた。簡単に言うと、 200 K 以下に 冷やすと、Qext(λ>13μm) が上昇し、一方 Qext(λ=10μm) は一定値である。 Jones, Merrill (1976) は T < 250 K または < 125 K で吸収を生む出すためには大きな Qext(λ=10μm) が必要と述べている。Pegourie, Papoular 1985 はダストの成分、サイズ分布が場所により変わる必要があると述べた。 しかし、彼らが議論するダストサイズの変化は非現実的である。


 2.2.光学定数の導出 

  Draine,Lee (1984) に倣い、次の手順で、観測にフィットする Qext(λ) から 複素誘電率 ε1(λ), ε2(λ) を出す。

(i) ε2(λ) を実験室で得られた値とする。
(ii) ε1(λ) を K-K 式から求める。

ε1(λ) = 1 + 2 P 2(x) dx
π 0 x2 - λ2


(iii) ε1(λ), ε2(λ) から a = 0.1 μm ダストの Qext をミー計算で求める。

(iv) 観測と較べ差を埋めるように ε2(λ) を直し、 (ii) に戻る。



図2.シリケイトダストの光学定数。

図3.プランク平均輻射効率 と温度 T の関係。


 2.3.光学定数を実験と較べる 

 光学定数の比較 

 図2には今回求めた光学定数を、 Dorschner et al (1995) の実験結果、 Draine,Lee (1984) らの理論モデルと較べた。

 Dorschner et al (1995) との比較 

  Dorschner et al (1995) は MgxFe1-xSiO3 (x = 0.4 - 1) と Mg2yFe2-2ySiO4 (y = 0.4 - 0.5) の光学定数を測った。光学定数は Fe の含有量に大きく依る。

我々の結果は Dorschner et al (1995) の Mg2yFe2-2ySiO4 (y = 0.4) の常温光学定数とよく似ている。鉄分の最も多い (x = y = 0.4) 実験室データが我々の結果に最も良く合った。 λ > 13 μm 実験室データは我々の暖かいダストと冷たいダストの中間値となった。 もし、より低温での実験室データが得られれば結果は大変興味深いもので あろう。

 2.4.輻射効率 Q のプランク平均値 

 プランク平均輻射効率 ⟨Qpr⟩ は次の式で与えられる。

⟨Qpr⟩=15( hc )40 Q(λ)λ-5[exp( hc )-1]-1
πkT λkT


吸収効率のプランク平均 ⟨Qabs⟩ はダスト温度を推定するのに有益である。また、 輻射圧効率のプランク平均 ⟨Qpr⟩ はダストの力学効果を調べるのに有用である。  球形ダスト単位質量当たりの輻射圧は、
   frad = (κrad(r)L)/(4πcr2)     (4)
で与えられる。輻射圧オパシティ κrad は、
   κrad = πa2Ng
ここに、Ng = ダストの数密度、⟨Qpr⟩ = 輻射圧効率のプランク平均である。
   ⟨Qpr⟩ = ⟨Qext⟩ - ⟨Qsca⟩         (6)

(式4は単位体積当たりではないか? 式6は良く分からない。)
図3に a = 0.1 μm ダストの ⟨Qpr⟩ を示す。


 3.ダストエンベロープモデル 

 3.1.恒星パラメタ― 

 Ls = 104 Lo とする。光度の変化はシェルからの放射スペク トルの形には影響しない。それが影響するのは全体的な形のみである。 中心星の黒体輻射温度が大きく変わると、特に光学的に薄い場合、放射スペク トルに影響する。Ts = 2500 K を仮定する。
( L が吸収帯に影響するというのが 私の主張! )

 3.2.ダストシェルパラメタ― 

 Tc = 1000 K と仮定する。Day 1979 は実験に基づき、 Tc = 700 K を示唆 した。また、 Gerhz et al 1992 によるノヴァでのダスト形成の結果は Tc = 1000 K を示している。この論文では、Rc は Td = Tc で定義する。シェルの 光学的厚みが増すと Rc は増加する。例えば Rc(τ10=0.01) = 2.6 1014 cm, Rc(τ10=50) = 4.2 1014 cm である。シェル外側半径 Ro = 104 Rc とする。非等方散乱の1次項までをモデルでは考える。光学厚みが大きい、 τ10 > 10、場合は吸収だけで十分なので考えない。
(良く分からない )

 3.3.ダスト密度分布

 色々な提案 

 通常の研究では密度分布には r-2 則を仮定する。 r-3 則や r-1 則の方がフィットが良いという主張も あるが、輻射圧モデル (Kwok 1975, 小笹ら 1984) や、脈動と衝撃波を 加えたモデル (Bowen 1988, Suh,Jones,Bowen 1990) は r-2 則 に近い。 

 マスロス増加の影響 

 AGB 進化を考えるとマスロス率は時間と共に増加する。従って、全体としては 質量分布は逆二乗より急なはずである。ダスト凝結半径 Rc は普通の OH/IR 星で、Rc ∼ 3 1014 cm である。 Vexp = 10 - 20 km/s とする とこれは 6 年程度に相当する。図4には, マスロス率が連続的に増加する 場合の密度分布を示す。 R < 1000 Rc まではマスロス率変化に伴う 密度勾配のズレは無視できる。超星風現象を扱う際にはこの限りではなく、 もっと複雑な分布則 Suh, Jones 1997, Suh 1997 が必要となる。 しかし、ここでは R-2 則を仮定する。

図4.加速マスロスと定常マスロスの二つでの密度分布

 3.4.ダスト温度とオパシティ 

 暖かいオパシティと冷たいオパシティ 

 図5には(上)=ダスト数密度分布と(下)=ダスト温度分布を τ 10 = 0.01 と 10 の場合について示す。 この論文では暖かいシリケイトと冷たいシリケイトの二種類のオパシティ を別々に用いた。10 μm 放射帯を持つ星には暖かいシリケイトオパシティ、 吸収帯の星には冷たいシリケイトオパシティを使用してモデルフィットを 行った。放射帯から吸収帯への変換は τ10 = 3 付近で起こる。

 マスロス率 

 シリケイトの巨視密度= 3 g cm-3, Rc = 3 1014 cm, Vexp = 15 km/s, ダスト/ガス = 0.01 を仮定して、マスロス率は、 3 10-8 Mo/yr (τ10=0.01), 9 10-5 Mo/yr (τ10=50) である。
( dM/dt = Ng(Rc)Rc^2、τ=Ng(Rc)κ∫(Rc/R)^(2)dR= κNg(Rc)Rc=κ(dM/dt)/Rc つまり、dM/dt = τRc/κ である。κ(cool)/κ(warm) = 1.1 (図1)、 [dM/dt(cool)]/[dM/dt(warm)] = 3000, τ(cool)/τ(warm)=5000 を入れると、 3000 = 5000 [Rc(cool)/Rc(warm)]/1.1
Rc(cool)/Rc(warm) = 0.66 になる。マスロスが大きくなると Rc は増加する センスではなかったか? )


図5.ダスト数密度 Ng とダスト温度の距離による変化。R はダスト凝結半径 Rc からの動径距離。
(とあるが、 R は中心距離を Rc 単位で表示した量でないか? )


 4.SEDの比較 


表3.モデルフィットのパラメタ―

 観測データ 

 比較に用いた赤外データの大部分は Fourth Catalog of IR Observations (Gezari, Pitts,Schmitz 1998) から採った。幾つかの場合では、 異なる時期に得られた SED を他の時期のデータと合わせるためにスケール を調節した。

 天体 

 光学的深さを広い範囲で代表するように8個の OH/IR 星を選んだ。 表3にそれらに対するモデルパラメタ―を示す。モデルフィットの結果 を図6−9に示す。どのモデルでも暖かいオパシティと冷たいオパシティ のフィット結果を示した。

 二種のオパシティ 

(i) 光学的に薄いダストシェル。
    TX Cam
    IK Tau
    OH 148.3+14.5
暖かいオパシティが良く合う。 (ii) 中間型
    NV Aur
   τ10 = 3 くらい。どちらも同じ程度のフィット。
(iii) 光学的に厚いシェル
    OH 127.8+0.0
    OH 21.5+0.5
    OH 26.5+0.6
    OH 354.88-0.54
   暖かいオパシティでは光学的深さをどんなに厚くしても 18 μm 吸収帯は作れない。


図10. OH 26.6*0.6 を様々なオパシティでフィットした。

 OH 26.5+0.6 を用いた比較 

 図10では OH 26.5+0.6 を様々なオパシティでフィットした。 ρ ∝ r-2, Tc = 1000 K を仮定してフィットしたモデル  SED を較べた。この仮定では今回のオパシティが最良であったが、 元論文では異なる密度、温度の仮定でフィットしていることを注意する。

(i) 図1で分かるように、10 μm 吸収帯オパシティは互いに似ているので、 そこのフィットはどれも良い。

(ii) Ossenkopf et al 1992 は λ < 13 μm で良いフィットだが、 18 μm 吸収を生み出せない。

(iii) Ossenkopf et al 1992 の基論文では、 Tc = 1500 K を仮定。

(iv) David, Pegourie 1995 は Rc/Rs ∝ Ts3 仮定。

(v) 現在、 Draine, Lee 1984, Ossenkopf et al 1992, David, Pegourie 1995 が良く用いられている。より適切なオパシティモデルを観測との 対比を同じ条件で較べて選ぶべきである。



図6.上=TX Cam。下=IK Tau。  

図7.上=OH 148.3+14.5。下=NV Aur。  



図8.上= OH 127.8+0.0。下= OH 21.5+0.5。  

図9.上= OH 26.5+0.6。下= OH 354.88-0.54。  


 5.二色図 

 不完全なデータ 

 完全な SED データを持つ OH/IR 星は少ない。その多くは IRAS フラックス が分かっている。また多数の OH/IR 星には NIR - 10 μm バンドまでの 測光データがある。SED には不完全なデータでも二色図には使える。

 K-L 対 A(10) 

 Jones, Gehrz 1990 と Lawrence, Jones, Gehrez 1990 は K-L カラー と 10 μm 吸収帯強度 A(10) との関係を二色図として調べた。 A(10) の定義は Lawrence, Jones, Gehrez 1990 に載っている。 彼らはダストシェルモデルが観測された傾向に良く合っていることを 見出した。

 モデルとの比較 

 図11のデータは Lawrence, Jones, Gehrez 1990 に幾つか強い メーザー源を足したものである。モデルは τ10 = 0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 3, 7, 15, 30, 40 をつないだ。今回のモデルは、 τ10 ≤ 3 では暖かいオパシティ、τ10 > 3 では冷たいオパシティを使用した。シェルなしの星は通常の 赤色巨星 K-L = 0.2, A(10) = 0.0 に位置する。

図11.(K-L) と A(10) との関係。  


 IRAS が見た OH/IR 星 

 IRAS PSC には OH/IR 星とされた星が 1597 星ある。それらは、

Lewis, Eder. Tezian 1990
Le Squeren et al 1992
David, Le Sequeren, Sivagnanam 1993
Blommaert, van der Veen, Habing 1993
Chengalur et al 1993
Loup et al 1993
Xiong, Chen, Gao 1994
Lepine, Ortiz, Epchtein 1995
Lewis 1997
Kwokm Volk, Bidelman 1997
van Loon et al 1998

である。図12には 870 OH/IR 星をプロットした。ラインは τ10 = 0.01, 0.05, 0.1, 0.5, 3, 7, 15, 30, 40 をつないだ。 今回のモデルが以前のモデルより観測に良く合っていることが判る。

図12.IRAS二色図上の OH/IR 星  


 6.結論 

 2種類のオパシティ 

 輻射モデルと観測との比較から、OH/IR 星のλ > 13 μm での オパシティは光学的に薄いシェルのオパシティと異なることが 分かった。
 2種類の光学定数 

 光学定数は K-K 関係を満足するように導いた。これらは、もしρ(R) ∝ R-2, Tc = 1000 K であるなら、星周シェルモデルに 最適である。