Analysis of Integrated Spectra of Red Star Clusters in the Magellanic Clouds


Rabin
1982 ApJ 261, 85 - 101




 アブストラクト 

 マゼラン雲 16 星団の SIT 積分デジタルスペクトルは様々な強さの水素吸 収線を示す。バルマー線等値巾を Ca I K線等値巾に対してプロットすると、 銀河系球状星団の観測系列から離れた所に跳ぶ。与えられたメタル線強度に対 して、星雲星団はより強いバルマー線強度を示す。これはマゼラン雲星団が 銀河系球状星団ほど高齢でないためと解釈される。色等級図ではターンオフまで 届かない星団でもバルマー線強度はターンオフ星に、したがって年齢に、鋭敏 であることがモデルスペクトルの解析から分かった。  NGC 2209 の場合、積分スペクトルと CMD の双方が得られ、どちらも t = 2.1 ±0.6 109 yr, [He/H] = -1 を与えた。Kron 3 の場合、ターン オフは V = 22 より暗いであろうと予言された。年齢とメタル量を変えたモデルス ペクトルと比較すると、水素・メタル線診断図は年齢とメタル量を定量的に得る 独立な方法と見做せる。積分スペクトルは個々の星の観測が不可能な遠方銀河の 化学進化を探る実際的な道具である。


 1.イントロダクション 

 積分測光 

 キャノンはマゼラン雲の8星団を、銀河系球状星団より若い早期 A 型とし た。Gascoigne, Kron 1952 は赤星団と青星団の二分法を提案した。最近 SWB80 は星団カラーを一つの系列に並べた。

 CMD 解析 

 CMD は星団研究のもう一つの本道で、 Arp, Hodge, Tifft らの研究に始まり、 Gascoigne 1966 の 17 星団サーベイを経て、最近ではいくつかの星団のターン オフ年齢を与えるまでになっている。

 積分スペクトル 

 これに反し、積分スペクトルにはあまり注意が向けられなかった。理由は、

(1)表面輝度が低くフィールド星の混入の影響が大きい。
(2)星団分類を銀河系球状星団スペクトル分類の枠内で行う無理。

特に (2) は、その強制の無理が気づかれないほどに浸透した影響を及ぼしている。 例えば、 Andrews, Lloyd Evans 1971 は N 419 を、「ハロー球状星団の典型」 スペクトルを有するとした。確かに、N 419 の可視スペクトルはやや低メタル の球状星団スペクトルとよく似ている。
 積分スペクトルの利点 

 そのような困難さはあるが、積分スペクトルには次のような価値がる。

(1)ターンオフまで届く測光は難しいが、積分光スペクトルにはターンオフ 星の寄与が大きい。

(2)測光ではメタル線強度はしばしば間接的推定に止まるが、スペクトルで は直接測定される。

(3)等値巾の測定は赤化の影響がない。

 第1歩 

 標準星団の年齢、メタル量で較正し、さらにモデル合成スペクトルの助けを 借りると、積分スペクトルは星団形成史と化学進化を研究する最も実際的な 方法となる可能性がある。本研究はその第1歩である。


 2.観測 

 2.1.プログラム天体 

 CMD の揃っている星団 

 NGC 2209 と Kron 3 は CMD 研究で年齢とメタル量が求まっている。NGC 1987 は CMD を欠くが、van den Bergh, Hagen 1968 の UBV 研究で唯一赤とも青と も決まらなかった興味深い天体である。  その他には赤い星団を選んだ。 t ≤ 1 Gyr の進化は速く、青さのみで年 齢の指標になるし、 A タイプ積分スペクトルは低分散スペクトルからメタル量 は出しにくいので除いた。

 赤い星団 

 マゼラン雲の赤い16星団と銀河系7球状星団が選ばれた。表1に装置の特 性を示す。観測は CTIO 1.5-m 望遠鏡で行われた。表2に星団のリストを載せた。 測光値も示してある。観測は 170 ピクセル = 6'.4 スリットを Dec 方向に スキャンして行った。

 2.2.データ整約 


表1.分光器と検出器の特性





表2.分光観測と測光データ




図1.NGC 1846 のスペクトル。等値巾、K段差ΔK, 勾配差 ΔS を 求める手順を示す。EW(Hβ), EW(Hγ), EW(G バンド) は赤い側の準 連続光を使って測られた。EW(Hδ) は青い方から測られた。青い波長帯 での低下したレベルが Ca K と Ca H + Hε の上辺を定め、同時に ΔK を決める。本文で説明するが、ΔS は赤化の影響が少ない方 法で、4300 A 測られる。小枠は, EW(Hγ), EW(G バンド) の測定を詳し く示す。 4500 A 付近の括弧はシリコンの傷である。

 2.3.等値巾の測定 

 測定した吸収線 

 測定したのは、 Ca II K, Ca II H + Hε, G バンド、Hδ, Hγ, Hβ, それに後で述べる二つのパラメターである。Ca I λ 4227 と Fe I λ4383 は弱すぎて、星団サンプル全体には適用できない。 5175 A 付近の Mg b 三重線は観測波長帯を設定する際に考慮されたラインで あったが、実際には弱くてうまく測れなかった。Ca K 線とバルマー線は強いの でどれで測っても同じ等値巾を出すが、その他のラインの比較に際しては、 同じ分解能のスペクトルを使用するのが安全である。

 ステップ1 

 スペクトルを整約する。 λλ4000-4800 スペクトルは、Gバンドの青側で交わる二つの 直線状切片からなることが図2から分かる。

 ステップ2 

 適当な連続光を引いて、吸収量を測る。図2の小枠で分かるように、 Hγ の青側は赤側と対称と仮定する。G バンドを同じように完全化する方策はない。
 ステップ3 

 K段差のため、上のやり方で EW(K) は測れない。そこで、λλ 4000-4250 連続光部を青側に伸ばし、平行に落下させて、Ca K 線と H8, CN バンドを分けている尾根に乗るようにする。この落下量が ΔK である。 落下した連続光はそのまま λλ3780-3980 連続光に使用する。 これは特に Ca H + Hε の測定に使われる。

 ステップ4 

 G バンド付近で起きる勾配変化を以下の式で定義する。
S+ = dmν | , S- = dmν |  
d(1/λ) λ=0.44+ d(1/λ) λ=0.44-


ここに、λ はミクロン単位である。


 図2.星団積分スペクトル 




図2.星団積分スペクトル。(a) と (b) はマゼラン雲星団 + NGC 2243(MW 散開星団)。 (c) は銀河系球状星団。

 3.スペクトルと等値巾 

 3.1.スペクトルの様子 

 バルマー線強度の幅は大きい 

 図2ではスペクトルをバルマー線強度の順に並べた。星団バルマー線強度が 大きな広がりを持つ事が分かる。 NGC 1987 の WE(Hδ) は M 15 の3倍 の強さを示す。それに対し、 NGC 121 のバルマー線は全サンプル中最弱である。
 年齢がバルマー線強度の変化を生む 

 この大きな変化をメタル量に押し付けるのは難しい。恐らく年齢が主因であろう。


 表3.等値巾と段差 



 3.2.等値巾 

 スペクトルの縮退 

 表3に星団の等値巾と段差を与える。図3は EW(Ca K)と EW(Gバンド) に 強い相関があることを示す。非常に強い部分を除くと、関係はほぼ線形である。 図3では、銀河系球状星団、LMC、SMC 星団は絡まりあって、一つの系列を成し ている。全星団の中で NGC 411 と NGC 1846 だけはハグレ者に見える。面白い ことに、M 15 と NGC 1987 は (Ca K, G バンド) 面上で隣り合っている。 下で明らかにするが、ターンオフ星により金属線が薄められるために、NGC 1987 が弱ライン星に見えるのである。一方 M15 のターンオフはずっと赤いの であるが、低メタル巨星と水平枝星が似たような見かけのスペクトルを生み出 す。狭い波長範囲内で金属線同士を比べても、上に述べたような年齢とメタル 量の効果を分離できない。似たような事情で、ずっと広い範囲からの 11 カラ ー測光にも拘わらず、Danziger 1973 は NGC 1987 を、「M 15, M 92 よりラ インが弱い」と、銀河系球状星団のどれよりも低メタルであるかのような印象 を付与している。もっとも SWB80 はその再解析で否定しているが。

図3.EW(Ca K) - EW(Gバンド) 図。LMC, SMC, MW の星団は一列に絡まりあう。 NGC 121 では二つの独立な観測が点線で結ばれる。





図4.EW(Ca K) と EW(バルマー線)の関係。下実線=銀河系6球状星団を結ぶ。 第1近似としては、同一年齢星団のメタル量系列。上実線=太陽組成、サルピ ータ IMF の星団のスペクトル進化。数字は Gyr 単位の年齢。マゼラン星団は 銀河系球状星団より若く、太陽より低メタルと分かる。47 Tuc からの矢印は、 もしその赤い水平枝星を M 3 型水平枝星で置き換えたとしたらどうなるかを 示す。ローマ数字は SWB タイプ。
(縦軸の定義がないぜ。 )


 4.議論 

 4.1.水素・メタル診断図(HMD) 

 バルマー線は、図3のメタル星同士の関係にはなかった新しい自由度をもた らした。図4では、下実線は銀河系6球状星団を結ぶ最小二乗フィット線である。 第1近似としては、同一年齢星団のメタル量系列。上実線は太陽組成、サルピ ータ IMF の星団のスペクトル進化である。べき指数を -1 から 2.5 まで変えても 等値巾の変化は 10 % 以下である。数字は Gyr 単位の年齢を示す。図4の本質的 なメッセージは、マゼラン星団が二つの実線の中間に存在するということである。 マゼラン星団は銀河系球状星団より若く、太陽より低メタルと分かる。

 4.2.若く赤い星団 

 バルマー線と年齢 

 図4を見ると、バルマー線強度が t ≤ 5 Gyr での星団年齢に敏感である ことが分かる。これはターンオフ星温度が 6500 K より高くなると、ターンオ フ星の青波長光への寄与が強まり、同時にバルマー線強度が強まるためである。 NGC 419 はそのよい例である。短時間露出の観測だけで Walker 1972 が CMD 研究で与えた選択肢の一つが簡単に決まる。 NGC 419 はかなり若く、しかし NGC 2209 より古い。

 年齢とメタル量 

 ターンオフ温度は年齢だけでなく、メタル量にも影響される。図5にはそれ が示されている。EW(Hδ) が年齢とメタル量の関数として表されている。 計算は Kurucz (1979) の大気モデルに基づいている。

 NGC 2209 の場合 

 NGC 2209 はその良い例を与える。この星団が興味あるのは、 NGC 1987 と並 び、この星団が赤い星団の中で最も青いからである。表4には、仮定した二つ のメタル量に対してバルマー線強度から決めた NGC 2209 の年齢を載せた。 CMD フィットから [Fe/H] ∼ -1 程度と分かるのでそのデータも合わせると、 t= 2.1±0.6 Gyr と分かる。

表4.NGC 2209 の年齢とメタル量






(WE(CaK) に対しても図5のような ものをつくれば、二つの isopleths の交点として t と [Fe/H] が一意に 決まると思うが、どうしてその方式をとらず、CMD を挟んだのか? )





図5.実線= t - Z 面上での EW(Hδ)の isopleths. 破線= M 3 タイプ の水平枝を加えた場合、特に低メタル領域で、影響が大きいことを示す。理論 水素吸収線には金属線の混入を考慮していないので EW ≤ 4 A では精度が低い。


図6.NGC 2209 CMD に重ねた等時線。t = 2 Gyr, Z = 0.002 が最も良く合う。

 4.3.何年くらいから「古い」? 

 4.3.1. 赤い古い星団 

 NGC 1841 を通る境界線 

 図4で下実線を基準線と呼ぼう。NGC 1841 を通り基準線と平行 な曲線を考え、それより下を取り敢えず、古く赤い星団とする。それらの中で 基準線より下にあるのは NGC 121 だけである。他の「古く赤い」星団は銀河系 球状星団とどこが違うのだろうか?基準線自体が主に、K-線強度で張られたメ タル量系列なのだから、差の原因はメタル量だけではない。質量関数を大幅に 変えても EW(Hδ) を 10 % 変えるのがやっとである。

 水平枝星もダメ 

 水平枝星の分布を変えると、星団は基準線から離れる方向に動く。図4には、 47 Tuc に M 3 型の水平枝を加えたときの変化を矢印で示した。こうして、 NGC 1978 は M 75 に対して、水平枝軌跡上に位置すると言えないことはない。 しかし、 NGC 1978 と NGC 2121 の場合、この可能性はない。なぜなら、二つ の星団の CMD を調べると、巨星クランプか水平枝の根本以上の構造は存在せず、 一方 M 75 は不安定帯の両側に立派に発達した水平枝を持つからである。

 年齢? 

 メタル量、IMF, 水平枝では全体の変化を説明できないので、残る可能性は 年齢だけである。マゼラン雲の赤く「古い」星団は銀河系球状星団のどれより も若いのだろう。今回のサンプル中では、 NGC 1466 と NGC 121 のみが、古 典的な意味での球状星団と言える。それでも、NGC 121 はその K-線強度に しては異常なほど赤い水平枝を持つ点で、やはり普通の球状星団からは区別さ れる。
 どくらい若いのか? 

 では、NGC 2121, NGC 1978, NGC 416 のような星団は、同じくらいのメタル 量を示す銀河系球状星団と比べ、どのくらい若いだろうか?図4で、これらの 星団の EW(Hδ) は基準線の 30 % - 50 % 上にあるとする。 これらの星団の EW(Hδ) < 4.5 A なので、Z < 0.001 ならば、 図5から年齢は 5 - 7 Gyr よりは古いことになる。

 AGB 上端光度法との比較 

  Aaronson, Mould (1982) は AGB の上端光度を使って、マゼラン雲赤い星団の年齢を推定した。彼らの サンプルと共通な 12 星団についての年齢は誤差の範囲で一致している。 例外なのは、 NGC 1978 である。かれらは二つの星団星が Mb < -5 である ことから、 その年齢を 1 - 4 Gyr, 恐らく 1.5 - 2 Gyr とした。我々の積分 スペクトルは、バルマー線の中間値 3.5 A を与える。この値は t > 6 Gyr を示唆する。

 主系列でテストできる 

 このように、バルマー線は年齢の下限を与えるのに強い。それは若くなると 線強度が急に増加するからである。したがって、主系列の観測からこの方法の 有効性を調べると良い。





表5.(Y, Z) = (0.3, 0.001) モデル星団の性質

 4.3.2.Kron 3, NGC 1841, M 30 へのコメント 

 Kron 3 の謎 

 Kron 3 は謎である。K 線 - バルマー線図上で、この星団は基準線上に位置 し、水平枝の根本しか見えないことから、そのメタル量は M 2 や M 79 と同 程度であるが、銀河系球状星団に比べ数 Gyr 若いと考えられる。しかし、 Gascoigne 1980 は CMD 上の暗く青い星を主系列星と考え、それからこの星 の年齢を 3 Gyr とした。

 表5=モデル SSP 

 表5には(Y, Z) = (0.3, 0.001) モデル星団の性質を t = 2 Gyr から 10 Gyr にかけてまとめた。この表と K 3 を比べると、 t = 3 Gyr SSP モデルは B-V が Kron 3 よりずっと青く、バルマー線も強い。両者が観測に合うのは t = 7 Gyr である。
 NGC 1841 も変 

 NGC 1841 は基準線より上にあるくせに、立派な水平枝を持つという点が おかしい。K 線 - バルマー線図の位置からは、 NGC 1841 は銀河系球状星団 より 2 - 3 Gyr 若い。水平枝もその若さで持つ可能性もモデルから示唆され ている。
(グダグダと何を言いたいのかね。 )


 4.4.中間星団 

 NGC 411, NGC 419, NGC 2173, NGC 1783, NGC 339 は一つのグループを成す。 NGC 339 だけは SWB VII だが、残りは V - VI である。   

 

  

 

  

 



図.

  

 最後の論理がはっきり理解できないので中断にする。  


 5.SWB タイプの年齢較正 

  

 

  

 

  

 

表6.SWB タイプの年齢区分