A Large Scale CO Survey of the Galactic Center


Oka, Hasegawa, Sato, Tsuboi, Miyazaki
1998 ApJS 118, 455 - 515




 アブストラクト

 野辺山 45 m 電波望遠鏡 2x2 焦点検出器を用いた銀河系中心領域 CO 観測 の結果を報告する。44,000 の CO(1-0), 13,000 の 13CO スペクトルを 34(1.4 pc) 格子で得た。CO 観測は l = [3.4. -1.5], b = [-0.6, 0.6] 領域で行われた。  CO 画像は極度に交錯した分布と運動を示す。大規模な様子は良く知られた 揃った特徴を物語る一方、多くの小さくて(d ≤ 10 pc) 速度巾が大きな (ΔV ≥ 30 km/s) 明るい CO 放射が検出された。分子ガスの小スケール 構造はフィラメント、アーク、シェル状の構造を示す。そこに見られる 激しい運動は超新星爆発またはウォルフライエ星からの星風が原因かも知れない。


 1.イントロダクション 

 これまでの銀河中心領域サーベイは分解能 ≥ 100 (4 pc at 8.5 kpc) で個々の分子雲を分解するには粗すぎた。そこで、野辺山 45 m 鏡により高分解大領域マッピングを CO(1-0) と 13CO で 行った。この観測の特徴は

(1). 格子点間隔 34 (1.4 pc) は個々の分子雲を分解できる。
(2). CO(1-0) が希薄ガスを検出して広域分布と運動特性を調べる。
(3). CO(1-0) データは銀河中心領域分子ガス集中のほぼ全領域を被っている。
(4). CO の二つの同位体ラインの観測から物理状態を調べられる。


 2.観測 


図1.45 m 鏡のアンテナビームパターン。

 3.データ 

 3.1.観測領域 

 3.2.強度スケール 


図3.強度相関。TA = 野辺山アンテナ温度。 TMB = CTIO 1.2 m 鏡のビーム温度。



図2.上:CO(1-0)、下:13CO(1-0) の V = [-220, 220] km/s 積分 強度マップ。等高線は CO(1-0) で 200 K km/s, 13CO(1-0) は 100 K km/s である。

 3.3.データ表示 

 図4: CO(1-0) 速度チャンネルマップ 

 図4には CO(1-0) 速度チャンネルマップをグレイスケールと等高線表示で示す。 速度間隔は 10 km/s である。
図5:CO(1-0) (l, v) 図 

 図5には CO(1-0) (l, v) 図を示す。マップは b = [-0.5, 0.5] で Δb = 2 で作った。


 4.分子ガスの幾つかの特徴 

 4.1.分布と運動 

 4.1.1.銀河中心分子雲複合 

 構成天体 

 銀河中心分子雲複合は l = [1.7, -0.8], b = [-0.35, 0.35] を占める 強い CO 強度と大きな速度巾を持つ雲の集団である。この複合体の尾根は 大体星形成リング(Oka et al 1996) または 120 pc 回転分子リング (Sofue 1995) と重なる。この複合体には Sgr B, Sgr C 分子雲複合、および 大きな銀河系中心 HIIR が含まれる。l = [1, -1] にある雲はその外側の雲 と較べ、境界がシャープである。図4の V = [50, 60] km/s を見よ。

 小さくて速度巾が大の雲 

 興味深い発見は、複合に小さくて d ≤ 10 pc, 速度巾が大きな ΔV ≥ 30 km/s, 雲が多数含まれることである。速度巾が大きな 雲の幾つかは明らかに重力非拘束であり(Oka et al 1998c), 散逸時間 0.1 Myr 程度の過渡的状態にあるか、バルジ中心部の大きな圧力下で 押さえ込まれているか、のどちらかである。今回発見された雲の統計的 性質は Oka et al 1998d に述べる。

 4.1.2.雲の形態学 

アーク/シェル 

 銀河中心領域の雲はフィラメント、アーク、シェル状の形態が特徴である。 その大きさは数パーセクから十分の数パーセクに亙る。これらの形は 太陽近傍の OB アソシエイションの周りで見られるのと似ている。 アーク/シェルの幾つかは明白な膨張運動を示している。またある物は 連続電波源と空間的な反相関を示す。アークやシェルの縁は鋭く、 大きな速度巾を持つ小さな雲を伴う。

 シェルカタログ 

 アーク/シェルやフィラメントの例は 4.3 節で論じる。アークとシェルの カタログは Hasegawa et al 1998 で示す。

 4.1.3.膨張分子リング 

 速度チャンネルマップでは弱い  

 CO の高速部分 V ≤ -100 km/s、V ≥ 120 km/s、は膨張分子リングと して有名な大規模構造(Kaifu, kato, Iguchi 1972, Scoville 1972)で占めら れている。我々の速度チャンネルマップでは膨張リングは弱い CO 構造として 現れ、また他の銀河中心天体と較べ細かい構造がない。

 Binney et al. (1991)の説明 

  Binney et al. (1991) は内側リンドブラッド共鳴に伴う閉じた軌道を用いてこの速度構造を説明した。 しかし、膨張リングの正負成分は (l, v) 図上で非対称な筋となり、 また速度巾も違う。図5の b = -8 を見よ。正速度成分 は l = 3° まで伸びるが、Kaifu et al 1972 の古典的なリングは l = 1.3 で終わっている。これらの観測事実から我々は、正速度成分と負速度成分 とは一つながりの構造ではないと考える。膨張リングと言われている物は 実はいくつかの腕状の構造から成り、それらはそれぞれが異なる共鳴軌道に 属しているのではないか。そしてそれらの起源は巨大な爆発であろう。 

 4.1.4.前景の渦状腕 

 強い腕 

 銀河中心の前面にある渦状腕は V = [-60, 20] km/s 帯に現れる。それらが 銀河中心天体と区別されるのは、

(1)銀緯方向のスケール高が大きい。
(2)速度巾が、ΔV ≤ 5km/s と狭い。

からである。それらは、

(1).3 kpc 腕。 V = -55 km/s at l = 0.
(2).4.5 kpc 腕。 -30 km/s.
(3).局所腕。 -5 km/s.

 弱い腕 

 さらに、 V = 20 km/s には S20 HIIR (l, b) = (0.71, -0.65), を含む 弱い腕状構造がある。また、l = [3, 2], b = [0, 6] には V = 60 km/s の弱い腕状構造が見える。図5 を見よ。これは 3 kpc 腕の正速度対応天体かも知れない。これには 孤立シェル (l, b, V) = (2.5, 0.05, 50) が見える。





表1.銀河中心領域のCO構造

 4.2.物理状態 

 4.3.既知の特徴 

 アーチ 

 (l, b) = (0.1, 0.0) の電波アーチが CS(2-1) でもされることを Serabyn, Gusten 1987 が発見した。前景の腕放射が邪魔しているが、図4の V = [-30, -10] km/s 帯に円弧上の構造が見える。内部の空洞があり、直径 40 pc のシェル構造を考えさせる。

 ポーラーアーク 

 (l, b, V) = (0, 0.05, 70) に「煙突からの煙」上の構造が見える。これは 北方向 (l, b, V) = (0.2, 0.25, 140) まで速度を上げつつ伸びる。より大きな 4.4.4.で述べる "Great Arc A" に合体するようである。そしてその一部 は Bally et al. (1988) の "135 km/s arc" と同じである。(どれのことかわからない?)

 CO 0.13-0.13 

 坪井ら 1997 が CS マップ観測で (0.13, -0.13) に発見した。 V = 30 km/s では、銀河中心電波アークの非熱的垂直フィラメント(VF)の束を避けて、周囲から 孤立している。我々のマップではこの雲は V = 10 km/s から 70 km/s まで 追跡できる。そして VF と接触する位置で突然速度が変化する。 VF に面する 雲の縁は他より鋭い。これらは雲が VF と大規模な相互作用をしていることを 物語る。 CO - 13CO 解析は CO 0.13-0.13 の温度が高いことを 示す。これらから考えられるのは、磁気束との作用が、超新星乱流の エネルギー散逸を通じて、雲のガスを加熱しているというものである。
CO 0.16+0.00 

 (l, b, V) = (0.16, 0.00, 140 - 180) には孤立した小さな雲がある。それは 銀河面に垂直に 15 pc の細長い形をしている。この雲は Whiteoak, Gardner 1979 が H2CO 吸収線観測で発見した G1.6-0.025 の高速 (V=165) 成分である。 G1.6-0.025 の低速 (V=50) 成分は広がった CO 放射に埋もれている。Haschick, Baan 1993 はメタノールメーザーを検出し、G1.6-0.025 の両成分は衝突して いる二つの雲であるとした。

 クランプ2 

  Bania (1977) が (l, b) = (3, 0.4) に検出した雲複合は ΔV = 200 km/s という極端 に大きな速度巾を示す。我々のまっぷでは、クランプ2は明瞭に円弧状の 尾根を持つ直径 20 - 30 pc のシェル構造を示す。そこにはまた、頭+尾の 形状を持ち、大きな速度巾の小さな塊りが V = 20 - 30 km/s にいくつか見え る。一つの頭は (l, b) = (3.34, 0.44) にあり、尾は銀河座標で西側に流れ る。もう一つの頭は (l, b) = (2.28, 0.08) にあり、尾は銀河座標で東側に 流れる。


 4.4.新しく見つかった構造 

 4.4.1.大きな速度巾の小さな雲 

 CO 0.02-0.02 

 ≈4×3 pc2 の小さくて大きな速度巾 ΔV = 100 km/s を持つ分子雲。Sgr A* から銀河座標系で 5 東にある。V = [80, 130] km/s 速度領域では他から孤立 している。JCMT の観測ではこの雲は CO(3-2) で非常に明るい。連続電波源 はない。

 CO 1.28+0.06 

 ΔV = 80 km/s を持つ分子雲、(l, b, V) = (1.28, 0.06, 120-200)。 4.4.4.節で述べる分子フレアの中央に位置する。小さな(d=8 pc) 膨張シェルを伴う。その運動年齢は 105 である。連続電波源は ない。

CO 2.28+0.08 

 銀河座標でクランプ2の南西端、(l, b, V) = (2.28, 0.08, 50-180) に位置する小さい、d ≈ 5 pc 雲。速度巾は 80 km/s で大きい。 雲の周辺ではクランプ2の縁は鋭く、アーク状をなす。

 CO 3.34+0.43 

 銀河座標でクランプ2の東端、(l, b, V) = (3.34, 0.44, 0-40) に位置する小さい、d ≈ 8 pc 雲。彗星状形状をなす。速度巾は 30 km/s でまあまあ大きい。雲の周辺ではクランプ2の縁は鋭く、アーク状をなす。

 4.4.2.分子フィラメント 

 彗星状フィラメント 

 中心 (l, b, V) = (0.65, 0.1, 100 - 130) Δl × Δb = 0.4 × 0.3 の分子フィラメントの束が彗星状を成して存在する。 フィラメントは銀河座標で南西から北東へと次第に速度を上げつつ伸びる。 (l, b) = (0.6, -0.059 から (0.85, 0.1) のフィラメントは V = 120 km/s ではっきりした直線を成す。

 蛇状フィラメント 

 中心 (l, b, V) = (-0.3, -0.1, 70 - 120) の雲は長さ 60 pc のくねくね した蛇のような形状のフィラメントである。この雲は幾つかの小さく、強い CO 放射の雲を伴っている。

直線状フィラメント 

 長さ 30 pc の直線状の雲が (l, b, V) = (-0.15, 0.02, 60) に 銀河面に平行して存在する。先程述べた彗星状フィラメントにも直線状の フィラメントが見える。それは (0.6, -0.05) から (0.85, 0.1) へと V = 120 km/s に存在する。


 4.4.3.分子シェル 

 膨張シェル 

 非熱的垂直フィラメントである電波アークの銀河座標系で東側、 (0.25, -0.08, 50) に CO の空洞がある。それを囲むように、b = -4, -8 での l-v 図上にははっきり した楕円弧が見える。これらの形状は半径 9 pc 速度 25 km/s で膨張する分子 シェルで説明できる。その運動時間は 3.5 105 年である。
(図中のどれかよく分からなかった。)

 膨張アーク 

 中心を (0.55, 0.07, 50) とし、膨張速度 20 km/s、直径 15 pc の大きな アークがある。図5 b = 4 を見ると。明白な膨張運動 が分かる。それは半田ら 1987 の 10 GHz 連続波源と関係がある。この運動 年齢は 3.7 105 年である。

 シェルの集団=巣 

 (1, -0.1 to +0.3, 100) には直径 15 pc のシェルの集団=巣がある。 それは次に述べる分子フレアに隣接している。サイズと速度は年齢、数  105 年を示唆する。

 4.4.4.その他の構造 

 分子フレア 

  強度マップ l = 1.3 付近に見えるやや丸っぽい分子構造である。分子フレ アは V = [30, 130] km/s にあり、大きな銀緯分布 Δb = 0.4 を示す。 これは多数のふわふわした雲とフィラメントから成る。図5の l-v 図から 分かるようにその速度巾は極端に大きい。それから想像されるのはこの 構造が大規模な衝撃波ではないかというものである。フレアにはまた大きさが 10 - 20 pc のアークやシェルが多数付随する。最も目立つのは高速雲 CO 1.28+0.06 に付随するものである。

 グレートアークA 

  Bally et al. (1988) の 135 km/s アークを含む巨大アークで V = [130, 200] km/s に現れる。 この構造は (0, -0.2, 140) から (1.2, 0.4, 180) まで伸び、左端で 銀河系座標南側に曲がる。

 グレートアークB 

 V = [100, 140] km/s で、分子フレアとクランプ2をつなぐ巨大アークで ある。その直径は 200 pc に及ぶ。これは速度巾、空間構造で膨張分子リング と似ており、銀河中心部におけるもう一つの分子腕構造かも知れない。 グレートアームA はBより複雑な構造だが、両者は分子フレアの位置で 繋がっているように見え、巨大なサインカーブを成す。


 5.結論 

 1.光学的厚み 

 銀河系中心領域の CO 光学的厚みは τ12CO = 3 - 10 でまあまあの大きさである。励起温度は Tex = 10 - 30 K で高い。

 2.分子雲複合 

 中心分子雲複合は強い CO 強度と大きな速度巾が特徴である。そこには d ≤ 10 pc と小さな、しかし速度巾が 30 km/s 以上と大きい雲が 多数存在する。それは CO 強度が大きく、縁が鋭い。いくつかは重力的に 非拘束である。
アークとフィラメント 

 フィラメントやアークは数 pc から, 十分の数 pc で、いくつかは明らかな 膨張運動を示す。それらはまた連続光分布と逆相関を示す。 アークの縁は鋭く、爆発現象との関係を疑わせる。

 4.大規模構造 

 有名な膨張分子リングは正負の速度帯での CO 放射を支配している。 正負で速度巾に違いがあり、それらが一体の構造であるか疑問がある。 "リング"は実は複数の腕から成るのかも知れない。我々は 膨張分子リングと似た構造を見つけた。それらの構造をより研究する 必要がある。


 図4.CO(1-0) の速度チャンネルマップ。積分速度巾= 10 km/s. 









 







 







 







 










 図5.CO(1-0) の (l, v) 図。等高線間隔は 1.5 K