V1648 Aql = 19386+0155 の R 60,000 可視スペクトルを BTA 6m 望遠鏡で取得した。金属 吸収線の平均速度は Vr=10.18 km/s, VLSR = 18.1 km/s であった。 NaI D 線の大気、星周、星間成分の速度を Vr = 9.2, -3.4, -12.8 km/s と 定めた。星間成分の速度は星間吸収帯の平均速度 -12.5 km/s と一致する。 | 弱いメタル輝線が見つかりその平均速度は Vr = 8.44 km/s であった。これは 大気上層に弱い速度勾配があることを示唆する。星の光度は Mv = -5 mag と 見積もられた。また距離は d ≥ 1.8 kpc である。モデル大気から、この post-AGB 星 V1684 Aql の大気組成と大気パラメターを決めた。 |
OH メーザー van der Veen,Habing, Geballe (1989) は測光データから IRAS19386+0155 をクラスI = AGB に近い星と分類した。 Lewis, Eder. Terzian (1990) のアレシボサーベイでは IR が強いに拘わらず、OH メーザーは検出されな かった。しかし、 Lewis(2000) はデータを再解析して、弱いメーザーを検出した。 可視スペクトル 可視ではこの天体は V1648 Aql = F5I と分類されている。 可視変光 Arkhipova et al は 19 年間の UBV モニタリングを行い、post-AGB に特有 な振幅のサイン関数型変光を見出した。周期は約 100 日である。彼らは 長期変化の特徴も見出した。 |
カラー変化 Hrivnak,Lu, Nault 2015 は 等級とカラーの長期変動を注意した。 V1648 Aql = 19386+0155 は V887 Her = 18095+2704 とよく似ていると考えら れる。恐らく PPN である。 Lewis(2000) は高銀緯 OH/IR 星の性質をまとめ、19386+0155 と 18095+2704 の進化位置を 議論した。 大気パラメター 可視域で比較的暗いので、V1648 Aql = 19386+0155 の観測は少ない。 Pereira et al 2004 は大気モデルから Teff = 6800 K, log g = 1.4, [Fe/H] = -1.1 とした。重要な点はこの星の SED が post-AGB の中では 異常な性質を持つ事で、これから彼らはダスト円盤の存在を示唆している。 しかし、彼らは可視スペクトルの特徴に注意せず、また視線速度も記載されて いない。そこでこの論文でさらにスペクトルを調べた。 |
![]() 表1.視線速度 3.1. V1647 Aql スペクトルの特異性V1647 Aql は F5I 超巨星に特徴的なスペクトルを有する。しかし、いくつか 特異な点がある。(1)Hβ 線は単純な吸収線であるが、図1の Hα 線には構造があり、 広いウイングと狭いコアを持つ。この特徴は post-AGB に典型的である。 Molina et al 2014 の図6には、南天の 4 post-AGB 星の Hα スペクトル が示されている。他に、Klochkova et al 2007, Klochkova 1995 にも同様の例が 載っている。 (2)金属吸収線の速度 Vlsr = 18.1 km/s は Lewis(2000) による OH メーザーの中心速度と一致し、星の系統速度と見做せる。 ただし、メーザーは ΔV = 50 km/s という大きな値を持つ。 3.1. 1.金属輝線図2には低励起の中性メタル輝線が多数見える。V(emis)=8.44 km/s である。このような輝線は post-AGB LN Hya (12538-2611) に も報告されている。ただ、 LN Hya の場合は 2010 の活動期に観測された。 その時は静謐期と異なるリバース P Cyg 輝線が見える。 表2の Fe, Co, Ni 輝線は黄色ハイパー巨星 ρCas にも見える。3.1. 3.光度と距離Gaia DR2 の視差は広がった星では精度が低い。表3の DIB 強度から E(B-V) に変換すると、E(B-V) = 0.68, Av=2.17 となる。これは星間起源のみ の分である。OI 7774 A の等値巾 Wλ = 1.42 A から光度は Mv = -5 と推定される。ただし、 O の超過、長期増光を考えると、かなりの 誤差がある。以上から、距離は d = 5 kpc となる。しかし、 R や E(B-V) の 評価により 1.8 kpc まで下がりうる。 |
![]() 図1.Hα 速度。縦線は TiI 6554.23 A と CaI6572.80 A 輝線。 ![]() 図2.V1648 Aql スペクトルの一部 |
![]() 表2.V1648 Aql 金属輝線の視線速度 |
![]() 図3.V1648 Aql NaI 5895 A スペクトル。1 = 恒星大気。2=星周外層。 3=星間吸収線。 |
![]() 表3.星間吸収線 |
![]() 図4.V1648 Aql の元素組成。固体凝結温度の相関がある。 |
3.2.大気組成表4に大気モデルとのフィットで決めた組成を示す。3.2.1.鉄ピーク元素 |
3.2.2.軽元素酸素 O の大きな超過が得られた。[O/Fe] = 1.36 である。炭素超過は [C/Fe] = 0.75 なので O/C > 1 である。O 量の超過は V1648 Aql が 低質量超巨星であることに合致する。高質量星の場合は CNO サイクルで O が N に変換されるので O 欠乏となる。したがって N 量が星の進化段階の決定に 重要である。残念ながら、 NI 7468 A しか得られない。[N/Fe]=0.69 なので O/N > 1 となる。これも小質量超巨星の証拠である。3.2.3.元素の選択的欠乏3.2.4.重元素 |
金属吸収線の視線速度 多数の金属吸収線の視線速度平均値は Vr = 10.18±0.05 km/s であっ た。DIB 20本の平均視線速度は Vr(DIB) = -12.5±0.05 km/s であった。 NaI D 線には3つの成分 NaI D 線には3つの成分の視線速度が確認された。 (1)Vr = 9.2 km/s. 金属吸収線と一致。大気吸収を表す。 (2)Vr = -12.8 km/s. DIB と一致する。 (3)Vr = -3.4 km/s. 大気吸収線と 12.6 km/s の差がある。これは膨張星周層 の速度を表す。 |
輝線 弱い輝線が見える。その速度は Vr = 8.4±0.3 km/s である。 これは大気上層の弱い速度勾配を示すのだろう。 OI 7773 A と絶対光度 OI 7773 A 三重線の強度は Mv = -5 に相当する。視差情報がないので、この 値から、星間吸収を考慮して、距離 d ≥ 1.8 kpc とした。 元素量 モデル大気との比較から、18元素の組成を求めた。 その結果、この星が post-AGB 期にあることが確認された。 |