進化した星 401 個の SiO と H2O メーザー同時観測に基づいた 統計解析を行った。アンテナ温度強度の T(H2O)/T(SiO) は OH/IR 星の方がミラ型星より大きい。この比は可視変光位相 0 - 0.4 で 大きいことが判った。H2O フォトン光度は SiO メーザーに較べると 位相依存度が大きい。これらから推測すると、H2O メーザーは 星周層の膨張運動と脈動で生じる衝撃波に SiO より鋭敏らしい。この結果は また両者の発生距離の違いにも関係する。 | FWZP = ゼロパワーでの全巾は SiO メーザーではほぼ一定値であるが、 H2O メーザーでは OH/IR 星の方がミラ型星より大きい。 この違いはマスロス率の違いと、メーザー発生箇所の違いに起因する。 星本体視線速度に対する SiO と H2O メーザー速度の平均を 位相に分けて調べた。H2O メーザー速度は位相 0.3 - 0.6 で は赤方遷移しているが、位相 0.6 で青色遷移のピークが現れてきて、 赤と共存する。これは CO Δv = 3 視線速度曲線と似ている。 SiO v = 2 メーザーは H2O メーザーと少し似た振る舞いを 示すが、 SiO v = 1 メーザーは似ていない。最後に IRAS 二色図上の 位置から進化との関係を調べた。 |
同時観測 Kim et al. (2010), Cho, Kim (2012), Kim, Cho, Kim (2013) は SiO と H2O メーザーの同時観測を行った。今回は そのデータベースを用いて二種のメーザーの統計解析を行う。 位相 Spencer et al 1981, Jewell et al 1991, Cho et al 1996 の SiO メーザー 観測から SiO v = 1, J = 1-0 は可視変光位相 0.2 付近でピークに達する ことが判った。Cho et al 1996 は平均視線速度と位相の関連を調べ、 脈動と速度の間に相関があることを見出した。Benson, Little-Marenin 1990, Little-Marenin, Benson 1991 は H2O メーザー強度が可視位相 に 0.1 - 0.4 遅れることを見出した。 Lekht et al 2005 は長期 H2O メーザーモニタリングを行った。Shintani et al 2008 は H2O メーザーの統計解析を行い、タイムラグと周期の間に関係を 見出した。Engels et al 1986 の OH/IR 星で同様の発見をしている。 |
メーザー位置 Diamond, Kemball 2003, Yi et al 2005, Gonidakis et al 2010 は VLBA SiO 観測から、 SiO リングの大きさが位相と遷移によって変わることを 見出した。それは大体 Humphreys et al 2002 のモデルに合致するものである。 H2O もまた位相により場所が周期的に変わることが Bowers, Johnston 1994 により見出されている。彼らはこの現象が衝撃波の通過による ものであることを強く主張した。 |
検出率 サンプルは KVN で観測した 401 の進化した星である。表1にそれらの内訳を 示す。SiO, H2O 双方検出は 47 %, SiO のみは 31 %, H2O のみは 7 % である。 |
データ 解析に用いるデータは表2と表3に示す。変光位相は AAVSO から採った。 |
![]() 図2.P.T.= ピーク温度と I.T. = 積分強度の (H2O/SiO v=1) 比 と位相との関係。一点鎖線=強度比最大の領域を囲む。 図4.SiO v=1, 2 と H2O メーザーのフォトン光度と 位相との関係。 |
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![]() 図9.(a) - (c) メーザーの速度シフト。(d) R Cas の CO ΔV = 3 (1.6 μm) の変化。 |
![]() 図10.速度シフトのヒストグラム。 |
1.H2 と SiO の位相による変化 OH/IR 星の(H2/SiOv=1) はミラ型星より大きい。大抵 SiO の方 が H2 より強いが、 H2 の方が強い例では可視位相が 0.0 - 0.4 である。おそらく、H2 は位相による変動幅が大きい のでこのようなことが起きるのだろう。これは W Hya のモニタリングでも 確認されている。 2.極大 SiO v = 1, 2 の極大は位相 0.2 付近である。H2 は位相による 変化により強く追随する。H2 の方が脈動の影響を強く受ける のではないか。 3.FWZP FWZP の値はミラと OH/IR とでは似た値をとる。H2 は OH/IR で大きい。この差はマスロス率の差に依るのでないか。 |
4.速度シフト H2 は位相 0.3 - 0.6 で赤遷移が支配的である。青遷移が現れる のは位相 0.6 で残りの位相では共存する。この様相は CO ΔV = 3 の 視線速度曲線と共通する。SiO v = 2 メーザーも同様の振る舞いをする。しかし、 v = 1 メーザーはそうでない。 5.IRAS 二色図 観測した星の大部分は、領域 II と IIIa に存在する。SiO 天体が広いカラー 範囲に存在するのに、H2O メーザーは領域 II と領域 III 前面に しか見つからない。片側、ダブル、マルチピーク天体は領域 IIIb, IV, V, VIb に存在する。非対称性と双極流の発達が AGB 進化の最終期に なることを示唆している。 ( 星質量の差でないか?) |