Near-Infrared Spectroscopy of Proto-Planetary Nebulae


Hrivnak, Kwok, Geballe
1994 ApJ 420, 783 - 796




 アブストラクト 

 16 PPNs の H, K 低分散分光を行った。 4 つは L でも。 H バンドでは大部分が水素ブラケット n = 10-4 から n = 2--4 系列吸収線を 示す。K では CO Δv = 2 吸収バンドが v = 6-4 の高さまで見える。  3天体では CO が輝線で見えた。22272+5435 の CO スペクトルは3か月の 間に輝線から吸収線に転じた。CO 輝線は最近のマスロスによる衝突励起である らしい。弱い 3.3 μm 放射帯が一つの天体で観測された。


 1.イントロダクション 

 分離ダストシェル 

 IRAS 天体の中に赤外超過の大きな G-, F-型超巨星が多数見つかっている。 それらは双峰性 SED が特徴である。 Hrivnak, Volk, Kwok (1989) はモデルフィットにより、分離ダストシェルの存在を明らかにした。

 低表面重力 

 数百年というこの分離シェルの期間に、中心星は G-, F-型に進化する。 それらは光度クラス Ia, Ib である。これは低い表面密度を反映している のであり、高い光度を意味するものではない。
 PPN 候補のSED 

 そのような星が、 Parthasarathy, Pottasch (1986), Hrivnak, Volk, Kwok (1989) van der Veen, Habing, Geballe (1989) により発見された。我々は IRAS カラー温度が 150 - 300 K の天体に狙いを 付けて PPN 候補天体を探している。候補星には地上測光、分光観測を行い、 その性質を調べる。測光による SED はしばしば双峰性を現わし、分光からは 中心星のスペクトル型が明らかになる。

 包括的赤外分光 

 赤外分光は、星周層の原子、分子、ダスト成分を調べるのに適している。 幾つかは 9.7 μm 放射帯を示し、O-リッチであることをしめすが、他は 21 μm と 11 - 15 μm 放射帯を示す。21 μm 帯は PAH 放射に関係 があるのかも知れない。





表1.観測ログ

 図1. H-バンドスペクトル 








図1.通常黄色超巨星 BS 382(F0 Ia), BS1865(F0Ib), BS1017(F5Ia) と 14PPNsの H-バンドスペクトル。1990 Sep. 観測。

 図2. 20572+4919 と AFGL 2688 の H-バンドスペクトル 





 2.観測 

 3. H-バンド観測 

 観測は 1990 年 CGS2/UKIRT で, 1991 年 cgs4/UKIRT で行われた。

 水素ブラケット線と Mg 線 

 PPNs の H-バンドスペクトルは水素ブラケット線が多い。検出されたのは n = 4-10 kら 4-20 に及ぶ。それらを図1に示す。参考のため通常の黄色 超巨星 BS 382(F0 Ia), BS1865(F0Ib), BS1017(F5Ia) の観測も行った。 1.504 μm のおそらく Mg I 線は1天体を除き、殆どの天体で吸収線として見えるが、

 07134+1005 での誤り 

 07134+1005 は以前 Kwok et al 1990 では青方変位した輝線としたが、多くのスペクトル と比較すると誤りであった。どうも多数の未同定吸収線により連続光レベルを低く見積もった 為らしい。
 04296+0429 と 07430+1115 

 連続光は大抵の天体では青いが、 04296+0429 と 07430+1115 では 1.56, 1.58 μm に局所極大を示す。

 20572+4919 と AFGL 2688 

 図2に示す 20572+4919 と AFGL 2688 のスペクトルは他の天体とかなり違う。 20572+4919 は可視スペクトルが F 型であるにも関わらず、ブラケット線がない。 実際この星は 1.504 μm 以外吸収線が見えない。AFGL 2688 はF5 I スペクト ル型の星である。我々は明るい方の突起のスペクトルを得た。ブラケット線は はっきり見える。注意を引くのは 1.559 μm の輝線で、Bra 4-16 の長波長側 とブレンドしている。また、 1.605 または 1.603 と1.607 μm それに に多分 1.778 μm に輝線がある。しかし、連続光レベルの決定が難しい。 この二つの SED を見ると、NIR 波長帯は二峰性スペクトルの中間部に位置する。 それが平坦なスペクトルを産んでいるのであり、ブラケット線が見えない理由で あろう。


 図3。K-バンドスペクトル 






(a) 4つの通常黄色超巨星。(b) CO バンドの内4つの F-型 PPNs. 17436+5003, 18095+2704, 19475+3119 は 1990 年の低分解能スペクトルである。 (c) CO 吸収のある 4つの G-型 PPNs. (d) G-型であるが、二つは CO なし、二つは CO 輝線。 Brγ 7-4 の位置も示す。




図5.1990 年 11 月に撮った CO 輝線天体の K-バンドスペクトル。

 4.K-バンドスペクトル 

 CO バンド 

 一般にはプログラム星の内 G-型に CO バンドが見え、F-型には見えない。 ただ、早期 G-型に分類される 04296+3429, 05381+1012 ではバンドが見えない。 また、特に興味深いのは 19114+0002, 22223+4327 では CO が輝線で見えることである。 さらに面白いのは、22272+5435 で、 1990 年 6 月のスペクトル (図4)では輝線であった CO が 1990 年 9 月には吸収 (図3)に転じている。

 1991 年の観測 

 CO 輝線の見えた3天体を 1991 11月に再び観測した。 19114+0002 と 22223+4327 は 以前として輝線であった。 22272+5435 は吸収のままであった。1991 年のスペクトルを 図5に示す。

 CO 輝線フラックス 

 表2に CO 輝線フラックスを示す。

 Na I 輝線 

 Na I ダブレット 2.206, 2.209 μm が 19114+0002 で強い。参考星 BS 7193 では 吸収線が見える。この輝線は以前に IRC 10420 でも見られた。その他の早期型超巨星 でも見つかっている。

 H2 輝線 

 双極型 PPNs AFGL 618 と AFGL 2688 には H2 輝線が見える。それらは 放出流の衝突励起によると考えられている。今回のプログラム星にはなかった。

図4.22272+5435 の 1990 年 K-バンドスペクトル。図3と比べ分解能はファ クター2悪い。






表2.CO 輝線のフラックス




図6.4 天体の Lバンドスペクトル

 5.L-バンドスペクトル 

 図6には、4 つの天体の L バンドスペクトルを示す。07134+1005 には 3 μm バンド が見える。同じバンドが 05113+1347 にもあるのかも知れない。


 6.議論 

 6.1.HI ライン 

 PPN で見える HI ラインは普通の F-型超巨星で見えるものと同じである。

 6.2.CO バンド 

 超巨星 

 HI ラインと同じく CO も恒星大気中で形成されたと考えてよい。ただし、 3つの PPNs で CO が輝線で見えている。通常の超巨星では HR 8752 (G5 0-Ia) Lanbert, Hinkle, Hall 1981 と LMC 中の二つの早期 G 型超巨星 McGregor, Hillier, Hyland 1988 で輝線として見える。McGregor et al 1988 は超巨星 10 個に 2.3 μm CO 輝線を見出した。19114+0002 の膨張速度は 33 km/s と 大きい。この星は赤外超過の大きな通常の超巨星かも知れない。  

 励起機構 

  CO 励起のありそうな機構は衝突励起である。高励起輝線の放出には高密度 高温が必要で、高速流と星周シェルとの衝突が考えられる。Trams et al 1989, Slijkhuis, Hu, de Jong 1991 は Hα の広いウィングや P Cyg 線輪郭 を観察している。 衝撃波は NaI 輝線の説明にも適用できそうである。

 22272+5435 

 最も面白いのは 22272+5435 で、3か月の間に CO 輝線から CO 吸収線に変 わった。高速流の強度が変動するのかも知れない。Woodsworth, Hrivnak 1994 は 19114+0002 で Hα が変動することを見出した。
 高速流 

 高速流は PN の進化を理解するうえで非常に大事であり、その開始の直接観 察は興味深い。Trams et al 1989 は低質量 post-AGB 星では強まったマスロスが 進化に大きな影響を与えると述べている。高速流は既に薄くなってる外層質量を 減らし、HR 図上青側への移動を速めるからである。Schonberner 1990 はレイ マーズの式のマスロス率だけで、PPN の観測とモデルはフィットすると述べた。

 6.3.未同定赤外バンド 

 3.3, 3.4 μm バンド 

 観測した中では 07134+1005 に 3.3 μm バンドが観測された。多分 05113+1347 にもある。しかし他の 18095+2704 と 19475+3119 には見られない。Geballe, van der Veen 1990, Geballe et al 1992 は 4つの PPNs 05341+0852, 24296+3429, 22272+5435, AFGL 2688 で 3.3, 3.4 μm バンドを発見した。

 21 μm バンド 

 21 μm バンドが3つの PPNs 04296+3429, 07134+1005, 22272+5435 の LRS で発見された。Kwok et al 1989. この 21 μm バンドは 18095+2704 には見えない。 05113+1347 と 19475+3119 の LRS データベースを調べ、図7に示す。比較のために 07134+1005 と 18095+2704 も示す。19475+3119 は 15 μm より長波長側で急上昇し、 21 μm バンドの兆候は見えない。一方、 05113+1347 の方は 11 から 21 μm にかけてゆっくり上がり、弱い 21 μm バンドらしきものが見える。05113+1347 に対する最近の 16 - 23 μm UKIRT 地上観測が存在を確認した。

 以上を合わせると、PAH NIR バンドと 21 μm バンドとの間には相関がある。 21 μm バンド天体は全て 3.3 μm バンドを持つが、AFGL 2688 は逆が 成り立たない。





図7.4 PPNs の LRS スペクトル。21 μm は 07134+1005 で強く、 05113+1347 で弱い。他の二つには見えない。

 7.結論 

 スペクトル概説 

 16 PPNs の H, K バンドスペクトルを、4 PPNs の L バンドスペクトルを撮 った。それらにはブラケットシリーズの吸収線が見えた。PPNs の H バンド スペクトルは通常の F-, G-型超巨星と変わりがない。CO v = 2-0 から 6-4 バンドが中間から晩期 G-型星に見えた。3天体では輝線で見える。これは おそらく高速流によるものであろう。最も興味深いのは 22272+5435 で、 輝線から吸収線に3か月の間に変わった。
 既知天体との違い 

 これら新しい PPNs の K バンドスペクトルは、良く知られている AFLGL 618 や AFGL 2688 と大分違い、H2 輝線は見えない。新しい PPNs の一つ では強い 3.3 μm バンドが見える。またもう一つでも弱いバンドがあるらしい。 表3にそれらをまとめた。





表3.観測のまとめ