高銀緯 F-超巨星 HD 161796 及び類似天体が強い FIR 超過を示す。 それは星の周りに大量のダストが存在するからである。 HD 161796 の場合、 ダスト量は 10-3 - 10-2 Mo 程度である。 | この結果は、HD 161796 及び類似の高銀緯 F-超巨星 天体が過去に強い マスロスを経験したことを示唆する。その原因は AGB 期の超星風であろう。 |
高銀緯 F-型超巨星の謎 HD 161796 は高銀緯 F-型超巨星という小さなグループに属する。 このような星の存在は Bidelman 1951 により最初に注意された。この星の 銀緯 = 31&deh;.1, Vr = -53 km/s である。Abt 1960 は HD 161796 の分光 からこの星が s 元素不足で種族II であるとした。しかし、 Searle, Sargent, Jugaku 1963 は、ほぼ正常な元素量であるとした。 星周減光なし Humphreys, Ney (1974) は HD 161796 は赤化がないとした。 (この論文には HD 161796 の V と 3.5 μm 等級があるだけ。 ) 彼らは 89 Her と HD 101584 は低温の伴星を含む連星であると主張した。 しかし、 Burki, Mayor, Rufener 1980 の視線速度観測の結果は両星が連星で ある証拠を見出せなかった。 |
IRAS データ この論文では、HD 161796 と HD101584 の IRAS データから、両者に強い 遠赤外超過があることを確認した。それらの星の周囲には大量のダストが 存在する。これは PN で見出されたのと同様のマスロスが原因であろう。 我々はダストシェルの質量、光度、半径を求め、その進化における位置を 議論する。 |
![]() 図1.HD 161796 の SED. LRS データも加えた。F12 が二つあるのは、 下=LRS, 上=PSC だから。PSC はスペクトル勾配が急だとフラックスを 過大に見積もる傾向がある。実線= 6300 K と 100 K の黒体。 SED IRAS フラックスを表1に、二つの星の SED を図1、2に示す。 HD 161796 の極大は 25 μm と 60 μm の間にあるらしい。 0.36 - 3.5 μm 測光値は Humphreys, Ney (1974) から採った。可視データは 6300 K BB と良く合う。 HD 101584 の SED は 1.0 μm の先で赤外超過を示す。100 μm より長波 長側にもかなりのフラックスがあるようだ。BSC では F0 Iae タイプである。 F0 Ia 星に Teff 7500 K は適当である。 Humphreys, Ney (1974) は HD 101584 が 89 Her の類似天体と考えた。89 Her は 12 μm に フラックス極大を持つ。両者は共に 10 μm シリケイト放射帯を持つ。 赤化 Humphreys, Ney (1974) は HD 161796 にも HD 101584 にも検出できるほどの赤化が見られないことに 注意している。 |
![]() 図2.HD 101584 の SED. 実線= 7500 K 黒体。 ![]() 表1.IRAS 観測。 |
温度 表2に 12 - 100 μm の FIR フラックスを示す。一緒に載せた、ダスト 温度は Draine, Lee (1984) のシリケイト+グラファイトダストの放射率を用いてフィットしたものである。 ダスト層内部の温度勾配は考えていない。HD 101584 の場合、近赤外フラック スが強く、温度勾配ナシのモデルは適当とは言えないので、この温度は全体の 目安と考えて欲しい。 総フラックス 0.3 - 1.3 μm の総フラックスは 43 10-12 W m-2 HD 161796 50 10-12 W m-2 HD 101584 である。これらの値を表2と比べると、遠赤外と可視でのエネルギーはほぼ等 量と分かる。したがって可視での光学的深さは 1/2 くらいのはずである。 しかし、それは赤化が見えないという観測と矛盾する。 赤化なしモデルは? (1)特殊な形状、例えばシェルに穴が開いているとか。 (2)ダストが大きくて(0.3 - 1 μm)、吸収がグレイ。 薄いシェル 幾何学的にも光学的にも薄い球対称シェルを考える。 D = 星の距離。 R = シェル半径。 F = 地球でのフラックス。B = プランク τ = (D/R)2 (3/2π)(F/B) 3/2π は 1/4π じゃないか? σ=ダストの放射断面積。ダスト一個の放射量 l=4πσB(Td) n=ダスト数密度。dR=シェル厚み。N=4πR2ndR=ダスト数 すると、シェル放射 L = Nl = 4πR2ndR4πσB(Td) τ = σndR を使うと、 |
![]() 表2.ダスト層の光度、温度、半径、質量 (Lir や Md は単位がおかしい? ) L = (4π)2R2τB(Td) F = L/(4πD2) = (4π)(R/D)2τB(Td) τ = (D/R)2(1/4π)(F/B) 上塚さんも確認済み。20210209 ダスト質量 Hildebrand 1983 によると、ダスト質量は次式で与えられ、表2 に載せてある。 Md = (4/3) (aρ/Q)(D2F/B) こっちは、前の L = Nl = 4πR2ndR4πσB(Td) をダスト質量 Md = N (4π/3)a3ρ と組み合わせれば出る。 どの波長で計算するかは書いていない。 |
SED フィット HD 161796 のモデルフィットはよい。しかし、HD 101584 の近赤外フラック スは高くて、今回の簡単なモデルではフィットしない。これはシェルが幾何学 的に厚くて、ダストの温度勾配が影響するのであろう。 ガス/ダスト=100とすると、シェルのガスマスは 0.3 - 1 Mo となる。 これは PNs で見出される値と同じである。ただし、PN 中心星に比べ F-超巨星 はずっと明るいという違いはある。 89 Her は最近 様々な説が提案されてきたが、AGB 超星風が HD 161796 と HD 101584 の シェルサイズと質量の説明には妥当であろう。89 Her のカラー温度は 500 K で高く、ダストサイズもやや小さい。 89 Her のマスロスは最近なのではないか? (89 Her の解析の話はどこ?) |
寿命の話(何を言おうとしてるか?) これらの星のセファイド的な変光 (Fernie, FGarrison 1984) と高い光度は 中間質量星を示唆する。これらがセファイド不安定帯でヘリウム核燃焼する寿命 は 1 Myr であり、AGB でMbol = -6 以上である期間は 0.1 Myr である。 born-again 星? それらの高い光度は, "born again" で AGB 星に向かっているためではないか? その他の F-超巨星 HD 46703 [Fe/h} = -1.6 で O/Fe、C/Fe > 10, Md = 10-6 Mo HR 4912 [Fe/H] = -1.0, Md = 10-6 Mo 89 Her, HD 46703, HR 4912 は未だ超星風期に達していないのではないか。 BL Tel Humphreys, Ney (1974) は低温伴星との連星としたが FIR 超過はない。 HR 4110 F0 Ia で F60 超過がある。研究の余地がある。 |
HD 161796 と HD 101584 からの FIR は種族 II の低質量星が AGB 最後の 強い質量放出を行った残骸からの放射でsある。 | それらのセファイド的変光は Mi = 4 Mo 程度であったことを予想させる。 連星説もあり得るが可能性は低い。最近我々が発見した SAO 163075 はさらに 極端なケースのようである。 |