非灰色効果がシリケイトグレインをFe フリーにするという結論を受け入れ、 ミクロンサイズの Fe-フリーシリケイトが星風を駆動するかどうかを調べた。 ダストの単純な光学評価と詳細な動力学計算に基づいて、Fe-フリーシリケイト に掛かる輻射圧が十分大きいことを確かめた。 | 質量放出率、星風速度は観測値と良い一致を示す。粒子凝結と星風加速との間 に、自己調整フィードバックが働き、グレイン成長は直径 1 μm で自然に止ま る。星風駆動に最も効果的なグレイン径は 1 μm 付近のかなり狭い幅である。 これは AGB 星フラックスピークの位置で決まる値で、星間ダストのそれと近い。 |
M-AGBs ではダスト星風駆動は無理 Gautschy-Loidl et al. (2004) は C-AGBs のダスト駆動星風モデルを流体力学と波長依存輻射方程式を組み合 わせて作り上げた。しかし、M-型 AGBs の場合、 Woitke (2006), Hofner, Andersen 2007 の研究から次の 2 点が指摘された。 (1)グレイン温度に対する非灰色効果により、シリケイト粒子は基本的には 鉄欠乏型である。鉄シリケイトは星近傍で高温になり過ぎる。 |
(2)小さな鉄フリーシリケイト粒子は、星フラックス最大の波長 1 μm
付近で透明なため、十分な輻射圧を産み出せない。
散乱はどうか? そこで、鉄フリーシリケイトに対して、様々なサイズでの吸収、散乱断面積 を計算して、十分な輻射圧を産み出せるパラメター領域があるか調べた。 |
フラックス平均オパシティ 星風駆動可能な条件(1)は、フラックス平均オパシティが高い、である。 この条件は以下の様に表される。 ![]() グレイン形成 第2条件は、あるグレインが構成表面からどのくらい近くで生まれるか、また どのくらい速く成長できるか、ということである。形成距離は主にダスト温度の 問題であり、成長速度は密度と組成に関係する。 ダスト温度 グレインの吸収係数 κλ ∝ λ-p と幾何学的に薄まったプランク型輻射場を仮定すると、 ダスト凝結温度 Tc と 凝結距離 Rc は以下の関係がある。 ![]() つまり、Tc = 1000 K, T* = 3000 K という場合、鉄を含むシリケイトでは p = 2 となるので、 Rc/R* > 10 となる。一方、鉄フリーだと p = -1 で、 Rc/R* = 2 - 3 である。つまり、星周辺に出来るダストは鉄フリーである。 吸収と散乱 鉄フリーダストは波長 1 μm 付近ではほぼ透明である。 gsca = 〈cosθ〉 した時、 ![]() となる。粒径が小さいと、 Crp ≈ Cabs である。 しかし、粒径が大きくなると散乱が効いてくる。 効率 Qrp 効率 Qrp = Crp/&pi:agr2, ngr = グレインの数密度とすると、 ![]() ![]() ここに、Vmon = 単量子の体積、nmon = 単量子の数密度, ρ |
![]() 図1.M* = 1 Mo, L = 7000 Lo, T* = 2700 K の星に対し、 フォーステライト(Mg2SiO4)の κrp/κcrit の粒径と波長による変化。 Si 30 % がグレインになっていると仮定する。黒等高線=フラックス重み付き オパシティが臨界オパシティを越える。 κrp nH = ρ/(1+4εHe)mp なので、 ![]() となる。図1はフォーステライト(Mg2SiO4)の κrp/κcrit を波長と粒子半径の関数とし て表したものである。計算は εSi = 3.55 10-5, εHe = 0.1, Amon = 140, ρ (サイトが閉じてる! ) 臨界オパシティは 1 Mo, 7000 Lo から決めた。λ = 1 μm 付近では、 小粒径に対してオパシティが非常に低いのであるが、粒径と共に上昇し、 agr = 0.3 μm 付近で極大に達し、その後また低下する。 オパシティの値自体を見ると、パラメター領域内に、臨界値を超える箇所が 見つかる。それは、agr 大体波長くらいの対角方向に伸びる領域と、 波長が 10, 20 μm 付近の Qpr の極大付近の二本の垂直帯で ある。 フラックス重み付きオパシティ 星風の駆動のためには、オパシティに輻射フラックスの重みを付けた平均値が 必要である。計算の簡単のため、星フラックスを黒体で近似し、 フラックス重み付き単波長オパシティを次のように定義する。 ![]() 図1の等高線はこの重み付きオパシティが臨界オパシティを越える領域を T* = 2700 K に対して示したものである。この粒径のグレインが星風を 駆動できる。 量は? ここまで、凝結半径が 10 R* 以下になるためには、M-型星のシリケイトグレ インは実質的に鉄フリーでなければならなず、それらの粒径は 0.1 - 10 μm の必要があると議論してきた。次の問題は、十分な量の物質がグレインに取り 込まれるのかという疑問である。それには、詳細な動力学モデルが必要である。 |
![]() 表1.モデルパラメターとその結果の星風の性質。 フォーステライト形成 フォーステライト形成は次の反応で起きると考える。 ![]() 核形成までは考えないので、種核の密度はパラメターとする。 ngr/nH が大きいとサイズは利用可能原子数で制限される。 その値が小さいとフラックス重み付きオパシティが大きくなれない。逆に ngr/nH が小さすぎると最終グレインサイズが大きく なり過ぎて、これもまた極大値を越えてしまい却ってオパシティは小さくなる。 モデルの性質 表1にはモデルの性質を示す。モデル A と B は以下の通りである。 ![]() 計算の結果は観測と良く合う。グレイン半径 agr の値は前節で 与えた、星風駆動に必要な範囲内にある。モデルの fc が 0.5 低度なのはそこで 加速に十分なオパシティに達し、星風加速の結果密度が低下して、成長が 止まったためである。 |
![]() 図2.モデルB、ngr/nH =1 10-15 の ある t での構造。上:速度。中:グレイン半径。下:実線=グレイン温度。 破線=ガス温度。 |
散乱効果 M-型 AGB 星ではミクロンサイズの粒子が成長し、その散乱 断面積が大きいために、その小さな吸収断面積を補い、星風を 駆動する。 Si の 30 % 以下で星風加速には十分である。グレイン サイズは加速による拡散効果でその大きさにフィードバックが掛かる。 |
サイズ AGB 星からのシリケイトグレインはその直径が 1 μm 程度である。 サイズはかなり狭い範囲に揃う。これは星間ダストのサイズ巾に 大きな意味を持つ。 |